説明

軟X線フィルタ及びその製造方法

【課題】軟X線を取り出すフィルタとして用いる金属薄膜の酸化を防止することで、軟X線フィルタの強度の低下及び透過率の減少が抑制できるようにする。
【解決手段】単結晶シリコンからなり開口部101aを備える枠状の支持基板101と、支持基板101の主表面側に形成されて開口部102aを備えた枠状の薄膜(支持薄膜)102と、薄膜102の上に形成された下層酸化防止層103と、下層酸化防止層103の上に形成されたフィルタ層104と、フィルタ層104の上面を覆うように形成された上層酸化防止層105とを備えている。フィルタ層104は、軟X線を透過する金属の薄膜から構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長200nm以下の真空紫外から軟X線領域の光を対象とした軟X線フィルタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
波長が200nm以下の真空紫外から軟X線領域の光は、シンクロトロン放射光やレーザープラズマX線源、あるいはレーザーの高次高調波発生などの高輝度な光源の出現により、産業上への応用が大いに期待されている。これらの光源から得られる光は、広帯域なスペクトルを持つが、多くの応用においては、光源から得られる光の中の特定の波長領域が用いられており、特定の波長領域を取り出すためにフィルタが用いられている。
【0003】
例えば特定の波長領域として軟X線を用いる場合、軟X線フィルタが用いられている。軟X線フィルタは、上記光源から得られる広帯域光より、必要とする軟X線領域の光と真空紫外から可視領域の光とを分離するものである。軟X線領域の光学素子の破損などにつながる可視光や、回折格子分光器などの高次光として影響を与える真空紫外線を分離するため、軟X線光学の分野において広い利用分野を持つものである。
【0004】
このようなフィルタとしては、従来より特定の波長領域を透過させる金属薄膜が用いられている(特許文献1参照)。フィルタを用いる方法は簡便ではあるが、軟X線領域の光は吸収が非常に大きいため、金属薄膜の膜厚は100nm程度に極めて薄くする必要がある。このような金属薄膜からなるフィルタの作製方法としては、下地としての金属塩の結晶の上に金属薄膜を形成した後、下地の金属塩を水に溶解させて除去し、金属薄膜を支持体によりすくい取る方法がある。また、窒化珪素からなるメンブレンの上に金属薄膜を形成し、この後、メンブレンをドライエッチングにより除去する方法がある。
【0005】
【特許文献1】特開2002−168998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したようにフィルタを作製している過程及び作製の後に、形成した金属薄膜の表面が酸化し、これにより金属薄膜からなるフィルタの強度が著しく低下する。また、軟X線の透過率が減少するという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、軟X線を取り出すフィルタとして用いる金属薄膜の酸化を防止することで、軟X線フィルタの強度の低下及び透過率の減少が抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る軟X線フィルタは、開口部を備える支持構造体の上に形成された軟X線を透過する金属の薄膜からなるフィルタ層と、フィルタ層の支持構造体側の下面に接して形成された下層酸化防止層と、フィルタ層の上面に接して形成された上層酸化防止層とを少なくとも備えるものである。従って、フィルタ層は、下層酸化防止層及び上層酸化防止層により封止された状態となる。なお、支持構造体は、開口部を備えた支持基板と、支持基板の上に形成されて開口部を備えた支持薄膜とから構成されていればよい。
【0009】
上記金属は、アルミニウム,ジルコニウム,スズ,マグネシウム,チタン,ゲルマニウム,タンタル,レニウム,スカンジウム,クロム,及びイットリウムの中より選択されたものであればよい。また、下層酸化防止層及び上層酸化防止層は、珪素,炭素,ホウ素,及びこれらの窒化物,炭化物,フッ化物,及び金,白金,ルテニウムの中より選択されたものであればよい。また、下層酸化防止層及び上層酸化防止層は、金属の窒化物,炭化物,及びフッ化物の中より選択されたものであればよい。
【0010】
また、本発明に係る軟X線フィルタの製造方法は、支持基板の主表面上に支持薄膜が形成された状態とする第1工程と、支持基板の裏面から支持基板を貫通する開口部が形成された状態とする第2工程と、支持薄膜の上に下層酸化防止層が形成された状態とする第3工程と、軟X線を透過する金属の薄膜からなるフィルタ層が、下層酸化防止層の上に接して形成された状態とする第4工程と、フィルタ層の上に接して上層酸化防止層が形成された状態とする第5工程と、支持薄膜を選択的に除去して支持薄膜を貫通して下層酸化防止層が露出する開口部が形成された状態とする第6工程とを少なくとも備える。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、軟X線を透過する金属の薄膜からなるフィルタ層と、フィルタ層の下面に接して形成された下層酸化防止層と、フィルタ層の上面に接して形成された上層酸化防止層とを備えるようにしたので、フィルタ層が、下層酸化防止層及び上層酸化防止層により封止された状態となり、フィルタ層の酸化が防止されるようになり、軟X線フィルタの強度の低下及び透過率の減少が抑制できるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における軟X線フィルタの構成を概略的に示す断面図である。この軟X線フィルタは、例えば単結晶シリコンからなり開口部101aを備える枠状の支持基板101と、支持基板101の主表面側に形成されて開口部102aを備えた枠形状の薄膜(支持薄膜)102と、薄膜102の上に形成された下層酸化防止層103と、下層酸化防止層103の上に形成されたフィルタ層104と、フィルタ層104の上面を覆うように形成された上層酸化防止層105とを備えている。フィルタ層104は、軟X線を透過する金属の薄膜から構成されたものである。
【0013】
この構成例では、支持基板101と薄膜102とからなる開口部を備えた枠状の支持構造体に、下層酸化防止層103,フィルタ層104,及び上層酸化防止層105からなる積層膜が張設された状態となっている。また、フィルタ層104は、下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105により封止された状態となっている。なお、上記積層膜は、支持構造他の開口部に架設されていればよく張設されている必要はない。
【0014】
次に、上記構成とした本発明の軟X線フィルタについて、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0015】
[実施例1]
はじめに、実施例1の軟X線フィルタについて説明する。本実施例1の軟X線フィルタは、薄膜102を窒化珪素(SiNx)から構成し、下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105を炭化珪素(SiC)から構成し、フィルタ層104をアルミニウム(Al)から構成したものである。
【0016】
以下、本実施例1の軟X線フィルタの製造方法について、図2(a)〜図2(e)及び図3(f),図3(g)の工程図を用いて説明する。まず、主表面を(100)面とした単結晶シリコンからなる支持基板101を用意し、支持基板101の主表面及び裏面に、よく知られたCVD(Chemical Vapor Deposition)法により窒化珪素を堆積する。このことにより、図2(a)に示すように、支持基板101の主表面及び裏面に、膜厚200nm程度の薄膜(支持薄膜)102及び薄膜112が形成された状態とする。
【0017】
次に、図2(b)に示すように、裏面側の薄膜112の上に、紫外線に感光するポジ型のフォトレジスト膜201が形成された状態とする。次に、よく知られた露光・現像によりフォトレジスト膜201をパターニングし、図2(c)に示すように、中央部に1辺10mmの平面視正方形の開口部202aを備えるレジストパターン202が形成された状態とする。次に、C26ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、レジストパターン202をマスクとして選択的に薄膜112を除去し、図2(d)に示すように、薄膜112に、支持基板101の裏面が露出する開口部112aが形成された状態とする。なお、紫外線を用いたフォトリソグラフィに限らず、電子線を用いたリソグラフィによりレジストパターンを形成しても良い。
【0018】
次に、レジストパターン202を灰化することで除去した後、水酸化カリウム(KOH)水溶液などのアルカリを用いたウエットエッチングにより、薄膜112をマスクとして支持基板101を選択的に除去し、図2(e)に示すように、支持基板101の中央部に開口部101aが形成された状態とする。開口部101aは支持基板101を貫通した状態に形成する。このウエットエッチングでは、単結晶シリコンの(111)面がほとんどエッチングされないので、支持基板101の平面方向にはほとんどエッチングが進行せず、支持基板101の平面に対して約54°の角度の側面を備えた状態で開口部101aが形成される。
【0019】
なお、上述では、支持基板101として主表面を(100)面とした単結晶シリコンを用いるようにしたが、これに限るものではない。例えば、主表面を(110)面とした単結晶シリコンを用いるようにしても良い。この場合、水酸化カリウム水溶液によるウエットエッチングにより、支持基板101の平面に対してほぼ垂直な側面を備えた状態で開口部が形成できる。
【0020】
次に、支持基板101の主表面側に形成した薄膜102の上に、図3(f)に示すように、炭化珪素からなる膜厚2nm程度の下層酸化防止層103が形成され、この上にアルミニウムからなる膜厚100nm程度のフィルタ層104が形成され、この上に炭化珪素からなる膜厚2nm程度の上層酸化防止層105が形成された状態とする。下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105は、例えば、マグネトロンスパッタ法により炭化珪素を堆積することで形成すればよい。また、フィルタ層104も、マグネトロンスパッタ法により、アルミニウムを堆積することで形成すればよい。枠状に形成された基板101の開口部101aに架設された薄膜102は、例えば、開口部101aに張設されてメンブレンとして機能し、開口部101aの領域の薄膜102の上にも、上述した各層が形成可能である。
【0021】
次に、支持基板101の裏面側より、C26ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、支持基板101をマスクとして選択的に薄膜102を除去する。薄膜102に窒化珪素を用いているので、炭化珪素からなる下層酸化防止層103に対して選択比を備えた状態で薄膜102のエッチングが可能であり、下層酸化防止層103に対して損傷を与えることがなく、フィルタ層104の露出を招くことがない。この選択的なエッチングにより、図3(g)に示すように、薄膜102に開口部102aが形成された状態とする。なお、開口部102aの形成により薄膜112も除去される。開口部102aが形成されたことにより、支持基板101の裏面側に、下層酸化防止層103の一部が露出した状態となる。この状態においても、下層酸化防止層103,フィルタ層104,及び上層酸化防止層105が、薄膜102の開口部102aに架設された状態となっている。以上のことにより、実施例1における軟X線フィルタが得られる。
【0022】
上述した実施例1の軟X線フィルタは、シンクロトロン放射光から発生する広帯域な放射光より波長25〜40nmの軟X線を透過させるフィルタとして機能し、図4に実線で示すような透過特性が得られる。上述した製造において、下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105を形成せず、他は同一条件で作製した軟X線フィルタ(点線)に比較し、波長25〜40nmにおいて2倍を超える透過率が得られている。
【0023】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。本実施例2の軟X線フィルタは、薄膜102を窒化珪素から構成し、下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105をフッ化マグネシウム(MgF2)から構成し、フィルタ層104をスズ(Sn)から構成したものである。
【0024】
以下、本実施例2の軟X線フィルタの製造方法について説明する。以下の説明においても、図2(a)〜図2(e)及び図3(f),図3(g)の工程図を用いる。まず、主表面を(100)面とした単結晶シリコンからなる支持基板101を用意し、支持基板101の主表面及び裏面に、よく知られたCVD法により窒化珪素を堆積する。このことにより、図2(a)に示すように、支持基板101の主表面及び裏面に、膜厚200nm程度の薄膜102及び薄膜112が形成された状態とする。
【0025】
次に、図2(b)に示すように、裏面側の薄膜112の上に、紫外線に感光するポジ型のフォトレジスト膜201が形成された状態とする。次に、よく知られた露光・現像によりフォトレジスト膜201をパターニングし、図2(c)に示すように、中央部に1辺10mmの平面視正方形の開口部202aを備えるレジストパターン202が形成された状態とする。次に、C26ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、レジストパターン202をマスクとして選択的に薄膜112を除去し、図2(d)に示すように、薄膜112に、支持基板101の裏面が露出する開口部112aが形成された状態とする。
【0026】
次に、レジストパターン202を灰化することで除去した後、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いたウエットエッチングにより、薄膜112をマスクとして支持基板101を選択的に除去し、図2(e)に示すように、支持基板101の中央部に開口部101aが形成された状態とする。以上は、前述した実施例1と同様である。
【0027】
次に、支持基板101の主表面側に形成した薄膜102の上に、図3(f)に示すように、フッ化マグネシウムからなる膜厚2nm程度の下層酸化防止層103が形成され、この上にスズからなる膜厚50nm程度のフィルタ層104が形成され、この上にフッ化マグネシウムからなる膜厚2nm程度の上層酸化防止層105が形成された状態とする。下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105は、例えば、マグネトロンスパッタ法によりフッ化マグネシウムを堆積することで形成すればよい。また、フィルタ層104も、マグネトロンスパッタ法により、スズを堆積することで形成すればよい。枠状に形成された基板101の開口部101aに架設された薄膜102は、開口部101aに張設されてメンブレンとして機能し、開口部101aの領域の薄膜102の上にも、上述した各層が形成可能である。
【0028】
次に、支持基板101の裏面側より、C26ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、支持基板101をマスクとして選択的に薄膜102を除去する。薄膜102に窒化珪素を用いているので、フッ化マグネシウムからなる下層酸化防止層103に対して選択比を備えた状態で薄膜102のエッチングが可能であり、下層酸化防止層103に対して損傷を与えることがなく、フィルタ層104の露出を招くことがない。この選択的なエッチングにより、図3(g)に示すように、薄膜102に開口部102aが形成された状態とする。なお、開口部102aの形成により、薄膜112も除去される。開口部102aが形成されたことにより、支持基板101の裏面側に、下層酸化防止層103の一部が露出した状態となる。以上のことにより、実施例2における軟X線フィルタが得られる。
【0029】
[実施例3]
次に、実施例3について説明する。本実施例3の軟X線フィルタは、薄膜102をダイヤモンド様炭素から構成し、下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105を窒化ジルコニウム(ZrN)から構成し、フィルタ層104をジルコニウム(Zr)から構成したものである。下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105は、フィルタ層104を構成する金属の窒化物である。なお、ダイヤモンド様炭素(ダイヤモンドライクカーボン)は、例えば、ダイヤモンドの結合形式である炭素のsp3結合の割合が80%以上と高い割合となっている非晶質の物質である。
【0030】
以下、本実施例3の軟X線フィルタの製造方法について説明する。以下の説明においても、図2(a)〜図2(e)及び図3(f),図3(g)の工程図を用いる。まず、主表面を(100)面とした単結晶シリコンからなる支持基板101を用意し、支持基板101の主表面及び裏面に、よく知られたCVD法によりダイヤモンド様炭素を堆積する。このことにより、図2(a)に示すように、支持基板101の主表面及び裏面に、膜厚200nm程度の薄膜102及び薄膜112が形成された状態とする。
【0031】
次に、図2(b)に示すように、裏面側の薄膜112の上に、紫外線に感光するポジ型のフォトレジスト膜201が形成された状態とする。次に、よく知られた露光・現像によりフォトレジスト膜201をパターニングし、図2(c)に示すように、中央部に1辺10mmの平面視正方形の開口部202aを備えるレジストパターン202が形成された状態とする。次に、酸素(O2)ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、レジストパターン202をマスクとして選択的に薄膜112を除去し、図2(d)に示すように、薄膜112に、支持基板101の裏面が露出する開口部112aが形成された状態とする。
【0032】
次に、レジストパターン202を灰化することで除去した後、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いたウエットエッチングにより、薄膜112をマスクとして支持基板101を選択的に除去し、図2(e)に示すように、支持基板101の中央部に開口部101aが形成された状態とする。
【0033】
次に、支持基板101の主表面側に形成した薄膜102の上に、図3(f)に示すように、窒化ジルコニウムからなる膜厚2nm程度の下層酸化防止層103が形成され、この上にジルコニウムからなる膜厚50nm程度のフィルタ層104が形成され、この上に窒化ジルコニウムからなる膜厚2nm程度の上層酸化防止層105が形成された状態とする。下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105は、例えば、マグネトロンスパッタ法により窒化ジルコニウムを堆積することで形成すればよい。また、フィルタ層104も、マグネトロンスパッタ法により、ジルコニウムを堆積することで形成すればよい。薄膜102は、基板101の開口部101aに張設されてメンブレンとして機能し、開口部101aの領域の薄膜102の上にも、上述した各層が形成可能である。
【0034】
次に、支持基板101の裏面側より、酸素ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、支持基板101をマスクとして選択的に薄膜102を除去する。薄膜102にダイヤモンド様炭素を用いているので、窒化ジルコニウムからなる下層酸化防止層103に対して選択比を備えた状態で薄膜102のエッチングが可能であり、下層酸化防止層103に対して損傷を与えることがなく、フィルタ層104の露出を招くことがない。この選択的なエッチングにより、図3(g)に示すように、薄膜102に開口部102aが形成された状態とする。なお、開口部102aの形成により、薄膜112も除去される。開口部102aが形成されたことにより、支持基板101の裏面側に、下層酸化防止層103の一部が露出した状態となる。以上のことにより、実施例3における軟X線フィルタが得られる。
【0035】
[実施例4]
次に、実施例4について説明する。本実施例4の軟X線フィルタは、薄膜102を炭化珪素から構成し、下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105をルテニウム(Ru)から構成し、フィルタ層104をチタン(Ti)から構成したものである。
【0036】
以下、本実施例4の軟X線フィルタの製造方法について説明する。以下の説明においても、図2(a)〜図2(e)及び図3(f),図3(g)の工程図を用いる。まず、主表面を(100)面とした単結晶シリコンからなる支持基板101を用意し、支持基板101の主表面及び裏面に、よく知られたCVD法により炭化珪素を堆積する。このことにより、図2(a)に示すように、支持基板101の主表面及び裏面に、膜厚200nm程度の薄膜102及び薄膜112が形成された状態とする。
【0037】
次に、図2(b)に示すように、裏面側の薄膜112の上に、紫外線に感光するポジ型のフォトレジスト膜201が形成された状態とする。次に、よく知られた露光・現像によりフォトレジスト膜201をパターニングし、図2(c)に示すように、中央部に1辺10mmの平面視正方形の開口部202aを備えるレジストパターン202が形成された状態とする。次に、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、レジストパターン202をマスクとして選択的に薄膜112を除去し、図2(d)に示すように、薄膜112に、支持基板101の裏面が露出する開口部112aが形成された状態とする。
【0038】
次に、レジストパターン202を灰化することで除去した後、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いたウエットエッチングにより、薄膜112をマスクとして支持基板101を選択的に除去し、図2(e)に示すように、支持基板101の中央部に開口部101aが形成された状態とする。以上は、薄膜に炭化珪素を用い、C26の代わりにCF4を用いる以外は、前述した実施例1と同様である。
【0039】
次に、支持基板101の主表面側に形成した薄膜102の上に、図3(f)に示すように、ルテニウムからなる膜厚2nm程度の下層酸化防止層103が形成され、この上にチタンからなる膜厚100nm程度のフィルタ層104が形成され、この上にルテニウムからなる膜厚2nm程度の上層酸化防止層105が形成された状態とする。下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105は、例えば、マグネトロンスパッタ法によりルテニウムを堆積することで形成すればよい。また、フィルタ層104も、マグネトロンスパッタ法により、チタンを堆積することで形成すればよい。薄膜102は、基板101の開口部101aに張設されてメンブレンとして機能し、開口部101aの領域の薄膜102の上にも、上述した各層が形成可能である。
【0040】
次に、支持基板101の裏面側より、CF4ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、支持基板101をマスクとして選択的に薄膜102を除去する。薄膜102に炭化珪素を用いているので、ルテニウムからなる下層酸化防止層103に対して選択比を備えた状態で薄膜102のエッチングが可能であり、下層酸化防止層103に対して損傷を与えることがなく、フィルタ層104の露出を招くことがない。この選択的なエッチングにより、図3(g)に示すように、薄膜102に開口部102aが形成された状態とする。なお、開口部102aの形成により、薄膜112も除去される。開口部102aが形成されたことにより、支持基板101の裏面側に、下層酸化防止層103の一部が露出した状態となる。以上のことにより、実施例4における軟X線フィルタが得られる。
【0041】
ところで、上述では、支持基板101の開口部101aに対応し、同じ広さに開口部102aを形成するようにしたが、これに限るものではない。例えば、図5に示すように、薄膜102に、開口部101aよりも狭い開口部502aを形成するようにしても良い。また、上述では、支持基板101及び薄膜102の全域に下層酸化防止層103,フィルタ層104,上層酸化防止層105を形成したが、これに限るものではい。例えば、図6に示すように、薄膜102の上の一部に、開口部102aよりも広い状態で、下層酸化防止層103,フィルタ層104,上層酸化防止層105が形成されていても良い。また、図7に示すように、薄膜102の上の一部に、開口部502aよりも広い状態で、下層酸化防止層103,フィルタ層104,上層酸化防止層105が形成されていても良い。
【0042】
なお、上述では、フィルタ層に用いる材料として、アルミニウム,スズ,ジルコニウム,及びチタンを例に説明したが、これに限るものではなく、マグネシウム(Mg),ゲルマニウム(Ge),タンタル(Ta),レニウム(Re),スカンジウム(Sc),クロム(Cr),及びイットリウム(Y)を用いることが可能である。
【0043】
また、上述では、フィルタ層にアルミニウムを用いる場合、炭化珪素からなる酸化防止層を形成するようにしたが、これに限らず、フッ化マグネシウムからなる酸化防止層もしくは炭素からなる酸化防止層を用いるようにしても良い。また、上述では、フィルタ層にジルコニウムを用いる場合、窒化ジルコニウムからなる酸化防止層を形成するようにしたが、これに限らず、ルテニウムからなる酸化防止層,窒化ホウ素(BN)からなる酸化防止層,もしくは炭化ホウ素(B4C)からなる酸化防止層を用いるようにしても良い。
【0044】
また、上述では、フィルタ層にチタンを用いる場合、ルテニウムからなる酸化防止層を形成するようにしたが、これに限らず、フィルタ層の窒化物である窒化チタンからなる酸化防止層,窒化ホウ素からなる酸化防止層,炭化ホウ素からなる酸化防止層,金(Au)からなる酸化防止層,もしくは白金(Pt)からなる酸化防止層を用いるようにしても良い。これらの組み合わせであれば、所望とする軟X線透過特性が得られる。
【0045】
また、フィルタ層にタンタルを用いる場合は、窒化チタンからなる酸化防止層,窒化ホウ素からなる酸化防止層,炭化ホウ素からなる酸化防止層,金からなる酸化防止層,もしくは白金からなる酸化防止層を組み合わせればよい。また、フィルタ層にレニウムを用いる場合は、窒化ジルコニウムからなる酸化防止層,ルテニウムからなる酸化防止層,窒化ホウ素からなる酸化防止層,もしくは炭化ホウ素からなる酸化防止層を組み合わせればよい。また、フィルタ層にマグネシウムを用いる場合は、フィルタ層のフッ化物であるフッ化マグネシウムからなる酸化防止層を組み合わせればよい。また、フィルタ層にゲルマニウムを用いる場合は、シリコンからなる酸化防止層を組み合わせればよい。
【0046】
また、フィルタ層にスカンジウムを用いる場合は、フッ化マグネシウムからなる酸化防止層を組み合わせればよい。また、フィルタ層にクロムを用いる場合は、金からなる酸化防止層,白金からなる酸化防止層,窒化ホウ素からなる酸化防止層,炭化ホウ素からなる酸化防止層,及び炭素からなる酸化防止層を組み合わせればよい。また、フィルタ層にイットリウムを用いる場合は、ルテニウムからなる酸化防止層,窒化ホウ素からなる酸化防止層,及び炭化ホウ素からなる酸化防止層を組み合わせればよい。これらの組み合わせであれば、所望とする軟X線透過特性が得られる。
【0047】
なお、フィルタ層に用いる金属の窒化物,炭化物,及びフッ化物を酸化防止層に用いることが可能であり、このようにすることで、例えば、スパッタ法による膜の形成において、同時に導入するガスの組成を変化させることで、連続した膜の形成が容易に可能となり、製造過程におけるフィルタ層の酸化防止の観点からよりよい。また、フィルタ層と酸化防止層との間により強い接着力が得られるようになる。また、所望とする軟X線透過特性も、より容易に得られるようになる。
【0048】
また、薄膜102としては、窒化珪素,炭化珪素,ダイヤモンド,及びダイヤモンド様炭素を用いることができる。これらの材料は、CVD法に限らず、ECRプラズマをアシストとして用いたCVD法により形成することが可能である。薄膜102には、下層酸化防止層103に対して選択比のとれるエッチングが可能な材料を用いればよい。なお、上述した実施の形態においては、支持基板101として用いたシリコンに対しても、選択比のとれるエッチングが可能な材料を薄膜102に適用させる必要がある。ただし、薄膜102を支持構造体として用いる場合は、支持基板101は必ずしも必要ではなく、薄膜102にシリコンに対する選択比のとれる材料を用いる必要はない。
【0049】
また、支持薄膜としての薄膜102を用いずに、所定の材料からなる支持基板のみで支持構造体とすることも可能である。下層酸化防止層103,フィルタ層104,及び上層酸化防止層105からなる積層構造体(膜)が、開口部を備えた支持構造体に形成されていればよい。
【0050】
[実施例5]
次に、支持薄膜を用いない場合について、製造方法とともに説明する。
【0051】
まず、図8(a)に示すように、塩化ナトリウム(NaCl)の結晶からなる基板801の上に、ルテニウムからなる膜厚3nm程度の下層酸化防止層103が形成され、この上にジルコニウムからなる膜厚200nm程度のフィルタ層104が形成され、この上にルテニウムからなる膜厚3nm程度の上層酸化防止層105が形成された状態とする。下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105は、例えば、マグネトロンスパッタ法によりルテニウムを堆積することで形成すればよい。また、フィルタ層104も、マグネトロンスパッタ法により、ジルコニウムを堆積することで形成すればよい。
【0052】
次に、図8(b)に示すように、水802が収容された所定の容器803を用意し、基板801とともに下層酸化防止層103,フィルタ層104,及び上層酸化防止層105からなる積層膜が、水802の中に浸漬された状態とする。このことにより、水溶性を有する基板801は、水に溶解して上記積層膜より除去され、図8(c)に示すように、表面及び裏面に下層酸化防止層103及び上層酸化防止層105が形成されたフィルタ層104が、水802の中に浮遊した状態となる。
【0053】
次に、図8(d)に示すように、下層酸化防止層103,フィルタ層104,及び上層酸化防止層105からなる積層膜が浮遊している水802の中に、開口寸法5mm程度の開口部を備える金属性の枠(支持構造体)804を潜入させる。このようにして水802の中に潜入させた枠804により上記積層膜をすくい上げ、図8(e)に示すように、枠804の開口部に、下層酸化防止層103,フィルタ層104,及び上層酸化防止層105からなる積層膜が架設された状態とする。
【0054】
この結果、支持構造体となる枠804の上に、フィルタ層104が形成され、フィルタ層104の枠804の側の下面に接して下層酸化防止層103が形成され、フィルタ層104の上面に接して上層酸化防止層105が形成された軟X線フィルタが得られる。ここで、図8(e)では、枠804の上に下層酸化防止層103が配置され、この上にフィルタ層104が配置され、この上に上層酸化防止層105が配置された状態を示しているが、これに限らず、枠804の側に上層酸化防止層105が配置される場合もある。
【0055】
なお、枠804の代わりに、0.5mm程度の複数の開口部を備える金属性メッシュを支持構造体として用いるようにしても良い。また、枠804は、金属製に限らず、プラスチックなど水に溶解しない材料から構成されていればよい。上述した製造方法によれば、酸化防止層が水に溶解しない材料から構成されていればよいので、フィルタ層と酸化防止層との組み合わせの自由度を増すことができる。なお、基板801としては、塩化ナトリウムに限らず、塩化カリウム,臭化ナトリウム,臭化カリウムなどの水溶性を有する塩から構成されていればよい。
【0056】
以上に説明した本発明によれば、従来では達成することができなかったフィルタ層の酸化による強度の低下及び透過率の減少が解消されるようになる。なお、本発明は、上述した実施例の構成に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内において、適宜変更可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態における軟X線フィルタの構成を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態における軟X線フィルタの製造方法について説明するための工程図である。
【図3】本発明の実施の形態における軟X線フィルタの製造方法について説明するための工程図である。
【図4】実施例1の軟X線フィルタにおける波長25〜40nmの透過特性を示す特性図である。
【図5】本発明の実施の形態における他の軟X線フィルタの構成を概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態における他の軟X線フィルタの構成を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態における他の軟X線フィルタの構成を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態における他の軟X線フィルタの製造方法について説明するための工程図である。
【符号の説明】
【0058】
101…支持基板、101a…開口部、102…薄膜(支持薄膜)、102a…開口部、103…下層酸化防止層、104…フィルタ層、105…上層酸化防止層、112…薄膜、112a…開口部、201…フォトレジスト膜、202…レジストパターン、202a…開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を備える支持構造体の上に形成された軟X線を透過する金属の薄膜からなるフィルタ層と、
前記フィルタ層の前記支持構造体側の下面に接して形成された下層酸化防止層と、
前記フィルタ層の上面に接して形成された上層酸化防止層と
を少なくとも備えることを特徴とする軟X線フィルタ。
【請求項2】
請求項1記載の軟X線フィルタにおいて、
前記金属は、アルミニウム,ジルコニウム,スズ,マグネシウム,チタン,ゲルマニウム,タンタル,レニウム,スカンジウム,クロム,及びイットリウムの中より選択されたものである
ことを特徴とする軟X線フィルタ。
【請求項3】
請求項2記載の軟X線フィルタにおいて、
前記下層酸化防止層及び前記上層酸化防止層は、珪素,炭素,ホウ素,及びこれらの窒化物,炭化物,フッ化物,及び金,白金,ルテニウムの中より選択されたものである
ことを特徴とする軟X線フィルタ。
【請求項4】
請求項1又は2記載の軟X線フィルタにおいて、
前記下層酸化防止層及び前記上層酸化防止層は、前記金属の窒化物,炭化物,及びフッ化物の中より選択されたものである
ことを特徴とする軟X線フィルタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の軟X線フィルタにおいて、
前記支持構造体は、
開口部を備えた支持基板と、
前記支持基板の上に形成されて開口部を備えた支持薄膜と
から構成されていることを特徴とする軟X線フィルタ。
【請求項6】
支持基板の主表面上に支持薄膜が形成された状態とする第1工程と、
前記支持基板の裏面から前記支持基板を貫通する開口部が形成された状態とする第2工程と、
前記支持薄膜の上に下層酸化防止層が形成された状態とする第3工程と、
軟X線を透過する金属の薄膜からなるフィルタ層が、前記下層酸化防止層の上に接して形成された状態とする第4工程と、
前記フィルタ層の上に接して上層酸化防止層が形成された状態とする第5工程と、
前記支持薄膜を選択的に除去して前記支持薄膜を貫通して前記下層酸化防止層が露出する開口部が形成された状態とする第6工程と
を少なくとも備えることを特徴とする軟X線フィルタの製造方法。
【請求項7】
水溶性の塩から構成された基板の上に下層酸化防止層が形成された状態とする第1工程と、
軟X線を透過する金属の薄膜からなるフィルタ層が、前記下層酸化防止層の上に接して形成された状態とする第2工程と、
前記フィルタ層の上に接して上層酸化防止層が形成された状態とする第3工程と、
前記下層酸化防止層,前記フィルタ層,及び前記上層酸化防止層からなる積層膜が形成された前記基板を水に浸漬して前記基板を前記水に溶解させ、前記水の中に前記積層膜が浮遊した状態とする第4工程と、
前記水の中に開口部を備えた支持構造体を潜入させ、前記支持構造体により前記水の中に浮遊している前記積層膜をすくい上げることで、前記支持構造体の前記開口部に前記積層膜が架設された状態とする第5工程と
を少なくとも備えることを特徴とする軟X線フィルタの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−261650(P2008−261650A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102569(P2007−102569)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】