説明

転がり軸受の固定方法および固定構造

【課題】 転がり軸受を組付け後に、ハウジングをかしめることにより、転がり軸受を固定し、部品点数の削減を図ることができる転がり軸受の固定方法および固定構造を提供することを目的とする。
【解決手段】 電動機の回転軸等を支持する軸受を軸受ハウジング内に固定する方法において、前記軸受2を軸受ハウジング1の凹部1a内に挿入するとともに、該軸受ハウジング1の凹部1aの開口端部を軸受2の周縁部に沿ってカシメ加工により内径側にかしめて、前記軸受2の外輪2a端面を前記軸受ハウジング1の塑性加工部1eによって係止したことにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の回転軸を支持する転がり軸受、あるいは電動アクチュエータのボールネジを支持する転がり軸受を軸受ハウジング内に固定する転がり軸受の固定方法および固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
小型電動機などの回転電機、あるいはボールネジを利用した電動アクチュエータなどでは、回転軸あるいはボールネジを支持する軸受に転がり玉軸受が用いられている。
【0003】
転がり玉軸受の固定方法には、従来、次の図7に示すような固定方式A〜Dが採用されている。
図7(A)に示す固定方式は、スナップリングを用いた固定方式で、100は軸受ハウジング、101は転がり玉軸受、102は回転軸である。転がり玉軸受101は、軸受ハウジング100の凹部103内に配置され、回転軸102を回転自在に支持している。転がり玉軸受101は、外輪101aの内部側軸方向端面を軸受ハウジング100の凹部103の軸方向内壁面103aに当接して固定され、内輪101bの軸方向端面を回転軸102に装着された軸用スナップリング104によって係止されている。また、転がり玉軸受101は、外輪101aの外部側軸方向端面を凹部103内壁面に装着された穴用スナップリング105を介して固定されている。
【0004】
図7(B)に示す固定方式は、リテーナプレートによる固定方式で、200は軸受ハウジング、201は転がり玉軸受、202は回転軸である。転がり玉軸受201は、軸受ハウジング200の凹部203内に配置され、回転軸202を回転自在に支持している。転がり玉軸受201は、外輪201aの内部側軸方向端面を軸受ハウジング200の凹部203の軸方向内壁面203aに当接して固定され、内輪201bの軸方向端面を回転軸202に装着された軸用スナップリング204によって係止されている。また、転がり玉軸受201は、外輪201aの外部側軸方向端面を軸受ハウジング200の端面203にリテーナ固定ネジ205によって装着されたリテーナプレート206を介して固定されている。
【0005】
図7(C)に示す固定方式は、穴用スナップリングによる固定方式で、300は軸受ハウジング、301は転がり玉軸受、302は回転軸である。転がり玉軸受301は、軸受ハウジング300の凹部303内に配置され、回転軸302を回転自在に支持している。転がり玉軸受301は、外輪301aの内部側軸方向端面を軸受ハウジング300の凹部303の軸方向内壁面303aに当接して固定され、内輪301bの軸方向端面を回転軸302に装着された軸用スナップリング304によって係止されている。また、転がり玉軸受301は、外輪301aの外部側軸方向端面を軸受ハウジング300の凹部303内に配置された穴用スナップリング(SI型)305によって押さえられている。
【0006】
図7(D)に示す固定方式は、インサートリング鋳込み+接着剤による固定方式で、400は軸受ハウジング、401は転がり玉軸受、402は回転軸である。転がり玉軸受401は、軸受ハウジング400の凹部403内に配置され、回転軸402を回転自在に支持している。転がり玉軸受401は、外輪401aの内部側軸方向端面を軸受ハウジング400の凹部403の軸方向内壁面403aに当接して固定され、内輪401bの外部側軸方向端面を回転軸402の段差部402aに係止されている。この転がり玉軸受401は、外輪401aの周面と、軸受ハウジング400の凹部403の内壁面との間にインサートリング404がダイカスト鋳込みと接着剤の使用によって固着されている。
表1は、上記従来の固定方式をまとめて表したものである。
【0007】
【表1】

【0008】
表1から明らかなように、従来の軸受固定方法によると、スナップリングを用いた固定方式(A)では、軸方向に隙間を生じ、軸方向に遊びができる点、クリープ対策が施せない点において問題である。また、固定方式(B)では、省スペース性、コストの点で問題である。さらに、固定方式(C)では、クリープ対策で問題であり、固定方式(D)では、組立性、接着強度の管理、コストの点で問題である。
【0009】
特許文献1には、接着剤を用いた方法が開示されている。
ところで、部品の固定にカシメ加工を利用する方法が知られている(特許文献2参照)。この方法は、図8に示すように、ハウジング500と前カバー501をカシメ加工によって固定する方法である。この方法では、ハウジング500の外周に設けられたフランジ502に前カバー501の片面を押し当て、取付部503の端面をかしめて変形部503aとフランジ502とで前カバー501をハウジング500に固定している。このとき、ハウジング500の内径側への変形を防ぐために端面に凹部503bを形成して内径側への変形を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開昭63−193120号公報
【特許文献2】特開2007−288939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ハウジング500の固定に取付部503の端面をかしめて、変形部503aとフランジ502とで前カバー501をハウジング500に固定するために、ハウジング500の内径側への変形を防ぐために端面に凹部503bを形成する必要がある。ハウジング500の内径側にはベアリングが装着されるため、内径側に突出部が形成されると、ベアリングの組みつけができなくなる不具合が発生する。
【0012】
本発明は、上記課題を解決し、転がり軸受を組付け後に、ハウジングをかしめることにより、転がり軸受を固定し、部品点数の削減を図ることができる転がり軸受の固定方法および固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するため、電動機の回転軸等を支持する軸受を軸受ハウジング内に固定する方法において、前記軸受を軸受ハウジングの凹部内にすき間ばめした後に、該軸受ハウジングの凹部の開口端部を軸受の周縁部に沿ってカシメ加工により内径側にかしめ、それに加え、ハウジング内径に収縮応力を付与することで、前記軸受の外輪端面を前記軸受ハウジングの塑性加工部によって係止したことにある。
また、本発明は、前記軸受を保持する軸受ハウジングが、塑性加工可能な材質で構成されていることにある。
さらに、本発明は、前記軸受ハウジングの凹部周縁に設けられた肩部を、鋭利な断面を有するカシメパンチで円周方向に沿ってカシメ加工することにある。
またさらに、本発明は、前記軸受ハウジングの材質毎に、ハウジング深さ、カシメパンチ断面形状、カシメパンチ押し込み量の3要素を最適化する事により塑性加工部を形成することにある。
また、本発明は、電動機の回転軸等を支持する軸受を軸受ハウジング内に固定する構造において、前記軸受ハウジングに設けられた凹部内に挿入された軸受の周縁部に沿って前記軸受ハウジングの凹部の開口端部をカシメ加工により内径側にかしめて、前記軸受の外輪端面を前記軸受ハウジングの塑性加工部によって係止したことにある。
【発明の効果】
【0014】
請求項1によれば、軸受の固定にスラスト方向のガタを発生させることが無く、小部品あるいは副資材を用いることなく、安価な軸受の固定方法を提供することができる。
請求項2によれば、軸受ハウジングが、塑性加工可能な材質で構成されていることから、カシメ加工を容易に行うことができる。
請求項3によれば、カシメパンチで円周方向に沿ってカシメ加工するので、塑性加工部によって、軸受を確実に保持することができる。
請求項4によれば、記軸受ハウジングの材質及びハウジング直径毎に、ハウジング深さ、カシメパンチ断面形状、カシメパンチ押し込み量を設定するので、最適な塑性加工部によって、軸受を確実に保持することができる。
請求項5によれば、軸受ハウジングの凹部の開口端部をカシメ加工により内径側にかしめて、前記軸受の外輪端面を前記軸受ハウジングの塑性加工部によって係止したので、簡単な構成で、確実に軸受を固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態による転がり軸受の固定方法および固定構造を示す部分断面図で、(A1)(B1)(C1)はカシメ前の軸受を示す断面図、(A2)(B2)(C2)はカシメ後の軸受を示す断面図、(A3)(B3)(C3)はカシメ後の塑性加工状態を示す断面図である。
【図2】軸受ハウジングに対する加工部位の位置関係とカシメパンチの形状を示す概念断面図である。
【図3】カシメパンチの刃先形状を示す概念図である。
【図4】カシメ加工の方法を示し、(a)は円周同時にカシメ加工を行う場合の概念図、(b)は回転対称に4分割にカシメ加工を行う場合の概念図、(c)は回転対称に3分割にカシメ加工を行う場合の概念図である。
【図5】(A1)〜(A3)は、押し込み量d寸法を少なくした場合の塑性変形を示す断面図、(B1)〜(B3)は、カシメパンチ刃先角θ寸法の鋭角化によって塑性変形の量を調節する断面図である。
【図6】本発明の他の実施の形態による軸受の固定方法を示す断面図である。
【図7】従来の転がり玉軸受の固定方法を示し、(A)に示す固定方式は、スナップリングを用いた固定方式を示す断面図、(B)に示す固定方式は、リテーナプレートによる固定方式を示す断面図、(C)に示す固定方式は、穴用スナップリングによる固定方式を示す断面図、(D)に示す固定方式は、インサートリング鋳込み+接着剤による固定方式を示す断面図である。
【図8】部品の固定にカシメ加工を用いた従来の固定方法を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
転がり軸受を組付け後に、ハウジングをかしめることにより、軸受の固定にスラスト方向のガタを発生させることが無く、転がり軸受を軸受ハウジングの塑性加工部によって係止して固定し、部品点数の削減を図った。
【実施例1】
【0017】
以下本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1(A1)ないし(C3)は、本発明の転がり軸受の固定方法を説明するための部分断面図であって、図1(A1)は、モータフランジなどの軸受ハウジング1のハウジング深さ寸法LをLに設定した状態を示し、図1(B1)は、ハウジング深さ寸法LをLに設定した状態を示し、図1(C1)は、ハウジング深さ寸法LをLに設定した状態を示している。ここで、L>L>Lの関係になっている。図1(A2)(B2)(C2)は、図1(A1)(B1)(C1)の状態からカシメ後の状態を示す部分断面図である。図1(A3)(B3)(C3)は、図1(A2)(B2)(B3)の部分拡大図である。
【0018】
図1(A1)ないし図1(C3)において、軸受ハウジング1の凹部1a内には、転がり玉軸受2が配置され、転がり玉軸受2の中心軸上に回転軸3が支持されている。転がり玉軸受2は、リング状の外輪2aと、外輪2aより小径で、同心円筒状に配置されたリング状の内輪2bと、外輪2aと内輪2bとの間で保持具によって回転自在に保持されたボール2cによって構成されている。転がり玉軸受2は、軸受ハウジング1の凹部1a内にすき間ばめされており、外輪2a端面が、凹部1aの開口端面1bからハウジング深さLだけ凹部1a内に入り込むようにすき間ばめされている。転がり玉軸受2は内輪2bによって回転軸3を回転自在に支持している。φは転がり玉軸受2の外径を表している。回転軸3は、モータの回転子を支持するもので、固定子との間に生じる回転磁界によって回転駆動されるものである。
【0019】
4はカシメパンチを示し、図2および図3に示すように、軸受ハウジング1の凹部1aの近傍m(mは約0.2mm)の開口端面1bの所謂、肩部に刃先を合わせてハウジング深さLに対して押し込み量dでカシメパンチ4を押し込む。カシメパンチ4の刃先角度は、凹部1a側がn(nは約0.3mm)の幅で、角度θ(θ=45°〜50°)に形成され、軸受ハウジング1の外周側がp(p=0.1〜0.15mm)の幅で、角度α(α=15〜30°)に形成されている。
【0020】
そして、カシメ加工に際しては、芯出し冶具5で軸受ハウジング1を位置決めして、軸受ハウジング1の凹部1aに軸受2を挿入してカシメパンチ4で軸受ハウジング1の肩部を軸受ハウジング1の内径との同軸度を高めた状態で、円周同時にカシメ加工を行う。カシメ加工は、図4(a)のように円周同時にカシメ加工を行う場合の他、図4(b)のように回転対称に4分割にカシメ加工を行ってもよく、あるいは、図4(c)のように回転対称に3分割にカシメ加工を行ってもよい。
上記の本加工により、図1(B2)(B3)に示す塑性加工部及び内径収縮部1eが生成され、軸受2のスラスト方向の抜け止めおよび回転止めを図る。図中のL寸法を調整することで、塑性加工の結果得られる機能を図1(A3)〜図1(C3)のように変化させることができる。図1(B2)に示す塑性加工部1eを形成するには、(A)軸受ハウジング1のハウジング母材、(B)ハウジング深さLの寸法、(C)カシメパンチ刃先角θ寸法、(D)転がり玉軸受2の外径φ寸法、(E)押し込み量d寸法を適切に選択する。
【0021】
上記のように(A)軸受ハウジング1のハウジング母材、(B)ハウジング深さLの寸法、(C)カシメパンチ刃先角θ寸法、(D)転がり玉軸受2の外径φ寸法、(E)押し込み量d寸法を調整することで、図1(B2)の固定状態を作り出すことができる。そして、本願固定状態の独創的な作用は、「軸受2をスラスト方向にガタ無く固定することができる。」、「カシメ加工位置の0.2〜0.3mm下方に塑性加工部(又は内径収縮部)1eが形成され、組立後に締め代を付与できる」という2つの効果を同時に達成することができることである。
【0022】
表2は、本発明の軸受の固定構造と表1で示した従来の固定構造とをスラスト固定強度、組立性、軸方向隙間、省スペース性、クリープ゜対策、コストの面で対比したもので、ほぼ総ての項目において、本発明の固定構造が優れていることが明らかである。
【0023】
【表2】

【0024】
なお、L寸法を表3のように調整することで、軸受2を固定したい方向や拘束力を図1状態A〜状態Cへと使い分けることが可能となり、さらに、内径収縮部の収縮量や残留応力を、図5(A1)〜(A3)のように押し込み量d寸法の低減、図5(B1)〜(B3)のようにカシメパンチ刃先角θ寸法の鋭角化によって調節することも可能である。
表3はハウジング材料にA6063というアルミ合金を使用した例である。A6063は、押し出し加工性に優れ、耐食性・表面処理性が良好で、種々な形状・型材が製作可能な合金(Al−Mg−Si系)である。
【0025】
【表3】

【実施例2】
【0026】
また、図6は、図1と同一部分は同符号を付して示す本発明の他の実施例で、この場合、玉軸受2の外輪2aに溝2dが形成された溝入り軸受2´を用いたものである。
この実施例では、カシメパンチ4によって塑性加工を行う際に、軸受ハウジング1の塑性加工部1eが溝2d内に入り込んで溝入り軸受2´を固定する方法である。
これにより、より強固に溝入り軸受2´を固定することができる。このように、内径収縮位置や内径収縮応力量を任意にコントロールすることで、軸受の省スペース固定も可能になる。
【0027】
上記実施例1,2によれば、軸受の固定にスラスト方向のガタを発生させることが無く、小部品あるいは副資材を用いることなく、安価な軸受の固定方法を提供することができる。
また、軸受ハウジング1が、塑性加工可能な材質で構成されていることから、カシメ加工を容易に行うことができる。
さらに、カシメパンチ4で円周方向に沿って同時にカシメ加工するので、塑性加工部1eによって、軸受を確実に保持することができる。
またさらに、軸受ハウジング1の材質毎に、ハウジング深さ、カシメパンチ断面形状、カシメパンチ押し込み量を設定するので、最適な塑性加工部1eによって、軸受を確実に保持することができる。
また、軸受ハウジング1の凹部1aの開口端部をカシメ加工により内径側にかしめて、前記軸受2の外輪端面を前記軸受ハウジング1の塑性加工部1eによって係止したので、簡単な構成で、確実に軸受2を固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、例えば、上記実施の形態では、モータ等の回転電機の回転軸を支持する転がり軸受に適用したが、電動アクチュエータのボールネジを支持する転がり軸受の固定にも適用することができるのは、いうまでもない。
【符号の説明】
【0029】
1 軸受ハウジング
1a 凹部
1e 塑性加工部
2 転がり玉軸受
2a 外輪
2b 内輪
2c ボール
2d 外輪溝
3 回転軸
4 カシメパンチ
5 芯出し冶具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の回転軸等を支持する軸受を軸受ハウジング内に固定する方法において、前記軸受を軸受ハウジングの凹部内に挿入するとともに、該軸受ハウジングの凹部の開口端部を軸受の周縁部に沿ってカシメ加工により内径側にかしめて、前記軸受の外輪端面を前記軸受ハウジングの塑性加工部によって係止したことを特徴とする軸受の固定方法。
【請求項2】
前記軸受を保持する軸受ハウジングが、塑性加工可能な材質で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の軸受の固定方法。
【請求項3】
前記軸受ハウジングの凹部周縁に設けられた肩部を、鋭利な断面を有するカシメパンチで円周方向に沿ってカシメ加工することを特徴とする請求項1または2に記載の軸受の固定方法。
【請求項4】
前記軸受ハウジングの材質毎に、ハウジング深さ、カシメパンチ断面形状、カシメパンチ押し込み量の3要素を最適化する事により塑性加工部を形成することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の軸受の固定方法。
【請求項5】
電動機の回転軸等を支持する軸受を軸受ハウジング内に固定する構造において、前記軸受ハウジングに設けられた凹部内に挿入された軸受の周縁部に沿って前記軸受ハウジングの凹部の開口端部をカシメ加工により内径側にかしめて、前記軸受の外輪端面を前記軸受ハウジングの塑性加工部によって係止したことを特徴とする軸受の固定構造。












【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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