説明

転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する演算器のメモリ中に軸受情報を記録する方法

【課題】転がり軸受ユニット10と図示しない演算器とをセットで出荷しない事を前提として、1対のセンサ9a、9bの出力信号の位相差比とアキシアル荷重との関係(軸受情報)を、上記演算器のメモリ中に記録する。この記録を行なう為に上記転がり軸受ユニット10に必要となる、添付情報を記載すべき部分面積を小さくする。
【解決手段】上記軸受情報のうち、上記アキシアル荷重に関する複数の既知の値を、出荷前に上記演算器のメモリ中に記録する。同じく、上記アキシアル荷重に関する複数の既知の値に対応する、上記位相差比に関する複数の値を、添付情報として、出荷前に上記転がり軸受ユニット10に記載する。車両への組み付け時に、上記添付情報を読み取って、上記演算器のメモリ中に記録する事により、このメモリ中で上記軸受情報を完成させる。この様な方法を採用する事により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受ユニットの状態量測定装置に就いて求めた、この転がり軸受ユニットの状態量とセンサ情報との関係を表す軸受情報を、演算器のメモリ中に記録する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の車輪は懸架装置に対し、複列アンギュラ型等の転がり軸受ユニットにより回転自在に支持する。又、自動車の走行安定性を確保する為に、例えばアンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)、更には、電子制御式ビークルスタビリティコントロールシステム(ESC)等の車両用走行安定化装置が使用されている。この様な各種車両用走行安定化装置を制御する為には、車輪の回転速度、車体に加わる各方向の加速度等を表す信号が必要になる。そして、より高度の制御を行なう為には、車輪を介して上記転がり軸受ユニットに加わる荷重(例えばラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)の大きさを知る事が好ましい場合がある。
【0003】
この様な事情に鑑みて、特許文献1には、特殊なエンコーダを使用して、転がり軸受ユニットに加わる荷重の大きさを測定する発明が記載されている。図1は、この特許文献1に記載された構造と同じ荷重の測定原理を採用している、転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関する従来構造の1例を示している。この従来構造は、使用時にも回転しない静止側軌道輪である外輪1の内径側に、使用時に車輪を支持固定した状態でこの車輪と共に回転する、回転側軌道輪であるハブ2を、複数個の転動体3、3を介して、回転自在に支持している。これら各転動体3、3には、背面組み合わせ型の接触角と共に、予圧を付与している。尚、図示の例では、これら各転動体3、3として玉を使用しているが、重量が嵩む自動車用の軸受ユニットの場合には、玉に代えて円すいころを使用する場合もある。
【0004】
又、上記ハブ2の軸方向内端部(軸方向に関して「内」とは、自動車への組付け状態で車両の幅方向中央側を言い、図1の右側。反対に、車両の幅方向外側となる、図1の左側を、軸方向に関して「外」と言う。本明細書全体で同じ。)には、円筒状のエンコーダ4を、上記ハブ2と同心に支持固定している。このエンコーダ4は、円環状の芯金5と、この芯金5の外周面に添着固定した、永久磁石製で円筒状のエンコーダ本体6とから成る。被検出面である、このエンコーダ本体6の外周面の軸方向内半部には、S極とN極とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔に配置している。これらS極とN極との境界は、軸方向中央部が円周方向に関して最も突出した、「く」字形となっている。
【0005】
又、上記外輪1の軸方向内端開口を塞ぐ、金属板製で有底円筒状のカバー7の内側に、合成樹脂製のセンサホルダ8を介して1対のセンサ9a、9bを支持固定している。そして、この状態で、これら両センサ9a、9bの検出部を、上記エンコーダ4の被検出面の軸方向両半部に、それぞれ1つずつ近接対向させている。尚、上記両センサ9a、9bの検出部には、ホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子を組み込んでいる。
【0006】
上述の様に構成する転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合、外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用する事により、これら外輪1とハブ2とがアキシアル方向に相対変位すると、これに伴って、上記両センサ9a、9bの出力信号同士の間に存在する位相差比(=位相差比/1周期。特許請求の範囲に記載した「センサ情報」)が変化する。この位相差比は、上記アキシアル荷重の作用方向及び大きさ(上記相対変位の方向及び大きさ)に見合った値をとる。従って、この位相差比に基づいて、上記アキシアル荷重の作用方向及び大きさ(上記相対変位の方向及び大きさ)を求める事ができる。尚、これらを求める処理は、図示しない演算器により行なう。この為、この演算器のメモリ中には、予め理論計算や実験により調べておいた、上記位相差比と、上記アキシアル方向の相対変位又は荷重との関係{零点及びゲイン(軸受情報)}を記録しておく。
【0007】
尚、上述した従来構造の場合には、エンコーダを永久磁石製とすると共に、このエンコーダの被検出面に設ける第一特性部をN極とし、第二特性部をS極とする構成を採用している。これに対し、エンコーダを単なる磁性材製とすると共に、このエンコーダの被検出面に設ける第一特性部を凹部(若しくは透孔)とし、第二特性部を凸部(若しくは柱部)とする構成を採用する事もできる。この様な構成を採用する場合には、1対のセンサ側に永久磁石を組み込む。又、エンコーダを円輪状に構成すると共に、このエンコーダの軸方向側面を被検出面とし、この被検出面に1対のセンサの検出部を、径方向にずらせた状態で対向させれば、上記外輪1と上記ハブ2とのラジアル方向に関する変位、延てはこれら外輪1とハブ2との間に加わるラジアル荷重を求める事も可能である。
【0008】
尚、上述した従来構造の場合には、エンコーダの被検出面にその検出部を対向させるセンサの数を、2個としている。これに対し、図示は省略するが、特許文献2〜3及び特願2006−345849には、当該センサの数を3個以上とする事で、多方向の変位或は外力を求められる構造が記載されている。
【0009】
ところで、上述の図1に示した従来構造の場合、図2に例示する様な、位相差比(センサ情報)とアキシアル荷重(状態量)との関係(軸受情報)は、同種の製品(転がり軸受ユニットの状態量測定装置)同士の間で互いに一致している事が好ましい。ところが、実際には、製造誤差がある為、上記軸受情報は、同種の製品同士の間でも、僅かとは言え異なったものとなる。従って、総ての製品で高精度な状態量測定を行なえる様にする観点より、これら各製品を構成する演算器のメモリ中には、一律に同じ軸受情報を記録するのではなく、これら各製品毎に求めた軸受情報を記録するのが好ましい。
【0010】
この場合、上記各製品毎の軸受情報は、次の様にして求める事ができる。先ず、図1に示す様に、転がり軸受ユニット10を組み立てると共に、この転がり軸受ユニット10にエンコーダ4及びセンサ9a、9bを組み付ける。そして、この状態で、外輪1に対してハブ2を回転させつつ、これら外輪1とハブ2との間に加えるアキシアル荷重の値を固定したまま、上記両センサ9a、9bの出力信号同士の間の位相差比の値を測定する作業を、当該固定するアキシアル荷重の値を、複数の既知の値に変えながら順次行なう。これにより、図2に示す様な軸受情報に関するデータである、アキシアル荷重の値a〜jと位相差比の値A〜Jとの組み合わせデータを取得する。或いは、上記外輪1に対して上記ハブ2を回転させつつ、これら外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重を加える事により、上記位相差比が所定の値となる状態での、このアキシアル荷重の値を測定する作業を、当該位相差比の所定の値を、複数の既知の値に変えながら順次行なう。これにより、図2に示す様な軸受情報に関するデータである、アキシアル荷重の値a〜jと位相差比の値A〜Jとの組み合わせデータを取得する。
【0011】
何れにしても、上述の様にして求めた各製品毎の軸受情報を、これら各製品を構成する演算器のメモリ中に記録する作業は、これら各製品を構成する演算器と、エンコーダ4及びセンサ9a、9bを組み付けた転がり軸受ユニット10とを、セットで出荷する場合には、この出荷段階で行なえる。これに対し、セットで出荷しない場合(互いに関連付けて取り扱われる事がない状態で別々に出荷する場合。例えば、それぞれの製造工場から別々に出荷する場合や、何れか一方の物品のみを交換品として出荷する場合)には、上記記録する作業を、車両への組み付け段階で行なう事になる。この様にセットで出荷しない場合に関して、例えば特許文献4には、各製品毎に求めた軸受情報に関するデータを、出荷段階で転がり軸受ユニット10に直接、例えばレーザーマーカーやインクジェットプリンタ等の手段で、符号或いは数値として、或いはバーコードとして記載しておき、その後、車両への組み付け段階でこの軸受情報に関するデータを読み取って、演算器のメモリ中に記録する方法が記載されている。
【0012】
尚、上記転がり軸受ユニット10に対して上記軸受情報に関するデータを付与する他の方法としては、例えばこの転がり軸受ユニット10に、上記軸受情報に関するデータを記載したシールを貼り付ける方法が考えられる。但し、この方法を採用する場合には、上記シールの貼り付け個所を洗浄する手間を要したり、このシールが剥がれ落ちる事が懸念される為、採用しにくい。又、上記転がり軸受ユニット10に取り付けたカバー7の表面に、上記軸受情報に関するデータを、レーザーや刻印により記載する方法も考えられる。但し、この方法を採用する場合には、上記カバー7の表面のうち、上記軸受情報に関するデータを記載した部分の塗装が剥がれて錆が発生する事が懸念される為、採用しにくい。更に、上記転がり軸受ユニット10に、上記軸受情報に関するデータを記録したICタグを設置する方法も考えられる。但し、この方法を採用する場合には、ICタグを使用する分だけコストが嵩む。従って、コストを抑える面からも、上記軸受情報に関するデータは、上記転がり軸受ユニット10に直接記載するのが好ましい。
【0013】
ところが、上記転がり軸受ユニット10に対して上記軸受情報に関するデータを記載できる個所は、狭いスペースに限られる場合が多い。具体的には、ハブ2の外周面の軸方向外端寄り部分に形成した取付フランジ11の側面の一部や、このハブ2の軸方向外端部に形成したパイロット部と呼ばれる円筒部12の軸方向外端面や、このハブ2の軸方向外端面のうちこの円筒部12の径方向内側に存在する部分の一部(ねじ孔13の開口周縁部分)等の、狭いスペースに限られる場合が多い。この為、この様な狭いスペースに、上記軸受情報に関するデータとして、上述したアキシアル荷重の値a〜jと位相差比の値A〜Jとの組み合わせデータを記載すると、このデータを記載する為に必要な面積が大きくなって、このデータを記載するのが難しくなる可能性がある。従って、上記転がり軸受ユニット10に対して上記軸受情報に関するデータを直接記載し易くできる方法を実現する事が望まれる。
【0014】
【特許文献1】特開2006−317420号公報
【特許文献2】特開2006−322928号公報
【特許文献3】特開2007−93580号公報
【特許文献4】特開2006−194673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、演算器のメモリ中に軸受情報を記録する為に必要なデータを、この転がり軸受ユニットに直接記載し易くできる方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の対象となる転がり軸受ユニットの状態量測定装置は、前述の図1に示した従来構造と同様、転がり軸受ユニットと、状態量測定装置とを備える。
このうちの転がり軸受ユニットは、使用時にも回転しない静止側軌道輪と、複数個の転動体を介してこの静止側軌道輪と同心に支持され、使用時に回転する回転側軌道輪とを備える。
又、上記状態量測定装置は、上記両軌道輪同士の間の相対変位と、これら両軌道輪同士の間に作用する外力とのうちの、少なくとも一方の状態量を求めるものである。この様な状態量測定装置は、上記静止側軌道輪に支持された状態で、上記状態量の変化に伴って出力信号を変化させる少なくとも1個のセンサと、この少なくとも1個のセンサの出力信号に関する情報であるセンサ情報に基づいて上記状態量を算出する機能を有する演算器とを備える。
又、上記転がり軸受ユニット及び上記少なくとも1個のセンサと、上記演算器とは、互いに関連付けて取り扱われる事がない状態で別々に出荷(例えば、それぞれの製造工場から別々に出荷、若しくは何れか一方の物品のみが交換品として出荷)された後、対象となる装置に組み付けられた状態で、互いに組み合わせて使用されるものである。
そして、本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する演算器のメモリ中に軸受情報を記録する方法は、上記転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関し、上記演算器が上記センサ情報に基づいて上記状態量を算出する際に使用する、これらセンサ情報と状態量との関係を表す軸受情報(零点及びゲイン)を、上記演算器のメモリ中に記録する方法である。
【0017】
特に、本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する演算器のメモリ中に軸受情報を記録する方法の場合には、上記転がり軸受ユニットを組み立てると共に、上記静止側軌道輪に上記少なくとも1個のセンサを支持する。そして、この状態で、上記静止側軌道輪に対し上記回転側軌道輪を回転させつつ、それぞれが変数である、上記センサ情報と上記状態量とのうちの一方の変数の値を既知の値とした状態で、この既知の値に対応する他方の変数の値を測定する作業を、上記一方の変数の値を複数の既知の値に変えながら順次行なう。これにより、この一方の変数に関する複数の既知の値に対応する、上記他方の変数に関する複数の値を取得する。そして、この様に取得した他方の変数に関する複数の値を、添付情報として、上記転がり軸受ユニットに直接記載(例えばレーザーマーカーやインクジェットプリンタ等の手段で記載)した状態で、この転がり軸受ユニットを出荷する。これと共に、上記演算器の製造過程で、この演算器のメモリ中に、上記一方の変数に関する複数の既知の値を記録した状態で、上記演算器を出荷する。その後、上記対象となる装置に上記転がり軸受ユニットと上記演算器とを組み付ける際に、この転がり軸受ユニットに直接記載してある上記添付情報を読み取って、上記演算器のメモリ中に記録する。これにより、このメモリ中で、上記一方の変数に関する複数の既知の値と、これらに対応する上記他方の変数に関する複数の値とを組み合わせ(これら一方の変数と他方の変数とを関連付けたマップを作成し)て、上記軸受情報を構成する。
【0018】
尚、上記添付情報(他方の変数に関する複数の測定値)を直接記載した上記転がり軸受ユニットと、上記メモリ中に上記一方の変数に関する複数の既知の値を記録した演算器とは、上述した本発明の記録方法を実施する過程でのみ造られる(特許法第101条第3号に規定された「その方法の使用にのみ用いる物」に該当する)、それぞれが特有の構成を有する、新規な物である。
【0019】
上述の様な本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した様に、上記転がり軸受ユニットに直接記載する添付情報に、上記他方の変数に関する複数の値を測定した際の上記回転側軌道輪の回転方向に関する情報、即ち、上記転がり軸受ユニットの状態量測定装置の使用時に実現すべき、上記回転側軌道輪の主たる回転方向に関する情報(具体例として、上記転がり軸受ユニットを車両の車輪支持用とする場合には、この転がり軸受ユニットを組み付けるべき車輪支持部が、左右何れの車輪支持部であるかを表す情報)を含める。
より好ましくは、請求項3に記載した様に、上記転がり軸受ユニットに直接記載する添付情報を、コード化して表示する事により、この添付情報をコード読取器によって読み取り可能とする。この場合に、このコード化の種類としては、1次元コードであるバーコードによるコード化や、2次元コード(請求項4)であるQRコード(株式会社デンソーウェーブの登録商標)等によるコード化を採用できる。
更に好ましくは、請求項5に記載した様に、上記転がり軸受ユニットに直接記載する添付情報を、数字データのみで構成する。
【0020】
又、上述の様な本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項6に記載した様に、上記転がり軸受ユニットを自動車の車輪支持用のものとする。そして、使用状態で静止側軌道輪を自動車の懸架装置に支持すると共に、回転側軌道輪であるハブに車輪を結合固定する。
【発明の効果】
【0021】
上述の様な本発明の転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する演算器のメモリ中に軸受情報を記録する方法によれば、このメモリ中にこの軸受情報を記録する為に必要なデータを、添付情報として、上記転がり軸受ユニットに直接記載し易くできる。即ち、本発明の場合、上記軸受情報に関しては、それぞれがこの軸受情報を構成する変数である、センサ情報と状態量とのうちの一方の変数に関する既知の複数の値と、これらに対応する他方の変数に関する複数の値とのうち、この他方の変数に関する複数の値のみを上記添付情報に含めれば足りる。この為、この添付情報の記載面積を十分に小さくできる。従って、上記転がり軸受ユニットに対して上記添付情報を直接記載できるスペースが狭い場合でも、このスペースに上記添付情報を記載し易くできる。
【0022】
又、本発明を実施する場合に、請求項2に記載した構成を採用すれば、転がり軸受ユニットに直接記載した添付情報を読み取る事に基づいて、上記他方の変数に関する複数の値を測定した際の回転側軌道輪の回転方向、即ち、上記転がり軸受ユニットの状態量測定装置の使用時に実現すべき、上記回転側軌道輪の主たる回転方向を把握できる。この為、対象となる装置に上記転がり軸受ユニットを、所望通りの回転方向で組み付ける事ができる。従って、センサ情報と状態量との関係が回転側軌道輪の回転方向によって異なる構造を対象とする場合でも、上記添付情報には、双方の回転方向に関する上記他方の変数の値を含める必要はなく、使用時の主たる回転方向に関する上記他方の変数の値のみを含めれば足りる。この結果、上記添付情報の記載面積が増大する事を防止できる。
【0023】
この点に就いて、具体例を挙げて説明すると、例えば、前述の図1に示した転がり軸受ユニットの状態量測定装置の場合、エンコーダ4の被検出面の特性は、回転方向に関して非対称である。この為、センサ情報である位相差比と、状態量であるアキシアル荷重との関係は、ハブ2の回転方向によって異なる。例えば、一方の回転方向に関する関係が図2に示す様になり、他方の回転方向に関する関係が図3に示す様になる。一方、自動車の車輪支持用の転がり軸受ユニット10は、左右輪で共通の構造を有するものを使用する。この為、この転がり軸受ユニット10が左右何れの車輪支持部に組み付けられても良い様に、この転がり軸受ユニット10に直接記載する添付情報には、上述の図2〜3に示した双方の回転方向に関する関係を含めておく事が考えられる。ところが、この様にすると、上記添付情報のデータ量が嵩み、この添付情報の記載面積が増大する。これに対し、請求項2に記載した構成を採用すれば、上記転がり軸受ユニット10に直接記載した添付情報を読み取る事に基づいて、使用時の上記ハブ2の主たる回転方向、即ち、上記転がり軸受ユニット10を左右何れの車輪支持部に組み付けるべきであるかと言う事を把握できる。この為、上記転がり軸受ユニット10を、この様に把握した側の車輪支持部に組み付ける事ができる。従って、上記添付情報には、上述の図2〜3に示した双方の回転方向に関する関係のうち、上記主たる回転方向に関する関係のみを含めれば足りる。この結果、上記添付情報のデータ量が嵩み、この添付情報の記載面積が増大する事を防止できる。尚、本発明を実施する場合には、上述の様に左右輪の区別を把握できる様にすべく、上記転がり軸受ユニット10に別途、左右輪用で互いに色違いのシールを貼ったり、或いは左車輪用に「L」、右車輪用に「R」の印を施す等しても良い。
【0024】
又、本発明を実施する場合に、請求項3〜4に記載した構成を採用すれば、転がり軸受ユニットに直接記載する添付情報をコード化する為、この添付情報の記載面積を十分に小さくできる。これと共に、この添付情報を読み取る作業を、コード読取器を使用して容易に行なえる。
【0025】
又、本発明を実施する場合に、請求項5に記載した構成を採用すれば、転がり軸受ユニットに直接記載する、コード化した添付情報を、数字データのみで構成する為、このコード化した添付情報の大きさを、十分に小さくできる。即ち、QRコード等のコードでは、一定の大きさのコードに収納できるデータ量が、このコードを構成するデータの種類によって異なる。具体的には、当該収納できるデータ量に関して、数字データ>英数字データ>漢字データ、と言った大小関係が成立する。逆に言えば、一定の情報量をコード化する場合に、このコードを構成するデータを数字データのみとすれば、このコードの大きさを最も小さくできる。この為、請求項5に記載した構成を採用すれば、上記コード化した添付情報の大きさを、十分に小さくできる。従って、上記転がり軸受ユニットに対してこのコード化した添付情報を、より記載し易くできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の実施の形態の1例に就いて、前述の図1〜2に加えて、図4を参照しつつ説明する。本例では、図1に示す様な、エンコーダ4及びセンサ9a、9bを組み付けた転がり軸受ユニット10と、図示しない演算器とが、互いに関連付けて取り扱われる事がない状態で別々に出荷される事を前提とする。
【0027】
本例の場合、上記エンコーダ4及びセンサ9a、9bを組み付けた転がり軸受ユニット10に関しては、これを組み立てた状態で、外輪1に対してハブ2を回転させつつ、これら外輪1とハブ2との間に加えるアキシアル荷重の値を既知の値とした状態で、この既知の値に対応する上記両センサ9a、9bの出力信号同士の間の位相差比の値を測定する作業を、上記アキシアル荷重の値を、複数の既知の値a〜j(図2)に変えながら順次行なう。これにより、図2に示す様な、このアキシアル荷重に関する複数の既知の値a〜jに対応する、上記位相差比に関する複数の値A〜Jを取得する。
【0028】
そして、この様に取得した位相差比に関する複数の値A〜J、並びに、上記転がり軸受ユニット10を組み付けるべき車輪支持部{上記各値A〜Jを取得した際の上記ハブ2の回転方向と、使用時の主たる(前進時の)回転方向とが一致する車輪支持部}が、左右何れの車輪支持部であるかを表す情報(以下、「左右輪の区別に関する情報」と言う。)αを、添付情報とし、この添付情報を収納したQRコードを作成する。本例の場合、このQRコードは、数字データのみで構成する。即ち、上記位相差比に関する複数の既知の値a〜jは、それぞれ0〜1の範囲内の値(割合を表す数)で表せる。又、上記左右輪の区別に関する情報αは、数字1文字(0又は1)で表せる。従って、上記QRコードは、数字データのみで構成できる。尚、上記位相差比に就いては、そのままの値(0〜1)で表現するよりも、演算精度に合わせて数値化した値で表現(例えば12bit分解能であれば4096分割なので、位相差比=0.500は2048と表現)した方が、CPUでデータ受信後、数値変換する必要がなくなる為、好ましい。何れにしても、上述の様なQRコードを作成したならば、次いで、このQRコードを、上記転がり軸受ユニット10の一部(例えば取付フランジ11の側面の一部)に直接、レーザーマーカーやインクジェットプリンタ等の手段で記載する。そして、この状態で、上記転がり軸受ユニット10を出荷する。
【0029】
一方、前記演算器に関しては、この演算器の製造過程で、この演算器のメモリ中に、上記アキシアル荷重に関する複数の既知の値a〜jの値を記録する。この既知の値a〜jは、前記位相差比に関する複数のA〜Jを取得するのに使用した、前記既知の値a〜jと同じである。そして、これら複数の値a〜jを記録した状態で、上記演算器を出荷する。その後、車両の組立工場等で、車両に対し、上記転がり軸受ユニット10と上記演算器とを組み付ける際に、この転がり軸受ユニット10に直接記載してある、QRコード化された添付情報を、QRコード読取器で読み取る。これにより、この添付情報に含まれている、上記左右輪の区別に関する情報αを確認する事に基づいて、上記転がり軸受ユニット10を、左右のうちの正しい側の車輪支持部に組み付ける。これと共に、上記添付情報に含まれている、上記位相差比に関する複数の値A〜Jを、上記演算器のメモリ中に記録する。これにより、このメモリ中で、上記アキシアル荷重に関する複数の既知の値a〜jと、これらに対応する上記位相差比に関する複数の値A〜Jの値とを組み合わせて、図2に示す様な軸受情報を構成(位相差比からアキシアル荷重を求める為のマップを作成)する。尚、本発明を実施する場合には、上記左右輪の区別に関する情報として、上記転がり軸受ユニット10に別途、例えば左右輪用で互いに色違いのシールを貼ったり、或いは左車輪用に「L」、右車輪用に「R」の印を施す事もできる。
【0030】
尚、車両の運転時に、上記演算器は、上記アキシアル荷重に関する複数の値a〜jと、上記位相差比に関する複数の値A〜Jの値との組み合わせデータを直線補完して成るマップを使用して、測定した位相差比からアキシアル荷重を算出する。この為、この様にして算出したアキシアル荷重の誤差を十分に抑えられる様にすべく、上記位相差比に関する複数の値A〜Jを測定する際の、上記アキシアル荷重に関する複数の既知の値a〜jは、上記マップの信頼性を十分に確保できる様に、ゲインが大きくなる範囲で間隔を短くする等の考慮をして選択する点に注意する。
【0031】
上述の様な本例の転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する演算器のメモリ中に軸受情報を記録する方法によれば、演算器のメモリ中に、図2に示す様な軸受情報を記録する為に必要なデータを、添付情報として、転がり軸受ユニット10に直接記載し易くできる。即ち、本例の場合、上記軸受情報に関しては、上記アキシアル荷重に関する複数の値a〜jと、これらに対応する位相差比に関する複数の値A〜Jとのうち、この位相差比に関する複数の値A〜Jのみを、上記添付情報に含めれば足りる。又、この添付情報に、左右輪の区別に関する情報αを含めており、この情報αに基づいて、上記転がり軸受ユニット10を左右のうちの正しい側の車輪支持部に組み付けられる。この為、上記添付情報には、図2に示す様な一方の回転方向に関するマップの位相差比の値のみを含めれば足り、図3に示す様な他方の回転方向に関するマップの位相差比の値を含める必要はない。従って、本例の場合には、上記添付情報に含める情報量を少なくできる。しかも、本例の場合には、この添付情報を、QRコード化すると共に、このQRコードを数字データのみで構成している。この為、このQRコード化した添付情報の記載面積を十分に小さくできる。従って、上記転がり軸受ユニット10に対して上記QRコード化した添付情報を直接記載できるスペースが狭い場合でも、このスペースに上記QRコード化した添付情報を記載し易くできる。又、車両への組み付け時に、上記添付情報を読み取る作業を、QRコード読取器を使用して容易に行なえる。
【0032】
尚、本発明を実施する場合、演算器の製造時に、この演算器のメモリ中に記録しておくデータは、アキシアル荷重に関する複数の既知の値a〜jではなく、位相差比に関する複数の既知の値A〜Jとする事もできる。この場合、エンコーダ4及びセンサ9a、9bを組み付けた転がり軸受ユニット10に関しては、これを組み立てた状態で、外輪1に対してハブ2を回転させつつ、これら外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重を加える事により、上記位相差比が所定の値になる様に、このアキシアル荷重の大きさを変化させつつ、この位相差比が所定の値になった状態でのアキシアル荷重の値を測定する作業を、位相差比に関する所定の値を、上記複数の既知の値A〜J(図2)に変えながら順次行なう。これにより、図2に示す様な、この位相差比に関する複数の既知の値A〜Jに対応する、上記アキシアル荷重に関する複数の値a〜jを取得する。そして、これら複数の値a〜jを添付情報に含めて、この添付情報を上記転がり軸受ユニット10に直接記載する。上記演算器中には、上記位相差比に関する複数の既知の値A〜Jを、予め記録しておく。
【実施例】
【0033】
例えば、今、1つの例として、上述の図1〜2に示した転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する、転がり軸受ユニット10の表面の一部に、添付情報をQRコードで記載する場合に就いて考えてみる。本実施例では、このQRコードを印字する為に用意されたスペースの大きさは、8mm四方しかないと仮定する。
【0034】
上記スペースに記載するQRコードの大きさは、印字できる部分が8mm四方しかないので、印字余裕幅を考慮して、6mm四方(6mm×6mm)以下に設定するのが好ましい。この場合に、上記QRコードを印字する為に、解像度が600dpi(≒24dot/mm)のレーザーマーカーを使用し、且つ、上記QRコードのセル構成を4dot/セルに設定すると、このQRコードのセルサイズは、0.168mm/セルとなる。従って、6mm/0.168mm=35.7より、上記QRコードの大きさは、セル数で35×35以下にする必要がある。但し、周囲(4辺)の余白であるマージンを、1辺に付き4セル分ずつ確保する必要がある為、上記QRコードの大きさは、セル数で27×27以下にする必要がある。又、これを規格化されたQRコードのバージョンに当て嵌めると、このQRコードの大きさは、バージョン2(セル数で25×25)以下にする必要がある。そこで、本実施例では、上記QRコードの大きさを、バージョン2に設定する。更に、このQRコードの誤り訂正レベルを最高のH(コードワードの約30%を復元可能)に設定すると、このQRコードに収納できる文字数は、数字で34文字(英文字なら20文字)となる。
【0035】
一方、上記QRコードとして印字すべき添付情報は、前述した様に、左右輪の区別に関する情報に就いては、数字1文字(0又は1)で表現できる。これに対し、位相差比に就いては、12bit分解能で表現すると、1点に付き数字4文字で表現できる。従って、{34文字(上記QRコードに収納できる数字の文字数)−1文字(左右輪の区別の分)}/4文字(位相差比の1点分)=8.25となる為、図4に示す様に、上記QRコードには、添付情報として、左右輪の区別、及び、位相差比8点分の値(零点の値を含む)を収納できる。
【0036】
尚、以上は1例であり、上記QRコード(バージョン2)の誤り訂正レベルを1ランク下のQ(コードワードの約25%を復元可能)に落とせば、同じスペースで数字48文字(左右輪の区別及び位相差比11点分の値)を収納できる。更に、上記QRコード(バージョン2)の誤り訂正レベルを2ランク下のM(コードワードの約15%を復元可能)に落とせば、同じスペースで数字63文字(左右輪の区別及び位相差比15点分の値)を収納できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の実施の対象となる転がり軸受ユニットの状態量測定装置に就いては、前述の図1に示した従来構造に限らず、特許請求の範囲に記載した要件を満たす各種の構造のもの{例えば、1個のセンサの出力信号のデューティ比(センサ情報)に基づいて状態量を算出するもの等}を採用できる。又、これら各種の構造を構成する転がり軸受ユニットの何れの個所に添付情報を直接記載するかは、これら各種の構造毎に適宜決定できる。
又、転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関する軸受情報に就いては、ゲインと零点とのうち、少なくとも一方のセンサ情報又は状態量の値のみを、添付情報として転がり軸受ユニットに直接記載する事もできる。例えば、同種の製品同士で、零点のみが異なり、ゲインが一致すると仮定した場合には、このゲインを予め演算器に記録すると共に、上記零点に対応するセンサ情報又は状態量のみを、添付情報として転がり軸受ユニットに直接記載する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明を適用可能な転がり軸受ユニットの状態量測定装置の1例を示す断面図。
【図2】この転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関する、外輪とハブとの間に作用するアキシアル荷重と1対のセンサの出力信号間の位相差比との関係を示す線図。
【図3】ハブの回転方向が逆になった場合に就いての、図2と同様の図。
【図4】転がり軸受ユニットに直接記載する添付情報を、数字データのみで構成した場合の1例を示す図。
【符号の説明】
【0039】
1 外輪
2 ハブ
3 転動体
4 エンコーダ
5 芯金
6 エンコーダ本体
7 カバー
8 センサホルダ
9a、9b センサ
10 転がり軸受ユニット
11 取付フランジ
12 円筒部
13 ねじ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時にも回転しない静止側軌道輪と、複数個の転動体を介してこの静止側軌道輪と同心に支持され、使用時に回転する回転側軌道輪とを備えた転がり軸受ユニットと、これら両軌道輪同士の間の相対変位とこれら両軌道輪同士の間に作用する外力とのうちの少なくとも一方の状態量を求める状態量測定装置とを備え、この状態量測定装置は、上記静止側軌道輪に支持された状態で、上記状態量の変化に伴って出力信号を変化させる少なくとも1個のセンサと、この少なくとも1個のセンサの出力信号に関する情報であるセンサ情報に基づいて上記状態量を算出する機能を有する演算器とを備えたものであり、且つ、上記転がり軸受ユニット及び上記少なくとも1個のセンサと、上記演算器とは、互いに関連付けて取り扱われる事がない状態で別々に出荷された後、対象となる装置に組み付けられた状態で、互いに組み合わせて使用されるものである転がり軸受ユニットの状態量測定装置に関し、上記演算器が上記センサ情報に基づいて上記状態量を算出する際に使用する、これらセンサ情報と状態量との関係を表す軸受情報を、上記演算器のメモリ中に記録する方法であって、
上記転がり軸受ユニットを組み立てると共に、上記静止側軌道輪に上記少なくとも1個のセンサを支持した状態で、上記静止側軌道輪に対し上記回転側軌道輪を回転させつつ、それぞれが変数である、上記センサ情報と上記状態量とのうちの一方の変数の値を既知の値とした状態で、この既知の値に対応する他方の変数の値を測定する作業を、この一方の変数の値を変えながら順次行なう事により、この一方の変数に関する複数の既知の値に対応する、上記他方の変数に関する複数の値を取得し、この様に取得した他方の変数に関する複数の値を添付情報として上記転がり軸受ユニットに直接記載した状態で、この転がり軸受ユニットを出荷すると共に、上記演算器の製造過程でこの演算器のメモリ中に、上記一方の変数に関する複数の既知の値を記録した状態で、上記演算器を出荷し、その後、上記対象となる装置に上記転がり軸受ユニットと上記演算器とを組み付ける際に、この転がり軸受ユニットに直接記載してある上記添付情報を読み取って、上記演算器のメモリ中に記録する事により、このメモリ中で、上記一方の変数に関する複数の既知の値と、これらに対応する上記他方の変数に関する複数の値とを組み合わせて上記軸受情報を構成する、転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する演算器のメモリ中に軸受情報を記録する方法。
【請求項2】
転がり軸受ユニットに直接記載する添付情報に、他方の変数に関する複数の値を測定した際の回転側軌道輪の回転方向に関する情報を含める、請求項1に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する演算器のメモリ中に軸受情報を記録する方法。
【請求項3】
転がり軸受ユニットに直接記載する添付情報を、コード化して表示する事により、この添付情報をコード読取器によって読み取り可能とする、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する演算器のメモリ中に軸受情報を記録する方法。
【請求項4】
コード化の種類を、2次元コードによるコード化とする、請求項3に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する演算器のメモリ中に軸受情報を記録する方法。
【請求項5】
転がり軸受ユニットに直接記載する添付情報を、数字データのみで構成する、請求項3〜4のうちの何れか1項に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する演算器のメモリ中に軸受情報を記録する方法。
【請求項6】
転がり軸受ユニットを自動車の車輪支持用のものとし、使用状態で静止側軌道輪を自動車の懸架装置に支持すると共に、回転側軌道輪であるハブに車輪を結合固定する、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載した転がり軸受ユニットの状態量測定装置を構成する演算器のメモリ中に軸受情報を記録する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−186421(P2009−186421A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29149(P2008−29149)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】