説明

転がり軸受装置の密封装置およびその密封装置を備えた転がり軸受装置

【課題】 占有領域を小さくできる転がり軸受装置の密封装置およびこの密封装置を備える転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】 固定輪の軸方向内方側に延設されて、固定輪に嵌装される第1筒部7a1と、この軸方向外方側から内径方向側に延設される第1壁部7a2を有する環状の第1芯金7aと、固定輪と同心の回転輪の軸方向内方側に延設されて、回転輪に嵌装される第2筒部7b1と、この軸方向外方側から外径方向側に延設される第2壁部7b2を有する環状の第2芯金7bと、第1芯金7aに被着され、第2芯金7bに摺接自在なリップが形成された環状のシール部材7cとを備え、回転輪の軸方向の端部は、同じ軸方向の固定輪の端部より同方向に突出され、この突出された端部側に配設された第2壁部7b2の端部から第1壁部7a2側に延設される鍔部7b3が形成され、該鍔部7b3の端部と第1壁部7a2との間に、ラビリンス部7dを形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪支持構造に用いられる転がり軸受装置の密封装置およびその密封装置を備えた転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪と一体回転するドライブシャフトを有し、このドライブシャフトには車輪を装着するためのハブが連結され、このハブはベアリングを介してナックルによって回転可能に支持されるようにした構造の車両における車輪支持装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、このような車輪支持装置に使用されるベアリングは、内外輪の間に泥水が浸入する。このため内外輪の間に密封装置を設けることにより泥水の浸入を防止するようにした転がり軸受装置が知られている(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−71710号公報
【特許文献2】特開2006−208038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5(a)に示すように、この転がり軸受装置の密封装置に使用される芯金A1、A2は、回転輪側の内輪B1および固定輪側の外輪B2からの抜け防止のため、内外輪に嵌装されるL字状に形成される芯金A1、A2における筒部Cの長さLを一定寸法以上にしなければならず、しかも所望のシール機能を確保するため、リップDを有するシール部材Eを外輪B2側の芯金A1に設け、このリップDを、内輪B1側の芯金A2に接触させている。このため、両方の芯金A1、A2によって囲まれる方形状の占有領域が必要となる。例えば、図5(b)の破線で囲む干渉領域Z1を有する取り付け個所に、この密封装置を装着した転がり軸受装置を取り付ける場合には、外輪B2の端部側を、内輪B1の端部側より軸方向(右側)に短くして内輪B1の端部(左側)を突出させるようにした転がり軸受装置を使用しなければならない。
【0006】
このため、密封装置の芯金A2の嵌装長さL2は変らないも、他方の芯金A1の嵌装長さL1が短くなる。これによって、芯金A1に、変形、位置ズレが生じやすくなる。このため、変形、位置ズレに起因してシール不良や脱落などの不具合が発生する課題を有している。
【0007】
本発明の課題は、干渉領域によって密封装置の占有領域が削減されることによって発生する不具合を無くすように、占有領域を小さくできる転がり軸受装置の密封装置およびこの密封装置を備える転がり軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の転がり軸受装置の密封装置は、 固定輪の軸方向内方側に延設されて、前記固定輪に嵌装される第1筒部と、該第1筒部の軸方向外方側から内径方向側に延設される第1壁部を有する環状の第1芯金と、前記固定輪と同心の回転輪の前記軸方向内方側に延設されて、前記回転輪に嵌装される第2筒部と、該第2筒部の軸方向外方側から外径方向側に延設される第2壁部を有する環状の第2芯金と、前記第1芯金に被着され、前記第2芯金に摺接自在なリップが形成された環状のシール部材とを備え、前記回転輪の軸方向の端部は、同じ軸方向の前記固定輪の端部より同方向に突出され、この突出された端部側に前記第2芯金の第2壁部は配設され、該第2壁部の端部から前記第1壁部側に延設される鍔部が形成され、該鍔部の端部と第1壁部との間に、隙間を設けてラビリンス部が形成されることを特徴とする。
【0009】
上記構成とすることにより、芯金を固定保持する両側の筒部は、同一方向である軸方向内方に延設されているため、両側の芯金を固定保持するために必要となる筒部の軸方向寸法を確保でき、芯金固定保持機能が維持される。このため芯金の変形、位置ズレ、シール不良や、脱落などの不具合が防止できる。また、この構成による方形状の占有領域は、第1芯金の第1壁部と、第2芯金の第2筒部、第2壁部及び鍔部によって囲まれて形成される。このため例えば、背景技術と同様な干渉領域Z1が存在していても、この干渉領域Z1に干渉しないように固定輪の端部を、回転輪の端部より軸方向内方に位置させた個所にも、芯金固定保持機能を損なうことなく装着できる。しかも、芯金の筒部の軸方向寸法を短くしなくても、第1壁部と第2壁部との間隔を短くできるため、占有領域の削減が可能となる。また、外部に第2芯金の第2壁部が位置(露出)しているも、第1壁部側へ鍔部が延設され、その先端側にラビリンス部が備わっているため、シール部材側への異物(泥水)の浸入を防止することができる。
【0010】
また、鍔部は、その先端が回転輪から遠ざかるように傾斜させて形成することもできる。これによって鍔部上の異物(泥、塵など)の推積を防止することができる。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の転がり軸受装置の密封装置は、第1芯金に被着されたシール部材には、鍔部に対して、外径方向で近接し、かつ回転輪の突出方向と同方向に突出する突堤部が形成されたことを特徴とする。
【0012】
上記構成とすることにより、突堤部によってラビリンス部への直接的な泥水の浸入を防止できるため、ラビリンス部のシール機能に負担を与えない。
【0013】
また、突堤部における鍔部との対向個所に、水切り溝を周設することもできる。これによって突堤部の表面を伝って、その裏面側からラビシンス部に流れる泥水は、この水切り溝によって規制される。このためラビリンス部への泥水の浸入が防止できる。
【0014】
また、第1芯金の第1壁部の基部側に、所定幅で環状となした平坦部が外部に露出されるように、鍔部や突堤部を配置することもできる。これによって平坦部が、密封装置を内外輪に嵌装する際の押し込み面となる。このため組み付け作業性が良好となる。
【0015】
また、リップは軸方向のシールとなすアキシャルリップと、その軸方向と交差する方向のシールとなすラジアルリップからなり、アキシャルリップを複数個設けたことを特徴とすることにより、シール部材側への泥水の浸入に対しても、シール個所が複数のため、シール機能を良好にできる。
【0016】
また、転がり軸受装置は、外輪と、この外輪と同心に配置された内輪と、外輪と内輪との間に介装される転動体とを有し、内輪の軸方向にはアクスルシャフトが挿通され、外輪は車両固定部材に固定される転がり軸受装置において、固定輪は外輪であり、回転輪は内輪であり、この内外輪の間に上記密封装置を設けたことを特徴とすることにより、シール機能に優れ、占有領域を小さくできる密封装置を備える転がり軸受装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態につき図面に示す実施例を参照して説明する。図1は、本発明に係る転がり軸受装置の一例を示す断面図、図2は、図1の転がり軸受装置の部分断面図である。図1において、転がり軸受装置1は、固定輪としての外輪2aと、回転輪としての内輪2bと、該内輪2bと外輪2aとの間に介在される複数例で配列される転動体2cから構成される転がり軸受2を備えている。
【0018】
転がり軸受2は車両における懸架装置の車両インナー側のナックル、アクスルハウジングなどの車両固定部材3の取付口3aに接続される。この接続は転がり軸受2の外輪2aを取付口3a内に挿入して嵌装するとともに、外輪2aに形成されるフランジ部2dをボルト・ナットなどの締結部材2eを介して車両固定部材3の取付口3aの周辺面(車両アウター側)に固定させている。
【0019】
転がり軸受2の内輪2bはハブ4と接続されている。ハブ4は車両アウター側に車輪(図示せず)を装着するためのハブボルト4aを有している。ハブ4の車両インナー側には、転がり軸受2の内輪2bに圧入嵌装される圧入軸部4bを有しており、該圧入軸部4bを内輪2bに圧入してハブ4を内輪2bとともに回転可能に設けている。ハブ4は、ドライブシャフト5に対しスプライン結合され、ドライブシャフト5の一端側をハブ4の圧入軸部4bに形成される挿通孔4cに通し、この端部にナット6を螺合することにより固定されている。
【0020】
この転がり軸受2の内輪2bの軸方向の端部2b1(本例では車両インナー側)は、同じ軸方向の外輪2aの端部2a1より同方向に突出され、他の部材が配置される干渉領域Z1を避けている。
【0021】
この転がり軸受2には、内輪2bと外輪2aとの間を外部から密封するための密封装置7が設けられる。該密封装置7は軸方向の一方の端部2f(本例では車両インナー側)側に設けられる。
【0022】
この密封装置7は図2に示すように、環状の第1芯金7aと、環状の第2芯金7bからなり、第1芯金7aに被着され、第2芯金7bに摺接自在な弾性体からなるシール部材7cを備え、第1芯金7aと第2芯金7bとを、外輪2aと内輪2bとに振り分けて嵌装される。
【0023】
環状の第1芯金7aは、外輪2aの軸方向内方側に延設されて、外輪2aに嵌装される第1筒部7a1と、該第1筒部7a1の軸方向外方側(外輪2aの端部2a1側)から折り曲がって内径方向側に延設される第1壁部7a2からなる断面が略L字状の板金材で形成される。
【0024】
環状の第2芯金7bは、内輪2bの軸方向内方側に延設されて、内輪2bに嵌装される第2筒部7b1と、該第2筒部7b1の軸方向外方側の端部(内輪2bの端部2b1側)から折り曲がって外径方向側に延設される第2壁部7b2とからなる断面がL字状の板金材で形成されている。
【0025】
この第2芯金7bの第2筒部7b1における軸方向の長さL3は、転動体2cを回転自在に保持するための保持器(図示せず)が第1芯金7aの第1筒部7a1と対向する内径側にまで入り込んで配置される場合があり、この保持器による干渉領域Z2に入り込まない寸法に設定されて、この干渉領域Z2を避けている。
【0026】
また、この突出された内輪2bの端部2b1側に配設された第2芯金7bの第2壁部7b2の端部(外径側)から折り曲がって第1芯金7aの第1壁部7a2側に延設される鍔部7b3が形成される。該鍔部7b3の端部と第1壁部7a2との間には所定の隙間X1を具有させたラビリンス部7dが形成される。このラビリンス部7dは第1芯金7aの第1壁部7a2とで協働して非接触方式のラビリンスシール機能を発揮させている。
【0027】
この鍔部7b3は、図3に示すように、その先端が外径方向(外輪側)に遠ざかるように傾斜させて形成することができる。このことによって鍔部7b3の上に埃塵の推積が防止できる。
【0028】
また、図2に戻り、第1芯金7aに被着され、一体化されたシール部材7cは、加硫接着されるゴムなどの弾性体から成る。この一体化されたシール部材7cは、弾性体の一部を、軸方向外方や、その軸方向と交差する方向の内方に突出させたリップ7eを備えている。
【0029】
このリップ7eは、その先端が第2芯金7bの第1壁部7a2に摺接する複数(本例では2個)の軸方向のシールとなすアキシャルリップ7e1と、先端が第2芯金7bの第2筒部7b1に摺接する複数(本例では2個)の軸方向と交差する方向のシールとなすラジアルリップ7e2を有し、第2芯金7bとシール部材7cは、協働して接触方式のシール機能を発揮させている。
【0030】
また、図4に示すように、第1芯金7aに被着されたシール部材7cには、鍔部7b3に対して、隙間X2を具有させるように、外径方向で近接し、かつ内輪2bの突出方向と同方向に、干渉領域Z1に入り込まないような寸法で突出する突堤部7fが形成されている。この突堤部7fと鍔部7b3の先端とで協働して非接触方式のラビリンスシール機能を発揮させている。この突堤部7fにおける鍔部7b3との対向個所(下側)には、水切り溝7f1が周設されている。
【0031】
また、第1芯金7aの第1壁部7a2の基部側(折り曲げ側)に、所定幅で環状となした平坦部8が外部に露出されるように、鍔部7b3や突堤部7fを配置して形成している。この平坦部8は、密封装置7を内外輪間に圧入嵌装する際の押圧個所に使用できる。
【0032】
次に、密封装置を備えた転がり軸受装置は、車輪支持装置に使用される。密封装置7が車両固定部材3の取付口3a内で外部に開放されているため、車両走行中に泥水が勢い良く、密封装置7側に浸入してくる。この浸入する泥水は、密封装置7のラビリンス部7dによるラビシンス機能によってシールされる。さらに泥水がラビリンス部7dを仮に通過した場合でも、複数のアキシャルリップ7e1と、ラジアルリップ7e2を備えるシール部材7cによっては、シールされる。
【0033】
また、密封装置7の第1芯金7aの第1筒部7a1と、第2芯金7bの第2筒部7b1は、同一方向に延設されているため、両側の第1芯金7a、第2芯金7bを固定保持するのに必要となる軸方向寸法L3を確保できる。また、密封装置7の占有領域は、第1芯金7aの第1壁部7a2と、第2芯金7bの第2筒部7b1、第2壁部7b2及び鍔部7b3によって囲まれて形成される。このため干渉領域Z1が存在していても、この干渉領域Z1に干渉しないように外輪2aの端部2a1を、内輪2bの端部2b1より軸方向内方に位置させた個所にも装着できる。しかも、第1芯金7aの第1筒部7a1と、第2芯金7bの第2筒部7b1の軸方向寸法L3を短くしなくても、第1壁部7a2と第2壁部7b2との間隔を短くできる。また、第1芯金7aの第1壁部7a2の基部側の平坦部8を、自身の密封装置7を内外輪2b、2aに嵌装する際の押し込み面とすることができる。
【0034】
また、鍔部7b3は、その先端が内輪2bから遠ざかるように傾斜させているため、内輪2bとともに回転する鍔部7b3上の異物(泥、塵など)は、その回転によって飛散される。また、突堤部7fによってラビリンス部7dへの直接的な泥水の浸入を規制できる。また、突堤部7fの水切り溝7f1によって、突堤部7fの表面を伝って、その裏面側からラビシンス部7d側に流れる泥水の流れを規制する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る転がり軸受装置を装着した車輪支持構造を示す断面図。
【図2】転がり軸受装置に設ける密封装置を示す拡大断面図。
【図3】密封装置の他の実施の形態を示す拡大断面図。
【図4】密封装置の他の実施の形態を示す拡大断面図。
【図5】背景技術の密封装置を示す断面図。
【符号の説明】
【0036】
1 転がり軸受装置
2a 外輪(固定輪)
2a1 端部
2b 内輪(回転輪)
2b1 端部
2c 転動体
3 車両固定部材
7 密封装置
7a 第1芯金
7a1 第1筒部
7a2 第1壁部
7b 第2芯金
7b1 第2筒部
7b2 第2壁部
7b3 鍔部
7c シール部材
7d ラビリンス部
7e リップ
7e1 アキシャルリップ
7e2 ラジアルリップ
7f 突堤部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定輪の軸方向内方側に延設されて、前記固定輪に嵌装される第1筒部と、
該第1筒部の軸方向外方側から内径方向側に延設される第1壁部を有する環状の第1芯金と、
前記固定輪と同心の回転輪の前記軸方向内方側に延設されて、前記回転輪に嵌装される第2筒部と、
該第2筒部の軸方向外方側から外径方向側に延設される第2壁部を有する環状の第2芯金と、
前記第1芯金に被着され、前記第2芯金に摺接自在なリップが形成された環状のシール部材とを備え、
前記回転輪の軸方向の端部は、同じ軸方向の前記固定輪の端部より同方向に突出され、この突出された端部側に前記第2芯金の第2壁部は配設され、該第2壁部の端部から前記第1壁部側に延設される鍔部が形成され、該鍔部の端部と第1壁部との間に、隙間を設けてラビリンス部が形成されることを特徴とする転がり軸受装置の密封装置。
【請求項2】
前記第1芯金に被着されたシール部材には、前記鍔部に対して、外径方向側で近接し、かつ前記回転輪の突出方向と同方向に突出する突堤部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受装置の密封装置。
【請求項3】
前記リップは前記軸方向のシールとなすアキシャルリップと、その軸方向と交差する方向のシールとなすラジアルリップからなり、前記アキシャルリップを複数個設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受装置の密封装置。
【請求項4】
外輪と、この外輪と同心に配置された内輪と、前記外輪と前記内輪との間に介装される転動体とを有し、前記内輪の軸方向にはドライブシャフトが挿通され、前記外輪は車両固定部材に固定される転がり軸受装置において、前記固定輪は前記外輪であり、前記回転輪は前記内輪であり、この内外輪の間に請求項1ないし3のいずれか1項に記載の密封装置を備えたことを特徴とする転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−144731(P2009−144731A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319321(P2007−319321)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】