説明

転がり軸受装置

【課題】転がり軸受とこの転がり軸受が装着されるハウジングとクリープおよびフレッチングの発生を効果的に防止できる転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】ハウジング30と、ハウジング30に形成されたハウジング穴30aと、ハウジング穴30aに装着された転がり軸受10と、前記転がり軸受10を固定する軸受カバー24からなる転がり軸受装置100において、ハウジング穴30aの内周面30bと転がり軸受10の外周面との間に、山部22cと谷部22dが連続して形成された蛇腹状の弾性体22を転がり軸受10の軸方向に圧縮し変形させた状態で介在させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に転がり軸受装置は、ハウジングに形成された孔に転がり軸受を嵌め込み装着される。通常、穴に転がり軸受が装着された状態では、転がり軸受とハウジング穴の間に隙間が形成される、いわゆる隙間嵌めとなっている。そのため、特にモータやスピンドル等の回転装置に組み込まれる転がり軸受装置の転がり軸受は、モータやスピンドルの回転(または荷重)によって転がり軸受が円周方向に相対回転するクリープ現象を起こす場合がある。また、モータやスピンドルの振動が大きい場合には、転がり軸受とハウジング穴との間に相対回転によりフレッチングが発生する場合がある。このため、転がり軸受とハウジング穴との間に弾性体を介在させ、転がり軸受のクリープ現象やフレッチングを防止した転がり軸受装置がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平7−6521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したようにゴムや樹脂などの弾性体(Oリング)を介在させたものではクリープを止める力が弱く、クリープ力が大きい場合には止めることは難しい。すなわち、クリープ防止力を強めるためには、ゴムなどの弾性体のしめしろを大きくしなければならないが、大きくすると転がり軸受組み込み時にハウジング穴に挿入できなくなるためである。また、ハウジング穴への挿入時にゴムなどの弾性体はハウジング穴のエッジで損傷してしまう。そこで、この発明は、転がり軸受とこの転がり軸受が装着されるハウジングとクリープおよびフレッチングの発生を防止できる転がり軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ハウジングと、前記ハウジングに形成されたハウジング穴と、前記ハウジング穴に装着された転がり軸受と、前記転がり軸受を固定する軸受カバーからなる転がり軸受装置において、前記ハウジング穴の内周面と前記転がり軸受の外周面との間に、山部と谷部が連続して形成された蛇腹状の弾性体を前記転がり軸受の軸方向に圧縮し変形させた状態で介在させたことを特徴とすることを要旨としている。
【0006】
本発明によれば、弾性体は転がり軸受外輪の外周面と前記転がり軸受外輪が嵌合されるときに前記ハウジング穴の内周面の間にしめしろを持つ弾性体で、転がり軸受外輪の一方の端面が軸受カバーに当接前は転がり軸受とハウジング穴の隙間より小さくできているため、転がり軸受とハウジング穴との隙間に組み込みやすく、さらに、転がり軸受外輪の一方の端面が軸受カバーに当接時点でハウジングまたは回転軸に設けられる軸受カバーが転がり軸受の軸方向端面に当接固定されることにより弾性体を径方向に拡径させてしめしろを発生するため、転がり軸受とハウジング穴の間に特殊な加工を行わず、また、ハウジング穴の比較的ラフな寸法管理でハウジングと転がり軸受を固定でき、クリープやフレッチングを防止可能な転がり軸受装置を提供できる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記弾性体は、前記山部の断面が略三角形状であることを特徴とすることを要旨としている。
【0008】
前記弾性体は、前記山部および谷部の断面が略三角形状であり、三角形の頂点が軸方向に非対称構造の弾性体であることを要旨としている。そのため、軸方向に圧縮力を付与されたときには、軸方向の力で容易に変形し、かつ軸方向の力が作用がなくなる場合でもハウジング内周部の接触部の軸方向面圧分布が非対称となり、軸方向の往復の摩擦抵抗が大きくなるため、弾性体が組付けの反対の軸方向には移動しにくくなり、弾性体のしめしろ変化しにくく転がり軸受の固定ができるため、優れたクリープやフレッチングを防止可能な転がり軸受装置を提供できる。
【発明の効果】
【0009】
転がり軸受とこの転がり軸受が装着されるハウジングとのクリープおよびフレッチングの発生を防止できる軸受装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る転がり軸受装置の縦断面図。
【図2】(a)組込み前の弾性体の状態を示す概略断面図、(b)組込み後の弾性体の状態を示す概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る転がり軸受装置の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、転がり軸受装置100は、転がり軸受10と、ハウジング30と、シャフト40とを備える。転がり軸受10は、ハウジング30に形成されたハウジング穴30aに内嵌合されるとともに、シャフト40が転がり軸受10の内輪11に内嵌合している。
【0013】
転がり軸受10は、内輪11と外輪12と、内輪11と外輪12との間に回転動自在に設けられた転動体である複数個の玉13と、玉13を円周方向に所定の間隔で回転自在に保持する保持器14と、外輪12の軸方向両端にそれぞれ固定されたシール15と、を備えている。
【0014】
前記ハウジング穴30aは、円筒面からなる内周面30bと、この内周面30bの一端から径方向内方へ延びる鍔部30cとを有している。
【0015】
弾性体22は、転がり軸受外輪12の軸方向に関して、ハウジング穴30aの開口端と鍔部30cとの間に配置されて、弾性体22を軸方向に移動を規制する軸受カバー24を設けている。反軸受カバー側の弾性体22の側の側面22bは、ハウジングの鍔部30cの端面30dと当接することにより、転がり軸受10の軸方向に関してのハウジング30に対する転がり軸受外輪12と同時に軸方向の移動を規制する。
【0016】
弾性体22は、弾性材料としては、ゴムや熱可塑性エラストマーが考えられ、ゴムとしては、アクリルゴム、ポリウレタン、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)CR(クロロプレンゴム)シリコーンゴムの合成ゴム、熱可塑性エラストマーとしては、ウレタン系、エステル系、アミド系等の熱可塑性エラストマーを例示できる。
【0017】
図2(a)は組込み前の弾性体22の状態を示す概略断面図、(b)は組込み後の弾性体22の状態を示す概略断面図である。弾性体22は、図2(a)に示すように複数の山部22cおよび谷部22dが軸方向に交互に並んだ形状の蛇腹部を有する円筒環であり、山部22cおよび谷部22dは断面が略三角形状であり、三角形の頂点が軸方向に非対称構造の弾性体22の三角断面形状22cが環状に形成されている。そして、三角断面形状22cの斜面22eの長さLはハウジング30の内周面30bと転がり軸受10の外輪12との隙間mより長く弾性体の長さnはハウジング30の内周面30bと転がり軸受10の外輪12との隙間mより小さくなっている。そのため、弾性体22をハウジング穴30aに挿入した非圧縮状態である。組み込み時には弾性体の長さnは隙間mより小さいため隙間に弾性体30を装着しやすくなっている。
【0018】
次に弾性体22の谷部22が軸受カバー24およびハウジング30の鍔部30cに押圧されることで、弾性体22が軸方向圧縮変形すると同時に三角断面形状22cの斜面22eが垂直(転がり軸受10の軸方向に対して垂直)になることにより、結果として、図2(b)に示すように、弾性体22が転がり軸受10の軸方向に圧縮された状態である組み込み後は、弾性体22が拡径して、ハウジング30の内周面30bと転がり軸受10の外輪12との隙間でしめしろを発生し、転がり軸受10をハウジング30に密着固定する。
【0019】
この時、弾性体の三角形断面形状22cは三角形の頂点が軸方向に非対称構造となっているため、しめしろ分だけハウジング内周面30aで接触した時に、ハウジング30の内周軸方向に接触圧力分布が異なるため、組み込み方向には移動しやすいが、逆方向には摩擦力が大きくなるため、元の組み込み前の形状にもどろうとしても移動しにくいため、結果として、半径方向のしめしろが変化しにくくできる。
【0020】
前記弾性体22は、本発明の範囲内で任意の樹脂やゴムを選択することが可能で、その他ばね性(弾性)のある材料であれば本発明の範囲内で設計変更可能である。また、本実施例では、弾性体22の断面を軸方向に非対称な形状としたが、組み付け前は軸方向に動きやすく組み付け後は反対方向の軸方向に動きにくい形状であれば自由側転がり軸受の機能を損なうことが少ない。さらに、弾性体22は、本実施例では円環状に形成しているが、円環状の一部を分断した略C字状であってもよく、少なくとも半周以上であればよい。特に図示して説明はしないが、内輪11と軸40との間に生じ得るクリープに対しても本実施例と同様な機構が適用できることは言うまでもない。
【0021】
本発明の転がり軸受は、例えば、モータなどの2個或いは複数の転がり軸受で回転軸を支えるスピンドル系転がり軸受装置などにおいて自由側転がり軸受として用いられるが、その適用例は限定されない。本実施例では、本発明の転がり軸受の一例として、深溝玉軸受を挙げて説明するが、何等限定されず、ころ軸受に本発明を適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0022】
10…転がり軸受、 22…弾性体、 24…軸受カバー、 25…取り付けボルト、 30…ハウジング、 40…回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジングに形成されたハウジング穴と、前記ハウジング穴に装着された転がり軸受と、前記転がり軸受を固定する軸受カバーからなる転がり軸受装置において、前記ハウジング穴の内周面と前記転がり軸受の外周面との間に、山部と谷部が連続して形成された蛇腹状の弾性体を前記転がり軸受の軸方向に圧縮し変形させた状態で介在さたことを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
前記弾性体は、前記山部の断面が略三角形状であることを特徴とする、請求項1に記載の転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−108541(P2013−108541A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252511(P2011−252511)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】