説明

転がり軸受

【課題】低コストで組立性に優れ、且つ内輪の分離を確実に防止することができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】第1及び第2の内輪11、12を備える転がり軸受10は、第1の内輪11の第1側面11dに、周方向から見て略L字状に形成された突起部である係合部21が設けられ、第2の内輪12の第2側面12dには、係合部21を収容可能な凹部である被係合部22が設けられている。係合部21には第1テーパ面21aが設けられ、被係合部22には第1テーパ面21aと係合する第2テーパ面22aが設けられ、第1又は第2の内輪11、12を回転させることで、第1テーパ面21aと第2テーパ面22aとが係合して、第1及び第2の内輪11、12が軸方向に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関し、特にクレーンの吊り索掛装用のシーブに適用するのに好適な転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のクレーンシーブ用総ころ円筒ころ軸受100は、図6に示すように、それぞれ内輪軌道面101a、102aを有する一対の内輪101、102と、2つの外輪軌道面103a、103aを有する外輪103と、内輪軌道面101a、102aと2つの外輪軌道面103a、103a間に転動自在に配置された複数の円筒ころ104と、を備える。このクレーンシーブ用総ころ円筒ころ軸受100は、保持器を備えないため、一対の内輪101、102を分離すると、円筒ころ104も分離してしまうので、一対の内輪101、102の内周面101b、102bに環状溝101c、102cを設け、この環状溝101c、102cにローリングプレス加工によって内輪結合輪105を組み込んで結合して、一対の内輪101、102の分離を防止するようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、軸方向中央に設けられた鍔部により隔離された2つの外輪軌道面を備える外輪において、外輪軌道面のころ端部側に、ころ止め用の止め輪を配設して、内輪の分離防止を図ったクレーンシーブ用総ころ円筒ころ軸受が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国実用新案公告第201568450号明細書
【特許文献2】特開平11‐101228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図6に示す従来のクレーンシーブ用総ころ円筒ころ軸受100によると、内輪101、102の内周面101b、102bに内輪結合輪105を組み込むための環状溝101c、102cの加工、及び内輪結合輪105を組み込むためのローリングプレス加工が必要となり、作業性が悪く、製造コストが増大するという問題点があった。
【0006】
また、止め輪を用いた総ころ円筒ころ軸受によると、内輪の分離は防止されているものの、内輪同士が結合されていない構造であるため、輸送時などに内輪及び円筒ころが軸方向に動いてしまう問題があり、改善の余地があった。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低コストで組立性に優れ、且つ内輪の分離を確実に防止することができる転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)それぞれ内輪軌道面を有する第1及び第2の内輪と、前記内輪軌道面に対向する2つの外輪軌道面を有する外輪と、前記第1及び第2の内輪の内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動自在に配置される複数の転動体と、を備える転がり軸受であって、
前記第1の内輪の前記第2の内輪に対向する第1側面には、係合部が設けられ、
前記第2の内輪の前記第1の内輪に対向する第2側面には、被係合部が設けられ、
前記第1及び第2の内輪の少なくとも一方を回転させることで、前記係合部と前記被係合部が係合して、前記第1及び第2の内輪が軸方向に固定されることを特徴とする転がり軸受。
(2)前記係合部は、前記第1側面から前記第2の内輪側に突出し、周方向から見て略L字状に形成された突起部であり、
前記被係合部は、前記第2の内輪の前記第1の内輪に対向する側面に形成され前記突起部を収容可能な凹部であり、
前記突起部には、周方向一方側に向かうに従って次第に前記第1側面との軸方向間隔が広がるように傾斜する第1テーパ面が設けられ、
前記凹部には、前記凹部を形成する壁面に、前記第1テーパ面と係合するように、前記第2側面からの軸方向幅が周方向他方側に向かうに従って次第に小さくなるように傾斜する第2テーパ面が設けられ、
前記第1及び第2の内輪の少なくとも一方を回転させることで、前記第1テーパ面と前記第2テーパ面が係合することを特徴とする上記(1)に記載の転がり軸受。
(3)前記転動体は、円筒ころであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の転がり軸受。
(4)前記外輪が回転輪であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の転がり軸受。
(5)クレーンシーブ用転がり軸受であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の転がり軸受。
(6)上記(5)に記載のクレーンシーブ用転がり軸受を用いたことを特徴とするクレーン装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の転がり軸受によれば、第1の内輪の第2の内輪に対向する第1側面には係合部が設けられ、第2の内輪の第1の内輪に対向する第2側面には被係合部が設けられ、少なくとも一方の内輪を回転させることで係合部と被係合部が係合して、第1及び第2の内輪が軸方向に固定されるので、組立性に優れ、簡単な構造で確実に第1及び第2の内輪を結合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る第1実施形態の転がり軸受の断面図である。
【図2】図1に示す内輪のA矢視図である。
【図3】図2に示す内輪の組付け手順を示す説明図である。
【図4】本発明に係る転がり軸受が適用されたクレーンシーブの断面図である。
【図5】本発明に係る第2実施形態の転がり軸受の断面図である。
【図6】従来の転がり軸受の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る転がり軸受の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態である転がり軸受の断面図、図2は図1における内輪のA矢視図である。図1及び図2に示すように、本実施形態の転がり軸受10は、それぞれ内輪軌道面11a、12aを有する第1の内輪11及び第2の内輪12と、それぞれの内輪軌道面11a、12aに対向する2つの外輪軌道面13a、13aを有する外輪13と、内輪軌道面11a、12aと外輪軌道面13a、13a間に転動自在に2列に配置された転動体である複数の円筒ころ14と、を備える。なお、本実施形態の転がり軸受10は、保持器を備えない、いわゆる総ころ円筒ころ軸受である。
【0012】
第1の内輪11、及び第2の内輪12は、内輪軌道面11a、12aの軸方向両側にそれぞれ外側鍔部11b、12bと、内側鍔部11c、12cが形成されて、円筒ころ14の側面を支持している。また、外輪13には、2つの外輪軌道面13a、13a間に中間鍔部13bが設けられている。
【0013】
第1の内輪11の第2の内輪12に対向する第1側面11dには、係合部21が設けられ、第2の内輪12の第1の内輪11に対向する第2側面12dには、被係合部22が設けられている。
【0014】
図3(a)も参照して、係合部21は、内輪11の内周面から外周面に渡って、第1側面11dから第2の内輪12に向かって突出し、周方向(図1中、矢印A)から見て略L字状に形成された突起部であり、周方向一方側(図3において上方)に向かうに従って次第に第1側面11dとの軸方向間隔W1が広がるように傾斜する第1テーパ面21aが設けられている。
【0015】
被係合部22は、第2の内輪12の第2側面12dに形成されて係合部21を収容可能な凹部であり、凹部を形成する壁面に、第1テーパ面21aと係合するように、第2側面12dからの軸方向幅W2が、周方向他方側(図3において下方)に向かうに従って次第に小さくなるように傾斜する第2テーパ面22aが設けられている。
【0016】
そして、係合部(突起部)21を被係合部(凹部)22に収容した後、第1及び第2の内輪11、12の少なくとも一方を係合部21と被係合部22とを近づけるように回転させることで、係合部21と被係合部22とが係合して、第1及び第2の内輪11、12が軸方向に固定されるようになっている。
【0017】
次に、図3を参照して、第1及び第2の内輪11、12の組付け手順について説明する。図3(a)に示すように、第1の内輪11の係合部21と、第2の内輪12の被係合部22と、を対向させて、第1の内輪11と第2の内輪12とを配置する。次いで図3(b)に示すように、第1の内輪11に第2の内輪12を接近させて、第1の内輪11の第1側面11dと第2の内輪12の第2側面12dとを当接させ、凹部である被係合部22内に、突起部である係合部21を収容させる。次いで、図3(c)に示すように、第1の内輪11又は第2の内輪12を転がり軸受10の中心軸C回りで回転させて、係合部21の第1テーパ面21aと被係合部22の第2テーパ面22aとを係合させる(図3(d)参照)。
【0018】
これにより、係合部21の第1テーパ面21aと被係合部22の第2テーパ面22aとが、クサビ作用によりしっかりと結合して、第1の内輪11と第2の内輪12とが軸方向に固定される。従って、第1及び第2の内輪11、12に互いに離間する方向に力が作用しても、係合部21と被係合部22との係合によって、両内輪11、12の分離が防止される。
【0019】
このような構成を有する転がり軸受10は、図4に示すように、クレーンのフックブロック30における吊り索掛装用のシーブに使用するのに好適である。即ち、フックブロック30は、フック31が取り付けられた吊り枠32に支持軸33を設け、この支持軸33に転がり軸受10を介してシーブ34が回転自在に取り付けられて構成される。この場合、転がり軸受10は、クレーンシーブ用転がり軸受10として外輪回転で使用される。
【0020】
上記したように、本実施形態の転がり軸受10によれば、それぞれ内輪軌道面11a、12aを有する第1及び第2の内輪11、12と、2つの外輪軌道面13a、13aを有する外輪13と、内輪軌道面11a、12aと外輪軌道面13a、13aとの間に転動自在に配置される複数の円筒ころ14と、を備え、第1の内輪11の第2の内輪12に対向する第1側面11dには係合部21が設けられ、第2の内輪12の第1の内輪11に対向する第2側面12dには被係合部22が設けられ、内輪11、12の少なくとも一方を回転させることで係合部21と被係合部22が係合して、第1及び第2の内輪11、12が軸方向に固定されるので、組立性に優れ、簡単な構造で確実に第1及び第2の内輪11、12を結合することができる。また、本実施形態の転がり軸受10では、軸方向端面にシールド板を有さないため、係合部21と被係合部22が係合して、第1及び第2の内輪11、12が軸方向に固定された後に再度分離することも可能である。
【0021】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図5を参照して説明する。図5に示す第2実施形態の転がり軸受10Aは、第1及び第2の内輪11、12が、第1実施形態で説明した内側鍔部11c、12c(図1参照)を備えない点で第1実施形態の転がり軸受10と異なり、その他は係合部21及び被係合部22の形状も含めて同様であり、また、その作用や効果も同様であるので、同一部分には同一符号又は相当符号を付して説明を省略する。
【0022】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上記の説明では、係合部21及び被係合部22を周方向に1ヶ所配置したものとして説明したが、係合部21及び被係合部22は1ヶ所に限定されず、係合部21及び被係合部22を複数配置して複数個所で第1及び第2の内輪11、12を結合するようにしてもよい。この場合、複数の係合部21及び被係合部22を周方向に等間隔で配置することが望ましい。
【0023】
また、上記の説明において、係合部21及び被係合部22は、第1及び第2の内輪11、12と一体に形成されたものとして説明したが、第1及び第2の内輪11、12とは別の部品として形成し、ボルトなどで第1及び第2の内輪11、12に締結するようにしてもよい。即ち、係合部21を構成する略L字状の突起部全体を第1の内輪11とは別の部材として形成し、被係合部22を構成する凹部のうち第2テーパ面22aを有する壁部を内輪12とは別の部材として形成してもよい。
【0024】
また、上記実施形態では、いわゆる総ころ円筒ころ軸受を例示して説明したが、これに限らず、保持器を備えるものでもよく、円錐ころを用いるものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
10、10A 転がり軸受
11 第1の内輪
11a、12a 内輪軌道面
11d 第1側面
12 第2の内輪
12d 第2側面
13 外輪
13a 外輪軌道面
14 円筒ころ(転動体)
21 係合部
21a 第1テーパ面
22 被係合部
22a 第2テーパ面
W1 第1側面との軸方向間隔
W2 第2側面からの軸方向幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ内輪軌道面を有する第1及び第2の内輪と、前記内輪軌道面に対向する2つの外輪軌道面を有する外輪と、前記第1及び第2の内輪の内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動自在に配置される複数の転動体と、を備える転がり軸受であって、
前記第1の内輪の前記第2の内輪に対向する第1側面には、係合部が設けられ、
前記第2の内輪の前記第1の内輪に対向する第2側面には、被係合部が設けられ、
前記第1及び第2の内輪の少なくとも一方を回転させることで、前記係合部と前記被係合部が係合して、前記第1及び第2の内輪が軸方向に固定されることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記係合部は、前記第1側面から前記第2の内輪側に突出し、周方向から見て略L字状に形成された突起部であり、
前記被係合部は、前記第2の内輪の前記第1の内輪に対向する側面に形成され前記突起部を収容可能な凹部であり、
前記突起部には、周方向一方側に向かうに従って次第に前記第1側面との軸方向間隔が広がるように傾斜する第1テーパ面が設けられ、
前記凹部には、前記凹部を形成する壁面に、前記第1テーパ面と係合するように、前記第2側面からの軸方向幅が周方向他方側に向かうに従って次第に小さくなるように傾斜する第2テーパ面が設けられ、
前記第1及び第2の内輪の少なくとも一方を回転させることで、前記第1テーパ面と前記第2テーパ面が係合することを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記転動体は、円筒ころであることを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記外輪が回転輪であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項5】
クレーンシーブ用転がり軸受であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項6】
請求項5に記載のクレーンシーブ用転がり軸受を用いたことを特徴とするクレーン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−197885(P2012−197885A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62902(P2011−62902)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】