説明

転写シート、転写層が固定された物品、偽造防止機能を備えた物品の製造方法

【課題】物品に転写シートを貼り付けた時点で真贋判定構造が発現し、剥がした転写層の再貼り付け時には同じ構造が発現されないようにすることで、高い偽造防止効果を得る。
【解決手段】支持体1の上に、剥離保護層2、反射層3、および接着層4を形成することで転写シート10を作製する。例えば、剥離保護層2を反射層3との弾性率の差が大きい材料で形成する。この転写シート10を、接着層4側を紙100に向けて熱圧着することで紙100に固定した後に、支持体1を剥離して転写層10Aの剥離保護層2を露出させる。この状態で、剥離保護層2の反射層3との境界部に破線で示すような破壊が生じている。これにより、転写層10Aを剥離保護層2側から顕微鏡で観察すると、紙100の表面の凹凸に対応した破壊模様が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、支持体と支持体に支持された転写層とを有する転写シート、前記転写層が固定された物品、および偽造防止機能を備えた物品の製造方法に関する。対象となる物品としては、商品券や株券等の有価証券および証明書等の、真正さを証明する必要のあるものが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
従来より、OVD(Optical Variable Deviceの略語。光の干渉、回折、反射等の光学的効果を用いて、立体的画像や、特殊な装飾画像を表現する素子)を有する転写層を貼り付けて、有価証券や証明書等に偽造防止機能を与えることが行われている。OVDとしては、ホログラム、回折格子、見る角度により色の変化(カラーシフト)が生じる多層薄膜等が例示される。
【0003】
このようなOVDは、製造に高度な技術が必要であることと、独特な視覚効果を有することから、偽造が難しく真贋の確認が容易であるため、有効な偽造防止手段として広く使用されている。
しかし、近年では、一目では本物と区別できないような、精巧に似せたOVDが形成された転写層が貼り付けられた偽造品も発見されている。また、本物から剥がした転写層を偽造品に貼り付ける手口もある。そのため、新たな偽造防止対策が提案されている。
【0004】
OVDの偽造防止対策として、下記の特許文献1には、転写層に、可視光で視認できるホログラムパターンとともに、紫外線照射で視認できる隠しパターンからなる蛍光印刷層を設けることが記載されている。下記の特許文献2には、ホログラムパターンを二層構造で形成し、特定の再生用照明光を用いない限り正確な再生ができないようにすることが記載されている。
【0005】
本物から剥がした転写層の再貼り付け対策として、下記の特許文献3には、剥離するとホログラムが部分的に破壊される層を、転写層に設けることが記載されている。
また、下記の特許文献4には、転写層を貼り付けるのではなく、証書に直接、偽造防止機能を付加したバーコードを印刷することが記載されている。
さらに、下記の特許文献5には、有価証券用紙等に使用されるスレッド入り用紙について、入手困難な材料からなるスレッド(特殊な染料発色層を有するスレッド)を入れて紙を抄き、特定色の発色を確認することにより、用紙の真偽を判断することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−72188号公報
【特許文献2】特許第4154738号公報
【特許文献3】特開平7−271281号公報
【特許文献4】特開平6−297888号公報
【特許文献5】特開2008−2127708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の方法では、OVDが形成された転写層を有する転写シートと、これを貼り付ける物品のいずれかに、偽造防止のための工夫をしている。すなわち、転写シートとこれを貼り付ける物品とを関連付けずに真贋判定構造を設けているため、偽造防止効果にさらなる改善の余地がある。
この発明の課題は、転写シートとこれを貼り付ける物品を関連付けて、物品に転写シートを貼り付けた時点で真贋判定構造が発現し、剥がした転写層の再貼り付け時には同じ構造が発現されないようにすることで、転写シートを用いた偽造防止効果を高くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、この発明は、支持体と、支持体に支持された転写層と、を有し、前記転写層は、被転写物に対する貼り付け時に被転写物表面の凹凸に対応した破壊模様が形成される破壊模様形成層を有する転写シートを提供する。
この発明の転写シートは、被転写物に圧着や熱圧着等の方法で貼り付けられた時に、転写層の破壊模様形成層に被転写物表面の凹凸に対応した破壊模様が形成されるため、この破壊模様を確認することで、被転写物が本物か偽物かを判断できる。また、転写層を被転写物から剥がすと破壊模様形成層に形成された破壊模様が変化するため、剥がされた転写層を偽造された被転写物に貼り付けた場合に同じ破壊模様を発現させることはできない。したがって、この発明の転写シートによれば、物品(被転写物)に転写シートを貼り付けた時点で真贋判定構造が発現し、剥がした転写層の再貼り付け時には同じ構造が発現されないようにすることができる。
【0009】
この発明の転写シートにおいて、前記破壊模様形成層は、貼り付け時の条件(圧着や熱圧着等の条件)、被転写物の表面の状態に応じて、貼り付け時に所定の破壊模様が形成されるような、適切な材質及び厚さで形成される必要がある。
この発明の転写シートにおいて、前記転写層が反射層を有していると、前記破壊模様が観察し易くなる。
【0010】
この発明の転写シートにおいて、前記転写層が面内の一部にOVD(Optical Variable Device)を有していると、独特な視覚効果が発現される。
この発明の転写シートにおいて、前記転写層が、面内の一部に、前記破壊模様形成層に対する破壊模様の形成を阻害する破壊防止層を有していると、破壊防止層が形成されている部分に破壊模様が形成されない。そのため、OVDの形成部分に破壊防止層を形成することで、OVDの視認性が確保できる。また、破壊防止層をパターン状に形成することで、偽造防止効果を高めることもできる。
【0011】
この発明の転写シートを使用することで、凹凸状の表面を有する物品であって、この発明の転写シートの転写層が、前記破壊模様形成層に前記表面の凹凸に対応した破壊模様が形成された状態で固定されている物品が得られる。
この物品は、前記破壊模様を確認することで本物か偽物かを判断できるため、偽造防止機能を備えている。また、この物品によれば、固定されている転写層を剥がすと破壊模様形成層に形成された破壊模様が変化する。よって、この物品から剥がした転写層を偽造された被転写物に貼り付けても、同じ破壊模様を発現させることはできないため、この物品を利用した転写層の再貼り付けによる偽造を容易に見抜くことができる。
【0012】
この物品は、この発明の転写シートを、物品の凹凸状の表面に転写層を向けて圧着することで、前記破壊模様形成層に物品の表面の凹凸に対応した破壊模様を形成する工程を有する方法により、製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の転写シートによれば、物品に転写シートを貼り付けた時点で真贋判定構造が発現し、剥がした転写層の再貼り付け時には同じ構造が発現されないようにできるため、高い偽造防止効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態の転写シートを示す平面図(a)と、そのA−A断面図(b)である。
【図2】第1実施形態の転写シートを構成する転写層が紙に固定された状態を示す平面図である。
【図3】図2のA−A断面の一例を示す断面図である。
【図4】図2のA−A断面の一例を示す断面図である。
【図5】図2のA−A断面の一例を示す断面図である。
【図6】第2実施形態の転写シートを示す平面図(a)と、そのB−B断面図(b)である。
【図7】第2実施形態の転写シートを構成する転写層が紙に固定された状態を示す平面図である。
【図8】第3実施形態の転写シートを示す平面図(a)と、そのC−C断面図(b)である。
【図9】第3実施形態の転写シートを構成する転写層が紙に固定された状態を示す平面図である。
【図10】図9のC―C断面図である。
【図11】第3実施形態の転写層に紫外光を照射した状態を示す平面図である。
【図12】第4実施形態の転写シートを示す平面図(a)と、そのD−D断面図(b)である。
【図13】第4実施形態の転写シートを構成する転写層が紙に固定された状態を示す平面図である。
【図14】第4実施形態の転写層に紫外光を照射した状態を示す平面図である。
【図15】第5実施形態の転写シートを示す平面図(a)と、そのE−E断面図(b)である。
【図16】第5実施形態の転写シートを構成する転写層が紙に固定された状態を示す平面図である。
【図17】第5実施形態の転写層に紫外光を照射した状態を示す平面図である。
【図18】実施例1で作製した転写シートの断面図であり、図6(a)のB−B断面図に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
第1実施形態の転写シート10は、図1(a)に示すように星形の平面形状を有し、図1(b)に示すように、支持体1、剥離保護層2、反射層3、および接着層4で構成されている。すなわち、この転写シート10は、剥離保護層2、反射層3、および接着層4からなる転写層10Aが、支持体1に剥離可能に支持されたものである。
【0016】
この実施形態の転写シート10は、剥離保護層2または反射層3が、熱圧着の際に紙(被転写物、物品)100の表面の凹凸に対応した破壊模様が形成されるように構成されている。すなわち、剥離保護層2または反射層3が破壊模様形成層を兼ねている。
剥離保護層2を破壊模様形成層として機能させるためには、例えば、反射層3との弾性率の差が大きい材料で形成するか、熱および圧力で破壊部が生じ易い状態にする(例えば、通常の剥離保護層形成材料にシリカ粒子等からなるフィラーを均一に混入するか、シラノール基等の架橋結合を有する材料で構成することで、剥離保護層に予め力学的歪を生じさせておく)。
【0017】
剥離保護層2を破壊模様形成層として機能させない場合には、通常の転写シート用と同じ材料および方法で形成することができる。すなわち、剥離保護層2は、転写シートを物品に固定した後に支持体1を剥がすことで最表面に露出するため、機械的損傷や水等に対する耐性を有する材料で形成される。
このような性質を有する材料として、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の熱可塑性樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、エポキシ(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂等の紫外線硬化型樹脂または電子線硬化型樹脂が例示できる。
【0018】
反射層3を破壊模様形成層として機能させるためには、例えば、通常の反射層形成材料を用いて厚さを薄く(破壊され易い厚さに)形成するか、アルミニウムや亜鉛等の軟質金属単体で形成するか、通常の反射層形成材料にシリカ粒子等からなるフィラーを混入して成膜する。
反射層3を破壊模様形成層として機能させない場合には、通常の転写シート用と同じ材料および方法で形成できる。すなわち、反射層3は、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、金(Au)などを用いた真空蒸着法で形成することができる。
【0019】
支持体1は、通常の転写シート用と同じものが使用できる。すなわち、一般的には、耐熱性が高く厚さが安定しているポリエチレンテレフタレートフィルムを使用する。それ以外には、耐熱性の高い、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルム等が使用できる。
接着層4は、通常の転写シート用と同じ材料および方法で形成できる。すなわち、接着層4は、熱圧着で転写層を被転写物に固定するのに十分な接着力が発揮できるように、例えば、ホットメルト型接着剤をグラビアコーター等で所定の厚さに塗布した後に乾燥させることで形成できる。なお、接着層4にシリカ粒子等のフィラーを含有させたり、接着層4の厚さを被転写物の表面の凹凸の深さと同程度の厚さか、それより薄くしたりすることで、破壊模様を形成され易くすることが好ましい。
【0020】
この転写シート10は、接着層4側を紙(被転写物、物品)100に向けて熱圧着することで固定される。その際に、転写層10Aの破壊模様形成層に、紙100の表面の凹凸に対応した破壊模様が形成される。そして、固定後に支持体1を剥離し、剥離保護層2を露出した状態とする。これにより、図2に示すように、星形の反射性の転写層10Aが紙100に固定される。
【0021】
図3および図4は、剥離保護層2が破壊模様形成層である場合の図2のA−A断面図(ハッチングは省略)に相当する。
図3は、剥離保護層2を、反射層3との弾性率の差が大きい材料で形成した場合の熱圧着後の状態を示す。この場合には、接着層4と反射層3は紙100の表面の凹凸に追従するが、反射層3との弾性率の差が大きい剥離保護層2は追従しきれなくなって、剥離保護層2の反射層3との境界部に、破線で示すような破壊が生じる。
【0022】
図4は、剥離保護層2を、アクリル樹脂にシリカ粒子等からなるフィラー21が均一に混入された材料で形成した場合の熱圧着後の状態を示す。この場合には、剥離保護層2内のフィラー21の周りに、破線で示すような破壊が生じる。
図5は、反射層3が破壊模様形成層である場合の図2のA−A断面図に相当する。この場合には、接着層4は紙100の表面の凹凸に追従するが、反射層3は追従しきれなくなって、反射層3に破線で示すような破壊が生じる。
【0023】
紙100に固定された転写層10Aを顕微鏡で観察すると、紙100の表面の凹凸に対応した破壊模様が見えるため、この破壊模様を確認することで、この紙100が本物か偽物かを判断することができる。また、転写層10Aを紙100から剥がすと破壊模様形成層に形成された破壊模様が変化するため、剥がした転写層10Aを偽造された紙100に貼り付けた場合に同じ破壊模様を発現させることはできない。
【0024】
したがって、この実施形態の転写シート10によれば、紙100に転写シート10を貼り付けた時点で真贋判定構造が発現し、剥がした転写層10Aの再貼り付け時には同じ構造が発現されないようにできるため、高い偽造防止効果が得られる。
【0025】
[第2実施形態]
第2実施形態の転写シート20は、図6(a)に示すように楕円形の平面形状を有し、図6(b)に示すように、支持体1、剥離保護層2、破壊模様形成層5、OVD層6、反射層3、破壊防止層7、および接着層4で構成されている。すなわち、この転写シート20は、剥離保護層2、破壊模様形成層5、OVD層6、反射層3、破壊防止層7、および接着層4からなる転写層20Aが、支持体1に剥離可能に支持されたものである。
【0026】
この転写シート20は、破壊模様形成層5が、熱圧着の際に紙(被転写物、物品)100の表面の凹凸に対応した破壊模様が形成されるように構成されている。また、OVD層6に「TP security」というパターン61が形成されている。破壊防止層7は、このパターン61の部分にのみ形成されている。
破壊模様形成層5は、例えば、直径1μm以下のシリカ粒子からなるフィラーを、ウレタン架橋、エポキシ架橋、シラノール架橋等で弱く結合した材料で形成することができる。熱圧着の際に、これらの弱い結合が壊れることで、破壊模様形成層5に多数の破壊部が形成される。
【0027】
支持体1は、第1実施形態で例示した、通常の転写シート用と同じものが使用できる。
剥離保護層2、反射層3、接着層4は、第1実施形態で例示した、通常の転写シート用と同じ材料および方法で形成することができる。
OVD層6は、通常の転写シート用と同じ材料および方法で形成することができる。すなわち、OVDがレリーフ型ホログラムである場合は、OVD層6の材料として、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂、反応性水酸基を有するアクリルポリオールやポリエステルポリオール等にポリイソシアネートを架橋剤として添加することで架橋させて得られたウレタン樹脂、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂、エポキシ(メタ)アクリル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂等の紫外線硬化型樹脂または電子線硬化型樹脂が例示でき、これらのいずれかを単独で、または二種類以上を合わせて使用することができる。
【0028】
破壊防止層7は、強靭で可撓性を有し、硬い材料で形成することが好ましい。破壊防止層7の材料としては、架橋構造を有するウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が例示できる。
この転写シート20は、接着層4側を紙(被転写物、物品)100に向けて熱圧着することで固定される。その際に、転写層20Aの破壊模様形成層5には、破壊防止層7と重ならない部分に、紙100の表面の凹凸に対応した破壊模様が形成される。そして、固定後に支持体1を剥離し、剥離保護層2を露出した状態とする。これにより、図7に示すように、「TP security」というパターン61を有する楕円形の反射性の転写層20Aが、紙100に固定される。
【0029】
紙100に固定された転写層20Aを顕微鏡で観察すると、紙100の表面の凹凸に対応した破壊模様がパターン61以外の部分に見える。そのため、この破壊模様を確認することで、この紙100が本物か偽物かを判断することができ、パターン61の視認性も阻害されない。また、転写層20Aを紙100から剥がすと破壊模様形成層に形成された破壊模様が変化するため、剥がした転写層20Aを偽造された紙100に貼り付けた場合に同じ破壊模様を発現させることはできない。
【0030】
したがって、この実施形態の転写シート20によれば、紙100に転写シート20を貼り付けた時点で真贋判定構造が発現し、剥がした転写層20Aの再貼り付け時には同じ構造が発現されないようにできるため、高い偽造防止効果が得られる。
さらに、この実施形態では、破壊模様形成層5を単独で設けているため、第1実施形態のように剥離保護層2や反射層3が破壊模様形成層を兼ねる場合と比較して、層数は多くなるが、剥離保護層2や反射層3の本来の機能を低下させる心配がない。すなわち、剥離保護層2の耐薬品性が損なわれたり、反射層3の反射性能が低下したりすることが防止できる。
【0031】
[第3実施形態]
第3実施形態の転写シート30は、図8(a)に示すように楕円形の平面形状を有し、図8(b)に示すように、支持体1、剥離保護層2、破壊模様形成層5、および接着層4で構成されている。すなわち、この転写シート30は、剥離保護層2、破壊模様形成層5、および接着層4からなる転写層30Aが、支持体1に剥離可能に支持されたものである。
【0032】
この実施形態の転写シート30は、破壊模様形成層5が、熱圧着の際に紙(被転写物、物品)100の表面の凹凸に対応した破壊模様が形成されるように構成されている。破壊模様形成層5は、例えば、直径0.1μm以下のシリカ粒子からなるフィラーを、ウレタン架橋、エポキシ架橋、シラノール架橋等で弱く結合した材料で形成することができる。熱圧着の際に、これらの弱い結合が壊れることで、破壊模様形成層5に多数の破壊部が形成される。
【0033】
支持体1は、第1実施形態で例示した、通常の転写シート用と同じものが使用できる。剥離保護層2、反射層3、接着層4は、第1実施形態で例示した、通常の転写シート用と同じ材料および方法で形成することができる。
この転写シート30は、接着層4側を紙(被転写物、物品)100に向けて熱圧着することで固定される。その際に、転写層30Aの破壊模様形成層5に、紙100の表面の凹凸に対応した破壊模様が形成される。そして、固定後に支持体1を剥離し、剥離保護層2を露出した状態とする。これにより、図9に示すように、楕円形の透明な転写層30Aが紙100に固定される。
【0034】
図10は図9のC−C断面図(ハッチングは省略)に相当する。この図に示すように、熱圧着の際に、接着層4は紙100の表面の凹凸に追従するが、破壊模様形成層5は追従しきれなくなって、破壊模様形成層5に破線で示すような破壊が生じる。
紙100に固定された転写層30Aを顕微鏡で観察すると、紙100の表面の凹凸に対応した破壊模様が見えるため、この破壊模様を確認することで、この紙100が本物か偽物かを判断することができる。また、図11に示すように、紙100に固定された転写層30Aに紫外光を当てると、破壊模様形成層5に形成された破壊模様により紫外光の散乱が強く生じて、転写層30Aが白く発光していることも確認できる。
【0035】
さらに、転写層30Aを紙100から剥がすと破壊模様形成層5に形成された破壊模様が変化するため、剥がした転写層30Aを偽造された紙100に貼り付けた場合に同じ破壊模様を発現させることはできない。
したがって、この実施形態の転写シート30によれば、紙100に転写シート30を貼り付けた時点で真贋判定構造が発現し、剥がした転写層30Aの再貼り付け時には同じ構造が発現されないようにできるため、高い偽造防止効果が得られる。
【0036】
[第4実施形態]
第4実施形態の転写シート40は、図12(a)に示すように楕円形の平面形状を有し、図12(b)に示すように、支持体1、剥離保護層2、破壊模様形成層5、破壊防止層7、および接着層4で構成されている。すなわち、この転写シート40は、剥離保護層2、破壊模様形成層5、破壊防止層7、および接着層4からなる転写層40Aが、支持体1に剥離可能に支持されたものである。
【0037】
この転写シート40は、破壊模様形成層5が、第3実施形態と同様に、熱圧着の際に紙(被転写物、物品)100の表面の凹凸に対応した破壊模様が形成されるように構成されている。また、破壊防止層7が「TP security」というパターン71で形成されている。
支持体1は、第1実施形態で例示した、通常の転写シート用と同じものが使用できる。剥離保護層2、反射層3、接着層4は、第1実施形態で例示した、通常の転写シート用と同じ材料および方法で形成することができる。破壊防止層7は、第2実施形態で例示した材料で形成することができる。
【0038】
この転写シート40は、接着層4側を紙(被転写物、物品)100に向けて熱圧着することで固定される。その際に、転写層40Aの破壊模様形成層5には、破壊防止層7と重ならない部分に、紙100の表面の凹凸に対応した破壊模様が形成される。そして、固定後に支持体1を剥離し、剥離保護層2を露出した状態とする。これにより、図13に示すように、破壊防止層7からなる「TP security」というパターン71を有する楕円形の透明な転写層40Aが、紙100に固定される。
【0039】
紙100に固定された転写層40Aを顕微鏡で観察すると、紙100の表面の凹凸に対応した破壊模様が、破壊防止層7からなるパターン71以外の部分に見える。そのため、この破壊模様を確認することで、この紙100が本物か偽物かを判断することができる。また、図14に示すように、紙100に固定された転写層40Aに紫外光を当てると、破壊模様形成層5に形成された破壊模様により紫外線の散乱が強く生じて、転写層40Aが白く発光していることが確認でき、破壊防止層7からなる「TP security」というパターン71が視認できるようになる。
【0040】
さらに、転写層40Aを紙100から剥がすと破壊模様形成層5に形成された破壊模様が変化するため、剥がした転写層40Aを偽造された紙100に貼り付けた場合に同じ破壊模様を発現させることはできない。
したがって、この実施形態の転写シート40によれば、紙100に転写シート40を貼り付けた時点で真贋判定構造が発現し、剥がした転写層40Aの再貼り付け時には同じ構造が発現されないようにできるため、高い偽造防止効果が得られる。
【0041】
[第5実施形態]
第5実施形態の転写シート50は、図15(a)に示すように楕円形の平面形状を有し、図15(b)に示すように、支持体1、剥離保護層2、破壊模様形成層5、OVD層6、反射層3、破壊防止層71,72、および接着層4で構成されている。すなわち、この転写シート50は、剥離保護層2、破壊模様形成層5、OVD層6、反射層3、破壊防止層71,72、および接着層4からなる転写層50Aが、支持体1に剥離可能に支持されたものである。
【0042】
この転写シート50は、破壊模様形成層5が、第3実施形態と同様に、熱圧着の際に紙(被転写物、物品)100の表面の凹凸に対応した破壊模様が形成されるように構成されている。また、OVD層6が星形に形成され、これに重なるように反射層3が星形のパターン31で形成されている。さらに、破壊防止層は、「TP security」というパターン71と、星形のパターン72で形成されている。破壊防止層の星形のパターン72は、反射層3の星形のパターン31と重なる位置に形成されている。
【0043】
支持体1は、第1実施形態で例示した、通常の転写シート用と同じものが使用できる。剥離保護層2、反射層3、接着層4は、第1実施形態で例示した、通常の転写シート用と同じ材料および方法で形成することができる。破壊防止層71,72は、第2実施形態で例示した破壊防止層7の材料で形成することができる。OVD層6は、第2実施形態で例示した材料を用い、通常の転写シート用と同じ方法で形成することができる。
【0044】
この転写シート50は、接着層4側を紙(被転写物、物品)100に向けて熱圧着することで固定される。その際に、転写層50Aの破壊模様形成層5には、破壊防止層71,72と重ならない部分に、紙100の表面の凹凸に対応した破壊模様が形成される。そして、固定後に支持体1を剥離し、剥離保護層2を露出した状態とする。これにより、図16に示すように、「TP security」というパターン71と、星形の反射パターン31を有する、楕円形の透明な転写層50Aが、紙100に固定される。
【0045】
紙100に固定された転写層50Aを顕微鏡で観察すると、紙100の表面の凹凸に対応した破壊模様が、破壊防止層からなるパターン71と、星形の反射パターン31以外の部分に見える。そのため、この破壊模様を確認することで、この紙100が本物か偽物かを判断することができる。
また、図17に示すように、紙100に固定された転写層50Aに紫外光を当てると、破壊模様形成層5に形成された破壊模様により紫外線の散乱が強く生じて、転写層50Aが白く発光していることが確認でき、破壊防止層からなる「TP security」というパターン71が視認できるようになる。
【0046】
さらに、転写層50Aを紙100から剥がすと破壊模様形成層5に形成された破壊模様が変化するため、剥がした転写層50Aを偽造された紙100に貼り付けた場合に同じ破壊模様を発現させることはできない。
したがって、この実施形態の転写シート50によれば、紙100に転写シート50を貼り付けた時点で真贋判定構造が発現し、剥がした転写層50Aの再貼り付け時には同じ構造が発現されないようにできるため、高い偽造防止効果が得られる。
【実施例】
【0047】
[実施例1]
図6(a)に示す平面形状を有し、そのB−B断面図に相当する図18の層構成を有する転写シート20を、以下の方法で作製した。すなわち、この転写シート20は、剥離保護層2、OVD層6、反射層3、破壊防止層7、および接着層4からなる転写層20Aが、支持体1に剥離可能に支持されたものである。
【0048】
先ず、厚さ25μmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体)1の片面の全体に、下記の液状組成物Aを塗布して乾燥することにより、剥離保護層2を形成した。塗布はグラビアコーターで行い、塗布厚は1μm、乾燥温度は110℃とした。
【0049】
<液状組成物A>
アクリル樹脂 :30質量部
シリカフィラー(平均粒径1μm):2質量部
トルエン :40質量部
メチルエチルケトン:40質量部
イソブチルケトン :20質量部
次に、剥離保護層2の上面の全体に、下記の液状組成物Bを塗布して乾燥することにより、OVD層6を形成した。塗布はグラビアコーターで行い、塗布厚は1μm、乾燥温度は110℃とした。
【0050】
<液状組成物B>
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体とウレタン樹脂との混合物:25質量部
メチルエチルケトン:70質量部
トルエン :30質量部
【0051】
次に、OVD層6の上面の全体に、真空蒸着法により厚さ50nmのアルミニウム薄膜(反射層)3を形成した。
次に、ロールエンボス加工を施すことで、OVD層6の上面に「TP security」というレリーフパターン61を形成した。
次に、下記の液状組成物Cをグラビア印刷法で、反射層3の上面のレリーフパターン61が形成されている位置に塗布して乾燥することにより、「TP security」というパターンで破壊防止層7を形成した。
【0052】
<液状組成物C>
ポリアミドイミド樹脂とウレタン樹脂とエポキシ樹脂の混合物:25質量部
メチルエチルケトン:70質量部
トルエン :30質量部
【0053】
次に、破壊防止層7の上面の全体と破壊防止層7が形成されている反射層3の上面の全体に、下記の液状組成物Dを塗布して乾燥することにより、接着層4を形成した。塗布はグラビアコーターで行い、塗布厚は4μm、乾燥温度は110℃とした。
【0054】
<液状組成物D>
アクリル樹脂 :20質量部
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体からなる樹脂:5質量部
シリカフィラー(平均粒径5μm):30質量部
メチルエチルケトン:50質量部
トルエン :50質量部
【0055】
この転写シート20を、接着層4側を紙100に向けてホットスタンプ機にセットし、温度140℃、圧力0.5ton/cm2の条件で紙100に熱圧着した後、支持体1を剥離し、剥離保護層2を露出させた。これにより、図7に示すように、「TP security」というレリーフパターン61を有する楕円形の反射性の転写層20Aが、紙100に固定された。
【0056】
この紙100に固定された転写層20Aを顕微鏡で観察すると、紙100の表面の繊維の凹凸に対応した破壊模様が、レリーフパターン61以外の部分に見えた。破壊模様は直径100μm以下の破壊部で構成されていた。レリーフパターン61は肉眼で視認できた。また、固定された転写層20Aを剥がして、同じ紙に熱圧着した場合と異なる紙に熱圧着した場合に、その転写層20Aを顕微鏡で観察すると、いずれの場合も異なる破壊模様が観察された。
【0057】
このように、転写層20Aが固定された紙100は、転写層20Aの破壊模様を確認することで、この紙100が本物か偽物かを判断することができ、転写層20Aのレリーフパターン61による独特な視覚効果も阻害されなかった。また、一度剥がした転写層20Aの再貼り付けによる偽造が容易に見抜けることも分かった。したがって、この実施例の転写シートを用いることで、高い偽造防止効果が得られる。
【0058】
[実施例2]
図15(a)に示す平面形状を有し、そのE−E断面図に相当する図15(b)の層構成を有する転写シート50を、以下の方法で作製した。すなわち、この転写シート50は、剥離保護層2、破壊模様形成層5、OVD層6、反射層3、破壊防止層71,72、および接着層4からなる転写層50Aが、支持体1に剥離可能に支持されたものである。
【0059】
先ず、厚さ25μmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルム(支持体)1の片面の全体に、下記の液状組成物Fを塗布して乾燥することにより、剥離保護層2を形成した。塗布はグラビアコーターで行い、塗布厚は1μm、乾燥温度は110℃とした。
【0060】
<液状組成物F>
アクリル樹脂 :45質量部
シリカフィラー(平均粒径0.5μm):1質量部
トルエン :40質量部
メチルエチルケトン:50質量部
イソブチルケトン :20質量部
【0061】
次に、剥離保護層2の上面の全体に、下記の液状組成物Eを塗布して乾燥することにより、破壊模様形成層5を形成した。塗布はグラビアコーターで行い、塗布厚は0.5μm、乾燥温度は80℃とした。
【0062】
<液状組成物E>
ウレタン樹脂 :3質量部
シリカフィラー(平均粒径0.05μm):20質量部
イソプロピルアルコール:40質量部
【0063】
次に、破壊模様形成層5の上面の一部に、下記の液状組成物Bを塗布して乾燥することにより、OVD層6を形成した。塗布はグラビアコーターで行い、塗布厚は1μm、乾燥温度は110℃とした。
【0064】
<液状組成物B>
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体とウレタン樹脂との混合物:25質量部
メチルエチルケトン:70質量部
トルエン :30質量部
【0065】
次に、OVD層6の上面に、真空蒸着法により厚さ30nmのアルミニウム薄膜(反射層)3を星形に形成した。
次に、ロールエンボス加工を施すことで、OVD層6の上面に星形のレリーフパターンを形成した。
次に、下記の液状組成物Cをグラビア印刷法で、破壊模様形成層5の上面に「TP security」というパターン71で、星形の反射層3の上面の全体には星形のパターン72で破壊防止層を形成した。
【0066】
<液状組成物C>
ポリアミドイミド樹脂とウレタン樹脂とエポキシ樹脂の混合物:25質量部
メチルエチルケトン:70質量部
トルエン :30質量部
【0067】
次に、破壊防止層71,72の上面の全体と破壊模様形成層5の上面の全体に、下記の液状組成物Dを塗布して乾燥することにより、接着層4を形成した。塗布はグラビアコーターで行い、塗布厚は4μm、乾燥温度は110℃とした。
【0068】
<液状組成物D>
アクリル樹脂 :20質量部
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体からなる樹脂:5質量部
シリカフィラー(平均粒径5μm):30質量部
メチルエチルケトン:50質量部
トルエン :50質量部
【0069】
この転写シート50を、接着層4側を紙100に向けてホットスタンプ機にセットし、温度140℃、圧力0.5ton/cm2の条件で紙100に熱圧着した後、支持体1を剥離し、剥離保護層2を露出させた。これにより、図16に示すように、「TP security」というパターン71と、星形の反射パターン31を有する楕円形の透明な転写層50Aが、紙100に固定された。
【0070】
この紙100に固定された転写層50Aを顕微鏡で観察すると、紙100の表面の繊維の凹凸に対応した破壊模様が、パターン71および反射パターン31以外の部分に見えた。破壊模様は直径0.1μm以下の破壊部で構成され、肉眼では視認できなかった。反射パターン31は肉眼で視認できた。また、固定された転写層50Aを剥がして、同じ紙に熱圧着した場合と異なる紙に熱圧着した場合に、その転写層50Aを顕微鏡で観察すると、いずれの場合も異なる破壊模様が観察された。
【0071】
また、図17に示すように、紙100に固定された転写層50Aに波長が0.35μmの紫外光を当てると、破壊模様形成層5に形成された破壊模様により紫外線の散乱が強く生じて、転写層50Aが白く発光していることが目視により確認でき、破壊防止層7からなる「TP security」というパターン71も視認できた。
このように、転写層50Aが固定された紙100は、転写層50Aの破壊模様を確認することで、この紙100が本物か偽物かを判断することができ、転写層50Aのレリーフパターン31による独特な視覚効果も阻害されなかったし、パターン71の視認性も阻害されなかった。また、一度剥がした転写層50Aの再貼り付けによる偽造が容易に見抜けることも分かった。したがって、この実施例の転写シートを用いることで、高い偽造防止効果が得られる。
【0072】
また、この実施例の破壊模様形成層5は、紫外光の照射によって発光する蛍光体や燐光体、蓄光体からなる材料を含まないため、これらの材料を含む層を真贋判定に寄与する層として有する転写シートと比較して、材料コストが低く、経時的な発光強度の低下を防止できるという利点もある。
【符号の説明】
【0073】
1 支持体
2 剥離保護層
3 反射層
4 接着層
5 破壊模様形成層
6 OVD層
7 破壊防止層
71,72 破壊防止層
10 転写シート
10A 転写層
20 転写シート
20A 転写層
30 転写シート
30A 転写層
40 転写シート
40A 転写層
50 転写シート
50A 転写層
100 紙(被転写物、物品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、支持体に支持された転写層と、を有し、前記転写層は、被転写物に対する貼り付け時に被転写物表面の凹凸に対応した破壊模様が形成される破壊模様形成層を有する転写シート。
【請求項2】
前記転写層が反射層を有する請求項1記載の転写シート。
【請求項3】
前記転写層は、面内の一部にOVD(Optical Variable Device)を有する請求項1記載の転写シート。
【請求項4】
前記転写層は、面内の一部に、前記破壊模様形成層に対する破壊模様の形成を阻害する破壊防止層を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の転写シート。
【請求項5】
凹凸状の表面を有する物品であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載された転写シートの転写層が、前記破壊模様形成層に前記表面の凹凸に対応した破壊模様が形成された状態で固定されている物品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された転写シートを、物品の凹凸状の表面に転写層を向けて圧着することで、前記破壊模様形成層に物品の表面の凹凸に対応した破壊模様を形成する工程を有する、偽造防止機能を備えた物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−280095(P2010−280095A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133906(P2009−133906)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】