説明

転写因子を利用した骨・軟骨再生用インプラント

本発明は、転写因子の遺伝子を組み込んだウイルスベクターを生体内で徐放させ、転写因子活性を持続的に発現させることにより、良好な骨・軟骨再生を可能にするインプラントに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、転写因子を利用したインプラントに関する。より詳しくは、転写因子の遺伝子を組み込んだウイルスベクターを生体内で徐放させ、転写因子活性を持続的に発現させることにより、良好な骨・軟骨再生を可能にするインプラントに関する。
【背景技術】
骨は再生能力の限られた組織であり、その修復には自家骨の再移植や人工インプラントによる置換・補充が必要となる。しかし、自家骨の使用は患者の負担が大きく、その採取量にも限界がある。また、人工インプラントには、生体骨に匹敵するだけの強度や機械的特性、生体適合性が期待できないという問題がある。
これに対し、生体から取り出した自己の細胞をin vitroで培養・組織化して限りなく生体に近い組織を再構築し、これを再び生体内に戻すという再生医療の研究が進められている。この研究が実現すれば、それは損傷組織に対する最も理想的な治療方法となる。
再生医療においては、生体外で細胞をより早く目的の組織に増殖・分化させること、また移植組織を速やかに欠損部に融合・組織化させることが、重要な問題となる。これを解決する方法として、細胞の分化誘導をつかさどるサイトカイン(液性因子)を直接細胞に導入するいくつかの技術が知られている。たとえば、TGF−β1を含浸させたコラーゲンスポンジ上で骨髄細胞等を培養する技術(特開2001−316285号)、bFGFを含有するコラーゲン−軟骨細胞複合体による軟骨組織再生治療材(特開平8−3199号)等が公知である。しかし、増殖因子そのものを細胞に添加する方法では、添加した増殖因子が速やかに拡散してしまうため、増殖因子活性の十分な持続が望めないという問題がある。一方、リポフェクション法により増殖因子の遺伝子を細胞に導入する方法も試みられているが、この方法は樹立細胞株ではある程度の成功をおさめても、初代培養細胞に対しては殆ど0に近い導入効率しか得られていない。
最近、骨芽細胞の分化には転写因子、特にrunt型及びHelix−Loop−Helix(HLH)型の転写因子が重要な意味を持つことが、多くの研究者により明らかにされてきた。例えばrunt型転写因子としては、Pebp2alphaA(Pebp2αA)/Cbfa1、HLH型転写因子としては、Scleraxis、Id−1、I−mfa等が骨芽細胞分化に重要な意味を持つことが報告されている(Komori,T.et al.,(1997)Cell 89,p755−764;Acampora,D.et al.,(1999)Development 126,p3795−3809;Tribioli,C.et al.,(1999)Development 126,p5699−5711;Satokata,I.et al.,(2000)Nature Genet.24,p391−395;Cserjesi,P.et al.,(1995)Development 121,p1099−1110;Ng,L.J.et al.,(1997)Dev.Biol.183,p108−121)。
そして、発明者らは、この転写因子(Cbfa1)遺伝子を導入した骨芽細胞をβ−TCP等の生分解性材料を足場として培養、組織化し(H.Kojima,T.Uemura,(2002)Molecular Biology of the Cell, Vol.13 supplement,p543a;Toshimasa Uemura,Hiroko Kojima,(2002)Tissue Engineering,Vol.8,No.6,p1129)、生体に移植することで、良好な骨・軟骨組織再生が可能になることを報告している(国際公開第03/011343号)。この方法は、効率の良い骨・軟骨再生を可能にするという点においては非常に優れた技術である。しかし、患者体内からの細胞の単離、生体外での組織構築、生体内への再移植という工程は、現実の臨床適用においては決して容易ではない。
【発明の開示】
本発明は、整形外科領域及び歯科領域における、より簡便かつ安全な骨・軟骨再生の手段を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、β−TCPやハイドロキシアパタイト等の生体適合性材料を用いて生体内で転写因子の遺伝子導入用ウイルスベクターを徐放させる方法を見出した。そして、この方法によれば、低濃度のウイルスベクターでも転写因子の遺伝子を導入した細胞を移植する方法と同等の骨・軟骨再生が可能になることを実証し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子を導入したアデノウイルスベクター又はレトロウイルスベクターを含む生体適合性材料からなる骨・軟骨再生用インプラントに関する。
本発明のインプラントにおいて、骨・軟骨誘導性転写因子としては、例えば、Cbfa1、Dlx−5、Bapx1、Msx2、Scleraxis及びSox−9から選ばれる1種又は2種以上を利用することができる。なかでも、Cbfa1が好ましい。
また、本発明のインプラントにおいて、生体適合性材料としては、例えば、ハイドロキシアパタイト、α−TCP、β−TCP、コラーゲン、ポリ乳酸、ヒアルロン酸、及びポリグリコール酸、ならびにこれらの2種以上で構成される複合体から選ばれるいずれかを利用することができる。なかでも、β−TCPが好ましい。
本発明によれば、生体内で骨・軟骨再生を促す転写因子活性が長期的に発現され、損傷を受けた骨・軟骨の良好な再生が可能になる。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子を組み込んだウイルスベクターを含む生体適合性材料からなるインプラントに関する。該インプラントは、歯槽骨再生や大腿骨再生など、歯科領域及び整形外科領域における骨・軟骨再生に用いられる。
1.転写因子
本発明に用いられる転写因子は、未分化の細胞を骨及び/又は軟骨に分化誘導する、骨・軟骨誘導性の転写因子であり、例えばCbfa1、Dlx−5、Bapx1、Msx2、Scleraxis、Sox−9が挙げられる。Cbfa1は1993年京都大学の小川らによってクローニングされ、大阪大学の小守らにより間葉系幹細胞から骨芽細胞に分化誘導するのに必要不可欠であることが確認された転写因子である(Komori,T.et al.,(1997)Cell 89,755−764)。このCbfa1には2つのアイソフォーム、til−1とpebp2αAが存在する。Dlx−5は、Drosophila distalless(Dll)遺伝子の相同遺伝子で、軟骨骨膜や内膜の骨化に関わる転写因子である(Acampora,D.et al.,(1999)Development 126,3795−3809)。Bapx1は、Drosophila bagpipe homeobox遺伝子の相同遺伝子で、特に脊髄における間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化に関わっており、Cbfa1遺伝子の調節遺伝子の1つと考えられている(Tribioli,C.et al.,(1999)Development 126,5699−5711)。Msx2は、Drosophila muscle segment homeobox(Msh)遺伝子の相同遺伝子で頭蓋骨の骨化に関わっており、Cbfa1遺伝子の調節遺伝子の1つと考えられている(Satokata,I.et al.,(2000)Nature Genet.24,391−395)。Scleraxisは、間葉系幹細胞から軟骨細胞や結合組織への分化誘導に関わる転写因子である(Cserjesi,P.et al.,(1995)Development 121,1099−1110)。Sox−9は、軟骨で発現しており、type II Collagen等の軟骨分化に関わる遺伝子の発現調節をしている(Ng,L.J.et al.,(1997)Dev.Biol.183,108−121)。
本発明で用いられる転写因子の由来は特に限定されないが、移植の対象となる哺乳動物に由来する転写因子を用いることが好ましい。したがって、ヒトを対象とした骨・軟骨再生においては、ヒト由来の転写因子を用いることが好ましく、マウスを対象とした骨・軟骨再生においては、マウス由来の転写因子を用いることが好ましい。
本明細書中において、前記Cbfa1、Dlx−5、Bapx1、Msx2、Scleraxis、Sox−9等の骨・軟骨誘導性転写因子には、そのすべてのオーソログを含むものとする。ここで「オーソログ(Ortholog)」とはオーソロガス遺伝子(orthologous gene)のことであり、進化的に同じ起源をもち構造と機能が類似した異なる種の遺伝子を意味する。これらの遺伝子の塩基配列は既に公知であり、GenBank等の公共データベースよりその情報を入手することができる。例えば、マウス骨芽細胞由来Cbfa1遺伝子の塩基配列は、Accession No.AF010284、AF005936等としてGenBankに登録されている。また、ヒトCbfa1の塩基配列は、Accession No.AH005498、NM004348、L40992等として、GenBankに登録されている。その他、ヒトDlx−5はAccession No.AK023493として、ヒトBapx1はAccession No.NM_001189として、ヒトMsx2はAccession No.D31771として、ヒトScleraxisはAccession No.BK000280として、ヒトSox−9はAccession No.Z46629として、それぞれGenBankに登録されている。
本発明で用いられる骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子は、上記配列情報を利用して常法により調製することができる。すなわち、骨芽細胞から全RNA又はmRNAを抽出し、公知の配列を基に作製したプライマーを用いて、PCR法により目的とする転写因子のcDNAを増幅する。
2.ウイルスベクターの作製
前記アデノウイルス又はレトロウイルスベクターは、周知の方法に基づいて調製することができる。例えばアデノウイルスベクターは、Miyakeらの方法(Miyake,S.et al,Proc.Natl.Acad.Sci.93:1320−1324,(1993))に基づいて調製することができる。ベクターはまた、市販のキット、例えばAdenovirus Cre/loxP Kit(宝酒造社製)等を用いて作製してもよい。このキットは、P1ファージのCreリコンビナーゼとその認識配列であるloxPを用いた発現制御系(Kanegae Y. et. al.,1995 Nucl.Acids Res.23,3816)による組換えアデノウイルスベクター作製用キットで、目的の転写因子遺伝子を組み込んだ組換えアデノウイルスベクターを簡便に作製することができる。なお、アデノウイルス感染のmoi(multiplicity of infection)は、10以上、好ましくは50〜200、より好ましくは100前後(80〜120程度)である。
3.生体適合性材料
本発明で用いられる生体適合性材料とは、生体内に適用可能な材料であれば特に限定されず、例えば、ハイドロキシアパタイト、α−TCP、β−TCP、コラーゲン、ポリ乳酸、ヒアルロン酸、及びポリグリコール酸等を挙げることができる。これらの材料は1種類であってもよいし、あるいは2種以上を組み合わせた複合体であってもよい。
前記生体適合性材料は、ウイルスベクターの吸着が可能なように、有効吸着表面積が大きい多孔性(または微粒子の集合体)であることが望ましい。なお、本明細書中において「多孔(性)」とは、気孔率が少なくとも30%以上であることを意味するものとする。本発明の生体適合性材料において気孔の大きさは特に限定されないが、直径50μm〜500μm程度であることが好ましい。一方、骨のような硬組織用インプラントでは、初期強度も重要となる。セラミックス多孔体ではハイドロキシアパタイトやβ−TCPは強度が高く、本発明の生体適合性材料として好ましい。さらに、生体適合性材料は骨再生後に生体内で分解吸収されることがより好ましい。
β−TCPはある程度の強度を有する生分解性セラミックス多孔体という点で、本発明にかかる生体適合性材料として特に好ましい。多孔性β−TCPの圧縮強度は3Mパスカル程度で、生体骨(海綿骨で7Mパスカル程度)よりは弱いものの、臨床使用には十分な強度といえる。さらに、β−TCPは生体内で徐々に分解してカルシウムイオンとリン酸イオンを放出し、骨芽細胞によるハイドロキシアパタイト合成が容易な環境を実現する。すなわち、β−TCPから放出されたカルシウムイオンとリン酸イオンを利用して、周囲の骨芽細胞によるハイドロキシアパタイト合成が可能になる。合成されたハイドロキシアパタイトは骨の構成成分として、やがて硬い骨へと置換していく。実際、本発明のように転写因子の遺伝子を導入したウイルスベクターを吸着させ、周囲が骨をつくるのに適した環境であれば、β−TCPの分解部位にハイドロキシアパタイトを主成分とした新生骨が容易に構成される。つまり、β−TCPはウィルスデリバリーの担体や骨形成の足場としてだけでなく、それ自体が骨新生を積極的に促進させる機能を有する。
4.生体適合性材料へのベクターの組み込み
生体適合性材料へのベクターの組み込み方法は特に限定されないが、できる限り均一に組み込まれることが好ましい。ベクターは前記生体適合性材料に化学的に結合されていてもよいし、単に物理的に吸着されているだけでもよい。例えば、β−TCPの場合であれば、ベクターを含む溶液(培地)に浸漬させることにより、β−TCP中にベクターを均一に吸着させることができる。必要であれば、ベクターを含む溶液が生体適合性材料内に十分いきわたるよう、適宜減圧してもよい。例えば、1×10〜10pfu/mlの濃度のウイルスベクター液を血清の含有されていない適当な溶媒(例えば、生理食塩水等)又は培地で希釈し、そこに生体適合性材料からなるブロックを浸漬する。100〜150mmHgに減圧してブロック内を脱気し、ブロック内にウイルスベクター液を十分浸透させる。
ベクターを吸着させた生体適合性材料は、好ましくは数時間以内に生体内に移植する。本発明の生体適合性材料は、生体内に埋入あるいは注入されると、骨再生に必要とされる期間にわたり、徐々に転写因子の遺伝子を導入したウイルスベクターを放出する。かくして、良好な骨再生が可能となる。
5.その他
本発明のインプラントの形態及び形状は、特に限定されず、スポンジ、メッシュ、不繊布状成形物、ディスク状、フィルム状、棒状、粒子状、及びペースト状等、任意の形態及び形状を用いることができる。また、本発明のインプラントは他の材料と混合して用いても良い。例えば、ウイルスを吸着させたβ−TCPの顆粒をハイドロキシアパタイトの顆粒と混合して骨補填剤として使用することができる。こうした形態や形状は、インプラントの目的に応じて適宜選択すればよい。
本発明のインプラントは、その目的と効果を損なわない範囲において、骨・軟骨組織及び足場材料のほか、適宜他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血小板分化増殖因子(PDGF)、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、グリア誘導神経栄養因子(GDNF)、神経栄養因子(NF)、ホルモン、サイトカイン、骨形成因子(BMP)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等の増殖因子、骨形成タンパク質、St、Mg、Ca及びCO等の無機塩、クエン酸及びリン脂質等の有機物、薬剤等を挙げることができる。
本発明のインプラントは、骨親和性が高く、生体適用後すみやかに生体骨と一体化し、骨欠損部の再生を可能にする。
【図面の簡単な説明】
図1は、ラット背上皮皮下移植実験の方法を示した模式図である。
図2は、ラット背上皮皮下移植実験におけるヘマトキシリン/エオジン染色像(移植後3週目、背上皮皮下)を示す写真である。
図3は、ラット大腿骨欠損部位移植実験の方法を示す模式図である。
図4は、ラット大腿骨欠損部位移植実験におけるヘマトキシリン−エオジン染色像(移植後2週目、β−TCPブロック)を示す写真である。
図5は、ラット大腿骨欠損部位移植実験におけるヘマトキシリン−エオジン染色像(移植後6週目、β−TCPブロック)を示す写真である。
図6は、ラット大腿骨欠損部位移植実験におけるヘマトキシリン−エオジン染色像(移植後3週目、HAブロック)を示す写真である。
図7は、ラット大腿骨欠損部位移植後のβ−TCPブロックとHAブロックのヘマトキシリン−エオジン染色像(移植後3週目)を示す写真である。
図8は、ラット大腿骨欠損部位移植後のウィルス吸着ブロックとウィルス感染細胞吸着ブロックのヘマトキシリン−エオジン染色像(移植後8週目、β−TCPブロック)を示す写真である。
図9は、ラット背上皮皮下移植実験におけるヘマトキシリン−エオジン染色像(移植後20日および8週目、OPLAコンポジット)を示す写真である。
図10は、ラット背上皮皮下移植実験におけるオステオカルシン免疫染色像(移植後20日目、OPLAコンポジット)を示す写真である。
図11は、ラット大腿骨欠損部位移植実験におけるヘマトキシリン−エオジン染色像(移植後10日および20日目、OPLAコンポジット)を示す写真である。
図12は、ラット大腿骨欠損部位移植実験におけるヘマトキシリン−エオジン染色像(移植後3週目、OPLAコンポジット)を示す写真である。
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2003−355505号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
実施例1:生体適合性材料を担体としたウイルスベクターの徐放研究(1)β−TCPブロックおよびHAブロック
1.アデノウイルスベクターの作製
マウスの骨芽細胞から単離したTotal RNAからAMV reverse transcriptaseを用いてcDNAを合成し、これを鋳型としてCbfa1のcDNA(GenBank Accession No.AF010284:配列番号1)に特異的なプライマーを用いてPCRによりcbfa1 cDNAを増幅して得た。

Cbfa1 cDNAはTA cloning vector(Invitrogen,pCR II−TOPO)にクローニングして大量調製した。Cbfa1 cDNAを制限酵素のSpeIとEcoRVで切り出し、平滑末端化した後、Adenovirus Cre/loxP kit(宝酒造,6151)を用いてコスミドベクターpAxCALNLwのSwaIサイトに挿入し、Kitの説明書に従って組換えアデノウイルスを作製した。作製したウイルスの力価は、約1011PFU/mlの値を示し、感染効率は非常に高いことが確認された。
2.骨芽細胞の採取及び培養方法
Rat Bone Marrow Osteobrast(RBMO)は、6週齢のFisherラット(雄)の大腿骨よりManiatopoulosらの方法(Maniatopoulos,C.,Sodek,J.,and Melcher,A.H.(1988)Cell Tissue Res.254,317−330)に従って採取した。細胞は、15% FBS(Sigma,F−9423)、Antibiotic−Antimycotic(GIBCO BRL,15240−062)添加MEM培地(nacalai tesque,214−42)で約1週間培養した。その後2日間 10nM Dexamethasone、10mM β−glycerophosphate、5μg/ml vitamin C phosphateを添加した上記の培地で培養した。
3.ラット生体内移植実験
3.1 ラット背上皮皮下移植実験
Cbfa1とCreリコンビナーゼ遺伝子の組換えアデノウイルス混合液(1×10pfu/ml)にβ−TCPブロック(Olympus,2mm×2mm×2mm)を3時間浸漬した。RBMOをトリプシン処理して剥がした後、細胞濃度を100万個/mlに調整して減圧下(100mHg)でブロックに吸着した。ラットの背上皮皮下にウイルス吸着ブロックあるいは未処理のブロックを移植した。3週間後に摘出したブロックをヘマトキシリン/エオジン染色して観察した。図1にラット背上皮皮下移植実験の概要を示す。
3.2 ラット大腿骨欠損部位移植実験
1)Cbfa1とCreリコンビナーゼ遺伝子の組換えアデノウイルス混合液(1×10pfu/ml)にβ−TCPブロック(Olympus,2mm×2mm×2mm)、あるいはハイドロキシアパタイト(HA)ブロック(インターポア、2mm×2mm×2mm)を3時間浸漬した。ラットの大腿骨にドリルで2.5mm立方の穴を開けて欠損部位を作製し、そこにブロックを移植した。数週間後に摘出したウイルス吸着ブロックあるいは未処理のブロックをヘマトキシリン/エオジン染色して観察した。
2)Cbfa1とCreリコンビナーゼ遺伝子の組換えアデノウイルス混合液(1×10pfu/ml)にβ−TCPブロック(Olympus,2mm×2mm×2mm)、あるいはハイドロキシアパタイト(HA)ブロック(インターポア、2mm×2mm×2mm)を3時間浸漬した。RBMOをトリプシン処理して剥がした後、細胞濃度を100万個/mlに調整して減圧下(100mHg)でブロックに吸着した。ラットの大腿骨にドリルで2.5mm立方の穴を開けて欠損部位を作製し、そこにウイルス吸着ブロックあるいは未処理のブロックを移植した。数週間後に摘出したブロックをヘマトキシリン/エオジン染色して観察した。図3にラット大腿骨欠損部位移植実験の概要を示す。
4.組織切片作製、染色法
摘出したブロックを4% paraformaldehyde,0.05% glutaraldehydeでマイクロウェーブ固定し、翌日10% EDTA,100mM Tris(pH7.4)中で約1週間脱灰した。脱灰後、エタノールで脱水し、パラフィンに包埋した。5μmの厚さの切片を作製し、脱パラフィン後、ヘマトキシリン続いてエオジンで染色した。
結果:
1.ラット背上皮皮下移植実験結果
図2に、背上皮皮下移植3週間後のヘマトキシリン/エオジン染色結果を示す。ウィルス吸着ブロックの方はブロックの中心部分で(図2右上、右下)骨が再生されている様子が観察できた。一方未処理のブロックの方では骨芽細胞様細胞は観察されるが骨化は進行していなかった(図2左下)。
2.ラット大腿骨欠損部位移植実験結果
1)β−TCPブロック(移植後2週間)
図4に、β−TCPブロック大腿骨欠損部位移植2週間後のヘマトキシリン/エオジン染色結果を示す。Cbfa1遺伝子組み換えウイルス吸着ブロックの方が、ブロックのポアの溶解が進行しており、ポアの周囲の骨化も進行していることが観察された(図4左下、右下)。骨芽細胞を添加した方は添加していないものに比べて、若干ブロックの溶解及び骨化が進んでいるように見えた(図4右下)。Cbfa1遺伝子組み換えウイルスを吸着することで、骨再生を迅速に誘導できることが確認された。
2)β−TCPブロック(移植後6週間)
図5に、β−TCPブロック大腿骨欠損部位移植6週間後のヘマトキシリン/エオジン染色結果を示す。Cbfa1遺伝子組み換えウィルス吸着ブロックの方がブロックの溶解が進行しており、また骨化の進行も顕著であった。特に皮質骨部位における迅速な骨再生と、骨髄腔における速やかなブロックの消失が観察された(図5左下、右下)。骨芽細胞を添加した方が、骨・骨髄再生の進行状況から判断して、Cbfa1遺伝子の導入効果が若干強く現れることが観察できた(図5右下)。
3)HAブロック(移植後3週間)
図6に、HAブロック大腿骨欠損部位移植6週間後のヘマトキシリン/エオジン染色結果を示す。β−TCPブロックに比べて本実験で用いたHAブロックは、ポアサイズも気孔率も非常に高く、ウイルスの吸着する表面積が小さくなるため、ウィルス吸着の影響が顕著ではない。またHAは生分解性材料ではないため、欠損が修復された後も体内に残存し続けると考えられた。
4)β−TCPブロックとHAブロックの比較(移植後3週間)
図7に、移植後3週間で摘出したHAブロックとβ−TCPブロックの骨再生の様子を比較した結果を示す。HAブロックに比べて生分解性のセラミックス材料である多孔性β−TCPブロックの方が、骨・骨髄再生を促進させることがわかった。効果は特に皮質骨部分で顕著に認められる。β−TCPブロックの場合、移植後ウィルスが生体内で徐々に拡散されるため、ブロック周囲に存在する骨髄にも影響を与えて骨再生を促すものと考えられた。
5)ウィルス吸着ブロックとウィルス感染細胞吸着ブロックの比較(移植後8週間、β−TCPブロック)
図8に、移植後8週間で摘出したウィルス吸着ブロックとウィルス感染細胞吸着ブロックの骨再生の様子を比較した結果を示す。ウィルス感染細胞吸着ブロックに比べてウィルス吸着ブロックは、骨髄腔のブロックの溶解、骨髄への置換は若干劣るが、皮質骨部分の骨化の進行は同等、及びそれ以上に早いことが観察された。
考察:
生体適合性材料である多孔性β−TCP及びハイドロキシアパタイト(HA)にCbfa1のcDNAを組み込んだウイルスベクターを吸着させ、生体内に移植してCbfa1遺伝子組み換えウイルスを徐放させることにより、骨・骨髄再生が促進できることが確認された。また、骨・骨髄再生の進行状況から判断して、Cbfa1遺伝子導入用ウイルスベクターを吸着させたβ−TCPブロックは、Cbfa1遺伝子を導入した骨芽細胞を吸着させたβ−TCPブロックと同等の骨再生効果を有すると考えられた。
HAブロックはβ−TCPブロックに比べてポアサイズも気孔率も非常に高く、結果的にウイルスが吸着する表面積が小さいと考えられる。そのためウイルス吸着の影響がβ−TCPブロックほど顕著には確認できなかった。しかしながら、HAブロックの染色像で皮質骨の部分に着目すると、ウイルス吸着担体の方がより良好に骨再生が促進されていることがわかる。β−TCPとは異なり、HAは生分解性材料ではないため、欠損が修復された後も体内に残存し続けるという問題はあるものの、本発明のインプラント材料として使用しうることが確認された。
ラットのようなげっ歯類は一般にアデノウイルスに感染しにくいため、ヒトの十倍以上の濃度を使用する必要があるといわれている。例えば、直接体内へ導入する場合、10から1010pfuのウイルスを注射するという(Okubo et al.,Life Science(2001)vol 70(3):325−36,Trudel et al.,Cancer Gene Therapy(2003),vol 10(10):755−763,Hedman et al.,Cirvulation(2003),vol 107(21):2677−2683)。本実施例では、10pfu/mlのウイルス液1mlに2mm立方のブロックを10〜20個程度浸漬しているため、体内に導入されるウイルス量は10pfuよりさらに少ない。また、本発明の方法では、注射等による直接導入と異なり、ウイルスはブロックに吸着されているため、生体内移植後に血流に乗って拡散する可能性も低い。すなわち、本試験により、本発明の方法はより低濃度で効果的な骨軟骨再生を可能にすることが確認された。
実施例2:生体適合性材料を担体としたウイルスベクターの徐放研究(2)OPLAコンポジット
1.アデノウイルスベクターの作製
マウスの骨芽細胞から単離したTotal RNAからAMV reverse transcriptaseを用いてcDNAを合成し、これを鋳型としてCbfa1のcDNAに特異的なプライマーsense primer 5’−ATGCTTCATTCGCCTCACAAAC−3’(配列番号2)とantisense primer 5’−TCTGTTTGGCGGCCATATTGA−3’(配列番号3)を用いてPCRによりCbfa1 cDNA(GenBank Accession Number AF010284)を増幅し、シークエンスにより配列を確認した。Cbfa1 cDNAはTA cloning vector(pCR II−TOPO,provided by invitrogen)にクローニングして大量調製した。Cbfa1 cDNAを制限酵素SpeIおよびEcoRVで切り出し、平滑末端化した。
マウスVEGFのcDNA(GenBank Accession Number NM_009505)は、東京工業大学 渡辺氏より供与を受けた。VEGF cDNAを大量調製し、制限酵素のEcoRIで切り出した後、平滑末端化した。Cbfa1 cDNAあるいはVEGF cDNAはAdenovirus Cre/loxP kit(宝酒造,#6151)を用いてコスミドベクターpAxCALNLwのSwaIサイトに挿入し、Kitの説明書に従って組換えアデノウィルス(Adv−Cbfa1)を作製した。作製したウィルスの力価は、それぞれ約1011PFU/ml、約2.5×10PFU/mlと、非常に高い感染効率であった。これらのウィルスはE1領域欠失のため、標的細胞内では増殖することはできず、一過性の性質をもつ。また、目的遺伝子の上流にスタッファーをもつため、Creリコンビナーゼ発現ウィルスと共感染のときのみ遺伝子を発現する。Creリコンビナーゼ発現アデノウィルス(Adv−cre)はキットに付属されていたものを用いた。
2.ラット生体内移植実験
担体としてBD 3D OPLAコンポジット(BD Falcon、#354614、5mm×3mm×0.039cm)を用い、生体内移植実験を行った。BD 3D OPLA(Open−Cell Polylactic Acid)コンポジットは、D、D−L、Lポリ乳酸から合成された合成ポリマーコンポジットで、高密度懸濁細胞の培養に効率的な多面体構造を有している。
2.1 ラット背上皮皮下移植実験
OPLAコンポジットは、Adv−Cbfa1とAdv−creの組換えアデノウィルス混合液(1×10pfu/ml)に減圧下で脱気しながら2分間浸漬し、その後3時間以上静置した。ウィルス液を吸着させたOPLAコンポジットはラットの背上皮皮下に移植した。ウィルス吸着OPLAコンポジットあるいは未処理のOPLAコンポジットは数週間後に摘出して解析した。
2.2 ラット大腿骨欠損部位移植実験
骨補填材料として上記BD 3D OPLAコンポジット(BD Falcon、#354614、5mm×3mm×0.039cm)を用いた。滅菌下で四等分したOPLAコンポジットをCbfa1(Adv−Cbfa1)あるいはVEGF(Adv−VEGF)とCreリコンビナーゼ遺伝子(Adv−cre)の組換えアデノウィルス混合液(1×10pfu/ml)に減圧下で脱気しながら2分間浸漬し、その後3時間以上静置した。ラットの大腿骨に直径2.5mm、深さ2mmの穴をドリルで開けて欠損部位を作製し、ウィルス液を吸着させたOPLAコンポジットをそこに移植した。ウィルス吸着OPLAコンポジットあるいは未処理のOPLAコンポジットは数週間後に摘出して解析した。
3.組織切片作製、染色法
摘出したコンポジットを4% paraformaldehyde,0.05% glutaraldehydeでマイクロウェーブ固定した後、翌日10% EDTA,100mM Tris(pH7.4)中で約1週間脱灰した。脱灰後、エタノールで脱水し、レモゾールで透徹し、パラフィンに包埋した。5μmの厚さで切片を作製し、脱パラフィン後、ヘマトキシリン続いてエオジンで染色した。サンプルは光学顕微鏡(IX−70,Olympus,Tokyo,Japan)で観察し、CCDカメラ(CoolSNAP cf,ROPER Scientific)により取り込んだデジタルイメージはMetaMorph softwareで解析した。
免疫染色については、5μmの厚さで切片を作製し、脱パラフィン後、Proteinase K solution(DakoCytomation,Inc.,Glostrup,Denmark)で5分間処理し、続いてPeroxidase Blocking Reagent(DakoCytomation)で処理した。切片をBlocking reagent(Roche,Basel,Switzerland)で非特異的蛋白質の吸着をブロッキングし、一次抗体のmouse monoclonal anti−osteocalcin antibody(Zymed Laboratories Inc.,San Francisco,CA)と一晩、4℃でインキュベートした。二次抗体のHorseradish peroxidase conjugated secondary antibody(Amersham Bioseience,Piscataway,NJ)を加えて一時間インキュベートし、DAKO Liquid DAB substrate−chromogen(DakoCytomation)を用いて発色させた。その後、ヘマトキシリンで核染色した。サンプルは光学顕微鏡(IX−70,Olympus,Tokyo,Japan)で観察し、CCDカメラ(CoolSNAP cf,ROPER Scientific)により取り込んだデジタルイメージはMetaMorph softwareで解析した。
結果:
1.ラット背上皮皮下移植実験結果
図9に、ヘマトキシリン−エオジン染色像の観察結果(移植後20日および8週目)を示す。Adv−Cbfa1ウィルス吸着コンポジットの方は骨が再生されている様子が観察できる(写真右側、矢印)。一方コントロールのコンポジットの方は、皮下の脂肪等の細胞が浸潤してきている様子は観察されるが骨化は進行していない(写真左側、*印)。
図10に、オステオカルシン免疫染色像の観察結果(移植後20日目)を示す。オステオカルシンはポアの表面に接着している細胞で強く発現しており、石灰化が生じている部位でも観察された。オステオカルシンの局在は石灰化が生じており、骨が再生されていることを示している(写真、矢印)。
2.ラット大腿骨欠損部位移植実験結果
図11に、ヘマトキシリン−エオジン染色像の観察結果(移植後10日および20日目)を示す。Adv−Cbfa1ウィルス吸着コンポジットの方が、皮質骨の部分の骨再生が進行しており、皮質骨の欠損部位の大きさが小さくなってきている様子が観察された(写真上段)。また移植後20日目のサンプルでは、移植したコンポジットの溶解および順調な骨再生が観察され、さらに移植したコンポジットと皮質骨の融合が観察できた(写真下段、右側)。一方、ウィルスを吸着していないコンポジット(コントロール)では、移植後10日目では骨再生がほとんど観察されず、20日目でもコンポジットと皮質骨との融合も顕著ではない。これらの結果は、Adv−Cbfa1ウィルス吸着コンポジットでは、移植期間中に生体内でAdv−Cbfa1が徐々に溶け出して周囲の細胞に働きかけ、活性化することにより迅速な骨再生を誘導できることを示唆する。
図12に、ヘマトキシリン−エオジン染色像の観察結果(移植後3週目)を示す。Adv−Cbfa1ウィルスおよびAdv−VEGFウィルス吸着コンポジットでは、移植したコンポジットの溶解が顕著であり、コンポジット内部の骨再生が進行している様子が観察された(写真下段)。特に、皮質骨部位における迅速な骨再生、および移植したコンポジットと皮質骨の融合が観察された(写真下段)。
以上より、本発明の方法はOPLAコンポジットを徐放性担体として用いた場合にも、効果的な骨軟骨再生を可能にすることが確認された。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
産業上の利用の可能性
本発明によれば、より安全かつ簡便な骨・軟骨再生が可能となる。本発明のインプラントは、歯科領域あるいは整形外科領域における安全かつ簡便な骨・軟骨再生手段として利用できる。
【配列表フリーテキスト】
配列番号2−人工配列の説明:Cbfa1増幅用センスプライマー
配列番号3−人工配列の説明:Cbfa1増幅用アンチセンスプライマー
【配列表】



【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨・軟骨誘導性転写因子の遺伝子を導入したアデノウイルスベクター又はレトロウイルスベクターを含む生体適合性材料からなるインプラント。
【請求項2】
骨・軟骨誘導性転写因子が、Cbfa1、Dlx−5、Bapx1、Msx2、Scleraxis及びSox−9からなる群より選ばれる1種又は2種以上である、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
骨・軟骨誘導性転写因子がCbfa1である、請求項1に記載のインプラント。
【請求項4】
生体適合性材料が、ハイドロキシアパタイト、α−TCP、β−TCP、コラーゲン、ポリ乳酸、ヒアルロン酸、及びポリグリコール酸、ならびにこれらの2種以上で構成される複合体からなる群より選ばれるいずれかである、請求項1〜3項のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項5】
生体適合性材料がβ−TCPである、請求項4に記載のインプラント。

【国際公開番号】WO2005/035014
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514700(P2005−514700)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015673
【国際出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】