転写量変化を検出するためのベクターおよび方法
【課題】被験物質が基質結合性を有する転写因子の活性化を介して遺伝子の転写活性に及ぼす効果を、基質結合性を有する複数の転写因子について同時に検出できるベクターを提供する。
【解決手段】チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域内の被験物質に応答して下流遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域、下流に機能的に連結されたプロモーター、および該プロモーターの下流に機能的に連結されたレポーター遺伝子を有するベクターで形質転換した細胞を用いて被験物質のダイオキシン様活性、エストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性の検出方法。被験物質の存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量が、被験物質の非存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量より高い場合に、前記被験物質がダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を有すると評価する工程とを含む方法。
【解決手段】チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域内の被験物質に応答して下流遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域、下流に機能的に連結されたプロモーター、および該プロモーターの下流に機能的に連結されたレポーター遺伝子を有するベクターで形質転換した細胞を用いて被験物質のダイオキシン様活性、エストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性の検出方法。被験物質の存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量が、被験物質の非存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量より高い場合に、前記被験物質がダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を有すると評価する工程とを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験物質が基質依存型転写因子の活性化を介して遺伝子の転写活性に及ぼす効果を検出するためのベクターおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの生活や産業活動の発展に伴い、環境中に放出された化学物質による人体影響が重大な社会問題となっている。現在、工業的に製造される化学物質だけで10万種以上と推測され、さらにヒトの生活活動の中で非意図的に生成された多様な化学物質が環境中に放出されている。これらの化学物質の多くは人体に対する影響が未知であり、化学物質により惹起される疾患が危惧されている。
【0003】
環境中に存在する化学物質の中でも、核内受容体、つまり基質結合性を有する転写因子に作用する化学物質の人体への影響は深刻である。基質結合性を有する転写因子とは、基質との結合で活性化され、染色体上の標的遺伝子の転写制御領域に存在する転写制御因子の認識配列に結合し、該標的遺伝子の転写効率を変化させる機能をもつタンパク質である。これらの基質結合性を有する転写因子は、生物の恒常性の維持、生殖、発達、細胞分化、および薬物代謝などにおいて重要な役割を果たしており、転写制御因子による標的遺伝子の転写制御が正常におこなわれなくなると、遺伝子の発現量に異常が生じ、種々の疾患を惹起する例が知られている。そこで、環境中に存在する化学物質のうち、転写制御の異常による疾患を惹起することができる物質を検出し、化学物質の摂取を制限するか、または化学物質により惹起される疾患を治療や予防するために、基質結合性を有する転写因子の転写制御能に対する化学物質の活性測定法の開発が試みられている。
【0004】
このような転写制御能の活性測定法には、例えば基質結合性を有する転写因子の認識配列の下流にレポーター遺伝子を連結したベクターを細胞内に導入し、この細胞に被験物質を接触させて培養した際の前記レポーター遺伝子の発現量を測定することにより、基質結合性を有する転写因子の転写制御に対する被験物質の活性を測定する方法がある。多環芳香族炭化水素類(PAHs)と類似した被験物質の活性を測定する場合には、PAHsを基質とするアリルハイドロカーボン受容体(AhR)の認識配列である生体異物応答配列(XRE)の下流にレポーター遺伝子を連結したベクターを導入した細胞を用いてAhRの転写制御に対する被験物質の活性を測定する方法が提案されている(特許文献1および特許文献2)。また、被験物質の生殖機能への影響を測定する場合には、生殖機能を制御する基質結合性を有する転写因子である女性ホルモン(エストロジェン)受容体(ER)の認識配列であるエストロジェン応答配列(ERE)または男性ホルモン(アンドロジェン)受容体(AR)の認識配列であるアンドロジェン応答配列(ARE)の下流にレポーター遺伝子を連結したベクターを導入した細胞を用いてERやARの転写制御に対する被験物質の活性を測定する方法が提案されている(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、上記の方法においては、被験物質が基質依存型転写因子の活性化を介して遺伝子の転写活性化に及ぼす効果を、1つのベクターにつき1種類の基質結合性を有する転写因子に関してしか検出することしかできず、被験物質が基質依存型転写因子の活性化を介して遺伝子の転写活性化に及ぼす効果を、活性化転写因子のXRE、またはERE、またはAREへの結合性でしか検出できない。
【特許文献1】特開2000-253889号公報
【特許文献2】米国特許第5,854,010号公報
【特許文献3】特開2002-253231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、被験物質が基質結合性を有する転写因子の活性化を介して遺伝子の転写活性に及ぼす効果を、基質結合性を有する複数の転写因子について同時に検出できるベクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの側面によれば、配列番号1に記載の塩基配列(チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域)内の被験物質に応答して下流遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域、該エンハンサー領域の下流に機能的に連結されたプロモーター、および該プロモーターの下流に機能的に連結されたレポーター遺伝子を有するベクターが提供される。
【0008】
本発明の別の側面によれば、上記ベクターが哺乳類細胞に導入された、形質転換された哺乳類細胞が提供される。
【0009】
本発明の別の側面によれば、上記ベクターまたは上記細胞を含む、被験物質のダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を検出するためのキットが提供される。
【0010】
本発明の別の側面によれば、被験物質のダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を検出する方法であって、
(1)上記ベクターが導入された細胞を、被験物質の存在下および非存在下で培養する工程と、(2)工程(1)で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する工程と、(3)被験物質の存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値が、被験物質の非存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値より高い場合に、前記被験物質がダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を有すると評価する工程とを含む方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
鋭意研究の結果、チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域の一部と、該配列の下流に機能的に連結したプロモーターとレポーター遺伝子を組み込んだベクターを導入した細胞をもちいたレポータージーンアッセイにより、被験物質がアリルハイドロカーボン受容体およびエストロジェン受容体およびアンドロジェン受容体の活性化を介して遺伝子の転写活性に及ぼす効果を検出できることを見出し、本発明に至った。本発明により、1つのベクターで、基質結合性を有する複数の転写因子による遺伝子の転写活性を検出できる方法が開発された。
【0012】
1.ベクター
以下、本発明のベクターについて詳細に説明する。
【0013】
本発明のベクターは、チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域内の被験物質に応答して下流遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域と、該領域の下流に機能的に連結されたプロモーターおよびレポーター遺伝子とを有するベクターを有する。
【0014】
(1)エンハンサー領域
上記、チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域は、たとえば配列番号1に記載の領域(2.5 kb)である。本発明において「チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域」は、任意の生物のチロシン水酸化酵素遺伝子の5’上流領域(2500 bp)であり得、たとえば、ヒト、マウス、またはラットのチロシン水酸化酵素遺伝子の5’上流領域(2500 bp)であり得る。
【0015】
上記被験物質は、ダイオキシン様活性を有する物質、エストロジェン様活性を有する物質、またはアンドロジェン様活性を有する物質であり得る。本発明者らは、ダイオキシン様活性を有する物質、エストロジェン様活性を有する物質、アンドロジェン様活性を有する物質のそれぞれが、当該エンハンサー領域に作用して下流遺伝子の転写活性を増強できることを本発明において見出した。ダイオキシン様活性を有する物質は、アリルハイドロカーボン受容体と複合体を形成し、かかる複合体がエンハンサー領域に結合し、これにより下流遺伝子の転写活性を増強すると推定される。図11にアリルハイドロカーボン受容体(AhR)による遺伝子の転写活性化メカニズムのひとつを示す。TCDDなどのダイオキシン類は、細胞内のAhRに結合して複合体を形成し、遺伝子の特定の配列(すなわち、異物応答エレメントXRE; 5’- GCGTG -3’)に結合することにより、下流遺伝子(たとえば、薬物代謝酵素CYP1A1)の発現を活性化することが知られている。図11において、HSPは熱ショックタンパク質(heat shock protein)を示し、Arntは、アリルハイドロカーボン受容体核内トランスロケーター(aryl hydrocarbon receptor nuclear translocator)を示す。同様にエストロジェン様活性を有する物質は、細胞内のエストロジェン受容体に結合して、遺伝子の特定の配列(女性ホルモン応答配列ERE; 5’- GGTCAnnnTGACC -3’, nは任意のヌクレオチド)に結合することにより、アンドロジェン様活性を有する物質は、細胞内のアンドロジェン受容体に結合して、遺伝子の特定の配列(男性ホルモン応答配列 ARE; 5’- GG[A or T]ACAnnnTGTTCT -3’, nは任意のヌクレオチド)に結合することにより、下流の遺伝子の発現を活性化することが知られている。
【0016】
上記「被験物質に応答して下流遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」は、配列番号1に記載の配列の全長を有していてもよいが、配列番号1に記載の配列の一部の領域であって、被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する領域であることもできる。本明細書において、「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する」とは、本発明のベクターが導入された細胞を被検物質の存在下で培養した場合に、該領域の下流に機能的に連結されたレポーター遺伝子の発現量が増大されることをいう。
【0017】
上記「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」は、たとえば配列番号2に記載の配列(315 bp)からなる領域、配列番号3に記載の配列(143 bp)からなる領域、または配列番号4に記載の配列(67 bp)からなる領域である。エンハンサー領域として使用される配列番号1〜3の塩基配列は、それぞれ、全長を有していてもよいが、配列番号4の塩基配列(67 bp)に相当する領域が含まれていれば、一部の領域であってもよい。
【0018】
配列番号2に記載の配列からなる領域は、プロモーター活性を増強する領域とプロモーター活性を有する領域とを含む。一方、配列番号3に記載の配列からなる領域は、プロモーター活性を増強する領域を含むが、プロモーター活性を有する領域を含まない。配列番号4に記載の配列からなる領域は、プロモーター活性を増強する領域を含むが、プロモーター活性を有する領域を含まない。このように、上記「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」は、配列番号2のようにプロモーター活性を有する領域を含んでいてもよく、または配列番号3および配列番号4のようにプロモーター活性を有する領域を含んでいなくてもよい。当業者であれば、配列番号1に記載された配列において、このような転写制御領域が厳密に定義されるものではなく、ある程度の柔軟性をもって定義される領域であることが明らかであろう。たとえば、このような「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」は、配列番号1に記載の配列の全長よりも短い配列の転写制御領域を実際に作製することによって、簡単に試験することができる。具体的には、以下の実施例に示した約2.5kbpのTH遺伝子の転写制御領域を鋳型として、何塩基か短くしたものをPCRなどによって作製し、これを本発明のベクターに機能的に組み込んだベクターを作製する。次いで、この短い転写制御領域を有するベクターを細胞に導入する。次いで、導入細胞を被検物質と共に培養し、レポーター遺伝子の発現量を測定する。その結果、被検物質の非存在下で培養した細胞よりもレポーター遺伝子の発現量が高ければ、この短い転写制御領域も、「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」として同定される。
【0019】
また、上記「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」は、配列番号1に記載の配列、および配列番号1に記載の配列の一部の領域であって、被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する領域だけでなく、これらの領域の配列と実質的に同一である配列およびこれらの一部の領域であって、被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する領域も含まれる。ここで、「実質的に同一である」とは、配列番号1の配列に1または数個の欠失、置換、付加等の変異が生じた配列を意味する。このような変異を有する配列は、たとえば配列番号1の配列をもとにしたポイントミューテーション法またはPCRベースの方法などによって取得することができる。また、「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する領域」であるか否かは、取得した変異を有する配列を使用して、上記のとおりに試験することによって確認することができる。
【0020】
さらに、上記配列番号1に記載の配列は、マウスに由来するTH遺伝子の転写制御領域であるが、その他の種に由来の配列番号1に対応するTH遺伝子の転写制御領域を使用することができる。
【0021】
上記エンハンサー領域は、本発明のベクター内にタンデム繰返し配列(tandem repeat)として含有されていてもよい(後述の実施例7および9参照)。具体的には、配列番号3により示されるエンハンサー領域、または配列番号4により示されるエンハンサー領域が、本発明のベクター内にタンデム繰返し配列(tandem repeat)として含有されていてもよい。繰返し配列は、たとえば2〜10個のエンハンサー領域から構成され得る。繰返し配列は、正方向(5’→3’方向)のエンハンサー領域を含んでいてもよいし、逆方向(3’→5’方向)のエンハンサー領域を含んでいてもよい。たとえば、繰返し配列は、すべてが正方向(5’→3’方向)のエンハンサー領域から構成されていてもよいし、すべてが逆方向(3’→5’方向)のエンハンサー領域から構成されていてもよいし、正方向(5’→3’方向)のエンハンサー領域と逆方向(3’→5’方向)のエンハンサー領域の組合せから構成されていてもよい。
【0022】
(2)プロモーター
また、本発明のベクターは、上記「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」に加えて、該領域の下流に機能的に連結されたプロモーターおよびレポーター遺伝子を含む。「機能的に連結された」とは、連結された領域が、その領域の機能を発揮するように連結されていることを意味する。たとえば、プロモーターまたはレポーター遺伝子が「機能的に連結された」とは、本発明のベクター内においてプロモーター活性を発揮し、レポーター遺伝子の発現を増強させるように連結されていることをいう。また、レポーター遺伝子が「機能的に連結された」とは、本発明のベクター内において、「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する領域」やプロモーターの作用によって該レポーター遺伝子が発現されるように連結されていることをいう。
【0023】
本発明のプロモーターは、上記配列番号1に記載された配列内のプロモーターであってもよい。たとえば、本発明のベクターに配列番号1および2を使用した場合は、これらの配列内にプロモーター活性を有する領域が含まれており、さらなるプロモーター領域を含まなくてもよい。
【0024】
一方、「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」として配列番号3または配列番号4を使用した場合は、プロモーター活性を有する領域を組み込む必要がある。その他のプロモーターには、宿主細胞内で機能的なプロモーターであれば、任意のプロモーターを使用することができる。好ましくは、哺乳類細胞において活性を有するプロモーターであり、たとえば、配列番号5のチロシン水酸化酵素遺伝子のコアプロモーターを使用することができる。あるいは、たとえばシミアンウイルス(SV40)の初期プロモーター(配列番号6)もしくはシミアンウイルス(SV40)の後期プロモーター(配列番号7)、ヒトヘルペスウイルス1チミジンキナーゼ(TK)プロモーター(配列番号8)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(配列番号9)などが挙げられる(後述の実施例6参照)。当業者であればさらに宿主生物に適した適切なプロモーターを選択することは極めて容易であろう。
【0025】
(3)レポーター遺伝子
本発明のレポーター遺伝子は、当該技術分野において既知の何れのレポーター遺伝子を使用することもできる。レポーター遺伝子は、その産物の活性が簡単に測定でき、測定バックグラウンドの低いものが好ましく、たとえばこのような遺伝子として、遺伝子産物を発光で検出できるルシフェラーゼ遺伝子、蛍光で検出できる緑色蛍光タンパク質遺伝子、発色で検出できるβ−ガラクトシダーゼ遺伝子、放射線活性で検出できるクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。
【0026】
(4)他のエレメント
本発明のベクターは、上記領域の他に、種々のエレメントを含むことができる。たとえば、適切な微生物内で機能する複製起点および薬剤耐性遺伝子などを組み込むことができる。また、ベクターを細胞の染色体上に組み込んで安定に保持させるために、ベクター内に哺乳類用の薬剤体制遺伝子を組み込んでおくことができる。このような哺乳類用の薬剤耐性遺伝子には、たとえばゼオシン耐性遺伝子およびハイグロマイシン耐性遺伝子などがあげられる。また、マルチクローニングサイトなどの適切な制限酵素部位を有することもできる。
【0027】
本発明のベクターは、環状のプラスミドDNA、ウイルスベクターDNA、直鎖のDNA断片など任意の形態であり得る。
【0028】
(5)ベクターの作製方法
上記ベクターは、当業者に既知の何れの方法を使用して作製することもできるが、例えば以下の通りに作製することができる。
【0029】
(a)チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域の調製
TH遺伝子の転写制御領域は、その塩基配列が明らかとなっているので、たとえばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して単離することができる。PCRの鋳型として使用できる核酸には、たとえば任意の細胞から抽出したゲノムDNAを使用すればよい。たとえば、実施例に示したとおりのプライマーを使用して配列番号1に示した塩基配列を増幅することができる。
【0030】
(b)ベクターの作製
次いで、上記TH遺伝子の転写制御領域をベクターに組み込む。ベクターの作製は、(a)で作製したTH遺伝子の転写制御領域を、レポーター遺伝子が機能する形で連結することにより作製する。作製したベクターは、少なくともTH遺伝子の転写制御領域部分の塩基配列をシーケンシングし、遺伝子に変異が導入されていないことを確認することが好ましい。
【0031】
本発明に使用されるベクターは、市販のものを使用することができる。たとえば、PGV-B2ベクターやPGV-P2ベクター(TOYO B-NET社)を使用することにより、(a)で作製したTH遺伝子の転写制御領域をベクターに組み込むだけで本発明のベクターを作製することができる。
【0032】
2.細胞
次に、本発明は、上記ベクターが導入された細胞を提供する。上記ベクターが導入された形質転換細胞は、ダイオキシン様活性を有する物質、エストロジェン様活性を有する物質、アンドロジェン様活性を有する物質を検出するために使用することができる。
【0033】
本発明のベクターを導入するための宿主細胞は、何れの細胞であることもできるが、哺乳類細胞であることが好ましい。哺乳類細胞の種類は、導入されるTH遺伝子の転写制御領域が機能する細胞であればよく、たとえば初代培養細胞であっても、不死化した培養細胞であってもよい。すなわち、哺乳類細胞の種類は、アリルハイドロカーボン受容体、エストロジェン受容体、アンドロジェン受容体の少なくとも一種類を有する細胞であればよい。あるいは、アリルハイドロカーボン受容体をコードする遺伝子、エストロジェン受容体をコードする遺伝子、アンドロジェン受容体をコードする遺伝子の少なくとも一種類を哺乳類細胞に導入してもよい(後述の実施例3参照)。
【0034】
好ましくは、宿主細胞は、アリルハイドロカーボン受容体を発現している哺乳類細胞である。哺乳類細胞は、たとえば、ヒト細胞、マウス細胞またはラット細胞である。「アリルハイドロカーボン受容体を発現している哺乳類細胞」とは、生得的に(inherently)アリルハイドロカーボン受容体を発現している哺乳類細胞であってもよいし、あるいはアリルハイドロカーボン受容体をコードする遺伝子を哺乳類細胞に導入することにより調製された遺伝子導入細胞であってもよい。
【0035】
アリルハイドロカーボン受容体をコードする遺伝子(AhR遺伝子)を哺乳類細胞に導入する場合、導入されるAhR遺伝子は、任意の哺乳類に由来するAhR遺伝子であり得、たとえばヒトに由来するAhR遺伝子、マウスに由来するAhR遺伝子、またはラットに由来するAhR遺伝子であり得る。SDラットに由来するAhR遺伝子を配列番号10に示し、C57/BL6マウスに由来するAhR遺伝子を配列番号11に示す。AhR遺伝子は、当該遺伝子によりコードされるアリルハイドロカーボン受容体が、リガンド結合型の転写因子として機能する限り、数個の塩基の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。
【0036】
特に、宿主細胞は、神経由来の細胞、とりわけ中枢神経系に由来する細胞であることが望ましい。神経由来細胞は、たとえば、ヒト神経由来細胞、マウス神経由来細胞またはラット神経由来細胞である。具体的には、神経芽細胞腫、とりわけマウスの神経芽細胞腫であるNeuro2aなどを使用することができる。特に好ましくは、アリルハイドロカーボン受容体をコードする遺伝子をマウスの神経芽細胞腫Neuro2aに導入した細胞を宿主細胞として使用することができる。その一例として、ラットのアリルハイドロカーボン受容体をコードする遺伝子をマウスの神経芽細胞腫Neuro2aに導入した細胞は、ブダペスト条約上の国際寄託機関である、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、受託番号FERM BP-10341、FERM BP-10342が付与されている。
【0037】
また、宿主細胞への本発明のベクターの導入は一過的であっても、安定な導入であってもよい。たとえば、ベクターを一過的な導入の例では、哺乳類細胞を培養容器に播き、10%牛胎児血清を含むMEMダルベッコ・ハムF12等比混合(DF1:1)培地などの培地中において5% CO2条件下で37℃において数時間から1晩程度インキュベートする。このように培養した細胞に上記ベクターを導入する。細胞への上記ベクターの導入法としては、たとえばリポフェクタミン法、エレクトロポレーション法、DEAE-デキストラン法、リン酸カルシウム法などの当業者に既知のいずれの方法を使用して行うこともできる。たとえば、リポフェクタミン2000(インビトロジェン社製)を使用することもでき、市販のマニュアルに従って、導入するベクターの量、リポフェクタミン2000の量、および細胞数などをあらかじめ決定しておくことが好ましい。また、細胞に導入するベクターは、適当な制限酵素で消化して直鎖状にしてから導入してもよい。
【0038】
一方、本発明のベクターの安定な導入も、当該技術分野におい既知のいずれの方法を使用して行うことができる。たとえば、上記ベクターを作製する際に、薬剤耐性遺伝子を含有するベクターを作製し、薬剤耐性遺伝子を含むベクターを上記一過的な場合と同様に細胞に導入する。次いで、適切な濃度の薬剤を含有する培地中でベクターを導入した細胞を適切な期間培養する。その結果、薬剤耐性遺伝子を含有する細胞、すなわちベクターが安定に導入された細胞のみが生存することとなる。
【0039】
3.検出方法
次に、本発明のベクターが導入された細胞を用いて、被験物質のダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を検出する方法について詳細に説明する。
【0040】
まず、上記本発明のベクターが導入された細胞を、被験物質の存在下および非存在下で(すなわち、被験物質を未曝露の条件下と曝露条件下で)培養する。被験物質存在下での培養時間は、使用する哺乳動物細胞に応じて、適切な時間を予備実験によりあらかじめ決定するのが望ましい。適切な培養時間は、被験物質の存在によってレポーター遺伝子の発現が誘導されて、その発現産物が検出できる程度の時間である。このような培養時間は、使用する細胞、培地、培養温度、被検物質濃度などの種々の条件によって異なることが当業者には明らかであろう。そして、当業者であれば、上記条件に応じて、適切な培養時間を容易に決定することができると考えられ、通常は2時間〜3日程度、たとえば1時間、10時間、24時間、30時間以上培養することによって、レポーター遺伝子の発現産物を検出することができると考えられる。
【0041】
次いで、本発明の方法では、それぞれの細胞におけるレポーター遺伝子の発現産物の発現量を測定する。発現産物は、使用するレポーター遺伝子に応じて種々の検出方法によって検出ことができる。たとえば、発現産物の種類に応じて、タンパク質を抽出する工程を含む。タンパク質の抽出方法は、ベクターに使用したレポーター遺伝子の種類に応じて、公知の最適な抽出法をもちいればよい。次いで、抽出したタンパク質中のレポーター遺伝子の発現産物量をレポーター遺伝子の種類に応じた方法で測定する。被検物質の存在下と非存在下におけるレポーター遺伝子の発現量の比較をおこなう。
【0042】
その結果、被検物質の存在下と非存在下におけるレポーター遺伝子の発現量の差分により、被験物質が、「TH遺伝子の転写制御領域内の被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する領域」に及ぼす活性を判断することができる。すなわち、被験物質の存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値が、被験物質の非存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値より高い場合に、前記被験物質がダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性の何れかの活性を有すると評価される。
【0043】
具体的には、エストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を検出するためには、配列番号1に記載の塩基配列(2.5 kb)を含むベクターが導入された細胞、または配列番号2に記載の塩基配列(315 bp)を含むベクターが導入された細胞を使用することが好ましい。また、ダイオキシン様活性を検出するためには、配列番号1に記載の塩基配列(2.5 kb)を含むベクターが導入された細胞、配列番号2に記載の塩基配列(315 bp)を含むベクターが導入された細胞、配列番号3に記載の塩基配列(143 bp)を含むベクターが導入された細胞、配列番号4に記載の塩基配列(67 bp)を含むベクターが導入された細胞のいずれも好ましく使用することができる。
【0044】
本発明の好ましい態様に従えば、配列番号4に記載の塩基配列(67 bp)を含むベクターが導入された細胞を用いて、被験物質のダイオキシン様活性を検出することができる。
【実施例】
【0045】
実施例1
アリルハイドロカーボン受容体を組み込んだ発現ベクターの調製
(a)SD系統ラット、およびC57/BL6マウスのAhR遺伝子の調製
SD系統のラットの脳から全RNAを抽出して、これを鋳型にオリゴ(dT)プライマーをもちいて逆転写した。この逆転写したサンプルから、Pyrobest DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)を用いたPCR(変性:94℃ 1分、アニーリング:55℃ 1分、伸長:72℃ 4分を1サイクルとして25サイクルの反応)により、SD系統ラットのAhR遺伝子コーディング領域を増幅した。プライマーにはSD系統のAhR遺伝子に特異的な下記プライマーを使用した。プライマーの5’末端には、PCR産物のベクターへの組み込みを容易にするための制限酵素HindIII(フォワードプライマー)、XhoI(リバースプライマー)の認識配列を付加した。
【0046】
フォワードプライマー:5’- CCCAAGCTTACCATGAGCAGCGGCGCCAACATCA -3’(配列番号12)
リバースプライマー: 5’- CCGCTCGAGAGGAATCCGCTGGGTGTGATATCAG -3’(配列番号13)。
【0047】
また、C57/BL6系統のマウスの肝臓から全RNAを抽出し、これを鋳型として上記と同様の反応条件でPCRをおこない、C57/BL6系統マウスのAhR遺伝子コーディング領域を増幅した。プライマーにはC57/BL6系統のマウスAhR遺伝子に特異的な下記プライマーをもちいた。プライマーの5’末端は、PCR産物のベクターへの組み込みを用意にするために制限酵素HindIII(フォワードプライマー)、XbaI(リバースプライマー)の認識配列を付加した。
【0048】
フォワードプライマー:5’- CCCAAGCTTATGAGCAGCGGCGCCAACATCACC -3’(配列番号14)
リバースプライマー:5’- CCCTCTAGATCAACTCTGCACCTTGCTTAGGAA -3’(配列番号15)。
【0049】
(b)AhR遺伝子発現用ベクターの構築
(a)で調製したAhR遺伝子を発現させるためのベクターには、pcDNA4/V5-His B(インビトロジェン)、およびPGV-P2(TOYO B-Net)を使用した。
【0050】
(a)で調製したAhR遺伝子のうち、SD系統ラットのAhR遺伝子は制限酵素HindIIIとXhoIで消化後、0.8% アガロースで電気泳動をおこない、対応するバンドを切り出して、QIA quick Gel Extraction Kit(キアゲン)で精製し、同様にHindIII と XhoIで消化したpcDNA4/V5-His Bに組み込み、SD系統ラットのAhR遺伝子発現ベクター;pcDNA4-rAhRとした。
【0051】
(a)で調製したもうひとつのAhR遺伝子、すなわちC57/BL6系統のマウスAhR遺伝子は、制限酵素HindIIIとXbaIで消化後、0.8% アガロースで電気泳動をおこない、対応するバンドを切り出して、QIA quick Gel Extraction Kitで精製し、同様にHindIIIとXbaIで消化したPGV-P2に組み込み、C57/BL6系統マウスのAhR遺伝子発現ベクター;PGV-mAhRとした。
【0052】
これらのAhR発現用ベクターはいずれも大腸菌TOP10(インビトロジェン社製)に導入して増幅と維持をおこなった。
【0053】
pcDNA4-rAhRに組み込んだラットのAhR遺伝子、およびPGV-mAhRに組み込んだマウスのAhR遺伝子は、シーケンシングにより、塩基配列に変異がないことを確認した(それぞれ配列番号10、配列番号11)。
【0054】
実施例2
TH転写制御領域を組み込んだベクター(PGV-THp25)の作製
制限酵素KpnIで消化したマウスのゲノム(クロンテック)を鋳型に、チロシン水酸化酵素(TH)の転写制御領域、約2.5 kbpをPCRで増幅した(配列番号1)。PCRで使用したプライマーには、5’末端に、PCR産物のベクターへの組み込みを容易にするための制限酵素KpnI(フォワードプライマー)、NheI(リバースプライマー)の認識配列を付加した。
【0055】
フォワードプライマー:5’-CGCGGTACCCTTCTCTGTGCCCACAGATGCTTTA-3’(配列番号16)
リバースプライマー:5’-GCAGCTAGCAAGCTGGTGGTCCCGAGTTCTGTCT-3’(配列番号17)。
【0056】
PCR酵素には、校正機能をもち、DNA複製時の変異導入効率が低い、α型の耐熱性DNAポリメラーゼ; Pyrobest DNA polymerase(タカラバイオ)を使用した。PCRで増幅したTHの転写制御領域は、制限酵素KpnIとNheIで消化後、0.8% アガロースで電気泳動をおこない、対応するバンドを切り出して、QIA quick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)で精製し、同じくKpnIとNheIで消化したPGV-B2ベクター(TOYO B-NET社)に組み込んだ。組み込みにはDNA連結酵素であるT4 DNAリガーゼを使用した。組み込み操作後、ベクターを大腸菌株(TOP10、Invitrogen社)に導入して、抗生物質(アンピシリン)によるスクリーニングをおこない、目的のベクターを保持する大腸菌を選択した。このように作製したベクターをPGV-THp25(図1)と名づけ、被験物質が転写活性に対して及ぼす作用を測定するためのベクターとして使用した。
【0057】
実施例3
PGV-THp25−導入細胞をもちいた、TCDDの転写制御に対する活性の測定(PGV-THp25−導入細胞をもちいた、TCDDの添加によるレポーター遺伝子の転写活性の測定)
実施例2で作製したPGV-THp25を使用した。細胞にはNeuro2aを使用した。
【0058】
PGV-THp25と同時に、2種類のベクター、pcDNA4-rAhR(実施例1)とpcDNA4/V5-His/lacZ(Invitrogen)をNeuro2aに導入した。pcDNA4-rAhR は細胞内でSD系統ラットのAhR遺伝子(配列番号10)を強制発現させるために、またpcDNA4/V5-His/lacZはベクターのトランスフェクション効率を標準化のために細胞に導入した。
【0059】
ベクターの細胞への導入は、リポフェクタミン2000(Invitrogen社)でおこなった。細胞の培養には24ウェル・プレートを使用し、操作はInvitrogen社のマニュアルに従った。Opti-MEM培地50μlに懸濁した計0.8 μgのベクター(0.4μgのPGV-THp25、0.2μgのpcDNA4-rAhR、および0.2μgのpcDNA4/V5-His/lacZ)と、同様にOpti-MEM培地50μlに懸濁した2μlのリポフェクタミン2000を混合して20分間室温に静置し、核酸/リポフェクタミン2000の複合体を形成させた。これをDF1:1培地(10% 牛胎児血清を含む)500μl中で予め一晩培養したNeuro2a(前日に0.8 x 105細胞で播種)に添加して、ベクターを細胞内に導入した。ベクター導入効率の向上と、導入ベクター由来のタンパク質発現を目的に、細胞はトランスフェクション後、さらに24時間培養した。
【0060】
ダイオキシン(2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン、TCDD)のジメチルスルフォキシド溶解品を使用した(関東化学社製)。トランスフェクション後、24時間培養した細胞から培地を取り除き、TCDD(0、0.01、1 、100nM)を含む新鮮な培地に換え、さらに30時間培養した。30時間後に24ウェル・プレートから培地を取り除き、細胞をリン酸緩衝液で2回洗浄した。タンパク質抽出用の溶液(TOYO B-NET社製)をウェルあたり100μlずつ加え、室温で15分間穏やかに攪拌したのち、-80℃で溶液を凍結させた。凍結した溶液は室温で解凍後、チューブに回収して、1 mg/ml牛血清アルブミンを含むタンパク質抽出用試薬で10倍に希釈して、ルシフェラーゼ活性とβ-ガラクトシダーゼ活性を測定し、レポーター遺伝子の発現量をβ-ガラクトシダーゼ ng 当たりの1秒間の相対発光強度(RLU /sec / ng β-galactosidase)に換算して表した。
【0061】
図2に示すように、PGV-pTH25を導入した細胞では、TCDD曝露量に対してレポーター遺伝子の発現量が用量依存性な増加を示した(0.01nM TCDD曝露で約1.2倍、1nM TCDD曝露で約1.6倍、100nM TCDD曝露で約1.8倍)。図2の結果より、PGV-pTH25導入細胞を用いることにより、TCDDが基質結合性を有する転写因子(アリルハイドロカーボン受容体)が転写活性に及ぼす作用を測定できることが確認された。
【0062】
実施例4
TH遺伝子の転写制御領域の同定(TCDDの結合した転写因子に応答する、TH遺伝子の転写制御領域の同定)
PGV-THp25に組み込んだ約2.5 kbpのTH転写制御領域を鋳型として、PCRで、-2.5kbp〜-500 bpまで、約500bpずつ短くした転写制御領域断片を得た。フォワードプライマーには、それぞれ異なるプライマーを使用した:
2.0 kbp用:5’-CGCGGTACCTGGGTTTGCCTCACCCTGCAATCCC-3’(配列番号18)、
1.5 kbp用:5’-CCAGGTACCGAGGTTAGGGAGTGTTCCCTTTGTA-3’(配列番号19)、
1.0 kbp 用:5’-CAGGGTACCGCTCAGCATAAGTCCCCTGTAGTAG-3’(配列番号20)、
500 bp用:5’- CGTGGTACCACATACACTGGGGCAGTGAGTAGAT-3’(配列番号21)。
【0063】
リバースプライマーは、共通のプライマー(5’-GCAGCTAGCAAGCTGGTGGTCCCGAGTTCTGTCT-3’(配列番号17))を使用した。プライマーの末端には、PCR増幅断片のベクターの組み込みを容易にするため、フォワードプライマーには制限酵素KpnIを、リバースプライマーには、NheIの認識配列を付加した。PCRには、Pyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社)を使用した。増幅したTHの転写制御領域断片は、制限酵素KpnIとNheIで消化後、アガロースで電気泳動をおこない、対応するバンドをQIA quick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)で精製したのち、同様にKpnIとNheIと消化したPGV-B2ベクター(TOYO B-NET社)に組み込んだ。
【0064】
これらのベクターを、実施例3と同様の方法でNeuro2aに導入したのち、10 nM TCDD曝露に対するレポーター遺伝子の発現量の変化を調べた(図3)。この結果、-2.5bp〜-500bpのTH転写制御領域を組み込んだ全てのベクターにおいて、TCDDに対する応答が確認されたことから、被験物質であるTCDDによる転写制御に関わる領域は、TH遺伝子のコーディング領域より上流約500 bp内に存在することが確認された。
【0065】
そこで、さらに被験物質の転写制御に応答する領域を絞り込むため、500 bpのTH転写制御領域を鋳型として、PCRにより、-500〜-100 bpまで、約100bpずつ短くした転写制御領域断片を得た。使用したフォワードプライマーは、以下の通りである。
【0066】
400 bp用:5’-CGGGGTACCAGATTTATTTGTCTCCAAGGGCTAT-3’(配列番号22)、
300 bp用:5’-CGGGGTACCATTAGAGAGCTCTAGATGTCTCCTG-3’(配列番号23)、
200 bp用:5’-CCCGGTACCCTAATGGGACGGAGGCCTCTCTCGT-3’(配列番号24)、
100 bp用:5’-CGGGGTACCGTGGGGGACCCAGAGGGGCTTTGAC-3’(配列番号25)。
【0067】
リバースプライマーは、共通のプライマー(5’-GCAGCTAGCAAGCTGGTGGTCCCGAGTTCTGTCT-3’(配列番号17))を使用した。プライマーの末端には、フォワードプライマーには制限酵素KpnIを、リバースプライマーにはNheIの認識配列を付加し、Pyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社)を使用してDNAを増幅した。増幅したTHの転写制御領域断片は、制限酵素KpnIとNheIで消化後、アガロースで電気泳動をおこない、対応するバンドをQIA quick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)で精製したのち、KpnIとNheIと消化したPGV-B2ベクター(TOYO B-NET社)に組み込んだ。
【0068】
作製したベクターは、2.5 kbp〜500 bpのベクターと同様の方法でNeuro2aに導入して、10 nMのTCDDに曝露して、レポーター遺伝子の発現変動を調べた。図4に示したように、500 bp、400 bp、300bpのTH転写制御領域を組み込んだベクターでは、TCDDに対する応答が確認されたが、200 bp、100 bpを組み込んだベクターではTCDDに対するレポーター遺伝子の応答性が確認されなかった。したがって、被験物質に対するTH遺伝子の転写制御には、コーディング領域より上流約300〜200 bpの領域(配列番号2)が関与することが示された。
【0069】
実施例5
被験物質の転写制御に対する活性の測定(PGH-THp03導入細胞を用いた、被験物質の添加によるレポーター遺伝子の転写活性の測定)
実施例5では、配列番号2のTH転写制御領域を使用した。
【0070】
実施例4で作製したTH遺伝子のコーディング領域より上流約-300 bpまでの領域(配列番号2)を組み込んだベクター(PGV-THp03)を使用した。細胞には、Neuro2aを使用した。PGV-THp03と同時に、2種類のベクター、pcDNA4-rAhR(実施例1)およびpcDNA4/V5-His/lacZ(Invitrogen)をNeuro2aに導入した。pcDNA4-rAhR は細胞内でSD系統ラットのAhR遺伝子(配列番号10)を強制発現させるために、またpcDNA4/V5-His/lacZはベクターのトランスフェクション効率を標準化のために細胞に導入した。
【0071】
ベクターの細胞への導入は、リポフェクタミン2000(Invitrogen社)でおこなった。細胞の培養には24ウェル・プレートを使用し、操作はInvitrogen社のマニュアルに従った。Opti-MEM培地50μl に懸濁した計0.8μgのベクター(0.4μgのPGV-THp03、0.2μgのpcDNA4-rAhR、および0.2μgのpcDNA4/V5-His/lacZ)と、同様にOpti-MEM培地50μlに懸濁した2μlのリポフェクタミン2000を混合して20分間室温に静置し、核酸/リポフェクタミン2000の複合体を形成させた。これをDF1:1培地(10% 牛胎児血清を含む)500μl中で予め一晩培養したNeuro2a(前日に0.8×105細胞で播種)に添加して、ベクターを細胞内に導入した。ベクター導入効率の向上と、導入ベクター由来のタンパク質発現を目的に、細胞はトランスフェクション後、さらに24時間培養した。
【0072】
被験物質には、ビンクロゾリン(10μM)、フタル酸ジメチル(10μM)、ベンゾピレン(1μM)、ダイオキシン(TCDD)(10nM)を使用した。トランスフェクション後、24時間培養した細胞から培地を取り除き、被験物質を含む新鮮な培地に換え、さらに30時間培養した。30時間後に24ウェル・プレートから培地を取り除き、細胞をリン酸緩衝液で2回洗浄した。タンパク質抽出用の溶液(TOYO B-NET社製)をウェルあたり100μlずつ加え、室温で15分間穏やかに攪拌したのち、-80℃で溶液を凍結させた。凍結した溶液は室温で解凍後、チューブに回収して、1mg/ml牛血清アルブミンを含むタンパク質抽出用試薬で10倍に希釈して、ルシフェラーゼ活性とβ-ガラクトシダーゼ活性を測定し、レポーター遺伝子の発現量をβ-ガラクトシダーゼng当たりの1秒間の相対発光強度(RLU/sec/ng β-ガラクトシダーゼ)に換算して表した。
【0073】
結果を図5に示した。アリルハイドロカーボン受容体(AhR)に結合し、活性化することがすでに知られているダイオキシン、ベンゾピレンにおいては、ダイオキシンでは約1.4倍(図5A)、ベンゾピレンでは約1.3倍(図5B)のルシフェラーゼ活性上昇が確認された。また、アンドロジェン受容体(AR)に結合することが知られているビンクロゾリンにおいても、AhRを導入した細胞において約1.3倍のルシフェラーゼ活性上昇が得られた(図5C)。一方、AhRを導入していない細胞においてルシフェラーゼ活性の変化は見られなかった。エストロジェン受容体(ER)に結合することが知られているフタル酸ジメチルにおいては、約1.2倍のルシフェラーゼ活性上昇が確認された(図5D)。すなわち、PGV-pTH03導入細胞において、基質結合性を有する、少なくとも3種類の転写因子(AhR、ER、AR)の転写活性に対して被験物質が及ぼす作用を測定できることが確認された。
【0074】
実施例6
TH転写制御領域(-300〜-200 bp)を用いた、被験物質の転写制御に対する活性の測定
実施例6では、配列番号3のTH転写制御領域(-300〜-200 bp)を使用した。TH転写制御領域の-300bp 〜-200bp領域は、500bpのTH転写制御領域を鋳型として、
フォワードプライマー:5’- CGGGGTACCATTAGAGAGCTCTAGATGTCTCCTG-3’(配列番号23)、
リバースプライマー:5’-GCCGCTAGCACGAGAGAGGCCTCCGTCCCATTAG-3’(配列番号26)、
を使用してPCRで取得した。使用したプライマーの末端には、PCR増幅断片のベクターの組み込みを容易にすることを目的に、制限酵素KpnI(フォワードプライマー)、NheI(リバースプライマー)の認識配列を付加し、Pyrobest DNA polymeraseを使用して、配列番号3に記載の領域を増幅した。増幅したDNA断片は、制限酵素KpnIとNheIで消化後、アガロースで電気泳動をおこない、対応するバンドをQIA quick Gel Extraction Kitで精製したのち、KpnIとNheIと消化したPGV-P2ベクターに組み込み、pSV40E100/Lucとした。ここで用いたベクターPGV-P2は、プロモーター領域として、SV40初期プロモーターを予め含む。
【0075】
さらに、TH遺伝子の上流約500bpの領域を鋳型として、フォワードプライマー:5’- CGGCTCGAGGTGGGGGACCCAGAGGGGCTTTGAC-3’(配列番号27)とリバースプライマー:5’- GCAAAGCTTAAGCTGGTGGTCCCGAGTTCTGTCT -3’(配列番号28)をプライマーとするPCRによって、配列番号5に記載の領域(マウスTH遺伝子コアプロモーター領域)を増幅した。増幅したDNAをXhoIとHindIIIで消化後、0.8% アガロースゲル電気泳動をおこない、ゲルから当該DNA断片を切り出して、QIA quick Gel Extraction Kitで精製した。精製した配列番号5に記載の塩基配列は、同様にXhoIとHindIIIで消化してSV40初期プロモーターを除いたPGV-P2とライゲーションキット(東洋紡)を用いて連結し、pTHE100/Lucとした。
【0076】
これらのベクター(pSV40E100/LucおよびpTHE100/Luc)は、大腸菌TOP10株(Invitrogen)に導入して、増幅と維持をおこなった。
【0077】
作製した2種類のベクター(配列番号3のTH転写制御領域+プロモーター+レポーター遺伝子)を図6(A)に示す。作製したベクターは、実施例3と同様の方法でNeuro2aに導入したのち、10nM TCDDに曝露して、レポーター遺伝子の発現量の変化を調べた。TH転写制御領域(配列番号3)をベクターに組み込むことにより、転写制御に対する被験物質活性を測定できることを確認した(図6(B))。さらに配列番号3とSV40初期プロモーターの組み合わせよりも配列番号3とTH遺伝子コア・プロモーターの組み合わせの方が高い被験物質応答性が得られることを確認した(図6(B))。
【0078】
実施例7
配列番号3に記載の領域を複数個組み込んだベクターの作製、および該ベクターを用いた、被験物質の転写制御に対する活性の測定
「実施例6においてPCRで増幅した配列番号3に記載の領域」の末端を、5’ポリヌクレオチドキナーゼ(タカラバイオ)でリン酸化した後、配列番号3に記載の領域を、ライゲーションキット(東洋紡)を用いてタンデムに連結した。連結したDNA断片を制限酵素KpnIとNheIで部分消化後、アガロースゲル電気泳動をおこない、配列番号3が3個あるいは5個タンデムに連結したDNA断片を、その分子量を基準にゲルから切り出し、QIA quick Gel Extraction Kitで精製した。これらのDNA断片を、KpnIとNheIで消化して配列番号3の領域を除いたpTHE100/Lucに連結して、配列番号3が3つタンデムに組み込まれたベクター;pTHE100x3/Luc、および5つタンデムに組み込まれたベクター;pTHE100x5/Lucベクターを作製した(図7A)。
【0079】
pTH100/Luc、pTHE100x3/Luc 、pTHE100x5/Lucを、実施例3と同様の方法でNeuro2aに導入したのち、10 nM のTCDDに曝露して、レポーター遺伝子の発現量の変化を調べた(図7B)。この結果、配列番号3を複数個、ベクターに組み込むことによって、転写制御に対する被験物質活性が増加することが示された。また、この転写制御に対する被験物質活性の増加は、配列番号3に記載の領域を3つ組込んだベクター;pTHE100x3/Lucで最大になった。
【0080】
さらにpTHE100x3/Lucを用いて、TCDD濃度に対する応答性、ならびにダイオキシン異性体に対する応答性を調べた。TCDD濃度に対する応答性は、実施例3と同様の方法でpTHE100x3/LucをNeuro2aに導入したのち、1〜10000 pM のTCDDに曝露して、レポーター遺伝子の発現量の変化を調べた。その結果、TCDD濃度10 pMまでレポーター遺伝子の発現が統計的に有意に増加することが示された(図8A)。一方、ダイオキシン異性体に対する応答性は、実施例3と同様の方法でpTHE100x3/LucをNeuro2aに導入したのち、細胞をTCDDを含む8種類のダイオキシン異性体、すなわち、1-monochloro-dibenzo-p-dioxin (1-MCDD)、2,7-dichloro-dibenzo-p-dioxin (2,7-DCDD)、1,2,3-trichloro-dibenzo-p-dioxin (1,2,3-TrCDD)、2,3,7,8-tetrachloro- dibenzo-p-dioxin (2,3,7,8-TCDD)、1,2,3,7,8-pentachloro-dibenzo-p-dioxin (1,2,3,7,8-PeCDD)、1,2,3,4,7,9-hexachloro-dibenzo-p-dioxin (1,2,3,7,9-HxDD)、1,2,3,4,6,7,8-heptachloro-dibenzo-p-dioxin (1,2,3,4,6,7,8-HpCDD)、および1,2,3,4,6,7,8,9-octachloro-dibenzo-p-dioxin (OCDD)に暴露して、転写制御に対する、これらの異性体活性を調べた。この結果、TCDDを含めて5種類のダイオキシン異性体が転写制御に影響を与えることが検出された(図8B)。
【0081】
実施例8
AhR遺伝子の種類(SD系統ラットのAhR、ならびにC57/BL6マウスのAhR)が、転写制御に対する被験物質の活性に与える効果
実施例8では、レポーター・ベクターにはpTHE100x3/Luc(実施例7、図7(A))を、細胞にはNeuro2aを使用した。
【0082】
本実験では、pTHE100x3/Lucと同時に導入するベクターとして、SD系統ラットのAhR遺伝子を組み込んだpcDNA4-rAhR(実施例1)とpcDNA4/V5-His/lacZ(Invitrogen)の組み合わせに加え、C57/BL6系統マウスのAhR遺伝子を組み込んだPGV-mAhR(実施例1)とpcDNA4/V5-His/lacZの組み合わせを使用して、測定をおこなった。pcDNA4-rAhR はSD系統ラットのAhR(配列番号10)を、PGV-mAhRはC57/BL6系統マウスのAhR(配列番号11)を強制発現させるために、pcDNA4/V5-His/lacZはベクターのトランスフェクション効率を標準化のために細胞に導入した。
【0083】
ベクターの細胞への導入は、実施例3に記載の方法と同様にリポフェクタミン2000を用いておこなった。細胞にベクターを導入後、1 〜 10000 pMのTCDDに暴露してレポーター遺伝子の発現の増加を調べたところ、両AhR(ラットのAhRおよびマウスのAhR)は共にTCDDに対するレポーター遺伝子の転写誘導を仲介するが、SD系統ラットのAhR遺伝子の方が、C57/BL6系統マウスのAhRに比べて、より強い応答性を引き起こすことが示された(図9)。
【0084】
実施例9
配列番号3に記載の領域内のTCDD応答領域の更なる絞込み、ならびに該応答領域を組み込んだベクターを用いた、被験物質の転写制御に対する活性の測定
実施例9では、配列番号4に記載した領域をTH転写制御領域内のTCDD応答領域として使用した。配列番号4に記載した領域は、配列番号3に記載の領域を鋳型として、
フォワードプライマー: 5’-AGCGGTACCCTGTCTTCATGTCGTGTCTAGG -3’(配列番号29)
リバースプライマー: 5’- AGCGCTAGCTGCATCCACTGTCGCAGGCACC -3’(配列番号30)
を使用して、Pyrobest DNA polymerase を用いたPCRにより増幅した。PCRで使用したプライマーの末端には、PCR増幅断片のベクターの組み込みを容易にすることを目的に、制限酵素KpnI(フォワードプライマー)、NheI(リバースプライマー)の認識配列を付加した。PCRで増幅した配列番号4に記載の領域の末端を、5’ポリヌクレオチドキナーゼ(タカラバイオ)でリン酸化した後、ライゲーションキットを用いてタンデムに連結した。連結したDNA断片を制限酵素KpnIとNheIで部分消化した後、アガロースゲル電気泳動をおこない、配列番号4の領域が1個、あるいはタンデムに3個連結されたDNA断片を、その分子量を基準としてゲルから切り出し、QIA quick Gel Extraction Kitで精製した。これらのDNA断片を、KpnIとNheIで消化して配列番号3の領域を除いたpTHE100/Lucに連結して、配列番号4の領域が1つ組み込まれたベクター;pTHE60/Lucと、配列番号4の領域が3つタンデムに組み込まれたベクター;pTHE60x3/Lucベクターを作製した(図10A)。
【0085】
作製したベクターは、実施例3と同様の方法でNeuro2aに導入したのち、1nM、10 nM のTCDDに暴露して、レポーター遺伝子の発現量の変化を調べた(図10B)。この結果、配列番号4を用いて作製したレポーター・ベクターの使用により、転写制御に対する被験物質活性を測定できることが確認され、そのベクターへの組み込み個数により被験物質活性が増加することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明のベクターPGV-pTH25の一態様を示す模式図。
【図2】本発明の一態様に係るベクターPGV-pTH25を導入した細胞による、TCDD暴露に対する発現産物の用量依存的な増加を示すグラフ。
【図3】種々の長さのTH転写領域を有する本発明の一態様に係るベクターによるTCDD暴露に対するレポーター遺伝子発現産物の産生量を示すグラフ。
【図4】種々の長さのTH転写領域を有する本発明の一態様に係るベクターによるTCDD暴露に対するレポーター遺伝子発現産物の産生量を示すグラフ。
【図5】種々の被検物質の存在下における本発明の一態様に係るベクターによるレポーター遺伝子の発現量を示すグラフ。
【図6】図6Aは、配列番号3のTH転写制御領域を含む本発明の一態様に係るベクターpSV40E100/LUCおよびpTHE100/LUCを示す概略図であり、図6Bは、被検物質TCDDの存在下における上記ベクターによるレポーター遺伝子の発現量を示すグラフである。
【図7】図7Aは、配列番号3のTH転写制御領域のタンデム繰返し配列(tandem repeat)を含む本発明の一態様に係るベクターpTHE100×3/LUCおよびpTHE100×5/LUCを示す概略図であり、図7Bは、TCDDの存在下における上記ベクターによるレポーター遺伝子の発現量を示すグラフである。
【図8】図8Aは、本発明の一態様に係るベクターのTCDD濃度に対する応答性を示すグラフであり、図8Bは、本発明の一態様に係るベクターのダイオキシン異性体に対する応答性を示すグラフである。
【図9】2種類のAhR(SD系統ラットのAhRおよびC57/BL6系統マウスのAhR)が、本発明の一態様に係るベクターpTHE100×3の転写制御に及ぼす効果を示すグラフ。
【図10】図10Aは、配列番号4のTH転写制御領域を含む本発明の一態様に係るベクターpTHE60/Lucおよび配列番号4のタンデム繰返し配列(tandem repeat)を含む本発明の一態様に係るベクターpTHE60×3/LUCを示す概略図であり、図10Bは、TCDDの存在下における上記ベクターによるレポーター遺伝子の発現量を示すグラフである。
【図11】ダイオキシン類がアリルハイドロカーボン受容体(AhR)を介して遺伝子の転写を活性化するメカニズムを模式的に示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験物質が基質依存型転写因子の活性化を介して遺伝子の転写活性に及ぼす効果を検出するためのベクターおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの生活や産業活動の発展に伴い、環境中に放出された化学物質による人体影響が重大な社会問題となっている。現在、工業的に製造される化学物質だけで10万種以上と推測され、さらにヒトの生活活動の中で非意図的に生成された多様な化学物質が環境中に放出されている。これらの化学物質の多くは人体に対する影響が未知であり、化学物質により惹起される疾患が危惧されている。
【0003】
環境中に存在する化学物質の中でも、核内受容体、つまり基質結合性を有する転写因子に作用する化学物質の人体への影響は深刻である。基質結合性を有する転写因子とは、基質との結合で活性化され、染色体上の標的遺伝子の転写制御領域に存在する転写制御因子の認識配列に結合し、該標的遺伝子の転写効率を変化させる機能をもつタンパク質である。これらの基質結合性を有する転写因子は、生物の恒常性の維持、生殖、発達、細胞分化、および薬物代謝などにおいて重要な役割を果たしており、転写制御因子による標的遺伝子の転写制御が正常におこなわれなくなると、遺伝子の発現量に異常が生じ、種々の疾患を惹起する例が知られている。そこで、環境中に存在する化学物質のうち、転写制御の異常による疾患を惹起することができる物質を検出し、化学物質の摂取を制限するか、または化学物質により惹起される疾患を治療や予防するために、基質結合性を有する転写因子の転写制御能に対する化学物質の活性測定法の開発が試みられている。
【0004】
このような転写制御能の活性測定法には、例えば基質結合性を有する転写因子の認識配列の下流にレポーター遺伝子を連結したベクターを細胞内に導入し、この細胞に被験物質を接触させて培養した際の前記レポーター遺伝子の発現量を測定することにより、基質結合性を有する転写因子の転写制御に対する被験物質の活性を測定する方法がある。多環芳香族炭化水素類(PAHs)と類似した被験物質の活性を測定する場合には、PAHsを基質とするアリルハイドロカーボン受容体(AhR)の認識配列である生体異物応答配列(XRE)の下流にレポーター遺伝子を連結したベクターを導入した細胞を用いてAhRの転写制御に対する被験物質の活性を測定する方法が提案されている(特許文献1および特許文献2)。また、被験物質の生殖機能への影響を測定する場合には、生殖機能を制御する基質結合性を有する転写因子である女性ホルモン(エストロジェン)受容体(ER)の認識配列であるエストロジェン応答配列(ERE)または男性ホルモン(アンドロジェン)受容体(AR)の認識配列であるアンドロジェン応答配列(ARE)の下流にレポーター遺伝子を連結したベクターを導入した細胞を用いてERやARの転写制御に対する被験物質の活性を測定する方法が提案されている(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、上記の方法においては、被験物質が基質依存型転写因子の活性化を介して遺伝子の転写活性化に及ぼす効果を、1つのベクターにつき1種類の基質結合性を有する転写因子に関してしか検出することしかできず、被験物質が基質依存型転写因子の活性化を介して遺伝子の転写活性化に及ぼす効果を、活性化転写因子のXRE、またはERE、またはAREへの結合性でしか検出できない。
【特許文献1】特開2000-253889号公報
【特許文献2】米国特許第5,854,010号公報
【特許文献3】特開2002-253231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、被験物質が基質結合性を有する転写因子の活性化を介して遺伝子の転写活性に及ぼす効果を、基質結合性を有する複数の転写因子について同時に検出できるベクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの側面によれば、配列番号1に記載の塩基配列(チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域)内の被験物質に応答して下流遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域、該エンハンサー領域の下流に機能的に連結されたプロモーター、および該プロモーターの下流に機能的に連結されたレポーター遺伝子を有するベクターが提供される。
【0008】
本発明の別の側面によれば、上記ベクターが哺乳類細胞に導入された、形質転換された哺乳類細胞が提供される。
【0009】
本発明の別の側面によれば、上記ベクターまたは上記細胞を含む、被験物質のダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を検出するためのキットが提供される。
【0010】
本発明の別の側面によれば、被験物質のダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を検出する方法であって、
(1)上記ベクターが導入された細胞を、被験物質の存在下および非存在下で培養する工程と、(2)工程(1)で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する工程と、(3)被験物質の存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値が、被験物質の非存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値より高い場合に、前記被験物質がダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を有すると評価する工程とを含む方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
鋭意研究の結果、チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域の一部と、該配列の下流に機能的に連結したプロモーターとレポーター遺伝子を組み込んだベクターを導入した細胞をもちいたレポータージーンアッセイにより、被験物質がアリルハイドロカーボン受容体およびエストロジェン受容体およびアンドロジェン受容体の活性化を介して遺伝子の転写活性に及ぼす効果を検出できることを見出し、本発明に至った。本発明により、1つのベクターで、基質結合性を有する複数の転写因子による遺伝子の転写活性を検出できる方法が開発された。
【0012】
1.ベクター
以下、本発明のベクターについて詳細に説明する。
【0013】
本発明のベクターは、チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域内の被験物質に応答して下流遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域と、該領域の下流に機能的に連結されたプロモーターおよびレポーター遺伝子とを有するベクターを有する。
【0014】
(1)エンハンサー領域
上記、チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域は、たとえば配列番号1に記載の領域(2.5 kb)である。本発明において「チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域」は、任意の生物のチロシン水酸化酵素遺伝子の5’上流領域(2500 bp)であり得、たとえば、ヒト、マウス、またはラットのチロシン水酸化酵素遺伝子の5’上流領域(2500 bp)であり得る。
【0015】
上記被験物質は、ダイオキシン様活性を有する物質、エストロジェン様活性を有する物質、またはアンドロジェン様活性を有する物質であり得る。本発明者らは、ダイオキシン様活性を有する物質、エストロジェン様活性を有する物質、アンドロジェン様活性を有する物質のそれぞれが、当該エンハンサー領域に作用して下流遺伝子の転写活性を増強できることを本発明において見出した。ダイオキシン様活性を有する物質は、アリルハイドロカーボン受容体と複合体を形成し、かかる複合体がエンハンサー領域に結合し、これにより下流遺伝子の転写活性を増強すると推定される。図11にアリルハイドロカーボン受容体(AhR)による遺伝子の転写活性化メカニズムのひとつを示す。TCDDなどのダイオキシン類は、細胞内のAhRに結合して複合体を形成し、遺伝子の特定の配列(すなわち、異物応答エレメントXRE; 5’- GCGTG -3’)に結合することにより、下流遺伝子(たとえば、薬物代謝酵素CYP1A1)の発現を活性化することが知られている。図11において、HSPは熱ショックタンパク質(heat shock protein)を示し、Arntは、アリルハイドロカーボン受容体核内トランスロケーター(aryl hydrocarbon receptor nuclear translocator)を示す。同様にエストロジェン様活性を有する物質は、細胞内のエストロジェン受容体に結合して、遺伝子の特定の配列(女性ホルモン応答配列ERE; 5’- GGTCAnnnTGACC -3’, nは任意のヌクレオチド)に結合することにより、アンドロジェン様活性を有する物質は、細胞内のアンドロジェン受容体に結合して、遺伝子の特定の配列(男性ホルモン応答配列 ARE; 5’- GG[A or T]ACAnnnTGTTCT -3’, nは任意のヌクレオチド)に結合することにより、下流の遺伝子の発現を活性化することが知られている。
【0016】
上記「被験物質に応答して下流遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」は、配列番号1に記載の配列の全長を有していてもよいが、配列番号1に記載の配列の一部の領域であって、被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する領域であることもできる。本明細書において、「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する」とは、本発明のベクターが導入された細胞を被検物質の存在下で培養した場合に、該領域の下流に機能的に連結されたレポーター遺伝子の発現量が増大されることをいう。
【0017】
上記「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」は、たとえば配列番号2に記載の配列(315 bp)からなる領域、配列番号3に記載の配列(143 bp)からなる領域、または配列番号4に記載の配列(67 bp)からなる領域である。エンハンサー領域として使用される配列番号1〜3の塩基配列は、それぞれ、全長を有していてもよいが、配列番号4の塩基配列(67 bp)に相当する領域が含まれていれば、一部の領域であってもよい。
【0018】
配列番号2に記載の配列からなる領域は、プロモーター活性を増強する領域とプロモーター活性を有する領域とを含む。一方、配列番号3に記載の配列からなる領域は、プロモーター活性を増強する領域を含むが、プロモーター活性を有する領域を含まない。配列番号4に記載の配列からなる領域は、プロモーター活性を増強する領域を含むが、プロモーター活性を有する領域を含まない。このように、上記「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」は、配列番号2のようにプロモーター活性を有する領域を含んでいてもよく、または配列番号3および配列番号4のようにプロモーター活性を有する領域を含んでいなくてもよい。当業者であれば、配列番号1に記載された配列において、このような転写制御領域が厳密に定義されるものではなく、ある程度の柔軟性をもって定義される領域であることが明らかであろう。たとえば、このような「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」は、配列番号1に記載の配列の全長よりも短い配列の転写制御領域を実際に作製することによって、簡単に試験することができる。具体的には、以下の実施例に示した約2.5kbpのTH遺伝子の転写制御領域を鋳型として、何塩基か短くしたものをPCRなどによって作製し、これを本発明のベクターに機能的に組み込んだベクターを作製する。次いで、この短い転写制御領域を有するベクターを細胞に導入する。次いで、導入細胞を被検物質と共に培養し、レポーター遺伝子の発現量を測定する。その結果、被検物質の非存在下で培養した細胞よりもレポーター遺伝子の発現量が高ければ、この短い転写制御領域も、「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」として同定される。
【0019】
また、上記「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」は、配列番号1に記載の配列、および配列番号1に記載の配列の一部の領域であって、被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する領域だけでなく、これらの領域の配列と実質的に同一である配列およびこれらの一部の領域であって、被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する領域も含まれる。ここで、「実質的に同一である」とは、配列番号1の配列に1または数個の欠失、置換、付加等の変異が生じた配列を意味する。このような変異を有する配列は、たとえば配列番号1の配列をもとにしたポイントミューテーション法またはPCRベースの方法などによって取得することができる。また、「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する領域」であるか否かは、取得した変異を有する配列を使用して、上記のとおりに試験することによって確認することができる。
【0020】
さらに、上記配列番号1に記載の配列は、マウスに由来するTH遺伝子の転写制御領域であるが、その他の種に由来の配列番号1に対応するTH遺伝子の転写制御領域を使用することができる。
【0021】
上記エンハンサー領域は、本発明のベクター内にタンデム繰返し配列(tandem repeat)として含有されていてもよい(後述の実施例7および9参照)。具体的には、配列番号3により示されるエンハンサー領域、または配列番号4により示されるエンハンサー領域が、本発明のベクター内にタンデム繰返し配列(tandem repeat)として含有されていてもよい。繰返し配列は、たとえば2〜10個のエンハンサー領域から構成され得る。繰返し配列は、正方向(5’→3’方向)のエンハンサー領域を含んでいてもよいし、逆方向(3’→5’方向)のエンハンサー領域を含んでいてもよい。たとえば、繰返し配列は、すべてが正方向(5’→3’方向)のエンハンサー領域から構成されていてもよいし、すべてが逆方向(3’→5’方向)のエンハンサー領域から構成されていてもよいし、正方向(5’→3’方向)のエンハンサー領域と逆方向(3’→5’方向)のエンハンサー領域の組合せから構成されていてもよい。
【0022】
(2)プロモーター
また、本発明のベクターは、上記「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」に加えて、該領域の下流に機能的に連結されたプロモーターおよびレポーター遺伝子を含む。「機能的に連結された」とは、連結された領域が、その領域の機能を発揮するように連結されていることを意味する。たとえば、プロモーターまたはレポーター遺伝子が「機能的に連結された」とは、本発明のベクター内においてプロモーター活性を発揮し、レポーター遺伝子の発現を増強させるように連結されていることをいう。また、レポーター遺伝子が「機能的に連結された」とは、本発明のベクター内において、「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する領域」やプロモーターの作用によって該レポーター遺伝子が発現されるように連結されていることをいう。
【0023】
本発明のプロモーターは、上記配列番号1に記載された配列内のプロモーターであってもよい。たとえば、本発明のベクターに配列番号1および2を使用した場合は、これらの配列内にプロモーター活性を有する領域が含まれており、さらなるプロモーター領域を含まなくてもよい。
【0024】
一方、「被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域」として配列番号3または配列番号4を使用した場合は、プロモーター活性を有する領域を組み込む必要がある。その他のプロモーターには、宿主細胞内で機能的なプロモーターであれば、任意のプロモーターを使用することができる。好ましくは、哺乳類細胞において活性を有するプロモーターであり、たとえば、配列番号5のチロシン水酸化酵素遺伝子のコアプロモーターを使用することができる。あるいは、たとえばシミアンウイルス(SV40)の初期プロモーター(配列番号6)もしくはシミアンウイルス(SV40)の後期プロモーター(配列番号7)、ヒトヘルペスウイルス1チミジンキナーゼ(TK)プロモーター(配列番号8)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(配列番号9)などが挙げられる(後述の実施例6参照)。当業者であればさらに宿主生物に適した適切なプロモーターを選択することは極めて容易であろう。
【0025】
(3)レポーター遺伝子
本発明のレポーター遺伝子は、当該技術分野において既知の何れのレポーター遺伝子を使用することもできる。レポーター遺伝子は、その産物の活性が簡単に測定でき、測定バックグラウンドの低いものが好ましく、たとえばこのような遺伝子として、遺伝子産物を発光で検出できるルシフェラーゼ遺伝子、蛍光で検出できる緑色蛍光タンパク質遺伝子、発色で検出できるβ−ガラクトシダーゼ遺伝子、放射線活性で検出できるクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。
【0026】
(4)他のエレメント
本発明のベクターは、上記領域の他に、種々のエレメントを含むことができる。たとえば、適切な微生物内で機能する複製起点および薬剤耐性遺伝子などを組み込むことができる。また、ベクターを細胞の染色体上に組み込んで安定に保持させるために、ベクター内に哺乳類用の薬剤体制遺伝子を組み込んでおくことができる。このような哺乳類用の薬剤耐性遺伝子には、たとえばゼオシン耐性遺伝子およびハイグロマイシン耐性遺伝子などがあげられる。また、マルチクローニングサイトなどの適切な制限酵素部位を有することもできる。
【0027】
本発明のベクターは、環状のプラスミドDNA、ウイルスベクターDNA、直鎖のDNA断片など任意の形態であり得る。
【0028】
(5)ベクターの作製方法
上記ベクターは、当業者に既知の何れの方法を使用して作製することもできるが、例えば以下の通りに作製することができる。
【0029】
(a)チロシン水酸化酵素(TH)遺伝子の転写制御領域の調製
TH遺伝子の転写制御領域は、その塩基配列が明らかとなっているので、たとえばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して単離することができる。PCRの鋳型として使用できる核酸には、たとえば任意の細胞から抽出したゲノムDNAを使用すればよい。たとえば、実施例に示したとおりのプライマーを使用して配列番号1に示した塩基配列を増幅することができる。
【0030】
(b)ベクターの作製
次いで、上記TH遺伝子の転写制御領域をベクターに組み込む。ベクターの作製は、(a)で作製したTH遺伝子の転写制御領域を、レポーター遺伝子が機能する形で連結することにより作製する。作製したベクターは、少なくともTH遺伝子の転写制御領域部分の塩基配列をシーケンシングし、遺伝子に変異が導入されていないことを確認することが好ましい。
【0031】
本発明に使用されるベクターは、市販のものを使用することができる。たとえば、PGV-B2ベクターやPGV-P2ベクター(TOYO B-NET社)を使用することにより、(a)で作製したTH遺伝子の転写制御領域をベクターに組み込むだけで本発明のベクターを作製することができる。
【0032】
2.細胞
次に、本発明は、上記ベクターが導入された細胞を提供する。上記ベクターが導入された形質転換細胞は、ダイオキシン様活性を有する物質、エストロジェン様活性を有する物質、アンドロジェン様活性を有する物質を検出するために使用することができる。
【0033】
本発明のベクターを導入するための宿主細胞は、何れの細胞であることもできるが、哺乳類細胞であることが好ましい。哺乳類細胞の種類は、導入されるTH遺伝子の転写制御領域が機能する細胞であればよく、たとえば初代培養細胞であっても、不死化した培養細胞であってもよい。すなわち、哺乳類細胞の種類は、アリルハイドロカーボン受容体、エストロジェン受容体、アンドロジェン受容体の少なくとも一種類を有する細胞であればよい。あるいは、アリルハイドロカーボン受容体をコードする遺伝子、エストロジェン受容体をコードする遺伝子、アンドロジェン受容体をコードする遺伝子の少なくとも一種類を哺乳類細胞に導入してもよい(後述の実施例3参照)。
【0034】
好ましくは、宿主細胞は、アリルハイドロカーボン受容体を発現している哺乳類細胞である。哺乳類細胞は、たとえば、ヒト細胞、マウス細胞またはラット細胞である。「アリルハイドロカーボン受容体を発現している哺乳類細胞」とは、生得的に(inherently)アリルハイドロカーボン受容体を発現している哺乳類細胞であってもよいし、あるいはアリルハイドロカーボン受容体をコードする遺伝子を哺乳類細胞に導入することにより調製された遺伝子導入細胞であってもよい。
【0035】
アリルハイドロカーボン受容体をコードする遺伝子(AhR遺伝子)を哺乳類細胞に導入する場合、導入されるAhR遺伝子は、任意の哺乳類に由来するAhR遺伝子であり得、たとえばヒトに由来するAhR遺伝子、マウスに由来するAhR遺伝子、またはラットに由来するAhR遺伝子であり得る。SDラットに由来するAhR遺伝子を配列番号10に示し、C57/BL6マウスに由来するAhR遺伝子を配列番号11に示す。AhR遺伝子は、当該遺伝子によりコードされるアリルハイドロカーボン受容体が、リガンド結合型の転写因子として機能する限り、数個の塩基の置換、欠失、付加を含んでいてもよい。
【0036】
特に、宿主細胞は、神経由来の細胞、とりわけ中枢神経系に由来する細胞であることが望ましい。神経由来細胞は、たとえば、ヒト神経由来細胞、マウス神経由来細胞またはラット神経由来細胞である。具体的には、神経芽細胞腫、とりわけマウスの神経芽細胞腫であるNeuro2aなどを使用することができる。特に好ましくは、アリルハイドロカーボン受容体をコードする遺伝子をマウスの神経芽細胞腫Neuro2aに導入した細胞を宿主細胞として使用することができる。その一例として、ラットのアリルハイドロカーボン受容体をコードする遺伝子をマウスの神経芽細胞腫Neuro2aに導入した細胞は、ブダペスト条約上の国際寄託機関である、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、受託番号FERM BP-10341、FERM BP-10342が付与されている。
【0037】
また、宿主細胞への本発明のベクターの導入は一過的であっても、安定な導入であってもよい。たとえば、ベクターを一過的な導入の例では、哺乳類細胞を培養容器に播き、10%牛胎児血清を含むMEMダルベッコ・ハムF12等比混合(DF1:1)培地などの培地中において5% CO2条件下で37℃において数時間から1晩程度インキュベートする。このように培養した細胞に上記ベクターを導入する。細胞への上記ベクターの導入法としては、たとえばリポフェクタミン法、エレクトロポレーション法、DEAE-デキストラン法、リン酸カルシウム法などの当業者に既知のいずれの方法を使用して行うこともできる。たとえば、リポフェクタミン2000(インビトロジェン社製)を使用することもでき、市販のマニュアルに従って、導入するベクターの量、リポフェクタミン2000の量、および細胞数などをあらかじめ決定しておくことが好ましい。また、細胞に導入するベクターは、適当な制限酵素で消化して直鎖状にしてから導入してもよい。
【0038】
一方、本発明のベクターの安定な導入も、当該技術分野におい既知のいずれの方法を使用して行うことができる。たとえば、上記ベクターを作製する際に、薬剤耐性遺伝子を含有するベクターを作製し、薬剤耐性遺伝子を含むベクターを上記一過的な場合と同様に細胞に導入する。次いで、適切な濃度の薬剤を含有する培地中でベクターを導入した細胞を適切な期間培養する。その結果、薬剤耐性遺伝子を含有する細胞、すなわちベクターが安定に導入された細胞のみが生存することとなる。
【0039】
3.検出方法
次に、本発明のベクターが導入された細胞を用いて、被験物質のダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を検出する方法について詳細に説明する。
【0040】
まず、上記本発明のベクターが導入された細胞を、被験物質の存在下および非存在下で(すなわち、被験物質を未曝露の条件下と曝露条件下で)培養する。被験物質存在下での培養時間は、使用する哺乳動物細胞に応じて、適切な時間を予備実験によりあらかじめ決定するのが望ましい。適切な培養時間は、被験物質の存在によってレポーター遺伝子の発現が誘導されて、その発現産物が検出できる程度の時間である。このような培養時間は、使用する細胞、培地、培養温度、被検物質濃度などの種々の条件によって異なることが当業者には明らかであろう。そして、当業者であれば、上記条件に応じて、適切な培養時間を容易に決定することができると考えられ、通常は2時間〜3日程度、たとえば1時間、10時間、24時間、30時間以上培養することによって、レポーター遺伝子の発現産物を検出することができると考えられる。
【0041】
次いで、本発明の方法では、それぞれの細胞におけるレポーター遺伝子の発現産物の発現量を測定する。発現産物は、使用するレポーター遺伝子に応じて種々の検出方法によって検出ことができる。たとえば、発現産物の種類に応じて、タンパク質を抽出する工程を含む。タンパク質の抽出方法は、ベクターに使用したレポーター遺伝子の種類に応じて、公知の最適な抽出法をもちいればよい。次いで、抽出したタンパク質中のレポーター遺伝子の発現産物量をレポーター遺伝子の種類に応じた方法で測定する。被検物質の存在下と非存在下におけるレポーター遺伝子の発現量の比較をおこなう。
【0042】
その結果、被検物質の存在下と非存在下におけるレポーター遺伝子の発現量の差分により、被験物質が、「TH遺伝子の転写制御領域内の被験物質に応答して遺伝子の転写活性を増強する領域」に及ぼす活性を判断することができる。すなわち、被験物質の存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値が、被験物質の非存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値より高い場合に、前記被験物質がダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性の何れかの活性を有すると評価される。
【0043】
具体的には、エストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を検出するためには、配列番号1に記載の塩基配列(2.5 kb)を含むベクターが導入された細胞、または配列番号2に記載の塩基配列(315 bp)を含むベクターが導入された細胞を使用することが好ましい。また、ダイオキシン様活性を検出するためには、配列番号1に記載の塩基配列(2.5 kb)を含むベクターが導入された細胞、配列番号2に記載の塩基配列(315 bp)を含むベクターが導入された細胞、配列番号3に記載の塩基配列(143 bp)を含むベクターが導入された細胞、配列番号4に記載の塩基配列(67 bp)を含むベクターが導入された細胞のいずれも好ましく使用することができる。
【0044】
本発明の好ましい態様に従えば、配列番号4に記載の塩基配列(67 bp)を含むベクターが導入された細胞を用いて、被験物質のダイオキシン様活性を検出することができる。
【実施例】
【0045】
実施例1
アリルハイドロカーボン受容体を組み込んだ発現ベクターの調製
(a)SD系統ラット、およびC57/BL6マウスのAhR遺伝子の調製
SD系統のラットの脳から全RNAを抽出して、これを鋳型にオリゴ(dT)プライマーをもちいて逆転写した。この逆転写したサンプルから、Pyrobest DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)を用いたPCR(変性:94℃ 1分、アニーリング:55℃ 1分、伸長:72℃ 4分を1サイクルとして25サイクルの反応)により、SD系統ラットのAhR遺伝子コーディング領域を増幅した。プライマーにはSD系統のAhR遺伝子に特異的な下記プライマーを使用した。プライマーの5’末端には、PCR産物のベクターへの組み込みを容易にするための制限酵素HindIII(フォワードプライマー)、XhoI(リバースプライマー)の認識配列を付加した。
【0046】
フォワードプライマー:5’- CCCAAGCTTACCATGAGCAGCGGCGCCAACATCA -3’(配列番号12)
リバースプライマー: 5’- CCGCTCGAGAGGAATCCGCTGGGTGTGATATCAG -3’(配列番号13)。
【0047】
また、C57/BL6系統のマウスの肝臓から全RNAを抽出し、これを鋳型として上記と同様の反応条件でPCRをおこない、C57/BL6系統マウスのAhR遺伝子コーディング領域を増幅した。プライマーにはC57/BL6系統のマウスAhR遺伝子に特異的な下記プライマーをもちいた。プライマーの5’末端は、PCR産物のベクターへの組み込みを用意にするために制限酵素HindIII(フォワードプライマー)、XbaI(リバースプライマー)の認識配列を付加した。
【0048】
フォワードプライマー:5’- CCCAAGCTTATGAGCAGCGGCGCCAACATCACC -3’(配列番号14)
リバースプライマー:5’- CCCTCTAGATCAACTCTGCACCTTGCTTAGGAA -3’(配列番号15)。
【0049】
(b)AhR遺伝子発現用ベクターの構築
(a)で調製したAhR遺伝子を発現させるためのベクターには、pcDNA4/V5-His B(インビトロジェン)、およびPGV-P2(TOYO B-Net)を使用した。
【0050】
(a)で調製したAhR遺伝子のうち、SD系統ラットのAhR遺伝子は制限酵素HindIIIとXhoIで消化後、0.8% アガロースで電気泳動をおこない、対応するバンドを切り出して、QIA quick Gel Extraction Kit(キアゲン)で精製し、同様にHindIII と XhoIで消化したpcDNA4/V5-His Bに組み込み、SD系統ラットのAhR遺伝子発現ベクター;pcDNA4-rAhRとした。
【0051】
(a)で調製したもうひとつのAhR遺伝子、すなわちC57/BL6系統のマウスAhR遺伝子は、制限酵素HindIIIとXbaIで消化後、0.8% アガロースで電気泳動をおこない、対応するバンドを切り出して、QIA quick Gel Extraction Kitで精製し、同様にHindIIIとXbaIで消化したPGV-P2に組み込み、C57/BL6系統マウスのAhR遺伝子発現ベクター;PGV-mAhRとした。
【0052】
これらのAhR発現用ベクターはいずれも大腸菌TOP10(インビトロジェン社製)に導入して増幅と維持をおこなった。
【0053】
pcDNA4-rAhRに組み込んだラットのAhR遺伝子、およびPGV-mAhRに組み込んだマウスのAhR遺伝子は、シーケンシングにより、塩基配列に変異がないことを確認した(それぞれ配列番号10、配列番号11)。
【0054】
実施例2
TH転写制御領域を組み込んだベクター(PGV-THp25)の作製
制限酵素KpnIで消化したマウスのゲノム(クロンテック)を鋳型に、チロシン水酸化酵素(TH)の転写制御領域、約2.5 kbpをPCRで増幅した(配列番号1)。PCRで使用したプライマーには、5’末端に、PCR産物のベクターへの組み込みを容易にするための制限酵素KpnI(フォワードプライマー)、NheI(リバースプライマー)の認識配列を付加した。
【0055】
フォワードプライマー:5’-CGCGGTACCCTTCTCTGTGCCCACAGATGCTTTA-3’(配列番号16)
リバースプライマー:5’-GCAGCTAGCAAGCTGGTGGTCCCGAGTTCTGTCT-3’(配列番号17)。
【0056】
PCR酵素には、校正機能をもち、DNA複製時の変異導入効率が低い、α型の耐熱性DNAポリメラーゼ; Pyrobest DNA polymerase(タカラバイオ)を使用した。PCRで増幅したTHの転写制御領域は、制限酵素KpnIとNheIで消化後、0.8% アガロースで電気泳動をおこない、対応するバンドを切り出して、QIA quick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)で精製し、同じくKpnIとNheIで消化したPGV-B2ベクター(TOYO B-NET社)に組み込んだ。組み込みにはDNA連結酵素であるT4 DNAリガーゼを使用した。組み込み操作後、ベクターを大腸菌株(TOP10、Invitrogen社)に導入して、抗生物質(アンピシリン)によるスクリーニングをおこない、目的のベクターを保持する大腸菌を選択した。このように作製したベクターをPGV-THp25(図1)と名づけ、被験物質が転写活性に対して及ぼす作用を測定するためのベクターとして使用した。
【0057】
実施例3
PGV-THp25−導入細胞をもちいた、TCDDの転写制御に対する活性の測定(PGV-THp25−導入細胞をもちいた、TCDDの添加によるレポーター遺伝子の転写活性の測定)
実施例2で作製したPGV-THp25を使用した。細胞にはNeuro2aを使用した。
【0058】
PGV-THp25と同時に、2種類のベクター、pcDNA4-rAhR(実施例1)とpcDNA4/V5-His/lacZ(Invitrogen)をNeuro2aに導入した。pcDNA4-rAhR は細胞内でSD系統ラットのAhR遺伝子(配列番号10)を強制発現させるために、またpcDNA4/V5-His/lacZはベクターのトランスフェクション効率を標準化のために細胞に導入した。
【0059】
ベクターの細胞への導入は、リポフェクタミン2000(Invitrogen社)でおこなった。細胞の培養には24ウェル・プレートを使用し、操作はInvitrogen社のマニュアルに従った。Opti-MEM培地50μlに懸濁した計0.8 μgのベクター(0.4μgのPGV-THp25、0.2μgのpcDNA4-rAhR、および0.2μgのpcDNA4/V5-His/lacZ)と、同様にOpti-MEM培地50μlに懸濁した2μlのリポフェクタミン2000を混合して20分間室温に静置し、核酸/リポフェクタミン2000の複合体を形成させた。これをDF1:1培地(10% 牛胎児血清を含む)500μl中で予め一晩培養したNeuro2a(前日に0.8 x 105細胞で播種)に添加して、ベクターを細胞内に導入した。ベクター導入効率の向上と、導入ベクター由来のタンパク質発現を目的に、細胞はトランスフェクション後、さらに24時間培養した。
【0060】
ダイオキシン(2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ-p-ジオキシン、TCDD)のジメチルスルフォキシド溶解品を使用した(関東化学社製)。トランスフェクション後、24時間培養した細胞から培地を取り除き、TCDD(0、0.01、1 、100nM)を含む新鮮な培地に換え、さらに30時間培養した。30時間後に24ウェル・プレートから培地を取り除き、細胞をリン酸緩衝液で2回洗浄した。タンパク質抽出用の溶液(TOYO B-NET社製)をウェルあたり100μlずつ加え、室温で15分間穏やかに攪拌したのち、-80℃で溶液を凍結させた。凍結した溶液は室温で解凍後、チューブに回収して、1 mg/ml牛血清アルブミンを含むタンパク質抽出用試薬で10倍に希釈して、ルシフェラーゼ活性とβ-ガラクトシダーゼ活性を測定し、レポーター遺伝子の発現量をβ-ガラクトシダーゼ ng 当たりの1秒間の相対発光強度(RLU /sec / ng β-galactosidase)に換算して表した。
【0061】
図2に示すように、PGV-pTH25を導入した細胞では、TCDD曝露量に対してレポーター遺伝子の発現量が用量依存性な増加を示した(0.01nM TCDD曝露で約1.2倍、1nM TCDD曝露で約1.6倍、100nM TCDD曝露で約1.8倍)。図2の結果より、PGV-pTH25導入細胞を用いることにより、TCDDが基質結合性を有する転写因子(アリルハイドロカーボン受容体)が転写活性に及ぼす作用を測定できることが確認された。
【0062】
実施例4
TH遺伝子の転写制御領域の同定(TCDDの結合した転写因子に応答する、TH遺伝子の転写制御領域の同定)
PGV-THp25に組み込んだ約2.5 kbpのTH転写制御領域を鋳型として、PCRで、-2.5kbp〜-500 bpまで、約500bpずつ短くした転写制御領域断片を得た。フォワードプライマーには、それぞれ異なるプライマーを使用した:
2.0 kbp用:5’-CGCGGTACCTGGGTTTGCCTCACCCTGCAATCCC-3’(配列番号18)、
1.5 kbp用:5’-CCAGGTACCGAGGTTAGGGAGTGTTCCCTTTGTA-3’(配列番号19)、
1.0 kbp 用:5’-CAGGGTACCGCTCAGCATAAGTCCCCTGTAGTAG-3’(配列番号20)、
500 bp用:5’- CGTGGTACCACATACACTGGGGCAGTGAGTAGAT-3’(配列番号21)。
【0063】
リバースプライマーは、共通のプライマー(5’-GCAGCTAGCAAGCTGGTGGTCCCGAGTTCTGTCT-3’(配列番号17))を使用した。プライマーの末端には、PCR増幅断片のベクターの組み込みを容易にするため、フォワードプライマーには制限酵素KpnIを、リバースプライマーには、NheIの認識配列を付加した。PCRには、Pyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社)を使用した。増幅したTHの転写制御領域断片は、制限酵素KpnIとNheIで消化後、アガロースで電気泳動をおこない、対応するバンドをQIA quick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)で精製したのち、同様にKpnIとNheIと消化したPGV-B2ベクター(TOYO B-NET社)に組み込んだ。
【0064】
これらのベクターを、実施例3と同様の方法でNeuro2aに導入したのち、10 nM TCDD曝露に対するレポーター遺伝子の発現量の変化を調べた(図3)。この結果、-2.5bp〜-500bpのTH転写制御領域を組み込んだ全てのベクターにおいて、TCDDに対する応答が確認されたことから、被験物質であるTCDDによる転写制御に関わる領域は、TH遺伝子のコーディング領域より上流約500 bp内に存在することが確認された。
【0065】
そこで、さらに被験物質の転写制御に応答する領域を絞り込むため、500 bpのTH転写制御領域を鋳型として、PCRにより、-500〜-100 bpまで、約100bpずつ短くした転写制御領域断片を得た。使用したフォワードプライマーは、以下の通りである。
【0066】
400 bp用:5’-CGGGGTACCAGATTTATTTGTCTCCAAGGGCTAT-3’(配列番号22)、
300 bp用:5’-CGGGGTACCATTAGAGAGCTCTAGATGTCTCCTG-3’(配列番号23)、
200 bp用:5’-CCCGGTACCCTAATGGGACGGAGGCCTCTCTCGT-3’(配列番号24)、
100 bp用:5’-CGGGGTACCGTGGGGGACCCAGAGGGGCTTTGAC-3’(配列番号25)。
【0067】
リバースプライマーは、共通のプライマー(5’-GCAGCTAGCAAGCTGGTGGTCCCGAGTTCTGTCT-3’(配列番号17))を使用した。プライマーの末端には、フォワードプライマーには制限酵素KpnIを、リバースプライマーにはNheIの認識配列を付加し、Pyrobest DNA polymerase(タカラバイオ社)を使用してDNAを増幅した。増幅したTHの転写制御領域断片は、制限酵素KpnIとNheIで消化後、アガロースで電気泳動をおこない、対応するバンドをQIA quick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)で精製したのち、KpnIとNheIと消化したPGV-B2ベクター(TOYO B-NET社)に組み込んだ。
【0068】
作製したベクターは、2.5 kbp〜500 bpのベクターと同様の方法でNeuro2aに導入して、10 nMのTCDDに曝露して、レポーター遺伝子の発現変動を調べた。図4に示したように、500 bp、400 bp、300bpのTH転写制御領域を組み込んだベクターでは、TCDDに対する応答が確認されたが、200 bp、100 bpを組み込んだベクターではTCDDに対するレポーター遺伝子の応答性が確認されなかった。したがって、被験物質に対するTH遺伝子の転写制御には、コーディング領域より上流約300〜200 bpの領域(配列番号2)が関与することが示された。
【0069】
実施例5
被験物質の転写制御に対する活性の測定(PGH-THp03導入細胞を用いた、被験物質の添加によるレポーター遺伝子の転写活性の測定)
実施例5では、配列番号2のTH転写制御領域を使用した。
【0070】
実施例4で作製したTH遺伝子のコーディング領域より上流約-300 bpまでの領域(配列番号2)を組み込んだベクター(PGV-THp03)を使用した。細胞には、Neuro2aを使用した。PGV-THp03と同時に、2種類のベクター、pcDNA4-rAhR(実施例1)およびpcDNA4/V5-His/lacZ(Invitrogen)をNeuro2aに導入した。pcDNA4-rAhR は細胞内でSD系統ラットのAhR遺伝子(配列番号10)を強制発現させるために、またpcDNA4/V5-His/lacZはベクターのトランスフェクション効率を標準化のために細胞に導入した。
【0071】
ベクターの細胞への導入は、リポフェクタミン2000(Invitrogen社)でおこなった。細胞の培養には24ウェル・プレートを使用し、操作はInvitrogen社のマニュアルに従った。Opti-MEM培地50μl に懸濁した計0.8μgのベクター(0.4μgのPGV-THp03、0.2μgのpcDNA4-rAhR、および0.2μgのpcDNA4/V5-His/lacZ)と、同様にOpti-MEM培地50μlに懸濁した2μlのリポフェクタミン2000を混合して20分間室温に静置し、核酸/リポフェクタミン2000の複合体を形成させた。これをDF1:1培地(10% 牛胎児血清を含む)500μl中で予め一晩培養したNeuro2a(前日に0.8×105細胞で播種)に添加して、ベクターを細胞内に導入した。ベクター導入効率の向上と、導入ベクター由来のタンパク質発現を目的に、細胞はトランスフェクション後、さらに24時間培養した。
【0072】
被験物質には、ビンクロゾリン(10μM)、フタル酸ジメチル(10μM)、ベンゾピレン(1μM)、ダイオキシン(TCDD)(10nM)を使用した。トランスフェクション後、24時間培養した細胞から培地を取り除き、被験物質を含む新鮮な培地に換え、さらに30時間培養した。30時間後に24ウェル・プレートから培地を取り除き、細胞をリン酸緩衝液で2回洗浄した。タンパク質抽出用の溶液(TOYO B-NET社製)をウェルあたり100μlずつ加え、室温で15分間穏やかに攪拌したのち、-80℃で溶液を凍結させた。凍結した溶液は室温で解凍後、チューブに回収して、1mg/ml牛血清アルブミンを含むタンパク質抽出用試薬で10倍に希釈して、ルシフェラーゼ活性とβ-ガラクトシダーゼ活性を測定し、レポーター遺伝子の発現量をβ-ガラクトシダーゼng当たりの1秒間の相対発光強度(RLU/sec/ng β-ガラクトシダーゼ)に換算して表した。
【0073】
結果を図5に示した。アリルハイドロカーボン受容体(AhR)に結合し、活性化することがすでに知られているダイオキシン、ベンゾピレンにおいては、ダイオキシンでは約1.4倍(図5A)、ベンゾピレンでは約1.3倍(図5B)のルシフェラーゼ活性上昇が確認された。また、アンドロジェン受容体(AR)に結合することが知られているビンクロゾリンにおいても、AhRを導入した細胞において約1.3倍のルシフェラーゼ活性上昇が得られた(図5C)。一方、AhRを導入していない細胞においてルシフェラーゼ活性の変化は見られなかった。エストロジェン受容体(ER)に結合することが知られているフタル酸ジメチルにおいては、約1.2倍のルシフェラーゼ活性上昇が確認された(図5D)。すなわち、PGV-pTH03導入細胞において、基質結合性を有する、少なくとも3種類の転写因子(AhR、ER、AR)の転写活性に対して被験物質が及ぼす作用を測定できることが確認された。
【0074】
実施例6
TH転写制御領域(-300〜-200 bp)を用いた、被験物質の転写制御に対する活性の測定
実施例6では、配列番号3のTH転写制御領域(-300〜-200 bp)を使用した。TH転写制御領域の-300bp 〜-200bp領域は、500bpのTH転写制御領域を鋳型として、
フォワードプライマー:5’- CGGGGTACCATTAGAGAGCTCTAGATGTCTCCTG-3’(配列番号23)、
リバースプライマー:5’-GCCGCTAGCACGAGAGAGGCCTCCGTCCCATTAG-3’(配列番号26)、
を使用してPCRで取得した。使用したプライマーの末端には、PCR増幅断片のベクターの組み込みを容易にすることを目的に、制限酵素KpnI(フォワードプライマー)、NheI(リバースプライマー)の認識配列を付加し、Pyrobest DNA polymeraseを使用して、配列番号3に記載の領域を増幅した。増幅したDNA断片は、制限酵素KpnIとNheIで消化後、アガロースで電気泳動をおこない、対応するバンドをQIA quick Gel Extraction Kitで精製したのち、KpnIとNheIと消化したPGV-P2ベクターに組み込み、pSV40E100/Lucとした。ここで用いたベクターPGV-P2は、プロモーター領域として、SV40初期プロモーターを予め含む。
【0075】
さらに、TH遺伝子の上流約500bpの領域を鋳型として、フォワードプライマー:5’- CGGCTCGAGGTGGGGGACCCAGAGGGGCTTTGAC-3’(配列番号27)とリバースプライマー:5’- GCAAAGCTTAAGCTGGTGGTCCCGAGTTCTGTCT -3’(配列番号28)をプライマーとするPCRによって、配列番号5に記載の領域(マウスTH遺伝子コアプロモーター領域)を増幅した。増幅したDNAをXhoIとHindIIIで消化後、0.8% アガロースゲル電気泳動をおこない、ゲルから当該DNA断片を切り出して、QIA quick Gel Extraction Kitで精製した。精製した配列番号5に記載の塩基配列は、同様にXhoIとHindIIIで消化してSV40初期プロモーターを除いたPGV-P2とライゲーションキット(東洋紡)を用いて連結し、pTHE100/Lucとした。
【0076】
これらのベクター(pSV40E100/LucおよびpTHE100/Luc)は、大腸菌TOP10株(Invitrogen)に導入して、増幅と維持をおこなった。
【0077】
作製した2種類のベクター(配列番号3のTH転写制御領域+プロモーター+レポーター遺伝子)を図6(A)に示す。作製したベクターは、実施例3と同様の方法でNeuro2aに導入したのち、10nM TCDDに曝露して、レポーター遺伝子の発現量の変化を調べた。TH転写制御領域(配列番号3)をベクターに組み込むことにより、転写制御に対する被験物質活性を測定できることを確認した(図6(B))。さらに配列番号3とSV40初期プロモーターの組み合わせよりも配列番号3とTH遺伝子コア・プロモーターの組み合わせの方が高い被験物質応答性が得られることを確認した(図6(B))。
【0078】
実施例7
配列番号3に記載の領域を複数個組み込んだベクターの作製、および該ベクターを用いた、被験物質の転写制御に対する活性の測定
「実施例6においてPCRで増幅した配列番号3に記載の領域」の末端を、5’ポリヌクレオチドキナーゼ(タカラバイオ)でリン酸化した後、配列番号3に記載の領域を、ライゲーションキット(東洋紡)を用いてタンデムに連結した。連結したDNA断片を制限酵素KpnIとNheIで部分消化後、アガロースゲル電気泳動をおこない、配列番号3が3個あるいは5個タンデムに連結したDNA断片を、その分子量を基準にゲルから切り出し、QIA quick Gel Extraction Kitで精製した。これらのDNA断片を、KpnIとNheIで消化して配列番号3の領域を除いたpTHE100/Lucに連結して、配列番号3が3つタンデムに組み込まれたベクター;pTHE100x3/Luc、および5つタンデムに組み込まれたベクター;pTHE100x5/Lucベクターを作製した(図7A)。
【0079】
pTH100/Luc、pTHE100x3/Luc 、pTHE100x5/Lucを、実施例3と同様の方法でNeuro2aに導入したのち、10 nM のTCDDに曝露して、レポーター遺伝子の発現量の変化を調べた(図7B)。この結果、配列番号3を複数個、ベクターに組み込むことによって、転写制御に対する被験物質活性が増加することが示された。また、この転写制御に対する被験物質活性の増加は、配列番号3に記載の領域を3つ組込んだベクター;pTHE100x3/Lucで最大になった。
【0080】
さらにpTHE100x3/Lucを用いて、TCDD濃度に対する応答性、ならびにダイオキシン異性体に対する応答性を調べた。TCDD濃度に対する応答性は、実施例3と同様の方法でpTHE100x3/LucをNeuro2aに導入したのち、1〜10000 pM のTCDDに曝露して、レポーター遺伝子の発現量の変化を調べた。その結果、TCDD濃度10 pMまでレポーター遺伝子の発現が統計的に有意に増加することが示された(図8A)。一方、ダイオキシン異性体に対する応答性は、実施例3と同様の方法でpTHE100x3/LucをNeuro2aに導入したのち、細胞をTCDDを含む8種類のダイオキシン異性体、すなわち、1-monochloro-dibenzo-p-dioxin (1-MCDD)、2,7-dichloro-dibenzo-p-dioxin (2,7-DCDD)、1,2,3-trichloro-dibenzo-p-dioxin (1,2,3-TrCDD)、2,3,7,8-tetrachloro- dibenzo-p-dioxin (2,3,7,8-TCDD)、1,2,3,7,8-pentachloro-dibenzo-p-dioxin (1,2,3,7,8-PeCDD)、1,2,3,4,7,9-hexachloro-dibenzo-p-dioxin (1,2,3,7,9-HxDD)、1,2,3,4,6,7,8-heptachloro-dibenzo-p-dioxin (1,2,3,4,6,7,8-HpCDD)、および1,2,3,4,6,7,8,9-octachloro-dibenzo-p-dioxin (OCDD)に暴露して、転写制御に対する、これらの異性体活性を調べた。この結果、TCDDを含めて5種類のダイオキシン異性体が転写制御に影響を与えることが検出された(図8B)。
【0081】
実施例8
AhR遺伝子の種類(SD系統ラットのAhR、ならびにC57/BL6マウスのAhR)が、転写制御に対する被験物質の活性に与える効果
実施例8では、レポーター・ベクターにはpTHE100x3/Luc(実施例7、図7(A))を、細胞にはNeuro2aを使用した。
【0082】
本実験では、pTHE100x3/Lucと同時に導入するベクターとして、SD系統ラットのAhR遺伝子を組み込んだpcDNA4-rAhR(実施例1)とpcDNA4/V5-His/lacZ(Invitrogen)の組み合わせに加え、C57/BL6系統マウスのAhR遺伝子を組み込んだPGV-mAhR(実施例1)とpcDNA4/V5-His/lacZの組み合わせを使用して、測定をおこなった。pcDNA4-rAhR はSD系統ラットのAhR(配列番号10)を、PGV-mAhRはC57/BL6系統マウスのAhR(配列番号11)を強制発現させるために、pcDNA4/V5-His/lacZはベクターのトランスフェクション効率を標準化のために細胞に導入した。
【0083】
ベクターの細胞への導入は、実施例3に記載の方法と同様にリポフェクタミン2000を用いておこなった。細胞にベクターを導入後、1 〜 10000 pMのTCDDに暴露してレポーター遺伝子の発現の増加を調べたところ、両AhR(ラットのAhRおよびマウスのAhR)は共にTCDDに対するレポーター遺伝子の転写誘導を仲介するが、SD系統ラットのAhR遺伝子の方が、C57/BL6系統マウスのAhRに比べて、より強い応答性を引き起こすことが示された(図9)。
【0084】
実施例9
配列番号3に記載の領域内のTCDD応答領域の更なる絞込み、ならびに該応答領域を組み込んだベクターを用いた、被験物質の転写制御に対する活性の測定
実施例9では、配列番号4に記載した領域をTH転写制御領域内のTCDD応答領域として使用した。配列番号4に記載した領域は、配列番号3に記載の領域を鋳型として、
フォワードプライマー: 5’-AGCGGTACCCTGTCTTCATGTCGTGTCTAGG -3’(配列番号29)
リバースプライマー: 5’- AGCGCTAGCTGCATCCACTGTCGCAGGCACC -3’(配列番号30)
を使用して、Pyrobest DNA polymerase を用いたPCRにより増幅した。PCRで使用したプライマーの末端には、PCR増幅断片のベクターの組み込みを容易にすることを目的に、制限酵素KpnI(フォワードプライマー)、NheI(リバースプライマー)の認識配列を付加した。PCRで増幅した配列番号4に記載の領域の末端を、5’ポリヌクレオチドキナーゼ(タカラバイオ)でリン酸化した後、ライゲーションキットを用いてタンデムに連結した。連結したDNA断片を制限酵素KpnIとNheIで部分消化した後、アガロースゲル電気泳動をおこない、配列番号4の領域が1個、あるいはタンデムに3個連結されたDNA断片を、その分子量を基準としてゲルから切り出し、QIA quick Gel Extraction Kitで精製した。これらのDNA断片を、KpnIとNheIで消化して配列番号3の領域を除いたpTHE100/Lucに連結して、配列番号4の領域が1つ組み込まれたベクター;pTHE60/Lucと、配列番号4の領域が3つタンデムに組み込まれたベクター;pTHE60x3/Lucベクターを作製した(図10A)。
【0085】
作製したベクターは、実施例3と同様の方法でNeuro2aに導入したのち、1nM、10 nM のTCDDに暴露して、レポーター遺伝子の発現量の変化を調べた(図10B)。この結果、配列番号4を用いて作製したレポーター・ベクターの使用により、転写制御に対する被験物質活性を測定できることが確認され、そのベクターへの組み込み個数により被験物質活性が増加することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明のベクターPGV-pTH25の一態様を示す模式図。
【図2】本発明の一態様に係るベクターPGV-pTH25を導入した細胞による、TCDD暴露に対する発現産物の用量依存的な増加を示すグラフ。
【図3】種々の長さのTH転写領域を有する本発明の一態様に係るベクターによるTCDD暴露に対するレポーター遺伝子発現産物の産生量を示すグラフ。
【図4】種々の長さのTH転写領域を有する本発明の一態様に係るベクターによるTCDD暴露に対するレポーター遺伝子発現産物の産生量を示すグラフ。
【図5】種々の被検物質の存在下における本発明の一態様に係るベクターによるレポーター遺伝子の発現量を示すグラフ。
【図6】図6Aは、配列番号3のTH転写制御領域を含む本発明の一態様に係るベクターpSV40E100/LUCおよびpTHE100/LUCを示す概略図であり、図6Bは、被検物質TCDDの存在下における上記ベクターによるレポーター遺伝子の発現量を示すグラフである。
【図7】図7Aは、配列番号3のTH転写制御領域のタンデム繰返し配列(tandem repeat)を含む本発明の一態様に係るベクターpTHE100×3/LUCおよびpTHE100×5/LUCを示す概略図であり、図7Bは、TCDDの存在下における上記ベクターによるレポーター遺伝子の発現量を示すグラフである。
【図8】図8Aは、本発明の一態様に係るベクターのTCDD濃度に対する応答性を示すグラフであり、図8Bは、本発明の一態様に係るベクターのダイオキシン異性体に対する応答性を示すグラフである。
【図9】2種類のAhR(SD系統ラットのAhRおよびC57/BL6系統マウスのAhR)が、本発明の一態様に係るベクターpTHE100×3の転写制御に及ぼす効果を示すグラフ。
【図10】図10Aは、配列番号4のTH転写制御領域を含む本発明の一態様に係るベクターpTHE60/Lucおよび配列番号4のタンデム繰返し配列(tandem repeat)を含む本発明の一態様に係るベクターpTHE60×3/LUCを示す概略図であり、図10Bは、TCDDの存在下における上記ベクターによるレポーター遺伝子の発現量を示すグラフである。
【図11】ダイオキシン類がアリルハイドロカーボン受容体(AhR)を介して遺伝子の転写を活性化するメカニズムを模式的に示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チロシン水酸化酵素遺伝子の転写制御領域内の被験物質に応答して下流遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域、
該エンハンサー領域の下流に機能的に連結されたプロモーター、および
該プロモーターの下流に機能的に連結されたレポーター遺伝子
を有することを特徴とするベクター。
【請求項2】
前記エンハンサー領域およびプロモーターが、配列番号1の塩基配列からなる、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記エンハンサー領域およびプロモーターが、配列番号2の塩基配列からなる、請求項1に記載のベクター。
【請求項4】
前記エンハンサー領域が、配列番号3の塩基配列からなる領域である、請求項1に記載のベクター。
【請求項5】
前記エンハンサー領域が、配列番号4の塩基配列からなる領域である、請求項1に記載のベクター。
【請求項6】
前記エンハンサー領域が、配列番号3の塩基配列のタンデム繰返し配列(tandem repeat)からなる領域である、請求項1に記載のベクター。
【請求項7】
前記エンハンサー領域が、配列番号4の塩基配列のタンデム繰返し配列(tandem repeat)からなる領域である、請求項1に記載のベクター。
【請求項8】
前記プロモーターが、配列番号5により示されるマウスチロシン水酸化酵素遺伝子のプロモーターである、請求項4〜7の何れか1項に記載のベクター。
【請求項9】
前記プロモーターが、配列番号6により示されるSV40初期プロモーター、配列番号7により示されるSV40後期プロモーター、配列番号8により示されるヒトヘルペスウイルス1チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、および配列番号9により示されるサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターからなる群より選択される、請求項4〜7の何れか1項に記載のベクター。
【請求項10】
前記レポーター遺伝子が、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、およびβ−ガラクトシダーゼ遺伝子からなる群より選択される、請求項1〜9の何れか1項に記載のベクター。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載のベクターが、アリルハイドロカーボンレセプターを発現している哺乳類細胞に導入されたことを特徴とする、形質転換された哺乳類細胞。
【請求項12】
前記哺乳類細胞が、ヒト細胞、マウス細胞およびラット細胞からなる群より選択される、請求項11に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項13】
前記哺乳類細胞が神経由来細胞である、請求項11に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項14】
前記神経由来細胞が、ヒト神経由来細胞、マウス神経由来細胞およびラット神経由来細胞からなる群より選択される、請求項13に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項15】
前記神経由来細胞が神経芽細胞腫である、請求項13に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項16】
前記神経芽細胞腫がマウス由来の神経芽細胞腫Neuro2aである、請求項15に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項17】
前記神経芽細胞腫が、アリルハイドロカーボン受容体をコードする外来遺伝子をマウス由来の神経芽細胞腫Neuro2aに導入することにより調製された遺伝子導入細胞(受託番号FERM BP-10341または受託番号FERM BP-10342)である、請求項15に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項18】
アリルハイドロカーボンレセプターを発現する前記哺乳類細胞が、アリルハイドロカーボンレセプターをコードする外来遺伝子を哺乳類細胞に導入することにより調製された遺伝子導入細胞である、請求項11に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項19】
請求項1〜10の何れか1項に記載のベクターまたは請求項11〜18の何れか1項に記載の形質転換された哺乳類細胞を含むことを特徴とする、被験物質のダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を検出するためのキット。
【請求項20】
被験物質のダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を検出する方法であって、
(1)請求項1〜10の何れか1項に記載のベクターが導入された細胞を、被験物質の存在下および非存在下で培養する工程と、
(2)前記工程(1)で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する工程と、
(3)前記被験物質の存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値が、前記被験物質の非存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値より高い場合に、前記被験物質がダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を有すると評価する工程と、
を含む方法。
【請求項1】
チロシン水酸化酵素遺伝子の転写制御領域内の被験物質に応答して下流遺伝子の転写活性を増強するエンハンサー領域、
該エンハンサー領域の下流に機能的に連結されたプロモーター、および
該プロモーターの下流に機能的に連結されたレポーター遺伝子
を有することを特徴とするベクター。
【請求項2】
前記エンハンサー領域およびプロモーターが、配列番号1の塩基配列からなる、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記エンハンサー領域およびプロモーターが、配列番号2の塩基配列からなる、請求項1に記載のベクター。
【請求項4】
前記エンハンサー領域が、配列番号3の塩基配列からなる領域である、請求項1に記載のベクター。
【請求項5】
前記エンハンサー領域が、配列番号4の塩基配列からなる領域である、請求項1に記載のベクター。
【請求項6】
前記エンハンサー領域が、配列番号3の塩基配列のタンデム繰返し配列(tandem repeat)からなる領域である、請求項1に記載のベクター。
【請求項7】
前記エンハンサー領域が、配列番号4の塩基配列のタンデム繰返し配列(tandem repeat)からなる領域である、請求項1に記載のベクター。
【請求項8】
前記プロモーターが、配列番号5により示されるマウスチロシン水酸化酵素遺伝子のプロモーターである、請求項4〜7の何れか1項に記載のベクター。
【請求項9】
前記プロモーターが、配列番号6により示されるSV40初期プロモーター、配列番号7により示されるSV40後期プロモーター、配列番号8により示されるヒトヘルペスウイルス1チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、および配列番号9により示されるサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターからなる群より選択される、請求項4〜7の何れか1項に記載のベクター。
【請求項10】
前記レポーター遺伝子が、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、およびβ−ガラクトシダーゼ遺伝子からなる群より選択される、請求項1〜9の何れか1項に記載のベクター。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載のベクターが、アリルハイドロカーボンレセプターを発現している哺乳類細胞に導入されたことを特徴とする、形質転換された哺乳類細胞。
【請求項12】
前記哺乳類細胞が、ヒト細胞、マウス細胞およびラット細胞からなる群より選択される、請求項11に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項13】
前記哺乳類細胞が神経由来細胞である、請求項11に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項14】
前記神経由来細胞が、ヒト神経由来細胞、マウス神経由来細胞およびラット神経由来細胞からなる群より選択される、請求項13に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項15】
前記神経由来細胞が神経芽細胞腫である、請求項13に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項16】
前記神経芽細胞腫がマウス由来の神経芽細胞腫Neuro2aである、請求項15に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項17】
前記神経芽細胞腫が、アリルハイドロカーボン受容体をコードする外来遺伝子をマウス由来の神経芽細胞腫Neuro2aに導入することにより調製された遺伝子導入細胞(受託番号FERM BP-10341または受託番号FERM BP-10342)である、請求項15に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項18】
アリルハイドロカーボンレセプターを発現する前記哺乳類細胞が、アリルハイドロカーボンレセプターをコードする外来遺伝子を哺乳類細胞に導入することにより調製された遺伝子導入細胞である、請求項11に記載の形質転換された哺乳類細胞。
【請求項19】
請求項1〜10の何れか1項に記載のベクターまたは請求項11〜18の何れか1項に記載の形質転換された哺乳類細胞を含むことを特徴とする、被験物質のダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を検出するためのキット。
【請求項20】
被験物質のダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を検出する方法であって、
(1)請求項1〜10の何れか1項に記載のベクターが導入された細胞を、被験物質の存在下および非存在下で培養する工程と、
(2)前記工程(1)で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する工程と、
(3)前記被験物質の存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値が、前記被験物質の非存在下で培養した細胞におけるレポーター遺伝子の発現量の測定値より高い場合に、前記被験物質がダイオキシン様活性またはエストロジェン様活性またはアンドロジェン様活性を有すると評価する工程と、
を含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−202555(P2007−202555A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352853(P2006−352853)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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