説明

転炉による溶鋼の製造方法

【課題】付着地金の発生を防止しつつ、酸素噴射口方向に生じる局部溶損を抑制する溶鋼の製造方法を提供する。
【解決手段】転炉内の溶銑に2.5〜5.0Nm3/min・tの流量で上吹きランスを用いて酸素を供給しつつ精錬を行う方法であって、前記ランスは、その先端にランスの中心軸と酸素噴射口の中心軸とが10°〜20°の角度をなす酸素噴射口を3〜6個有するとともに、そのランス中心軸回りに回転可能とする機構を備え、前記ランスの継続使用が150ヒート以内に、その使用中のランスを下記式(1)で定義されるθの範囲内で回転させる吹錬工程を備える。
{m×(360°/n)+10°<θ<(m+1)×(360°/n)-10°}・・・(1)
m:任意の整数
n:ランス先端にランス中心から10°以上の角度で設けられた酸素噴射口の数であって、3〜6の整数

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精錬を行う転炉による溶鋼の製造方法に関し、詳しくは転炉の寿命延命のため、転炉における炉壁の耐火物の最大溶損部位に、ランス酸素噴射口の方向が継続的に向くことを避けるようにランスを回転させる転炉による溶鋼の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉型精錬炉の生産能率を向上させるためには、酸素流量増大が最も効果的である。しかし、酸素流量を増大すると、火点からの溶鉄やスラグのスピッティング量は増加し、ランスに地金等が付着したり、副原料投入不可能となったりするなどのトラブルを招いていた。
【0003】
そこで、この炉壁から炉口に至る領域の炉内に付着した地金やスラグ(以下「付着地金」という。)を除去すべく、例えば、特許文献1や2に開示されるように、酸素噴射口がランス中心軸周りに回転する機構を備えた地金切り専用のランスを用いたり、特許文献3に開示されるように、吹錬用のランスと地金切りのための噴射口とが一体化されたランスを用いたりする技術が提案されている。
【0004】
また、ランス先端の酸素噴射口の中心軸とランス中心軸とのなす角度(以下「酸素噴射口傾角」という。)を大きくして、鉛直方向への溶鉄飛散を防止して付着地金の発生を抑制する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平5−320732号公報
【特許文献2】特開平5−78728号公報
【特許文献3】特開2006−213940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、付着した地金等を専用ランスで除去する方法は、専用のランスを用意することから設備的に負荷の大きな方法である。また、地金等を除去するための作業を別途設けることになるため、生産性を著しく低下させる。さらに、環境保護の観点からエネルギー効率を高めることが特に重視されている昨今の事情を考慮すると、そもそも、付着地金を生成させることを前提とするこの方法は好ましくない。
【0006】
また、後者の方法では、酸素噴射口傾角を大きくし過ぎると、酸素噴射口方向(酸素噴射口から噴出し溶銑面に衝突して反射した酸素が転炉側壁に向かう、ランス中心軸を中心とする放射状の方向)にある炉壁耐火物が溶損するという問題を有する。この耐火物溶損のメカニズムを調査したところ、飛散した溶銑が酸化され、その酸化鉄が耐火物を溶損させていることが明らかになった。つまり、酸素噴射口傾角を大きくすると、酸素ジェットと炉壁との距離が小さくなるため、酸素ジェットによるスピッティングが炉壁に到達する量が酸素噴射方向の炉壁について特に多くなり、溶損が促進されるのである。このため、炉の寿命は炉壁の溶損が著しい酸素噴射口方向の炉壁の残厚が少なくなることによってもたらされており、酸素噴射口方向から離れた炉壁は全く寿命に達していないことも明らかになった。
【0007】
そこで、この対策として、酸素噴射口方向の異なる精錬用ランスを多数用意し、溶損が進行した部位に噴射口が向かないようにランスを交換することが考えられるが、精錬炉で使用するランスは、炉回数、すなわち炉容積に応じて使用する酸素噴射口の口径を変化させており、実操業上ではランスの予備を持つ本数にも限界があるため、酸素噴射口方向の変更のみでは精錬炉の炉壁の局部溶損を完全には防止できない。また、噴射口を多孔化し、溶損を均一化する対策も考えられるが、限られたランス径の中で、大流量の酸素を吹き込むためには、最適な噴射口径を確保する必要があるため、6孔までが限界である。更なる多孔化のためにはランス径を拡大する必要があり、莫大な設備投資が必要となることからも実現困難である。
【0008】
以上の背景の下、本発明の目的は、付着地金の発生を防止しつつ、酸素噴射口方向に生じる局部溶損を抑制する溶鋼の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決するために、これまで小酸素流量(2.5Nm3/min・t未満)の地金切り工程でしか行われていなかったランスの回転を2.5Nm3/min・t以上の大流量の酸素を供給する吹錬工程においても行うことで酸素噴射口方向を変えることに着目し、その可能性について詳細な検討を行い、下記の知見を得た。
【0010】
転炉を用いて溶銑から溶鋼を製造する場合、通常は2.5〜5.0Nm3/min・tの酸素流量で、1ヒートあたり10〜20分間の吹錬を行う。この酸素流量は、各ヒートの吹錬中に変更される場合もあれば、各ヒート間で変更される場合もある。そのような酸素は、主として上吹きランスから溶銑へ向けて吹き付けられるが、一部または全部を転炉の底部に設けた底吹き羽口から供給される場合もある。
【0011】
上吹きランスから2.5〜5.0Nm3/min・tの酸素を溶銑へ吹き付ける場合、そのランスには3〜6個程度の酸素噴射口を、ランス先端部に同心円状に設けることが多い。この同心円は、一つとは限らず、複数の場合もある。例えば、3個の噴射口の中心軸をランス中心軸に近い同心円上に並べ、他の3個をそれよりも外側の同心円上に並べるなどのランス形態が知られている。そのほかに、さらに1個の酸素噴射口をランスの中心軸に設けてある場合もある。
【0012】
また、各ランスに設けられた酸素噴射口の口径は、各ランスの中においても同一ではないことがある。
このように、転炉における酸素の使い方は一様ではないので、単にランスを回転させるだけでは、そのランス回転による耐火物の溶損防止効果が安定しないと予測される。
【0013】
そこで、予め予備脱燐された溶銑260〜290tをスクラップ10〜30tと共に転炉に装入して、溶鋼中の炭素含有率が0.03%〜0.10%の低炭素鋼を得る吹錬を、酸素供給条件を条件毎に40〜50ヒート固定して連続操業し、転炉の炉壁溶損状況を、レーザー距離計を用いて実測して、酸素供給条件と炉壁溶損との関係をまず調査した。
【0014】
その炉壁溶損の測定結果を、その測定に用いた酸素供給条件とともに、図1に示す。図1において横軸は、酸素噴射口1個あたりの酸素流量を、各ヒート内の平均値で表した数値である。ランス中心軸から供給した酸素は除外してある。
【0015】
この実験調査においては、ランス中心軸とランス口から噴出される酸素ジェットの方向が問題であるため、各ランスに設けられた酸素噴射口の中心軸が、各ランスに一つの同心円上に設けてある(=各ランスについて、いずれの酸素噴射口も酸素噴射口傾角を同一とし、さらに、各酸素噴射口の中心のランス底部からの距離が同一である)タイプを使用した。
【0016】
一方、図1において縦軸は、炉壁の溶損状況を、その溶損部の広がり角度で表す。ランスから噴出された酸素は、一旦溶銑と反応した後、溶銑面から跳ね返って転炉側壁へと向かう。その酸素噴射口方向の炉壁形状を、レーザー距離計を用いて実測し、その最大溶損部位を含む転炉横断面における、溶損が最小で煉瓦残厚が最も厚くなっている最小溶損部煉瓦残厚X1と、酸素噴射口方向の局部溶損煉瓦残厚X2との差が10mm以上となる範囲の角度を、炉壁溶損傾角として図1の縦軸とした。
【0017】
図1の結果から、酸素噴射口1個あたりの送酸速度が増加すると、炉壁溶損傾角が拡大すること、および酸素噴射口傾角が増加しても、炉壁溶損傾角が拡大することが分かった。
【0018】
しかし、本発明のための調査検討を通じて図1のような酸素供給条件と炉壁溶損状況との関係を認識していても、実際の転炉操業において、この関係をその転炉寿命の延長に活用するには工夫が必要である。
【0019】
なぜならば、実際に行われる転炉操業では、酸素流量は頻繁に変更されるものであり、酸素噴射口傾角も、一定ではなく複数混在することが珍しくないからである。また、吹錬の合間に炉壁の溶損状況を実測することは時間的なロスが大きいため、極力回避する必要がある。
【0020】
そこでまず、調査した範囲で最も炉壁溶損傾角が狭かった範囲が連続して溶損され続けることは確実に避けられるように、ランスを中心軸回りに回転させる方法が考えられる。そのような条件は、酸素噴射口が中心軸方向の噴射口を除き6個のランスであって、その酸素噴射口傾角が10°のランスを用いて、噴射口1つ当たりの酸素流量が0.42Nm3/min・tの吹錬を行った場合の、炉壁溶損傾角12°である。このことから、炉壁溶損傾角の内側からその周辺にかけての溶損進行部分の存在も考慮して、ランスの回転が10°未満では、ランス回転による溶損均等化効果を十分に挙げることが困難と分かった。但し、この酸素噴射口が中心軸方向の噴射口を除き6個のランスでは60°毎に酸素噴射口を有しており、もしそのランスを60°回転させると、ランスを回転させなかったのと同じ状況になってしまう。そのような状況を回避するためには、ランス回転は50°(60°−10°)以下である必要がある。
【0021】
ところで、図1の炉壁溶損傾角は、40〜50ヒートの試験操業により得られた「周辺との溶損差≧10mm」の範囲であるが、実際の操業では操業上の都合によって頻繁にはランス回転を行えない場合も多い。この対策として、実際の転炉煉瓦の長さが1000〜2000mmであることを考慮し、「周辺との溶損差≦25mm」の範囲で炉壁溶損の均一化操作を行うことを考えた。別途行った試験によって、この40〜50ヒートで溶損10mmを生ずる条件は、約150ヒートで溶損25mmを生ずる条件に相当することを確認したので、実際の転炉操業時には、150ヒート以内に所定のランス回転を行えばよいと言える。したがって、以降、炉壁溶損傾角βは、図2に示されるように、溶損が最小で煉瓦残厚が最も厚くなっている最小溶損部煉瓦残厚X1と、酸素噴射口方向の局部溶損煉瓦残厚X2との差が25mm以上となる範囲の角度と定義する。なお、図3には、前述の酸素噴射口傾角αを示している。
【0022】
以上の検討の結果をまとめると下記式(1)のようになる。
{m×(360°/n)+10°<θ<(m+1)×(360°/n)−10°}・・・(1)
θ:ランス回転角度(deg)
m:任意の整数
n:ランス先端にランス中心軸から10°以上の角度で設けられた酸素噴射口の数であって、3〜6の整数
【0023】
次に、調査した範囲の結果を示す図1の関係を、多重回帰により定量的な実験式に纏めて、その実験式により得られた炉壁溶損傾角以上を1回あたりのランス回転角度とする方法が考えられる。図1に示した結果を、実験式に纏めた結果として下記式(2)を示す。
【0024】
{m×(360/n)+ξ}°<θ<{(m+1)×(360/n)−ξ}°・・・(2)
ξ=0.520xα+31.73xV+k
m:任意の整数
n:ランス先端に鉛直軸から10°以上の角度で設けられた酸素噴射口の数であって、3〜6の整数
α:ランスの中心軸と酸素噴射口の中心軸とがなす角度(°)の平均値
V:噴射口1つあたりの酸素噴出速度(Nm3/min・t)の平均値
k:-6.244(定数)
【0025】
さらに、比較的高頻度で炉壁溶損傾角βが計測可能な場合には、その結果を用いて下記式(3)に基づいてランス回転角を設定することも可能である。
【0026】
{m×(360/n)+β}°<θ<{(m+1)×(360/n)−β}°・・・(3)
m:任意の整数
n:ランス先端に鉛直軸から10°以上の角度で設けられた酸素噴射口の数であって、3〜6の整数
【0027】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたもので、その要旨は下記の通りである。
(1)転炉内の溶銑に2.5〜5.0Nm3/min・tの流量で上吹きランスを用いて酸素を供給しつつ精錬を行う溶鋼の製造方法であって、前記ランスは、その先端にランスの中心軸と酸素噴射口の中心軸とが10°〜20°の角度をなす酸素噴射口を3〜6個有するとともに、そのランス中心軸回りに回転可能とする機構を備え、前記ランスの継続使用が150ヒート以内に、その使用中のランスを下記式(1)で定義されるθの範囲内で回転させる吹錬工程を備えることを特徴とする、転炉による溶鋼の製造方法。
【0028】
{m×(360°/n)+10°<θ<(m+1)×(360°/n)−10°}・・・(1)
m:任意の整数
n:ランス先端にランス中心から10°以上の角度で設けられた酸素噴射口の数であって、3〜6の整数
【0029】
(2)転炉内の溶銑に2.5〜5.0Nm3/min・tの流量で上吹きランスを用いて酸素を供給しつつ精錬を行う溶鋼の製造方法であって、前記ランスは、その先端にランスの中心軸と酸素噴射口の中心軸とが10°〜20°の角度をなす酸素噴射口を3〜6個有するとともに、そのランス中心軸回りに回転可能とする機構を備え、前記ランスの継続使用が150ヒート以内に、その使用中ランスを下記式(2)で定義されるθの範囲内で回転させる吹錬工程を備えることを特徴とする、転炉による溶鋼の製造方法。
【0030】
{m×(360/n)+ξ}°<θ<{(m+1)×(360/n)−ξ}°・・・(2)
ξ=0.520xα+31.73xV+k
m:任意の整数
n:ランス先端に鉛直軸から10°以上の角度で設けられた酸素噴射口の数であって、3〜6の整数
α:ランスの中心軸と酸素噴射口の中心軸とがなす角度(°)の平均値
V:噴射口1つあたりの酸素噴出速度(Nm3/min・t)の平均値
k:-6.244(定数)
【0031】
(3)転炉内の溶銑に2.5〜5.0Nm3/min・tの流量で上吹きランスを用いて酸素を供給しつつ精錬を行う溶鋼の製造方法であって、前記ランスは、その先端にランスの中心軸と酸素噴射口の中心軸とが10°〜20°の角度をなす酸素噴射口を3〜6個有するとともに、そのランス中心軸回りに回転可能とする機構を備え、前記ランスの継続使用が150ヒート以内に、使用中転炉の最大溶損部位を含む横断面における煉瓦残厚が最大の最小溶損部煉瓦残厚X1とランス酸素噴射口方向の局部溶損煉瓦残厚X2との差が25mm以上となる範囲の角度βを測定して、その使用中ランスを下記式(3)で定義されるθの範囲内で回転させる吹錬工程を備えることを特徴とする、転炉による溶鋼の製造方法。
【0032】
{m×(360/n)+β}°<θ<{(m+1)×(360/n)−β}°・・・(3)
m:任意の整数
n:ランス先端に鉛直軸から10°以上の角度で設けられた酸素噴射口の数であって、3〜6の整数
【発明の効果】
【0033】
精錬炉において本発明法に係る角度でランスを回転させることにより、ランス酸素噴射口方向に生じる局部溶損を解消することが可能となる。その結果、精錬炉の寿命を大幅に延命することが可能となる。したがって本発明法を採用することで炉の補修頻度を低くすることができ耐火物コストを低減できる上に、設備の稼動効率が高まり、生産性の向上も実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図4は、本実施の形態の精錬用回転ランス構造を示す説明図であり、図4(a)は全体図であり、図4(b)は精錬用回転ランス先端に取り付けられた精錬用ノズル形状の例である。
【0035】
本実施の形態の説明では、この精錬用ノズルの酸素噴射口の設置数は、鉛直方向を除き6個としたが、これに限定されるものではなく、同心円状に3〜6個であればよい。また、この同心円は、複数あってもよい。
【0036】
本実施の形態では、この精錬用ノズルの酸素噴射口傾角は、ランス中心軸鉛直方向に対して15°としたが、これに限定されるものではなく、10〜20°であればよい。
また、図4(a)に示すように、本実施の形態の精錬用ランスは、上部に回転ジョイント1を備えており、この回転ジョイント1を介して、酸素供給管2及び内筒3の内部、冷却水供給管4及び内筒から中間筒5の間の空間、更には、冷却水排水管6及び中間筒5から外筒7の間の空間が、連通されている。また、ランス昇降台車8とランスが接するランス預け部分9は、ランスに接続された上部10と、自由に回転が可能な下部11に分かれている。これにより、酸素供給管2及び内筒3の内部、冷却水供給管4及び内筒から中間筒5の間の空間、更には、冷却水排水管6及び中間筒5から外筒7の間の空間が、連通された状態で、酸素供給管2、冷却水給水管4及び中間筒5から外筒7の間の空間が、回転することができる。すなわち、ランス昇降台車8に上架した状態で、回転ジョイント1より下方に存在する部分を、ランス中心を軸として回転可能な構造となっている。
【0037】
精錬用ランスを回転させる手段としては、ランス台車8上に駆動装置を設置し、ランス外筒7を回転させることが望ましいが、ランス整備場などで、回転ジョイント部1を回転させても良い。
【0038】
本実施の形態の精錬用ランスは、以上のように構成される。次に、この精錬用ランスを用いて、精錬炉の局部溶損を均一化する状況を説明する。
【0039】
図5は、本実施の形態の精錬用ランスを、上底吹き転炉型精錬炉の内部に配置して、精錬を行う状況を示す説明図である。
【0040】
まず、上底吹き転炉型精錬炉の内部に精錬用ランスを挿入した後、精錬を行う。精錬は大酸素流量(2.5〜5.0Nm3/min・t)で実施するが、特別な場合を除けば、通常操業では酸素流量2.5〜4.0Nm3/min・tで行われる場合が多い。このとき、精錬用ランスのノズルからは、溶銑へ向けて酸素が噴射され、精錬が行われる。また、酸素噴射によって発生したスピッティングが、酸素噴射口方向の炉壁に対してダメージを与える。
【0041】
図6は、図5におけるA-A断面を示す説明図であり、図6(a)は精錬用ランスを回転させない場合を示し、図6(b)は精錬用ランスを回転させた場合を示す。
図6(a)に示すように、精錬用ランスを回転させない場合には、精錬炉における炉壁の耐火物が、酸素噴射口方位から優先的に溶損し、本実施の形態のように酸素噴射口が6個であると、この6方位から優先的に溶損が進行する。大酸素流量(2.5〜5.0Nm3/min・t)で、精錬用ノズルの酸素噴射口の設置数が同心円状に3〜6個、酸素噴射口傾角が10〜20°であるランスを用いた場合、図1において説明したように炉壁溶損傾角は12°〜48°の範囲である。
【0042】
これに対し、精錬用ランスを式(1)で示されるθだけ回転させる場合には、これまで酸素噴射口に対向していた局部溶損部位と酸素噴射口方向がずれるため、精錬炉における炉壁耐火物の溶損が図6(b)に示すように均一化される。
【0043】
{m×(360°/n)+10°<θ<(m+1)×(360°/n)−10°}・・・(1)
m:任意の整数
n:ランス先端にランス中心軸から10°以上の角度αで設けられた酸素噴射口の数(非等間隔を含む)であって、3〜6の整数
さらに、精錬用ランスを酸素噴射口方向の実際の精錬炉炉壁溶損角度以上に回転させて局部溶損部位と酸素噴射口方向から完全に外したり、回転前の局部溶損部位と回転後の酸素噴射口方向とを互い違いにしたりすれば、精錬炉における炉壁耐火物の溶損がより均一化されるため望ましい。
【0044】
精錬用ランスの回転は、吹錬中又は非製鋼中のいずれであってもよい。しかし、非製鋼中に回転させる方が、回転ジョイント部の密閉性への要求が低くなるため、比較的簡単な設備で済み、望ましい。
【0045】
なお、ランスの回転頻度は、上記のように、大酸素流量(2.5〜5.0Nm3/min・t)で、精錬用ノズルの酸素噴射口の設置数が同心円状に3〜6個、酸素噴射口傾角が10〜20°であるランスを用いた場合には、150ヒートを上限とする。ランス回転角を同一にして150ヒートを超えると、酸素噴射口方向の炉壁の溶損が大きくなり、その後回転させても炉壁の均一な溶損を実現することが困難となるおそれがある。また、現状ではランスの寿命が400ヒート程度であるから、150ヒートを超えて回転させる場合にはランス寿命前に1〜2回回転させるのみとなり、本発明に係る方法の利益を享受しにくくなる。一方、回転頻度の下限は特に限定されない。毎回所定角度で回転することが溶損の均一化の観点からは理想的であるが、現実には回転には所定の時間を要する。このため、毎回回転させると、むしろ回転作業時間に起因する生産性の低下が懸念される。
【0046】
また、脱燐、脱硫、そのほかSi,Mnなどの元素含有量の調整については、これまで説明した吹錬工程の前後または同時に、通常行われる方法に基づいて行えばよい。
【実施例】
【0047】
本発明の効果を確認するため下記の試験を行い、精錬炉炉壁溶損状況の評価を行った。
1.実施例1
(1)試験条件
装入溶銑成分が、[C]:2.8〜4.9質量%、[Si]:0.50質量%以下、[P]:0.150質量%以下、[Mn]:0.35質量%以下であり、装入温度が1250〜1450℃である溶銑約290tを、上底吹き転炉に注銑を行い、吹錬して炭素濃度が0.03〜0.08質量%の溶鋼を得た。
【0048】
本発明に関わる精錬用ランスを、ランス前圧7.0kg/cm2、酸素流量2.9Nm3/min・tの条件で精錬を行った。その際、ランス〜湯面間距離は、下記式(4)〜(6)で定義された、鋼浴内への酸素ジェットの進入深さLを鋼浴深さL0で除した値L/L0が0.05〜0.20となる範囲で設定した。本発明の実施例を当て嵌めると、ランス〜湯面間距離が3.2〜3.4mとなる。
【0049】
【数1】

【0050】
本発明例1は中心軸方向の噴射口を除き6個の酸素噴射口を、酸素噴射口傾角15°の同心円状に有した精錬用ランスを用いて、1孔あたりの平均酸素流量が0.47Nm3/min・tの吹錬を行った。また、精錬用ランスは同一ランスの継続使用中に130〜150ヒートの間隔で、12°ずつ同方向に(3回)回転させた。
【0051】
本発明例2は、本発明例1と同じ精錬用ランスを用いて、同じ平均酸素流量で吹錬を行った。また、上記式(2)を用いての炉壁溶損傾角の計算値が16.5°であるから、130〜150ヒートの間隔で、その上記式(2)の要件を満たす17°ずつ同方向に(3回)回転させた。
【0052】
併せて比較例1、2として、以下の条件で操業を行った。
比較例1は回転機能を有さない本発明例1と同じ精錬用ランスを用いて、同じ平均酸素流量で吹錬を行った。
【0053】
比較例2は本発明例1と同じ精錬用ランスを用いて、同じ平均酸素流量で吹錬を行った。また、精錬用ランスは130〜150ヒートの間隔で、8°ずつ同方向に(3回)回転させた。
【0054】
(2)評価結果
各発明例・比較例の方法について、いずれも転炉を1000ヒート以上使用した段階における炉壁の溶損状況を実測し、その溶損進行が最も大きかった部位の溶損進行速度(mm/ヒート)を比較して実施効果を確認した。
【0055】
その結果、発明例1では、0.23、発明例2では0.20、比較例1では0.35、比較例2では0.30であり、本発明例の効果が確認された。
また、各例について、平均酸素流量および酸素噴射口傾角を含む吹錬条件、回転間隔、回転角度を同一にしたまま、最も溶損が進行した部分の炉壁残厚が100mmとなるまで吹
練を行い、このときのヒート数を炉の寿命として比較した。その結果、発明例1では、精錬炉の炉壁を均一に溶損することが可能であり、炉壁耐火物の残厚が多いため、炉寿命延命が可能となり、炉寿命は3050回となった。また、発明例2では炉壁がさらに均一に溶損し、溶損の進行が遅く本発明例1よりも炉寿延命化し、3550回となった。これに対し、比較例1では精錬用ランスを回転させることができないため、酸素噴射口方向の炉壁耐火物溶損の進行が早く、結果として炉寿命が短命となり、2030回となった。また、比較例2では精錬用ランスを、一炉代を通して炉壁溶損角度未満で回転させて操業を行った。この場合には、酸素噴射口方向の炉壁耐火物溶損の進行が比較例1に比べ遅いが有意差は見られず、さらに、均一な溶損状況でないため、本発明例と比較すると炉寿命が短く、2370回であった。
【0056】
【表1】

【0057】
2.実施例2
中心軸方向の噴射口を除いた酸素噴射口を3個のランスを用い、1孔あたりの平均酸素流量が0.95Nm3/min・tとした以外は実施例1と同様の条件で吹錬を行った。この場合には上記式(2)に基づく炉壁溶損傾角の計算値が31.6°であるため、本発明例3では、130〜150ヒートの間隔での回転角度は同方向に14°ずつとし、本発明例4では32°ずつとし、比較例3では0°、比較例4では8°ずつとした。
【0058】
この場合には、1000ヒート経過時の最大溶損進行速度(mm/ヒート)は、それぞれ、本発明例3では0.34、本発明例4では0.27、比較例3では0.4、比較例4では0.38となった。
【0059】
この結果から、1孔あたりの平均酸素流量が大きい場合でも、おおむね10°以上ランスを回転させることで局所的な溶損量を減らすことが可能であり、上記式(2)に基づいて角度を設定すれば、溶損量を大きく減らすことが可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】ランス種毎の送酸速度と炉壁溶損角度の関係を示すグラフである。
【図2】最大溶損部位を含む精錬炉横断面を概念的に示す断面図である。
【図3】ガス噴射口の傾斜角を説明するためのランス先端の模式的な部分断面図である。
【図4】本実施の形態の精錬用回転ランス構造を示す説明図であり、図4(a)は全体図であり、図4(b)は精錬用回転ランス先端に取り付けられた精錬用ノズル形状の一例を示す図である。
【図5】回転ランスを用いた吹錬状況を概念的に示す断面図である。
【図6】図5におけるA-A断面を示す説明図であり、(a)は精錬用ランスを回転させない場合を示し、(b)は精錬用ランスを回転させた場合を示す。
【符号の説明】
【0061】
1:回転ジョイント
2:酸素供給管
3:内筒
4:冷却水供給管4
5:中間筒
6:冷却水排水管
7:外筒
8:ランス昇降台車
9:ランス預け部分
10:ランス預け部分の上部
11:ランス預け部分の下部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉内の溶銑に2.5〜5.0Nm3/min・tの流量で上吹きランスを用いて酸素を供給しつつ精錬を行う溶鋼の製造方法であって、
前記ランスは、その先端にランスの中心軸と酸素噴射口の中心軸とが10°〜20°の角度をなす酸素噴射口を3〜6個有するとともに、そのランス中心軸回りに回転可能とする機構を備え、
前記ランスの継続使用が150ヒート以内に、その使用中のランスを下記式(1)で定義されるθの範囲内で回転させる吹錬工程を備えることを特徴とする、
転炉による溶鋼の製造方法。
{m×(360°/n)+10°<θ<(m+1)×(360°/n)−10°}・・・(1)
m:任意の整数
n:ランス先端にランス中心から10°以上の角度で設けられた酸素噴射口の数であって、3〜6の整数
【請求項2】
転炉内の溶銑に2.5〜5.0Nm3/min・tの流量で上吹きランスを用いて酸素を供給しつつ精錬を行う溶鋼の製造方法であって、
前記ランスは、その先端にランスの中心軸と酸素噴射口の中心軸とが10°〜20°の角度をなす酸素噴射口を3〜6個有するとともに、そのランス中心軸回りに回転可能とする機構を備え、
前記ランスの継続使用が150ヒート以内に、その使用中ランスを下記式(2)で定義されるθの範囲内で回転させる吹錬工程を備えることを特徴とする、
転炉による溶鋼の製造方法。
{m×(360/n)+ξ}°<θ<{(m+1)×(360/n)−ξ}°・・・(2)
ξ=0.520xα+31.73xV+k
m:任意の整数
n:ランス先端に鉛直軸から10°以上の角度で設けられた酸素噴射口の数であって、3〜6の整数
α:ランスの中心軸と酸素噴射口の中心軸とがなす角度(°)の平均値
V:噴射口1つあたりの酸素噴出速度(Nm3/min・t)の平均値
k:-6.244(定数)
【請求項3】
転炉内の溶銑に2.5〜5.0Nm3/min・tの流量で上吹きランスを用いて酸素を供給しつつ精錬を行う溶鋼の製造方法であって、
前記ランスは、その先端にランスの中心軸と酸素噴射口の中心軸とが10°〜20°の角度をなす酸素噴射口を3〜6個有するとともに、そのランス中心軸回りに回転可能とする機構を備え、
前記ランスの継続使用が150ヒート以内に、使用中転炉の最大溶損部位を含む横断面における煉瓦残厚が最大の最小溶損部煉瓦残厚X1とランス酸素噴射口方向の局部溶損煉瓦残厚X2との差が25mm以上となる範囲の角度βを測定して、
その使用中ランスを下記式(3)で定義されるθの範囲内で回転させる吹錬工程を備えることを特徴とする、
転炉による溶鋼の製造方法。
{m×(360/n)+β}°<θ<{(m+1)×(360/n)−β}°・・・(3)
m:任意の整数
n:ランス先端に鉛直軸から10°以上の角度で設けられた酸素噴射口の数であって、3〜6の整数

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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