説明

転炉内壁面のスラグコーティング方法

【課題】耐火物の補修のために転炉の稼働を停止する時間を極力短縮しながら、損耗が特に激しい出鋼孔近傍の耐火物に対する効果的な補修を可能にする転炉内壁面のスラグコーティング方法を提供する。
【解決手段】転炉内壁面のスラグコーティング方法は、出鋼後にスラグ16を残留させた転炉10を複数回揺動させてスラグ16の温度を1150〜1400℃に低下させる工程Aと、転炉10を傾けて、転炉10の側部上側に設けられた出鋼孔12からスラグ16を排出させながら、転炉10の内壁面に配設された耐火物13の表面にスラグ16のコーティングを形成する工程Bとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉内壁面のスラグコーティング方法に係り、更に詳細には、転炉精錬の副生成物であるスラグを転炉の内壁面に配設された耐火物の表面にコーティングして耐火物を保護する転炉内壁面のスラグコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吹錬操業により損耗した転炉の内壁面に配設された耐火物の補修方法として、転炉精錬の副生成物であるスラグを耐火物の表面にコーティングするスラグコーティング方法が一般的に用いられている。スラグコーティング方法は、転炉の操業を完全に停止することなく比較的短時間で実施することができ、転炉内壁面の耐火物の交換間隔を長くすることができるので、転炉の操業効率の向上に有効である。
例えば、特許文献1には、転炉操業での出鋼後に、転炉内に残留させた溶融スラグに分解吸熱反応を起こす固化材を添加して吹付け又は転炉傾動等のコーティングアクションを行って、転炉内壁面をスラグコーティングする方法が開示されている。
また、特許文献2には、転炉内に残留させた溶融スラグに、転炉の底部に設けられた底吹羽口から、ガス発生物質を混入した不活性ガスを吹き込む転炉内壁面へのスラグコーティング法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−209022号公報
【特許文献2】特開昭59−93816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の転炉内壁面へのスラグコーティング方法においては、溶融スラグ中に固化材が均質に溶解及び分散するまでに長時間を要すると共に、吹付け又は転炉傾動等のコーティングアクションでは、最も損耗の大きい出鋼孔の近傍に十分な厚さを有するコーティングを形成することが困難である。また、出鋼孔の近傍に形成されるコーティングは多層になるため、コーティングの剥離強度が低くなり、高耐用性が得られない。
また、特許文献2記載の転炉内壁面へのスラグコーティング法においても、最も損耗の大きい出鋼孔の近傍に十分な厚さを有するコーティングを形成することが困難であり、出鋼孔の近傍に形成されるコーティングは多層になるため、コーティングの剥離強度が低くなり、高耐用性が得られない。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、耐火物の補修のために転炉の稼働を停止する時間を極力短縮しながら、損耗が特に激しい出鋼孔近傍の耐火物に対する効果的な補修を可能にする転炉内壁面のスラグコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る転炉内壁面のスラグコーティング方法は、出鋼後にスラグを残留させた転炉を複数回揺動させて該スラグの温度を低下させる工程Aと、前記転炉を傾けて、前記転炉の側部上側に設けられた出鋼孔からスラグを排出させながら、前記転炉の内壁面に配設された耐火物の表面に前記スラグのコーティングを形成する工程Bとを有する。
【0007】
本発明に係る転炉内壁面のスラグコーティング方法において、前記工程Aでは前記スラグの温度を1150℃〜1400℃に低下させることが好ましい。
【0008】
本発明に係る転炉内壁面のスラグコーティング方法において、前記転炉の揺動回数が2〜5回であることが好ましい。
【0009】
本発明に係る転炉内壁面のスラグコーティング方法において、前記出鋼孔の内径が140〜300mmであることが好ましい。
【0010】
本発明に係る転炉内壁面のスラグコーティング方法において、前記工程Aで前記転炉を揺動させる前に、粒径が10〜50mmで、前記転炉内に残留したスラグの6〜30質量%の塩基性炭酸塩塊を投入してもよい。
【0011】
本発明に係る転炉内壁面のスラグコーティング方法において、前記工程Bでは、前記出鋼孔からの前記スラグの排出を5〜120秒間行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
請求項1〜6記載の転炉内壁面のスラグコーティング方法においては、出鋼から排滓に至る一連の転炉操業工程の中で転炉内壁面に配設された耐火物の補修を行うことができるので、耐火物の補修のために転炉の稼動を停止する時間を短縮できる。
また、工程Aにおいてスラグの温度を低下させることにより、スラグの粘性を増大させて転炉内壁面に付着しやすくし、次いで工程Bで出鋼孔からスラグを排出しながらコーティングを形成するので、特に損耗の激しい出鋼孔の近傍に十分な厚さを有するスラグコーティングを形成することができる。したがって、転炉内壁面の耐火物の交換間隔を長くすることができ、転炉の操業効率の向上及び操業コストの低下に寄与しうる。
【0013】
特に、請求項2記載の転炉内壁面のスラグコーティング方法においては、スラグの温度を1150℃〜1400℃に低下させるので、スラグの流動性を確保しつつ粘性を増大させることができる。したがって、十分な厚さを有するコーティングを形成することができる。
【0014】
請求項3記載の転炉内壁面のスラグコーティング方法においては、転炉の揺動回数が2〜5回であるので、必要最低限の転炉の揺動によりスラグの温度を低下させることができる。
【0015】
請求項4記載の転炉内壁面のスラグコーティング方法においては、出鋼孔の内径が140〜300mmであるので、スラグが出鋼孔の近傍で固化してコーティングを形成するために必要かつ十分な滞留時間を確保することにより、十分な厚さを有しかつ均一なコーティングを形成することができる。
【0016】
請求項5記載の転炉内壁面のスラグコーティング方法においては、工程Aで転炉を揺動させる前に投入される塩基性炭酸塩塊が、分解吸熱反応によりスラグ温度を低下させると共に、反応生成物である酸化物が耐火性の骨材の役割を果たすため、コーティングの耐用性を向上させることができる。
【0017】
請求項6記載の転炉内壁面のスラグコーティング方法においては、工程Bで、出鋼孔からのスラグの排出を5〜120秒間行うので、転炉の操業効率を低下させることなく、十分な厚さのコーティングを出鋼孔の近傍に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る転炉内壁面へのスラグコーティング方法を適用する転炉の概略説明図、図2は同転炉を揺動させる一連のサイクルの説明図、図3は出鋼孔の近傍に形成された凸状の付着物を説明するための出鋼孔近傍の部分概略図である。
【0019】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係る転炉内壁面のスラグコーティング方法に適用される転炉10は、銑鉄を精錬して鋼を製造するのに用いる樽形の反応炉で、図示しないトラニオン軸の周りに揺動可能に支持されている。通常の精錬時には、転炉10は直立した状態で使用されるが、溶銑の注入、溶鋼の取出し、及びスラグの排出等の際には、トラニオン軸の周りにどちらの方向にも傾けることができる。
転炉10の頂部には炉口11が設けられている。溶銑の注入、精錬終了後のスラグの排出、及び図示しない上吹きランスからの酸素の吹込みは、この炉口11から行われる。
転炉10の側部上側には、転炉10を一方向に傾けたときに下向きになるよう出鋼孔12が設けられている。転炉10の外壁は鋼鉄製であり、内壁面には、耐熱性及び耐衝撃性を有する耐火物13が配設されている。また、転炉10の底部には、不活性ガス等を吹き込むための羽口14が設けられている。
また、出鋼孔12には、耐火物よりなる円筒状の出鋼孔スリーブ15が取付けられている。
【0020】
転炉10を用いた鋼の製造は、下記のようにして行われる。
転炉10に溶銑を注入し、更に炭酸カルシウムや石灰等を主原料とするスラグ原料を添加する。これにランスから高圧の酸素を吹き込み撹拌すると、酸素は溶銑中の炭素、ケイ素、リン、マンガン等の不純物と反応(酸化反応)し、高熱が発生する。このとき、高温の溶鉄が転炉10内を激しく流動するので、耐火物13が損耗する。
酸化生成物のうち、一酸化炭素は気体となって除去され、ケイ素、リン等の酸化生成物は、スラグ原料と結びついてスラグを形成し、溶鉄から除去される。このようにして不純物が除去され、溶鋼が生成する。
精錬終了後、出鋼孔12が下向きになるように転炉10を傾けて、出鋼孔12から溶綱を取り出す(出鋼)。このとき、高速で流動する溶綱と、出鋼孔12の近傍に配設された耐火物13との間に摩擦が生じるため、耐火物13の損耗は出鋼孔12の近傍において特に顕著である。
【0021】
本実施の形態に係る転炉内壁面のスラグコーティング方法は、出鋼後にスラグ16(図2参照)を残留させた転炉10を複数回揺動させてスラグ16の温度を低下させる工程Aと、転炉10を傾けて、出鋼孔12からスラグ16を排出させながら、転炉10の内壁面に配設された耐火物13の表面にスラグのコーティングを形成する工程Bとを有する。
以下、工程A及び工程Bについて詳細に説明する。
【0022】
工程Aでは、出鋼後にスラグ16を残留させた転炉10を複数回揺動させて、比較的低温な転炉10の上部の内壁面にスラグ16を接触させることにより、スラグ16の温度を低下させる。
出鋼時にスラグ16を転炉10内に残留させるための方法に特に制限はなく、任意の方法を用いることができるが、例えば、スラグボールが用いられる。スラグボールは、スラグ16よりも比重が大きく、かつ溶鋼よりも比重が小さい耐熱性の材料よりなり、出鋼孔12の内径よりも径が大きな球状の形状を有している。出鋼孔12から溶鋼が排出されている間は、スラグボールは、溶鋼と、その上に浮上しているより比重の小さなスラグ16との界面付近に位置しているが、溶鋼の排出が終了すると、スラグ16よりも比重の大きなスラグボールは、スラグ16内に沈み、内部から出鋼孔12を閉塞するので、スラグ16は出鋼孔12から排出されず、転炉10の内部に残留する。
このようにして、出鋼時にスラグ16を残留させた転炉10を一旦正立させた後、トラニオン軸の周りに揺動させて、スラグ16の温度を低下させる。出鋼終了直後のスラグ16は高温(例えば、約1700℃)で粘性に乏しく、そのままでは耐火物13の表面に付着してコーティングを形成しないため、転炉10を揺動させることにより温度を低下させて、粘性を増大させる必要がある。
【0023】
スラグ16の温度は、1150〜1400℃に低下させる。スラグ16の温度が1400℃よりも高い状態では粘性が低すぎるため、耐火物13の表面に十分な厚さのコーティングを形成することが困難である。逆に、スラグ16の温度が1150℃を下回ると、スラグ16の粘性が増大しすぎるため流動性が低下し、やはり耐火物13の表面に十分な厚さのコーティングを形成することが困難である。
【0024】
転炉10の揺動とは、図2及び下記に示す(A)、(B)、(C)、及び(D)からなる一連のサイクルを所定の回数繰り返して実行することをいい、この一連のサイクルの繰り返し回数を揺動回数という。
(A)正立状態にある転炉10をトラニオン軸の周りに回転させ、出鋼孔12が上を向いた状態にする。
(B)出鋼孔12が上を向いた状態にある転炉10をトラニオン軸の周りに、(A)と逆方向に回転させ、再び正立状態にする。
(C)正立状態にある転炉10をトラニオン軸の周りに(A)と逆方向に回転させ、出鋼孔12からスラグが排出されないように転炉10を傾ける。
(D)出鋼孔12が下を向いた状態にある転炉10をトラニオン軸の周りに、(A)と同一方向に回転させ、再び正立状態にする。
【0025】
なお、(A)〜(D)からなる一連のサイクルは、転炉内壁面のスラグコーティングに要する時間を短縮するために、転炉10を途中で静止させることなく連続的に実行するのが好ましい。また、転炉10の回転速度、及び(A)、(C)における転炉10の傾斜角度は、常に一定の値としてもよいが、転炉10の内部に残留したスラグ16の量等に応じて適宜定めてもよい。
【0026】
スラグの温度を上記の範囲に低下させるために必要な転炉10の揺動回数は、出鋼後に転炉10内に残留するスラグの量にバラツキが生じる等の理由により、一義的に決定することは困難であるが、一般的に2回以上5回以下であることが好ましい。揺動回数が0回又は1回の場合には、揺動による十分なスラグの冷却効果が得られない。逆に、揺動回数が6回以上になると、スラグと転炉10の内壁温度との差が小さくなるため、揺動回数の増大に伴う冷却効果の増加量が飽和する。
【0027】
転炉10の揺動回数は、出鋼後に転炉10内に残留するスラグ16の量及び温度等に応じて定めてもよい。残留スラグ16の量が少ない場合には、蓄熱量も小さいため、より少ない揺動回数で十分な冷却効果を得ることができるからである。例えば、残留するスラグの量が40トン未満である場合には、揺動回数を2回とし、残留するスラグの量が40トン以上である場合には、揺動回数を5回としてもよい。
このように、転炉10内に残留するスラグ16の量に応じて揺動回数を最適化することにより、必要最低限の時間でスラグコーティングを行うことができる。
【0028】
なお、最後の回(例えば、揺動回数を5回とした場合には5回目)の揺動の際には、一連のサイクルのうち(D)を実行せず、(C)を実行後、出鋼孔12が下を向いた状態のままで(必要ならば転炉10の傾斜角度を変化させてもよい)出鋼孔12を開き、スラグ16を排出させながらコーティングを行う工程Bを開始してもよい。このようにすることにより、転炉10を一旦正立状態に戻してから再び傾けるのに要する時間を節約できる。
【0029】
転炉10の揺動を開始する前に、塩基性炭酸塩塊を転炉10内に投入する。用いることができる塩基性炭酸塩としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の炭酸塩が挙げられる。その具体例としては、炭酸マグネシウム(MgCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、生ドロマイト(MgCO・CaCO)等が挙げられるが、コスト面から、生ドロマイトが好ましい。
【0030】
これらの塩基性炭酸塩を転炉10内に投入すると、炉熱により脱炭酸反応を起こし、酸化物と二酸化炭素を生成する。脱炭酸反応は吸熱反応であるため、スラグの温度を、例えば50〜60℃低下させることができる。したがって、塩基性炭酸塩塊の投入により、スラグの冷却効率を高め、転炉10の揺動回数を低減させることができる。
また、脱炭酸反応により生成するCaO、MgO等の酸化物は、2000℃以上の高い融点を有しているため、耐火物13の表面に形成されたスラグコーティングの強度を高める骨材としても作用しうる。
【0031】
なお、骨材としては、例えば、転炉煉瓦の廃材(マグカーボン煉瓦塊;MgO−C)を塊状にした物がコスト面では優れていると考えられるが、炭酸イオンを含まないため、塩基性炭酸塩に比べて冷却効果に劣っている。また、マグカーボン煉瓦はスラグに対する濡れ性が低いため、スラグコーティングの骨材としては、十分な効果を発揮できず、生ドロマイト等の塩基性炭酸塩を用いた場合に比べて骨材の脱落が発生しやすい。
【0032】
塩基性炭酸塩塊の平均粒径は、10mm以上50mm以下とする。
平均粒径が10mmを下回ると、生成する酸化物の骨材としての耐用性が不十分である。逆に、平均粒径が50mmを上回ると、生成する酸化物の粒径が、耐火物13の表面に形成されるスラグコーティングの厚さに比べて大きすぎるため、コーティングからの脱落が発生しやすくなる。
【0033】
塩基性炭酸塩塊の投入量は、転炉10内に残留したスラグ16の質量の6質量%以上30質量%とし、10質量%以上20質量%以下であることが好ましい。塩基性炭酸塩塊の投入量がスラグ16の質量の6質量%を下回ると、骨材としてスラグコーティングの耐用性を向上させる効果が不十分である。逆に、塩基性炭酸塩塊の投入量がスラグ16の質量の30質量%を上回ると、スラグに含まれる骨材(酸化物)の比率が高くなりすぎ、凹凸のない均質なコーティングが形成されにくくなる。特に、図3に示すように、出鋼孔12の近傍に凸状の付着物17が形成されると、残湯(出鋼時に排出されない溶鋼)18が発生し、溶鋼歩留まりを低下させる原因となる。
【0034】
工程Bでは、転炉10を傾けて、出鋼孔12からスラグ16を排出(孔排滓)させながら、転炉10の内壁面に配設された耐火物13の表面にスラグのコーティングを形成する。なお、出鋼孔12からの排出の後、転炉10内に残存したスラグ16は、炉口11より排出される。
工程Aで温度を低下させたスラグ16を、炉口11からではなく出鋼孔12から排出することにより、損耗の大きい出鋼孔12近傍に配設された耐火物13の表面に効果的にスラグコーティングを行うことが可能になる。
【0035】
出鋼孔12近傍の耐火物13の表面に十分な厚さのスラグコーティングを形成するためには、出鋼孔12近傍において、スラグ16が固化するのに十分な滞留時間を確保できるようにスラグの流速を調整する必要がある。このような要求を満足するために、出鋼孔12の内径(具体的には出鋼孔スリーブ15の内径)を140mmφ以上300mmφ以下とする。出鋼孔12の内径が140mmφを下回ると、スラグの流動速度が小さくなり、図3に示すように、出鋼孔12の近傍に凸状の付着物17が形成されやすくなるため、残湯18の発生による、溶鋼歩留まりの低下が起こりやすくなる。逆に、出鋼孔12の内径が300mmφを上回ると、スラグの流動速度が大きくなるため、コーティングの厚さの確保が困難になり、耐用性の低下を招く。
【0036】
スラグコーティングを行うために、出鋼孔12からスラグを排出させる時間(以下「孔排滓時間」という)は、5秒以上120秒以下とする。孔排滓時間が5秒を下回ると、形成されるスラグコーティングの厚さが不十分で、コーティングによる耐火物13の保護効果が不十分である。逆に、孔排滓時間が120秒を上回ると、転炉10の非稼働時間が増大することによる稼動効率の低下の影響が顕著になる。また、出鋼孔12近傍でのスラグの滞留時間が長くなりすぎ、図3に示すように、出鋼孔12の近傍に凸状の付着物17が形成されやすくなるため、残湯18の発生による、溶鋼歩留まりの低下が起こりやすくなる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
図4は孔排滓を行った場合と孔排滓を行わなかった場合の耐火物の残厚と出鋼回数との関係を示すグラフ、図5は平均スラグ温度と耐火物の損耗速度の関係を示すグラフ、図6は残留スラグ量が20t及び40tの場合における転炉の揺動回数とスラグ温度との関係を示すグラフ、図7は出鋼孔スリーブの内径と耐火物の損耗速度との関係を示すグラフ、図8は生ドロマイト又はマグカーボン煉瓦塊の添加割合と耐火物の損耗速度の関係を示すグラフ、図9は孔排滓時間と耐火物の損耗速度との関係を示すグラフ、図10は孔排滓を行う場合と行わない場合における転炉の非稼働時間の比較を示すグラフである。
【0038】
実験(試験操業)条件
実施例の実施には350t転炉を使用した。
出鋼孔スリーブの内径は、出鋼回数の増加に伴い損耗が進んで拡大して行くため、各実験における第1回の出鋼時に測定した出鋼孔スリーブの実測値を代表値として用いた。
実験操作は、下記に示すとおりである。
転炉中での鋼の精錬及び出鋼孔からの出鋼を完了後、転炉内にスラグが残留した状態で、必要な場合には、所定量の生ドロマイトを投入した(具体的な添加量は、各実験の項において説明する)。その後、転炉を所定回数揺動させた後(具体的な揺動回数は、各実験の項において説明する)、転炉出鋼孔からスラグを所定時間排出(孔排滓)した(具体的な孔排滓時間は、各実験の項において説明する)。なお、試験操業中の出鋼孔からのスラグの排出の実施比率((出鋼孔からのスラグの排出を実施した回数)/(全出鋼回数))は50%に統一した。
その後、転炉に残存したスラグを、転炉を傾けて炉口から全量排出した。
【0039】
スラグの温度の測定
放射温度計を用いて、出鋼孔又は炉口から排出直後のスラグの温度を測定した。そのため、スラグ温度の測定値は、転炉内におけるスラグの温度とほぼ等しいと考えられる。
【0040】
耐火物の損耗速度の測定
レーザープロフィールメーターを用いて、30〜50回出鋼を行う度に、出鋼孔近傍の同一部位の耐火物の厚さ(残厚)を測定した。残厚を出鋼回数(ch:chargeの略)に対してプロットしたグラフの傾きから、単位出鋼回数あたりの耐火物の損耗速度(mm/ch)を求めた。
【0041】
実験1:スラグコーティングの有無と耐火物の損耗速度との関係
転炉中での鋼の精錬及び出鋼孔からの出鋼を完了後、転炉内に残留したスラグに対し10〜12質量%の生ドロマイトを投入した。転炉内に残留したスラグ量が40t以上の場合は4回、転炉内に残留したスラグ量が40t未満の場合には2回、転炉を揺動させ、スラグの温度を1400℃以下に低下させた。10秒間孔排滓(出鋼孔スリーブの内径220〜280mmφ)した後、転炉に残存したスラグを、転炉を傾けて炉口から全量排出した場合と、転炉を揺動させた後、孔排滓を行わず、炉口から全量排出した場合について、出鋼孔近傍の耐火物の損耗速度を比較した。
【0042】
孔排滓を行った場合(●で示す)と、孔排滓を行わなかった場合(▲で示す)の耐火物の残厚と出鋼回数との関係を図4に示す。孔排滓を行った場合と行わなかった場合における耐火物の損耗速度は、それぞれ0.2mm/ch及び0.5mm/chである。以上の結果から、出鋼孔近傍の耐火物へのスラグコーティングにより、損耗速度がスラグコーティングを行わなかった場合の約40%に低下していることがわかる。また、孔排滓を行わなかった場合には、約1400回出鋼を行うと、耐火物の損耗が進み、操業を停止して耐火物を補修する必要が生じるが、孔排滓を行った場合には、耐火物の補修のため操業を一時停止することなく3000回以上連続して操業を行うことが可能である。
これらの結果から、出鋼孔近傍の耐火物へのスラグコーティングの効果が確認された。
【0043】
実験2:孔排滓時のスラグの温度と耐火物の損耗速度との関係
転炉中での鋼の精錬及び出鋼孔からの出鋼を完了後、転炉内に残留したスラグに対し10〜12質量%の生ドロマイトを投入した。その後、転炉を2回揺動させ、出鋼孔(出鋼孔スリーブの内径220mmφ)からスラグを10秒間排出させ、放射温度計を用いてその温度を測定した。転炉に残存したスラグは、転炉を傾けて炉口から全量排出した。また、30〜50ch毎に、レーザープロフィールメーターを用いて出鋼孔近傍の耐火物の残厚測定を行い、損耗速度を求めた。その後、転炉に残存したスラグを、転炉を傾けて炉口から全量排出した。
異なる原料ロット毎に数十〜数百回ずつ実験を行った。
【0044】
平均スラグ温度と耐火物の損耗速度の関係を図5に示す。スラグの温度が1400℃を超える付近から、スラグの温度の上昇に伴い損耗速度も増大しており、約1500℃では、スラグコーティングを行わなかった場合の損耗速度(0.5mm/ch)とほぼ同一の値となっていることがわかる。以上の結果から、スラグの温度が1400℃を超えると、スラグコーティングの効果が減少し、1500℃では粘性が減少して殆どコーティングが形成されていないと考えられる。
これらの結果から、十分な耐用性を有するスラグコーティングのためには、スラグの温度を1400℃以下に低下させる必要があることが確認された。
【0045】
実験3:転炉の揺動回数とスラグ温度との関係
転炉中での鋼の精錬及び出鋼孔からの出鋼を完了後、転炉内に残留したスラグに対し10〜12質量%の生ドロマイトを投入し、出鋼孔(出鋼孔スリーブの内径220mmφ)からスラグを5秒間排出させ、放射温度計を用いてその温度を測定した。その後、転炉を1回揺動させる度に出鋼孔(出鋼孔スリーブの内径220mmφ)からスラグを5秒間排出させ、放射温度計を用いてその温度を測定した。6回揺動した後、転炉に残存したスラグを、転炉を傾けて炉口から全量排出した。
【0046】
残留スラグ量が20t及び40tの場合における、転炉の揺動回数とスラグ温度との関係を図6に示す。いずれの場合にも、スラグの温度を1400℃程度まで低下させるためには、1回の揺動では不十分であり、少なくとも転炉を2回揺動させる必要があること、及び揺動回数が5回を超えると、スラグの温度が殆ど低下しなくなることがわかる。
これらの結果から、操業効率を大きく低下させることなくスラグの温度を1400℃以下に低下させるためには、転炉の揺動を2〜5回行うことが好ましいことが確認された。
【0047】
実験4:出鋼孔の内径と耐火物の損耗速度との関係
転炉中での鋼の精錬及び出鋼孔からの出鋼を完了後、転炉内に残留したスラグに対し10〜12質量%の生ドロマイトを投入した。転炉内に残留したスラグ量が40t以上の場合は4回、転炉内に残留したスラグ量が40t未満の場合には2回、転炉を揺動させ、スラグの温度を1400℃以下に低下させた。10秒間孔排滓(出鋼孔スリーブの内径160〜330mmφ)した後、転炉に残存したスラグを、転炉を傾けて炉口から全量排出した。30〜50ch毎に、レーザープロフィールメーターを用いて出鋼孔近傍の耐火物の残厚測定を行い、損耗速度を求めた。
【0048】
出鋼孔スリーブの内径と耐火物の損耗速度との関係を図7に示す。出鋼孔スリーブの内径が300mmφを超えると、損耗速度がほぼ直線的に増大しているが、スラグの流動速度が増大して、コーティングを形成するために必要な滞留時間が確保できなくなるためであると考えられる。
以上の結果から、耐用性の高いスラグコーティングを出鋼孔近傍の耐火物に形成させるためには、出鋼孔(スリーブ)の内径を300mmφ以下にすることが好ましいことが確認された。
【0049】
実験5:生ドロマイトの添加量と耐火物の損耗速度との関係
転炉中での鋼の精錬及び出鋼孔からの出鋼を完了後、転炉内に残留したスラグに対し0〜40質量%の生ドロマイト、及び比較のために転炉内に残留したスラグに対し6〜30質量%のマグカーボン煉瓦塊を投入した。転炉内に残留したスラグ量が40t以上の場合は4回、転炉内に残留したスラグ量が40t未満の場合には2回、転炉を揺動させ、スラグの温度を1400℃以下に低下させた。10秒間孔排滓(出鋼孔スリーブの内径220mmφ)した後、転炉に残存したスラグを、転炉を傾けて炉口から全量排出した。30〜50ch毎に、レーザープロフィールメーターを用いて出鋼孔近傍の耐火物の残厚測定を行い、損耗速度を求めた。
【0050】
生ドロマイト(●で示す)及びマグカーボン煉瓦塊(■で示す)の添加割合(転炉内に残留したスラグ質量に対する生ドロマイト及びマグカーボン煉瓦塊の質量の割合)と耐火物の損耗速度の関係を図8に示す。生ドロマイトの添加割合の増大に伴い耐火物の損耗速度は低下した。また、生ドロマイトの添加割合が6質量%以上の場合、損耗速度は0.25mm/ch以下となり、十分な耐用性が得られることがわかった。生ドロマイトの添加割合が12質量%を超えると、損耗速度の低下量は飽和し、添加割合の増大に伴う損耗速度の顕著な改善は観測されなかった。更に、生ドロマイトの添加割合が30質量%を超えると、出鋼孔の近傍に残湯の原因となる凸状の付着物が観測された。
以上の結果から、耐用性の高いスラグコーティングを出鋼孔近傍の耐火物に形成させるためには、転炉内に残留したスラグの6〜30質量%の生ドロマイトを投入することが好ましいことが確認された。
【0051】
生ドロマイトの代わりにマグカーボン煉瓦塊を添加した場合にも、耐火物の損耗速度において若干の改善が見られたが、生ドロマイトに比べその効果は小さかった。
【0052】
実験6:孔排滓時間と耐火物の損耗速度との関係
転炉中での鋼の精錬及び出鋼孔からの出鋼を完了後、転炉内に残留したスラグに対し10〜12質量%の生ドロマイトを投入した。転炉内に残留したスラグ量が40t以上の場合は4回、転炉内に残留したスラグ量が40t未満の場合には2回、転炉を揺動させ、スラグの温度を1400℃以下に低下させた。1〜180秒間孔排滓(出鋼孔スリーブの内径220〜280mmφ)した後、転炉に残存したスラグを、転炉を傾けて炉口から全量排出した。30〜50ch毎に、レーザープロフィールメーターを用いて出鋼孔近傍の耐火物の残厚測定を行い、損耗速度を求めた。
【0053】
孔排滓時間と耐火物の損耗速度との関係を図9に示す。孔排滓時間が1〜2秒の場合には、損耗速度が十分低下していないのに対し、孔排滓時間が5秒以上の場合には、損耗速度が約0.2mm/chに低下しており、十分な耐用性を有することがわかる。
また、孔排滓を行う場合と行わない場合における転炉の非稼働時間の比較を図10に示す。孔排滓時間が120秒を超えても、損耗速度はわずかながら減少しており、耐用性の向上が確認されるが、あまり孔排滓時間を長くしすぎると、図10に示すように孔排滓の実施に伴う転炉の非稼働時間が増大する。これらの結果及び転炉の稼動効率を勘案すると、孔排滓時間は120秒以下であることが好ましい。
以上の結果から、耐用性の高いスラグコーティングを出鋼孔近傍の耐火物に形成させるためには、孔排滓を5〜120秒間行うことが好ましいことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態に係る転炉内壁面のスラグコーティング方法が適用される転炉の断面を示す説明図である。
【図2】同転炉を揺動させる一連のサイクルの説明図である。
【図3】出鋼孔の近傍に形成された凸状の付着物を説明するための出鋼孔近傍の部分概略図である。
【図4】孔排滓を行った場合と孔排滓を行わなかった場合の耐火物の残厚と出鋼回数との関係を示すグラフである。
【図5】平均スラグ温度と耐火物の損耗速度の関係を示すグラフである。
【図6】残留スラグ量が20t及び40tの場合における、転炉の揺動回数とスラグ温度との関係を示すグラフである。
【図7】出鋼孔スリーブの内径と耐火物の損耗速度との関係を示すグラフである。
【図8】生ドロマイト又はマグカーボン煉瓦塊の添加割合と耐火物の損耗速度の関係を示すグラフである。
【図9】孔排滓時間と耐火物の損耗速度との関係を示すグラフである。
【図10】孔排滓を行う場合と行わない場合における転炉の非稼働時間の比較を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
10:転炉、11:炉口、12:出鋼孔、13:耐火物、14:羽口、15:出鋼孔スリーブ、16:スラグ、17:凸状付着物、18:残湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出鋼後にスラグを残留させた転炉を複数回揺動させて該スラグの温度を低下させる工程Aと、前記転炉を傾けて、前記転炉の側部上側に設けられた出鋼孔からスラグを排出させながら、前記転炉の内壁面に配設された耐火物の表面に前記スラグのコーティングを形成する工程Bとを有することを特徴とする転炉内壁面のスラグコーティング方法。
【請求項2】
請求項1記載の転炉内壁面のスラグコーティング方法において、前記工程Aでは前記スラグの温度を1150℃〜1400℃に低下させることを特徴とする転炉内壁面のスラグコーティング方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の転炉内壁面のスラグコーティング方法において、前記転炉の揺動回数が2〜5回であることを特徴とする転炉内壁面のスラグコーティング方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の転炉内壁面のスラグコーティング方法において、前記出鋼孔の内径が140〜300mmであることを特徴とする転炉内壁面のスラグコーティング方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の転炉内壁面のスラグコーティング方法において、前記工程Aで前記転炉を揺動させる前に、粒径が10〜50mmで、前記転炉内に残留したスラグの6〜30質量%の塩基性炭酸塩塊を投入することを特徴とする転炉内壁面のスラグコーティング方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の転炉内壁面のスラグコーティング方法において、前記工程Bでは、前記出鋼孔からの前記スラグの排出を5〜120秒間行うことを特徴とする転炉内壁面のスラグコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−91607(P2009−91607A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261822(P2007−261822)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】