説明

軸受状態管理方法

【課題】機械装置を運転するに際して、軸受から排出される潤滑剤の中に混入して出てくる鉄粉濃度を測定した結果を用いて、軸受の管理をどのように行うかの内容を提案する。
【解決手段】軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を測定し、軸受の状態管理を行う軸受状態管理方法であって、軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を所定時間間隔毎に測定し、該測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合には、当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行い、その後、当該軸受の使用を継続し、前記測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値B(>A)以上となった場合には、当該軸受の使用を停止して交換を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受状態管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図7に、特許文献1に記載の、ある機械装置の給脂系統を示す。3は軸受、5は軸受ボックス、6は潤滑剤、7は給脂装置、43は搬送用ロール、Wは被搬送材、55は流入路、56は流出路、71は給脂管、72は排脂管、73は貯留部、74は圧送部、75は回収ボックス、76は採取管をそれぞれ示す。
【0003】
給脂管71は軸受ボックス5の流入路55に接続され、排脂管72は軸受ボックス5の流出路56に接続されている。貯留部73は、これから軸受5の潤滑に供給しようとする潤滑剤6を貯留しておくものであり、圧送部74は、貯留部73から潤滑剤6を汲み上げて圧送するものであり、回収ボックス75は、軸受5の潤滑に使用後の潤滑剤6を回収するものである。なお、回収後の潤滑剤は廃棄され、或いは再生後再使用される場合もある。
【0004】
ここで、軸受の状態を監視することは、軸受にきちんと潤滑剤が行き渡っているかを監視することと並んで非常に重要である。
【0005】
軸受内部の転動輪(コロ)や内輪、それに外輪などの磨耗がすすんでくると、磨耗粉が潤滑剤中に混入して潤滑剤の質が低下する。それが軸受の磨耗を加速させたり破損を招いたりすることがある。さらに、潤滑剤中の磨耗粉の濃度が高くなると軸受の磨耗速度が上昇する傾向があり、一層、軸受の磨耗を加速させたり破損を招いたりしやすくなるので未然に防止する必要がある。
【0006】
軸受の状態を監視するのが重要なのは、もしも軸受の状態を監視することで軸受の破損の前兆を捉えることができれば、軸受の状態に合わせて適宜設定される状態管理メンテナンス時(CBM)や所定期間毎に行う定期メンテナンス時(TBM)などの適時に交換することが可能となるからである。このような管理ができれば、機械装置が運転中に軸受の破損により突発的に運転を中断せざるを得ない事態に陥るのを回避できる。
【0007】
特許文献1には、潤滑に使用された後の潤滑剤を定期的にサンプリングし、そのサンプリングした潤滑剤を、例えば原子吸光分析装置を用いて鉄粉濃度を測定することが記載されている。このサンプリングと分析とを定期的に繰り返すことでデータを蓄積し、鉄分濃度と軸受の摩耗の程度との関係を導き出し、これに基づいて軸受の摩耗の程度を把握する。
【0008】
ここで、後述の発明を実施するための最良の形態および実施例にての説明のため、特許文献2および非特許文献1も以下に記載しておく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−198422号公報
【特許文献2】特開2008−026046号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】第3版「鉄鋼便覧」第II巻p624,p632,丸善,昭和54年10月15日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1の記載は、軸受から排出される潤滑剤の中に混入して出てくる鉄粉濃度を測定した結果を用いて軸受の摩耗の程度を把握する、という程度の記載にとどまり、機械装置を運転するに際して、軸受の管理をどのように行うかの内容を具体的に踏み込んで記載したものではない。
【0012】
そこで本発明は、機械装置を運転するに際して、軸受から排出される潤滑剤の中に混入して出てくる鉄粉濃度を測定した結果を用いて、軸受の管理をどのように行うかの内容を提案することを目的とする。また、その結果として、機械装置の突発的な故障による停止を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を測定し、軸受の状態管理を行う軸受状態管理方法であって、
軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を所定時間間隔毎に測定し、該測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合には、当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行い、その後、当該軸受の使用を継続し、
前記測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値B(>A)以上となった場合には、当該軸受の使用を停止して交換を行うことを特徴とする軸受状態管理方法。
[2]軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を測定し、軸受の状態管理を行う軸受状態管理方法であって、
軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を所定時間間隔毎に測定し、該測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合、もしくは、測定された鉄粉濃度の測定間隔毎の増加率の上昇率が所定の管理値C以上となった場合には、当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行い、その後、当該軸受の使用を継続し、
前記測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値B(>A)以上となった場合には、当該軸受の使用を停止して交換を行う
ことを特徴とする軸受状態管理方法。
[3]軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を測定し、軸受の状態管理を行う軸受状態管理方法であって、
軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を所定時間間隔毎に測定し、該測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合には、当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行い、その後、当該軸受の使用を継続し、
同一の前記軸受における鉄粉濃度の値が管理値A以上となる時間の間隔を測定し、該測定した時間の間隔が短くなった割合が所定の管理値D以上となった場合には、当該軸受の使用を停止して交換を行うことを特徴とする軸受状態管理方法。
[4]軸受が連続鋳造機におけるセグメント軸受である場合に、上記[1]から[3]のいずれかに記載の軸受の交換を、管理値Bまたは管理値D以上となった時期に基づき設定される状態管理メンテナンス時、または所定期間毎に設定される定期メンテナンス時に行うことを特徴とする軸受状態管理方法。
[5]測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった軸受および測定された鉄粉濃度の測定間隔毎の増加率の上昇率が所定の管理値C以上となった軸受に関しては、次回の状態管理メンテナンス時または定期メンテナンス時に優先的に交換を行うことを特徴とする上記[4]に記載の軸受状態管理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、機械装置を運転するに際して、軸受から排出される潤滑剤の中に混入して出てくる鉄粉濃度を測定した結果を用いて、軸受の管理をどのように行うかの方法を提案できる。また、その結果として、機械装置の突発的な故障による停止を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一の本発明の実施の形態について、連続鋳造機の軸受から排出されるグリースの中に混入して出てくる鉄粉濃度を測定した結果を示す図である。
【図2】第二の本発明の実施の形態について、連続鋳造機の軸受から排出されるグリースの中に混入して出てくる鉄粉濃度を測定した結果を示す図である。
【図3】第三の本発明の実施の形態について、連続鋳造機の軸受から排出されるグリースの中に混入して出てくる鉄粉濃度を測定した結果を示す図である。
【図4】本発明を適用する一例について説明するための図である。
【図5】本発明を連続鋳造機の運転に適用する場合について説明するための図である。
【図6】本発明の効果を説明するための図である。
【図7】背景技術を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第一の本発明の実施の形態)
本発明の実施の形態の一例について、以下、説明する。本実施の形態では、軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を所定時間間隔毎に測定し、該測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合には、当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行い、その後、当該軸受の使用を継続し、測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値B(>A)以上となった場合には、当該軸受の使用を停止して交換を行う。
【0017】
所定の間隔をおいてとは、例えば、一日に一回という具合である。しかし、この頻度はここでの例に限定されるものではない。また、必ずしも等間隔でなくてもよい。
【0018】
図1に、ある機械装置(後述する実施例に記載する連続鋳造機)の軸受から排出される潤滑剤(グリース)の中に混入して出てくる鉄粉濃度を、50日間に渡って測定した結果を示す。
【0019】
軸受から排出される潤滑剤(グリース)中の鉄粉濃度が約37日目以降急激に上昇し、鉄粉濃度が3.5質量%に達したところで、軸受内部の転動輪(コロ)の一つが破損している。
【0020】
潤滑剤(グリース)中の鉄粉濃度が増えると、軸受内部の転動輪(コロ)の磨耗が進みやすくなる。
【0021】
そこで、本実施の形態では、まず、測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合には、当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行い、その後、当該軸受の使用を継続する。
【0022】
管理値Aは、例えば、0.1質量%とする。なお、この管理値Aの具体的な値はここでの例に限定されるものではなく、軸受の種類、使用環境、操業条件あるいは過去の操業実績等に基づき予め適宜決定され得る。
【0023】
以上のことを数式で表すと、下記の式(1−1)のようになる。すなわち、
鉄粉濃度≧A ・・・(1−1)
となった場合には、当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行い、その後、当該軸受の使用を継続する。
【0024】
当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行うだけなら、機械装置の運転を中断する必要はない。軸受内の潤滑剤の入れ替えを行うことで、潤滑剤中の磨耗粉の濃度上昇による軸受内部の転動輪(コロ)や内輪、それに、外輪などの磨耗の進行を防止できる。
【0025】
そして、本実施の形態では、測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値B(>A)以上となった場合には、当該軸受の使用を停止して交換を行う。
【0026】
管理値Bは、例えば、0.3質量%とすることができる。なお、この管理値Bの具体的な値はここでの例に限定されるものではなく、操業条件あるいは過去の操業実績等に基づき適宜決定され得る。
【0027】
以上のことを数式で表すと、下記の式(1−2)のようになる。すなわち、
鉄粉濃度≧B ・・・(1−2)
となった場合には、当該軸受の使用を停止して交換を行う。
【0028】
測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった時点で当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行ったにもかかわらず、次に測定された鉄粉濃度の値が管理値Aよりも高い管理値Bに達した場合、これを軸受の破損の前兆ととらえ、管理値B以上となった時期に基づき過去の操業実績等を考慮して適宜設定される状態管理メンテナンス時(CBM)や所定期間毎に行う定期メンテナンス時(TBM)などの適時に軸受を交換する。これにより、機械装置が軸受の破損により突発的に運転を中断せざるを得ない事態に陥るのを回避でき、装置の稼働率向上を図ることが可能となる。ここで、前記軸受の交換を、状態管理メンテナンス時(CBM)において行うようにすることで、軸受の寿命延長を図ることが可能となり、補修コストを大幅に削減することが可能となる。
【0029】
なお、図1を用いての説明では、鉄粉濃度が3.5質量%に達した時点で軸受内部の転動輪が破損に至っているが、それよりも低い、例えば0.3質量%に達した時点で、状態管理メンテナンス時(CBM)や次の定期メンテナンス時(TBM)の際などの適時に当該軸受の使用を停止して交換を行うのがよい、と考える理由は以下の通りである。すなわち、鉄粉濃度が3.5質量%に達した時点で当該軸受を交換するのでは、もはや当該軸受は破損してしまっているのであり、突発的な機械装置の運転中断とならざるを得ない。そのため、できる限り、当該軸受の破損の前兆をとらえ、状態管理メンテナンス時(CBM)や次の定期メンテナンス時(TBM)などの適時に当該軸受の使用を停止して交換を行うのが、機械装置の稼働率向上の観点から好ましい、と考えることによる。
【0030】
機械装置の軸受の数が多くなればなるほど、突発的な機械装置の運転中断の頻度が増え、機械装置の稼働率が低下することから、状態管理メンテナンス時(CBM)や次の定期メンテナンス時(TBM)などの適時に当該軸受の使用を停止して、交換の必要な軸受すべての交換を一度に行うのが好ましいからである。
【0031】
(第二の本発明の実施の形態)
本発明の別の実施の形態の一例について、以下説明する。本実施の形態では、軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を所定時間間隔毎に測定し、該測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合、もしくは、測定された鉄粉濃度の測定間隔毎の増加率の上昇率が所定の管理値C以上となった場合には、当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行い、その後当該軸受の使用を継続する。そして、前記測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値B(>A)以上となった場合には、当該軸受の使用を停止して交換を行う。
【0032】
なお、測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合および測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値B(>A)以上となった場合の実施形態は、上述した第一の本発明の実施の形態と同様であり、説明は省略する。
【0033】
ここで、本実施の形態では、所定時間間隔毎に測定された鉄粉濃度の測定間隔毎の増加率の上昇率が所定の管理値C以上となった場合においても当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行うものである。つまり、測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となっていない場合においても、前記測定間隔毎の増加率の上昇率が所定の管理値C以上となった場合には当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行う。
【0034】
図2に、第一の本発明の実施の形態の場合と同じ、ある機械装置(後述する実施例に記載する連続鋳造機)の軸受から排出される潤滑剤(グリース)の中に混入して出てくる鉄粉濃度を50日間に渡って測定した結果を示す。
【0035】
本実施の形態では、同一の軸受における鉄粉濃度の測定間隔毎の増加率の上昇率を以下のようにして測定する。
【0036】
例えば、図2中に示す連続する3つの測定点a,b,cについて説明する。ここで、測定点aはt日目に測定した潤滑剤中の鉄粉濃度がc質量%であったことを示し、測定点bはt日目に測定した潤滑剤中の鉄粉濃度がc質量%であったこと、測定点cはt日目に測定した潤滑剤中の鉄粉濃度がc質量%であったことをそれぞれ示す。この連続する測定点a,b,cについての鉄粉濃度の測定間隔毎の増加率の上昇率αは、下記の式(2)のように算出することができる。
【0037】
α=((c−c)÷(t−t))/((c−c)÷(t−t)) ・・・(2)
なお、この鉄粉濃度の測定間隔毎の増加率の上昇率αは、軸受内の潤滑剤の入れ替えを行った直後から入れ替えを行う直前までの期間内(図2におけるT、T、Tの期間内)の連続する3つの測定点で測定するものとする。
【0038】
このαの値が所定の管理値C(一例として0.7)以上となった場合においても当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行うものである。つまり、測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となっていない場合においても、前記測定間隔毎の増加率の上昇率が所定の管理値C以上となった場合には当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行う。
【0039】
測定された鉄粉濃度の測定間隔毎の増加率の上昇率αの値が所定の管理値C以上となった時点で当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行ったにもかかわらず、次に測定された鉄粉濃度の値が管理値Bに達した場合、これを軸受の破損の前兆ととらえ、管理値B以上となった時期に基づき過去の操業実績等を考慮して適宜設定される状態管理メンテナンス時(CBM)や所定期間毎に行う定期メンテナンス時(TBM)などの適時に軸受を交換する。これにより、機械装置が軸受の破損により突発的に運転を中断せざるを得ない事態に陥るのを回避でき、装置の稼働率向上を図ることが可能となる。ここで、前記軸受の交換を、状態管理メンテナンス時(CBM)において行うようにすることで、軸受の寿命延長を図ることが可能となり、補修コストを大幅に削減することが可能となる。
【0040】
なお、前記測定間隔毎の増加率の上昇率が所定の管理値C以上となった場合にのみ当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行う、つまり、測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合の当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行わない運用でも本発明として成立し得るものである。
【0041】
(第三の本発明の実施の形態)
本発明の別の実施の形態の一例について、以下、説明する。本実施の形態では、軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を所定時間間隔毎に測定し、該測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合には、当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行い、その後、当該軸受の使用を継続するところまでは、上記第一、第二の本発明の実施の形態と同じである。
【0042】
そして、本実施の形態では、同一の軸受における鉄粉濃度の値が管理値A以上となる時間の間隔を測定し、該測定した時間の間隔が短くなった割合が所定の管理値D以上となった場合には、当該軸受の使用を停止して交換を行うようにする。
【0043】
図3に、第一、第二の本発明の実施の形態の場合と同じ、ある機械装置(後述する実施例に記載する連続鋳造機)の軸受から排出される潤滑剤(グリース)の中に混入して出てくる鉄粉濃度を、50日間に渡って測定した結果を示す。
【0044】
本実施の形態では、例えば図3に示すように、同一の軸受における鉄粉濃度の値が管理値A(0.1質量%)以上となる時間の間隔T,T,Tを測定する。そして、この測定した時間の間隔が短くなった割合βは、下記の式(3)のように算出することができる。
β=(T−T)÷(T)×100,β=(T−T)÷(T)×100,・・・ (3)
このβの値が所定の管理値D(一例として70)以上となった場合に、当該軸受の使用を停止して交換を行う。ここで、前記軸受の交換は、管理値D以上となった時期に基づき過去の操業実績等を考慮して設定される状態管理メンテナンス時(CBM)、または所定期間毎に設定される定期メンテナンス時(TBM)などの適時に行う。これにより、機械装置が軸受の破損により突発的に運転を中断せざるを得ない事態に陥るのを回避でき、装置の稼働率向上を図ることが可能となる。ここで、前記軸受の交換を、状態管理メンテナンス時(CBM)において行うようにすることで、軸受の寿命延長を図ることが可能となり、補修コストを大幅に削減することが可能となる。
【0045】
なお、上記第三の本発明の実施の形態は、上記第一または第二の本発明の実施の形態と併用してもよい。
【0046】
以上の通りであるが、上記三つの実施の形態において、鉄粉濃度の測定は、磁気バランス式電磁誘導法により測定することが好ましいが、特許文献1に記載のように原子吸光分析装置を用いて行ってもよいし、特許文献2に記載のように透過光による方法を用いて行ってもよいし、あるいは、その他の方法により行ってもよい。
【0047】
また、上記三つの実施の形態においては、本発明を、連続鋳造機の運転に適用した場合を例に説明したが、本発明は、これに限られるものではなく、軸受を備えた機械装置全般に適用することができる。
【0048】
さらに、上記三つの実施の形態においては、潤滑剤としてグリースを用いる場合を例に説明したが、本発明は、これに限られるものではなく、流動体であれば、油のような液体のものを用いてももちろんよい。
【0049】
また、本発明は、潤滑剤を回収し、再使用する場合であっても、潤滑剤を回収しないでそのまま排出してしまう場合であっても適用できる。
【実施例】
【0050】
本発明を、非特許文献1に記載の図4に示すような連続鋳造機100の運転に適用する場合について、以下、説明する。10は鋳型、20は湾曲部、30は矯正部、40は引抜矯正部、50はサポートロール、51はサポートロール群をそれぞれ意味する。60はセグメントである。このセグメント60は、上なら上、下なら下のサポートロール幾つかから成る構成単位である。
【0051】
連続鋳造機100では、図4に示すように、鋳型10から引き抜かれた高温(1000℃以上)のスラブが湾曲部20を通過したのち矯正部30で平坦に矯正され、さらに引抜矯正部40を経るように構成されている。
【0052】
また、湾曲部20、矯正部30、引抜矯正部40には多数のサポートロール50が上下に配列されていて、上下のサポートロール群51の間を高温のスラブが搬送されるように構成されている。
【0053】
図5は、連続鋳造機100の下サポートロール群51を構成する、あるサポートロール50の軸受3の排脂管72を延長し、チャンバー65と呼ばれる区画の外まで延長した図である。高温のスラブからの輻射熱に耐えられるようにするため、軸受3からチャンバー65に至るまでの排脂管72は銅管で構成し、チャンバー65よりも外に位置する排脂管72はテフロン(登録商標)ホース(直径14mm)で構成している。
【0054】
連続鋳造機100の運転中は、チャンバー65内は運転中のラインの内側ということで、人が出入りすることはできない。潤滑剤6は、排脂管72を設けていなかった従来は、チャンバー65内に排出されていたため、採取することが困難であった。わずかに採取できるタイミングは、三ヶ月に一度の定期修理(メンテナンス)の際や、その他の計画設備休止時間内などの限られた時間だけであった。そして、採取する作業も、セグメント60を構成する搬送用ロール43どうしの間に体を潜りこませなければならず、作業性や効率も悪かった。
【0055】
また、三ヶ月に一度の測定では、軸受3から排出される潤滑剤6の鉄粉濃度を定期的に監視しているとはいい難く、軸受の状態を管理しているとはいえない。このような低頻度で鉄粉濃度を測定したとしても、異常を発見できたときに、定期修理(メンテナンス)の時間内で、計画になかったセグメント60の交換を急遽行うことはままならなかった。セグメント60の交換には、それだけの人手と、5hrにも及ぶ作業時間を必要とし、昨今の省人力化の要請に相容れなかったからである。
【0056】
本実施例では、先述の第一、第二または第三の実施の形態において、軸受3が連続鋳造機100におけるセグメント60の軸受である場合に、測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった軸受および測定された鉄粉濃度の測定間隔毎の増加率の上昇率が所定の管理値C以上となった軸受に関しては、連続鋳造機100の次回の状態管理メンテナンス時(CBM)、または定期メンテナンス時(TBM)に優先的に交換を行うようにする。
【0057】
ここでは、交換を必要とする軸受を含むセグメント60ごと別のものと交換することで、軸受の交換を行うことができる。
【0058】
本実施例では、上述の第一、第二または第三の実施の形態を非特許文献1に記載の図4に示すような連続鋳造機100の運転に適用したところ、図6に示すごとく、定期修理(メンテナンス)以外での突発的なセグメントの交換の頻度は、本発明適用前は半年間で4回、時間にして20hrであったのが、本発明適用後は半年間で0回、時間にして0hrに低減できた。
【0059】
さらに、軸受の交換を状態管理メンテナンス時(CBM)に行うようにすることで軸受の寿命延長、つまりはセグメントの寿命延長を図ることが可能となり、補修コストを大幅に削減することが可能となった。
【符号の説明】
【0060】
3 軸受
5 軸受ボックス
6 潤滑剤
7 給脂装置
10 鋳型
20 湾曲部
30 矯正部
40 引抜矯正部
43 搬送用ロール
50 サポートロール
51 サポートロール群
55 流入路
56 流出路
60 セグメント
65 チャンバー
71 給脂管
72 排脂管
73 貯留部
74 圧送部
75 回収ボックス
76 採取管
100 連続鋳造機
W 被搬送材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を測定し、軸受の状態管理を行う軸受状態管理方法であって、
軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を所定時間間隔毎に測定し、該測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合には、当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行い、その後、当該軸受の使用を継続し、
前記測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値B(>A)以上となった場合には、当該軸受の使用を停止して交換を行う
ことを特徴とする軸受状態管理方法。
【請求項2】
軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を測定し、軸受の状態管理を行う軸受状態管理方法であって、
軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を所定時間間隔毎に測定し、該測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合、もしくは、測定された鉄粉濃度の測定間隔毎の増加率の上昇率が所定の管理値C以上となった場合には、当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行い、その後、当該軸受の使用を継続し、
前記測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値B(>A)以上となった場合には、当該軸受の使用を停止して交換を行う
ことを特徴とする軸受状態管理方法。
【請求項3】
軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を測定し、軸受の状態管理を行う軸受状態管理方法であって、
軸受から排出される潤滑剤の鉄粉濃度を所定時間間隔毎に測定し、該測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった場合には、当該軸受内の潤滑剤の入れ替えを行い、その後、当該軸受の使用を継続し、
同一の前記軸受における鉄粉濃度の値が管理値A以上となる時間の間隔を測定し、該測定した時間の間隔が短くなった割合が所定の管理値D以上となった場合には、当該軸受の使用を停止して交換を行うことを特徴とする軸受状態管理方法。
【請求項4】
軸受が連続鋳造機におけるセグメント軸受である場合に、請求項1から3のいずれかに記載の軸受の交換を、管理値Bまたは管理値D以上となった時期に基づき設定される状態管理メンテナンス時、または所定期間毎に設定される定期メンテナンス時に行うことを特徴とする軸受状態管理方法。
【請求項5】
測定された鉄粉濃度の値が所定の管理値A以上となった軸受および測定された鉄粉濃度の測定間隔毎の増加率の上昇率が所定の管理値C以上となった軸受に関しては、次回の状態管理メンテナンス時または定期メンテナンス時に優先的に交換を行うことを特徴とする請求項4に記載の軸受状態管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−75349(P2011−75349A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225838(P2009−225838)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】