説明

軸受装置

【課題】センサによって軸受の異常の兆候を早期に検知すると共に、異常検知時には、直ちに潤滑剤を供給して、軸受が致命的な損傷を受ける前に時間的ロスなく応急対処を施して、信頼性、安全性を大幅に向上させることができる軸受装置を提供する。
【解決手段】回転動作時における物理量を検出して転がり軸受13の運転状態を監視するセンサユニット50と、該センサユニット50により検出された転がり軸受13の物理量を分析して分析結果と所定の基準データと比較して転がり軸受13の異常の有無を判別する異常判定手段61と、異常判定手段61によって異常と判定されたとき転がり軸受13に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置51と、転がり軸受13及び潤滑剤供給装置51の運転状態を出力する出力装置62と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置に関し、より詳細には、回転中の軸受の異常を検出可能であるとともに、異常時に応急的な対処が可能な軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、信頼性が重要視される、例えば鉄道車両の車輪を回転自在に支持する軸受装置としては、鉄道車両の走行速度や車輪が偏摩耗するのを防止するため、或いは、転がり軸受の焼き付きを防止するために、車輪の回転速度を検出する速度センサや転がり軸受の温度を検出する温度センサが組み込まれた軸受装置が採用されている。
【0003】
このような鉄道車輌の回転軸を支持するのに好適な従来の軸受装置として、非回転輪に一体的とされたセンサユニットと、回転エンコーダ部材とを、有する計測転がり軸受が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、回転速度センサ、温度センサ、振動センサを一体化して小型・軽量化を図ったセンサユニットを、複列円すいころ軸受等に配設して、組立作業の簡易化、部品点数削減、ケーブル本数削減によりコストダウンを図ったセンサ付き転がり軸受装置も知られている(例えば、特許文献2参照。)。更に、温度センサユニットを車両の走行方向に対して鉛直となる位置に取り付けると共に、温度センサが検出した検出温度から実際の軸受温度を正確に検出して、異常発生を早期かつ確実に検知できるようにしたセンサ付き軸受装置がある(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−297815号公報
【特許文献2】特開2003−90335号公報
【特許文献3】特開2004−52794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3によると、軸受装置に配設されたセンサユニットにより検出される軸受の温度や回転速度や振動から軸受装置の異常の有無を検出することはできるが、異常を検出した場合の対処手段を備えておらず、異常を解消するためには、車両を停止した状態で別途対策を施す以外に方法がなく、異常時に応急的に対処することができないという問題があった。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸受の異常の兆候を早期に検知すると共に、異常検知時には、軸受が致命的な損傷を受ける前に時間的ロスなく応急対処を施して、信頼性、安全性を大幅に向上させることができる軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、前記外輪軌道及び前記内輪軌道との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受と、
前記転がり軸受の回転動作時における物理量を検出して前記転がり軸受の運転状態を監視するセンサユニットと、を備える軸受装置であって、
前記センサユニットにより検出された前記転がり軸受の物理量を分析し、分析結果と所定の基準データと比較して前記転がり軸受の異常の有無を判別する異常判定手段と、
前記異常判定手段によって前記転がり軸受が異常と判定されたとき、前記転がり軸受に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置と、
前記転がり軸受及び前記潤滑剤供給装置の運転状態を出力する出力装置と、
を備えることを特徴とする軸受装置。
(2) 前記センサユニットは、温度センサ、振動センサ、速度センサ、及びAEセンサの少なくとも一つから構成されることを特徴とする上記(1)に記載の軸受装置。
(3) 前記センサユニットは、前記外輪と前記内輪とのうちで回転しない軌道輪である静止輪、若しくは該静止輪に固定した部材に支持されることを特徴とする上記(2)に記載の軸受装置。
(4) 前記潤滑剤供給装置は、前記外輪と前記内輪とのうちで回転しない軌道輪である静止輪、若しくは該静止輪に固定した部材に支持されることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかに記載の軸受装置。
(5) 前記センサユニット及び前記潤滑剤供給装置の少なくとも1つは、前記転がり軸受の密封装置に配設されることを特徴とする上記(1)から(4)いずれかに記載の軸受装置。
(6) 前記潤滑剤供給装置により前記転がり軸受に供給される前記潤滑剤は、潤滑油、グリース、ワックス、熱可塑性樹脂粉末、熱可塑性樹脂粉末含有ペースト、低融点金属粉末、低融点金属粉末含有ペースト、固体潤滑剤のうちの1つ、またはこれらの組み合わせであることを特徴とする上記(1)から(5)いずれかに記載の軸受装置。
(7) 前記転がり軸受は、鉄道車輌用転がり軸受であることを特徴とする上記(1)から(6)いずれかに記載の軸受装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の軸受装置によれば、回転動作時における物理量を検出して転がり軸受の運転状態を監視するセンサユニットを有し、該センサユニットにより検出された転がり軸受の物理量を分析して分析結果と所定の基準データと比較して転がり軸受の異常の有無を判別する異常判定手段と、異常判定手段によって異常と判定されたとき転がり軸受に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置と、転がり軸受及び潤滑剤供給装置の運転状態を出力する出力装置と、を備えるので、センサユニットが異常検知した時には、直ちに潤滑剤を転がり軸受に供給して時間的ロスなく、軸受が致命的な損傷を受ける前に応急対処を施して、信頼性、安全性を大幅に向上させることができる。
また、このような軸受装置は、異常が発生すると人命に関わる可能性がある鉄道車両の車軸を支持するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る第1実施形態の軸受装置の断面図である。
【図2】図1に示す円Aで囲まれた部分の拡大図である。
【図3】本発明に係る第2実施形態の軸受装置の断面図である。
【図4】図3に示す円Bで囲まれた部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る軸受装置の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態である軸受装置の断面図、図2は図1における円Aで囲まれた部分の拡大図である。図1及び図2に示すように、本実施形態の軸受装置10は、例えば、不図示の鉄道車輌の車輪が固定された回転軸である車軸11が、転がり軸受である複列円すいころ軸受13により、軸受箱12に回転可能に支持されている。
【0012】
複列円すいころ軸受13は、円錐面状に傾斜する一対の外輪軌道14a、14bが内周面に設けられ、軸受箱12に内嵌する1つの外輪15と、円錐面状に傾斜した内輪軌道16a、16bを外周面に有し、車軸11に外嵌して車軸11と共に回転する回転輪である一対の内輪17a、17bと、環状の保持器19に回動自在に保持されて外輪軌道14a、14bと内輪軌道16a、16bとの間に周方向に離間して複列に配置された複数の円すいころ18と、を備える。
【0013】
一対の内輪17a、17b間には内輪間座20が介装されている。内輪17aの軸方向一端側(図中右端)には、押し付け間座21aが、車軸11の段部11aに当接して外嵌する。また、内輪17bの軸方向他端側(図中左端)には、内輪17bを軸方向に押圧する押し付け間座21bが車軸11に外嵌し、押し付け間座21bの内輪17bと反対側には、軸端ナット22が車軸11に螺合して配置されている。軸端ナット22を回転させて締め付けることにより、押し付け間座21a、21bを介して内輪17a、17bに押し付け力が付与されて、複列円すいころ軸受13に必要な予圧が付与される。なお、使用条件によっては予圧を付与しなくともよい。
【0014】
外輪15は、軸受箱12に固定された回り止め23によって回り止めされている。回り止め23は、外輪15の外周面に設けられた凹部24に先端部が挿入されて、外輪15の移動を阻止する。
【0015】
外輪15の軸方向両端部の内径面には、円すいころ軸受13の軸方向両端部をシールする密封装置であるシール部材25a、25bが内嵌して固定されている。このシール部材25a、25bの内径端には、円環状のシール板部27a、27bが、軸方向に突出して形成されている。シール板部27a、27bは、押し付け間座21a、21bの外周面に形成されたシール凹部23a、23bに所定の隙間をもって非接触で挿入される。これにより、シール板部27a、27bとシール凹部23a、23bと、によってラビリンスシール28が形成されて、円すいころ軸受13がシールされている。複列円すいころ軸受13の内部空間45内には、グリースや潤滑油等の潤滑剤が封入されている。
【0016】
シール部材25bの円すいころ軸受13から離間する側(外側)には、底部30にセンサ孔31が形成され、開口部がカバー32により密閉されているセンサ筐体29が配設されている。センサ筐体29内には、センサ孔31内に配置された速度検出素子37、温度センサ38及び振動センサ39が、それぞれ基板40に固定された状態で収容されている。これにより、センサユニット50が、センサ筐体29、速度検出素子37、温度センサ38及び振動センサ39によって構成される。
【0017】
そして、センサ筐体29の側板33から挿入したボルト34をシール部材25bの内側に配置された雌ねじ部材35にねじ込むことで、センサ筐体29がシール部材25bに固定される。また、固定されたセンサ筐体29とシール部材25との間の隙間には、シリコン樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂36が充填されている。
【0018】
軸端ナット22の外周面には、円すいころ軸受13の回転に連動して回転する被検出部であるエンコーダ43が一体に設けられている。エンコーダ43は、周方向に等間隔で凹部及び凸部が交互に設けられた外歯車状に形成されており、センサ筐体29内の速度検出素子37と非接触で対向配置されている。即ち、エンコーダ43と速度検出素子37とによって回転速度センサ44を構成している。
【0019】
これにより、車軸11に固定された軸端ナット22の回転を、エンコーダ43の凹部及び凸部による磁束の変化として速度検出素子37で検出し、該速度検出素子37から例えばパルス状の電気信号を制御装置60に出力して所定の処理を行うことで、車軸11の回転速度が検出される。なお、周方向に異なる位置に2個の速度検出素子37を配置することで、車軸11の回転方向を測定することができる。
【0020】
温度センサ38は、シール部材25側に配されており、シール部材25を介して伝達される円すいころ軸受13内部の雰囲気温度を常時測定し、これを電気信号に変換して制御装置60に出力して、潤滑剤切れ等による円すいころ軸受13の温度上昇を監視する。
【0021】
振動センサ39は、円すいころ軸受13の軸方向の振動を検出するセンサであり、円すいころ18、外輪15及び内輪17の軸方向の振動成分を電気信号に変換して、これを制御装置60に出力する。振動センサ39は、軸方向の振動のみを測定しているので、円すいころ軸受13の剥離や傷等の異常振動を精度良く測定できるとともに、車軸11の偏摩耗も精度良く測定することができる。また、取付け位置(位相)は円周上の任意の場所に設定することができる。
【0022】
また、センサ筐体29からは、速度検出素子37,温度センサ38,振動センサ39から出力された測定信号を制御装置60に伝送するために不図示のケーブルが引き出されている。
【0023】
シール部材25bの円すいころ軸受13と反対側(外側)には、潤滑剤供給装置51がセンサユニット50と周方向に異なる位置に配設されている。潤滑剤供給装置51は、円すいころ軸受13の内部空間45に連通する潤滑剤供給孔52が設けられた給油ブロック53と、パイプ55を介して給油ブロック53に接続する潤滑剤タンク54とを備える。潤滑剤タンク54の開閉弁56を開閉することにより、潤滑剤タンク54内の潤滑剤が潤滑剤供給孔52を介して円すいころ軸受13の内部空間45に供給されるようになっている。この場合、シール部材25bには、潤滑剤供給孔52と内部空間45とを連通するように貫通孔が形成されている。
【0024】
潤滑剤タンク54から供給される潤滑剤としては、潤滑油、グリース、ワックス、熱可塑性樹脂粉末、熱可塑性樹脂粉末含有ペースト、低融点金属粉末、低融点金属粉末含有ペースト、固体潤滑剤のうちの1つ、またはこれらの組み合わせたものが使用可能である。なお、潤滑剤が高粘度である場合は、潤滑剤タンク54内の圧力を高めるため加圧装置(図示せず)を設けて、潤滑剤を内部空間45に押し出して供給するようにしてもよい。
【0025】
制御装置60は、異常判定手段61と出力装置62とを備える。異常判定手段61は、センサユニット50により検出された転がり軸受13の物理量を分析し、この分析結果と予め記憶部に記憶されている所定の基準データとを比較して転がり軸受13の異常の有無を判別する。
【0026】
ここで物理量とは、速度検出素子37で検出した転がり軸受13の回転速度、温度センサ38で検出した転がり軸受13の温度、及び振動センサ39で検出した転がり軸受13の振動などである。また、所定の基準データとは、例えば、転がり軸受13の種類、転がり軸受13にかかる負荷形態や大きさなどに従って予め決められた各種物理量の閾値であり、センサユニット50による検出値が閾値を越えたとき、転がり軸受13が異常であると判別される。
【0027】
異常判定手段61によって転がり軸受13が異常であると判定されると、制御装置60から潤滑剤供給装置51に潤滑剤供給指令信号が出力され、潤滑剤供給装置51から転がり軸受13に潤滑剤を供給して転がり軸受13の潤滑状態を緊急的に改善し、転がり軸受13が致命的な損傷に至るのを回避することができる。
【0028】
出力装置62は、センサユニット50により検出された各種物理量や異常の判定結果を表示すると共に、潤滑剤供給装置51の作動の有無などの運転状態が出力されるものであり、鉄道車輌などの場合には、運転席に配置されることが好ましい。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の軸受装置10によれば、回転動作時における温度、振動、回転速度、AEなどの物理量を検出して転がり軸受13の運転状態を監視するセンサユニット50を有し、該センサユニット50により検出された転がり軸受13の物理量を分析して分析結果と所定の基準データと比較して転がり軸受13の異常の有無を判別する異常判定手段61と、異常判定手段61によって異常と判定されたとき転がり軸受13に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置51と、転がり軸受13及び潤滑剤供給装置51の運転状態を出力する出力装置62と、を備えるので、異常検知時には、直ちに潤滑剤を転がり軸受13に供給して時間的ロスなく、軸受13が致命的な損傷を受ける前に応急対処を施して、信頼性、安全性を大幅に向上させることができる。
【0030】
また、センサユニット50は、速度センサ44、温度センサ38、振動センサ39、及びAEセンサの内の1つまたはこれらの組み合わせから構成されるので、センサユニット50が検出する物理量から転がり軸受13の異常の有無を早期に判別することができる。
【0031】
センサユニット50及び潤滑剤供給装置51は、外輪15に固定したシール部材25bに支持されるので、センサユニット50により検出された検出信号を支障なく外部に配設された制御装置60に出力すると共に、潤滑剤を外部から供給することができる。また、軸受装置10の回転質量が小さくなり、高速回転が可能となる。
【0032】
潤滑剤は、潤滑油、グリース、ワックス、熱可塑性樹脂粉末、熱可塑性樹脂粉末含有ペースト、低融点金属粉末、低融点金属粉末含有ペースト、固体潤滑剤のうちの1つ、またはこれらの組み合わせであるので、転がり軸受13に作用する負荷に適合した最適な潤滑剤を供給することができる。
【0033】
転がり軸受13は、鉄道車輌用転がり軸受であるので、万一、転がり軸受13に異常が発生しても潤滑剤を時間ロスなく供給して応急処置することができ、信頼性や安全性が大幅に向上する。
【0034】
(第2実施形態)
図3は本発明の第2実施形態である軸受装置の断面図、図4は図3における円Bで囲まれた部分の拡大図である。図3及び図4に示すように、本実施形態の軸受装置10は、センサユニット70及び潤滑剤供給装置51が転がり軸受13の軸方向略中央に配置されている点で第1実施形態の軸受装置と異なる。その他の構成は同様であるので、同一部分には同一符号または相当符号を付して詳細な説明を省略する。
【0035】
本実施形態の軸受装置10は、内輪間座20の中間部外周面に、鋼材等の磁性金属材料により一体形成したエンコーダ43を、締り嵌めにより外嵌固定している。このエンコーダ43は全体を外歯歯車状に形成したもので、その外周縁には凹部と凸部とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で形成している。従って、この外周縁部分の磁気特性は、円周方向に関して交互に且つ等間隔で変化しており、この外周縁部分が、車輪の回転速度検出の為の被検出部として機能する。
【0036】
軸受箱12の下部には、後述するセンサユニット70を設置する為の収納部73を、下方に突出する状態で形成している。外輪15の下端部外周面は、この収納部73内に露出している。そして、この外輪15の下端部に形成したセンサ取付孔74の外端開口を、収納部73内に位置させている。このセンサ取付孔74は、外輪15の軸方向中間部で1対の外輪軌道14a、14b同士の間部分に、この外輪15の内外両周面同士を連通させる状態で形成している。
【0037】
そして、この様なセンサ取付孔74内に、隔壁状ケース78を内嵌支持している。この隔壁状ケース78は、アルミニウム又はその合金、銅又はその合金、ステンレス鋼板等の、伝熱性の良好な非磁性材により薄肉に造ったもので、基半部(図3、4の下半部)をセンサ取付孔74内に密に内嵌自在な段付円筒状とし、先半部(図3、4の上半部)を、先端開口を塞がれた有底円筒状としている。この様な隔壁状ケース78の基半部をセンサ取付孔74に密に内嵌した状態で、この隔壁状ケース78の先端面(図3、4の上端面)は、エンコーダ43の外周面に近接対向する。
【0038】
この様にしてセンサ取付孔74内に保持した隔壁状ケース78内に、センサユニット70を、この隔壁状ケース78の基端開口部から、外輪15の径方向外方から内方に挿入している。センサユニット70は、単一のセンサホルダ80内に、回転速度センサ81と、温度センサ82と、振動を検出する為の振動センサ(加速度センサ)83とを保持して成る。回転速度センサ81は、従来と同様に、磁気抵抗素子、ホール素子、永久磁石と磁気コイルとの組み合わせ等、磁束の密度或は方向の変化に対応して出力を変化させるものを使用する。この様な回転速度センサ81は、センサホルダ80の先端部に包埋し、その検出面を隔壁状ケース78の底部を介して、エンコーダ43の外周面に近接対向させている。
【0039】
温度センサ82は、センサホルダ80の中間部外周面寄り部分に支持し、隔壁状ケース78の中間壁を介して、センサ取付孔74の内周面に対向させている。即ち、温度センサ82を支持する位置は、極力外輪15に近く、この外輪15の熱の影響を受け易い部分としている。
【0040】
振動センサ83は、センサホルダ80の一部で、回転速度センサ81及び温度センサ82と干渉しない部分に包埋支持している。要は、振動センサ83は、外輪15からセンサホルダ80に伝わる振動を検出できる位置に保持すれば良い。
【0041】
センサユニット70は、隔壁状ケース78内に挿入した状態で、その基端部に設けた取付フランジ84を外輪15の外周面に不図示のボルトで結合する等により、外輪15に対し固定する。この状態で、センサユニット70の先端面に存在する回転速度センサ81の検出部が、隔壁状ケース78の底部及び微小隙間を介して、エンコーダ43の外周面に近接対向する。又、温度センサ82は、外輪15に形成したセンサ取付孔74の内周面に、隔壁状ケース78の中間壁部を介して対向する。回転速度センサ81の出力信号を取り出す為のハーネスと、温度センサ82の出力を取り出す為のハーネスと、振動センサ83の出力を取り出す為のハーネスとは、一緒に束ねて1本のケーブル85とし、制御装置60に接続する。
【0042】
外輪15の軸方向中央部には、転がり軸受13の内部空間45に連通する連通孔90が設けられており、また軸受箱12の周側部にも連通孔90に対応して潤滑剤孔91が設けられている。さらに、潤滑剤孔91には、潤滑剤供給装置51がセンサユニット50と周方向に異なる位置に配設されている。潤滑剤供給装置51は、パイプ55、連通孔90及び潤滑剤孔91を介して円すいころ軸受13の内部空間45に接続される潤滑剤タンク54を備える。そして、潤滑剤タンク54の開閉弁56を開弁 することにより、潤滑剤タンク54内の潤滑剤がこれらパイプ55、連通孔90及び潤滑剤孔91を介して円すいころ軸受13の内部空間45に供給される。
【0043】
従って、この変形例においても、センサユニット70により検出された物理量が、異常判定手段61によって異常と判定されると、制御装置60から潤滑剤供給装置51に潤滑剤供給指令信号を出力して、潤滑剤供給装置51が転がり軸受13に潤滑剤を供給して潤滑状態を改善する。
【0044】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。例えば、上記各実施形態では、転がり軸受として複列円すいころ軸受13を例示したが、これに限定されず、複列の深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受やその他の各種転がり軸受に本発明を適用してもよい。さらに、上記各実施形態では、鉄道車両用の軸受装置に本発明を適用した場合を例示したが、これに代えて、自動車、搬送車等の移動体に組み込まれる軸受装置に本発明を適用してもよい。
【0045】
また、センサユニットと潤滑剤供給装置は、周方向に異なる位相にそれぞれ配置しているが、これらの配置は任意であり、単一のユニットによって構成されてもよく、或いは、それぞれ異なる軸方向位置に配置されてもよい。センサユニット内の具体的な構成も任意である。
【0046】
さらに、本実施形態では、潤滑剤供給装置51は転がり軸受の外輪15に固定したシール部材25bに配設されているが、静止輪である外輪15に配設されてもよい。また、本実施形態では、潤滑剤供給装置51の給油ブロック53のみがシール部材25bに配設されているが、潤滑剤タンク54を含めた潤滑剤供給装置51全体が配設される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 軸受装置
13 転がり軸受(鉄道車輌用転がり軸受)
14a、14b 外輪軌道
15 外輪(静止輪)
16a、16b 内輪軌道
17a、17b 内輪
18 円すいころ(転動体)
25a、25b シール部材(密封装置)
38、82 温度センサ
39、83 振動センサ
44、81 回転速度センサ
50、70 センサユニット
51 潤滑剤供給装置
60 制御装置
61 異常判定手段
62 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道を有する外輪と、外周面に内輪軌道を有する内輪と、前記外輪軌道及び前記内輪軌道との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受と、
前記転がり軸受の回転動作時における物理量を検出して前記転がり軸受の運転状態を監視するセンサユニットと、を備える軸受装置であって、
前記センサユニットにより検出された前記転がり軸受の物理量を分析し、分析結果と所定の基準データと比較して前記転がり軸受の異常の有無を判別する異常判定手段と、
前記異常判定手段によって前記転がり軸受が異常と判定されたとき、前記転がり軸受に潤滑剤を供給する潤滑剤供給装置と、
前記転がり軸受及び前記潤滑剤供給装置の運転状態を出力する出力装置と、
を備えることを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記センサユニットは、温度センサ、振動センサ、速度センサ、及びAEセンサの少なくとも一つから構成されることを特徴とする請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記センサユニットは、前記外輪と前記内輪とのうちで回転しない軌道輪である静止輪、若しくは該静止輪に固定した部材に支持されることを特徴とする請求項2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記潤滑剤供給装置は、前記外輪と前記内輪とのうちで回転しない軌道輪である静止輪、若しくは該静止輪に固定した部材に支持されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記センサユニット及び前記潤滑剤供給装置の少なくとも1つは、前記転がり軸受の密封装置に配設されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の軸受装置。
【請求項6】
前記潤滑剤供給装置により前記転がり軸受に供給される前記潤滑剤は、潤滑油、グリース、ワックス、熱可塑性樹脂粉末、熱可塑性樹脂粉末含有ペースト、低融点金属粉末、低融点金属粉末含有ペースト、固体潤滑剤のうちの1つ、またはこれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の軸受装置。
【請求項7】
前記転がり軸受は、鉄道車輌用転がり軸受であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−50193(P2013−50193A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189534(P2011−189534)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】