説明

軸状ワークの焼入装置

【課題】軸状ワークの加熱面に対向した配置される冷却ジャケットの軸状ワークとの対向面積を拡大できて、加熱面を冷却媒体で広範囲に冷却できる等、各種焼入パターンを容易に得ることが可能な軸状ワークの焼入装置を提供する。
【解決手段】通電加熱もしくは誘導加熱で軸状ワークの所定面を加熱可能な電源装置と、加熱面に冷却媒体を噴射して冷却可能な冷却ジャケットと、を備え、冷却ジャケットは、冷却媒体の流路と噴射孔が形成された本体と、該本体に連設されその上端が軸状ワークの軸中心位置より所定寸法上方に位置して、冷却媒体を軸状ワークの外周面の円周方向上方に案内可能な焼入パターン調整手段を備える。前記焼入パターン調整手段は、本体の両端部上に連設された一対の板体を有し、該板体の案内面が軸状ワークの外周面に所定の隙間を有して対向配置された垂直面、傾斜面、曲面の少なくとも一つで形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯面と背面を有するラックバー等の軸状ワークの所定面を例えば通電加熱により焼入が可能な軸状ワークの焼入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の焼入装置としては、例えば特許文献1に開示されている。この焼入装置は、ラックバーの長手方向に沿って所定間隔で配置した第1接触電極及び第2接触電極と、通電加熱したラックバーの歯面や背面を急速冷却する冷却ジャケットと、ラックバーを上方から押圧する油圧シリンダ等を備えている。そして、ラックバーの歯面を焼入れする場合には、歯面側に両接触電極を接触させて高周波電流を直接通電で加熱して急速冷却し、また、ラックバーの背面を焼入れする場合には、ラックバーの上下位置を逆に設定して背面側に両接触電極を接触させて高周波電流を直接通電で加熱して急速冷却することによって行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−183234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような焼入装置にあっては、軸状ワークとしてのラックバーの背面を通電加熱した後に、加熱面(背面)を急速冷却するための冷却ジャケットの冷却水の噴射面が、ラックバーとの対向面に対応して略半円弧形状に形成されると共に、その上面の高さがラックバーの略軸中心位置に設定されている。そのため、冷却ジャケットから噴射される冷却水がラックバーの軸中心位置より上方をカバーできず、背面の焼入範囲が狭く限定され歯面側に向けて延ばした状態で焼入することが困難で、ラックバーの背面に所望パターンの高精度な焼入品質を得ることが難しい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、軸状ワークの加熱面に対向した配置される冷却ジャケットの軸状ワークとの対向面積を拡大できて、加熱面を冷却媒体で広範囲に冷却できる等、各種焼入パターンを容易に得ることが可能な軸状ワークの焼入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、所定周波数の電流の通電加熱もしくは誘導加熱により軸状ワークの所定面を加熱可能な電源装置と、前記軸状ワークの加熱面に冷却媒体を噴射して冷却可能な冷却ジャケットと、を備えた軸状ワークの焼入装置であって、前記冷却ジャケットは、内部に冷却媒体の流路が形成されると共に該流路に連通し軸状ワークの加熱面と対向する面に噴射孔が形成された本体と、該本体に連設されその上端が前記軸状ワークの軸中心位置より所定寸法上方に位置して、前記噴射孔から噴射された冷却媒体を軸状ワークの外周面の円周方向上方に案内可能な焼入パターン調整手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、前記焼入パターン調整手段が、前記本体の両端部上に連設された一対の板体を有し、該板体の案内面が前記軸状ワークの外周面に所定の隙間を有して対向配置された垂直面、傾斜面、曲面の少なくとも一つで形成されていることを特徴とする。また、請求項3に記載の発明は、前記焼入パターン調整手段が、前記本体に、軸状ワークの外周面に対して円周方向の位置関係が調整可能に連設されていることを特徴とする。さらに、請求項4に記載の発明は、前記軸状ワークがラックバーで前記加熱面が該ラックバーの背面であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1に記載の発明によれば、軸状ワークの加熱面に冷却媒体を噴射して冷却可能な冷却ジャケットが、冷却媒体の流路と噴射孔が形成された本体と、該本体の上部に連設されその上端が軸状ワークの軸中心位置より所定寸法上方に位置して冷却媒体を軸状ワークの外周面の円周方向上方に案内可能な焼入パターン調整手段とを備えるため、冷却ジャケットの軸状ワークとの対向面積を拡大して、軸状ワークの冷却範囲を円周方向に広げることができる等、軸状ワークの所定面に所望の焼入パターンを容易に得ることができる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、焼入パターン調整手段が一対の板体を有し、この板体の案内面が垂直面、傾斜面、曲面の少なくとも一つで形成されているため、本体の噴射孔から噴射される冷却媒体を板体の案内面で軸状ワークの円周方向にスムーズに案内して、加熱面を良好に冷却することができる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加え、焼入パターン調整手段が、本体に軸状ワークの外周面に対して円周方向の位置関係が調整可能に連設されているため、冷却媒体による冷却範囲を焼入パターン調整手段の位置調整で所望に設定できて、各種焼入パターンを簡単かつ確実に得ることができる。
【0011】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、請求項1ないし3に記載の発明の効果に加え、軸状ワークがラックバーで加熱面が該ラックバーの背面であるため、ラックバーの背面の焼入範囲を歯面側まで広げることができて、背面に最適な焼入層が形成されたラックバーを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係わる軸状ワークの焼入装置の斜視図
【図2】同その焼入治具がセットされる治具セット台の斜視図
【図3】同その平面図
【図4】同その正面図
【図5】同軸状ワークがセットされる焼入治具の縦断面図
【図6】同その平面図
【図7】同図5のA部の拡大図
【図8】同焼入治具の冷却ジャケットの縦断面図
【図9】同その側面図
【図10】同焼入状態を示すラックバーの断面図
【図11】同冷却ジャケットの変形例を示す縦断面図
【図12】同冷却ジャケットの他の変形例を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図10は、本発明に係わる軸状ワークの焼入装置の一実施形態を示している。焼入装置1は、図1に示すように、コラム3を有し、このコラム3の略中央前部には、焼入治具2が着脱可能にセットされる治具セット台4が配置されている。
【0014】
前記焼入治具2の上方には、焼入治具2にセットされた軸状ワークとしてのラックバーWの歯面Waと背面Wbを反転させたり、あるいはラックバーWを後述する支持部材18a、18bにセットしたり取り外す等の所定の動作を行うワーク制御装置5が配置されている。また、前記コラム3の右側には、操作盤6aを有する制御装置6が配置されると共に、コラム3の所定位置には、複数の所定周波数の電流を出力可能な電源装置7と、後述する冷却ジャケット19に冷却媒体としての冷却水を供給可能な冷却水供給装置8等が配置されている。
【0015】
前記治具セット台4は、図2〜図4に示すように、略直方体形状の架台10を有し、この架台10の上面後方側に焼入治具2が着脱可能に配置されている。また、架台10の上面の右側には、例えばラックバーWの上下方向の向きを検出可能なセンサ11aを有するラックバー判別装置11が配置されると共に、架台10上面の後方側にもセットされたラックバーWの位置等を検出可能なセンサ12が配置されている。さらに、架台10の焼入治具2の前方側には、焼入が完了したラックバーWを複数本の傾斜した桟13aにより前方に排出可能な自動排出装置13が配置されている。
【0016】
この治具セット台4上にセットされる前記焼入治具2は、図5〜図7に示す如く構成されている。すなわち、焼入治具2は、平面視長方形状の所定板厚の例えば金属板からなり、下面の四隅に治具セット台4の位置決め孔に嵌合可能な位置決め突起15aが設けられたベース15を有している。このベース15上には、一対の通電電極16a、16bと、この通電電極16a、16bの下部を支持すると共に該通電電極16a、16bに電気的に接続された一対の導電部材17a、17bと、ラックバーWの先端側Wc及び基端側Wdを支持する先端側支持部材18a及び基端側支持部材18bと、前記通電電極16a、16b間に配置された冷却ジャケット19が、所定位置に配置されることで、これらの各部材がベース15に一体化されてユニット化されている。
【0017】
前記一対の通電電極16a、16bは、所定板厚の銅板により断面(正面視)略L字形状に形成されて、ラックバーWの背面Wb(もしくは歯面Wa)に接触可能な接触部をそれぞれ有している。そして、各通電電極16a、16bは、その水平な固定部が対応する導電部材17a、17bにボルト20(図5参照)により着脱可能に固定されて、接触部間の間隔が該接触部上に載置されるラックバーWの背面Wbや歯面Waの焼入長さ等に対応するように設定されている。
【0018】
前記一対の導電部材17a、17bは、図5に示すように、所定板厚の銅板により形成されて、絶縁部材21を介して積層配置されると共に、その一方の端部に前記通電電極16a、16bの固定部が前記ボルト20により固定されている。また、各導電部材17a、17bは、複数個(図では6個)のネジ22(図3及び図6参照)により前記ベース15に固定されると共に、一対の導電部材17a、17bの他方の端部は、ベース15の長手方向の略中間位置から側方(ベース15の後方側)に突出して、該突出部分が端子部23a、23b(図6参照)を形成している。この端子部23a、23bに、図示しない銅板等からなる導体の一方の端部が接続され、この導体の他方の端部が前記電源装置7の出力端子に接続されている。
【0019】
前記先端側支持部材18aは、図5及び図6に示すように、ベース15の左端部に固定されたブロック25上に図6の矢印イ方向に移動可能な移動板26と、この移動板26の先端に固定されラックバーWの先端側Wcに嵌合可能な嵌合支持部27を有している。また、移動板26には、位置調整ボルト28が挿通される2条の長孔が設けられており、この長孔に対応してブロック25に設けたネジ孔に位置調整ボルト28を螺合することで移動板26が所定位置に固定されて、ラックバーWの先端側Wcが所定位置に設定支持されるようになっている。
【0020】
また、前記基端側支持部材18bは、図5に示すように、ベース15の右端部に固定されたブロック29上にボルト30により連結された支持部31を有し、この支持部31内には、ボルト30の先端側に嵌装されたスプリング32が内蔵されている。このスプリング32によって、支持部31がブロック29に対して弾性支持され、ラックバーWの外周面形状に対応した支持部31の円弧面からなる上面で、ラックバーWの基端側Wdの所定位置が下方から所定位置に設定支持されるようになっている。
【0021】
前記冷却ジャケット19は、前記一対の通電電極16a、16b間に配置され、図7〜図9に示すように、内部に冷却水流路33aが形成され通電電極16a、16bの長さに対応した細長箱形状のジャケット本体33(本体33という)と、この本体33の幅方向(図8の左右方向)の両端部上に連設され、本体33の長さに対応した所定長さの前後一対の焼入パターン調整手段としての焼入パターン調整板40(調整板40という)を有している。前記本体33の上面には、冷却水流路33aに連通した多数の噴射孔33bが形成され、この噴射孔33bから前記冷却水供給装置8からホースやホースコネクタ34(図6参照)を介して供給される冷却水が、上方に向けて所定圧で噴射されるようになっている。
【0022】
また、前記一対の調整板40は、例えば所定板厚の銅の板体で形成されて、その下端部に設けられた段差状の取付部40aが、本体33の上面にロー付け等により固定されている。このとき、調整板40の上下幅は、上端がラックバーWの軸中心Cより所定寸法h1上方に位置するように設定されている。また、調整板40のラックバーWの外周面と対向する内面には、案内面40bが形成され、この案内面40bは、下部に本体33の噴射面33cの円周形状に対応する曲面40b1と、この曲面40b1上に連設された垂直面40b2を有している。
【0023】
また、この案内面40bの曲面40b1等により、本体33の噴射面33cと調整板40の案内面40bとが一つの連続した面となるように形成されている。なお、案内面40bの曲面40b1は、垂直面40b2と本体33の噴射面33cとの間に略一つの連続した面が得られる場合には、省略することも可能である。また、前記本体33の例えば一方の側面の所定位置には複数の進入孔41が設けられ、この進入孔41には前記ホースコネクタ34が連結され、この進入孔41から冷却水が本体33の冷却水流路33a内に所定圧力で図8の矢印ロの如く進入するようになっている。
【0024】
なお、焼入治具2の前記ベース15の左右端部には、取手35が側方であるベース15の長手方向に突出する状態で固定されており、この取手35を作業者が手で持ったり、あるいはクレーンやロボット等で持つことにより、焼入治具2が持ち運び(運搬)可能となっている。また、前記ベース15の適宜位置には、焼入治具2を自動識別もしくは目視識別可能な識別マーク36(図6参照)が付与されている。さらに、前記電源装置7は、例えばインバータ回路等を有して、低・中周波の電流から高周波の電流までの少なくとも2種類の周波数の電流を、一対の通電電極16a、16bに出力可能に構成されている。
【0025】
次に、前記焼入装置1の動作の一例を、ラックバーWの背面Wbを焼入する場合を例にして説明する。先ず、焼入装置1で焼入されるラックバーWの背面Wbの焼入長さ等の形態に応じた焼入治具2を予め準備し、このとき、焼入治具2の一対の通電電極16a、16b間の対向距離や、冷却ジャケット19のジャケット本体33の噴射孔33bの位置や内径、先端側支持部材18aの移動板26の位置、基端側支持部材18bの支持部31の上面形状等は、対応するラックバーWの形態(ラックバーW自体の形状や背面Wbの焼入パターン等)に応じて予め所定に設定されている。
【0026】
そして、焼入するラックバーWに対応した焼入治具2を治具セット台4にセットし、焼入治具2の支持部材18a、18bで例えば歯面Waが焼入された(もしくは未焼入の)ラックバーWの背面Wbを支持する。この支持状態において、ラックバーWの背面Wbの長手方向の両端部に前記通電電極16a、16bの接触部を接触させる。この接触状態で、制御装置6の制御により、電源装置7が作動して通電電極16a、16bの接触部を介してラックバーWの背面Wbに所定周波数の電流が通電される。この通電は、例えば低周波(もしくは中周波)の電流を通電電極16a、16bに供給して所定時間の予備通電加熱を行い、この予備通電加熱でラックバーWの温度を所定温度まで上昇させた後に、高周波の電流を通電電極16a、16bに所定時間供給することで行われる。
【0027】
そして、所定時間の通電加熱が終了したら、冷却ジャケット19から冷却水が所定時間噴射され、この冷却水の噴射による急速冷却でラックバーWの背面Wbが焼入される。この冷却水による焼入時に、冷却ジャケット19の本体33の冷却水流路33a内に図8の矢印ロの如く進入した冷却水は、本体33の噴射孔33bから矢印ハの如く上方に噴射され、この冷却水がラックバーWの背面Wbに接触しつつ、該背面Wbと本体33の噴射面33c及び調整板40の案内面40bとの間を上方に矢印ニの如く流れる。つまり、冷却ジャケット19から噴射される冷却水は、ラックバーWの軸中心Cより円周方向の上方に向けて噴射される(流れる)ことになる。この冷却水は、例えば冷却ジャケット19の長手方向の端部から外部に排水される。
【0028】
なお、実験によれば、前記調整板40を使用した場合のラックバーWの背面Wbの焼入状態と、前記調整板40を使用しない場合の焼入状態を比較したところ、図10に示す結果が得られた。図10(b)は、調整板40を使用しない場合の焼入層42を示し、その焼入パターン角度α2が比較的小さくなっている。これに対して、図10(a)に示すように、調整板40を使用した場合は、焼入層42が歯面Wa方向に延びて大きな焼入パターン角度α1が得られ、ラックバーWの背面Wbとして良好な焼入状態が得られることが確認された。
【0029】
そして、背面Wbが焼入されたラックバーWは、支持部材18a、18bによる支持が解除されて、例えばラックバーWの下方に位置する自動排出装置13の桟13aの先端が上昇することで、傾斜している桟13aに沿って治具セット台4の前方に排出されて、焼入作業が終了する。なお、ラックバーWの歯面Waの焼入は、例えば前記通電電極16a、16bにより例えば背面Wbの焼入前に行うことができ、また、所定形態の全てのラックバーWの背面Wb等の焼入作業が終了し、他の異なる形態のラックバーWを焼入する場合は、治具セット台4にセットされている焼入治具2を、所定の焼入治具2に交換することで行うことができる。
【0030】
このように、前記実施形態の焼入装置1においては、冷却水を噴射可能な冷却ジャケット19が、内部に冷却水流路33aが形成された本体33と、該本体33の上部に連設されその上端がラックバーWの軸中心Cより所定寸法h1上方に位置して冷却水をラックバーWの背面Wbの円周方向上方に案内可能な調整板40を備えるため、冷却ジャケット19のラックバーWとの対向面積を拡大して、ラックバーWの冷却水による冷却範囲を円周方向の上方に広げることができ、ラックバーWの背面Wbに所望の焼入パターン(焼入層42)を容易に得ることができる。
【0031】
特に、調整板40が一対の板体で形成され、この板体の案内面40bが垂直面40b2と曲面40b1で形成されているため、本体33の噴射面33cと案内面40bを一つの連続した面とすることができて、本体33の噴射孔33bから噴射される冷却水を調整板40の案内でラックバーWの背面Wbの円周方向上方にスムーズに案内して、通電により加熱された背面Wbを良好に冷却することができる。その結果、ラックバーWの背面Wbの焼入パターン角度α1を大きくして、焼入範囲を歯面Wa側まで広げることができ、背面Wbに最適な焼入層42を容易に形成することが可能となる。
【0032】
また、ラックバーWの背面Wbの焼入時に、電源装置7から一対の通電電極16a、16bに、低・中周波数の電流を所定時間供給した後に高周波の電流を所定時間供給するようにすれば、低・中周波数電流の通電による予備加熱後に高周波電流で通電加熱できて、ラックバーWの背面Wbに、その周面に沿って拡がった一層良好な焼入層42を形成することができる。
【0033】
さらにまた、一対の通電電極16a、16b、一対の導電部材17a、17b、先端側支持部材18aと基端側支持部材18b及び冷却ジャケット19からなる各部材が、平面視略長方形状の平板状のベース15上に一体的に配置されてユニット化されているため、各種ラックバーWの焼入にユニット化されて識別化された所定の焼入治具2を使用することで各種ラックバーWの焼入に的確に対応することができる。その結果、焼入作業の段取り時間の短縮化が図れたり、ラックバーWの種類に係わらず、同一形態の各ラックバーWの焼入精度の均一化や、異なる形態のラックバーWにおける焼入精度の均一再現性を図り、常に安定した焼入品質の各種ラックバーWを容易に得ることができる。
【0034】
図11及び図12は、前記調整板40の変形例を示している。以下、前記実施形態と同一部位には、同一符号を付して説明する。図11に示す調整板40の特徴は、該調整板40の案内面40bの全体を傾斜面40b3で形成して、本体33の噴射面33cに連続する略一つの面としたものである。この調整板40においても、前記調整板40と同様の作用効果を得ることができる他に、調整板40自体の形状を簡略化して、安価に形成することができる。
【0035】
また、図12に示す調整板40の特徴は、段差状の取付部40aに上下方向の複数の長孔44を形成すると共に、本体33の両側面の上部に複数のネジ孔45を形成する。そして、各長孔44から対応するネジ孔45にボルト46をそれぞれねじ込むことにより、調整板40を本体33に対して図の矢印ホの如く上下方向に位置調整可能でかつ着脱可能としたものである。この調整板40によれば、本体33に対する上下方向の位置調整により、ラックバーWの軸中心Cと調整板40の上端との間の寸法h1(すなわち冷却水による冷却範囲)を調整できると共に、調整板40を複数種準備し、これらを適宜に交換することにより、ラックバーWの背面Wbに各種焼入パターンの焼入層42を簡単かつ確実に形成することができる。
【0036】
なお、前記実施形態における、調整板40の板厚や取付部40a、案内面40bの形状、本体33への固定構造や着脱構造等は一例であって、例えば図8及び図11の構造において、調整板40を複数のネジで着脱可能に固定したり、案内面40bを傾斜面40b3と垂直面40b2を組み合わせた構成とする等、同等の作用効果が得られる適宜の構成を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、ラックバーの背面を通電加熱で焼入する焼入装置への適用に限らず、誘導加熱を利用して焼入する焼入装置にも適用できるし、ラックバー以外の全ての軸状ワークの所定面の焼入にも利用できる。
【符号の説明】
【0038】
1・・・焼入装置、2・・・焼入治具、4・・・治具セット台、5・・・ワーク制御装置、6・・・制御装置、7・・・電源装置、8・・・冷却水供給装置、13・・・自動排出装置、15・・・ベース、16a、16b・・・通電電極、17a、17b・・・導電部材、18a・・・先端側支持部材、18b・・・基端側支持部材、19・・・冷却ジャケット、33・・・ジャケット本体、33a・・・冷却水流路、33b・・・噴射孔、33c・・・噴射面、34・・・ホースコネクタ、35・・・取手、40・・・焼入パターン調整板、40a・・・取付部、40b・・・案内面、40b1・・・曲面、40b2・・・垂直面、40b3・・・傾斜面、41・・・進入孔、42・・・焼入層、44・・・長孔、45・・・ネジ孔、46・・・ボルト、W・・・ラックバー、Wa・・・歯面、Wb・・・背面、φ1、φ2・・・焼入パターン角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数の電流の通電加熱もしくは誘導加熱により軸状ワークの所定面を加熱可能な電源装置と、前記軸状ワークの加熱面に冷却媒体を噴射して冷却可能な冷却ジャケットと、を備えた軸状ワークの焼入装置であって、
前記冷却ジャケットは、内部に冷却媒体の流路が形成されると共に該流路に連通し軸状ワークの加熱面と対向する面に噴射孔が形成された本体と、該本体に連設されその上端が前記軸状ワークの軸中心位置より所定寸法上方に位置して、前記噴射孔から噴射された冷却媒体を軸状ワークの外周面の円周方向上方に案内可能な焼入パターン調整手段と、を備えることを特徴とする軸状ワークの焼入装置。
【請求項2】
前記焼入パターン調整手段は、前記本体の両端部上に連設された一対の板体を有し、該板体の案内面が前記軸状ワークの外周面に所定の隙間を有して対向配置された垂直面、傾斜面、曲面の少なくとも一つで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の軸状ワークの焼入装置。
【請求項3】
前記焼入パターン調整手段は、前記本体に、軸状ワークの外周面に対して円周方向の位置関係が調整可能に連設されていることを特徴とする請求項1または2に記載の軸状ワークの焼入装置。
【請求項4】
前記軸状ワークは、ラックバーで前記加熱面が該ラックバーの背面であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の軸状ワークの焼入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−95950(P2013−95950A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238287(P2011−238287)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(591195994)株式会社ミヤデン (21)
【Fターム(参考)】