説明

軽油の水素化処理触媒及びその製造方法並びに軽油の水素化処理方法

【課題】 軽油中の硫黄分及び窒素分を従来の触媒を使用する場合よりも低減することができる触媒とその製造方法、この触媒を用いる水素化処理方法を提供する。
【解決手段】 無機酸化物担体に触媒基準、酸化物換算で周期律表第6族金属の少なくとも1種を10〜30質量%、第8族金属の少なくとも1種を1〜15質量%、リンを1.5〜6質量%、炭素を2〜14質量%含み、比表面積が220〜300m/g、細孔容積が0.35〜0.6m1/g、平均細孔直径が約65〜95Åの触媒。無機酸化物担体に、上記6族金属化合物、8族金属化合物、有機酸、リン酸を含む溶液を用いて上記成分を担持し、200℃以下で乾燥して、上記触媒を製造する。上記触媒の存在下、水素分圧3〜8MPa、温度300〜420℃、液空間速度0.3〜5hr−1の条件で、軽油留分の接触反応を行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、軽油の水素化処理触媒及びその製造方法と、この触媒を用いた軽油の水素化処理方法とに関し、詳しくは、軽油を水素化処理する際に、軽油中の硫黄分及び窒素分を従来のこの種の触媒を使用する場合よりも低減することができる優れた活性を有する触媒及びその製造方法と、この触媒を用いる水素化処理方法とに関する。
【0002】
【技術背景】近年、大気環境改善のために、軽油の品質規制値が世界的に厳しくなる傾向にある。特に軽油中の硫黄分は、排ガス対策として期待されている酸化触媒、窒素酸化物(NOx)還元触媒、連続再生式ディーゼル排気微粒子除去フィルター等の後処理装置の耐久性に影響を及ぼす懸念があるため、軽油の低硫黄化が要請されている。
【0003】このような状況下で、軽油中の硫黄分を大幅に除去する超深度脱硫技術の開発が重要視されつつある。軽油中の硫黄分の低減化技術として、通常、水素化脱硫の運転条件、例えば、反応温度、液空間速度等を苛酷にすることが考えられる。しかし、反応温度を上げると、触媒上に炭素質が析出して触媒の活性が急速に低下し、また液空間速度を下げると、脱硫能は向上するものの、精製処理能力が低下するため設備の規模を拡張する必要が生じる。従って、運転条件を苛酷にしないで、軽油の超深度脱硫を達成し得る最も良い方法は、優れた脱硫活性を有する触媒を開発することである。近年、活性金属の種類、活性金属の含浸方法、触媒担体の改良、触媒の細孔構造制御、活性化法等について多くの検討が多方面において進められており、新規深度脱硫触媒の開発成果が報告されている。
【0004】例えば、特開昭61−114737号公報には、アルミナやシリカ担体に、錯化剤として含窒素配位子を有する有機化合物と、活性金属とからなる溶液を含浸し、200℃以下で乾燥する方法が開示されている。また、特許第2900771号公報には、γ−アルミナ担体に、周期律表第8族金属(以下、単に「8族金属」と記す)化合物と周期律表第6族金属(以下、単に「6族金属」と記す)化合物と、リン酸を含む含浸溶液に、さらにジオールまたはエーテルを添加して得られた含浸溶液を含浸し、これを200℃以下で乾燥させることを特徴とすることが開示されている。
【0005】また、特許第2832033号公報には、本発明と同様に担体に6族金属化合物、リン成分、8族金属化合物、クエン酸からなる溶液を含浸するが、その後乾燥ではなく、焼成を行う発明が開示されており、特開平4−156948号公報には、6族金属化合物、リン成分、8族金属化合物を担持した担体に、有機酸を特定量で含む溶液を含浸し、200℃以下の温度で乾燥する方法が開示されている。
【0006】更に、特開平4−244238号公報には、酸化物担体に、6族金属化合物、8族金属化合物、リン酸からなる溶液を担持し、200℃以下で乾燥させた触媒を得、それに特定の化学式で示される有機酸の溶液を担持し、200℃以下で乾燥する方法が開示されている。
【0007】一方、有機酸を二度用いて含浸させる触媒の製造方法についても提案されている。例えば、特開平6−339635号公報には、酸化物担体に、6族金属化合物、8族金属化合物、有機酸、リン酸からなる溶液を含浸し、200℃以下で乾燥させた触媒を得、さらに有機酸の溶液を含浸し、200℃以下で乾燥する方法が開示されている。
【0008】加えて、特開平6−31176号公報では、8族金属化合物と、6族金属のヘテロポリ酸を無機酸化物支持体に含浸させ、乾燥させて触媒を製造する技術を開示している。
【0009】また、特開平1−228552号公報には、酸化物担体に、モリブデン、タングステン、8族金属化合物、メルカプトカルボン酸、リン酸からなる溶液を含浸させる触媒の製造方法が開示されている。この方法は、メルカプトカルボン酸と、モリブデン、タングステン、8族金属化合物との配位化合物を形成させて、触媒担体上に高分散させることを主目的としている。しかし、この方法では、モリブデン、タングステンが担体上で高分散化されてしまい、後述する本発明のような二硫化モリブデンの積層化が困難となり、脱硫活性点として特に有効なCoMoS相やNiMoS相のTypeII(二硫化モリブデンの2層目以上のエッジ部に存在するCo,Ni活性点を指し、TypeIは二硫化モリブデンの1層目のエッジ部に存在するCo,Ni活性点を指し、TypeIIよりも活性が低い)の形成はないと推測される。しかも、メルカプトカルボン酸は、硫黄を含んでおり、8族金属(Co,Ni)の近傍に存在したり、配位化を形成したりすると、脱硫活性点(CoMoS相,NiMoS相)とならずに、不活性なCo種やNi種となる可能性がある。
【0010】そして、以上の触媒の製造方法は工程が複雑であったり、また得られる触媒が軽油の超深度脱硫を行うのに適さないもの、あるいは超深度脱硫域での効率の低いものや触媒寿命の短いもの等もある。このようなことから、現在、より簡便な方法で、しかも運転条件を苛酷にせずに軽油の超深度脱硫を実現することができる従来よりも脱硫活性の高い、かつ触媒寿命の長い触媒を得る技術の開発が要求されている。
【0011】
【発明の目的】そこで、本発明の目的は、簡便な手段で、かつ苛酷な運転条件を必要とせずに、軽油中の硫黄分を超深度脱硫することができ、同時に窒素分を減少させることができる水素化処理触媒及びその製造方法を提供することであり、また、この触媒を使用して軽油留分を高効率で水素化処理する方法を提供することである。
【0012】
【発明の概要】本発明者らは、上記目的を達成するために検討を行ったところ、無機酸化物担体に、6族金属化合物と8族金属化合物と有機酸とリン酸を含む溶液を含浸させて、これらの成分の所定量を担持し、200℃以下の温度で乾燥することによって、不活性なコバルト、ニッケル種を形成せずに高活性な脱硫活性点(CoMoS相、NiMoS相等)を精密に制御でき、これらの結果として、脱硫反応及び脱窒素反応が効率的に進行するため、反応条件を苛酷にせずに超深度脱硫反応を容易に達成することができる高性能脱硫触媒を得ることができるとの知見を得た。
【0013】すなわち、本発明による軽油の水素化処理触媒は、無機酸化物担体上に触媒基準、酸化物換算で6族金属から選ばれた少なくとも1種を10〜30質量%、8族金属から選ばれた少なくとも1種を1〜15質量%、リンを0.8〜8質量%、炭素を2〜14質量%含み、比表面積が220〜300m2/g、細孔容積が0.35〜0.6m1/g、平均細孔直径が約65〜95Åであることを特徴とする。この触媒は、予備硫化後において、透過型電子顕微鏡により観察される二硫化モリブデンの層の積層数の平均値が2.5〜5であることが好ましく、しかもこの層の面方向の長さの平均値が1〜3.5であることが好ましい。また、本発明による上記触媒の製造方法は、物性が比表面積270〜500m/g、細孔容積0.55〜0.9m1/g、平均細孔直径60〜120Åである無機酸化物担体上に、8族金属から選ばれた少なくとも1種を含む化合物、6族金属から選ばれた少なくとも1種を含む化合物、有機酸、及びリン酸を含有する溶液を用いて、触媒基準、酸化物換算で6族金属を10〜30質量%、8族金属を1〜15質量%、リンを0.8〜8質量%、炭素を2〜14質量%となるように担持させ、200℃以下で乾燥させることを特徴とする。さらに、本発明による上記触媒を使用した水素化脱硫方法は、この触媒の存在下で水素分圧3〜8MPa、処理温度300〜420℃、液空間速度0.3〜5hr−1の条件で、軽油留分の接触反応を行うことを特徴とする。
【0014】本発明の対象油は、例えば、直留軽油、接触分解軽油、熱分解軽油、水素化処理軽油、脱硫処理軽油、減圧蒸留軽油(VGO)等の軽油留分が適している。これら原料油の代表的な性状例として、沸点範囲が150〜450℃、硫黄分が5質量%以下のものが挙げられる。
【0015】本発明の触媒に用いる無機酸化物担体は、アルミナを単独で用いることもできるが、脱硫活性をより向上させるためにはアルミナを主成分とする複合酸化物を用いることが好ましい。アルミナは、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ、アルミナ水和物等の種々のアルミナを使用することができるが、多孔質で高比表面積であるアルミナが好ましく、中でもγ−アルミナが適している。アルミナの純度は、約98質量%以上、好ましくは約99質量%以上のものが適している。アルミナ中の不純物としては、SO2−、Cl、Fe、NaO等が挙げられるが、これらの不純物はできるだけ少ないことが望ましく、不純物全量で2質量%以下、好ましくは1質量%以下で、成分毎ではSO2−<1.5質量%、C1、Fe、NaO<0.1質量%であることが好ましい。
【0016】アルミナに複合化させる酸化物成分としては、ゼオライト、ボリア、シリカ、及びジルコニアから選ばれる一種以上が好ましい。これらを複合化させることにより、二硫化モリブデンの積層化が有利になる。このうちゼオライトは、コールカウンター法(1wt%NaCl水溶液、アパーチャー30μ、超音波処理3分)での測定による平均粒子径が約2.5〜6μm、好ましくは約3〜5μm、より好ましくは約3〜4μmのものである。また、このゼオライトは、粒子径6μm以下のものがゼオライト全粒子に対して占める割合が、約70〜98%、好ましくは約75〜98%、より好ましくは約80〜98%のものである。ゼオライトのこのような特性は、難脱硫性物質の細孔内拡散を容易にするために細孔直径を精密に制御する上で好ましく、例えば、平均粒子径が大きすぎたり、大きな粒子径の含有量が多かったりすると、複合酸化物担体を調製する過程で、アルミナ水和物(アルミナ前駆体)とゼオライトの吸着水量や結晶性の違いから、加熱焼成時のアルミナ水和物(アルミナ前駆体)とゼオライトの収縮率が異なり、複合酸化物担体の細孔として比較的大きなメゾあるいはマクロポアーが生じる傾向がある。また、これらの大きな細孔は、表面積を低下させるばかりでなく、残油を処理するような場合には触媒毒となるメタル成分の内部拡散を容易ならしめ、延いては脱硫、脱窒素及び分解活性を低下させる傾向を生じさせる。
【0017】本発明で、アルミナに複合化させる好ましいゼオライトとしては、フォージャサイトX型ゼオライト、フォージャサイトY型ゼオライト、βゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、ZSM系ゼオライト(ZSM−4,5,8,11,12,20,21,23,34,35,38,46等がある)、MCM−41,MCM−22,MCM−48,SSZ−33,UTD−1,CIT−5,VPI−5,TS−1,TS−2等が使用でき、特にY型ゼオライト、安定化Yゼオライト、βゼオライトが好ましい。また、ゼオライトは、プロトン型が好ましい。上記のボリア、シリカ、ジルコニアは、一般に、この種の触媒の担体成分として使用されるものを使用することができる。
【0018】上記のゼオライト、ボリア、シリカ、及びジルコニアは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組合せて使用することができる。これらの成分の配合量は、特に制限されないが、複合酸化物担体中、アルミナが約80質量%より多く99.5質量%以下に対し、約0.5質量%以上20質量%未満であり、好ましくはアルミナが約85〜99.5質量%に対し、約0.5〜15質量%であり、より好ましくはアルミナが約90〜99.5質量%に対し、約0.5〜10質量%である。これらの成分は、少なすぎても多すぎても細孔直径の制御はしづらくなり、また少なすぎるとブレンステッド酸点やルイス酸点の付与が不十分となり、多すぎると6族金属、特にMoが高分散化しにくい傾向になる。
【0019】本発明における無機酸化物担体は、約580〜700℃で、約1.5〜3時間焼成して調製される。本発明の触媒は、後述するように、無機酸化物担体に活性成分を担持させた後は、200℃以下で乾燥するだけで調製するため、後述する触媒の機械的特性(側面破壊強度や最密充填かさ密度等)は無機酸化物担体の焼成で得ることとなり、約580℃未満で約1.5時間未満の焼成では、十分な機械的強度を得ることができず、約700℃を超える高温度下で約3時間を超える長時間の焼成を行っても、この効果が飽和するばかりでなく、焼き締めにより、無機酸化物担体の比表面積、細孔容積、平均細孔径と言った特性が却って低下してしまう。
【0020】無機酸化物担体の比表面積、細孔容積、平均細孔直径は、炭化水素油に対する水素化脱硫活性の高い触媒にするために、比表面積が270〜500m/g、好ましくは300〜450m/g、細孔容積が0.55〜0.9ml/g、好ましくは0.65〜0.8ml/g、平均細孔径が60〜120Å、好ましくは65〜90Åである必要がある。
【0021】この理由は次の通りである。含浸溶液中で6族金属と8族金属は錯体(6族金属はリン酸と配位してヘテロポリ酸、8族金属は有機酸と配位して有機金属錯体)を形成していると考えられるため、担体の比表面積が270m/g未満では、含浸の際、錯体の嵩高さのために金属の高分散化が困難となり、その結果、得られる触媒を硫化処理しても、上記の活性点(CoMoS相、NiMoS相等)形成の精密な制御が困難になると推測される。比表面積が500m/gより大きいと、細孔直径が極端に小さくなるため、触媒の細孔直径も小さくなる。触媒の細孔直径が小さいと、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が不十分となり、脱硫活性が低下する。
【0022】細孔容積が0.55ml/g未満では、通常の含浸法で触媒を調製する場合、細孔容積内に入り込む溶媒が少量となる。溶媒が少量であると、活性金属化合物の溶解性が悪くなり、金属の分散性が低下し、低活性の触媒となる。活性金属化合物の溶解性を上げるためには、硝酸等の酸を多量に加える方法があるが、余り加えすぎると担体の低表面積化が起こり、脱硫性能低下の主原因となる。細孔容積が0.9ml/gより大きいと、比表面積が極端に小さくなって、活性金属の分散性が悪くなり、脱硫活性の低い触媒となる。
【0023】細孔直径が60Å未満では、活性金属を担持した触媒の細孔直径も小さくなる。触媒の細孔直径が小さいと、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が不十分となり、脱硫活性が低下する。細孔直径が120Åより大きいと、触媒の比表面積が小さくなる。触媒の比表面積が小さいと、活性金属の分散性が悪くなり、脱硫活性の低い触媒となる。
【0024】本発明の触媒に含有させる6族金属は、モリブデン、タングステンが好ましく、モリブデンが特に好ましい。6族金属の含有量は、触媒基準、酸化物換算で、10〜30質量%、好ましくは16〜28質量%である。10質量%未満では、6族金属に起因する効果を発現させるには不十分であり、30質量%を超えると、6族金属の含浸(担持)工程で6族金属化合物の凝集が生じ、6族金属の分散性が悪くなるばかりか、効率的に分散する6族金属含有量の限度を超えたり、触媒表面積が大幅に低下する等により、触媒活性の向上がみられない。
【0025】8族金属は、コバルト、ニッケルが好ましい。8族金属の含有量は、触媒基準、酸化物換算で、1〜15質量%、好ましくは3〜8質量%である。1質量%未満では、8族金属に帰属する活性点が十分に得られず、15質量%を超えると、8族金属の含有(担持)工程で8族金属化合物の凝集が生じ、8族金属の分散性が悪くなることに加え、不活性なコバルト、ニッケル種であるCo種、Ni種の前駆体であるCoO種、NiO種等や、担体の格子内に取り込まれたCoスピネル種、Niスピネル種等が生成すると考えられ、触媒能の向上がみられないばかりか、却って触媒能が低下する。
【0026】8族金属、6族金属の上記した含有量において、8族金属と6族金属の最適質量比は、好ましくは、酸化物換算で、〔8族金属〕/〔8族金属+6族金属〕の値で、約0.1〜0.25である。この値が約0.1未満では、脱硫の活性点と考えられるCoMoS相、NiMoS相等の生成が抑制され、脱硫活性向上の度合いがあまり高くならず、約0.25より大きいと、上記の不活性なコバルト、ニッケル種(Co種、Ni種)の生成が助長され、触媒活性向上を抑制する傾向がある。
【0027】リンの含有量は、触媒基準で、0.8〜8質量%、好ましくは1.5〜6質量%、より好ましくは2〜5質量%である。0.8質量%未満では、触媒表面上で6族金属がヘテロポリ酸を形成できないため、予備硫化工程で高分散なMoSが形成せず、上記の脱硫活性点を十分に配置できないと推測される。特に、前述した予備硫化後の触媒に二硫化モリブデンの層を、平均積層数で2.5〜5となるように形成するためには、1.5質量%以上とすることが好ましい。一方、8質量%より多いと、触媒表面上で6族金属が十分にヘテロポリ酸を形成するため、予備硫化工程で高品質な上記の脱硫活性点が形成されるものの、過剰なリンが被毒物質として脱硫活性点を被覆するため、活性低下の主な原因になると推測される。
【0028】炭素の含有量は、触媒基準で、2〜14質量%、好ましくは2〜10質量%、より好ましくは2〜4質量%である。この炭素は、有機酸、好ましくはクエン酸由来の炭素であって、2質量%未満では、触媒表面上で8族金属が有機酸と錯体化合物を十分に形成せず、この場合、予備硫化工程において錯体化されていない8族金属が6族金属の硫化に先立って硫化されることにより、脱硫活性点(CoMoS相、NiMoS相等)が十分に形成されず、不活性なコバルト、ニッケル種であるCo種、Ni種、および担体の格子内に取り込まれたCoスピネル種、Niスピネル種等が形成されると推測される。14質量%より多いと、触媒表面上で8族金属が有機酸と十分に錯体化合物を形成することができるが、更に6族金属までもが有機酸と錯体化合物を形成してしまうし、余剰の有機酸由来の炭素も触媒表面上に残る。6族金属が有機酸と錯体化した場合は、活性化(硫化)の際に、6族金属の硫化が8族金属の硫化と同時に起こり、脱硫活性点(CoMoS相、NiMoS相等)が効率的に形成されず、延いては不活性なコバルト、ニッケル種であるCo種、Ni種が形成されると推定される。また、過剰な炭素は、触媒の被毒物質として硫化段階で脱硫活性点を被覆するため、活性低下の原因となる。
【0029】本発明の触媒は、軽油に対する水素化脱硫及び脱硫活性を高めるために、上記の組成を有すると共に、その比表面積、細孔容積及び平均細孔径が、以下の値であることが必要である。比表面積(窒素吸着法(BET法)で測定した比表面積)は、約220〜300m/g、好ましくは約240〜280m/gとする。約220m/g未満では、触媒表面上で、錯体を形成していると考えられる6族金属(リン酸と配位してヘテロポリ酸)と8族金属(有機酸と配位して有機金属錯体)が、錯体の嵩高さのために、十分に高分散化しておらず、その結果、硫化処理しても、上記の活性点形成の精密制御が困難となって低脱硫活性の触媒となり、約300m/gより大きいと、細孔直径が極端に小さくなるため、触媒の細孔直径も小さくなって、水素化処理の際、硫黄化合物の触媒細孔内への拡散が不十分となり、脱硫活性が低下する。
【0030】水銀圧入法で測定した細孔容積は、約0.35〜0.6m1/g、好ましくは約0.38〜0.55m1/gとする。約0.35m1/g未満では、水素化処理の際、硫黄化合物の触媒細孔内での拡散が不十分となって脱硫活性が不十分となり、約0.6m1/gより大きいと、触媒の比表面積が極端に小さくなって、活性金属の分散性が低下し、低脱硫活性の触媒となる。
【0031】水銀圧入法で測定した細孔分布での平均細孔直径は、約65〜95Å、好ましくは約70〜90Åとする。約65Å未満では、反応物質が細孔内に拡散し難くなるため、脱硫反応が効率的に進行せず、約95Åより大きいと、細孔内の拡散性は良いものの、細孔内表面積が減少するため、触媒の有効比表面積が減少し、活性が低くなる。また、上記の細孔条件を満たす細孔の有効数を多くするために、触媒の細孔径分布、すなわち平均細孔径±約15Åの細孔径を有する細孔の割合は、約75%以上、好ましくは約80%以上とする。しかも、細孔分布は、モノモーダルであることが好ましい。触媒の細孔径分布がスティープなものでないと、活性に関与しない細孔が増大し、脱硫活性が減少する。
【0032】また、本発明の触媒は、硫化処理した後に、透過型電子顕微鏡で観察した場合における二硫化モリブデンの層の積層数の平均値が2.5〜5であるものが好ましい。すなわち、この二硫化モリブデンの層は、無機酸化物担体上に形成されて、触媒の接触面積を大きくする役割をなすと共に、該層内にCoMoS相、NiMoS相等の活性点が形成されるが、積層数の平均値が2.5未満の触媒では、低活性なCoMoS相やNiMoS相のタイプIの割合が多くなって高活性を発現せず、5より多い触媒では、高活性なCoMoS相やNiMoS相のタイプIIは形成されるものの、活性点の絶対数が少なくなるため、やはり高活性を発現しない。更に、透過型電子顕微鏡で観察した場合における二硫化モリブデンの層の面方向の長さが、平均値で1nm〜3.5nm、好ましくは2〜3nmであるものが適している。1nmより小さいと、二硫化モリブデン分子が単分子でしか存在しないため、コバルトおよびニッケルはスクエアピラミッド型の5配位硫黄構造を形成できず、活性点であるCoMoS相やNiMoS相となることができない。3.5nmより大きいと、たとえ積層数の平均値が2.5〜5であっても二硫化モリブデン結晶が大きいため、エッジ部分の絶対数が減少し、活性点であるCoMoS相やNiMoS相の数を十分に確保することができない。
【0033】以上の特性を有する本発明の触媒を得るには、以下に説明する本発明の方法によることが好ましい。すなわち、前記した成分からなり、前記した物性を有する無機酸化物担体に、前記した6族金属の少なくとも1種を含む化合物、前記した8族金属の少なくとも1種を含む化合物、有機酸、リン酸を含有する溶液を用い、6族金属、8族金属、リン、炭素を上記した含有量となるように担持し、乾燥する方法によるが、具体的には、例えば、無機酸化物担体を、これらの化合物等を含有する溶液に含浸し、乾燥する方法により行う。
【0034】上記の含浸溶液中に使用する6族金属を含む化合物としては、三酸化モリブデン、モリブドリン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸等が挙げられ、好ましくは三酸化モリブデン、モリブドリン酸である。これらの化合物の上記含浸溶液中への添加量は、得られる触媒中に上記した範囲内で6族金属が含有される量とする。
【0035】8族金属を含む化合物としては、炭酸コバルト、炭酸ニッケル、クエン酸コバルト化合物、クエン酸ニッケル化合物、硝酸コバルト6水和物、硝酸ニッケル6水和物等が挙げられ、好ましくは炭酸コバルト、炭酸ニッケル、クエン酸コバルト化合物、クエン酸ニッケル化合物である。特に好ましくは、炭酸コバルト、炭酸ニッケルに比べて分解速度が遅いクエン酸コバルト化合物、クエン酸ニッケル化合物である。すなわち、分解速度が速いと、二硫化モリブデンの層とは別に、コバルトやニッケルが独自の層を形成してしまい、高活性なCoMoS相やNiMoS相の形成が不十分となるのに対し、分解速度が遅いと、二硫化モリブデンのリム−エッジ部分に、高活性なこれらの相を十分に形成することができる。
【0036】上記のクエン酸コバルトとしては、クエン酸第一コバルト(Co(C)、クエン酸水素コバルト(CoHC)、クエン酸コバルトオキシ塩(Co(C・CoO)等が挙げられ、クエン酸ニッケルとしては、クエン酸第一ニッケル(Ni(C)、クエン酸水素ニッケル(NiHC)、クエン酸ニッケルオキシ塩(Ni(C・NiO)等が挙げられる。これらコバルトとニッケルのクエン酸化合物の製法は、例えば、コバルトの場合、クエン酸の水溶液に炭酸コバルトを溶かすことにより得られる。このような製法で得られたクエン酸化合物の水分を、除去しないで、そのまま、触媒調製に用いてもかまわない。これらの化合物の上記含浸溶液中への添加量は、得られる触媒中に上記した範囲内で8族金属が含有される量とする。
【0037】有機酸としては、クエン酸1水和物、無水クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、サリチル酸、マロン酸等が挙げられ、好ましくはクエン酸1水和物である。これらの有機酸は、硫黄を実質的に含まない化合物を使用することが重要である。有機酸としてクエン酸を使用する場合は、クエン酸単独でもよいし、上記したコバルトやニッケル(8族金属)とのクエン酸化合物であってもよい。有機酸の添加量は、得られる触媒中に前記の炭素含有量で炭素が残る量とすることが重要であり、また8族金属に対して有機酸の添加量を、モル比で、有機酸/8族金属=0.2〜1.2、好ましくは0.6〜1.0とすることが適している。このモル比が0.2未満では、8族金属に帰属する活性点が十分に得られない場合があり、1.2を超えると、含浸液が高粘度となるため、担持工程に時間を要するばかりか、活性金属が担体ペレットの内部まで含浸されない等、活性金属の分散状態の悪化が考えられる。更に、6族金属と8族金属の総量に対して有機酸の添加量は、モル比で、有機酸/〔6族金属+8族金属〕が0.35以下、好ましくは0.28以下、より好ましくは0.26以下とすることが適している。0.35を超えると、金属と錯体化しきれない余剰の有機酸が触媒表面上に残り、触媒表面上に残った有機酸は硫化過程において原料油とともに流れ出る場合があり好ましくない。
【0038】リン酸は、種々のリン酸、具体的には、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、ポリリン酸等が挙げられ、特にオルトリン酸が好ましい。リン酸は、6族金属との化合物であるモリブドリン酸を用いることもできる。この場合、得られる触媒中に前記含有量でリンが含有されない場合には、リン酸をさらに添加する。
【0039】なお、上記の6族金属の化合物や、8族金属の化合物が含浸溶液に十分に溶解しない場合には、これらの化合物と共に、酸(硝酸、有機酸《クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等》)を使用してもよく、好ましくは有機酸の使用であり、有機酸を用いる場合は、得られる触媒中に、この有機酸による炭素が残存することもあるため、触媒中の炭素含有量が上記範囲内となるようにすることが重要である。
【0040】上記の含浸溶液において、上記の各成分を溶解させるために用いる溶媒は、水である。溶媒の使用量は、少なすぎれば、担体を充分に含浸することができず、多すぎれば、溶解した活性金属が担体上に含浸せず、含浸溶液容器のへりなどに付着してしまい、所望の担持量が得られないため、担体100gに対して、50〜90gであり、好ましくは60〜85gである。
【0041】上記溶媒に上記各成分を溶解させて含浸溶液を調製するが、このときの温度は、0℃を超え100℃以下でよく、この範囲内の温度であれば、上記溶媒に上記各成分を良好に溶解させることができる。
【0042】上記含浸溶液のpHは5未満が好ましい。5以上だと水酸イオンが増え、有機酸と8族金属との間の配位能力が弱まり、8族金属の錯体形成が抑制され、その結果、脱硫活性点(CoMoS相、NiMoS相)の数を大幅に増加させることができない。
【0043】このようにして調製した含浸溶液に、上記の無機酸化物担体を含浸させて、これら溶液中の上記の各成分を上記の無機酸化物担体に担持させる。含浸条件は、種々の条件を採ることができるが、通常、含浸温度は、好ましくは0℃を超え100℃未満、より好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは15〜30℃であり、含浸時間は、好ましくは15分〜3時間、より好ましくは20分〜2時間、さらに好ましくは30分〜1時間である。なお、温度が高すぎると、含浸中に乾燥が起こり、分散度が偏ってしまう。また、含浸中は、攪拌することが好ましい。
【0044】溶液含浸担持後、常温〜約80℃、窒素気流中、空気気流中、あるいは真空中で、水分をある程度(LOI《Loss on ignition》約50%以下となるように) 除去し、この後、空気気流中、窒素気流中、あるいは真空中で、200℃以下、好ましくは約80〜200℃で約10分〜24時間、より好ましくは約100〜150℃で約5〜20時間の乾燥を行う。乾燥を、200℃より高い温度で行うと、金属と錯体化していると思われる有機酸が触媒表面から離脱し、その結果、得られる触媒を硫化処理しても上記の活性点(CoMoS相、NiMoS相等)形成の精密制御が困難となり、不活性なコバルト、ニッケル種であるCo種、Ni種等が形成され、また二硫化モリブデンの平均積層数が2.5よりも少なくなると考えられ、低脱硫活性の触媒となる。
【0045】なお、本発明において、触媒の形状は、特に限定されず、通常、この種の触媒に用いられている種々の形状、例えば、円柱状、三葉型、四葉型等を採用することができる。触媒の大きさは、通常、直径が約1〜2mm、長さ約2〜5mmが好ましい。触媒の機械的強度は、側面破壊強度(SCS《Side crush strength》)で約2lbs/mm以上が好ましい。SCSが、これより小さいと、反応装置に充填した触媒が破壊され、反応装置内で差圧が発生し、水素化処理運転の続行が不可能となる。触媒の最密充填かさ密度(CBD:Compacted Bulk Density)は、約0.6〜1.2(g/ml)が好ましい。また、触媒中の活性金属の分布状態は、触媒中で活性金属が均一に分布しているユニフォーム型が好ましい。
【0046】本発明の水素化処理方法は、水素分圧約3〜8MPa、約300〜420℃、及び液空間速度約0.3〜5hr−1の条件で、以上の触媒と硫黄化合物を含む軽油留分とを接触させて脱硫を行い、軽油留分中の難脱硫性硫黄化合物を含む硫黄化合物を減少する方法である。本発明の方法で得られる生成油は、従来技術によるよりもより硫黄分及び窒素分を少なくすることができる。
【0047】本発明の水素化処理方法を商業規模で行うには、本発明の触媒の固定床、移動床、あるいは流動床式の触媒層を反応装置内に形成し、この反応装置内に原料油を導入し、上記の条件下で水素化反応を行えばよい。最も一般的には、固定床式触媒層を反応装置内に形成し、原料油を反応装置の上部に導入し、固定床を下から上に通過させ、反応装置の上部から生成物を流出させるものである。また、本発明の触媒を、単独の反応装置に充填して行う一段の水素化処理方法であってもよいし、幾つかの反応装置に充填して行う多段連続水素化処理方法であってもよい。
【0048】なお、本発明の触媒は、使用前に(すなわち、本発明の水素化処理方法を行うのに先立って)、反応装置中で硫化処理して活性化する。この硫化処理は、約200〜400℃、好ましくは約250〜350℃、常圧あるいはそれ以上の水素分圧の水素雰囲気下で、硫黄化合物を含む石油蒸留物、それにジメチルジスルファイドや二硫化炭素等の硫化剤を加えたもの、あるいは硫化水素を用いて行う。この硫化処理により、本発明の触媒は、前述したように、平均積層数で2.5〜5、平均面方向長が1〜3.5nmの二硫化モリブデンの層を形成し、この二硫化モリブデンのリム−エッジ部分に、高活性なCoMoS相やNiMoS相の活性点を形成することとなる。
【0049】
【実施例】実施例1シリカとアルミナ水和物とを混練し、押出成形後、600℃で2時間焼成して直径1/16インチの柱状成形物のシリカ−アルミナ複合担体(シリカ/アルミナ質量比=1/99、細孔容積0.70m1/g、比表面積359m/g、平均細孔直径70Å)を得た。イオン交換水20.3gに、クエン酸第一コバルト7.48gとリン酸(85%水溶液)1.17gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌した。次いで、モリブドリン酸11.41gを投入し溶解させ、同温度で15分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。この時、含浸溶液のpHは0.52であった。ナス型フラスコ中に、上記のシリカ−アルミナ複合担体30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Aを得た。
【0050】実施例2SiO/Alモル比6のSHYゼオライト粉末(平均粒子径3.5μm、粒子径6μm以下のものがゼオライト全粒子の87%)と、アルミナ水和物を混練し、押出成形後、600℃で2時間焼成して直径1/16インチの柱状成形物のゼオライト−アルミナ複合担体(ゼオライト/アルミナ質量比:7/93、細孔容積0.69m1/g、比表面積374m/g、平均細孔直径67Å)を得た。イオン交換水20.3gに、クエン酸第一コバルト7.48gとリン酸(85%水溶液)1.17gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌した。次いで、モリブドリン酸11.41gを投入し溶解させ、同温度で15分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。この時、含浸溶液のpHは0.52であった。ナス型フラスコ中に、上記のゼオライト−アルミナ複合担体30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Bを得た。
【0051】実施例3イオン交換水20.2gに、クエン酸第一コバルト7.91gとリン酸(85%水溶液)1.12gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌した。次いで、モリブドリン酸14.50gを投入し溶解させ、同温度で15分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。この時、含浸溶液のpHは0.54であった。ナス型フラスコ中に、実施例2と同一のゼオライト−アルミナ複合担体30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Cを得た。
【0052】実施例4イオン交換水22.2gに、炭酸コバルト3.40gとクエン酸1水和物4.00gとリン酸(85%水溶液)1.46gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌した。次いで、モリブドリン酸12.91gを投入し溶解させ、同温度で30分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。この時、含浸溶液のpHは0.53であった。ナス型フラスコ中に、実施例2と同一のゼオライト−アルミナ複合担体30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Dを得た。
【0053】実施例5イオン交換水21.6gに、炭酸コバルト3.40gとクエン酸1水和物4.01gと三酸化モリブデン9.43gとリン酸(85%水溶液)2.09gを投入し、80℃に加温して30分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。この時、含浸溶液のpHは0.54であった。ナス型フラスコ中に、実施例2と同一のゼオライト−アルミナ複合担体30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Eを得た。
【0054】実施例6イオン交換水20.0gに、クエン酸第一コバルト7.80gとリン酸(85%水溶液)2.19gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌した。次いで、モリブドリン酸13.10gを投入し溶解させ、同温度で15分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。この時、含浸溶液のpHは0.51であった。ナス型フラスコ中に、実施例2と同一のゼオライト−アルミナ複合担体30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Fを得た。
【0055】実施例7イオン交換水19.8gに、クエン酸第一コバルト7.92gとリン酸(85%水溶液)3.68gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌した。次いで、モリブドリン酸12.08gを投入し溶解させ、同温度で15分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。この時、含浸溶液のpHは0.48であった。ナス型フラスコ中に、実施例2と同一のゼオライト−アルミナ複合担体30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Gを得た。
【0056】実施例8シリカに代えてホウ酸含有水溶液を使用する以外は、実施例1と同様にして、直径1/16インチの柱状成形物のボリア−アルミナ複合担体(ボリア/アルミナ質量比=2/98、細孔容積0.71m1/g、比表面積363m/g、平均細孔直径72Å)を得た。この複合担体に、実施例1と同一の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒Hを得た。
【0057】比較例1イオン交換水21.6gに、炭酸コバルト3.31gと、モリブドリン酸11.41gと、オルトリン酸1.17gを溶解させた含浸用の溶液を調製した。ナス型フラスコ中に、γ−アルミナ担体(細孔容積0.69m1/g、比表面積364m/g、平均細孔直径64Å)30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で1時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約1時間乾燥させ、500℃で4時間焼成し、触媒aを得た。
【0058】比較例2イオン交換水20.2gに、クエン酸第一コバルト7.45gとリン酸(85%水溶液)1.17gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌した。次いで、モリブドリン酸11.41gを投入し溶解させ、同温度で15分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。ナス型フラスコ中に、実施例2と同一のゼオライト−アルミナ複合担体30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約1時間乾燥させ、500℃で4時間焼成し、触媒bを得た。
【0059】比較例3イオン交換水30.0gに、炭酸コバルト2.61gとクエン酸1水和物6.14gと三酸化モリブデン6.41gとリン酸(85%水溶液)2.77gを投入し、80℃に加温して30分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。この時、含浸溶液のpHは0.82であった。ナス型フラスコ中に、γ−アルミナ担体(細孔容積0.61ml/g、比表面積240m/g、平均細孔直径72Å)30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で1時間浸漬した。この際、担体の細孔内に入りきれなかった余剰の含浸溶液がナス型フラスコ中に存在していた。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒cを得た。
【0060】比較例4イオン交換水19.3gに、クエン酸第一コバルト8.28gとリン酸(85%水溶液)5.76gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌した。次いで、モリブドリン酸12.64gを投入し溶解させ、同温度で15分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。この時、含浸溶液のpHは0.46であった。ナス型フラスコ中に、実施例2と同一のゼオライト−アルミナ複合担体30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒dを得た。
【0061】比較例5イオン交換水22.6gに、炭酸コバルト3.31gとリン酸(85%水溶液)1.17gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌した。次いで、モリブドリン酸11.41gを投入し溶解させ、同温度で15分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。この時、含浸溶液のpHは0.54であった。ナス型フラスコ中に、実施例2と同一のゼオライト−アルミナ複合担体30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒eを得た。
【0062】比較例6イオン交換水20.5gに、クエン酸第一コバルト7.27gを投入し、80℃に加温して10分間攪拌した。次いで、モリブドリン酸11.10gを投入し溶解させ、同温度で15分間攪拌して含浸用の溶液を調製した。この時、含浸溶液のpHは0.78であった。ナス型フラスコ中に、実施例2と同一のゼオライト−アルミナ複合担体30.0gを投入し、そこへ上記の含浸溶液の全量をピペットで添加し、約25℃で3時間浸漬した。この後、窒素気流中で風乾し、マッフル炉中120℃で約16時間乾燥させ、触媒fを得た。
【0063】以上の実施例及び比較例で得た触媒の元素分析値と物性値を表1に示す。なお、触媒の分析に用いた方法及び分析機器を以下に示す。
〔1〕物理性状の分析・比表面積は、窒素吸着によるBET法により測定した。窒素吸着装置は、日本ベル(株)製の表面積測定装置(ベルソープ28)を使用した。
・細孔容積、平均細孔直径、及び細孔分布は、水銀圧入法により測定した。水銀圧入装置は、ポロシメーター(MICROMERITICSAUTO−PORE 9200:島津製作所製) を使用した。測定は、試料を真空雰囲気下、400℃にて1時間、揮発分を除去して行った。
・二硫化モリブデンの層の積層数は、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製商品名“JEM−2010”)を用いて、次の要領で測定した。
1)触媒を流通式反応管に詰め、室温で窒素気流中に5分間保持し、雰囲気ガスをHS(5容量%)/Hに切替え、速度5℃/minで昇温し、400℃に達した後、1時間保持した。その後、同雰囲気下で200℃まで降温し、雰囲気ガスを窒素に切替え、常温まで降温し、硫化処理を終了した。
2)この硫化処理後の触媒をメノウ乳鉢で粉砕した。
3)粉砕した触媒の少量をアセトン中に分散させた。
4)得られた懸濁液をマイクログリッド上に滴下し、室温で乾燥して試料とした。
5)試料をTEMの測定部にセットし、加速電圧200kVで測定した。直接倍率は20万倍で、5視野を測定した。
6)写真を200万倍になるように引き延ばし(サイズ16.8cm×16.8cm)、写真上で目視できる二硫化モリブデンの積層数と、層の面方向の長さを測り取った。
〔2〕触媒中の炭素の分析炭素の測定は、ヤナコCHNコーダーMT−5(柳本製作所製)を用いて実施した。測定方法以下の通りとした。
(1)触媒をメノウ乳鉢で粉体化する。
(2)粉体化した触媒7mgを白金ボードに乗せて焼成炉に入れる。
(3)950℃にて燃焼する。
(4)燃焼生成ガスを差動熱伝導度計に導き、触媒中の炭素量を定量する。
【0064】
【表1】


【0065】〔直留軽油の水素化処理反応〕上記の実施例及び比較例で調製した触媒A〜H、a〜fを用い、以下の要領にて、下記性状の直留軽油の水素化処理を行った。先ず、触媒を高圧流通式反応装置に充填して固定床式触媒層を形成し、下記の条件で前処理した。次に、反応温度に加熱した原料油と水素含有ガスとの混合流体を、反応装置の上部より導入して、下記の条件で水素化反応を進行させ、生成油とガスの混合流体を、反応装置の下部より流出させ、気液分離器で生成油を分離した。
【0066】触媒の硫化:原料油による液硫化を行った。
圧力(水素分圧);4.9MPa雰囲気;水素及び原料油(液空間速度1.5hr−1、水素/オイル比200m(normal)/kl)
温度 ;常温約22℃で水素及び原料油を導入し、20℃/hrで昇温し、300℃にて24hr維持、次いで反応温度である350℃まで20℃/hrで昇温
【0067】水素化反応条件:反応温度 ;350℃圧力(水素分圧);4.9MPa液空間速度 ;1.5hr−1水素/オイル比 ;200m(normal)/kl
【0068】
原料油の性状: 油種 ;中東系直留軽油 密度(15/4℃);0.8609 蒸留性状 ;初留点が211.5℃、50%点が314.0℃、 90%点が365.0℃、終点が383.5℃ 硫黄成分 ;1.37質量% 窒素成分 ;210質量ppm 動粘度(@30℃);6.570cSt 流動点 ;5.0℃ くもり点 ;6.0℃ セタン指数 ;54.5 セイボルトカラー ;−11
【0069】反応結果については、以下の方法で解析した。350℃で反応装置を運転し、6日経過した時点で生成油を採取し、その性状を分析した。これらの結果は、表4に示す。
〔1〕脱硫率(HDS)(%):原料中の硫黄分を脱硫反応によって硫化水素に転換することにより、原料油から消失した硫黄分の割合を脱硫率と定義し、原料油及び生成油の硫黄分析値から以下の式により算出した。
〔2〕脱硫反応速度定数(Ks):生成油の硫黄分(Sp)の減少量に対して、1.3次の反応次数を得る反応速度式の定数を脱硫反応速度定数(Ks)とする。なお、反応速度定数が高い程、触媒活性が優れていることを示している。
【0070】
【数1】
脱硫率(%)=〔(Sf−Sp)/Sf〕×100脱硫反応速度定数=〔1/(Sp)1.3−1−1/(Sf)1.3−1〕×(LHSV)
式中、Sf:原料油中の硫黄分(質量%)
Sp:反応生成油中の硫黄分(質量%)
LHSV:液空間速度(hr−1
比活性(%)=各脱硫反応速度定数/比較触媒aの脱硫反応速度定数×100
【0071】
【表2】


【0072】表2から明らかなように、本発明の製造法による触媒A〜Gを用いれば、100質量ppm以下もの超深度脱硫領域を容易に達成できることが判る。
【0073】また、触媒Bの透過型電子顕微鏡写真を図1R>1に示す。図1中、黒い線状のものが、二硫化モリブデンの層である。
【0074】〔減圧軽油の水素化処理反応〕上記の実施例1と比較例1で調製した触媒A,a用い、以下の要領にて、下記性状の減圧軽油の水素化処理を行った。先ず、触媒を高圧流通式反応装置に充填して固定床式触媒層を形成し、下記の条件で前処理した。次に、反応温度に加熱した原料油と水素含有ガスとの混合流体を、反応装置の上部より導入して、下記の条件で脱硫反応と分解反応の水素化反応を進行させ(脱硫運転モードで反応を行った後、マイルド・ハイドロクラッキング運転モードで反応を行った)、生成油とガスの混合流体を、反応装置の下部より流出させ、気液分離器で生成油を分離した。
【0075】触媒の前処理条件:圧力(水素分圧);4.9MPa硫化剤;上記の〔直留軽油の水素化処理反応〕における原料油(中東系直留軽油)
温度 ;290℃で1.5hr維持、次いで320℃で15hr維持のステップ昇温(昇温速度は25℃/hr)
【0076】脱硫反応(脱硫運転モード)条件:反応温度 ;360℃圧力(水素分圧);4.9MPa液空間速度 ;0.66hr−1水素/オイル比 ;560m(normal)/Kl分解反応(マイルドクラッキング運転モード)条件:反応温度 ;400℃圧力(水素分圧);4.9MPa液空間速度 ;0.66hr−1水素/オイル比 ;560m(normal)/Kl
【0077】
原料油の性状: 油種 ;アラビアンライト減圧軽油 比重(15/4℃);0.9185 蒸留性状 ;初留点が349.0℃、50%点が449.0℃、 90%点が529.0℃、終点が566.0℃ 硫黄成分 ;2.45質量% 窒素成分 ;0.065質量% 流動点 ;35℃アスファルテン;<100ppm アニリン点 ;82℃
【0078】脱硫活性については、以下の方法で解析した。360℃で反応装置を運転し、5日経過した時点で生成油を採取し、その性状(脱硫率《HDS》《%》、脱硫反応速度《Ks》、比活性《%》)を、上記の〔直留軽油の水素化処理反応〕の場合と同様に分析した。
【0079】分解活性については、以下の方法で解析した。脱硫活性評価終了後、反応温度を400℃まで昇温し、同温度で反応装置を運転し、3日経過した時点で生成油を採取し、その性状を分析した。これらの結果は、表3に示す。
〔1〕分解率(HYC)(%):触媒の水素化分解率を、ASTM D2887準拠のガスクロマトグラフィー蒸留で得られる生成油全留分中の343℃以下の留分が占める割合で示した。触媒の分解活性が高い程、343℃以下の軽質留分の得率が高くなる。
〔2〕分解反応速度定数(Kc):分解率に対して、1次の反応次数を得る反応速度式の定数を分解反応速度定数(Kc)とする。反応速度定数が高い程、触媒活性が優れていることを示している。
【0080】
【数2】分解率(%)=(生成油中343℃以下の留分量/生成油全留分量)×100分解反応速度定数=−(LHSV)・ln〔(1−分解率)/100〕
比活性(%)=(各分解反応速度定数/比較触媒aの分解反応速度定数)×100
【0081】
【表3】


【0082】更に、触媒Dと触媒aを用い、次の反応条件で触媒寿命試験を行った。この結果を、図2に示す。図2中、大きい黒四角が触媒Dの結果であり、小さい黒菱形が触媒aの結果である。
反応条件:反応温度;50質量ppm要求温度 圧力(水素分圧);4.9MPa 液空間速度;1.3hr−1 水素/オイル比;200m(normal)/Kl図2において、横軸が通油日数(日)、縦軸が生成油の硫黄分濃度が50質量ppmとなるのに要する温度(℃)を示しており、本発明の触媒Dでは、約2カ月間の通油を行っても345℃前後で十分あるのに対し、比較の触媒aでは、通油初日で既に360℃以上の温度を必要とし、約2カ月後には、365℃を超える高温を必要とするのが判る。
【0083】以上の結果から明らかなように、本発明による触媒は、従来の軽油水素化処理の場合とほぼ同じ水素分圧や反応温度等の条件下で、超深度脱硫領域での軽油の脱硫反応及び脱窒素反応に対して、極めて優れた活性及び触媒寿命を有することが判る。
【0084】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、次のような効果を奏することができる(1)高い脱硫及び脱窒素活性を有するため、軽油中の硫黄分及び窒素分の含有率を、大幅に低減させることができる。
(2)反応条件を従来の水素化処理の際の反応条件とほぼ同じとすることができるため、従来の装置を大幅改造することなく転用できる。
(3)硫黄含有量及び窒素含有量の少ない軽油基材を、容易に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の触媒Bの透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の触媒Dと比較触媒aとの触媒寿命試験結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 無機酸化物担体上に触媒基準、酸化物換算で周期律表第6族金属から選ばれた少なくとも1種を10〜30質量%、周期律表第8族金属から選ばれた少なくとも1種を1〜15質量%、リンを1.5〜6質量%、炭素を2〜14質量%含み、比表面積が220〜300m/g、細孔容積が0.35〜0.6m1/g、平均細孔直径が約65〜95Åであることを特徴とする軽油の水素化処理触媒。
【請求項2】 触媒が、予備硫化後において、透過型電子顕微鏡により観察される二硫化モリブデンの層の積層数の平均値が2.5〜5であることを特徴とする請求項1記載の軽油の水素化処理触媒。
【請求項3】 触媒が、予備硫化後において、透過型電子顕微鏡により観察される二硫化モリブデンの層の面方向の長さの平均値が1〜3.5nmであることを特徴とする請求項1または2記載の軽油の水素化処理触媒。
【請求項4】 比表面積270〜500m/g、細孔容積0.55〜0.9m1/g、平均細孔直径60〜120Åである無機酸化物担体上に、周期律表第8族金属から選ばれた少なくとも1種を含む化合物、周期律表第6族金属から選ばれた少なくとも1種を含む化合物、有機酸及びリン酸を含有する溶液を用い、触媒基準、酸化物換算で周期律第6族金属を10〜30質量%、周期律表第8族金属を1〜15質量%、リンを1.5〜6質量%、炭素を2〜14質量%となるように担持させ、200℃以下で乾燥させることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の軽油の水素化処理触媒の製造方法。
【請求項5】 請求項1〜3の何れかに記載の触媒の存在下、水素分圧3〜8MPa、温度300〜420℃、液空間速度0.3〜5hr−1の条件で、軽油留分の接触反応を行うことを特徴とする軽油の水素化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2003−299960(P2003−299960A)
【公開日】平成15年10月21日(2003.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−113109(P2002−113109)
【出願日】平成14年4月16日(2002.4.16)
【産業再生法】(出願人による申告)国の委託研究成果に係る特許出願(平成13年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】