説明

軽質オレフィン及び芳香族化合物の製造

炭化水素供給原料の直鎖又は分岐鎖の両方(例えば、パラフィン系)並びに環状(例えば、ナフテン系)炭化水素を、付加価値のある生成物ストリームに変換する方法が開示される。該方法は、脱水素及びオレフィンクラッキングを使用して軽質オレフィン及び芳香族化合物の両方を、供給原料組成及び特定の処理スキームに応じて変化する比率で製造することを含む。該方法は、炭素数C〜C11の範囲のパラフィン及びナフテンを含むナフサ供給原料に特に適用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラフィンの脱水素及びナフサなどの炭化水素ストリームのオレフィンクラッキングにより、軽質オレフィンを製造する方法、特に高いプロピレン:エチレンのモル比で軽質オレフィンを製造する方法に関する。芳香族化合物は軽質オレフィンとの組合せで回収される。
【背景技術】
【0002】
エチレン及びプロピレンは、今日生産される最も一般的なプラスチックの2種であるポリエチレン及びポリプロピレンを製造するための重要な製品である。エチレン及びプロピレンのさらなる用途には商業的に重要なモノマー、すなわち塩化ビニル、エチレンオキシド、エチルベンゼン、及びアルコールの製造が含まれる。エチレン及びプロピレンは、伝統的に、天然ガス、石油、及び炭素質材料(例えば、石炭、リサイクルプラスチック、及び有機材料)などの炭化水素供給原料のスチームクラッキング又は熱分解により製造されてきた。
【0003】
エチレンプラントは、反応系及びガス回収系の非常に複雑な組合せを含む。供給原料は、スチームの存在下で熱分解反応装置の流出ガス混合物を生ずるのに効果的な条件で熱クラッキング帯に装填される。次に、混合物は安定化され、一連の低温の従来の分留ステップを通して精製された成分に分離される。スチームクラッキング及び他の工程によるエチレン及びプロピレンの収率は、例えば、米国特許第5,026,935号及び米国特許第5,026,936号に記載されたように、ゼオライト系触媒の存在下で、C以上の重質オレフィンのメタセシス又は不均化のために知られた方式とクラッキングステップとの組合せを使用して改善することができる。製油所及びスチームクラッキング装置からのC4混合物を含む炭化水素供給原料中のオレフィンのクラッキングは、米国特許第6,858,133号、米国特許第7,087,155号及び米国特許第7,375,257号に記載されている。
【0004】
パラフィンの脱水素は、軽質オレフィンへの代替経路を代表するもので、米国特許第3,978,150号及び他にも記載されている。より最近になって、軽質オレフィン製造のための代替的、非石油系供給原料への願望により、アルコール、なかでも、メタノール、エタノール、及び高級アルコール又はそれらの誘導体などの酸素化物(oxygenates)が使用されるようになった。特に、メタノールは、例えば、米国特許第5,914,433号に記載されたメタノール−オレフィン(MTO)変換方法において有用である。そのような方法による軽質オレフィンの収率は、米国特許第7,268,265号に記載されているようなオレフィンクラッキング反応装置で、MTOのC4+生成物の一部又は全部を変換するオレフィンクラッキングを使用して改善することができる。軽質オレフィン生成のための他の方法には、ナフサ及び他の炭化水素留分の非常に過酷な接触クラッキングが含まれる。工業的に重要な接触ナフサクラッキング方法は、米国特許第6,867,341号に記載されている。
【0005】
軽質オレフィンを工業的に生成する種々の方式があるにも拘わらず、エチレン及びプロピレンに対する需要は、これらの従来の方法の容量を上回りつつある。その上、軽質オレフィンを求めるさらなる需要の増大が予想される。それ故、直留及び加工処理両方の炭化水素ストリームの既存資源からの軽質オレフィン収率を、経済的に向上することができる新たな方法に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、高収率で軽質オレフィンをというだけでなく、広範囲の用途にとって、例えば、ポリマー(例えば、ポリスチレン、ポリエステル、その他)の前駆体としてそれら自体で価値がある芳香族炭化水素(例えば、C〜C芳香族化合物、すなわちベンゼン、トルエン、及びキシレン)も提供する方法の発見と関連する。重要なことに、本発明の方法は、接触ナフサクラッキングなどの従来の技法に比較して高いプロピレン:エチレンモル比を有する軽質オレフィン生成物を生ずる能力を有する。このことは、エチレンに比較してプロピレンに対する需要の増加を示す最近の傾向に照らして特に望ましい。本明細書に記載した方法は、様々な特性の供給原料を、軽質オレフィン及び芳香族化合物の所望の比率を有する製造予定品目に合わせて造り、それにより所与の供給原料組成に対する全生成物の価値及び個々の生成物の価格を最適化することにおける柔軟性というさらなる利点を有する。
【0007】
本発明の実施形態は、炭化水素供給原料の直鎖又は分岐鎖の両方(例えば、パラフィン系)並びに環状(例えば、ナフテン系)の炭化水素を、付加価値のある生成物ストリームに変換する方法を指向する。該方法は、脱水素帯及びオレフィンクラッキング帯の両方を、別々の反応装置中又は単一の容器内のいずれかで使用することを含み、軽質オレフィン及び芳香族化合物の両方を、供給原料組成及び特定の処理スキームに応じて変化する比率で製造する。該方法は、炭素数C〜C11の範囲でパラフィン及びナフテンを含むナフサ供給原料に特に適用可能である。好ましい実施形態において、脱水素帯で使用される触媒はジルコニアを含み、そのような炭化水素を対応するオレフィン及び芳香族化合物に効果的に変換する。
【0008】
有利なことに、広範囲の品質のナフサが、脱水素及びそれに続くオレフィンクラッキングを通して、炭化水素供給原料の組成に少なくとも部分的に左右される比率で価値の高い最終製品に有効に変換される。例えば、ナフテン含有率の比較的高い豊富なナフサ供給原料は、軽質オレフィンのプロピレン及びエチレンに加えて高い芳香族生成物収率を提供することができる。製造予定品目がナフサなどの特定の炭化水素供給原料に合わせて造られることを可能にするこの処理柔軟性は、例えば、第4,119,526号、米国特許第4,409,095号、及び米国特許第4,440,626号に記載されたような上流での接触リフォーミングの任意選択の使用と関連する。接触リフォーミングの好ましいタイプは、例えば、米国特許第3,647,680号、米国特許第3,652,231号、米国特許第3,692,496号、及び米国特許第4,832,921号に記載されたような移動触媒床系と関連した連続触媒再生(CCR)を含む。本発明の実施形態は、それ故、接触リフォーミングを脱水素及びオレフィンクラッキングと組み合わせた方法、並びに特定の供給原料について保証されれば後の2つの変換帯のみを利用する方法を指向する。いずれの場合においても、脱水素のためにジルコニア触媒の使用が好ましい。
【0009】
本発明の方法により、広い範囲の炭化水素供給原料、特に、直留又は加工処理留分のいずれかとしてナフサの沸点範囲の炭化水素を含むものから高収率でのオレフィン及び芳香族化合物両方の製造が可能になる。オレフィンクラッキング流出物及び分離された製品(例えば、軽質オレフィン生成物及び芳香族生成物)の収率は、プロピレン:エチレンモル比及び他の性質に関して代替技法より有利であることが多い。
【0010】
本発明に関するこれらの及び他の実施形態、並びにそれらに関連する利点は、以下の詳細な説明から明かである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、軽質オレフィン及び芳香族化合物製造のために、接触脱水素帯及びオレフィンクラッキング帯を、場合により上流の接触リフォーミング帯とともに使用することを含む代表的工程を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明及び/又は関連する原理の例示を提示すると理解すべきである。ポンプ、コンプレッサ、ヒータ及び熱交換器、リボイラ、コンデンサ、計装及び制御ループ、並びに本発明の理解に必須でない他の項目を含む詳細は示していない。本開示の知識を有する当業者には直ちに明かであるように、本発明の種々の他の実施形態にしたがって軽質オレフィン及び芳香族化合物を製造する方式は、具体的な炭化水素供給原料、製品、及び製品品質の明細により一部は決定される、配置、設備、及び操業パラメータを有する。
【0013】
本発明の実施形態は、軽質オレフィン、特にプロピレン及びエチレンと芳香族化合物、特にベンゼン、トルエン、及びキシレンとの両方を高収率で提供する、炭化水素供給原料のオレフィンクラッキングと組み合わせた脱水素の使用に関する。代表的供給原料は、100℃(212°F)から180℃(356°F)の範囲で沸騰する炭化水素を含むナフサ(例えば、直留ナフサ)を含む。処理された炭化水素留分(例えば、ヒドロクラッキング又は流動接触クラッキングから得られる)又は合成ナフサを含むこの範囲で沸騰する炭化水素を含む他の供給原料も適当である。それ故、興味ある炭化水素供給原料は、ASTMD−86の方式により、一般的に75℃(167°F)から120℃(248°F)、しばしば85℃(185°F)から110℃(230°F)の範囲にある初期沸点、又は蒸留「前端」温度、及び一般的に138℃(280°F)から216℃(420°F)、しばしば160℃(320°F)から193℃(380°F)の蒸留終点温度を有する。
【0014】
ナフサを含むものなど好ましい供給原料は、炭素数C〜C11の範囲の環状及び非環状炭化水素の両方を含み、これらの炭素数の各々を有する炭化水素をしばしば含む。例えば、代表的ナフサは、5、6、7、...、11個の炭素原子を有するシクロアルカン(例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロペンタン、...、1,2−ジエチル,3−メチル−シクロヘキサン)に加えて、5、6、7、...、11個の炭素原子を有する少なくとも若干量のパラフィン(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、...、ウンデカン)、並びに6、7、8、...、11個の炭素原子を有する芳香族化合物(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、...、1,2−ジエチル,3−メチル−シクロヘキサン)を含有する。炭化水素供給原料、又は供給原料の成分として適した直留ナフサ留分を含むナフサは、一般に炭素数C〜C11の範囲の直鎖及び分岐鎖両方のパラフィンを、合計量で40重量%から80重量%で含む。この範囲内の炭素数のナフテン及び芳香族化合物は、ナフサ中に、一般的に、それぞれ20重量%から50重量%及び5重量%から30重量%の合計量で存在する。ナフサは、炭素数C〜C11の範囲内のオレフィンを、5%から25%の合計量で、特に、流動接触クラッキング、熱クラッキング、又はスチームクラッキングなどの水素欠如環境で実施する工程から誘導されたナフサ留分の場合に含むこともある。
【0015】
特定のナフサは、存在するナフテン及び芳香族化合物のパラフィン量に対する量に応じて「高品質」又は「低品質」と特徴づけることができる。本発明の代表的な実施態様において、特定のナフサの組成は、そのようなナフサを含有する炭化水素供給原料を脱水素及びオレフィンクラッキングの上流で接触リフォーミングにかけるべきかどうか決定するのに重要な考慮すべき事柄である。接触リフォーミングにより価値の高い芳香族化合物に有利に変換されるペンタン及びアルキルシクロペンタンの量は特に直接的に関連する。リフォーミングは、例えば、10重量%から25重量%のシクロペンタン及びアルキルシクロペンタンの合計量を含む、比較的多量の環状炭化水素を含む高品質のナフサの場合に望ましい。
【0016】
炭化水素供給原料又は供給原料成分としてのナフサリフォーミング流出物は、一般に、炭素数C〜C11の範囲の若干の未変換パラフィンを含有する。リフォーミングを受けていないナフサと比較して、ナフサリフォーミング流出物は、一般に、例えば30重量%から70重量%の範囲で有意に多量の芳香族化合物を含有する。また、リフォーミング反応及び特にパラフィン環化の結果として、ナフサリフォーミング流出物の蒸留終点は、通常有意に、例えば、152℃(305°F)から241℃(465°F)の代表的な温度に上昇する。
【0017】
本発明の実施形態は、それ故、炭化水素供給原料を脱水素して脱水素流出物をオレフィンクラッキングにかけることを含む方法を指向する。炭化水素供給原料は、好ましくは、ナフサを含み、又は場合によっては本質的に(すなわち、基本的性質を変える追加の供給原料成分なしに)ナフサからなる。あるいは、炭化水素供給原料は、上で論じたようにナフサリフォーミング流出物、又はことによるとナフサとナフサリフォーミング流出物との混合物(例えば、低品質ナフサと高品質ナフサのリフォーミングから得られたナフサリフォーミング流出物との)を含むか又は本質的にそれからなることもある。供給原料は、大気圧ガス油及び真空ガス油などの高沸点蒸留留分を含む他の成分を含むか又は本質的にそれらからなることもある。供給原料は、本発明の方法で生成して再循環された成分を含む他の成分と脱水素帯の上流で組み合わせることもできる。
【0018】
上で論じたようなナフサ及び/又はナフサリフォーミング流出物を含むものなどの炭化水素供給原料は脱水素されて、その結果、供給原料中のパラフィン、特に炭素数C〜C11の範囲のものが、脱水素帯においてオレフィンに変換され、この帯又は反応装置から脱水素流出物中に出る。脱水素帯又は反応装置における適当な脱水素条件は、450℃(842°F)から700℃(1292°F)の平均脱水素触媒床温度、及び50kPa(7psia)から2MPa(290psia)、好ましくは100kPa(15psia)から1MPa(145psia)の絶対圧を含む。
【0019】
脱水素帯又は反応装置に存在する脱水素触媒は、炭化水素供給原料中の、特に上で論じたようなナフサ及び/又はそれらのナフサリフォーミング流出物成分(単数又は複数)中の中間の沸騰範囲(例えば、C〜C11)のパラフィンを、対応するオレフィンに脱水素するのに効果的なジルコニアを含むことが好ましい。理論にとらわれず、ジルコニア系触媒は、この範囲内の炭素数のパラフィンを対応する炭素数のオレフィンに平衡付近の変換レベルで容易に脱水素する低コストの手段を提供する。代表的な脱水素触媒は、一般にジルコニアを、少なくとも40重量%(例えば、50%から90%)の量で含有する。脱水素触媒の他の可能な成分は、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、アクチニウム、カルシウム、及びマグネシウムからなる群から選択される1種又は複数種の金属の酸化物を含む、ジルコニアを安定化することができる他の金属酸化物を含む。使用される場合、ジルコニア以外の金属酸化物(単数又は複数)は、一般に脱水素触媒の最大で10重量%の量で存在する。アルミナ、シリカ、粘土、リン酸アルミニウムなどの適当な結合剤及び充填剤も、一般に脱水素触媒の最大で50重量%の合計量で触媒中に組み込むことができる。脱水素触媒は、通常、脱水素反応装置中に、触媒が再生に先立って脱水素処理で使用される間の短時間(例えば、10分から100分)流動床として存在する。あるいは、移動床、固定床、又は他のタイプの触媒床を使用することもできる。
【0020】
脱水素反応装置又は帯から出る脱水素流出物は、脱水素の結果としてオレフィンを含む。次に、これらのオレフィンの少なくとも一部(例えば、炭素数CからC11の範囲内)を、オレフィンクラッキング帯又は反応装置で分解して、エチレン、プロピレン、及び芳香族化合物を含むオレフィンクラッキング流出物を提供する。分解されたオレフィンの一部は、おそらく、オレフィンクラッキング帯における、例えば、C〜C11オレフィンのプロピレン又はエチレンへの変換に対応するであろう。代替的実施形態においては、含有されるオレフィンを含む脱水素流出物は、オレフィンクラッキング帯又は反応装置に全部は通さない。この場合には、オレフィンの分解された部分は、オレフィンクラッキング反応装置に実際に通された脱水素流出物中に存在するオレフィン留分により増加したオレフィンクラッキング変換に相当する。下で論ずるように実施形態によっては、脱水素流出物は、脱水素流出物中のオレフィンの全部又は一部のそれに続くクラッキングに先立って、選択的水素化反応装置流出物及び/又は重質炭化水素副生物の再循環部分など工程の他の生成物と組み合わせることができる。
【0021】
全脱水素流出物がオレフィンクラッキング帯に通されるのであれば、脱水素帯及びオレフィンクラッキング帯の両方(例えば、異なる触媒床を含む)を同一反応装置内に配置することが可能であり得る。しかしながら、多くの場合、これらの帯の各々で使用される反応圧力を含む異なる条件が理由で、別々の反応装置が望ましい。オレフィンクラッキング帯における代表的条件は、400℃(752°F)から600℃(1112°F)のオレフィンクラッキング触媒床導入口温度及び10kPa(1.5psia)から200kPa(29psia)の絶対オレフィン分圧を含む。オレフィンクラッキングは、触媒固定床の存在下で通常5から30hr−1の液体毎時空間速度(LHSV)で実施する。反応装置滞留時間の逆数に密接に関係するLHSVは、床体積で除した触媒床を通過する体積液体流量であり、1時間に処理された液体と体積が等しくなる触媒床の数を表わす。米国特許第7,317,133号に記載されたように、オレフィンクラッキングに適した触媒は、結晶性シリケート、特に無機結合剤で結合したMEL又はMFI構造タイプのものを含む。MFI結晶性シリケートは、この参考文献に記載されているように、脱アルミニウムすることができる。
【0022】
有利なことに、オレフィンクラッキング流出物は、価値の高い軽質オレフィンを芳香族化合物との組合せで含む。プロピレン及びエチレンは、この流出物中に、供給原料(例えば、ナフサ、ナフサリフォーミング流出物、又はそれらの組合せ)の典型的には少なくとも40重量%に相当する量、しばしば供給原料の45%から65重量%に相当する量で存在する。C1〜C3炭化水素の合計量は、典型的には供給原料の50%から75重量%になり、C1〜C3炭化水素の高い比率(例えば、少なくとも85%、しばしば85%から92%)が最も価値の高いプロピレン及びエチレン炭化水素であることを意味する。その上、上で論じたように、生成した軽質オレフィンのプロピレン:エチレンモル比は、一般的に、特にプロピレンの価格(例えば、メートル法のトン当たりのドルで)がエチレンの価格を超える場合に有利である。通常、オレフィンクラッキング流出物中のプロピレン:エチレンモル比は、少なくとも1.5:1(例えば、1.5:1から4:1の範囲内)、典型的には少なくとも2:1(例えば、2:1から3.5:1の範囲内)、及びしばしば少なくとも2.3:1(例えば、2.3:1から2.8:1の範囲内)である。
【0023】
オレフィンクラッキング流出物の芳香族化合物含有率も、上で論じたように、特に、ナフサリフォーミング流出物が炭化水素供給原料又はそれらの成分として使用される実施形態において、生成物の価値を高める。上流のリフォーミングは、飽和環状炭化水素、特にシクロペンタン及びアルキルシクロペンタンをC6+芳香族化合物に変換するために特に有益であり、それは、これらの化合物を脱水素帯において同様な様式で変換することが通常は困難であるからである。それ故、ナフサリフォーミング流出物を炭化水素供給原料として使用すると、供給原料の20重量%から40重量%に相当する量で存在する価値の高いC〜C芳香族化合物(ベンゼン、トルエン、及びキシレン)を有するオレフィンクラッキング流出物が順当に提供される。炭化水素供給原料としての直留ナフサ又はリフォーミングにかけられていない他のナフサは、供給原料の10重量%から25重量%の量で存在するC〜C芳香族化合物を有するオレフィンクラッキング流出物を通常は提供する。一般的に、これらの芳香族化合物の収率は、供給原料が部分的に又は完全に上流でリフォーミングにかけられてもそうでなくても、供給原料の10重量%から50重量%、しばしば10重量%から30重量%の範囲内である。
【0024】
オレフィンクラッキング反応装置流出物中の軽質オレフィン及び芳香族化合物の、軽質オレフィン製品及び芳香族化合物製品などのより精製された製品中への回収は、蒸留又は分留、フラッシュ分離、溶媒吸収/ストリッピング、膜分離、及び/又は固体吸着分離を含む多数の分離を使用して達成することができる。そのような分離の組合せは、普通に使用される。特定の実施形態により、オレフィンクラッキング流出物は、蒸留塔の低沸点留分及び高沸点留分(例えば、塔頂及び塔底)に分留され、これらの留分は、それぞれ軽質オレフィン(プロピレン及びエチレン)及び芳香族化合物に富む。軽質オレフィン生成物は、さらに精製せずに低沸点留分として取ることができ、又はそうでなければ追加の分離を実施して、プロピレン及び/又はエチレンを高純度で含有する1種又は複数種の軽質オレフィン生成物(単数又は複数)を提供することができる。
【0025】
芳香族生成物は、分留塔からの高沸点留分として取ることができるが、芳香族炭化水素含有率がさらに富化したこの高沸点留分から芳香族生成物を分離することがしばしば望ましい。不純な炭化水素ストリームから芳香族化合物を回収する種々の方式が知られており、代表的な従来方式は、プロピレンカーボネート、トリブチルホスフェート、メタノール、又はテトラヒドロチオフェンジオキシド(又はテトラメチレンスルホン)などの物理的溶媒中への芳香族化合物の選択的吸収を利用する。他の物理的溶媒には、アルカノールピリジン(例えば、3−(ピリジン−4−イル)−プロパン−1−オール)及びアルキルピロリドン(例えば、n−メチルピロリドン)などのアルキル−及びアルカノール置換ヘテロシクロ炭化水素、並びにポリエチレングリコールのジアルキルエーテルが含まれる。
【0026】
芳香族生成物を高沸点留分から分離すると、典型的にはパラフィン、オレフィン、及び可能性としてアルキルシクロペンタン(特にリフォーミングステップのないとき)を含有する重質炭化水素副生物が生ずる。重質炭化水素副生物の一部又は全部を、例えばそれを脱水素流出物と合わせることによりオレフィンクラッキング帯に再循環させて、工程の総転化率及び所望の製品の収率を改善することができる。多くの場合、重質炭化水素副生物の再循環されなかった部分は、1種又は複数種の不必要な重質炭化水素化合物の過剰な蓄積を防止するために放出される。代替的実施形態においては、そうしないで、オレフィンクラッキング帯に送らない重質炭化水素副生物の全部又は一部を、脱水素帯に入る炭化水素供給原料と一緒に脱水素帯に戻す。
【0027】
生成物精留塔、通常は、C3以下の炭化水素を塔頂で分離する脱プロパン塔も、低沸点及び高沸点留分に加えて、オレフィンクラッキング反応装置で所望の軽質オレフィンに変換されなかった炭素数C〜C11の範囲のオレフィン(例えば、これらの炭素数の各々を有する炭化水素を含有する)を含む中間沸点留分を生じ得る。この中間沸点留分は、通常、脱水素帯及び/又はオレフィンクラッキング帯のC〜C11ジオレフィン副生物をさらに含む。それ故、軽質オレフィンの総生産の増加は、これらのジオレフィンを選択的水素化帯で選択的に水素化してすなわち飽和させてモノオレフィンとし、次にこの様式で生じたモノオレフィンの少なくとも一部を、オレフィンクラッキング帯でクラッキングすることにより可能である。選択的水素化流出物の全部又は一部は、脱水素流出物及び/又は上記の重質炭化水素副生物の再循環部分と合わせて、オレフィンクラッキング反応装置に通すことができる。中間沸点留分の再循環されなかった部分の放出は、他の方法では工程から容易に除かれない中間沸点(例えば、C4〜C8)パラフィンの過剰な蓄積を防止するために大抵の場合望ましい。これらの中間沸点パラフィンは、上流のリフォーミング帯及び/又は脱水素帯(単数又は複数)で変換されなかったか又はそうでなければオレフィンクラッキング帯及び/又は選択的水素化帯(単数又は複数)の副生物として生じた結果として、オレフィンクラッキング流出物中に通常比較的少量存在する。代替的実施形態においては、選択的水素化帯に送られない中間沸点留分の全部又は一部は、脱水素帯に入る炭化水素供給原料と一緒に脱水素帯に戻される。
【0028】
選択的水素化帯におけるジオレフィンのモノオレフィンへの変換のための代表的な従来の選択的水素化触媒は、例えば、米国特許第4,695,560号に記載されたような表面積の大きいアルミナ支持材料上に分散されたニッケル及び硫黄を含む。選択的水素化は、炭化水素が液相中に存在して、水素が液体中に溶解することができるような比較的温和な水素化条件下に保たれている選択的水素化帯で、通常実施される。選択的水素化帯における適当な条件には、280kPa(40psia)から5500kPa(800psia)の絶対圧が含まれ、350kPa(50psia)から2100kPa(300psia)の範囲が好ましい。比較的中程度の選択的水素化帯温度、例えば、25℃(77°F)から350℃(662°F)、好ましくは50℃(122°F)から200℃(392°F)が代表的である。LHSVは、典型的には1hr−1を超え、好ましくは5hr−1を超える(例えば、5hr−1と35hr−1の間)。選択的水素化における重要な変数は、水素と、この場合、上で論じたような精留塔(例えば、脱プロパン塔)の側方から抜出された中間沸点留分中に存在するジオレフィンとの比である。モノオレフィンの望ましくない高い比率の飽和を避けるために、一般的に、ジオレフィン飽和に必要な化学量論量の2倍未満の水素が使用される。
【0029】
上記の方式を実施するための特定の実施形態を例示する代表的工程のフローチャートを、図1に図示する。この実施形態により、炭素数C〜C11の範囲のパラフィンを含む炭化水素供給原料2が、脱水素帯40に通されて、この範囲の炭素数のオレフィンを含む脱水素流出物4が提供される。上で論じたように、炭化水素供給原料2は、ナフサを、又は、場合によっては、リフォーミング帯30における上流のリフォーミング(例えば、CCRリフォーミング)を受けたナフサリフォーミング流出物を含むことが好ましい。それ故、リフォーミング帯30が使用される任意選択の実施形態において、リフォーミング供給原料1は、好ましくはナフサを含む。
【0030】
脱水素流出物4は、場合により選択的水素化流出物6及び/又は重質炭化水素副生物10の再循環部分8と合わせた後、オレフィンクラッキング帯50に通される。脱水素流出物4とさらにクラッキング帯供給原料12との中の炭素数C5−C11の範囲のオレフィンの少なくとも一部が、次に、オレフィンクラッキング帯50で分解される。それ故、オレフィンクラッキング流出物14は、脱水素帯40で生成した及び場合によりリフォーミング帯30で生成した炭化水素供給原料2中に存在する分解された軽質オレフィン、すなわちプロピレン及びエチレン、並びにC6〜C9芳香族炭化水素を含む。次に、オレフィンクラッキング流出物14を脱プロパン塔60に通して、プロピレン及びエチレンの実質的に全部を含有し、これらの炭化水素を多く含む低沸点留分16を提供する。例えば脱プロパン塔60の塔底ストリームとしての高沸点留分18は芳香族化合物に富み、中間沸点留分20は脱プロパン塔60の側方から抜出され、炭素数C〜C11の範囲の未変換オレフィン、並びにこの炭素数範囲の副生物ジオレフィンを含む。
【0031】
中間沸点留分20の第1の再循環部分22は、選択的水素化帯80に通され、一方、第1の再循環されなかった部分24は、中間沸点留分20と共沸するパラフィンなどの望ましくない副生物の蓄積を抑えるために放出される。場合により、中間沸点留分20の第2の再循環されなかった部分25は、脱水素帯40に、この帯に入る炭化水素供給原料2と一緒に戻される。それ故、いかなる場合にも、中間沸点留分20中のジオレフィンの少なくとも一部は、選択的水素化帯80でモノオレフィンに変換され、次に、これらのモノオレフィンは、選択的水素化流出物6中でオレフィンクラッキング帯50に通されて軽質オレフィンのプロピレン及びエチレンの通算収率を向上させる。上で論じたように、選択的水素化流出物6は、脱水素流出物4と、及び場合により重質炭化水素副生物10の再循環部分8と、オレフィンクラッキング帯50の上流で合わされる。選択的水素化帯80は、典型的には、中間沸点留分20の再循環部分22中のジオレフィンを飽和させるために、化学量論量の過剰で水素の量を提供する水素添加ストリーム81を用いて稼動する。水素添加ストリーム81は、純度が変化してもよく、また、種々の供給源から生じてもよい。例えば、水素添加ストリーム81は、場合により水素純度を高めるために、リフォーミング帯の正味の水素生成物31及び/又は脱水素帯の正味の水素生成物41の少なくとも一部を、これらの生成物の一方又は両方の精製後に含むことができる。
【0032】
脱プロパン塔60の高沸点留分(例えば、塔底)中の芳香族化合物を、芳香族回収帯70で分離して、芳香族化合物にさらに富む芳香族生成物26及び芳香族化合物が減じた重質炭化水素副生物10を提供することができる。上で論じたように、芳香族回収帯70では、非芳香族(脂肪族)炭化水素から芳香族化合物を分離するために、テトラヒドロチオフェンジオキシドなどの物理的溶媒を利用するか、又は任意の他の従来の手段によることができ、それらはもっぱら重質炭化水素生成物10に集まる。図1の実施形態に示したように、重質炭化水素生成物10の再循環部分8は、脱水素流出物4と合わせて、その後オレフィンクラッキング帯50に通す。重質炭化水素生成物10の再循環されなかった部分28は、不必要な重質炭化水素副生物の蓄積を抑えるために工程から放出される。上で論じたように、オレフィンクラッキング帯50に送られない重質炭化水素副生物の別の部分27は、その代わりに、脱水素帯40に、この帯に入る炭化水素供給原料2と一緒に再循環される。
【0033】
全体として、本発明の態様は、ナフサ又はナフサリフォーミング流出物を、ジルコニアを含む触媒の存在下で脱水素して脱水素流出物を提供し、そして、脱水素流出物中のオレフィンをクラッキングすることを含む、プロピレン、エチレン、及び芳香族化合物の製造方法を指向する。本開示に照らして、幾つかの利点を得ることができること及び他の有利な結果を得ることができることがわかるであろう。当業者は、本明細書において開示された方式を、多数の脱水素オレフィンクラッキング工程の任意のものに、特に炭素数C5〜C11の範囲のパラフィン、ナフテン、及び芳香族化合物を含む供給原料の場合に、適用できる可能性を認識するであろう。当業者は、本開示から得た知識をもって、本開示の範囲から逸脱することなく種々の変化が上の方法のなかで為され得ることを認識するであろう。
【0034】
理論的な又は観察された現象又は結果を説明するために使用された機構は、例示としてのみ解釈されるべきであり、添付の特許請求の範囲をいかなる意味でも限定するものではない。
【0035】
以下の実施例は、本発明の代表的なものとして説明する。他の同等の実施形態も本開示及び添付の特許請求の範囲に照らして明かであるから、この実施例は本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0036】
実施例1
図1に図示した工程フローチャートから得られる生成物収率を、モデルナフサ供給原料を上流でリフォーミングする場合(ケース1)及びしない場合(ケース2)について、予測するためにコンピュータ化した収率推定モデルを使用した。脱水素帯は、ジルコニア系触媒を使用して得られたパイロットプラントの結果に基づいてモデル化した。生成物収率は、参照技法、すなわち芳香族炭化水素を生じない接触ナフサクラッキング(ケース3)と比較した。各シミュレーションの根拠として選択したナフサ供給速度は、1年当たり2,100トン(メートル法)であった。生成物の炭化水素の収率を下表1にまとめてある。
【0037】
【表1】

【0038】
収率推定結果は、任意選択の上流リフォーミング有無の両方(ケース1及び2)で、プロピレン、エチレン、及び芳香族化合物の良好な収率を示す。それに加えて、本発明の方法は、参照の接触ナフサクラッキング法に比較して有意に高いプロピレン:エチレンモル比で軽質オレフィンを生じた。それ故、プロピレンの需要/価格設定における相対的上昇は、本明細書に記載した方法の先行技術の方法に対する商業的魅力をさらに増大させるであろう。種々の本発明の実施形態による本明細書に記載した方法は、様々な組成のナフサストリーム及びナフサリフォーミング流出物を含む広範囲の炭化水素供給原料に適合するように容易に調整される。価値の付加された製品が、本発明の方法で環式及び非環式両方の炭化水素の変換から得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽質オレフィン及び芳香族化合物を製造する方法であって:
(a)パラフィンを含有する炭化水素供給原料を脱水素帯で脱水素してオレフィンを含有する脱水素流出物を提供する工程、
(b)該オレフィンの少なくとも一部を、オレフィンクラッキング帯でクラッキングして、エチレン、プロピレン、及び芳香族化合物を含有するオレフィンクラッキング流出物を提供する工程、
を含む方法。
【請求項2】
ジルコニアを含有する脱水素触媒の存在下で工程(a)を実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭化水素供給原料がナフサを含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
炭化水素供給原料がナフサリフォーミング流出物を含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
オレフィンクラッキング流出物が、プロピレンとエチレンとを少なくとも2:1のプロピレン:エチレンモル比で含有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
(c)オレフィンクラッキング流出物を分留して、プロピレン及びエチレンが富化した低沸点留分、並びに、芳香族化合物が富化した高沸点留分を含む留分を提供する工程、
をさらに含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
(d)高沸点留分を、芳香族化合物がさらに富化した芳香族生成物と重質炭化水素副生物とに分離する工程、及び
(e)該重質炭化水素副生物の少なくとも一部をオレフィンクラッキング帯に再循環する工程、
をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
脱水素/オレフィンクラッキングを統合した方法であって、
(a)炭素数C〜C11の範囲のパラフィンを含有する炭化水素供給原料を脱水素帯に通して炭素数C〜C11の範囲のオレフィンを含有する脱水素流出物を提供する工程、
(b)該脱水素流出物をオレフィンクラッキング帯に通して、オレフィンの少なくとも一部を分解し、エチレン、プロピレン、及び芳香族化合物を含有するオレフィンクラッキング流出物を提供する工程、
(c)該オレフィンクラッキング流出物を脱プロパン塔に通して、プロピレン及びエチレンが富化した低沸点留分、芳香族化合物が富化した高沸点留分、並びに、炭素数C〜C11の範囲のオレフィン及びジオレフィンを含有する中間沸点留分を含む留分を提供する工程、
(d)該中間沸点留分の少なくとも一部を選択的水素化帯に通して、ジオレフィンの少なくとも一部の選択的水素化から得られたモノオレフィンを含有する選択的水素化流出物を提供する工程、
(e)工程(b)に先だって該選択的水素化流出物を脱水素流出物と合わせる工程、
を含む方法。
【請求項9】
低沸点留分が、少なくとも2:1のプロピレン:エチレンモル比を有する軽質オレフィン生成物である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
プロピレン、エチレン、及び芳香族化合物を製造する方法であって、
(a)ナフサ又はナフサリフォーミング流出物を、ジルコニアを含有する触媒の存在下で脱水素して脱水素流出物を提供する工程、及び
(b)該脱水素流出物中のオレフィンをクラッキングする工程、
を含む方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−531412(P2012−531412A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517512(P2012−517512)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/026463
【国際公開番号】WO2010/151349
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(598055242)ユーオーピー エルエルシー (182)
【Fターム(参考)】