説明

軽量保温編地

【課題】薄くて軽量でありながら保温性に優れた衣料用編地を提供する。
【解決手段】60〜120g/mの目付け及び0.2〜0.6mmの厚みを有する編地であって、単繊維繊度が0.3〜0.7dtexである短繊維Aと、単繊維繊度が0.8〜1.3dtexでありかつ短繊維Aとの単繊維繊度差が0.4dtex以上である短繊維Bとを3:7〜8:2の重量比で混紡した混紡糸が50重量%以上混用されており、かつ短繊維A及び短繊維Bの繊維軸方向の熱伝導率が1.2W/m・k以下であることを特徴とする衣料用編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄くて軽量でありながら保温性に優れた衣料用編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、秋冬に着用する衣料用生地においては、保温性を高める検討が数多くなされている。生地の厚みや編組織を検討したもの、中空繊維を用いたもの、染色加工後の糸収縮を応用したもの等があるが、いずれも編地に空気層を持たせて保温性を得ようとするものである。
【0003】
例えば、特許文献1では、外層が単糸繊度0.2〜3.0dtexの繊維から構成され、編地の少なくとも一層が45コース以上/inch、かつ45ウエール以上/inchの編目密度を有し、編地の通気度が5〜50cc/cm・secであって、吸水加工が施された保温編地が提案されている。この編地は、高捲縮糸や高収縮糸を用いて高密度にすることによって保温性を得ているので、編地が重くなる問題があった。
【0004】
また、特許文献2では、表面層と裏面層とを結接糸でタックしてなり、該結接糸が中空糸で構成されている保温編地が提案されている。この編地は、保温性αが18%以上であるようにある程度保温性が向上しているが、編地の厚さ及び目付けに関して十分満足できる値ではない。
【0005】
一方、吸湿発熱素材などを用いて発汗に伴なう発熱を利用したものもある。例えば、特許文献3では、表組織と裏組織及び表裏の組織を連結する連結糸とからなる多層構造編物であって、表組織と連結糸を構成する糸条は、ポリエステルマルチフィラメント糸であり、裏組織は、ポリエステルマルチフィラメント糸と34℃×90%RHにおける水分率が7%以上である吸湿性合成繊維糸とで構成されていて、添糸編によりポリエステルマルチフィラメント糸の外側に吸湿性合成繊維が位置して編目を形成している吸湿性多層構造編物が提案されている。この編物は、着用時のムレを防ぎ、長時間の着用において不快感の少ない衣料素材として好適ではあるが、編物の厚みや目付けが全く考慮されていない。
【0006】
上記で説明したもの以外にも肌表面から出る熱を利用し、輻射熱効果によって保温性を得ようとするものが提案されている。例えば、特許文献4では、30℃における遠赤外線放射率が波長4.5〜30μの領域で平均65%以上である遠赤外線放射特性を有する粒子を含有するポリマーからなる遠赤外線放射層を芯部に、厚み10μ以下のポリマーからなる被覆層を鞘部に配置してなり、芯部及び鞘部のポリマーがポリエチレン及び/又はポリアミドである複合繊維の仮撚加工糸を用いた遠赤外線放射肌着が提案されている。この肌着は、遠赤外線放射により人体に熱分子運動が起こるため暖かく感じるが、この複合繊維の加工糸を用いただけでは保温性が高い編物にはならない。
【0007】
一般的にインナー用に使用できる生地において、保温性の高いものは肉厚であり、生地の薄いものは保温性が良くないとされている。このように編地の厚みや組織の検討、中空繊維などの特性により空気層を多く取ることで保温を得る従来の技術では、一般的なインナー用生地に比べ厚みが大きくなる傾向にあり、薄地・軽量の点から見て満足が得られるものではなかった。また、吸湿発熱素材などを利用したものは発汗の起こらない状態では効果が弱く、効果の持続性に不十分な場合もあった。糸の番手についても素材特性上細いものの製造が困難であり、このため生地厚さが薄いものはできず、目標とする編地は製造できないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−363843号公報
【特許文献2】特開2002−235264号公報
【特許文献3】特開2002−227063号公報
【特許文献4】特開平3−51301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、保温性と薄地・軽量という相反する性能を高度に満足するインナー用編物に適した衣料用編地を提供することにある。特に、本発明の編地は、近年の秋冬向けの衣料に必要とされる保温性の基本機能に加え、風合や着心地といった快適性能も併せ持ち、特にインナー用素材では、暖かいけど嵩張らず、アウターに目立ちにくいものを求める潜在ニーズに十分に対応できるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、60〜120g/mの目付け及び0.2〜0.6mmの厚みを有する編地であって、単繊維繊度が0.3〜0.7dtexである短繊維Aと、単繊維繊度が0.8〜1.3dtexでありかつ短繊維Aとの単繊維繊度差が0.4dtex以上である短繊維Bとを3:7〜8:2の重量比で混紡した混紡糸が50重量%以上混用されており、かつ短繊維A及び短繊維Bの繊維軸方向の熱伝導率が1.2W/m・k以下であることを特徴とする衣料用編地である。
【0011】
本発明の衣料用編地の好ましい態様は以下の通りである。
(i)短繊維A及び短繊維Bがアクリル繊維であり、混紡糸が綿番手60〜100番手の細繊度紡績糸である。
(ii)40dtex以下のナイロン被覆弾性糸を10〜40重量%の割合で交編している。
(iii)20dtex以下のポリウレタン弾性糸とナイロンフィラメントを用いて40dtex以下のナイロン被覆弾性糸とし、これを交編して片袋とした破裂強度が250〜500kPaである。
(iv)混紡糸の撚係数(K)が2.8〜4.5である。
(v)混紡糸の糸断面を見たときに繊維間の空隙率が55〜70%であり、編地の比容積が3〜6cm/gである。
(vi)編地の保温率が20%以上である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、着用したときに暖かくて、着用感(風合)が良く、薄くて軽量で嵩張らず、アウター衣料の外からインナー生地が目立たないといった、特に秋冬のインナー素材に求められる性能を有する衣料用編地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】繊維軸方向の熱伝導率を測定するために使用される銅製チャックを示す。
【図2】実施例1の編組織を示す。
【図3】実施例2の編組織を示す。
【図4】実施例1の紡績糸の断面写真を示す。
【図5】比較例2の紡績糸の断面写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の衣料用編地は、単繊維繊度が0.3〜0.7dtexである短繊維Aと、単繊維繊度が0.8〜1.3dtexでありかつ短繊維Aとの単繊維繊度差が0.4dtex以上である短繊維Bとを一定の重量比で混紡した混紡糸が50重量%以上混用されることを特徴とする。このように極細繊維の短繊維Aと通常繊度繊維の短繊維Bを一定の重量比で混紡することにより、繊維間の細かな空隙が増加し、繊維に対して垂直方向の熱伝導を抑制することができる。また、本発明の衣料用編地で使用される短繊維A及び短繊維Bは、繊維軸方向の熱伝導率が1.2W/m・k以下であることを特徴とする。このように繊維軸方向の熱伝導率が低い繊維を使用することにより繊維軸方向、垂直方向ともに優れた保温性を得ることができる。極細繊維の短繊維Aを一定以上混用することによって、60番手以上、さらには80番手以上の細番手糸を紡出することが可能となり、細くて暖かい紡績糸が実現する。
【0015】
本発明の短繊維A及び短繊維Bは、上記の要件を満たす限りいずれの繊維も使用することができる。かかる繊維としては、例えばアクリル繊維、アクリレート繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、羊毛等が挙げられるが、細繊度繊維の生産性、衣料品に必要な染色性の点からアクリル繊維が好適である。アクリル繊維を用いた場合、アクリル繊維は、アクリロニトリルを50重量%以上含有するアクリロニトリル系ポリマーからなることが好ましい。アクリロニトリル系ポリマーがアクリロニトリルを50重量%以上含有する場合、アクリロニトリル単独ポリマーであってもよいが、経済性の点でアクリロニトリルとアクリロニトリルに共重合可能な不飽和モノマーとのコポリマーであり、アクリロニトリルを50〜95重量%含有するコポリマーであることが望ましい。アクリロニトリルの含有量が50重量%未満では、染色鮮明性、発色性等のアクリル繊維としての特徴が発揮されず、また熱特性をはじめとする他の物性も低下する傾向となる。
【0016】
アクリロニトリルに共重合可能な不飽和モノマーとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2ーエチルヘキシル、アクリル酸2ーヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2ーヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等の不飽和モノマー等が挙げられる。
【0017】
さらに、染色性等改良の目的で共重合されるモノマーとしては、p−スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2ーアクリルアミドー2ーメチルプロパンスルホン酸、及びこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0018】
アクリロニトリル系ポリマーの分子量は、アクリル繊維の製造に通常用いられる範囲のものであれば特に限定されないが、分子量が低すぎると、紡糸性が低下すると同時に原糸の糸質も悪化する傾向にあり、分子量が高すぎると、紡糸原液に最適粘度を与えるポリマー濃度が低くなり、生産性が低下する傾向にあるので、紡糸条件に従って適宜選択される。
【0019】
アクリル繊維の製造方法は特に限定されないが、例えばアクリロニトリルを50重量%以上含有するアクリロニトリル系ポリマーを、溶剤に溶解して紡糸原液とし、紡糸するという湿式紡糸法により製造することができる。紡糸の際に用いられる溶剤としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γーブチロラクトン、アセトン等の有機溶剤、硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛等の無機溶剤が挙げられる。
【0020】
短繊維Aの単繊維繊度は0.3〜0.7dtexであり、好ましくは0.4〜0.6dtexである。0.3dtex未満では、染色したときの色濃度が極端に低下して、混紡糸の均一な染色性が得られにくくなる。また、0.7dtexを越えると、繊度差が低くなり、繊維間空隙が低下して保温性が上がらないとともに、均一な細番手紡績糸を紡出するのが難しくなる。一方、短繊維Bの単繊維繊度は0.8〜1.3dtexであり、好ましくは0.9〜1.2dtexである。0.8dtex未満では、短繊維Aとの繊度差が少なくなり保温性が低下する。また、1.3dtexを越えると、細番手糸を紡出するのが難しくなるとともに風合いが硬くなる傾向がある。短繊維Aと短繊維Bの単繊維繊度差は0.4dtex以上であることが必要である。
【0021】
短繊維Aと短繊維Bの混率は重量比で3:7から8:2であり、好ましくは4:6〜8:2である。短繊維Aの混率が上記の範囲からはずれると、繊維間空隙が少なくなり保温性が上がらない。また、短繊維Aが少なすぎると細番手糸の生産が難しくなる。混紡糸の状態で混率を測定する方法としては、例えばメタルセクション法により光学顕微鏡にて糸の断面写真を撮影して、その断面写真より構成する繊維本数を測定し、各繊維の構成本数と単糸繊度を掛け合わせて総繊度を求めて、各繊維の総繊度の比率から求めることができる。
【0022】
本発明の混紡糸の繊度は60〜100番手、好ましくは80〜100番手である。60番手より太い場合、本発明の目的とする薄くて、軽くて、暖かい編地を得ることが難しくなる。また、100番手より細い場合、編地が薄くなりすぎて保温性が低下する。この混紡糸の撚係数(K)は2.8〜4.5が好ましい。より好ましくは3.0〜4.1である。撚係数が2.8未満の場合、繊維間空隙率が高くなるが、糸強度が低下し紡績性、製編性が悪くなり生産が困難になる。撚係数が4.5を超えると、紡績性、製編性が良くなるが、繊維間空隙率が低く目標とする保温性が得られ難い。本発明の混紡糸の糸断面を見たとき、繊維間の空隙率は55〜70%であり、より好ましいものは58〜65%となっている。ここで空隙率とは、糸断面を構成する繊維と空間の比率を言う。空隙率が55%未満であると、目標とする保温率が得られず、70%を超えると、保温率は得られるものの、糸強力が低下し、衣料品にしたときにピリング等の消費性能が低下する。
【0023】
本発明の編地は、保温性に優れながら、薄くて軽いことを追求していることを特徴とする。従って、本発明の編地は、薄くて軽い特徴を示す指標として、目付けが60〜120g/m、より好適には80〜100g/mであり、厚みが0.2〜0.6mm、より好適には0.3〜0.5mmである。目付けが60g/m未満では温かさが得られないし、120g/mを越えると本発明が意図する軽い生地の範疇を超えてしまう。また、厚みが0.2mm未満では薄くなりすぎて温かさが実感できないし、0.6mmを越えると本発明が意図する薄い生地の範疇から外れてしまう。
【0024】
本発明の編地は、編組織を特に限定しないが、厚みが薄くなるように考慮すべきである。例えば、本発明の編地としては、丸編のシングルニット、ダブルニット又は経編でも良い。編地の厚みが大きくなり難い組織で好適なものとしては、フライス、片袋、天竺、ミラノリブ、リバーシブル、ベア天竺、ベアフライス等がある。薄くて軽い素材とするにはこれらの編組織を適正な密度に設定することが好ましい。適正密度は編み組織により変動するが、ウエール数20〜50/inch、コース数30〜100/inchの範囲で適宜設定すればよい。このようにして作られた本発明の編地の比容積は3〜6cm/gとなり、より好適な編地の比容積は3.5〜5.5cm/gになる。この比容積の数値は保温編地としてはさほど高くない値である。この理由は薄くて軽い編地にしたことに原因があると推定するが、微細な空隙がある暖かい紡績糸の効果により見かけの比容積に比べて高い保温性を実現しているものと考えられている。また、このようにして作られた本発明の編地の保温率は20%以上であり、実際には20〜30%である。20%未満では着用したときの暖かみが感じ難くなり、30%より高くなると薄地・軽量化が難しくなってくる。
【0025】
本発明の編地は、上記混紡糸の混率が50重量%を下回らない範囲で、他の糸を交編することができる。しかし、この場合、薄くて軽い特性を維持するために用いる糸は80番手以上の細い糸条であることが好ましい。80番手以上の細い糸であれば特に限定しないが、例えば50dtex以下のフィラメントや、紡績糸または複合糸が好適に用いられる。交編される他の糸としては、具体的にはナイロンやポリエステルのフィラメントまたはその仮撚加工糸であったり、短繊維や長繊維と弾性繊維を複合した被覆弾性糸がある。被覆弾性糸としては、フィラメントと弾性糸を合撚したFTY(フィラメント ツイスティッド ヤーン)、シングル(ダブル)カバーリング糸、エアーカバード糸、仮撚加工と同時混繊する仮撚複合糸等が用いられる。短繊維と弾性糸との複合糸として、コアスパンヤーン、プライヤーン等が用いられる。弾性糸はポリウレタン系スパンデックス、ポリオレフィン系弾性糸、ポリエステル系弾性糸、ポリエステル系潜在捲縮糸等を用いることができる。弾性糸の繊度は22dtex以下のものを用いることが好適である。繊度が22dtexを超えると混繊糸繊度が大きくなってしまったり、混繊する非弾性糸とのバランスが悪くなる。混繊時の弾性糸ドラフト率は1.5〜2.5倍の低倍率にする方が良い。更に好適には1.8〜2.2程度である。弾性糸ドラフト率が2.5倍を越えると、伸縮のパワーが強すぎて編地の収縮が大きくなり、薄くて軽い編地を得難くなる。
【0026】
例えば、薄くて軽量でありながら保温性に優れるという本発明の編地の特性を損なわない交編態様としては、40dtex以下のナイロン被覆弾性糸を10〜40重量%の割合で交編する態様を挙げることができる。好ましくは、40dtex以下のナイロン被覆弾性糸として20dtex以下のポリウレタン弾性糸とナイロンフィラメントを用い、これを交編して片袋とすることにより、本発明の編地の特性を損なわずに250〜500kPaという高い破裂強度の編地を得ることができる。
【0027】
本発明の編地の染色加工は、通常のアクリル繊維や、他の繊維との混用編地の加工方法であれば良いが、本発明の紡績糸の繊維間空隙構造を潰さないよう注意して加工することが必要である。例えば、乾燥や熱処理時に必要以上に編地にテンションや厚み方向の圧縮等をかけて加工しないこと等が求められる。また、精練や染色等の後に液温を下げるときに、急速に行うとアクリル繊維がへたるため、降温はゆっくり行なうようにする。
【0028】
本発明の編地には柔軟剤や帯電防止剤のような一般的な仕上加工剤を付与することが好ましく、その他の各種機能加工が単独または併用して施されていても良い。機能加工の例としては、親水加工などの防汚加工、UVカット加工、静電加工、スキンケア加工などがあるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
次に実施例、比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。これらの実施例における変更は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本発明で用いた特性値の測定法は以下の通りである。
【0030】
<繊維軸方向の熱伝導率K
日本繊維機械学会誌39,T−184(1986)に記載されている「単繊維の異方性熱伝導率の測定」に準じて繊維軸方向の熱伝導率を求めた。カトーテック(株)製サーモラボIIを用いて下記のように測定を行った。
図1の銅製チャックを用いて繊維を平行に並べて把持する。下部のチャック温度Tbを定温水で一定に保つ。上部チャックの温度THは内蔵ヒーターと、同じくチャック内に内蔵の50Ω白金温度センサーによってΔT=TH−Tbが10℃に保たれるよう制御されている。チャック間隔はL=3〜7mm、試料クランプ幅は30mm、繊維の総断面積は3〜5×10−6程度である。繊維束はできる限り単層状に配列し、クランプで把持される部分をアルミホイルで包んでプレス処理した。試料の実測値から試料を取付けないで測るリーク値を差引いて温度差ΔTを求めるが、毎回試料を取替えながら実測値とリーク値を交互に各10回測定して、平均値を採用した。下記式にて繊維軸方向の熱伝導率Kを求めた。
繊維軸方向の熱伝導率K=qL/ΔTA(Jm−1−1−1
式中、L:厚さm、A:面積m、ΔT:温度差K、q:熱流量JS−1(=W)
【0031】
<繊維間空隙率>
混紡糸を編地より静かに取出し、SEMの試料台に粘着テープで固定した。液体窒素で試料台ごと糸条を凍らした状態でカミソリで繊維軸方向に垂直にカットして横断面を切出して、走査型電子顕微鏡(SEM)により繊維横断面の写真を撮った。この横断面写真から混紡糸が占める全体面積より、実際に単糸が占める面積を除いた空間の面積との比率を測定した。
混紡糸の糸空隙率(%)=
(混紡糸が占める全体面積−実際に単糸が占める面積)*100
/紡績糸が占める全体面積
実際に単糸が占める面積は、断面写真における、単糸それぞれの断面積を合計した値とした。
【0032】
コンピュータソフトを使って、画像解析からこれらの面積を導く方法を以下に示す。
画像データとして断面写真を取り込み、画像処理ソフトである、Adbe PhotoShop ver.6.0を用いて、混紡糸が占める全体面積の範囲、および単糸それぞれの横断面積をそれぞれ範囲指定して、さらに2値化処理を行い、解析用の画像とした。このとき、紡績糸が占める全体面積は、最外層に位置する繊維の横断面輪郭の外側を全て結んだ範囲とした。これらの作業により作られた解析用の画像をさらに、画像解析ソフトである、Lia32 ver.0.376β1を用いて、紡績糸が占める全体面積および、単糸それぞれの断面積の総計の面積を算出し、これらの値を用いて、混紡糸の空隙率を求めた。これらの算出手段として、上記以外の画像処理ソフト、画像解析ソフトを使っても良い。また、実際の写真より、測定が必要な範囲を切り抜き、重量比から算出しても良い。
【0033】
<保温率>
カトーテック社製のサーモラボIIを用い、20℃、65%RHの環境下で、BT−BOXのBT板(熱板)を人の皮膚温度を想定して35℃に設定し、その上に試料を置き、熱移動量が平衡になったときの消費電力量Wを測定する。また、試料を置かない条件での消費電力量W0を計測する。以下の式で保温率を計算する。
保温率(%)={(W0−W)/W0}×100
BT板は10cm×10cmのサイズであるが、試料は20cm×20cmのサイズとする。通常は試料を熱板に接触させて測定するが、本発明の保温率は熱板の上に断熱性のある発砲スチロール等のスペーサーを設置して試料との空隙を5mm設けて計測を行なう。
【0034】
<編地の厚み>
JIS−L−1018−6.5 メリヤス生地試験方法の(5)厚さにより測定した。
【0035】
<編地の目付>
JIS−L−1018−6.4.2 メリヤス生地の試験方法の備考の目付けにより測定した。
【0036】
<編地の比容積>
編地の厚み(JIS−L−1018−6.5)と目付け(JIS−L−1018−6.4.2)の測定値を用いて下記式により算出した。
比容積=編地の厚み(mm)/編地の目付け(g/m)×1000
【0037】
<糸の撚数及び撚係数>
シキボー製TC50オートツイストカウンターにより測定した。測定長10inchとして、50回測定した平均値とした。撚数(T/インチ)/√番手(Ne)を撚係数(K)として計算した。
【0038】
<破裂強度>
破裂強さA法(JIS−L−1018)により測定した。
【0039】
<可紡性>
精紡機の糸切れ本数(本/400SP・1h)で判断した。
評価基準は0〜5本(良好)、6〜10本(やや悪い)、10本以上(悪い)とした。
【0040】
実施例1
極細タイプのカチオン可染アクリル短繊維(日本エクスラン工業製UFタイプ、0.5dtex、繊維長32mm)を70重量%と、制電・抗ピルタイプのカチオン可染性アクリル繊維(日本エクスラン工業製822タイプ、1.0dtex、繊維長38mm)30重量%を、OHARA製混綿機を用いて混綿混紡した後に石川製作所製カード機を用いてカードスライバーとし、原織機製練条機に2回通して250ゲレン/6ydのスライバーとした。更に、このスライバーを豊田自動織機製粗紡機に通して50ゲレン/15ydの粗糸を作成した。そして、豊田自動織機製リング精紡機を用いてドラフト39倍、トラベラ回転数10000rpmで紡出して英式番手80′sの紡績糸を得た。そのときの撚係数(K)は3.8(撚数40T/inch)であった。交編するSCY(Single Covered Yarn)はポリウレタン17dtex(東洋紡製エスパ(登録商標))をドラフト倍率1.8倍として28dtexフィラメント数34のナイロンフィラメント(東洋紡製シルファイン(登録商標))と複合してSCYを得た。次いで前記紡績糸と該ナイロンSCYを交編した片袋編地を18′′−18Gのフライス編機(永田精機製)により編成した。編成時の条件は、編成糸長でアクリル短繊維80′sを430mm/100ウエール、ナイロンSCYを240mm/100ウエールとして図2に示す編組織にて編成した。
【0041】
得られた生機を以下の条件で精練した。
日阪製作所製液流染色機NSタイプを用いて、編地を開反せず後述の処理条件及び精練処方で精練した。湯洗3回・水洗1回を行った後、染色機から編地を取り出して遠心脱水した後、ヒラノテクシード製シュリンクサーファードライヤーを用いて乾燥(120℃×3分)を行なった。
処理条件:浴比1:15、95℃×30分
精練処方:精練剤(第一工業製薬(株)製ノイゲンHC)1g/l、金属イオン封鎖剤(日華化学(株)製ネオクリスタルGC1000)g/l、ソーダ灰0.5g/l
乾燥時に経方向に編地が伸びないようにテンションに注意した。
【0042】
次に、日阪製作所製液流染色機NSタイプを用いて酸性染料及び分散型カチオン染料を同浴一段染色を行った。染色条件及び処方を下記に示す。
染色条件:浴比1:15 95℃×45分 湯洗3回・水洗1回を行った後、柔軟処理をして取り出した。
染色処方:pH調整剤(酢酸0.2g/l pH=4)、均染剤(明成化学工業(株)製ディスパーTL)1g/l、分散型カチオン染料(日本化薬(株)製Kayacryl light Blue 4GSL−ED)1.0%owf、酸性染料(日本化薬(株)製Kayanol Blue NR)1.0%owf
柔軟処理:クラリアント社製サンドパームMEJ―50リキッド 1.0%owf
【0043】
染色後、遠心脱水後、巾出し乾燥を行って性量調整し、最終的に目付け100g/mの編地を得た。密度の粗い面を表としたときの表面の編地密度が36ウエール(W)/inch、45コース(C)/inchの編地を得た。この編地を評価に供した。評価結果を表1に示す。また、編地に用いた紡績糸の断面写真を図4に示す。
【0044】
実施例2
実施例1で紡績した糸を100%用いて18′′−18Gのフライス編機により編成糸長330mm/100W(ウエール)として図3に示すフライス編地を編成し、実施例1と同様の操作で染色加工した。但し染色は分散型カチオン染料のみで行った。仕上後に編地密度38W/inch、60C/inch、目付90g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。
【0045】
実施例3
実施例1で紡績した糸と綿糸80′sとを1:1で交編して18′′−18Gのフライス編機により実施例2と同条件で編成した。その後、実施例1の精練の代わりに、綿の精練・漂白条件とし、また染色ではカチオン染色に加えて反応染色を2段染色法にて行った。各処方は下記に示す。それ以外は実施例1と同様に染色加工を行い、仕上げ後に編地密度38W/inch、60C/inch、目付90g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。
【0046】
染色処方
染色条件:浴比1:15、カチオン染色(一段目)95℃×45分⇒反応染色(2段目)60℃×60分⇒ソーピング2回・湯先・中和・水洗して取り出した。
一段目染色処方:pH調整剤(酢酸0.2g/l pH=4)、均染剤(明成化学工業(株)製ディスパーTL)1g/l、分散型カチオン染料(日本化薬(株)製Kayacryl light Blue 4GSL−ED)1.0%owf
二段目染色処方:反応染料(住友化学工業(株)製Sumifix supra Blue BRF150)0.5%owf、無水芒硝30g/L、アルカリ剤(一方社油脂工業(株)エスポロンA171)4g/l
ソーピング処方:ソーピング剤(一方社油脂工業(株)製ビスノールSLK)2g/L
中和処方:酢酸(68%)1g/l
【0047】
実施例4
アクリル短繊維0.5dtex70重量%とアクリル短繊維1.0dtex抗ピルタイプ30重量%を均一に混紡し、撚係数(K)で4.0の英式番手で80′sの紡績糸を得た。次いで、この紡績糸と実施例1のナイロンSCYを用いて18′′−18Gのフライス編機により編成糸長330mm/100W(ウエール)の片袋編地を編成し染色加工した。仕上後に編地密度36W/inch、45C/inch、目付100g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。
【0048】
実施例5
アクリル短繊維0.5dtex70重量%とアクリル短繊維1.0dtex抗ピルタイプ30重量%を均一に混紡し、撚係数(K)で3.0の英式番手で80′sの紡績糸を得た。次いで、この紡績糸と実施例1のナイロンSCYを用いて18′′−18Gのフライス編機により編成糸長330mm/100W(ウエール)の片袋編地を編成し染色加工した。仕上後に編地密度36W/inch、45C/inch、目付100g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。
【0049】
実施例6
アクリル短繊維0.5dtex70重量%とアクリル短繊維1.0dtex抗ピルタイプ30重量%を均一に混紡し、撚係数(K)で3.8の英式番手で100′sの紡績糸を得た。次いで、この紡績糸と実施例1のナイロンSCYを用いて18′′−18Gのフライス編機により編成糸長300mm/100W(ウエール)の片袋を編成し染色加工した。仕上後に編地密度39W/inch、50C/inch、目付85g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。
【0050】
実施例7
アクリル短繊維0.5dtex40重量%とアクリル短繊維1.0dtex抗ピルタイプ60重量%を均一に混紡し、撚係数(K)で3.8の英式番手で80′sの紡績糸を得た。次いで、この紡績糸と実施例1のナイロンSCYを用いて18′′−18Gのフライス編機により編成糸長330mm/100W(ウエール)ナイロンSCYを240mm/100ウエールとして図3に示す編組織にて編成した片袋編地を編成し染色加工した。仕上後に編地密度36W/inch、45C/inch、目付100g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。
【0051】
実施例8
アクリル短繊維0.5dtex70重量%とアクリル短繊維1.0dtex抗ピルタイプ30重量%を均一に混紡し、撚係数(K)で3.8の英式番手で60′sの紡績糸を得た。次いで、この紡績糸と実施例1のナイロンSCYを用いて18′′−18Gのフライス編機により編成糸長360mm/100W(ウエール)の片袋編地を編成し染色加工した。仕上後に編地密度32W/inch、42C/inch、目付120g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。
【0052】
比較例1
アクリル短繊維0.5dtexを100%用いて、撚係数(K)で3.8の英式番手で80′sの紡績糸を得た。次いで、前記紡績糸を用いて18′′−18Gのフライス編機により編成糸長330mm/100W(ウエール)のフライス編地を編成し染色加工した。仕上後に編地密度38W/inch、60C/inch、目付90g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。
【0053】
比較例2
アクリル短繊維1.0dtexを100%用いて撚係数(K)3.8の英式番手で80′sの紡績糸を得た。次いで、18′′−18Gのフライスにより実施例2で編成したのと同様の条件で編成し染色加工した。仕上後に編地密度38W/inch、60C/inch、目付90g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。また、編地に用いた紡績糸の断面写真を図5に示す。
【0054】
比較例3
アクリル短繊維0.5dtex90重量%とアクリル短繊維1.0dtex抗ピルタイプ10重量%を均一に混紡し、撚係数(K)で3.8の英式番手で80′sの紡績糸を得た。次いで、この紡績糸と実施例1のナイロンSCYを用いて18′′−18Gのフライス編機によりアクリル短繊維80′sを330mm/100ウエール、ナイロンSCYを240mm/100ウエールの片袋を編成し染色加工した。仕上後に編地密度36W/inch、45C/inch、目付100g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。
【0055】
比較例4
アクリル短繊維0.5dtex10重量%とアクリル短繊維1.0dtex抗ピルタイプ90重量%を均一に混紡し、撚係数(K)で3.8の英式番手で80′sの紡績糸を得た。次いで、この紡績糸と実施例1のナイロンSCYを用いて18′′−18Gのフライス編機により430mm/100ウエール、ナイロンSCYを240mm/100ウェールの片袋を編成し染色加工した。仕上後に編地密度36W/inch、45C/inch、目付100g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。
【0056】
比較例5
アクリル短繊維0.5dtex70重量%とアクリル短繊維1.0dtex抗ピルタイプ30重量%を均一に混紡し、撚係数(K)で3.8の英式番手で50′sの紡績糸を得た。次いで、前記紡績糸を用いて18′′−18Gのフライス編機により編成糸長430mm/100W(ウエール)のフライス編地を編成し染色加工した。仕上後に編地密度32W/inch、50C/inch、目付130g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。
【0057】
比較例6
超長綿(スーピマ)を用いて、常法により英式番手80′sのリング紡績糸を得た。この紡績糸を実施例1のアクリル紡績糸の代わりにこの紡績糸と実施例1のナイロンSCYを用いて18′′−18Gのフライス編機により430mm/100ウエール、ナイロンSCYを240mm/100ウエールの片袋を編成し染色加工した。染色はナイロンSCYを酸性染料で、綿を反応染料で2段染色した。仕上後に編地密度36W/inch、45C/inch、目付100g/mの編地を得た。評価結果を表1に示す。
【0058】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の衣料用編地は、薄くて軽量でありながら保温性に優れるので、近年の秋冬向けの衣料に求められるニーズに適切に対応することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
60〜120g/mの目付け及び0.2〜0.6mmの厚みを有する編地であって、単繊維繊度が0.3〜0.7dtexである短繊維Aと、単繊維繊度が0.8〜1.3dtexでありかつ短繊維Aとの単繊維繊度差が0.4dtex以上である短繊維Bとを3:7〜8:2の重量比で混紡した混紡糸が50重量%以上混用されており、かつ短繊維A及び短繊維Bの繊維軸方向の熱伝導率が1.2W/m・k以下であることを特徴とする衣料用編地。
【請求項2】
短繊維A及び短繊維Bがアクリル繊維であり、混紡糸が綿番手60〜100番手の細繊度紡績糸であることを特徴とする請求項1に記載の衣料用編地。
【請求項3】
40dtex以下のナイロン被覆弾性糸を10〜40重量%の割合で交編していることを特徴とする請求項1または2に記載の衣料用編地。
【請求項4】
20dtex以下のポリウレタン弾性糸とナイロンフィラメントを用いて40dtex以下のナイロン被覆弾性糸とし、これを交編して片袋とした破裂強度が250〜500kPaであることを特徴とする請求項3に記載の衣料用編地。
【請求項5】
混紡糸の撚係数(K)が2.8〜4.5であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の衣料用編地。
【請求項6】
混紡糸の糸断面を見たときに繊維間の空隙率が55〜70%であり、編地の比容積が3〜6cm/gであることを特徴とする請求項5に記載の衣料用編地。
【請求項7】
編地の保温率が20%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の衣料用編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−203000(P2010−203000A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50346(P2009−50346)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(508179545)東洋紡スペシャルティズトレーディング株式会社 (51)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】