説明

軽量気泡コンクリートパネルおよびその製造方法

【課題】強度等の諸物性に優れる軽量気泡コンクリートパネルを提供する。
【解決手段】ポルトランドセメントおよび生石灰からなる石灰質原料と、珪酸質原料と、石膏とを、CaO/SiO2のモル比が0.6〜0.8、かつ、Al/(Al+Si)の原子比が5%以下となるように配合して混合原料を得て、該混合原料に、水、発泡剤および界面活性剤を添加してスラリーとした後、該スラリーを、予め補強材料を配置した型枠に鋳込み、発泡硬化処理を行い、水蒸気養生処理を施すことにより、ゾノトライト生成率が5質量%〜35質量%である軽量気泡コンクリートパネルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量気泡コンクリート(ALC)に関し、特に、建築物の壁や屋根、床などに使用され、強度等の諸物性に優れるALCパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
ALCの製造では、珪石や珪砂などの珪酸質原料、ポルトランドセメントや生石灰などの石灰質原料、および石膏や繰り返し原料などの副原料を、水と混合攪拌し、得られた原料スラリーに、発泡剤としてアルミニウム粉末を加え、さらに界面活性剤を加えて、補強鉄筋を配置した型枠内に流し込んで発泡させる。さらに、所定時間を経てケーキ状半硬化体となった後、ピアノ線で所定寸法に切断し、オートクレーブで高温高圧の水蒸気養生を行い、切削加工を経て、ALCパネルを得ている。
【0003】
ALCパネルは、水蒸気養生において生成したトバモライトと、水蒸気養生において未反応であるために残存する珪石や珪砂とが、主要構成鉱物であり、このような不燃材にて構成されていることや、絶乾かさ比重が0.5程度であること等から、軽量であり、耐火性、断熱性および施工性に優れた建築材料として、広く使用されている。
【0004】
しかし、近年、新しい工法の開発のためや、耐用年数の増加といった様々なニーズに応えるため、ALCパネルの性能向上がさらに求められている。
【0005】
ALCパネルの強度については、前述の水蒸気養生の過程において、珪石や珪砂などの珪酸質原料と、ポルトランドセメントや生石灰などの石灰質原料とから、珪酸カルシウム水和物のトバモライトを生成させることにより、発現させている。このような水蒸気養生のためのオートクレーブにおいては、珪石の溶解が反応を律速することと、それにより、珪石に関する粒度、単結晶サイズ、純度、および不純物の種類と含有量などが、ALCパネルの物性値に大きな影響を有することが、広く知られている。
【0006】
ALCパネルの製造方法に関して、例えば、特開昭59−128254号公報には、珪石の粒度を重量平均径で15μm以下とすることにより、対凍結性が改善できることが記載されている。また、特開平4−197605号公報には、比表面積で2、000cm2/g〜2、500cm2/gと6、000cm2/g〜12、000cm2/gにピークを有する珪砂を使用することにより、ALCパネルの収縮の低減が得られることが記載されている。さらに、特開2001−019571号公報には、平均石英結晶粒径が10μm未満の珪石と10μm〜500μmの珪石を混合して、平均石英結晶粒径を15μm〜300μmにするとともに、10μm未満の珪石の混合割合を60質量%以下にして、得られた混合珪石を使用することにより、ALCパネルの寸法安定性および曲げ強度が改善できることが記載されている。しかしながら、珪石や珪砂などの珪酸質原料の仕様を詳細に限定することは、珪酸質原料の選択に対する自由度を下げることになる。
【0007】
さらに、繊維補強コンクリートの実用化に伴い、ロックウールや樹脂などの繊維状物質にて補強したALCパネルが考案されており、例えば、特許第3433081号公報に示されるように、パラアミド短繊維を原料スラリーに混合して、分散させる方法が知られている。しかしながら、ケーキ状半硬化体の状態においてピアノ線で所定寸法に切断する際に、ピアノ線にこれらの繊維が付着して、得られるALCパネルの切断面の外観品質を悪化させるという問題を有するため、現実的な方法とはいえなかった。
【0008】
【特許文献1】特開昭59−128254号公報
【0009】
【特許文献2】特開平4−197605号公報
【0010】
【特許文献3】特開2001−019571号公報
【0011】
【特許文献4】特許第3433081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、圧縮強度等の諸物性に優れ、特に、従来よりも耐久性において優れているALCパネルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の軽量気泡コンクリートは、ゾノトライト生成率が5質量%〜35質量%であり、圧縮強度が4.5N/mm2以上である。
【0014】
本発明の軽量気泡コンクリートパネルは、前記軽量気泡コンクリートの内部に、鉄筋または金網からなる補強材を備える。
【0015】
本発明の軽量気泡コンクリートパネルの製造方法では、ポルトランドセメントおよび生石灰からなる石灰質原料と、珪酸質原料と、石膏とを、CaO/SiO2のモル比が0.6〜0.8、かつ、Al/(Al+Si)の原子比が5%以下となるように配合して、混合原料を得て、該混合原料に、水、発泡剤および界面活性剤を添加してスラリーとした後、該スラリーを予め補強材料を配置した型枠に鋳込み、発泡硬化処理を行い、水蒸気養生処理を施すことにより、ゾノトライト生成率が5質量%〜35質量%である軽量気泡コンクリートパネルを製造する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、圧縮強度等の諸物性に優れるALCパネルを得ることができる。従って、近年、開発されている特殊な工法に十分に対応することができ、建築物へ、ALCパネルのフレキシブルな使用が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者は、ALCパネルの強度等の諸物性の向上に関して、種々、検討した結果、オートクレーブによる高温高圧の水蒸気養生の過程において、珪石や珪砂などの珪酸質原料と、ポルトランドセメントや生石灰などの石灰質原料とから得られるトバモライトおよびゾノトライトを共存させたALCパネルは、諸物性のうち圧縮強度に優れることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明の軽量気泡コンクリートは、ゾノトライト生成率が5質量%〜35質量%であり、圧縮強度が4.5N/mm2以上である。従って、十分な割合のトバモライトと、ゾノトライトが共存する。
【0019】
ゾノトライト生成率は、特許第2757878号公報を参照して得られる。具体的には、イニシャル質量:M(mg)のサンプルについて、示差熱質量分析装置(TG−DTA)を用いて20℃/分の昇温速度で1000℃までの熱質量減少曲線から、室温から1000℃までの熱質量減少量:A(mg)、および750℃から850℃までの熱質量減少量:B(mg)を求めることにより、ゾノトライト生成率(%)は、以下の式で計算することができる。
【0020】
ゾノトライト生成率(%)
={B/(M−A)}/{18/(714−18)}×100
【0021】
圧縮強度は、JISA5416(1997)に記載の圧縮強度試験により得られる。
【0022】
トバモライトを主要構成鉱物とするALCパネルにおいて、ゾノトライトを共存させることで、ALCパネルの圧縮強度が向上する原因は定かではない。しかし、未反応として残留する珪石や珪砂などの骨材効果と、板状結晶のトバモライトと針状結晶のゾノトライトが緻密に凝集した構造的な効果とが、複合して作用し、ALCパネルの圧縮強度を向上させるものと考えられる。
【0023】
トバモライトおよびゾノトライトを共存させるための製造条件として、原料のCaO成分とSiO2成分から求められるCaO/SiO2モル比を0.6〜0.8とする。本来、トバモライト(5CaO・6SiO2・5H2O)およびゾノトライト(6CaO・6SiO2・H2O)の理論組成を考慮すると、CaO/SiO2モル比は0.8〜1.0となる。しかし、CaO/SiO2モル比の増加は、珪石や珪砂のSiO2が減少することと等しく、水蒸気養生中におけるこれらの溶解速度を考慮すると、トバモライトの生成が不十分になることが考えられるので、CaO/SiO2モル比を小さくし、さらに、珪石や珪砂などが未反応として残留することによる骨材効果も減少することから、CaO/SiO2モル比を0.8以下とした。また、CaO/SiO2モル比が0.6未満である場合は、水蒸気養生の温度を高くしたり、養生時間を延長することで、ゾノトライトの生成が可能ではあるが、コスト面から判断して工業的に得策ではないので、CaO/SiO2モル比を0.6以上とした。
【0024】
さらに、Al/(Al+Si)の原子比を5%以下となるように配合する。5%を超えると、トバモライトの結晶構造が安定化するため、ゾノトライト成分の生成が難しくなる。トバモライトの結晶構造の安定化の原因については、トバモライトの層状シリカチェーン構造の層間にAlが置換固溶したためと考えられる。
【0025】
以上のように配合された混合原料に、水、発泡剤および界面活性剤を添加してスラリーとした後、該スラリーを予め補強材料を配置した型枠に鋳込み、発泡硬化処理を行う。得られたケーキ状半硬化体は、ピアノ線で所定寸法に切断した後に、所定の条件にて水蒸気養生する。なお、発泡剤としては、一般に金属アルミニウム粉末が用いられる。
【0026】
以上により、従来の繊維混入状態では問題視された切断面の外観品質を考慮する必要がなく、強度に優れたALCパネルを製造することができる。なお、水蒸気養生の条件としては、ゾノトライトを生成させるために、190〜240℃の温度範囲を選択できるが、設備コストを考慮して195℃にて6時間程度が好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明について、実施例に基づいて具体的に説明する。
【0028】
(実施例1)
使用する原料の組成を、表1に示した。
【0029】
表2に示した原料配合で混合を行い、該混合原料の全固体量を100質量部として、70質量部の水および界面活性剤を加えてスラリーとして、混合した後、発泡剤として0.065質量部の金属アルミニウム粉末を添加し、得られたスラリーを、予め鉄筋を配置した長さ7.2m、幅1.5m、高さ0.7mの型枠に鋳込んだ。
【0030】
なお、金属アルミニウム粉末のAlがAl/(Al+Si)に与える影響は、Al粉0.065質量部で0.2%程度と小さく、発泡成形体を得るためには必須のもので、かつ発泡体密度を一定に保つためにほぼ一定量を添加することから、原子比の計算からは無視することとした。
【0031】
発泡硬化の後、厚さ100mm、長さ1800mm、幅600mmのサイズにピアノ線で切断し、オートクレーブに挿入して、195℃の飽和水蒸気圧下で、6時間、養生して、ALCパネルを得た。
【0032】
得られたALCパネルについて、以下の測定を行った。
【0033】
(1)鉄筋を除いて採取したALC部分を十分に粉砕した後、105℃で2時間、乾燥させ、絶乾状態とした。イニシャル質量:M(mg)のサンプルについて、示差熱質量分析装置(TG−DTA)を用いて20℃/分の昇温速度で1000℃までの熱質量減少曲線から、室温から1000℃までの熱質量減少量:A(mg)、および750℃から850℃までの熱質量減少量:B(mg)を求めた。ゾノトライト生成率(%)は、以下の式で計算することができる(特許第2757878号公報参照)。
【0034】
ゾノトライト生成率(%)
={B/(M−A)}/{18/(714−18)}×100
【0035】
(2)鉄筋を除いて採取したALC部分を、100mm角のブロックに成形し、JISA5416(1997)に準じて、圧縮強度を測定した。
【0036】
圧縮強度のJISA5416における規格値は、3.0N/mm2以上であるが、実際には、近年、開発されている特殊な工法に対応するため、4.5N/mm2以上が必要である。そのため、圧縮強度が4.5N/mm2以上を適(○)、4.5N/mm2未満、3.0N/mm2以上を不適(△)、3.0N/mm2未満を不可(×)と判定した。
【0037】
得られたサンプルについて、得られた測定結果を、表2に示す。
【0038】
(実施例2、3、比較例1〜4)
表2に示した原料配合で混合を行った以外は、実施例1と同様にして、ALCパネルを得た。
【0039】
また、実施例1と同様の評価を行った。
【0040】
得られた測定結果を、表2に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
実施例1〜3では、CaO/SiO2モル比が0.6〜0.8の範囲内であり、Al/(Al+Si)原子比が5%以下であり、ゾノトライト生成率が5質量%〜35質量%である。圧縮強度は、いずれも4.5N/mm2以上の適の判定となった。
【0044】
比較例1、2では、CaO/SiO2モル比が0.6を下回ることで、ゾノトライトの生成が充分に進行しないため、圧縮強度が実施例1〜3と比して低くなった。
【0045】
比較例3では、ゾノトライト生成率が14.1%であるが、珪石が少ないために、CaO/SiO2モル比が高くなり、十分な圧縮強度が得られなかった。
【0046】
比較例4では、ゾノトライト生成が最も進行しているが、CaO/SiO2モル比が高くなり、著しく圧縮強度に劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾノトライト生成率が5質量%〜35質量%であり、圧縮強度が4.5N/mm2以上であることを特徴とする軽量気泡コンクリート。
【請求項2】
請求項1に記載の軽量気泡コンクリートの内部に、鉄筋または金網からなる補強材を備えることを特徴とする軽量気泡コンクリートパネル。
【請求項3】
ポルトランドセメントおよび生石灰からなる石灰質原料と、珪酸質原料と、石膏とを、CaO/SiO2のモル比が0.6〜0.8、かつ、Al/(Al+Si)の原子比が5%以下となるように配合して混合原料を得て、該混合原料に、水、発泡剤および界面活性剤を添加してスラリーとした後、該スラリーを予め補強材料を配置した型枠に鋳込み、発泡硬化処理を行い、水蒸気養生処理を施すことにより、ゾノトライト生成率が5質量%〜35質量%である軽量気泡コンクリートパネルを製造する方法。

【公開番号】特開2007−169133(P2007−169133A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372776(P2005−372776)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】