説明

較正方法、較正システム、およびこの較正方法のための記録媒体

【課題】 単純かつ短時間に、物理システムの状態変数のオブザーバの係数を較正する方法を提供する。
【解決手段】 この方法は、状態変数xkの関数である物理システムの変数zkを、相異なるN個の測定時刻において測定するステップ(50)と、あらかじめ定められた制約セットΔを満たしながら、基準式を最小にする係数ベクトルpを特定するステップ(54)とを含んでいる。この基準式は、変数zkと、変数zkの推定値に状態変数xkの推定値をリンクさせる既知関数との差のノルムによって構成されている。制約セットΔの1つまたは複数の制約は、変数zkの軌跡が、測定時刻kの少なくとも大部分において、変数zkの推定値の軌跡の両側に配置された、帯状の不確かさの領域の内部に存在しなければならないということを命ずる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理システムの状態変数xkのオブザーバ(状態変数観察器)の係数を較正する方法およびシステムに関する。本発明は、さらに、この方法を実行するための記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
オブザーバは、物理システムの物理量または物理的規模の測定値ykから、状態変数xkを推定する。ここで、添え字kは、測定時刻を表わしている。
【0003】
オブザーバによる所望の動作が、ある1つの係数セットで得られるまで、種々の係数セットを用いて一連の実験を行うことによって、オブザーバの係数を較正するいくつかの方法が公知である。通常、オブザーバの望ましい特性は、次のとおりである。
− 変数xkの最尤の推定値(数1)への迅速な収斂、および
− 高い安定性。
【数1】

【0004】
この実験に基づく較正は、発見的解決法の一種である。このような較正は、長時間にわたる場合が多く、またオブザーバの最善の較正が得られていることを確認することは困難である。
【0005】
この問題を解決するために、代替方法が提案されている。例えば特許文献1は、ニューラルネットワークを用いて、カルマンフィルタの係数を較正する方法を開示している。しかしながら、この代替方法は、実験を用いる方法と同じくらい実行が複雑である場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】カナダ国特許公開第2226282号公報
【特許文献2】ヨーロッパ特許公開第1502544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、より単純に実行することができる較正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明は、次のステップを含む、オブザーバの係数を較正する方法を提供するものである。
− 状態変数xkの関数である物理システムの変数zkを、相異なるN個の測定時刻において測定するステップと、
− あらかじめ定められた制約セットΔを満たしながら、次の基準式(数2)を最小にする係数ベクトルpを特定するステップ。
【数2】

【0009】
この基準式において、
・ 数1は、測定時刻kにおいて係数ベクトルpの係数で較正されたオブザーバによって定められる、状態変数xkの推定値であり、
・ 数3は、変数zkの推定値(数4)に、状態変数xkの推定値(数1)をリンクさせる既知関数であり、
・ 数5は、変数zkと既知関数(数3)との間の差のノルムであり、
・ 制約セットΔの1つまたは複数の制約は、変数zkの軌跡が、測定時刻kの少なくとも大部分において、変数zkの推定値(数4)の軌跡の両側に配置された、帯状の不確かさの領域の内部に存在しなければならないということを命ずる。
【数3】

【数4】

【数5】

【0010】
上述の方法は、単純に、かつ種々の実験に頼ることなく、オブザーバの効率的動作を可能にする係数を特定するために用いられる。さらに、係数をこのように特定することによって、基準式f(p)を、確実に最小にすることができる。
【0011】
最後に、制約セットΔを用いることによって、推定値(数4)に不確かさが存在するという事実が考慮に入れられる。基準式f(p)を最小にする係数ベクトルpを特定するときに、この不確かさを考慮に入れることによって、この不確かさを考慮に入れない場合より良好な較正が得られる。特に、基準式f(p)を最小にすることができるかもしれないが遠回りのアプローチが除外される。
【0012】
本発明の較正方法の実施形態は、次の特性の1つ以上を備えていてもよい。
− aおよびbが、あらかじめ定められた正の定数であるとして、制約セットΔに、変数zkが数6と数7との間に存在しなければならないということを命ずる制約が含まれている。
【数6】

【数7】

【0013】
− 定数aおよびbは、変数zkの推定値(数4)の不確かさを表わす平均二乗偏差(数8)に比例する。
【数8】

【0014】
− 制約セットΔに、変数zkと、その推定値(数4)との間の差の平均が、あらかじめ定められた閾値S1未満でなければならないということを命ずる制約が含まれている。
【0015】
− 閾値S1は、変数zkの推定値(数4)の不確かさの関数である。
【0016】
− オブザーバはカルマンフィルタ、拡張カルマンフィルタ、またはアンセンテッドカルマンフィルタであり、較正される係数は、これらのフィルタの共分散行列RおよびQの係数である。
【0017】
− 共分散行列RおよびQは、対角行列であるように選ばれる。
【0018】
さらに、較正方法のこれらの実施形態は、次の長所を有している。
− 変数zkが、数6と数7との間に存在しなければならないということを命ずることによって、係数ベクトルpを探さなければならない探索空間が減少し、したがって、この較正方法の実行速度は上昇する。
− 平均2乗偏差(数8)に比例する定数aおよびbを用いることによって、較正が改善される。
− 変数zkとその推定値(数4)との間の差の絶対値の平均が、閾値S1未満でなければならないということを命ずる制約を用いることによって、命ぜられる制約が緩和され、したがって、係数ベクトルpの決定が促進される。
− 変数zkの推定値(数4)の不確かさの関数である閾値S1を用いることによって、較正が改善される。
− 対角行列RおよびQを選ぶことによって、決定される係数の数が減少し、それによって、較正が促進される。
【0019】
本発明は、さらに、プログラム可能な電子計算機によって実行されたときに、上述の方法を遂行するための命令を備えている情報記録媒体を提供するものである。
【0020】
本発明は、さらに、添え字kが測定時刻を識別する添え字であるとして、物理システムの物理量の測定値ykから、この物理システムの状態変数xkのオブザーバの係数を較正するための、次のものを備えているシステムを提供するものである。
− 状態変数xkの関数である、物理システムの変数zkを、相異なるN個の測定時刻において測定することができる少なくとも1つのセンサと、
− あらかじめ定められた制約セットΔを満たしながら、次の基準式(数2)を最小にする係数ベクトルpを特定することができるコンピュータ。
【数2】

【0021】
この基準式において、
・ 数1は、測定時刻kにおいて係数ベクトルpの係数で較正されたオブザーバによって定められる、状態変数xkの推定値であり、
・ 数3は、変数zkの推定値(数4)に、状態変数xkの推定値(数1)をリンクさせる既知関数であり、
・ 数5は、変数zkと既知関数(数3)との間の差のノルムであり、
・ 制約セットΔの1つまたは複数の制約は、変数zkの軌跡が、測定時刻kの少なくとも大部分において、変数zkの推定値(数4)の軌跡の両側に配置された、帯状の不確かさの領域の内部に存在しなければならないということを命ずる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】オブザーバおよびこのオブザーバの較正システムを有する位置特定システムの構成を示す概要図である。
【図2】図1の位置特定システムのオブザーバの較正方法のフローチャートである。
【図3】変数zkおよびその推定値(数4)の軌跡を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付図面を参照して、単に非限定的な例として与えられる以下の説明を読むことによって、本発明を、より明瞭に理解することができると思う。
【0024】
以下の説明において、当業者に周知の特性および機能については、詳細には説明しない。
【0025】
本明細書において、変数の時間変化を変数の軌跡と呼ぶ。時間変化する変数は、不特定のいかなる変数であってもよい。具体的には、この変数は、必ずしも空間における位置に限定されない。この変数は、例えば時間変化する温度または他の任意の物理量であってもよい。
【0026】
図1は物理システム、すなわち、この場合には、物体4、および基準系8において、物体4の位置を特定するための位置特定システム6を示している。
【0027】
物体4は、例えば人体に差し込まれているプローブまたはカテーテルである。物体4は、基準系8内で移動可能である。
【0028】
基準系8は、正規直交する三軸X、Y、Zを有する固定基準系である。
【0029】
基準系8における物体4の位置特定には、その座標位置xp、yp、zp、および角度θx、θy、θzを見出すステップが含まれる。角度θx、θy、θzは、それぞれ軸X、Y、Zを基準とした、物体4の方向を表わしている。
【0030】
物体4の位置特定のために、位置特定システム6は、1つ以上の磁界放射源および磁界センサを備えている。これらの磁界放射源および磁界センサのうちのいくつかは、基準系8にリンクされており、他のものは、何らの自由度もなしに、位置特定されるべき物体4に固定されている。本明細書においては、磁界センサ10が、何らの自由度もなしに、物体4に固定されている。磁界センサ10は、例えば三軸磁界センサ、すなわち、互いに同一直線上にない3つの測定軸上に投影した磁界を測定することができるセンサである。このような磁界センサは、磁界の方向を測定することができる。ほどんどの場合、この磁界センサは、磁界の振幅も測定することができる。
【0031】
これらの測定軸は、例えば互いに直交している。これらの測定軸は、物体4に固定してリンクされている。
【0032】
この磁界センサ10は、たわみ線リンクを介して処理ユニット12に接続されている。
【0033】
処理ユニット12は、また、3つの磁界放射源14〜16に接続されている。これらの磁界放射源は、例えば三軸磁界放射源である。三軸磁界放射源は、互いに同一直線上にない3つの放射軸に沿って磁界を放射する。そのような磁界放射源は、例えばいくつかの一軸磁界放射体の各々を、磁界放射源の各放射軸上に並べることによって実現される。一軸磁界放射体は、主として単一の軸に沿って磁界を放射する。一軸磁界放射体は、例えば全てのターンが同一の放射軸のまわりに巻き付けられているコイルである。この場合には、放射軸は、ターンが巻き付けられている軸と一致する。
【0034】
本明細書において、磁界放射源14〜16は互いに同一である。これらの磁界放射源14〜16は、基準系8に固定されている。
【0035】
処理ユニット12は、磁界センサ10によって測定される磁界を発生させるために、磁界放射源14〜16に交流電流を供給する。処理ユニット12は、また、磁界センサ10によって測定された磁界の測定値を得る。
【0036】
処理ユニット12は、得られた測定値から、基準系8において物体4の位置を特定するオブザーバ18を装備している。オブザーバ18は、連立方程式を解くことによって、物体4の座標位置および方向を特定する。この連立方程式は、磁界放射源14〜16と磁界センサ10との間の磁気相互作用をモデル化することによって得られる。この連立方程式において、物体4の座標位置xp、yp、zpおよび角度θx、θy、θzが末知数であり、他のパラメータの値が、磁界センサ10によってなされた測定値から得られる。そのような連立方程式に関するさらに詳細な情報は、例えば前記の特許文献2に示されている。
【0037】
本明細書において、オブザーバ18は、カルマンフィルタである。
【0038】
このオブザーバ18は、測定値ykから、状態変数xkの推定値(数1)を定める。状態変数xkは、正規直交系である基準系8における、物体4の座標位置xp、yp、zpおよびその角度θx、θy、θzを成分として含んでいるベクトルである。測定値ykは、測定時刻kにおいて磁界センサ10の3つの測定軸に沿って測定された測定値を成分として含んでいる測定ベクトルである。
【0039】
オブザーバ18のカルマンフィルタの方程式は、数9、数10で与えられる。
【数9】

【数10】

【0040】
これらの方程式において、
− 数11は、測定時刻kにおいて利用可能なデータのみから得られる、状態変数xkの推定値であり、
− Fkは、推定値(数11)に推定値(数1)をリンクさせる行列であり、
− Pk/kは、推定値(数1)の誤差の共分散を推定するための行列であり、
− Qkは、とりわけモデル化誤差を含んでいるモデルの方程式のノイズの共分散行列であり、
− 数12は、測定時刻k+1においてなされた測定結果から、測定時刻k+1において訂正された推定値(数13)であり、
− ykは、測定時刻kにおいて得られた測定値のベクトルであり、
− Ckは、測定値ykに状態変数xkをリンクさせる行列であり、
− Pk+1/k+1は、測定値ykに基づいて訂正された推定値(数1)の誤差の共分散行列であり、
− Kk+1は、カルマンフィルタの利得である。
【数11】

【数12】

【数13】

【0041】
行列Fkは、例えば電磁法則に基づいて、磁界放射源14〜16と磁界センサ10との間の磁気相互作用をモデル化することによって得られる。
【0042】
カルマンフィルタの利得Kk+1は、次の関係式(数14)によって与えられる。
【数14】

ここで、Rk+1は、測定値yk中のノイズの共分散行列である。
【0043】
上に与えられている、カルマンフィルタの方程式は標準的なものであり、したがって、本明細書においては、これ以上詳細に言及されない。
【0044】
カルマンフィルタを用いることによって、物体4の座標位置および角度の正確な推定値が与えられる。しかしながら、その前に、行列RkおよびQkを較正しなければならない、すなわち、行列RkおよびQkの係数の値を決定しなければならない。説明を単純にするために、これらの係数の値は一定であると仮定する。したがって、行列RkおよびQkは、以下において、行列RおよびQで表わされる。
【0045】
ここで、pRおよびpQは、決定するべき行列RおよびQのそれぞれの係数セットを表わすものとする。
【0046】
カルマンフィルタが較正されてしまうと、これらの係数セットpRおよびpQは、オブザーバ18が、物体4の位置を推定するためにそれらを用いることができるように、処理ユニット12に接続されているメモリ20に記憶される。
【0047】
図1は、さらに、オブザーバ18を較正するための較正システム30を示している。この較正システム30は、オブザーバ18の行列RおよびQの係数セットpRおよびpQを自動的に決定する。
【0048】
それを可能にするために、較正システム30は、変数zkを測定する1つ以上のセンサ32を装備している。この変数zkは、その値が状態変数xkの関数である変数である。より詳細には、変数zkは、既知関数φを介して状態変数xkにリンクされている。この既知関数φは線形関数であってもよいし、非線形関数であってもよい。センサ32は、例えば軸X、Y、Zに沿って、物体4の加速度を測定する。この場合には、センサ32は、いくつかの加速度計によって構成されている。
【0049】
別の一実施形態において、センサ32は、測定値ykの測定を実行するために用いられるセンサ以外のセンサを用いて、物体4の位置を直接測定することができる。例えばセンサ32は、この目的のために、物体4の位置を測定するためのいくつかのカメラ、または、他のセンサおよび他の磁界放射源を有していてもよい。この特定の場合には、既知関数φは恒等関数である。
【0050】
較正システム30は、さらに、センサ32から測定結果を得ることができるコンピュータ34を有している。このコンピュータ34は、さらに、センサ32によって測定された測定結果から係数セットpRおよびpQを決定することによって、オブザーバを自動的に較正することができる。
【0051】
図1に示す特定の場合には、コンピュータ34はメモリ20に接続されており、係数セットpRおよびpQを、このメモリ20に直接記録することができる。
【0052】
コンピュータ34は、情報記録媒体に記録されている命令を実行することができる、プログラム可能な電子計算機からなっている。コンピュータ34は、メモリ36に接続されている。また、このメモリ36は、図2の方法を実行するために必要な命令を記憶している。
【0053】
次に、図2の方法および図3のグラフを参照して、較正システム30の動作をより詳細に説明する。
【0054】
最初に、ステップ40において、状態変数xkに変数zkを関連付ける既知関数φが定められる。そのためには、例えば物理法則が用いられる。
【0055】
次に、ステップ42において、オブザーバ18を較正するために用いられる係数の数が決定される。そのために、位置特定システム6の物理的動作に関する知識が用いられる。さらに、このステップ42において、最節約原理が適用される。これによって、較正される係数の数が、可能な限り最大限に制限される。
【0056】
例えば本明細書において説明される特定の場合には、各測定軸上でなされる測定は互いに独立していると仮定される。したがって、行列Rは対角行列であるとすることができる。同様に、状態方程式における誤差は互いに独立していると仮定される。したがって、行列Qも対角行列であるとすることができる。したがって、行列RおよびQは、それぞれ数15、数16で表わされる。
【数15】

【数16】

これらの方程式において、
− 添え字iは、係数セットpRまたはpQの係数のインデックスを表わしており、
− lおよびnは、それぞれ行列RおよびQの次数である。
【0057】
さらに、行列RおよびQは正定値対称行列、すなわちどちらも、全ての固有値が正である対称行列である。これらの仮定に基づくと、行列RおよびQを、次のように表わすことができる。
【0058】
すなわち行列RおよびQは、R=XTXおよびQ=YTYで表わされる。ただし、行列XおよびYは対角行列である。行列RおよびQが、なんらかの不特定の行列である場合には、行列XおよびYは、より高次の三角行列になることに注意されたい。
【0059】
上述の仮定をなすことによって、ステップ42の最後に、決定されるべき係数ベクトルpは、次の関係式(数17)によって定められる。
【数17】

【0060】
ステップ44において、係数ベクトルpを決定するために最適な基準が選ばれる。そのために、係数ベクトルpを、次の関係式(数18)(以下、基準式と呼ぶ)によって与える。
【数18】

ここで、
− ||...||2は、ユークリッドノルム操作すなわちL2ノルム操作を表わし、
− 「min」は、関数f(p)を最小にする係数ベクトルpを見出す操作を表わし、
− Δは、関数f(p)を最小にする係数ベクトルpによって検証すべき制約セットである。
【0061】
基準式(10)内に存在する関数φは、上で導入された既知関数φと同じものである。この関数φは、次の関係式(数19)で示されているように、推定値(数1)から、変数zkの推定値(数4)を得るために用いられる。
【数19】

【0062】
関数φの独立変数を構成している推定値(数1)が、それ自体、係数ベクトルpの関数であるから、関数φも係数ベクトルpに依存することに注意されたい。このために、上述の関係式において、推定値(数1)および係数ベクトルpが、関数φの独立変数として指定されている。
【0063】
ステップ46において、係数ベクトルpによって満たされるべき制約セットΔが定められる。この制約セットΔには、推定値(数4)と変数zkとが互いに近似していなければならないということを命ずる少なくとも1つの制約が含まれている。より具体的には、この制約は、変数zkの軌跡が、少なくとも平均において、推定値(数4)の軌跡の両側に設けられている帯状の不確かさの領域48(図3)内に存在しなければならないということを命ずる。
【0064】
この不確かさの領域48は、推定値(数4)の軌跡の各側にそれぞれ設けられている各境界LminおよびLmaxによって区画されている。不確かさの領域は、不確かさを伴わずに推定値(数4)を知ることはできないという事実を反映している。この不確かさは、推定値(数4)を定めるために用いられる推定値(数1)に不確かさが存在するという事実から生じる。したがって、オブザーバ18を適切に較正するためには、ほとんどの測定時刻kにおいて、変数zkは、不確かさの領域48内に存在しなければならない。
【0065】
図3に示す特定の場合には、不確かさの領域48を区画している境界LmaxおよびLminは、それぞれ距離aおよびbだけ、推定値(数4)の軌跡から隔てられている。図3の場合には、これらの距離aおよびbは、全期間においてほぼ一定である。
【0066】
距離aおよびbは、推定値(数4)の不確かさの関数であることが好ましい。例えば距離aおよびbは、平均二乗偏差(数8)が大きいほど、より大きくなる。平均二乗偏差(数8)は、推定値(数4)の誤差の平均二乗偏差である。この場合には、制約セットΔには、例えば変数zkとその推定値(数4)との間の差の平均が、あらかじめ定められた閾値S1未満でなければならないことを命ずる制約が含まれる。この制約は、次の関係式(数20)によって表わすことができる。
【数20】

【0067】
閾値S1は、例えば次の関係式(数21)によって定められる。
【数21】

この関係式において、
− Nは、測定時刻kの回数であり、
− αは、例えば3に等しい定数である。
【0068】
基準式(10)を最小にする係数ベクトルpの各候補に対して、平均二乗偏差(数8)を特定することができる。さらに、係数ベクトルpが知られると、行列RおよびQも知られる。その行列RおよびQから、推定値(数1)の誤差の共分散行列Pk/kを計算することができる。この共分散行列Pk/kから、推定値(数1)に影響を及ぼす不確かさを特定することができる。この不確かさが知られると、推定値(数1)と推定値(数4)とを関連付ける関数φが知られるから、推定値(数4)の不確かさを特定することもできる。次いで、推定値(数4)の不確かさが、平均二乗偏差(数8)の形式で表わされる。
【0069】
ステップ46において、制約セットΔに、他の制約を定めてもよい。例えば係数セットpRおよびpQのうちのいくつかの係数の物理的意味に基づいて、これらの係数に制限を設けることができる。例えば磁界センサ10の測定ノイズに関する情報のいくつかが知られている場合には、これらのいくつかの情報に基づいて、係数セットpRおよびpQのうちのいくつかの係数がとることができる値を制限することができる。
【0070】
制約セットΔが定められると、ステップ50において、センサ32が、N回の相異なる測定時刻において、変数zkを測定する。測定時刻の回数Nは、通常、係数ベクトルpに含まれている、決定すべき係数の数より多い。
【0071】
変数zkが測定されると、それらは、コンピュータ34に与えられる。次に、ステップ52において、基準式(10)を最小にするために必要な各変数および係数が初期化される。例えば初期推定値(数22)の誤差の共分散を推定する初期行列P0/0は、次の関係式(数23)によって定められる。
【数22】

【数23】

ここで、
− Iは恒等行列(単位行列)であり、
− λは定数である。
【0072】
定数λは、初期推定値(数22)の設定の際に認識される確かさに応じて調整される。
【0073】
1よりも相当大きい定数λを選択するということは、初期推定値(数22)の不確かさが非常に大きいということを意味する。
【0074】
本明細書においては、初期推定値(数22)、および係数ベクトルp内の各係数の初期値は、任意に設定される。
【0075】
次に、基準式(10)を最小にする係数ベクトルpを特定するために、ステップ54が実行される。このステップ54において、基準式(10)を最小にする係数ベクトルpが見出されるとともに、制約セットΔの制約が満足されるまで、係数ベクトルpの値が変更される。このステップ54は、制約下での最適化ツールを用いて行なわれる。このような制約下での最適化ツールは公知である。具体的には、このような制約下での最適化ツールは、例えばとりわけデジタル計算のための開発環境である「MATLAB」(米国MathWorks社開発の数値計算用ソフトウェアの商標名)において利用可能な「Fmincon」関数(制約下での最小値を求める関数)である。
【0076】
基準式(10)を最小にする係数ベクトルpが特定されると、ステップ56において、この係数ベクトルpの係数の値が、オブザーバ18の行列RおよびQの係数を較正するために用いられる。例えばこのステップ56中に、これらの係数の値が複製されて、メモリ20に記録される。
【0077】
次に、ステップ58において、位置特定システム6が、磁界センサ10によってなされた測定から物体4の座標位置および方向を特定するために、較正システム30によって特定された係数を用いる。
【0078】
多くの他の実施形態が可能である。例えば同じ物理システムおよび同じオブザーバにおいて、オブザーバを較正するために特定しなければならない、このオブザーバの係数の数に関して、異なる選択をなすことが可能である。例えば対角行列RまたはQの各係数が全て、同一の1つの係数に比例しなければならないということを必要条件とすることによって、係数の数を、さらに減少させてもよい。反対に、行列QおよびRが対角行列ではなく、単に正定値対称行列である場合に、上述の方法を適用することもできる。しかしながら、この仮定によれば、較正システム30が特定しなければならない係数の数は増加する。
【0079】
基準式(10)において、ユークリッドノルムを、別のノルムで置き換えることができる。
【0080】
上述の制約以外の制約を用いることも可能である。例えば変数zkは、各測定時刻kにおいて、不確かさの領域48の内部に系統的に、すなわち常に存在しなければならないということを必要条件とすることが可能である。この制約は、変数zkが、平均として、不確かさの領域48の内部に存在しなければならないということしか必要条件としていない、図3を参照して説明した制約より強化されている。
【0081】
各測定時刻において、相異なる制約セットを用いることも可能である。例えばセットLに属するいくつかの測定時刻において、変数zkの測定値の不確かさが非常に低い場合には、これらの測定時刻において、より強化された制約を用いることが可能である。例えば測定時刻kがセットLに属している場合に、測定時刻kにおける変数zkは、常に、より限定された、不確かさの領域の内部に存在しなければならないということを必要条件とすることが可能である。セットLに属していない測定時刻においては、用いられる制約は、より緩和される。すなわち、例えば平均として、変数zkが不確かさの領域48の内部に存在しなければならないということしか必要条件とされない。測定時刻kがセットLに属しているときの制約を定めるために用いられる不確かさの領域は、測定時刻kがセットLに属していないときの制約を定めるために用いられる不確かさの領域と、必ずしも同一ではない。
【0082】
変数zkが、推定値(数4)の軌跡の不確かさの領域の内部に存在しなければならないということを必要条件とする制約以外のさらなる制約を用いてもよい。例えば連続する2つの測定時刻間の推定値(数4)の変化が少なくなければならないということを命ずる制約を定めることが可能である。
【0083】
基準式(10)の最適初期設定のために、上述の選択以外の選択を用いることが可能である。例えば初期状態変数x0の値が知られている場合には、この値が、初期状態変数x0の初期化のために用いられ、行列P0の係数が、この値の確かさに応じて設定される。
【0084】
オブザーバによる観察以外の手段で、推定値(数4)の不確かさを得てもよい。例えば実験的に、またはオブザーバ18を定めている連立方程式以外の連立方程式に基づいて、この不確かさを特定してもよい。
【0085】
測定される変数zkと測定値ykとが一致していてもよい。この場合には、センサ32のような追加のセンサを使用する必要はない。
【0086】
上述の較正方法は、拡張カルマンフィルタ、アンセンテッドカルマンフィルタ(UKF)、またはパラメータが設定される任意の他の再帰型フィルタにも適用される。より一般的には、係数を前もって決定しておかなければならない、状態変数のいかなるオブザーバを較正するためにも、上述の較正方法を用いることができる。したがって、上述の較正方法によって特定される係数は、共分散行列の係数に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明が、特定の応用に関連付けて説明されている。しかしながら、本発明は、このような応用に限定されない。例えば物理システムが、海面と海底との間の距離すなわち海の深さを与える測定結果を得ることを可能にしている海底探査において測定結果を得るという応用などの他の応用に、本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0088】
4 物体
6 位置特定システム
8 基準系
10 磁界センサ
12 処理ユニット
14〜16 磁界放射源
18 オブザーバ
20、36 メモリ
30 較正システム
32 センサ
34 コンピュータ
48 不確かさの領域
max、Lmin 境界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
添え字kが測定時刻を識別する添え字であるとして、物理システムの物理量の測定値ykから、この物理システムの状態変数xkのオブザーバの係数を較正する方法であって、該方法は、
− 前記状態変数xkの関数である、前記物理システムの変数zkを、相異なるN個の測定時刻において測定するステップ(50)と、
− あらかじめ定められた制約セットΔを満たしながら、次の基準式(数1)
【数1】

を最小にする係数ベクトルpを特定するステップ(54)とを含み、
・ 数2は、測定時刻kにおいて前記係数ベクトルpの係数で較正された前記オブザーバによって定められる、前記状態変数xkの推定値であり、
・ 数3は、前記変数zkの推定値(数4)に、前記状態変数xkの推定値(数2)をリンクさせる既知関数であり、
・ 数5は、前記変数zkと前記既知関数(数3)との間の差のノルムであり、
・ 前記制約セットΔの1つまたは複数の制約は、前記変数zkの軌跡が、測定時刻kの少なくとも大部分において、前記変数zkの推定値(数4)の軌跡の両側に配置された、帯状の不確かさの領域の内部に存在しなければならないということを命ずることを特徴とする方法。
【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【請求項2】
aおよびbが、あらかじめ定められた正の定数であるとして、前記制約セットΔに、前記変数zkが数6と数7との間に存在しなければならないということを命ずる制約が含まれている、請求項1に記載の方法。
【数6】

【数7】

【請求項3】
前記定数aおよびbは、前記変数zkの推定値(数4)の不確かさを表わす平均二乗偏差(数8)に比例する、請求項2に記載の方法。
【数8】

【請求項4】
前記制約セットΔに、前記変数zkと、その推定値(数4)との間の差の平均が、あらかじめ定められた閾値S1未満でなければならないということを命ずる制約が含まれている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記閾値S1は、前記変数zkの推定値(数4)の不確かさの関数である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記オブザーバはカルマンフィルタ、拡張カルマンフィルタ、またはアンセンテッドカルマンフィルタであり、較正される係数は、これらのフィルタの共分散行列RおよびQの係数である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記共分散行列RおよびQは、対角行列であるように選ばれる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
プログラム可能な電子計算機によって実行されたときに、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法を遂行するための命令を備えていることを特徴とする情報記録媒体(36)。
【請求項9】
添え字kが測定時刻を識別する添え字であるとして、物理システムの物理量の測定値ykから、該物理システムの状態変数xkのオブザーバの係数を較正するシステムであって、該システムは、
− 前記状態変数xkの関数である、前記物理システムの変数zkを、相異なるN個の測定時刻において測定することができる少なくとも1つのセンサ(32)と、
− あらかじめ定められた制約セットΔを満たしながら、次の基準式(数1)
【数1】

を最小にする係数ベクトルpを特定することができるコンピュータ(34)とを
備えており、
・ 数2は、測定時刻kにおいて前記係数ベクトルpの係数で較正された前記オブザーバによって定められる、前記状態変数xkの推定値であり、
・ 数3は、前記変数zkの推定値(数4)に、前記状態変数xkの推定値(数2)をリンクさせる既知関数であり、
・ 数5は、前記変数zkと前記既知関数(数3)との間の差のノルムであり、
・ 前記制約セットΔの1つまたは複数の制約は、前記変数zkの軌跡が、測定時刻kの少なくとも大部分において、前記変数zkの推定値(数4)の軌跡の両側に配置された、帯状の不確かさの領域の内部に存在しなければならないということを命ずることを特徴とするシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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