説明

輸液システム及び輸液システムの制御方法

【課題】安価に輸液バックの交換時期を検知し、交換の際に輸液バック内の残留液をなくすとともに、患者体内に気泡が混入するのを防止できる輸液システムを提供する。
【解決手段】輸液システム1は、輸液バック20と、輸液バック20に接続され、輸液バック20の輸液を血液浄化回路10に供給するためのチューブ21と、チューブ21の途中に設けられた気液分離チャンバ22と、輸液バック20の輸液をチューブ21を通じて血液浄化回路10に送液する輸液ポンプ23と、チューブ21が接続された輸液バック2の重量を計測する重量計24と、重量計24による計測重量に基づいて、輸液バック20が空になってから輸液の液面が気液分離チャンバ22の底部22aに達するまでの間に輸液ポンプ23を停止させる制御装置25と、を有する。気液分離チャンバ22は、重量計24により計測されないように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液浄化療法では、抗凝固液や補充液などの輸液が血液浄化回路に供給される。輸液は、輸液バックに貯留されており、輸液バックには、血液浄化回路に通じたチューブが接続されている。チューブには、輸液ポンプが設けられている。治療中は、輸液ポンプの稼働により、輸液バックの輸液がチューブを通じて血液浄化回路に送られている。
【0003】
治療中に輸液バック内の輸液が少なくなると、輸液バックを交換する必要がある。特に、血液浄化療法の例えば持続緩徐式血液濾過(CRRT)では、治療中に輸液バックを頻繁に交換する必要がある。例えば、輸液が抗凝固剤であるクエン酸ナトリウムの場合には1Lの輸液バックを1日4本、輸液が補充液の場合には、5Lの輸液バックを1日10本交換する。
【0004】
治療中に輸液バック内の輸液がなくなり、輸液バックの気体がチューブを通じて血液浄化回路に達すると、患者体内に気泡が混入されてしまう。このため、当該気泡が患者体内に混入されないように輸液バックの交換時期を検知し輸液ポンプを停止する必要がある。
【0005】
そこで、例えば輸液バックの下流に気泡を検知する液切れ検知器を設け、当該液切れ検知器により輸液バックの液切れを検出することが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この場合、液切れ検知器が高価であるため、輸液システムの設備コストが上がってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4210348号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、輸液バックの交換時期を検知する別の方法として、患者への輸液量を把握するために設けられた輸液バックの重量計を用いることが考えられる。この場合、既存の重量計により輸液バックの重量を計測し、当該計測重量の減少から輸液バックの交換時期を検知できる。よって、上述の液切れ検知器を設ける場合に比べて設備コストを抑えることができる。しかしながら、重量計による計測重量は、チューブの振動などにより測定誤差が大きいため、当該誤差を考慮に入れ、患者に気泡が注入されないように輸液バックの残留量に余裕を持たせて交換時期を検知する必要がある。このため、この方法を高価な輸液を用いる場合に採用することは難しい。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、安価に輸液バックの交換時期を検知し、交換の際に輸液バック内の残留液をなくすとともに、患者体内に気泡が混入するのを防止できる輸液システム及びその制御方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、血液浄化回路に輸液を行う輸液システムであって、輸液バックと、前記輸液バックに接続され、前記輸液バックの輸液を前記血液浄化回路に供給するためのチューブと、前記チューブの途中に設けられた気液分離チャンバと、前記輸液バックの輸液を前記チューブを通じて前記血液浄化回路に送液する輸液ポンプと、前記チューブに接続された輸液バックの重量を計測する重量計と、前記重量計による計測重量に基づいて、前記輸液バックが空になってから前記輸液の液面が前記気液分離チャンバの底部に達するまでの間に前記輸液ポンプを停止させる制御装置と、を有し、前記気液分離チャンバは、前記重量計により計測されないように設けられている。
【0010】
本発明によれば、液切れ検知器を用いずに、重量計を用いるので、安価に輸液バックの交換時期を検知できる。また、気液分離チャンバが重量計により計測されないように設けられているので、気液分離チャンバの振動などの気液分離チャンバに起因する重量計の計量誤差がなくなる。また、チューブに気液分離チャンバが設けられているので、輸液バックが空になってから輸液の液面が気液分離チャンバの下流側に達するまでの時間が確保される。そして、制御装置により、重量計による計測重量に基づいて、輸液バックが空になってから輸液の液面が気液分離チャンバの底部に達するまでの間に輸液ポンプを停止させるので、気泡が気液分離チャンバより下流側に入り込むことを防止できる。したがって、安価に輸液バックの交換時期を検知し、交換の際に輸液バック内の残留液をなくすとともに、患者体内に気泡が混入するのを防止できる。
【0011】
前記制御装置は、前記重量計による計測重量に変化がなくなってから所定時間経過後に前記輸液ポンプを停止させるようにしてもよい。
【0012】
別の観点による本発明は、血液浄化回路に輸液を行う輸液システムの制御方法であって、輸液ポンプにより、輸液バックの輸液を、途中に気液分離チャンバが接続されたチューブを通じて血液浄化回路に送出するステップと、輸液の送出中に重量計により、前記気液分離チャンバを計測しないように前記輸液バックの重量を計測するステップと、前記重量計による計測重量に基づいて、前記輸液バックが空になってから前記輸液の液面が前記気液分離チャンバの底部に達するまでの間に前記輸液ポンプを停止するステップと、を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、重量計を用いて安価に輸液バックの交換時期を検知し、交換の際に輸液バック内の残留液をなくすとともに、患者体内に気泡が混入されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】輸液システムと血液浄化回路の構成の概略を示す説明図である。
【図2】重量計の計測重量の時間変化の一例を示すグラフである。
【図3】新しい輸液バックが接続された際にチューブ内に残る気体を示す説明図である。
【図4】気体排出流路を有する気液分離チャンバの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る輸液システム1の構成の概略を示す説明図である。
【0016】
図1に示すように輸液システム1は、血液浄化回路10に輸液を行うものである。輸液システム1は、例えば輸液バック20と、輸液バック20の輸液を血液浄化回路10に供給するためのチューブ21と、チューブ21の途中に設けられた気液分離チャンバ22と、輸液バック20の輸液をチューブ21を通じて血液浄化回路10に送液する輸液ポンプ23と、チューブ21が接続された輸液バック20の重量を計測する重量計24と、制御装置25等を有している。
【0017】
輸液バック20には、血液の抗凝固液、補充液などの所定量の輸液が貯留されている。チューブ21には、例えば軟質のチューブが用いられている。チューブ21は、一端が輸液バック20に接続され、他端が血液浄化回路10に接続されている。輸液バック20は、チューブ21に対し脱着自在である。気液分離チャンバ22は、チューブ21より径が大きく一定量の輸液を滞留できる。
【0018】
輸液ポンプ23は、例えばチューブポンプであり、チューブ21を挟み扱いて輸液を血液浄化回路10側に圧送できる。輸液ポンプ23は、気液分離チャンバ22よりも下流側に設けられている。
【0019】
重量計24は、輸液バック20を吊下げ、そのときの加重を経時的に計測できる。この重量計24により、チューブ21が接続された輸液バック20の重量を計測できる。より詳細には、重量計24に荷重がかかる領域、例えば輸液バック20と、当該輸液バック20に接続されているチューブ21の上流部の重量を計測できる。気液分離チャンバ22は、重量計24により計測されないように別の支持部に支持されている。
【0020】
重量計24による計測重量情報は、制御装置25に出力される。制御装置25は、輸液ポンプ23等の動作を制御でき、重量計24による計測重量情報に基づいて、輸液バック20が空になってから輸液の液面が気液分離チャンバ22の底部22aに達するまでの間に輸液ポンプ23を停止させることができる。具体的には、例えば制御装置25は、重量計24による計測重量に変化がなくなってから所定時間経過後に輸液ポンプ23を停止させることができる。なお、制御装置25は、例えば汎用のコンピュータであり、記憶部、演算部、表示部等を有し、記憶部に記憶されているプログラムを演算部で実行することにより上記動作を行うことができる。
【0021】
血液浄化回路10は、例えば血液を浄化する血液浄化器30と、動脈穿刺針31から血液浄化器30に血液を供給するための血液供給流路32と、血液浄化器30から静脈穿刺針33に血液を返送するための血液返送流路34と、血液供給流路32上に設けられ、血液を血液浄化器30に送出する血液ポンプ35等を有している。チューブ21は、例えば血液浄化回路10の血液ポンプ35の上流側に接続されている。
【0022】
次に、輸液システム1の制御方法について説明する。先ず、例えば血液浄化回路10において血液浄化処理が行われている際に、輸液ポンプ23が作動し、輸液バック20の輸液がチューブ21を通じて血液浄化回路10に送出される。この輸液の送出中、重量計24により、輸液バック20の重量が経時的(連続的)に計測される。このときの計測重量には、気液分離チャンバ22の重量は含まれない。計測重量の情報は、制御装置25に出力される。
【0023】
重量計24による計測重量は、輸液バック20の輸液が減少していくため、図2に示すように次第に減少していく。そして、輸液バック20が空になり、輸液の液面が、チューブ21内の、重量計24で計測されない領域(重量計24に荷重がかからない領域)に到達すると、計測重量の変化がなくなる。制御装置25は、この計測重量の変化がなくなった時を検出し、この時から、予め定められた所定時間T経過後に輸液ポンプ23を停止する。これにより、輸液バック20が空になってから、輸液の液面が気液分離チャンバ22の底部22aに到達するまでの間に輸液が止められる。
【0024】
なお、所定時間Tは、輸液バック20が空になってから輸液の液面が気液分離チャンバ22の底部22aに到達するまでの予想到達時間Taを算出し、当該予想到達時間Taと同じかそれより短い値に設定される。予想到達時間Taは、例えば輸液ポンプ23の流量、チューブ21の内径、気液分離チャンバ22の容量などから求められる。
【0025】
例えば所定時間Tを予想到達時間Taと同じ若しくは予想到達時間Taに近い値(T≒Ta)に設定した場合、気液分離チャンバ22内、或いは底部22aに達する直前で輸液の液面を止めることができる。また、例えば所定時間Tを零若しくは零に近い値(T≒0)に設定した場合、輸液バック20の末端、或いは輸液バック20の近傍のチューブ21内で輸液の液面を止めることができる。
【0026】
輸液ポンプ23が停止された後、輸液バック20がチューブ21から取り外され、輸液が満たされた新しい輸液バック20に交換される。
【0027】
本実施の形態によれば、液切れ検知器を用いずに、重量計24を用いるので、安価に輸液バック20の交換時期を検知できる。また、気液分離チャンバ22が重量計24により計測されないように設けられているので、例えば輸液ポンプ23の稼働や、医療従事者の接触により気液分離チャンバ22に振動等が生じた場合であっても重量計24の計量誤差がなくなる。また、チューブ21に気液分離チャンバ22が設けられているので、輸液バック20が空になってから輸液の液面が気液分離チャンバ22の下流側に到達するまでの時間が確保される。そして、制御装置25により、重量計24による計測重量に基づいて、輸液バック20が空になってから輸液の液面が気液分離チャンバ22の底部22aに達するまでの間に輸液ポンプ23を停止させるので、気体が気液分離チャンバ22より下流側に入り込むことを防止できる。したがって、安価に輸液バック20の交換時期を検知し、交換の際に輸液バック20内の残留液をなくすとともに、患者体内に気泡が混入するのを防止できる。
【0028】
また、制御装置25は、重量計24による計測重量に変化がなくなってから所定時間T経過後に輸液ポンプ23を停止させるので、簡単かつ確実に、輸液バック20が空になってから輸液の液面が気液分離チャンバ22の底部22aに達するまでの間に輸液ポンプ23を停止することができる。
【0029】
ところで、図3に示すように新しい輸液バック20がチューブ21に接続されたときには、輸液バック20と気液分離チャンバ22との間のチューブ21内に気体Aが残る。この気体Aは、例えば気液分離チャンバ22を押すことにより、チューブ21を通じて輸液バック20内に排出できる。上記所定時間Tを零若しくは零に近い値に設定した場合、液面が輸液バック20に近く、チューブ21内の気体Aの量が少なくなるため、気体Aの排出作業を簡単に行うことができる。
【0030】
また、気液分離チャンバ22は、図4に示すように気体排出流路40を有するものであってもよい。かかる場合、新しい輸液バック20がチューブ21に接続されたときに、チューブ21内に残留する気体Aは、例えば、輸液バック20との落差圧を利用し、気体排出流路40から排出することができる。例えば所定時間Tを予想到達時間Taかそれに近い値に設定した場合、液面が気液分離チャンバ22の底部22aに近く、チューブ21内の気体Aの量が多くなるが、この場合であっても気体排出流路40から気体Aを簡単に排出できる。
【0031】
また所定時間Tを予想到達時間Taかそれに近い値に設定した場合、液面が気液分離チャンバ22の底部22aに近く、前回の輸液バック20の輸液のチューブ21内の残留量が少なくなるので、輸液バック20内の輸液をより有効に使い切ることができる。
【0032】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0033】
例えば以上の実施の形態で記載した輸液は、抗凝固液や補充液、透析液などが挙げられるが特に限定されるものではない。また、輸液の種類等によって血液浄化回路10に対するチューブ21の接続位置も適宜設定できる。重量計24は、輸液バック20を吊下げるものでなくてもよく、輸液バック20を載せるものであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 輸液システム
10 血液浄化回路
20 輸液バック
21 チューブ
22 気液分離チャンバ
22a 底部
23 輸液ポンプ
24 重量計
25 制御装置
30 血液浄化器
31 動脈穿刺針
32 血液供給流路
33 静脈穿刺針
34 血液返送流路
35 血液ポンプ
40 気体排出流路
A 気体
T 所定時間
Ta 予想到達時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化回路に輸液を行う輸液システムであって、
輸液バックと、
前記輸液バックに接続され、前記輸液バックの輸液を前記血液浄化回路に供給するためのチューブと、
前記チューブの途中に設けられた気液分離チャンバと、
前記輸液バックの輸液を前記チューブを通じて前記血液浄化回路に送液する輸液ポンプと、
前記チューブが接続された輸液バックの重量を計測する重量計と、
前記重量計による計測重量に基づいて、前記輸液バックが空になってから前記輸液の液面が前記気液分離チャンバの底部に達するまでの間に前記輸液ポンプを停止させる制御装置と、を有し、
前記気液分離チャンバは、前記重量計により計測されないように設けられている、輸液システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記重量計による計測重量に変化がなくなってから所定時間経過後に前記輸液ポンプを停止させる、請求項1に記載の輸液システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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