説明

輸液ポンプ

【課題】幅広い薬液の注入速度の設定範囲で、精度良く薬液を送ることができ、電力を低減することができる輸液ポンプを提供する。
【解決手段】輸液ポンプ10は、輸液送り部31を回転させるモータMと、新たに設定された薬液の注入速度に応じたモータMの回転速度に対応する電源電圧VSを発生する電源電圧供給部380と、新たに設定された薬液の注入速度の大きさに対応するモータMの回転速度の増加に応じて、電源電圧供給部380が発生する電源電圧の値を切り換えて増加させる制御部100を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池を電源として患者に薬液を注入するための携帯型の輸液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、患者に薬液を投入するために使用する医療機器としては、例えば輸液ポンプが知られており、この輸液ポンプは、患者に対して時間当たり薬液を決められた量だけ長時間かけて注入するのに広く使用されている。このような輸液ポンプのうち、例えば、医療機関だけでなく、一般の家庭において在宅でも使用できるようにコンパクトに形成した携帯型の輸液ポンプが知られている(特許文献1参照)。特許文献1の携帯型の輸液ポンプは、外部から導入される薬液を通す可撓性の輸液チューブを着脱式のカセットに導く構成とされている。
【0003】
具体的には、該着脱式のカセットのケース内に可撓性の輸液チューブ(以下、「チューブ」と言う。)を導入し、このケースから一部露出させたチューブに対して、回転ローラを押しつけることにより、輸液チューブに蠕動様運動を与えて、輸液チューブから薬液を所定の流速(mL/h)で注液を行なうようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平11−506355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した在宅で使用する携帯型の輸液ポンプでは、電池ボックスに装着された電池から主に電力供給してモータを駆動して回転ローラを回転して、この回転ローラがチューブに蠕動様運動を与えてチューブから患者に対して薬液を注液するようになっている。
ところで、携帯の輸液ポンプでは、モータに対して固定された単一の駆動電圧値を供給してモータを駆動しているので、薬液の注入速度(mL/h)を幅広い範囲に渡って設定できるようにすると便利である。
しかし、設定注入速度を幅広くすると、次のような問題がある。
【0006】
すなわち、例えば7Vの駆動電圧をモータに供給する場合には、モータの出力軸を低回転で回転させると回転精度が出せない。一方、例えば3Vの駆動電圧をモータに供給する場合には、モータの出力軸を高回転で回転させると回転精度が出せない。また、中間の値である5Vの駆動電圧をモータに供給する場合には、高回転と低回転で比較的回転精度が出やすいが、高回転と低回転での消費電力の差が大きくなってしまう。
このように、モータに対して単一の駆動電圧を供給すると、モータの回転精度が出にくく薬液を送る際の注入速度の精度が低下し、モータが消費する電力が多くなってしまい、電池交換回数が増えるおそれがある。
そこで、本発明は、幅広い薬液の注入速度の設定範囲で、精度良く薬液を送ることができ、電力を低減することができる輸液ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の輸液ポンプは、電池を電源とし、薬液を送るための輸液送り部を有する輸液ポンプであって、前記輸液送り部を回転させるモータと、新たに設定された前記薬液の注入速度に応じた前記モータの回転速度に対応する電源電圧を発生する電源電圧供給部と、前記新たに設定された前記薬液の注入速度に対応する前記モータの回転速度の増加に応じて、前記電源電圧供給部が発生する前記電源電圧の値を切り換えて増加させる制御部とを有することを特徴とする。
上記構成によれば、幅広い薬液の注入速度の設定範囲で、精度良く薬液を送ることができ、電力を低減することができる。すなわち、輸液ポンプの制御部が、薬液の設定注入速度を確保するためにモータの回転速度を増加させる必要があるのに応じて、電源電圧供給部からモータへ供給する電源電圧の値を適切に切り換えて増加させることができるので、薬液は幅広い薬液の注入速度の設定可能な範囲で、送り精度良く薬液を送ることができ、薬液を送る際の電力を低減することができる。
【0008】
好ましくは、前記薬液の設定注入速度の範囲が予め複数個設定されており、新たに設定された前記薬液の注入速度が、どの前記薬液の設定注入速度の範囲内に入るかで、前記制御部は、前記新たに設定された前記薬液の注入速度が入る前記薬液の設定流量の範囲に対応する前記電源電圧の値に切り換えることを特徴とする。
上記構成によれば、新たに設定された薬液の注入速度は、いずれかの薬液の設定範囲内で設定することで、モータは適切な電源電圧で駆動して薬液を送液できる。
好ましくは、前記制御部は、前記モータを回転させて前記モータ固有の情報を取得することを特徴とする。
上記構成によれば、制御部はモータをより精度良く回転させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、5〜300mL/hの注入速度の設定範囲で、少なくとも24時間以上に亙って、設定された注入速度に応じてモータの回転を精度よく制御でき、薬液を精度よく送液することができ、電力を低減することができる携帯型輸液ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の輸液ポンプの好ましい実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】図1の輸液ポンプのカセット収納部のカバーを開いた様子を示す概略正面図である。
【図3】図1の輸液ポンプのカセット収納部のカバーを開いて、カセットを収納する様子を示す概略斜視図である。
【図4】輸液ポンプの電気的な構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示すモータMの所望の回転速度によって、モータMに対する電源電圧を切り換えるための電源電圧供給部と、その周辺の要素を示す図である。
【図6】薬液の設定注入速度(薬液の設定可能範囲)の具体的な範囲例(1)〜(5)について、電源電圧VS(図5の電源電圧VS)と、モータMの回転速度(図5のモータ駆動パルスDP)の具体的な関係例テーブルTBを示す図である。
【図7】図1の輸液ポンプ10において、新しい薬液の注入速度を設定してから、薬液の送液をスタートするまでの動作例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
図1は、本発明の輸液ポンプの好ましい実施形態を示す概略斜視図である。図2は、図1の輸液ポンプのカセット収納部のカバーを開いた様子を示す概略正面図である。図3は、図1の輸液ポンプのカセット収納部のカバーを開いて、カセットを収納する様子を示す概略斜視図である。
図1から図3に示す輸液ポンプ10は、例えば、略矩形の本体(筐体)11を有している。本体11は、前筐体49と後筐体44を有する。本体11は、輸液ポンプ10の構成物を収納するためのケースであり、好ましくは、耐薬品性、耐衝撃性を有する熱可塑性合成樹脂、例えばハイインパクトスチロールやABS樹脂で形成されている。
【0012】
図1に示すように、本体11は、本体11の上面側のほぼ半分程度の面積を閉めるように、開閉可能なカバー12を有しており、該カバー12を、ヒンジ13を中心として回動可能として開閉できる。カバー12は、図示しない付勢手段、例えば、ヒンジ13の軸周りにトーションコイル等を配設することにより、図2と図3に示すように、常時開方向に付勢されている。カバー12を閉じて押し込むことにより、カバー12は本体11側の図示しないラッチ等に係合されるようになっており、本体11の側部外縁に突出する解除ボタン16,16を、矢印方向に手指にて押し込むことにより、該ラッチ等が解除されてカバー12を開けることができる。
【0013】
図1の前筐体49における符号17は、開始停止スイッチであり、この開始停止スイッチ17は、図1において横方向に「停止−開始」のスライド操作をすることができる。符号18は液晶表示装置等で形成した表示部であり、運転状態や報知情報等を表示するようになっている。これらの他に、本体11は、図示しないモード選択スイッチ等を備えることができる。
【0014】
前筐体49には、発光ダイオードランプのような点灯表示部LPが、表示部18の付近に配置されている。この点灯表示部LPは、例えば点滅することにより警報内容を、例えば患者あるいは周囲の家族の人に目視で報知するようになっている。
また、前筐体49の背面には、内蔵されたブザー88とスピーカ89からの音が使用者に聞き取れるように放音孔310が配置されている。ブザー88は警報内容を警報音で報知でき、スピーカ89は警報内容を鳴動することで音声で報知する機能を有する。
【0015】
図2と図3に示すように、本体11からカバー12を開くと、カセット収納部15が露出するようになっている。カセット収納部15は、本体11の厚みの約半分程度の寸法で形成された空間であり、この空間であるカセット収納部15には、図3に示すように、輸液輸液チューブ21を引きこみかつ導出するためのカセット20を着脱可能にセットすることができるようになっている。
本体11のカセット収納部15内には、図1に示すモータMとギアボックス31Gが配置されている。また、カセット収納部15上には、輸液送り部としてのロータユニット31と、閉塞検出部83が配置されている。このモータMの出力軸からの駆動力が、ロータユニット31に対して伝達されることにより、ロータユニット31が軸Lを中心にして回転する。このモータMとしては、例えば好ましくはブラシレスDCモータを用いることができる。
【0016】
図2に示すように、このロータユニット31の外周には、例えば、4か所以上の図示例では5つの回転ローラであるチューブ押圧部31Rが設けられており、ロータユニット31のチューブ押圧部31Rが図2の矢印方向の回転することにより、順次図3に示す可撓性を有する輸液チューブ21を順次押圧して、輸液チューブ21に対して蠕動様運動を付与することができる。このロータユニット31は、外部から薬液を導入するための輸液チューブ21に対して圧接し、この輸液チューブ21に対して蠕動様運動をさせて、薬液を送出するための輸液送り部の一例である。
【0017】
図3に示すように、カセット20がカセット収納部15内に収納された状態では、閉塞プランジャ99は、図1と図2に示す付勢部材133の力に抗してD方向に押されることで、例えば図2に示すスイッチ134がオンとなり、このスイッチ134のオン信号は制御部100に通知されるようになっている。すなわち、閉塞検出部83は、輸液チューブ21内が閉塞されて輸液チューブ21の直径が大きくなったことを検出することで、薬液が輸液チューブ21内に通過していないことを制御部100に通知することができる。
【0018】
図2に示すように、カセット収納部15には、このロータユニット31の付近の上方位置に、第1のスライダ32と、該第1のスライダ32に隣接して第2のスライダ33が配置されている。第1のスライダ32と第2のスライダ33はそれぞれ係止片を備えており、これら係止片は、付勢手段により常時矢印C方向に付勢されている。しかも、第1のスライダ32と第2のスライダ33のそれぞれ係止片は、後述するカセット20がカセット収納部15にセットされる際に矢印D方向に移動されて、カセット20を保持するとともに、該カセット20に内蔵された可撓性の輸液チューブ21をロータユニット31に対して押圧することができる。図2において、第2のスライダ33の右方の下側には、カセット20をカセット収納部15に配置する際の目印となる傾斜部34aを有するマーク34と、該マーク34の下方にはカセット20を装着する際のストッパとして機能する突起部35が設けられている。
【0019】
図3を参照して、カセット20の構造例を説明する。
カセット20は、合成樹脂で形成された図示のような横長のケース体である。輸液チューブ21の一部分は、カセット20内に収納されており、輸液チューブ21は該ケース体の外縁に沿って矢印F方向から導入され、カセット20の右端部でほぼU字状に曲折され、そして矢印E方向に導出されている可撓性のチューブ(輸液チューブともいう。)である。該輸液チューブ21に対しては、薬液が外部から矢印F方向に導入され、矢印E方向に導出され、輸液チューブ21の該矢印E方向の延長には留置針が接続されており、輸液チューブ21内の薬液がこの留置針を通じて患者の静脈から輸液される。輸液チューブ21は、輸液管路(あるいは薬液管路ともいう)の一例である。
【0020】
図3に示すように、輸液チューブ21内の輸液の移動を目視できるように、カバー12とカセット20は好ましくは透明部材で作られている。なお、カバー12には切欠き部19が設けられており、該切欠き部19から輸液チューブ21がカバー12の外部に導出されるようになっている。
また、図3に示すように、カセット20の下部の一端寄りには露出部24が形成されており、該露出部24はカセット20の一部を切欠き、輸液チューブ21の一部を外部に露出させている。この輸液チューブ21の露出部24には、ロータユニット31のチューブ押圧部31R(図2を参照)が押圧されることで、図3に示すように蠕動様運動が輸液チューブ21に付与されるようになっている。
【0021】
図3のカセット20のほぼ中央部には、横に並んで2つの係合用スリット22,23が形成されており、これらスリット22,23は、Z方向に沿ってカセット20のケース体を貫通している。
スリット22,23には、図2で説明した第1のスライダ32と第2のスライダ33がそれぞれ入り込むようになっている。そして、図3に示すように、カバー12を矢印A方向に閉じた際には、ヒンジ13よりも該カバー12の内側に設けられた当接部14がカセット20を押すことにより、該カセット20がカセット収納部15において矢印B方向に移動される。
このカセット20の矢印B方向への移動により、各係合用スリット22,23に入り込んだ第1のスライダ32と第2のスライダ33の付勢方向(図2の矢印C方向)に働く付勢力に抗して、第1のスライダ32と第2のスライダ33を矢印D方向に移動させることができる。これにより、カセット20は、カバー12を閉止した状態においては、カバー12の当接部14と第1のスライダ32と第2のスライダ33に挟まれて固定されるとともに、輸液チューブ21はロータユニット31側に押圧されている。
【0022】
図3に示すカセット20には、縦スリット25a及び横スリット25bを有する逆L字状の規制用スリット25が形成されている。縦スリット25aにはストッパ26が収納されており、そのストッパ26の先端の当接部は付勢手段26aにより矢印C方向に常時押圧されており、カセット20内の図示しない箇所で、輸液チューブ21の一部を押し潰して輸液チューブ21内の輸液の流れを止めている。横スリット25bには、スライダ29が配置されている。
【0023】
図3のように、本体11のカセット収納部15内にカセット20を収納してカバー12を閉じると、カセット20の横スリット25bのスライダ29が、ストッパ26を付勢手段26aの力に抗して矢印D方向に押し込むことにより、ストッパ26の先端部は輸液チューブ21から離れる。これにより、輸液チューブ21は開放されて輸液チューブ21内の輸液の流れ止めは解除でき、輸液チューブ21には輸液を導入でき、ロータユニット31のチューブ押圧部31Rの動きにより患者に対して輸液チューブ21を通じて薬液を送液できる。
この時、送液される設定注入速度の設定可能範囲は、例えば5mL/h〜300mL/hであるが、300mL/hを超えた設定注入速度をも設定することができる。
【0024】
次に、図4を参照して、上述した輸液ポンプ10の電気的な構成を説明する。図4は、輸液ポンプ10の電気的な構成を示すブロック図である。
図4に示すブロック図では、本体11の前筐体49と後筐体44と、カバー12を示しており、カバー12側にはカセット20とこのカセット20の輸液チューブ21が配置されている。後筐体44には、ジャック78と電源回路80が配置されている。
ジャック78と電池Bが電源回路80に対して電気的に接続されている。ジャック78は、電源コネクタ127を介して、例えば100Vの商用交流電源128に接続可能である。電源コネクタ127は、100Vの交流電源を所定の直流電圧に変換して電源回路80に供給することができる。
図4に示す電池(乾電池もしくは充電池)Bが、後筐体44の電池ボックス内に着脱可能に配置される。この電池Bは、制御部100の他に、モータ駆動回路81に電力供給することで、主にモータMを駆動するために電力供給することができる。
【0025】
図4に示すように、前筐体49には、ロータユニット31と、空液検出部82と、閉塞検出部83を備えている。ロータユニット31は、ギアボックス31Gを介してモータMに連結されている。
輸液ポンプ10の小型化を図るために、好ましくはサイズの小さいモータMを用いている。ギアボックス31Gは、図4に示すようにモータMの出力軸PLに固定されているギアG1と、ロータユニット31の軸Lに固定されてこのギアG1にかみ合うギアG2を有している。サイズの小さいモータMによりロータリユニット31を回転させるために、ギアG1とギアG2の減速比が大きくなっている。
電源回路80は、モータ駆動回路81と制御部100とショックセンサ200に電気的に接続されており、モータ駆動回路81と制御部100に対して電源供給を行う。
【0026】
図4の空液検出部82と閉塞検出部83は制御部100に電気的に接続され、空液検出部82は、輸液チューブ21内が薬液により満たされているか気泡が存在するかを検出して、制御部100に通知する。閉塞検出部83は、輸液チューブ21が閉塞されて輸液チューブ21の直径が大きくなったことを検出することで、薬液が輸液チューブ21内に通過していないことを制御部100に通知する。
開始停止スイッチ17は、開始停止検出回路84に電気的に接続され、開始停止検出回路84は、開始停止スイッチ17が、図1に示す開始位置に位置されているか停止位置に位置されているかを検出して、その状態を制御部100に通知する。制御部100はCPU110を有しており、メモリ部111は、制御部100のCPU111に電気的に接続されている。メモリ部111は、CPU110との間で情報を記憶したり、記憶した情報を読み出したりするもので、しかもメモリ部111はCPU110により処理すべきプログラムが記憶されているROM(読み出し専用メモリ)を含んでいる。
【0027】
図4の表示部18は、制御回路18Tに電気的に接続され、点灯表示部LPは、制御回路85に電気的に接続されている。制御回路18Tと制御回路85は制御部100に電気的に接続され、制御部100の指令により、制御回路18Tは表示部18に必要な内容を表示させる。また、制御部100の指令により、制御回路85は点灯表示部18を例えば点滅させて、患者に点滅により警報があることを報知することができる。
ブザー88は、ブザー回路90に電気的に接続され、スピーカ89は、音声回路91に電気的に接続されている。ブザー回路90と音声回路91は、制御部100に電気的に接続されている。その他に、外部通信回路101が制御部100に電気的に接続されている。
【0028】
図4のブロック図に示すように、輸液ポンプ10は、ショックセンサ200と内部バッテリ201と、温度センサ550と、温度センサ回路551を有している。
図4に示すショックセンサ200は、本体11に加わる衝撃力を検出すためのセンサであり、例えば本体11の前筐体49内に配置されている。内部バッテリ201は、電源オフ時にショックセンサ200に電源を供給するためのバックアップ用のバッテリであり、例えばボタン電池である。
【0029】
図5は、図4に示すモータMの所望の回転速度によって、モータMに対する電源電圧を切り換えるための電源電圧供給部380と、その周辺の要素を示している。
図5に示すモータMのための電源電圧供給部380は、図4に示す電源回路80と、図4に示すモータ駆動回路81を有している。電源回路80は、電池Bと商用交流電源128に電気的に接続されている。電源回路80とモータ駆動回路81は、制御部100に電気的に接続され、制御部100の指令により動作することができる。モータ駆動回路81は、モータMに電気的に接続され、モータMはスイッチSWに接続されている。回転検出回路81Tは、モータMの回転状態を検出して制御部100のCPU110にモータの回転状態信号をフィードバックする。
【0030】
図5に示す電源回路80は、モータ駆動回路81へ電源電圧VSを供給できる。この電源電圧VSは、制御部100が電源回路80に指令することで、例えば2V〜9V程度まで可変することができる電圧である。図5に示すモータ駆動回路81は、電源回路80からの電源電圧VSに応じたモータMを回転させるためのモータ駆動パルスDPを供給することができる。
電源電圧供給部380の電源回路80は、電池Bの電圧を受けて、新たに設定された薬液の注入速度に応じたモータMの回転速度に対応する電源電圧VSを発生する。そして、電源電圧供給部380のモータ駆動回路81は、電源電圧VSの値に応じて、モータMの回転速度を達成するためのモータ駆動パルスDPを発生してモータMに供給できる。すなわち、制御部100のCPU110が電源回路80とモータ駆動回路81に指令をすることにより、新たに設定された薬液の注入速度の大きさに対応するモータMの回転速度の増加に応じて、電源電圧供給部380が発生する電源電圧VSの値を切り換えて増加させることができる。
【0031】
具体的に簡単に説明すれば、例えば、新たに設定しようとする薬液の設定注入速度が低い場合には、制御部100のCPU110は、電源回路80に低い薬液の設定注入速度を通知する。この電源回路80は、新たに設定しようとする低い薬液の設定注入速度に応じた、例えば3V程度の電源電圧VSを発生してモータ駆動回路81に供給する。
また、例えば、新たに設定しようとする薬液の設定注入速度が中程度の場合には、制御部100のCPU110は、電源回路80に中程度の薬液の設定注入速度を通知する。この電源回路80は、新たに設定しようとする中程度の薬液の設定注入速度に応じた、例えば5V程度の電源電圧VSを発生してモータ駆動回路81に供給する。
また、例えば、新たに設定しようとする薬液の設定注入速度が高い場合には、制御部100のCPU110は、電源回路80に高い薬液の設定注入速度を通知する。この電源回路80は、新たに設定しようとする高い薬液の設定注入速度に応じた、例えば7V程度の電源電圧VSを発生してモータ駆動回路81に供給する。
【0032】
輸液ポンプ10では、モータMの出力軸PLの回転を比較的低速で制御する必要があるので、モータMの回転速度の範囲は、制御部100のCPU110の分解能の影響を受ける。CPU110は例えばマイクロコンピュータや専用ICである。
そこで、輸液ポンプ10では、幅広い薬液の注入速度の設定可能範囲で、新たに設定された薬液の注入速度の大小に応じてそれぞれモータMの回転速度を確保するために、電源電圧VSを増加したり、減少させることができ、薬液の注入速度の精度を向上して、低消費電力化を可能にしている。
【0033】
図6は、薬液の設定注入速度(薬液の設定可能範囲)の具体的な範囲例(1)〜(5)について、電源電圧VS(図5の電源電圧VS)と、モータMの回転速度(モータMの回転数、図5のモータ駆動パルスDP)の具体的な関係例テーブルTBを示している。
図6において、薬液の設定注入速度の範囲例(1)〜(5)についての電源電圧VSと、モータMの回転速度の具体的な関係例テーブルTBは、図4に示すメモリ部111に記憶されているので、制御部100のCPU110は、メモリ部111から図6に示す関係例テーブルTBを読み出すことができる。
図6に示す関係例テーブルTBの薬液の設定注入速度の範囲例(1)である5mL/h≦FL≦80mL/hでは、電源電圧VS=2V〜3Vであり、モータMの回転速度(モータ駆動パルスDP)が〜954.2004パルスである。図6に示す関係例テーブルTBの薬液の設定注入速度の範囲例(2)である80mL/h<FL≦120mL/hでは、電源電圧VS=3.15V±4%であり、モータMの回転速度(モータ駆動パルスDP)が954.2004パルス〜1431.301パルスである。
【0034】
図6に示す関係例テーブルTBの薬液の設定注入速度の範囲例(3)である120mL/h<FL≦200mL/hでは、電源電圧VS=4.65V±4%であり、モータMの回転速度(モータ駆動パルスDP)が1431.301パルス〜2385.501パルスである。図6に示す関係例テーブルTBの薬液の設定注入速度の範囲例(4)である200mL/h<FL≦300mL/hでは、電池Bの電圧6.74V±4%であり、モータMの回転速度(モータ駆動パルスDP)が2385.501パルス〜3578.251パルスである。図6に示す関係例テーブルTBの薬液の設定注入速度の範囲例(5)である300mL/h<FLでは、電源電圧VS=8.24V±5%であり、モータMの回転速度(モータ駆動パルスDP)が3578.251パルスである。
【0035】
図7は、図1の輸液ポンプ10において、管理者が新たに薬液の注入速度を設定してから、設定された注入速度の薬液を送液するまでの動作例を示すフロー図である。
図7のステップST1では、輸液ポンプ10の管理者は、制御部100のCPU110に対して、新たな予め定めた薬液の注入速度を設定する。実際には、この新たな薬液の流量の設定は、一度設定すれば注入速度を変更することは全くないか、あるいは注入速度を変更することが稀である。
この新たな薬液の注入速度の設定は、図6に示す予め定めた関係例テーブルTBの薬液の設定注入速度の範囲例(1)〜(5)内で行う。例えば、新たに設定された薬液の設定流量が、一例として例えば130mL/hであるとすれば、この130mL/hは、図6の薬液の設定注入速度の範囲例(3)の範囲であるので、電源電圧VS=4.65V±4%であり、モータMの回転速度(モータ駆動パルスDP)が1431.301パルス〜2385.501パルスで設定される。
【0036】
図7のステップST2では、好ましくは、図4に示す制御部100の指令により、モータ駆動回路81がモータMの出力軸PLを1回転させて、モータパラメータMPを取得する。すなわち、制御部100は、図4のモータMの出力軸PLを1回転させてロータリユニット31を回転させることで、モータM固有のパラメータMPを読み出して、制御部100における制御に反映させて、制御部100はモータMをより精度良く回転させることができる。
このモータパラメータMPの取得方法例としては、例えば図5(B)と図5(A)に示すモータM用の矩形パルス状のテストパルスCSをスイッチSWに与えてモータMをオン/オフする。このオン/オフをした際に発生する図5(B)に示すモータMの応答パルスRSの波形が、テストパルスCSの波形に追従する、応答パルスRSの追従性により判断することができる。
【0037】
応答パルスRSの追従性により判断例としては、制御部100のCPU110は、図5(B)に示す応答パルスRSにおいて、モータM固有の電気的時定数tを検出することで、モータMの出力軸PLの回転時の応答のばらつきを検出する。時定数tが大きければ、モータMの回転時の応答遅れが大きいと判断でき、時定数tが小さければ、モータMの回転時の応答遅れが大きいと判断できる。
このように、制御部100が検出したモータM固有の出力軸PLの回転時の応答遅れの程度を、制御部100がモータMの出力軸PLを回転させてロータリユニット31を回転させる際の制御に反映させることができる。
図7のステップST3では、図4のカセット20の輸液チューブ21内に薬液を予め充填させるプライミングを行う。
【0038】
そして、図7のステップST4では、輸液ポンプ10のカセット収納部15内にカセット20を収納する。詳細には、図3に示すように、患者は、カバー12を開けてカセット収納部15を露出させて、輸液チューブ21を有するカセット20を、輸液ポンプ10のカセット収納部15内に装着する。その後、患者が図1のカバー12を閉じると、図3に示すカバー12の当接部14がカセット20を押すことにより、該カセット20がカセット収納部15において矢印B方向に移動される。カセット20が矢印B方向へ移動することにより、各係合用スリット22,23に入り込んだ第1のスライダ32と第2のスライダ33の付勢方向(図2の矢印C方向)に働く付勢力に抗して、第1のスライダ32と第2のスライダ33を矢印D方向に移動させることができる。
【0039】
これにより、カセット20は、カバー12を閉止した状態においては、カバー12の当接部14と第1のスライダ32と第2のスライダ33に挟まれて固定されるとともに、輸液チューブ21はロータユニット31側に押圧される。
カバー12を閉じると、カセット20の横スリット25bのスライダ29が、ストッパ26を付勢手段26aの力に抗して矢印D方向に押し込むことにより、ストッパ26の先端部は輸液チューブ21から離れる。これにより、輸液チューブ21は開放されて輸液チューブ21内の輸液の流れ止めは解除でき、輸液チューブ21には輸液を導入でき、ロータユニット31のチューブ押圧部31Rの動きにより患者に対して輸液チューブ21を通じて薬液を送液できる状態になる。
【0040】
次に、図7のステップST5では、好ましくは、図4に示すモータMの出力軸PLを1回転させて、カセット20に設定されている輸液チューブ21固有のパラメータTPを取得する。すなわち、モータMの出力軸PLを1回転させてロータリユニット31を回転させることで、ロータユニット31のチューブ押圧部31R(図2を参照)がカセット20の輸液チューブ21を押圧して、蠕動様運動を輸液チューブ21に付与する。このように輸液チューブ21がモータMの出力軸PLの回転により押されることを利用して、推奨使用している可撓性の輸液チューブ21の柔軟性あるいは推奨外の可撓性の輸液チューブ21の柔軟性の程度を、チューブパラメータTPとして取得することができる。
従って、制御部100が取得したチューブパラメータTPを、制御部100がモータMの出力軸PLを回転させてロータリユニット31を回転させる際の制御に反映させることができる。
【0041】
ステップST6では、輸液チューブ21の先端の留置針を患者の静脈に挿入し、留置する。
そして、ステップST7では、図4の制御部100は、モータ駆動回路81に指令をして、モータ駆動回路81は、モータMを図6に示す薬液の設定注入速度の範囲例(1)〜(5)内で設定された薬液の流量に応じたモータMの回転速度により駆動して、図1に示すロータリユニット31を回転して、蠕動様運動を輸液チューブ21に付与することで、薬液の送液動作をスタートすることができる。
【0042】
このように、本発明の実施形態の輸液ポンプ10では、図4の制御部100は、図4のメモリ部111に記憶されている図6に示す関係例テーブルTBに従って、新たに設定された薬液の注入速度の値により、電池Bの電圧を増幅して電源電圧VSの値を切り換えることができる。輸液ポンプ10では、長期に渡って安定した低消費電力での送液動作が可能になる。薬液の設定注入速度は、1度設定してしまえば、薬液の注入速度を変更することは稀であるか全く変更をしない。
好ましくは、輸液ポンプ10に搭載されているモータM固有の特徴や、カセット20の輸液チューブ21固有の特徴を、制御部100にパラメータとして認識させることができる。
輸液ポンプ10では、新たに設定された薬液の注入速度は、図6に示す薬液の設定範囲FLに従って幅広い領域に渡って設定できる。この新たに設定された薬液の注入速度が、薬液の設定範囲FLに従って設定されると、制御部100は、図6の関係例テーブルTBを参照して、関係例テーブルTBにおいて薬液の設定注入速度の範囲例(1)〜(5)に対応するモータMの回転速度(モータ駆動パルスDP)を決めることができるので、制御部100は、図6の関係例テーブルTBを参照して、モータMの回転速度(モータ駆動パルスDP)を達成するために、電源電圧VSを可変して設定できる。
【0043】
従来のように、モータに対して単一の駆動電圧を供給するだけであると、幅広い領域で薬液の注入速度を設定しようとすると、モータの回転精度が出しにくく、薬液を送る際の注入速度の精度が低下し、モータが消費する電力が多くなってしまい、電池交換回数が増えるおそれがある。
しかし、本発明の実施形態の輸液ポンプ10では、制御部100が、薬液の設定注入速度を確保するためにモータの回転速度を増加させる必要があるのに応じて、電源電圧供給部からモータへ供給する電源電圧の値を適切に切り換えて増加させることができるので、薬液は幅広い薬液の注入速度の範囲で、送り精度良く薬液を送ることができ、薬液を送る際の電力を低減することができる。
【0044】
図6に例示するように、制御部100が関係例テーブルTBを参照することで、薬液の設定注入速度の範囲が予め複数個設定されており、新たに設定された薬液の注入速度が、どの薬液の設定注入速度の範囲内に入るかで、制御部100は、新たに設定された薬液の流量が入る薬液の設定注入速度の範囲に対応する電源電圧の値に切り換えることができる。これにより、新たに設定された薬液の注入速度は、いずれかの薬液の設定範囲内で設定することができるので、モータMは適切な電源電圧で駆動して薬液を送液できる。
【0045】
ところで、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明は様々な修正と変更が可能であり、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0046】
10・・・輸液ポンプ(医療機器の一例)、11・・・本体(ケースともいう)、21・・・チューブ(輸液管路の一例)、31・・・輸液送り部としてのロータユニット、L・・・ロータユニットの軸、PL…モータの出力軸、31G・・・ギア、44・・・後筐体、49・・・前筐体、100・・・制御部、380・・・電源電圧供給部、TB・・・関係例テーブル、M・・・モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池を電源とし、薬液を送るための輸液送り部を有する輸液ポンプであって、
前記輸液送り部を回転させるモータと、
新たに設定された前記薬液の注入速度に応じた前記モータの回転速度に対応する電源電圧を発生する電源電圧供給部と、
前記新たに設定された前記薬液の注入速度に対応する前記モータの回転速度の増加に応じて、前記電源電圧供給部が発生する前記電源電圧の値を切り換えて増加させる制御部と
を有することを特徴とする輸液ポンプ。
【請求項2】
前記薬液の設定注入速度の範囲が予め複数個設定されており、新たに設定された前記薬液の注入速度が、どの前記薬液の設定注入速度の範囲内に入るかで、前記制御部は、前記新たに設定された前記薬液の注入速度が入る前記薬液の設定注入速度の範囲に対応する前記電源電圧の値に切り換えることを特徴とする請求項1に記載の輸液ポンプ。
【請求項3】
前記制御部は、前記モータを回転させて前記モータ固有の情報を取得することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の輸液ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−200543(P2012−200543A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70545(P2011−70545)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】