説明

輸血・輸液又は血液浄化用の装置及び当該装置におけるポンプの吸引不良検知方法

【課題】チューブ内への気泡の混入を伴わないポンプの吸引不良を検知できるような輸血・輸液又は血液浄化用の装置を提供する。
【解決手段】穿刺針11にてバッグ3を穿刺することによりバック3に接続されるチューブ5と、チューブ5上に装着されたポンプ7と、凹部13を備え、ポンプ7の吸引側において、チューブ5と凹部13とが密着するよう装着された気泡センサ9と、気泡センサ9から送信される情報を受信して、ポンプ7の動作を制御する制御部とを有し、ポンプ7の吸引側でチューブ5内に発生した陰圧によりチューブ5が弾性変形して、チューブ5と気泡センサ9との間に隙間が生じた時に、前記隙間たる空気層を、気泡センサ9が気泡として検知し、その検知情報を前記制御部に送信することによって、前記制御部がポンプ7の吸引不良が発生したことを検知する、輸血・輸液又は血液浄化用の装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液又はその他の液体を患者に輸血又は輸液するための輸血・輸液装置や、患者の血管より血液を吸引(脱血)して浄化する血液浄化装置において、輸血、輸液又は脱血を行うためのポンプに吸引不良が生じた際にそれを検知する方法と、当該方法を実施するために好適な輸血・輸液又は血液浄化用の装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、血液又はその他の液体を患者に輸血又は輸液するための輸血・輸液装置や、特許文献1、2に開示されているような透析液や補液の輸液機能を有する血液浄化装置は、輸血、輸液又は脱血を行うための構成として、一端部に穿刺針が装着されており、当該穿刺針にて、血液又はその他の液体が充填された輸血若しくは輸液用のバッグ又は血液浄化を必要とする患者の血管を穿刺することにより前記バック又は血管に接続される弾性を有するチューブと、前記チューブを通じて、前記バックに充填された血液若しくはその他の液体又は前記血管内の血液を吸引し、所定の送液先(患者の血管内、血液浄化装置のろ過器等)に送液するために前記チューブ上に装着されたポンプと、前記チューブを押し込むことにより前記チューブと密着固定させるための凹部を備え、前記ポンプの吸引側において、前記チューブと前記凹部とが密着するよう装着された気泡センサと、前記気泡センサから送信される情報を受信して、前記ポンプの動作を制御する制御部とを有する。
【0003】
この輸血・輸液又は血液浄化用の装置による輸血、輸液又は脱血においては、例えば、バッグ内の血液等の液体の減少に伴うバッグの形状変化や液体中に含まれる成分の凝固等により、ポンプにて液体を正常に吸引できなくなり、チューブ内に空気が吸引されてしまう場合があり、このようなポンプの吸引不良が発生した場合には、それを検知してポンプを速やかに停止させる必要がある。
【0004】
このようにチューブ内に空気が吸引された場合には、チューブ内を通過する液体中に気泡が混入するので、従来においては、チューブに装着された気泡センサにて、この気泡を検知させ、その検知情報を制御部に送信することによって、制御部が、ポンプの吸引不良が発生したことを検知し、ポンプを停止させていた。
【0005】
しかしならが、輸血・輸液又は血液浄化用の装置におけるポンプの吸引不良は、前記のようなチューブ内への空気(気泡)の混入を伴うような吸引不良の他、バッグ又は血管に穿刺した穿刺針の先端に液体中の成分が付着して、穿刺針の先端が詰まることに起因するものが有り、この場合には、バッグ又は血管からチューブへの液体の流れが遮断されて液体の吸引はできなくなるが、チューブ内に気泡が混入しないため、チューブ内を通過する液体中に混入した気泡を検知するという従来の方法では、このポンプの吸引不良を検知することはできない。このため、吸引不良発生後もポンプが停止されず、ポンプの空回りが生じて、輸血、輸液又は脱血ができない状態となり、患者の治療に支障を来すことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−191889号公報
【特許文献2】特開平11−276578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、チューブ内への気泡の混入を伴うような吸引不良だけでなく、従来は検知することができなかった、穿刺針の先端の詰まりに起因する、チューブ内への気泡の混入を伴わないポンプの吸引不良をも検知できるような輸血・輸液又は血液浄化用の装置及び当該装置におけるポンプの吸引不良検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下の輸血・輸液又は血液浄化用の装置及び当該装置におけるポンプの吸引不良検知方法が提供される。
【0009】
[1] 一端部に穿刺針が装着されており、当該穿刺針にて、血液又はその他の液体が充填された輸血若しくは輸液用のバッグ又は血液浄化を必要とする患者の血管を穿刺することにより前記バック又は血管に接続される弾性を有するチューブと、前記チューブを通じて前記バックに充填された血液若しくはその他の液体又は前記血管内の血液を吸引し、所定の送液先に送液するために前記チューブ上に装着されたポンプと、前記チューブを押し込むことにより前記チューブと密着固定させるための凹部を備え、前記ポンプの吸引側において、前記チューブと前記凹部とが密着するよう装着された気泡センサと、前記気泡センサから送信される情報を受信して、前記ポンプの動作を制御する制御部とを有する輸血・輸液又は血液浄化用の装置であって、前記ポンプの吸引側で前記チューブ内に発生した陰圧により前記チューブが弾性変形して、前記チューブと前記気泡センサとの間に隙間が生じた時に、前記隙間たる空気層を、前記気泡センサが気泡として検知し、その検知情報を前記制御部に送信することによって、前記制御部が、前記穿刺針の先端の詰まりにより前記ポンプの吸引不良が発生したことを検知する、輸血・輸液又は血液浄化用の装置。
【0010】
[2] 前記チューブが、前記チューブ内に−50〜−400mmHg(−6.67〜−53.33kPa)の陰圧が発生した際に弾性変形するような軟質のチューブである[1]に記載の輸血・輸液又は血液浄化用の装置。
【0011】
[3] 前記チューブのショアA硬度が10〜75度である[1]又は[2]に記載の輸血・輸液又は血液浄化用の装置。
【0012】
[4] 一端部に穿刺針が装着されており、当該穿刺針にて、血液又はその他の液体が充填された輸血若しくは輸液用のバッグ又は血液浄化を必要とする患者の血管を穿刺することにより前記バック又は血管に接続される弾性を有するチューブと、前記チューブを通じて前記バックに充填された血液若しくはその他の液体又は前記血管内の血液を吸引し、所定の送液先に送液するために前記チューブ上に装着されたポンプと、前記チューブを押し込むことにより前記チューブと密着固定させるための凹部を備え、前記ポンプの吸引側において、前記チューブと前記凹部とが密着するよう装着された気泡センサと、前記気泡センサから送信される情報を受信して、前記ポンプの動作を制御する制御部とを有する輸血・輸液又は血液浄化用の装置を用いて、輸血、輸液又は血液浄化のための血液の吸引(脱血)を行っている際に、前記ポンプの吸引不良が発生したことを検知する吸引不良検知方法であって、前記穿刺針の先端の詰まりにより前記ポンプの吸引不良が生じると、前記ポンプの吸引側で前記チューブ内に陰圧が発生して前記チューブが弾性変形するという現象を利用し、前記チューブの弾性変形により前記チューブと前記気泡センサとの間に隙間が生じた時に、前記隙間たる空気層を、前記気泡センサにて気泡として検知させ、その検知情報を前記制御部に送信することによって、前記制御部に、前記穿刺針の先端の詰まりにより前記ポンプの吸引不良が発生したことを検知させる、輸血・輸液又は血液浄化用の装置におけるポンプの吸引不良検知方法。
【0013】
[5] 前記チューブが、前記チューブ内に−50〜−400mmHg(−6.67〜−53.33kPa)の陰圧が発生した際に弾性変形するような軟質のチューブである[4]に記載の輸血・輸液又は血液浄化用の装置におけるポンプの吸引不良検知方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の吸引不良検知方法によれば、穿刺針の先端の詰まりによりポンプの吸引不良が生じると、ポンプの吸引側でチューブ内に陰圧が発生してチューブが弾性変形するという現象を利用することで、従来は検知することができなかった、穿刺針の先端の詰まりに起因する、チューブ内への気泡の混入を伴わないポンプの吸引不良を検知することができる。更に、この穿刺針の先端の詰まりに起因するポンプの吸引不良の検知は、従来、チューブ内を通過する液体中に混入した気泡の検知に用いていた気泡センサをそのまま使用して行うことができるので、実施が容易であり、経済性にも優れる。また、本発明の輸血・輸液又は血液浄化用の装置は、ポンプの吸引側でチューブ内に発生した陰圧によりチューブが弾性変形して、チューブと気泡センサとの間に隙間が生じた時に、その隙間たる空気層を、気泡センサが気泡として検知して、その検知情報を制御部に送信するよう構成されているため、本発明の吸引不良検知方法の実施に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の吸引不良検知方法の実施に使用される輸血・輸液又は血液浄化用の装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の吸引不良検知方法の実施に使用される輸血・輸液又は血液浄化用の装置の他の一例を示す概略図である。
【図3】気泡センサのチューブへの装着状態を示す概略断面図である。
【図4】穿刺針の先端の詰まりに起因するポンプの吸引不良が生じていない時のチューブと気泡センサとの状態を示す要部説明図である。
【図5】穿刺針の先端の詰まりに起因するポンプの吸引不良が生じた時のチューブと気泡センサとの状態を示す要部説明図である。
【図6】チューブ内を通過する液体中に混入した気泡を、気泡センサで検知する方法を示す要部説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0017】
図1は、本発明の吸引不良検知方法の実施に使用される輸血・輸液又は血液浄化用の装置の一例を示す概略図である。この輸血・輸液又は血液浄化用の装置1は、チューブ5と、ポンプ7と、気泡センサ9と、図示しない制御部とを有する。
【0018】
図1において、バッグ3は、血液又はその他の液体(例えば、透析液や、透析及び/又はろ過により患者の血液中から除去された電解質などの体液成分を補給するための補充液(補液)等)が充填されたものである。チューブ5は、弾性を有するものであり、その一端部に穿刺針11が装着されている。この穿刺針11にてバッグ3を穿刺することにより、チューブ5はバック3に接続され、バック3内とチューブ5内が連通した状態となる。ポンプ7は、チューブ5を通じてバック3に充填された血液又はその他の液体を吸引し、所定の送液先(患者の血管内、血液浄化装置のろ過器等)に送液するための送液手段としてチューブ5上に装着されている。気泡センサ9は、チューブ5を押し込むことによりチューブ5と密着固定させるための凹部13を備え、ポンプ7の吸引側において、チューブ5と凹部13とが密着するよう装着されている。制御部(図示せず)は、気泡センサ9から送信される情報を受信して、ポンプ7の動作を制御するものである。
【0019】
図2は、本発明の吸引不良検知方法の実施に使用される輸血・輸液又は血液浄化用の装置の他の一例を示す概略図である。これは、輸血・輸液又は血液浄化用の装置1を、血液浄化を必要とする患者の血管4からの脱血に用いる場合の例であり、この場合、チューブ5の一端部に装着された穿刺針11にて、患者の血管4を穿刺することにより、チューブ5は血管4に接続され、血管4内とチューブ5内が連通した状態となる。ポンプ7は、チューブ5を通じて血管4内の血液を吸引し、所定の送液先(血液浄化装置のろ過器等)に送液するための送液手段としてチューブ5上に装着されている。また、図1の例と同様に、気泡センサ9は、チューブ5を押し込むことによりチューブ5と密着固定させるための凹部13を備え、ポンプ7の吸引側において、チューブ5と凹部13とが密着するよう装着されている。制御部(図示せず)は、気泡センサ9から送信される情報を受信して、ポンプ7の動作を制御するものである。
【0020】
本発明の吸引不良検知方法は、これら図1や図2に示すような輸血・輸液又は血液浄化用の装置1を用いて、輸血、輸液又は脱血を行っている際に、ポンプ7の吸引不良が発生したことを検知するための方法である。
【0021】
前述のとおり、ポンプ7の吸引不良には、チューブ5内に空気が吸引されて、チューブ5内を通過する液体中に気泡が混入する吸引不良と、バッグ3に穿刺した穿刺針11の先端に液体中の成分が付着し、穿刺針11の先端が詰まることに起因して、バッグ3からチューブ5への液体の流れが遮断され、液体の吸引そのものができなくなる吸引不良とが有る。
【0022】
この内、チューブ5内に空気が吸引されて、チューブ5内を通過する液体中に気泡が混入する吸引不良の検知については、図6に示すように、チューブ5内を通過する液体中に混入した気泡15を、チューブ5に装着した気泡センサ9にて検知することにより、行うことができる。
【0023】
しかしながら、バッグ3又は血管4に穿刺した穿刺針11の先端に液体中の成分が付着して、穿刺針の先端が詰まることに起因するポンプ7の吸引不良では、チューブ5内に空気は吸引されず、チューブ5内を通過する液体中に気泡が混入することがないので、チューブ5内を通過する液体中の気泡を検知するという方法では、ポンプ7の吸引不良を検知することはできない。
【0024】
そこで、本発明の吸引不良検知方法においては、穿刺針11の先端の詰まりによりポンプ7の吸引不良が生じると、ポンプ7の吸引側でチューブ5内に陰圧が発生してチューブ5が弾性変形するという現象に着目し、この現象を利用して、穿刺針11の先端の詰まりに起因するポンプ7の吸引不良を検知することとした。
【0025】
図3は、気泡センサ9のチューブ5への装着状態を示す概略断面図である。この図に示すように、気泡センサ9は、チューブ5を押し込むことによりチューブ5と密着固定させるための凹部13を備えており、穿刺針11の先端の詰まりに起因するポンプ7の吸引不良が生じていない時は、図4に示すように、チューブ5と気泡センサ9とが密着した状態となっている。
【0026】
一方、穿刺針11の先端の詰まりに起因するローラーポンプ7の吸引不良が生じた時は、バッグ3又は血管4からチューブ5への液体の流れが遮断された状態にも関わらず、ポンプ7が駆動(回転)することにより、ポンプ7の吸引側でチューブ5内に陰圧が発生する。そして、このチューブ5内に発生した陰圧によって、図5に示すように、チューブ5が弾性変形して細くなると(断面形状が扁平になると)、吸引不良発生前は密着していたチューブ5と気泡センサ9との間に隙間17が生じる。
【0027】
本来、気泡センサ9は、図6に示すように、チューブ5内を通過する液体中に気泡15が混入した場合に、その気泡15を検知するためのものであるが、図5に示すように、チューブ5と気泡センサ9との間に隙間17が生じた場合には、その隙間17たる空気層を、気泡として検知してしまう。これは、気泡センサの本来の用途(気泡の検知)からすれば誤検知ということになるが、本発明の吸引不良検知方法においては、この本来は誤検知である隙間(空気層)17の検知によって、穿刺針11の先端の詰まりに起因するポンプ7の吸引不良を検知する。
【0028】
このように、本発明の吸引不良検知方法によれば、穿刺針11の先端の詰まりによりポンプ7の吸引不良が生じると、ポンプ7の吸引側でチューブ5内に陰圧が発生してチューブ5が弾性変形するという現象を利用することで、従来は検知することができなかった、穿刺針11の先端の詰まりに起因する、チューブ5内への気泡の混入を伴わないポンプ7の吸引不良を検知することができる。更に、この穿刺針11の先端の詰まりに起因するポンプ7の吸引不良の検知は、従来、チューブ5内を通過する液体中に混入した気泡の検知に用いていた気泡センサ9をそのまま使用して行うことができるので、実施が容易であり、経済性にも優れる。
【0029】
なお、本発明の吸引不良検知方法を実施するためには、輸血・輸液又は血液浄化用の装置1を構成するチューブ5が、弾性を有するものであって、穿刺針11の先端の詰まりによりポンプ7の吸引不良が生じ、ポンプ7の吸引側でチューブ5内に陰圧が発生した際に、弾性変形するものであることを要する。
【0030】
ここで言う「弾性変形」における「変形」とは、初期状態(チューブ5内に陰圧が発生していない状態)においては密着していたチューブ5と気泡センサ9との間に、20μm以上の隙間(空気層)17を生じせしめるような、チューブ5の断面積(開口部の面積を含む)の減少を伴う断面形状の変化を意味する。
【0031】
チューブ5の具体的な特性としては、チューブ5内に−50〜−400mmHg(−6.67〜−53.33kPa)の陰圧が発生した際に弾性変形するものであることが好ましく、チューブ5内に−100〜−350mmHg(−13.00〜−45.50kPa)の陰圧が発生した際に弾性変形するようなものであることがより好ましい。
【0032】
チューブ内に−400mmHg(−53.33kPa)の陰圧が発生しても弾性変形しないような硬いチューブでは、穿刺針の先端の詰まりによりポンプの吸引不良が生じていても、チューブ内の陰圧によるチューブの弾性変形が生じず、吸引不良の検知ができない場合がある。また、輸血や脱血においては、チューブ内に−400mmHgを超えるような高い陰圧が発生すると、チューブ内の血液中の成分が破壊される(血球が破壊され溶血する)場合がある。
【0033】
一方、チューブ内に−50mmHg(−6.67kPa)に満たない小さな陰圧が発生しても弾性変形してしまうような軟らかすぎるチューブでは、穿刺針の先端の詰まりによるポンプの吸引不良が生じていなくても弾性変形してしまう場合があり、誤検知が生じやすい。
【0034】
チューブの弾性変形のしやすさは、チューブの材質、肉厚、径などにより調整することができる。本発明の吸引不良検知方法においては、前記のような特性を有している限り、チューブの材質は特に制限はされないが、例えば、ポリメチルメタアクリレート等のポリアクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル等のポリハロゲン化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)等のポリオレフィン系樹脂等が好適な材質として挙げられる。また、チューブの外径についても、特に制限は無いが、2〜7mm程度とすることが好ましく、5〜6mm程度とすることがより好ましい。
【0035】
ポンプ7の吸引側において、チューブ5に装着される気泡センサ9には、従来の輸血・輸液又は血液浄化用の装置において、チューブ内を流れる液体中含まれる気泡を検知するために使用されていた公知の気泡センサ、例えば、液体と気泡(空気)とにおける超音波の透過率の差に基づいて気泡の有無を検知する超音波式の気泡センサが好適に使用できる。一般に、このような気泡センサは、20μm程度の大きさの微小な気泡でも検知することが可能であり、本発明の吸引不良検知方法に用いた場合には、チューブ5と気泡センサ9との間に20μm以上の隙間(空気層)17を生じた場合に、これを検知することができる。
【0036】
チューブ5と気泡センサ9との間に生じた隙間(空気層)17を検知した気泡センサ9は、その検知情報を制御部(図示せず)に送信する。そして、この検知情報を受信した制御部は、当該情報によりポンプ7の吸引不良が発生したことを検知し、必要に応じて、ポンプ7の動作を停止させたり、警報を発したりする。
【0037】
図3に示すように、気泡センサ9は、チューブ5を押し込むことによりチューブ5と密着固定させるための凹部13を備えている。凹部13のチューブを押し込む部分の幅Wは、初期状態(チューブ5内に陰圧が発生していない状態)においてチューブ5と密着させる必要から、チューブ5の外径よりも若干小さい寸法とする。例えば、チューブ5の外径が5mmである場合は、凹部13のチューブ5を押し込む部分の幅Wは3mm程度とすることが好ましい。チューブ5の外径と凹部13のチューブ5を押し込む部分の幅Wの寸法がこのような関係であれば、凹部13にチューブ5を押し込んだ際に、チューブ5の弾性により、気泡センサ9とチューブ5とを密着させることができる。
【0038】
チューブ5上に装着されるポンプ7には、従来の血液浄化装置等において、送液手段として使用されてきた公知のポンプ、例えば、外周に複数個のローラーが取り付けられたロータを有し、このロータと、このロータを収容するハウジングの内周との間に、輸液に用いられるチューブを挾持させ、ロータの回転に伴ってローラーがチューブを圧閉しつつ、チューブをその長さ方向にしごくことにより、チューブ内の液体を送液するように構成されたローラーポンプを、好適に使用することができる。
【0039】
本発明の輸血・輸液又は血液浄化用の装置は、これまで説明した本発明の吸引不良検知方法を実施するために好適に使用することのできる輸血・輸液又は血液浄化用の装置であり、その基本的な構成として、図1や図2に示すように、一端部に穿刺針11が装着されており、当該穿刺針11にて、血液又はその他の液体(透析液、補液等)が充填された輸血若しくは輸液用のバッグ3又は血液浄化を必要とする患者の血管4を穿刺することによりバック3又は血管4に接続される弾性を有するチューブ5と、チューブ5を通じてバック3に充填された血液若しくはその他の液体又は血管4内の血液を吸引し、所定の送液先(患者の血管内、血液浄化装置のろ過器等)に送液するためにチューブ5上に装着されたポンプ7と、チューブ5を押し込むことによりチューブ5と密着固定させるための凹部13を備え、ポンプ7の吸引側において、チューブ5と凹部13とが密着するよう装着された気泡センサ9と、気泡センサ9から送信される情報を受信して、ポンプ7の動作を制御する制御部(図示せず)とを有するものである。
【0040】
本発明の輸血・輸液又は血液浄化用の装置の主要な特徴は、ポンプ7の吸引側でチューブ5内に発生した陰圧によりチューブ5が弾性変形して、チューブ5と気泡センサ9との間に隙間が生じた時に、当該隙間たる空気層を、気泡センサ9が気泡として検知し、その検知情報を制御部に送信することによって、制御部が、前記穿刺針11の先端の詰まりによりポンプ7の吸引不良が発生したことを検知する点にある。本発明の輸血・輸液又は血液浄化用の装置は、このように、気泡センサ9が、チューブ5内を通過する液体中に混入した気泡のみならず、チューブ5と気泡センサ9との間に生じた隙間(空気層)をも気泡として検知し、その検知情報を制御部に送信するように構成されているため、先に説明した本発明の吸引不良検知方法を実施するために好適に使用することができる。
【0041】
先述のとおり、本発明の吸引不良検知方法を実施するためには、輸血・輸液又は血液浄化用の装置1を構成するチューブ5が、弾性を有するものであって、穿刺針11の先端の詰まりによりポンプ7の吸引不良が生じ、ポンプ7の吸引側でチューブ5内に陰圧が発生した際に、弾性変形するものであることを要する。
【0042】
かかる観点から、本発明の輸血・輸液又は血液浄化用の装置に用いられるチューブ5は、チューブ5内に−50〜−400mmHg(−6.67〜−53.33kPa)の陰圧が発生した際に弾性変形するような軟質のチューブであることが好ましく、−100〜−350mmHg(−13.00〜−45.00kPa)の陰圧が発生した際に弾性変形するような軟質のチューブであることがより好ましい。チューブ5として、このような軟質なチューブを用いれば、穿刺針11の先端の詰まりによりポンプ7の吸引不良が生じ、ポンプ7の吸引側でチューブ5内に陰圧が発生した際に、ほぼ確実に弾性変形する。そして、この弾性変形により、図5に示すように、チューブ5と気泡センサ9との間に隙間17が生じ、この隙間(空気層)17を、気泡センサ9が検知して、その検知情報を制御部に送信することによって、制御部は、穿刺針11の先端の詰まりによりポンプ7の吸引不良が発生したことを検知する。
【0043】
チューブ内に−400mmHg(−53.33kPa)の陰圧が発生しても弾性変形しないような硬いチューブでは、穿刺針の先端の詰まりによりポンプの吸引不良が生じていても、チューブ内の陰圧によるチューブの弾性変形が生じず、吸引不良の検知ができない場合がある。また、輸血や脱血においては、チューブ内に−400mmHgを超えるような高い陰圧が発生すると、チューブ内の血液中の成分が破壊される(血球が破壊され溶血する)場合がある。
【0044】
一方、チューブ内に−50mmHg(−6.67kPa)に満たない小さな陰圧が発生しても弾性変形してしまうような軟らかすぎるチューブでは、穿刺針の先端の詰まりによるポンプの吸引不良が生じていなくても弾性変形してしまう場合があり、誤検知が生じやすい。
【0045】
前記のような特性を満たし得る軟質のチューブとしては、例えば、ショアA硬度が10〜75度のチューブを挙げることができ、ショアA硬度が20〜70度のチューブであれば、より確実に前記特性を満たし得る。本発明の輸血・輸液又は血液浄化用の装置に用いるチューブの材質、外径、及び本発明の輸血・輸液又は血液浄化用の装置を構成するチューブ以外の要素(気泡センサ等)の好適な態様は、本発明の吸引不良検知方法の説明において述べた態様と同様である。
【0046】
なお、従来の輸血・輸液又は血液浄化用の装置における気泡センサは、専らチューブ内を通過する液体中に混入した気泡を検知することを目的とするものであり、この目的に鑑みれば、チューブと気泡センサとの間に隙間が生じることは、誤検知(隙間を気泡として検知してしまう)を招くため回避しなければならない。したがって、従来の輸血・輸液又は血液浄化用の装置には、本発明の輸血・輸液又は血液浄化用の装置とは異なり、穿刺針の先端の詰まりによってチューブ内に生じる程度の陰圧(−400mmHg程度の陰圧)では弾性変形せず、気泡センサとの密着状態を保ち続けることができるような硬いチューブ(ショアA硬度が76度以上のチューブ)が用いられている。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、血液又はその他の液体を患者に輸血又は輸液するための輸血・輸液装置や、患者の血管より血液を吸引(脱血)して浄化する血液浄化装置において、輸血、輸液又は脱血を行うためのポンプに吸引不良が生じた際にそれを検知する方法と、当該方法を実施するために好適な輸血・輸液又は血液浄化用の装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1:輸血・輸液又は血液浄化用の装置、3:バッグ、4:血管、5:チューブ、7:ポンプ、9:気泡センサ、11:穿刺針、13:凹部、15:気泡、17:隙間(空気層)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部に穿刺針が装着されており、当該穿刺針にて、血液又はその他の液体が充填された輸血若しくは輸液用のバッグ又は血液浄化を必要とする患者の血管を穿刺することにより前記バック又は血管に接続される弾性を有するチューブと、前記チューブを通じて前記バックに充填された血液若しくはその他の液体又は前記血管内の血液を吸引し、所定の送液先に送液するために前記チューブ上に装着されたポンプと、前記チューブを押し込むことにより前記チューブと密着固定させるための凹部を備え、前記ポンプの吸引側において、前記チューブと前記凹部とが密着するよう装着された気泡センサと、前記気泡センサから送信される情報を受信して、前記ポンプの動作を制御する制御部とを有する輸血・輸液又は血液浄化用の装置であって、
前記ポンプの吸引側で前記チューブ内に発生した陰圧により前記チューブが弾性変形して、前記チューブと前記気泡センサとの間に隙間が生じた時に、前記隙間たる空気層を、前記気泡センサが気泡として検知し、その検知情報を前記制御部に送信することによって、前記制御部が、前記穿刺針の先端の詰まりにより前記ポンプの吸引不良が発生したことを検知する、輸血・輸液又は血液浄化用の装置。
【請求項2】
前記チューブが、前記チューブ内に−50〜−400mmHg(−6.67〜−53.33kPa)の陰圧が発生した際に弾性変形するような軟質のチューブである請求項1に記載の輸血・輸液又は血液浄化用の装置。
【請求項3】
前記チューブのショアA硬度が10〜75度である請求項1又は2に記載の輸血・輸液又は血液浄化用の装置。
【請求項4】
一端部に穿刺針が装着されており、当該穿刺針にて、血液又はその他の液体が充填された輸血若しくは輸液用のバッグ又は血液浄化を必要とする患者の血管を穿刺することにより前記バック又は血管に接続される弾性を有するチューブと、前記チューブを通じて前記バックに充填された血液若しくはその他の液体又は前記血管内の血液を吸引し、所定の送液先に送液するために前記チューブ上に装着されたポンプと、前記チューブを押し込むことにより前記チューブと密着固定させるための凹部を備え、前記ポンプの吸引側において、前記チューブと前記凹部とが密着するよう装着された気泡センサと、前記気泡センサから送信される情報を受信して、前記ポンプの動作を制御する制御部とを有する輸血・輸液又は血液浄化用の装置を用いて、輸血、輸液又は血液浄化のための血液の吸引(脱血)を行っている際に、前記ポンプの吸引不良が発生したことを検知する吸引不良検知方法であって、
前記穿刺針の先端の詰まりにより前記ポンプの吸引不良が生じると、前記ポンプの吸引側で前記チューブ内に陰圧が発生して前記チューブが弾性変形するという現象を利用し、前記チューブの弾性変形により前記チューブと前記気泡センサとの間に隙間が生じた時に、前記隙間たる空気層を、前記気泡センサにて気泡として検知させ、その検知情報を前記制御部に送信することによって、前記制御部に、前記穿刺針の先端の詰まりにより前記ポンプの吸引不良が発生したことを検知させる、輸血・輸液又は血液浄化用の装置におけるポンプの吸引不良検知方法。
【請求項5】
前記チューブが、前記チューブ内に−50〜−400mmHg(−6.67〜−53.33kPa)の陰圧が発生した際に弾性変形するような軟質のチューブである請求項4に記載の輸血・輸液又は血液浄化用の装置におけるポンプの吸引不良検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−115613(P2012−115613A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270756(P2010−270756)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(394023241)JUNKEN MEDICAL株式会社 (13)
【Fターム(参考)】