説明

輻射型ヒータおよびその制御方法

【課題】高標高地であっても着火特性が良好な輻射型ヒータを提供する。
【解決手段】輻射型ヒータ10は、一端14aが熱輻射用の複数の放射管12aを含んでジグザグにアレンジされた放射ユニット12に接続され、他端14bにバーナー11が設けられた燃焼筒14と、燃焼筒14に空気を供給するためのファン16と、バーナー11から液体燃料Fを噴出させるためのポンプ21と、軟起動機構22とを有する。軟起動機構22では、ポンプ21の起動時の圧力上昇により、ポンプ21の出口側からポンプ21の入口側に液体燃料Fを戻すための戻り経路22aが開かれ、その後、閉じられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼筒内で加熱された空気を放射ユニットに導くことにより、放射ユニットの表面の少なくとも一部から熱を放射(輻射)するタイプのヒータおよびその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒータの一種として、一端が放射ユニットに接続され、他端にバーナーが設けられた燃焼筒と、バーナーから燃焼筒内に向けて液体燃料を噴出させるためのポンプとを有し、燃焼筒内で液体燃料を燃焼させ、高温の燃焼ガスを放射ユニットに導くことにより、放射ユニットの表面から遠赤外線を放射(輻射)するように構成された、遠赤外線輻射型ヒータが知られている。
【0003】
また、特許文献1および2には、バーナー着火時の音(着火音)の抑制を目的とする電磁ポンプが開示されている。
【0004】
特許文献1の電磁ポンプは、作用停止時に吐出側を閉塞させる遮断弁機構を備えたものであって、以下のように構成されている。この電磁ポンプには、ポンプ内の吐出側から吸込側に連通するバイパス流路が設けられている。バイパス流路の吐出側の流路には、リリーフ弁座が設けられている。内部に弁室を有する筒状の弁保持筐体の一端には、リリーフ弁座に着座するリリーフ弁体が装着されている。リリーフ弁は、調圧バネによって、弁保持筐体を介して、リリーフ弁座を押圧する。また、弁室には、リーク弁座と、このリーク弁座に着座するリーク弁体とが内蔵されている。リーク弁座とリーク弁体との間には、漏溝が設けられている。また、この電磁ポンプには、漏溝を介し、リリーフ弁体と弁保持筐体とをそれぞれ貫通する通孔を経て、バイパス流路の吐出側と吸込側の流路に常時連通する漏洩路が設けられている。
【0005】
特許文献2の電磁ポンプもまた、ポンプ停止時に吐出を止める遮断弁を備えたものであって、以下のように構成されている。この電磁ポンプには、吐出弁より下流から吸込弁の上流に至る戻し流路が形成されている。戻し流路の途中には、拡大された空間にプランジャが配置されている。プランジャは、拡大された空間を高圧側空間と吸込側空間(低圧側空間)とに分けている。吸込側空間には、スプリングが配置されている。プランジャには、高圧側空間と低圧側空間とを連通させるオリフィスが形成されている。プランジャの吸込側端には、シートが設けられている。この電磁ポンプでは、スプリングを圧縮する方向に最大に移動したときに、シートがポンプ本体に接触して、戻し流路が閉じられるようになっている。
【0006】
さらに、特許文献3には、それぞれ開閉弁を備える2つのガンタイプバーナーと、1つの電磁ポンプとを有する給湯装置が開示されている。この給湯装置では、バーナー着火時の着火音を抑制するために、電磁ポンプのオンと同時に、大能力側の開閉弁を開いて、大能力側のバーナーに着火し、その後、若干の遅延をもって、小能力側の開閉弁を開いて、小能力側のバーナーに着火するように構成されている。
【特許文献1】実開平1―166777号公報
【特許文献2】特開平9−21474号公報
【特許文献3】特開平3−251611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような輻射型ヒータは、燃焼筒の出口が複数の放射管を含んでジグザグにアレンジされた放射ユニットに接続されており、燃焼筒において生成された燃焼ガスそのものを暖房用には使用せず、燃焼ガスにより加熱された放射管からの輻射熱を利用するクローズドタイプのヒータである。したがって、燃焼筒において生成された燃焼ガスを暖房用として使用する、いわゆるオープンタイプ(開放式)のヒータと比べて、着火音は外部に漏れ難い。
【0008】
一方、クローズドタイプのヒータは、オープンタイプのヒータと比べて、燃焼筒から放射ユニットの先端の排気口までの排気経路の距離が長く、圧力損失が大きい。このため、燃焼筒内の圧力は、オープンタイプのヒータと比較すると高くなり、バーナーの噴霧圧力も高くなる。したがって、燃料ポンプの出口圧は高い方が好ましい。特許文献1または2に記載されているような着火音抑制用の電磁ポンプは、ポンプ停止時に圧力を下げて、ポンプ起動時に戻し流路を用いて圧力の上昇を抑えるものであり、燃料ポンプの出口圧を早急に上げたいクローズドタイプのヒータには、従来、適さないものである。さらに、クローズドタイプのヒータでは、着火音が外部に漏れ難いので、着火音抑制用の電磁ポンプを用いる要求もない。
【0009】
クローズドタイプのヒータは、排気側の圧力損失が高いので、燃料筒に十分な空気を供給するためには加圧能力の高い空気供給用のファンが必要である。しかしながら、特に、気圧が低く、酸素の薄い状態(たとえば高標高地)や、気温が高い状況では、着火時に燃焼ガス量が急増すると、それにより燃焼筒の内圧が急激に高くなり、燃焼筒に空気を供給するためのファンの能力が不足し、燃焼筒内に必要な量の空気を押し込めず、酸素不足により不着火となる場合がある。
【0010】
そして、一旦不着火となると、燃焼ガス量は急激に減るので、過剰な空気が燃焼筒に入る。また、それ以前に燃焼筒内は、燃料過多の状態となっている。したがって、これらにより燃焼筒が冷やされてしまい着火不良になったり、燃料過多の状態で着火され、再び燃焼ガスが急増して上記と同じ現象を繰り返したり、燃焼不良で未燃成分が生じたり、黒煙が発生する可能性もある。したがって、クローズドタイプのヒータにおいては、不着火の抑制および着火率のさらなる向上が求められている。
【0011】
不着火を低減させる方法としては、高標高地などであっても、着火時の急激な燃焼筒内の圧力増加に対して燃焼筒に必要な量の空気を押し込むことができる大型のファンや静圧の高いファンを用いるという方法が考えられる。しかしながら、大型のファンや静圧の高いファンを用いると、製造および製品のコストアップとなるだけでなく、消費電力も大きくなるため、ランニングコストもアップさせてしまう。また、大型のファンや静圧の高いファンを用いると、低標高地においては、燃焼筒内に必要以上の空気が供給され、燃焼筒の温度上昇が妨げられたり、炎が放射ユニットに達して放射ユニットが損傷したり、良好な性能を得ることが難しくなる可能性もある。さらに、大型のファンを用いると、製品が大型化しやすいという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、熱輻射用の複数の放射管を含んでジグザグにアレンジされた放射ユニットと、一端が放射ユニットに接続された燃焼筒と、燃焼筒の他端に設けられたバーナーと、燃焼筒に空気を供給するためのファンと、液体燃料をバーナーから噴出させるためのポンプと、ポンプの出口側からポンプの入口側に液体燃料を戻すための開閉可能な戻り経路を備える軟起動機構とを有し、軟起動機構では、戻り経路が、ポンプの起動時の圧力上昇により、開かれ、その後、閉じられる、輻射型ヒータである。
【0013】
クローズドタイプのヒータでは、燃焼筒内の圧力が上がるので、それに対して十分な燃料を早急に投入するために、燃料の供給圧を急速に設定圧力に上げている。これに対し、ポンプの起動時の圧力上昇により、ポンプの出口から燃料タンクの側に液体燃料を戻すための戻り経路が開かれ、その後、閉じられるような軟起動機構を適用することにより、着火時における燃料ガス量の爆発的な増大を抑制し、燃焼筒の内圧の急激な上昇を抑制することにより、低圧状態あるいは高温状態における着火率を向上させる。
【0014】
クローズドタイプのヒータにおいて、燃料供給圧力を設定圧力まで早急に上げることも良好な着火性能を得るためには重要である。したがって、高標高地において良好な着火率を得るために、戻り経路が開かれてから閉じられるまでの軟起動時間Δtは、着火音低減のための軟起動時間が2〜3秒程度であるのに対して短くすることが望ましく、軟起動時間Δtは0.4秒〜1.4秒とすることが好ましい。軟起動時間Δtが0.4秒未満の場合、燃焼ガス量が急増するので、軟起動の効果が得られない。一方、軟起動時間Δtが1.4秒を越えると、起動時のバーナーの噴霧不良により着火不良になったり、未燃分が増加したりする。
【0015】
したがって、本発明の一態様にかかる輻射型ヒータによれば、戻り経路が開かれてから閉じられるまでの軟起動時間Δt、すなわち、ポンプ停止時の圧力から(戻り経路が開かれるポンプ吐出圧から)戻り経路が閉じられるポンプ吐出圧に達するまでの時間が0.4秒〜1.4秒となるような軟起動機構を用いることが好ましく、このようにすることにより、高標高地において、良好な着火率を得ることができる。また、軟起動時間Δtは、0.4秒〜1.0秒であることがさらに好ましい。軟起動時間Δtが0.4秒〜1.0秒となるような軟起動機構を用いることにより、低標高地においても、良好な着火率を得ることができる。さらに、軟起動時間Δtの最も好ましい範囲は、0.6秒〜0.8秒である。軟起動時間Δtが0.6秒〜0.8秒となるような軟起動機構を用いることにより、低標高地および高標高地のいずれにおいても、さらに良好な着火率を得ることができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係る輻射型ヒータは、放射ユニット内の排気口の近傍に、ヒータ駆動時(通常使用時)の音を抑制するためのサイレンサが設けられているものにも適している。すなわち、放射ユニット内にサイレンサが設けられているような輻射型ヒータでは、さらに、排気側の圧力損失が大きくなり、着火不良が発生し易い。これに対し、本発明の一態様にかかる輻射型ヒータによれば、燃料供給に伴う燃焼筒内の内圧の急激な上昇が抑制されるため、放射ユニット内にサイレンサが設けられていても、特に高標高地において、良好な着火性能を維持できる。
【0017】
本発明の他の態様は、輻射型ヒータの制御方法である。輻射型ヒータは、熱輻射用の複数の放射管を含んでジグザグにアレンジされた放射ユニットと、一端が放射ユニットに接続された燃焼筒と、燃焼筒の他端に設けられたバーナーと、燃焼筒に空気を供給するためのファンと、液体燃料をバーナーから噴出させるためのポンプと、ポンプの出口側からポンプの入口側に液体燃料を戻すための開閉可能な戻り経路とを有する。そして、制御方法は、ポンプの起動時に、戻り経路を一旦開き、その後、閉じる、軟起動工程を有する。本発明の他の態様にかかる制御方法によれば、クローズドタイプの輻射型ヒータにおいて、高標高地であっても、良好な着火性能を得ることができる。
【0018】
この制御方法において、ポンプの起動時に戻り経路を開閉する手段としては、たとえば、ポンプの起動時の圧力上昇により、戻り経路を開閉するバルブのようなものを挙げることができる。なお、この制御方法において、ポンプの起動時に戻り経路を開閉する手段は、ポンプの起動時の圧力上昇により、戻り経路を開閉するバルブに限定されるものではない。
【0019】
また、この制御方法において、軟起動工程は、戻り経路が開かれてから閉じられるまでの時間Δtを0.4秒〜1.4秒に設定することを含むことが好ましい。このようにすることにより、高標高地において、良好な着火率を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1に、ヒータユニットの一例を示している。ヒータユニット1は、ハウジング2と、ハウジング2内に収納された輻射型ヒータ10とを備えている。このヒータユニット1に用いられている輻射型ヒータ10は、放射ユニット12から、主として遠赤外線を輻射する、いわゆる、遠赤外線輻射型ヒータである。
【0021】
ハウジング2の前壁には、開口3が設けられており、この開口3を介して、遠赤外線輻射型ヒータ10の放射ユニット12が外部に露出している。また、外部から開口3を介して手などが不用意に放射ユニット12に接触しないように、ハウジング2の開口3には、柵4が嵌め込まれている。柵4は、手が入り込まない程度の間隔で互いに平行に(略水平方向に)配置された鉄製の丸棒によって形成されている。
【0022】
ハウジング2の後壁の内面には、反射板5が設けられている。したがって、遠赤外線輻射型ヒータ10から前側に輻射(放射)された遠赤外線は、開口3を介して外部に伝達され、後側に輻射(放射)された遠赤外線は、反射板5により前側に向けて反射され、開口3を介して外部に伝達される。さらに、開口3の側方には、輻射型ヒータ10を操作するための制御パネル9が配置されている。
【0023】
図2に、遠赤外線輻射型ヒータ10の概略構成を示している。この遠赤外線輻射型ヒータ10は、バーナー11と、熱(遠赤外線)を放射するための放射ユニット12と、一端14aが放射ユニット12に接続され、他端14bにバーナー11が設けられた燃焼筒14と、燃焼筒14の内部の燃焼室15に空気を供給するためのファン16と、バーナー11から噴霧して燃焼室15の内部で燃焼させるための液体燃料Fを蓄える燃料タンク18と、燃料タンク18から燃料Fをバーナー11に供給するための燃料供給装置20とを有している。燃料タンク18と燃料供給装置20とはサクションパイプ31により連結されている。サクションパイプ31の燃料タンク18側の端部には、燃料フィルタ32が設けられている。
【0024】
燃焼筒14の他端14bには、液体燃料噴霧ユニット35が接続されている。燃料噴霧ユニット35には、液体燃料を噴霧するためのバーナー11と、燃焼空気を供給するためのファン16とが収納されている。また、ファン16を駆動するためのモータ17が燃料噴霧ユニット35に取り付けられている。さらに、燃料噴霧ユニット35には、噴霧された燃料に着火するためのイグナイタ33および点火棒34が収納されている。
【0025】
燃焼筒14の一端14aに接続された放射ユニット12は、略水平方向に互いに平行に並んだ熱輻射用の複数の放射管12aと、互いに隣り合う放射管12aの端部同士を繋ぐようにU字状に曲げられた蛇腹状の複数の連結管12bとを含み、これら放射管12aおよび連結管12bによりジグザグにアレンジされた排気経路19が形成されている。本例では、放射ユニット12は、図1に最もよく示されるように、4つの放射管12aと4つの連結管12bとを含み、ハウジング2内に収納された略垂直方向に延びる一対の支柱6aおよび6bに巻きつけられ、螺旋状にアレンジされた排気経路19を形成している。また、放射ユニット12の下流側の端部(本例では、最も上方に位置する放射管12aの下流側の端部)には、排気筒13が設けられている。排気筒13の先端部(排気口13a)は、ハウジング2から外部に突き出している。
【0026】
また。放射ユニット12内には、排気口13aの近傍に、ヒータ駆動時(通常使用時)の音を抑制するための2つのサイレンサ40が設けられている。なお、サイレンサ40の数は2つに限定されるものではなく、1つであっても3つ以上であってもよい。サイレンサ40の数は、任意に決定できる。また、サイレンサ40は省略してもよい。
【0027】
放射管12aの表面には、遠赤外線放射を高める表面処理がなされている。この遠赤外線輻射型ヒータ10では、燃焼筒14の内部(燃焼室)15で液体燃料Fを燃焼させることにより発生した燃焼ガスが放射ユニット12に導かれ、放射管12aの温度が上昇する。これにより、各放射管12aの表面から、主として遠赤外線が放射(輻射)される。
【0028】
以下、燃料供給装置20について、詳しく説明する。燃料供給装置20は、軟起動機構付きの電磁ポンプであって、バーナー11から液体燃料Fを燃焼筒14の内部の燃焼室15に向けて噴出させるためのポンプ21と、ポンプ21の出口側からポンプ21の入口側(燃料タンク18の側)に液体燃料Fを戻すための開閉可能な戻り経路22aを含む軟起動機構(軟着火機構)22とを有している。軟起動機構22は、戻り経路22aが、ポンプ21の起動時の圧力上昇により、開かれ、その後、閉じられるように作用する。燃料供給装置20として装着可能な軟起動機構付きの電磁ポンプの一例は、特許文献2に開示されている戻し流路と、戻し流路を開閉可能なプランジャとを備えた電磁ポンプと基本的な構成は共通する電磁ポンプである。ただし、上述したように、特許文献2に開示されている電磁ポンプは、着火音の低減を図るものであり、以下に説明するような軟起動特性を備えているものではない。しかしながら、戻し流路と、プランジャとの動作については共通している。また、他の着火音の低減を図る目的の軟起動機構を備えた電磁ポンプを本実施形態の燃料供給装置として適用することも可能である。
【0029】
したがって、以下においては、着火音の低減を図るための公知の軟起動機構を備えた電磁ポンプを用い、本発明の目的に使用するために軟起動特性を得るために行った実験について説明する。以下の実験では、具体的には、日本コントロール工業株式会社製、VSRM36型(VSRM36 A3)電磁ポンプを用いている。
【0030】
図3に、燃料供給装置20の軟起動特性(燃料供給装置20の出口圧およびポンプ21の吐出圧における、時間tと圧力Pとの関係)を示している。図3において、実線は燃料供給装置20の出口圧、一点鎖線はポンプ21の吐出圧を示している。
【0031】
図3において、時刻t0はポンプ21が初期起動されるとき、時刻t1は戻り経路22aが開かれるとき、すなわち、ポンプ21が再起動され、それにより戻り経路を制御するプランジャが作用して戻り制御が開始されるときを示す。また、時刻t2は戻り経路22aが閉じられるとき、すなわち、ポンプ21の吐出圧が所定の値に達し、それによりプランジャが作用して戻り制御が終了されるときを示す。さらに、時刻t3は戻り制御が終了した結果、ポンプ21の吐出圧が燃料供給装置20の出口圧と等しくなったときを示している。
【0032】
この燃料供給装置20では、ポンプ21を停止させると、戻り経路22aが閉じられる。したがって、図3に示すように、ポンプ21を停止させても、圧力PはP1(P0<P1)で保持される。したがって、時刻t1にポンプ21を起動させると、ポンプ21の起動時の圧力上昇により戻り経路22aが開き、戻り経路22aを介して、液体燃料Fの一部がポンプ21の出口から燃料タンク18の側に戻される。このため、時刻t1から時刻t2の間は、燃料供給装置20の出口の圧力立ち上がり速度はポンプ吐出圧の立ち上がり速度より緩和される。
【0033】
時刻t2において、戻り経路22aが閉じられると、液体燃料Fの戻しが無くなる。したがって、燃料供給装置20の出口圧力は、急速にポンプ21の規定圧力に達する。この燃料供給装置20において、戻り経路22aが開かれてから閉じられるまでの軟起動時間、すなわち、ポンプ21の停止時の圧力から(戻り経路22aが開かれるポンプ吐出圧から)戻り経路22aが閉じられるポンプ吐出圧に達するまでの軟起動時間(軟着火時間)Δtは(t2−t1)で定義される。
【0034】
図4に、高標高地(海抜約800m)および低標高地(海抜約380m)において、軟起動機構22の軟起動時間Δtを変化させたときの、本例の遠赤外線輻射型ヒータ10の着火性能に関する実験結果を示してある。なお、図4において、二重丸(◎)は、10回の実験中10回着火したことを示している。丸(○)は、10回の実験中1回不着火があったことを示している。三角(△)は、10回の実験中2回の不着火があったことを示している。バツ(×)は、10回の実験中3回以上の不着火があったことを示している。
【0035】
図4に示すように、軟起動機構の軟起動時間Δtの範囲が0.4秒〜1.4秒のときに、高標高地において、良好な着火率が得られた。しかしながら、低標高地において若干の不着火の傾向が見受けられる。したがって、低標高地においてもさらに確実な着火性能が得られるためには、軟起動時間Δtの範囲は0.4秒〜1.0秒であることが望ましい。軟起動時間Δtの範囲が0.6秒〜0.8秒の場合は、高標高地であっても、低標高地であってもほぼ不着火は見られない。したがって、軟起動時間Δtの範囲は、0.6秒〜0.8秒であることがさらに好ましく、低標高地および高標高地のいずれにおいても、さらに良好な着火率を得ることができる。
【0036】
図5に、燃料供給装置20の軟起動特性を示している。圧力P1は、交流100V、50Hzおよび60Hzにおける、時刻t1の燃料供給装置20の出口圧、すなわち、戻り制御が開始されたときの圧力を示す。圧力P2は、交流100V、50Hzおよび60Hzにおける、時刻t2の燃料供給装置20の出口圧、すなわち、戻り制御が終了したときの圧力を示す。これらの圧力P1およびP2に対して、図4の結果より、クローズド型の遠赤外線輻射型ヒータ10では、軟起動機構22を有する燃料供給装置20を用い、さらに軟起動時間Δtの範囲を0.4秒〜1.4秒にすることにより、着火性能を改善できる。また、軟起動時間Δtの範囲は0.4秒〜1.0秒にセットすることがさらに好ましく、軟起動時間Δtの範囲を0.6秒〜0.8秒にセットすることがいっそう好ましいことは上述したとおりである。
【0037】
図6に、起動時の炉内圧Pin(燃焼筒内圧、すなわち燃焼室内圧)の変動を時間tに対して示している。実線は、本例のヒータ10、破線は、軟起動機構を有しない従来の遠赤外線輻射型ヒータ(クローズドタイプのヒータ)(比較例1)、一点鎖線は、軟起動機構を有しないオープンタイプのヒータ(比較例2)の起動時の炉内圧変化を示している。
【0038】
図6から分かるように、上記の軟起動特性を備えた燃料供給装置20を採用することにより、本例のヒータ10では、比較例1の従来の遠赤外線輻射型ヒータに対して着火時における燃焼筒の内圧Pinの急激な上昇(燃料供給に伴う燃焼室の内圧の急激な上昇)を抑制できており、炉内圧の変動を比較例2のオープンタイプのヒータに近づけることができている。このような測定結果は、上記の軟起動特性を備えた燃料供給装置20を採用することにより、着火時の燃焼ガスの発生量を抑え、炉内圧の爆発的な上昇を抑制できることを示していると考えられる。したがって、上記の軟起動特性を備えた燃料供給装置20を採用することにより、クローズドタイプのヒータ10でありながら、オープンタイプのヒータに近い着火性能を得ることができる。特に、本例のヒータ10は、放射ユニット12がマフラー40を含み、排気経路19の圧力損失が大きいために、炉内圧(燃焼室内の圧力)が上がり易い構成であるが、軟起動特性を備えた燃料供給装置20を採用することにより、着火時の圧力変動を抑え、着火性能を向上できる。
【0039】
図7に、比較例1の遠赤外線輻射型ヒータにおける、標高380mでの着火率の測定結果を示してある。図8に、図2に示した本例の遠赤外線輻射型ヒータ10における、標高380mでの着火率の測定結果を示してある。図9に、図2に示した本例の遠赤外線輻射型ヒータ10における、標高800mでの着火率の測定結果を示してある。
【0040】
図7に示すように、比較例1の従来の遠赤外線輻射型ヒータでは、標高380mにおいて、不着火が見られた。これに対し、上記の軟起動特性を備えた燃料供給装置20を採用した本例のヒータ10では、図8に示すように、標高380mにおいて、不着火は見られず、着火性能を改善できることが分かる。さらに、本例のヒータ10では、図9に示すように、標高800mであっても、不着火は見られなかった。このように、本例のヒータ10においては、上記の軟起動特性を備えた燃料供給装置20を採用することにより、着火性能、特に、高標高地における着火性能を改善できることがわかった。
【0041】
以上のように、本例の遠赤外線輻射型ヒータ10およびその制御方法によれば、高標高地のような低圧状態、あるいは炎天下などの高温状態など、燃焼室15に空気(酸素)が十分に供給されないような条件においても、良好な着火率が得られ、さらに信頼性の高い輻射型ヒータを提供できる。したがって、クローズドタイプの輻射型ヒータにおいて、着火時の圧力変動による騒音あるいは振動を防止でき、また、未着火による未燃成分や黒煙の発生を抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態にかかる輻射型ヒータを備えるヒータユニットの一例を示す斜視図。
【図2】図1のヒータユニットが備える輻射型ヒータの概略構成を示す図。
【図3】図2の輻射型ヒータが備える燃料供給装置の軟起動特性を示す図。
【図4】高標高地および低標高地において、軟起動機構の軟起動時間Δtを変化させたときの輻射型ヒータの着火性能に関する実験結果を示す図。
【図5】図2の輻射型ヒータが備える燃料供給装置の軟起動特性であって、交流100V、50Hzおよび60Hzにおける、ポンプの停止時であって戻り経路が開かれた時の燃料供給装置の出口圧P1、戻り経路が閉じられた時の燃料供給装置の出口圧P2、軟起動時間Δtを示す図。
【図6】本例の輻射型ヒータ、比較例1のヒータ(従来の輻射型ヒータ)、および比較例2のヒータ(オープンタイプのヒータ)における、燃焼筒内の圧力(炉内圧)Pinの経時変化を示す図。
【図7】比較例1の輻射型ヒータにおける、標高380mでの着火率の測定結果を示す図。
【図8】本例の輻射型ヒータにおける、標高380mでの着火率の測定結果を示す図。
【図9】本例の輻射型ヒータにおける、標高800mでの着火率の測定結果を示す図。
【符号の説明】
【0043】
10 輻射型ヒータ、 11 バーナー
12 放射ユニット、 12a 放射管
13a 排気口、 14 燃焼筒
14a (燃焼筒の)一端、 14b (燃焼筒の)他端
16 ファン、 18 燃料タンク
21 ポンプ、 22 軟起動機構
22a 戻り経路、 40 サイレンサ
F 液体燃料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱輻射用の複数の放射管を含んでジグザグにアレンジされた放射ユニットと、
一端が前記放射ユニットに接続された燃焼筒と、
前記燃焼筒の他端に設けられたバーナーと、
前記燃焼筒に空気を供給するためのファンと、
前記バーナーから液体燃料を噴出させるためのポンプと、
前記ポンプの出口側から前記ポンプの入口側に液体燃料を戻すための開閉可能な戻り経路を備える軟起動機構とを有し、
前記軟起動機構では、前記戻り経路が、前記ポンプの起動時の圧力上昇により、開かれ、その後、閉じられる、輻射型ヒータ。
【請求項2】
請求項1において、前記軟起動機構は、前記戻り経路が開かれてから閉じられるまでの軟起動時間が0.4秒〜1.4秒である、輻射型ヒータ。
【請求項3】
請求項1において、前記放射ユニットは排気口を含み、その排気口の近傍に、サイレンサが設けられている、輻射型ヒータ。
【請求項4】
輻射型ヒータの制御方法であって、前記輻射型ヒータは、
熱輻射用の複数の放射管を含んでジグザグにアレンジされた放射ユニットと、
一端が前記放射ユニットに接続された燃焼筒と、
前記燃焼筒の他端に設けられたバーナーと、
前記燃焼筒に空気を供給するためのファンと、
前記バーナーから液体燃料を噴出させるためのポンプと、
前記ポンプの出口側から前記ポンプの入口側に液体燃料を戻すための開閉可能な戻り経路とを有し、
当該制御方法は、
前記ポンプの起動時に、前記戻り経路を一旦開き、その後、閉じる、軟起動工程を有する、制御方法。
【請求項5】
請求項4において、前記軟起動工程では、前記戻り経路が開かれてから閉じられるまでの時間を0.4秒〜1.4秒に設定することを含む、制御方法。
【請求項6】
請求項4において、前記軟起動工程では、前記ポンプの起動時の圧力上昇により、前記戻り経路を開閉することを含む、制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−64409(P2008−64409A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245000(P2006−245000)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000103921)オリオン機械株式会社 (450)
【Fターム(参考)】