説明

農作業機

【課題】センサ類を増やすことなく、農作業機が自動直進時に畦に乗り上げる事故を防止する。
【解決手段】農作業機一般に装備されている前後傾斜センサ23又は車速センサ26を利用する。そして、機体が所定角度以上前後傾斜したことを前後傾斜センサ23が検出した場合、走行を停止させるように制御装置で制御する。又は、車速が所定速度以下まで低下したことを車速センサ26が検出した場合、走行を停止させるように制御装置で制御する。上記制御は制御停止手段18により停止させられるようにし、圃場脱出時に意図的に機体を畦に乗り上げることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動直進で圃場内作業を行える農作業機に関し、特に自動直進時に圃場の端部で畦に乗り上げるのを回避するための技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動直進可能な農作業機、例えば田植機では、自動直進で植付作業中、運転者が苗補給等の作業を行っていて機体が畦に接近していることに気付かず、そのまま畦に乗り上げてしまう危険がある。これを回避するために、従来は、機体から畦までの距離を検出する畦距離センサを設け、該センサからの信号に基づき機体が畦から所定距離の位置まで近づくとブザー等で報知するようにしていた。報知により運転者が座席へ戻り、走行の停止や旋回動作等の適切な処置を行う。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術は、畦に接近したことを運転者に知らせるだけであり、最終的には運転者の操作で畦に乗り上げるのを回避するものである。したがって、何らかの事情で運転者が座席へ戻れない場合には、畦に乗り上げる事故になるおそれがあった。また、前記畦距離センサは畦に乗り上げるのを回避する目的だけのために設けられているが、農作業機一般に装備されているセンサを利用して上記目的を達成することができれば、コストの削減になる。本発明は、これらの点を考慮して農作業機の改良を図ろうとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明は次の構成とした。すなわち、本発明にかかる農作業機は、機体の前後傾斜を検出する前後傾斜センサ又は車速を検出する車速センサの検出値に基づき走行を停止させるように制御する制御装置を設けるとともに、上記制御の実行を停止させる制御停止手段を設けたことを特徴としている。
【0005】
機体が畦に乗り上げる前兆として、前輪が畦にかかって機体が前上りに傾斜する、畦に衝突して車速が低下する等の変化が発生する。そこで、機体が所定角度以上前後傾斜したことを前後傾斜センサが検出するか、又は車速が所定速度以下まで低下したことを車速センサが検出した場合、走行を停止させるようにした。これにより、機体が畦に乗り上げるのを防止できる。制御停止手段により上記制御を停止させられるので、圃場脱出時に意図的に畦に乗り上げることが可能である。前後傾斜センサ及び車速センサはいずれも農作業機一般に装備されているものであるから、新たにセンサを設ける必要がない。
【0006】
【発明の効果】
本発明にかかる農作業機は、畦に乗り上げる前兆として生じる機体の前後傾斜の変化や車速の変化に応じて自動的に走行を停止させるように制御するので、運転者が停止操作を行えない場合でも、畦に乗り上げる前に機体を確実に停止させられるようになり、安全性が向上した。また、農作業機一般に装備されているセンサを利用して上記制御を行うので、新たにセンサを設ける必要がなく、コストの削減が可能である。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、図面に表された実施の形態について説明する。図1及び図2に示す農作業機1は乗用施肥田植機であって、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して苗植付部4が昇降可能に装着され、さらに走行車体2の後部に施肥装置5の肥料タンク60等が設けられている。走行車体2の前部左右両側には、複数段づつの予備苗枠6,…が設けられている。
【0008】
走行車体2は、駆動輪である各左右一対の前輪10,10及び後輪11,11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12、その後方にエンジン13が設けられている。エンジン13の回転動力は、油圧式無段変速装置14を介してミッションケース12へ伝達される。そして、ミッションケース12内の主変速装置で変速された後、前輪10,10及び後輪11,11と、苗植付部4及び施肥装置5の各駆動部とに伝達される。
【0009】
エンジン13の上側に座席15が設置され、その周囲に下記の各種操作具が設けられている。16は前輪10,10を操向する操向ハンドル、17はミッションケース12内の主変速装置を操作する主変速レバー、18は油圧式無段変速装置14を操作する副変速レバー、19はスロットルレバー、20は自動直進制御をさせる自動直進スイッチである。副変速レバー18の操作位置は副変速レバーセンサ21で、スロットルレバー19の操作位置はスロットルレバーセンサ22でそれぞれ検出する。また、機体の前後傾斜を前後傾斜センサ23で、機体の左右傾斜を左右傾斜センサ24で、機体の進行方向を方位センサ25で、車速を車速センサ26でそれぞれ検出するようになっている。
【0010】
昇降リンク装置3は、前端側で回動自在に支持された互いに平行な1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41の後端部とに連結枠42が連結されており、該連結枠に苗植付部4がローリング自在に装着されている。昇降シリンダ43を作動させることにより、各リンクが上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。上リンク40の角度はリンク角センサ45で検出する。
【0011】
苗植付部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース50、苗を載せて左右往復動し苗を一株づつ各条の苗取出口51a,…に供給する苗載台51、苗取出口51a,…に供給された苗を圃場に植付ける苗植付装置52,…等を備えている。苗植付部4の下部には中央にセンターフロート55、その左右両側にサイドフロート56,56がそれぞれ設けられており、植付作業時には、各フロートが泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置52,…が苗を植付ける。苗載台51には、苗が一定量以下になるとONになるスイッチ式の苗減少センサ57A,57Bが上下2箇所に設けられている。高位の苗減少センサ57Aの方が苗減少センサ57Bよりも苗残量が多い段階でONになる。
【0012】
施肥装置5は、肥料タンク60内の肥料を肥料繰出部61,…によって一定量づつ下方に繰り出し、その繰り出された肥料を施肥ホース62,…を通して施肥ガイド63,…まで移送し、該施肥ガイドの前側に設けた作溝体64,…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込むようになっている。肥料タンク60には肥料が一定量以下になるとONになるスイッチ式の肥料減少センサ65が設けられている。
【0013】
図3は自動直進にかかわる制御装置のブロック図である。自動直進スイッチ18及び各センサ21,22,23,24,25,26,45,57A,57B,65からの信号が入力インターフェース70を介してCPU71に入力され、これらの情報に基づき、CPU71から出力インターフェース72を介してエンジンスイッチ73、副変速レバー18を駆動する電動モータ74、昇降シリンダ43を制御する昇降用電磁バルブ75、苗減少報知ブザー76、及び肥料減少報知ブザー77に出力信号が出される。
【0014】
自動直進スイッチ18をONにすると自動直進となり、方位センサ25からの情報に基づき、予め行ったティーチング走行で設定した方位に直進走行する。この自動直進中は、以下の各制御を行う。
【0015】
図4のフローチャートに示すように、前後傾斜センサ値が予め定めた所定の設定値よりも大きい場合は、エンジン13を停止するように制御する。上記のような前後傾斜センサ値の変動は、前輪が畦にかかって機体が前上りになったことによると推測されるので、緊急に走行停止させて、機体が畦に乗り上げるのを回避するのである。制御停止手段である自動直進スイッチ18をOFFにすれば、この制御が停止されるので、圃場脱出時に意図的に畦に乗り上げることが可能である。
【0016】
同じ目的で、図5のフローチャートに示すように制御してもよい。すなわち、自動直進中に、スロットルレバー19や副変速レバー18が操作されていないにもかかわらず、車速が低下した場合、畦に衝突することにより車速が低下したと推測し、エンジン13の停止による緊急停止を行うのである。これによっても、機体が畦に乗り上げるのを回避することができる。
【0017】
苗減少の報知に関しては、図6のフローチャートに示す制御をする。すなわち、自動直進中は高位置にある苗減少センサ57AがONになると苗減少報知ブザー76に出力し、通常の手動操向中は低位置にある苗減少センサ57BがONになると苗減少報知ブザー76に出力するように制御する。自動直進時は植付作業を継続したまま苗補給を行うので、苗減少報知ブザー76が出力されてから苗補給が行われるまでの間に苗載台51の苗が減少する。この減少分を見越して通常よりも早めに苗減少報知ブザー76が出力されるようにするのである。
【0018】
また、肥料減少の報知に関しては、図7のフローチャートに示す制御をする。すなわち、自動直進スイッチ18のON・OFFにかかわらず、肥料減少センサ65が肥料の減少を検出した場合は、肥料減少報知ブザー77に出力し、さらに自動直進スイッチ18を自動的にONにするとともに、副変速レバー17を低速位置に操作するように電動モータ74に出力する。これにより、操向や速度調節を気にせず、肥料補給作業に専念することができる。
【0019】
主として路上走行時において、苗植付部4を上げた状態で走行しているときに機体が左右に傾斜すると転倒の危険がある。そこで、図8のフローチャートに示すように、左右傾斜センサ値が予め定めた設定値より大きい場合、左右傾斜センサ値から苗植付部4の下降目標値を演算し、その下降目標値まで苗植付部4を下降するように昇降用電磁バルブ75に出力する。左右傾斜が大きいほど下降目標値を低くするが、苗植付部4を接地するまでは下降させない。これにより、走行に支障を生じさせることなく、転倒の危険を未然に回避する。
【図面の簡単な説明】
【図1】農作業機の平面図である。
【図2】農作業機の側面図である。
【図3】自動直進にかかわる制御系のブロック図である。
【図4】畦乗り上げ回避制御のフローチャートである。
【図5】異なる畦乗り上げ回避制御のフローチャートである。
【図6】苗減少報知制御のフローチャートである。
【図7】肥料減少時制御のフローチャートである。
【図8】転倒防止制御のフローチャートである。
【符号の説明】
1 乗用施肥田植機(農作業機)
2 走行車体
3 昇降リンク装置
4 苗植付部
5 施肥装置
18 自動直進スイッチ(制御停止手段)
23 前後傾斜センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体の前後傾斜を検出する前後傾斜センサ又は車速を検出する車速センサの検出値に基づき走行を停止させるように制御する制御装置を設けるとともに、上記制御の実行を停止させる制御停止手段を設けたことを特徴とする農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2004−116441(P2004−116441A)
【公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−282510(P2002−282510)
【出願日】平成14年9月27日(2002.9.27)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】