農作業用台車および農作業用椅子
【課題】 農作業に適用可能な構造をもち、農作業による身体的な負担を顕著に軽減することができる農作業用椅子、及び農作業用台車を提供する。
【解決手段】 椅子不使用時には、台車フレームへの取り付け機構によって姿勢安定部材が地面から浮いた状態とされ、椅子使用時には、姿勢安定部材が地面に接触した状態とされて、作業内容に合わせた作業姿勢を取ることにより、所定の範囲で座部の高さを変えることも、座部の前後、左右への傾斜を変えることもできるようにした農作業用椅子、及び特殊構造の旋回式のトレイ台を具備した作業用台車。
【解決手段】 椅子不使用時には、台車フレームへの取り付け機構によって姿勢安定部材が地面から浮いた状態とされ、椅子使用時には、姿勢安定部材が地面に接触した状態とされて、作業内容に合わせた作業姿勢を取ることにより、所定の範囲で座部の高さを変えることも、座部の前後、左右への傾斜を変えることもできるようにした農作業用椅子、及び特殊構造の旋回式のトレイ台を具備した作業用台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業に用いる農作業用台車および農作業用椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、台車と一緒に用いる作業用椅子としては、座部が回転自在となるように支持されたものや、座部が高さ調整可能となるように支持されたものなど種々提案されている。作業のうちでも農作業は、膝、足、腰などに重度の身体的負担がかかる。そこで、農作業による身体的負担を軽減するため、作業用椅子に腰をおろした状態で農作業を行うことも実施されるようになってきている。一方、農作業用台車には、多様な農作業に対応できるように4輪を具備して、例えば狭い畝を走行できるようになっているものもある。かかる作業用台車に具備されている椅子の多くは、ある作業内容に対して作業がしやすい作業姿勢を取ることができるよう、予め椅子の姿勢を設定して使用するものである(例えば特許文献1、2)。
【特許文献1】特開平7−1704号公報
【特許文献2】実用新案登録第3002157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に記載の作業用台車を用い、予め椅子の姿勢を設定して農作業を行ったとしても、膝、足、腰等の身体的な疲労が大きくなるという問題が発生する。すなわち、特許文献1に記載の作業用台車を用いた場合には、ある作業内容に対して作業がしやすい姿勢を取ることができるが、農作業は種々の作業姿勢を取って行うことが普通であり、他の作業内容に対して、必ずしも作業がしやすい作業姿勢を取ることができなくなる。このため、予め椅子の姿勢が設定された椅子に腰をかけて農作業を行ったとしても、膝、足、腰等に身体的な負担がかかることになる。
【0004】
元来、人間はその身体の構造上、同じ作業姿勢に長時間耐えることができない。このため、予め椅子の姿勢が設定された椅子に腰をかけて、農作業を効率的に行うには無理がある。例えば、菊の採穂作業などでは、作業用台車をある場所に移動させ、ある場所において、身体をひねり、腕を伸ばし、しゃがみ込み、前屈姿勢となって採穂作業を行うようになる。このため、適宜な休息時間を取りながら採穂作業のような農作業を断続的に継続したとしても、予め椅子の姿勢が固定された椅子を用いた場合には、ふくらはぎ、膝、腰等への身体的な負担が大きくなったり、また、しゃがみ込み姿勢から立ち上がる動作がきつくなる。
【0005】
また、農作業では、通路が限られた狭い畝などの場所において、作業用台車を移動させつつ、農作業を行う場合も多い。このため、通路が限られたスペースに対応可能な台車構造とする必要もある。しかし、そのような構造をもつ、農作業による身体的な疲労を軽減できる台車は見あたらないのが現状である。
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、農作業に適用可能な構造をもち、農作業による身体的な負担を顕著に軽減することができる農作業用椅子、及び農作業用台車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、椅子の姿勢を変えることができる構造の農作業用椅子、及び特殊構造の旋回式のトレイ台を具備した作業用台車とすることで前記課題を解決した。
本発明は、以下のとおりである。
1.農作業用台車に具備した椅子であって、2本の脚部が上、下脚部に分かれており、上脚部が座部と一体とされ、前記2本の脚部が台車移動方向に沿って前後に揃えて配置され、2本の脚部の各下脚部が姿勢安定部材を介してピン回りに回動自在に連結ピンで互いに連結されて、椅子不使用時には、台車フレームへの取り付け機構によって前記姿勢安定部材が地面から浮いた状態とされ、椅子使用時には、前記姿勢安定部材が地面に接触した状態とされて、作業内容に合わせた作業姿勢を取ることにより、所定の範囲で座部の高さを変えることも、座部の前後、左右への傾斜を変えることもできるようにしたことを特徴とする農作業用椅子。
【0007】
2.前記姿勢安定部材の台車フレームへの取り付け機構は、一端側が姿勢安定部材に固定され、他端側が台車フレーム下部に伸びる接続部材と、該接続部材を介して椅子本体を浮上させる付勢力を付与するために台車フレーム下部の異なる2箇所に配置されたコイルばねを含むことを特徴とする上記1.に記載の農作業用椅子。
3.前記姿勢安定部材が一対のL形部材とされ、一対のL形部材に固定する接続部材が2つの平形部材とされていることを特徴とする上記1.又は2.に記載の農作業用椅子。
【0008】
4.前記2本の脚部が上、下脚部間に挟んで装着したコイルばねにより脚部長を可変とする構造を有することを特徴とする上記1.〜3.のいずれかに記載の農作業用椅子。
5.前記脚部長を可変とする構造は、コイルばねが縮む分に相当する上下方向長さを有するスリットを、筒の中心を挟んで対向する位置に形成した内筒と、該内筒より内径が大きく、かつ連結ピンの挿入孔を筒の中心を挟んで対向する位置に形成した外筒とを含み、コイルばねを挿入した外筒に内筒を装着し、外筒に形成した連結ピンのピン孔の位置と、内筒に形成したスリットの位置とを合わせた状態で連結ピンを挿入し、連結ピンで内筒と外筒を連結した構造であることを特徴とする上記4.に記載の農作業用椅子。
【0009】
6.台車フレームに椅子が支持されているとともに、タイヤを有する4輪により台車移動方向に向けて直進可能な構造をもつ農作業用台車において、旋回式のトレイ台は、トレイを長手方向にスライドできる矩形状の枠体の長手方向先端部にトレイを載せたまま、平面で見てアーム板と枠体間を長手方向に屈曲させ、作業がしやすい位置にトレイを差し出すことができる構造をもつことを特徴とする農作業用台車。
【0010】
7.前記タイヤを有する4輪に加えて、前記タイヤを有する前輪または後輪の2輪の代わりに、タイヤを有する4輪による台車移動方向と異なる方向に台車を移動する際に使用する自在輪を、台車フレームの左右2箇所に支持体で回転自在に支持した状態で設け、前記自在輪を用いて移動する使用位置と前記自在輪を収納した不使用位置との間をレバー操作により切換可能としたことを特徴とする上記6.に記載の農作業用台車。
【0011】
8.上記1.〜5.のいずれかに記載の農作業用椅子を具備したことを特徴とする上記6.又は7.に記載の農作業用台車。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る農作業用椅子によれば、作業者が座部に腰を掛けた状態で作業内容に合わせ作業がしやすいように作業姿勢を取ることによって、椅子の姿勢を変えることができるから、農作業による身体的な負担を顕著に軽減することができる。
本発明に係る農作業用台車によれば、作業者が座部に腰を掛けた状態で作業内容に合わせ作業がしやすいように、旋回式のトレイ台にトレイを載せたまま、トレイ台を旋回させてトレイを作業がしやすい位置に移動させることができるから、農作業による身体的な負担を顕著に軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を農作業に適用した実施の形態について図1〜図4を用いて説明する。
図1(a)、(b)は、実施の形態に係る農作業用台車の概略側面図、同概略正面図である。実施の形態に係る農作業用台車は、限られた空間を最大限に利用するため、図1(a)、(b)に模式的に示すように、台車フレーム2に支持した椅子1、及び台車フレーム2上に取り付けた旋回式のトレイ台4を有する。この農作業用台車(単に台車ともいう)は、作業時、タイヤ6を有する4輪によって台車移動方向10に向けて前進、後退させる移動機構を有している。
【0014】
この場合、台車を前進、後退させる移動機構は、駆動用ギアモーター7の回転をスプロケット8A(歯数T=17)に伝え、チェーンベルト8Bを介してスプロケット8C(歯数T=26)にその回転を伝えることで、2つの駆動輪を駆動させる機構である。残るタイヤ6を有する2輪は従動輪である。この台車に具備したコントロールボックス9Aは、リモコン送信器から発せされた信号をリモコン受信アンテナ9Bで受信し、駆動用ギアモーター7を介して台車の移動をコントロールすることができる。このような駆動輪をもつ作業用台車の場合には、人力で台車を押したり引いたりせず、台車を台車移動方向10に向けて前進、後退させることができ、台車を移動することに伴う身体的な負担を軽減することができるので好ましい。
【0015】
なお、実施の形態に係る農作業用台車は、台車フレーム2の下部に配置した自在輪6Aを有し、レバー操作により使用位置にした場合には、台車移動方向10と異なる方向に台車を人力により移動することができるようになっている。図1(a)において、右方への台車移動が前進、左方への台車移動が後退である。また、図1(a)、(b)中、2Aは、台車フレーム2に設けた背もたれを示す。
【0016】
この実施の形態に係る農作業用台車は、例えば後述する採穂作業において、地面から高さ約20〜30センチメートルに達した菊の親株から伸長した穂をつみ取り、旋回式のトレイ台4に置いたトレイ5に収納する作業を行う場合に好適な構造とされている。
ここで、実施の形態に係る作業用台車に具備した椅子1(農作業用椅子ともいう)は、台車移動方向10に向けて前後に2本の脚部を揃えて配置されている。この椅子1は、図1〜図3に示すように、2本の脚部が上、下脚部1B、1Cに分かれており、上脚部1Bが座部1Aと一体とされ、上、下脚部1B、1C間にはコイルばね14が装着されている(図4参照)。また、椅子不使用時には、図2に示すように、台車フレーム2への取り付け機構によって椅子本体が地面11から浮いた状態にされる。すなわち、ある作業場所から次の作業場所に台車を移動する際には、2本の脚部の各下脚部1Cを連結ピン16で互いに連結している姿勢安定部材13が地面11から浮いた状態となる。図1、2中、δは、座部1Aに作業者が腰を掛けていないときの地面11からの浮上量を示す。
【0017】
この場合、椅子本体の台車フレーム2への取り付け機構は、図2に示すように、一端側が姿勢安定部材13に固定され、他端側が台車フレーム2下部に伸びる接続部材3と、接続部材3を介して椅子1本体を浮上させる付勢力を付与するために台車フレーム2下部の異なる2箇所に配置されたコイルばね3A、3Bを含む。
一方のコイルばね3Aは、台車フレーム2の椅子側から離れた部位に接続部材3より上方に配置され、他方のコイルばね3Bは、台車フレーム2の椅子側に近い部位に接続部材3より下方に配置されている。なお、接続部材3は、例えばリベット結合により姿勢安定部材13の下部に固定することができる(図2〜4参照)。図4中、13Aはリベット孔を示す。姿勢安定部材13が一対のL形部材とされ、姿勢安定部材13に固定した接続部材3が平形部材とされていることが好ましい。この実施の形態に係る作業用台車に具備した椅子1の使用時における作用効果は後述する。
【0018】
次いで、作業用台車に具備した椅子1の構造につき、図3、4を用いて説明する。
図3(a)、(b)は、椅子1の概略側面図、概略正面図であり、図4は、椅子1の脚内構造を示す部分縦断面図である。図3(a)中、aは、下脚部1Cを姿勢安定部材13に連結する連結ピン16間の間隔を示し、図4中、bは下脚部1Cに形成したスリットの上下方向長さを示す。
【0019】
この作業用台車に具備した椅子1は、2本の脚部の各下脚部1Cが姿勢安定部材13を介してピン回りに回動自在に連結ピン16で互いに連結されている。前記連結ピン16は、下脚部1C及び姿勢安定部材13に形成したピン孔に挿入され抜け止め子16Aで抜け止めされている。そして、図4に示したように、椅子1の2本の脚部は上、下脚部間に挟んで装着したコイルばねにより脚部長が可変とされている。
【0020】
脚部長を可変とする構造は、上、下脚部1B、1C間に挟んで装着したコイルばね14と、コイルばね14が縮む分に相当する上下方向長さbを有するスリットを筒の中心を挟んで対向する位置に形成した内筒と、該内筒より内径が大きく、かつ連結ピン15の挿入孔を、筒の中心を挟んで対向する位置に形成した外筒とを含む(図4参照)。そして、コイルばね14を挿入した外筒に内筒を装着し、連結ピン15のピン孔の位置と、スリットの位置とを合わせた状態で連結ピン15を挿入し、連結ピン15で内筒と外筒を連結した構造である。内筒と外筒を連結した連結ピン15は、抜け止め子15Aで抜け止めされている。また、2本の脚部にそれぞれ装着したコイルばね14は、同じ力に対して同じだけ縮む弾発力とされている。このような構造をもつ椅子1とした場合には、簡単な構造により、農作業に適した脚部長可変構造とすることができるので好ましい。
【0021】
このような脚部長可変構造をもつ椅子1とした場合には、椅子使用時、農作業を行う作業者が座部1Aに腰を掛け、2本の脚部に均等な力を作用させる作業姿勢を取った場合には、2本の脚部にそれぞれ装着したコイルばね14が同じ量だけ縮んで、座面12が地面11と略平行な水平な状態となる。
以上説明した作業用台車に具備した椅子1の作用効果について説明する。
【0022】
図5は、椅子使用時に、作業者が座部1Aに腰を掛けた状態で作業内容に合わせ農作業がしやすいように作業姿勢を取ることによって、椅子1の姿勢を変えることができることを説明するための概略図であり、図5(a)は側面図、同図(b)は正面図である。
上述した椅子1は、2本の脚部にそれぞれコイルばね14が装着され、2本の脚部の各下脚部1Cが姿勢安定部材13を介してピン回りに回動自在に連結ピン16で互いに連結されて、前記姿勢安定部材13が台車フレーム2へ取り付け機構によって取り付けられている。このため、作業者が座部1Aに腰を掛けたまま、作業内容に合わせた作業姿勢を取ることにより、台車移動方向10に沿って前後に揃えて配置された2本の脚部に加える力を変えた場合には、2本の脚部にそれぞれ装着されたコイルばね14の縮み量が異なる状態となる。その結果、図5(a)に示すように、座面12が地面11と略平行な水平な状態から台車移動方向10に対して前後に傾斜した状態に椅子1の状態を変えることができる。
【0023】
なお、図5(a)には、座面12が前(反台車側)に傾斜するように椅子1の状態を変えた場合の上下脚部の筒中心1Dの傾斜方向17、18を示した。ここで、座面12の前後への傾斜が過度にならないように規制することが重要である。そのためには、下脚部1Cを姿勢安定部材13に連結する連結ピン16間の間隔aと、下脚部1Cに形成したスリットの上下方向長さbを適正にし、上下脚部の筒中心1Dの前後方向への傾斜は、農作業に応じて45°以下とするのが望ましい。
【0024】
また、作業者が座部1Aに腰を掛けたまま、作業内容に合わせ作業がしやすい作業姿勢を取ることで、図5(b)に示すように、座面12が地面11と略平行な水平な状態から台車移動方向10に対して左右に傾斜した状態に椅子1の姿勢を変えることもできる。図5(b)中、19は、正面から見て左へ座面12が傾斜するように椅子1の状態を変えた場合の上下脚部の筒中心1Dの傾斜方向を示す。ただし、台車移動方向10に対して座面12の左右への傾斜が過度になった場合には、作業者が安定した作業姿勢で農作業を行うことが困難となる。そこで、作業用台車に具備した椅子1は、姿勢安定部材13、及び作業用台車へ椅子1本体を取り付ける機構により、上下脚部の筒中心1Dの左右方向への傾斜を所定範囲に規制している。この筒中心1Dを垂直線11Aから左右へ傾ける際の傾斜角は、農作業に応じて0〜30°とするのが望ましい。
【0025】
以上説明したとおり作業用台車に具備した椅子1を用いることにより、旋回式のトレイ台4を作業がしやすい位置に移動させ、作業者が椅子に腰を掛けた状態で作業内容に合わせ作業がしやすいように作業姿勢を取ることによって、椅子1の姿勢を変えることができるから、ふくらはぎ、膝、腰等への農作業による身体的な負担を顕著に軽減することができる。また、しゃがみ込み姿勢から立ち上がる動作を行う際にも、姿勢安定部材13の台車フレーム2への取り付け機構と、2本の脚部にそれぞれ装着したコイルばね14の弾発力の助けによって膝、腰等への身体的な負担が軽減できる。この結果、作業用椅子1を使用した場合には、農作業を効率的に行うことができる。
【0026】
例えば上述した作業用台車を用い、農作業として菊の採穂作業を行う場合には、畝の一端から他端に向けて台車を断続的に移動させる。その際、台車の停止中に、椅子1に作業者が腰を掛け、畝を挟んで左右に植えられた菊の栽培場所から高さ20〜30センチメートルに達した菊の親株から伸長した穂を人手により摘み取り、台車に載せたトレイ内に収めるという作業を行う。一方、台車を停止させたある畝内において、作業者が椅子1に腰を掛けたままで、人の手の届く範囲から採穂すべき穂がなくなると、それに続く採穂作業を行う次の場所に台車を少しだけ移動させる。台車を畝内で移動させる際には、作業者が腰を浮かせ、椅子1を地面11から浮かせた状態で台車を直進させる。
【0027】
ここで、椅子本体の台車フレーム2への取り付け機構が、一端側が姿勢安定部材13に固定され、他端側が台車フレーム2下部に伸びる接続部材3と、接続部材3を介して椅子1本体を浮上させる付勢力を付与するために台車フレーム2下部の異なる2箇所に配置されたコイルばね3A、3Bを含む機構とするのが好ましい。
この理由は、接続部材3の剛性及びコイルばね3A、3Bの弾発力を調整するという簡単な調整によって、椅子不使用時に、椅子1本体を地面から浮いた状態とすることができるとともに、椅子使用時に、作業者が座部1Aに腰をおろすことにより、姿勢安定部材13が地面11に接触した状態とすることができるからである。また、その理由としては、接続部材3の剛性及びコイルばね3A、3Bの弾発力を調整することで、しゃがみ込み姿勢から立ち上がる動作を行う際に、作業者が跳ね上げられてしまうという不都合を防止できることを挙げることができる。
【0028】
また、姿勢安定部材13が一対のL形部材とされ、一対のL形部材に固定する接続部材3が2つの平形部材とされていることが好ましい。この理由は、一対のL形部材の地面11と向かい合う面の台車移動方向10に対して直角な方向への張り出し量を変えるという調整と、2つの平形部材の曲げ剛性を変更するという調整により、台車移動方向10に対して座面12の左右への傾斜を所定の範囲に規制できるからである。その場合には、姿勢安定部材13を一対のL形鋼材とし、一対のL形部材に固定する平形部材を平形鋼材とすれば、台車移動方向10に対して座面12の左右への傾斜を所定の範囲に規制できる適切な材料を容易に選定することができるのでより好ましい。
【0029】
次いで、台車フレーム2上に具備して好適な旋回式のトレイ台4について図6、図7を用いて説明する。図6(a)、(b)は、実施の形態に係る作業用台車に具備した旋回式のトレイ台4の自由度を示す概略平面図であり、図7は、実施の形態に係る作業用台車に具備した旋回式のトレイ台4の構造を示す分解図である。
旋回式のトレイ台4には、図7に示すように、取り付けねじ19、20、21、ワッシャ22、ナット23のような取り付け手段が使用されている。そして、トレイ台4は、図6に示すように、トレイをその長手方向にスムースにスライドできる矩形状の枠体4Aと、台車フレーム上に中央部を位置させて配置した八角形状の受け板4Cと、受け板4Cに他端部が受けられ、枠体4Aに一端部が接続される矩形状のアーム板4Bとを有し、図7に示すような取り付け手段で取り付けられている。その際、台座4Dを介して枠体4Aの長手方向基部が前記アーム板4Bの一端部と重ねて、その回りに回動可能に取り付けされ、アーム板4Bの他端部が受け板4Cの中心の回りに360°回転自在に受け板4Cを挟んで台車フレーム2に取り付けされている。なお、受け板4Cは、アーム板4Bと枠体4Aを支えている。また、受け板4Cの形状は、多角形もしくは円形とすることができる。このような構造の旋回式のトレイ台4を具備した作業用台車によれば、作業者が座部に腰を掛けた状態で作業内容に合わせ作業がしやすいように、枠体4Aにトレイを載せたまま、スムースにトレイ台を旋回させて、図6(a)、(b)に示すように、平面で見てアーム板4Bと枠体4A間を長手方向に屈曲させ、作業がしやすい位置にトレイを差し出すことができる。従って、農作業による身体的な負担を顕著に軽減することができる。
【0030】
このような旋回式のトレイ台4を具備した作業用台車を用い、例えば菊の採穂作業などの作業を行う場合には、枠体4Aにトレイを載せたまま、スムースにトレイ台を旋回させて、台車移動方向10に矩形状の枠体4Aの長手方向を一致させ、台車移動方向10に対して左右にトレイを差し出すことができる(図6(a)、(b)参照)。なお、八角形状の受け板4Cとアーム板4Bとの重ね量は、矩形状の枠体4Aの長手方向先端部にトレイを載せ、トレイ内に所定の重さのものを収納した場合でも、一方への傾斜を少なくし受け板4Cの面内で受け板4Cの中心の回りに矩形状アーム板4Bを360°スムースに回転することができるだけの接触面積を確保する。
【0031】
また、タイヤ6を有する4輪に加えて、タイヤ6を有する前輪または後輪の2輪の代わりに、台車移動方向10と異なる方向に台車を移動するための自在輪6Aを、台車フレーム2下部の左右2箇所に支持体で回転自在に支持した状態で設け、自在輪6Aを用いて移動する使用位置と自在輪6Aを収納した不使用位置との間をレバー操作により切換可能にした作業用台車とするのが好ましい。
【0032】
例えば、図8に示すように、レバー24を一端部に設け、レバー操作により支点25の回りに回動するレバーアーム26の他端部にワイヤ27を接続する。このワイヤ27は、台車フレーム2に固定した導管28を通過して自在輪6Aの軸を回転自在に支持する支持体に接続されている。29は、自在輪6Aの軸を回転自在に支持する支持体中心を示す。30は、台車フレーム2に固定してあるレバー24を自由にして引き倒す操作により、自在輪6Aを収納した不使用位置から使用位置にする切換方向を示す。
【0033】
このような自在輪6Aを台車フレーム2下部の左右2箇所に設けた作業用台車によれば、簡単なレバー操作で自在輪6Aを使用位置にした後、台車フレーム2に設けた背もたれ2Aより上部位置(図1参照)を人手でつかみ、台車全体を人力で持ち上げずに、台車移動方向10と直角な横方向へ台車を移動することができるため、農作業に伴う身体的な負担より軽減できるので望ましい。なお、切換方向30と反対方向に自在輪6Aを引き戻すためには、適宜なばねを自在輪6Aの軸を支持する支持体6Bに取り付けて、もう一方を9Cに取り付けて行うようにするのが、農作業用台車には好適である。
【0034】
このような農作業に伴う身体的な負担を軽減できる構造をもつ台車に、上述した椅子1を具備した場合には、両者の相乗効果により、椅子1のみを具備した場合以上に、農作業による身体的な負担を軽減することができるので好ましい。
【実施例】
【0035】
図1に示した農作業用台車を用いた場合と、農作業用台車を用いず、従来の慣行に従う場合とで、菊の採穂作業を行い、身体の負担(作業姿勢、心拍数、表面筋電位)、疲労自覚症状、及び作業時間を比較した。
農作業用台車の寸法(椅子1を含み、旋回式のトレイ台4は台車上に収納した状態)は以下のとおりとした。
【0036】
ホイール間隔(タイヤ6を有する前輪と後輪の軸の間隔):480mm
タイヤ6の直径:260mm
全長:1140mm
全幅:400mm(タイヤ6を有する4輪の外幅までの寸法)
全高:790mm
椅子高さ:400mm(椅子不使用時)
椅子を使用しないときの地面からの浮上量δ:(60)mm
旋回式のトレイ台4の高さ:450mm
下脚部を姿勢安定部材に連結する連結ピン16間の間隔a:(130)mm
下脚部に形成したスリットの上下方向長さb:(90)mm
農作業用台車を用いた菊の採穂作業では、アーム台上にトレイを設置して被試験者(作業者に相当)が座部に腰をおろした状態で地面から高さ約20〜30センチメートルに達した菊の穂をつみ取り、トレイ5に収納する。ただし、農作業用台車に具備した旋回式のトレイ台4としては、矩形状の枠体4Aの長手方向先端部にトレイ5を載せ、アーム板4Bと枠体4A間を屈曲させた状態でトレイ中央の左右方向位置を2本の脚部の中央から左右方向へ測った場合、その距離が450mmとなるように構成した。一方、従来の慣行に従う菊の採穂作業では、作業者がしゃがんだ姿勢で地面から高さ約20〜30センチメートルに達した菊の穂をつみ取り、地面に置いた発泡トレイに穂を収納する。
【0037】
採穂作業は、図9に示すような作業パターンで、同じ作業者が25分間の採穂作業を10分間の休息を挟んで2回行った。25分間の採穂作業中、作業者は、作業内容に合わせた作業姿勢を取って農作業を行った。その間、作業者の姿勢を姿勢センサで測定し、その代表例を図10、図11に例示した。
農作業用台車を用いて作業を行った場合には、図10に示したように、近くの穂を採取するときは、座った姿勢で上肢を伸ばすことで行い、やや離れた穂を採取するときは、下肢を伸ばして上体を倒しながら行う。S1の作業姿勢は椅子1に腰掛けて作業を行っている状態で、S2の作業姿勢はやや離れた穂を採取する作業を行っている状態である。一方、従来の慣行に従って作業を行った場合には、図11に示したように、近くの穂を採取するときは、深く膝を折り曲げしゃがんだ無理な姿勢で行い、やや離れた穂を採取するときは、中腰のつらい姿勢で行っている。
【0038】
上記のようにして菊の採穂作業を行っているときの膝、腰の曲げ角度を測定し、図12に休息を挟む前後での測定結果を例示した。また、採穂作業時のすべての姿勢における膝、腰の平均曲げ角度を、農作業用台車を用いて作業を行った場合と従来の慣行に従って作業を行った場合を対比して表1に示した。
なお、腰の曲げ角度は、体幹と大腿とのなす角で、大きいほど腰への負担が軽いことを表し、膝の曲げ角度は、大腿と下腿とのなす角で、大きいほど膝への負担が軽いことを表している。
【0039】
【表1】
表1に示す結果から、農作業用台車を用いた場合には、従来の慣行に従う場合に比べて、膝、腰への負担が軽減されていることがわかる。また、心拍数については、農作業用台車を用いた場合と、従来の慣行に従う場合とで25分間の採穂作業を10分間の休息を挟んで同じ被試験者(作業者)が2回行い、採穂作業中の平均心拍数により評価した。その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
表2に示す結果から、農作業用台車を用いた場合には、従来の慣行に従う場合に比べて、隣接作業間の比較で平均心拍数が5〜10拍/分少なく、身体への負担が軽減されていることがわかる。農作業用台車を用いた場合の表面筋電位は、従来の慣行に従う場合を100とし、それに対する表面筋電位の割合で評価した。その結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
表3に示す結果から、農作業用台車を用いた場合には、各表面筋電位が従来の慣行に従う場合より著しく低下しており、各身体筋への負担が軽減されていることがわかる。疲労自覚症状については、30項目の症状、58箇所の身体部位に関して聞き取り調査を行い、訴えのあった自覚症状、疲労部位を表4に記載した。
【0042】
【表4】
表4に示す結果から、農作業用台車を用いた場合には、従来の慣行に従う場合に訴えの多い肩、腰、膝に対する負担が軽減されていることがわかる。以上のように農作業用台車を用いた場合には、従来の慣行に従う場合に比べて、身体への負担が軽減されるようになることに加え、農作業用台車を用いた場合には、1000本の採穂作業に要する時間が慣行に従う場合の66分から44分にまで33%短くなることも確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)は、実施の形態に係る作業用台車の概略側面図、(b)は同概略正面図である。
【図2】実施の形態に係る農作業用台車に具備した椅子の取り付け状態を示す概略側面図である。
【図3】(a)は、実施の形態に係る作業用台車に具備した椅子の概略側面図、(b)は、同概略正面図である。
【図4】実施の形態に係る作業用台車に具備した椅子の脚内構造を示す部分断面図である。
【図5】(a)は、実施の形態に係る作業用台車に具備した椅子の自由度を示す概略側面図(b)は、同概略正面図である。
【図6】(a)、(b)は実施の形態に係る作業用台車に具備した旋回式のトレイ台の自由度を示す概略平面図である。
【図7】実施の形態に係る作業用台車に具備した旋回式のトレイ台の構造を示す分解図である。
【図8】実施の形態に係る作業用台車に具備した補助輪の構造を示す概略図である。
【図9】身体の負担及び1000本採穂するに要する時間を比較した作業パターンの説明図である。
【図10】実施の形態に係る作業用台車を用いた場合の作業者が取った作業姿勢を示す概略図である。
【図11】従来の慣行に従う場合の作業者が取った作業姿勢を示す概略図である。
【図12】作業者の身体の曲げ角度を実施の形態に係る作業用台車を用いた場合と、従来の慣行に従う場合とで比較した特性図である。
【符号の説明】
【0044】
1 椅子(椅子本体)
δ 椅子を使用しないときの地面からの浮上量
1A 座部
1B 上脚部
1C 下脚部
1D 上下脚部の筒中心
2 台車フレーム
2A、背もたれ
3 接続部材
3A、3B コイルばね
4 トレイ台
4A 枠体
4B アーム板
4C 受け板
4D 台座
5 トレイ
6 タイヤ
6A 自在輪
6B 支持体
7 駆動用ギアモーター
8A スプロケット(歯数T=17)
8B チェーンベルト
8C スプロケット(歯数T=26)
9A コントロールボックス
9B リモコン受信アンテナ
9C コントロールボックス受台
10 タイヤ6を有する4輪による移動方向
11 地面
11A 垂直線
12 座面
13 姿勢安定部材
13A 接続部材固定用リベット孔
14 コイルばね
15 連結ピン
15A 抜け止め子
16 連結ピン
16A 抜け止め子
a 下脚部を姿勢安定部材に連結する連結ピン16間の間隔
b 下脚部に形成したスリットの上下方向長さ
17、18、19 傾斜方向
19、20、21 取り付けねじ
22 ワッシャ
23 ナット
24 レバー
25 支点
26 レバーアーム
27 ワイヤ
28 導管
29 支持体中心
30 切換方向
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作業に用いる農作業用台車および農作業用椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、台車と一緒に用いる作業用椅子としては、座部が回転自在となるように支持されたものや、座部が高さ調整可能となるように支持されたものなど種々提案されている。作業のうちでも農作業は、膝、足、腰などに重度の身体的負担がかかる。そこで、農作業による身体的負担を軽減するため、作業用椅子に腰をおろした状態で農作業を行うことも実施されるようになってきている。一方、農作業用台車には、多様な農作業に対応できるように4輪を具備して、例えば狭い畝を走行できるようになっているものもある。かかる作業用台車に具備されている椅子の多くは、ある作業内容に対して作業がしやすい作業姿勢を取ることができるよう、予め椅子の姿勢を設定して使用するものである(例えば特許文献1、2)。
【特許文献1】特開平7−1704号公報
【特許文献2】実用新案登録第3002157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に記載の作業用台車を用い、予め椅子の姿勢を設定して農作業を行ったとしても、膝、足、腰等の身体的な疲労が大きくなるという問題が発生する。すなわち、特許文献1に記載の作業用台車を用いた場合には、ある作業内容に対して作業がしやすい姿勢を取ることができるが、農作業は種々の作業姿勢を取って行うことが普通であり、他の作業内容に対して、必ずしも作業がしやすい作業姿勢を取ることができなくなる。このため、予め椅子の姿勢が設定された椅子に腰をかけて農作業を行ったとしても、膝、足、腰等に身体的な負担がかかることになる。
【0004】
元来、人間はその身体の構造上、同じ作業姿勢に長時間耐えることができない。このため、予め椅子の姿勢が設定された椅子に腰をかけて、農作業を効率的に行うには無理がある。例えば、菊の採穂作業などでは、作業用台車をある場所に移動させ、ある場所において、身体をひねり、腕を伸ばし、しゃがみ込み、前屈姿勢となって採穂作業を行うようになる。このため、適宜な休息時間を取りながら採穂作業のような農作業を断続的に継続したとしても、予め椅子の姿勢が固定された椅子を用いた場合には、ふくらはぎ、膝、腰等への身体的な負担が大きくなったり、また、しゃがみ込み姿勢から立ち上がる動作がきつくなる。
【0005】
また、農作業では、通路が限られた狭い畝などの場所において、作業用台車を移動させつつ、農作業を行う場合も多い。このため、通路が限られたスペースに対応可能な台車構造とする必要もある。しかし、そのような構造をもつ、農作業による身体的な疲労を軽減できる台車は見あたらないのが現状である。
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、農作業に適用可能な構造をもち、農作業による身体的な負担を顕著に軽減することができる農作業用椅子、及び農作業用台車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、椅子の姿勢を変えることができる構造の農作業用椅子、及び特殊構造の旋回式のトレイ台を具備した作業用台車とすることで前記課題を解決した。
本発明は、以下のとおりである。
1.農作業用台車に具備した椅子であって、2本の脚部が上、下脚部に分かれており、上脚部が座部と一体とされ、前記2本の脚部が台車移動方向に沿って前後に揃えて配置され、2本の脚部の各下脚部が姿勢安定部材を介してピン回りに回動自在に連結ピンで互いに連結されて、椅子不使用時には、台車フレームへの取り付け機構によって前記姿勢安定部材が地面から浮いた状態とされ、椅子使用時には、前記姿勢安定部材が地面に接触した状態とされて、作業内容に合わせた作業姿勢を取ることにより、所定の範囲で座部の高さを変えることも、座部の前後、左右への傾斜を変えることもできるようにしたことを特徴とする農作業用椅子。
【0007】
2.前記姿勢安定部材の台車フレームへの取り付け機構は、一端側が姿勢安定部材に固定され、他端側が台車フレーム下部に伸びる接続部材と、該接続部材を介して椅子本体を浮上させる付勢力を付与するために台車フレーム下部の異なる2箇所に配置されたコイルばねを含むことを特徴とする上記1.に記載の農作業用椅子。
3.前記姿勢安定部材が一対のL形部材とされ、一対のL形部材に固定する接続部材が2つの平形部材とされていることを特徴とする上記1.又は2.に記載の農作業用椅子。
【0008】
4.前記2本の脚部が上、下脚部間に挟んで装着したコイルばねにより脚部長を可変とする構造を有することを特徴とする上記1.〜3.のいずれかに記載の農作業用椅子。
5.前記脚部長を可変とする構造は、コイルばねが縮む分に相当する上下方向長さを有するスリットを、筒の中心を挟んで対向する位置に形成した内筒と、該内筒より内径が大きく、かつ連結ピンの挿入孔を筒の中心を挟んで対向する位置に形成した外筒とを含み、コイルばねを挿入した外筒に内筒を装着し、外筒に形成した連結ピンのピン孔の位置と、内筒に形成したスリットの位置とを合わせた状態で連結ピンを挿入し、連結ピンで内筒と外筒を連結した構造であることを特徴とする上記4.に記載の農作業用椅子。
【0009】
6.台車フレームに椅子が支持されているとともに、タイヤを有する4輪により台車移動方向に向けて直進可能な構造をもつ農作業用台車において、旋回式のトレイ台は、トレイを長手方向にスライドできる矩形状の枠体の長手方向先端部にトレイを載せたまま、平面で見てアーム板と枠体間を長手方向に屈曲させ、作業がしやすい位置にトレイを差し出すことができる構造をもつことを特徴とする農作業用台車。
【0010】
7.前記タイヤを有する4輪に加えて、前記タイヤを有する前輪または後輪の2輪の代わりに、タイヤを有する4輪による台車移動方向と異なる方向に台車を移動する際に使用する自在輪を、台車フレームの左右2箇所に支持体で回転自在に支持した状態で設け、前記自在輪を用いて移動する使用位置と前記自在輪を収納した不使用位置との間をレバー操作により切換可能としたことを特徴とする上記6.に記載の農作業用台車。
【0011】
8.上記1.〜5.のいずれかに記載の農作業用椅子を具備したことを特徴とする上記6.又は7.に記載の農作業用台車。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る農作業用椅子によれば、作業者が座部に腰を掛けた状態で作業内容に合わせ作業がしやすいように作業姿勢を取ることによって、椅子の姿勢を変えることができるから、農作業による身体的な負担を顕著に軽減することができる。
本発明に係る農作業用台車によれば、作業者が座部に腰を掛けた状態で作業内容に合わせ作業がしやすいように、旋回式のトレイ台にトレイを載せたまま、トレイ台を旋回させてトレイを作業がしやすい位置に移動させることができるから、農作業による身体的な負担を顕著に軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を農作業に適用した実施の形態について図1〜図4を用いて説明する。
図1(a)、(b)は、実施の形態に係る農作業用台車の概略側面図、同概略正面図である。実施の形態に係る農作業用台車は、限られた空間を最大限に利用するため、図1(a)、(b)に模式的に示すように、台車フレーム2に支持した椅子1、及び台車フレーム2上に取り付けた旋回式のトレイ台4を有する。この農作業用台車(単に台車ともいう)は、作業時、タイヤ6を有する4輪によって台車移動方向10に向けて前進、後退させる移動機構を有している。
【0014】
この場合、台車を前進、後退させる移動機構は、駆動用ギアモーター7の回転をスプロケット8A(歯数T=17)に伝え、チェーンベルト8Bを介してスプロケット8C(歯数T=26)にその回転を伝えることで、2つの駆動輪を駆動させる機構である。残るタイヤ6を有する2輪は従動輪である。この台車に具備したコントロールボックス9Aは、リモコン送信器から発せされた信号をリモコン受信アンテナ9Bで受信し、駆動用ギアモーター7を介して台車の移動をコントロールすることができる。このような駆動輪をもつ作業用台車の場合には、人力で台車を押したり引いたりせず、台車を台車移動方向10に向けて前進、後退させることができ、台車を移動することに伴う身体的な負担を軽減することができるので好ましい。
【0015】
なお、実施の形態に係る農作業用台車は、台車フレーム2の下部に配置した自在輪6Aを有し、レバー操作により使用位置にした場合には、台車移動方向10と異なる方向に台車を人力により移動することができるようになっている。図1(a)において、右方への台車移動が前進、左方への台車移動が後退である。また、図1(a)、(b)中、2Aは、台車フレーム2に設けた背もたれを示す。
【0016】
この実施の形態に係る農作業用台車は、例えば後述する採穂作業において、地面から高さ約20〜30センチメートルに達した菊の親株から伸長した穂をつみ取り、旋回式のトレイ台4に置いたトレイ5に収納する作業を行う場合に好適な構造とされている。
ここで、実施の形態に係る作業用台車に具備した椅子1(農作業用椅子ともいう)は、台車移動方向10に向けて前後に2本の脚部を揃えて配置されている。この椅子1は、図1〜図3に示すように、2本の脚部が上、下脚部1B、1Cに分かれており、上脚部1Bが座部1Aと一体とされ、上、下脚部1B、1C間にはコイルばね14が装着されている(図4参照)。また、椅子不使用時には、図2に示すように、台車フレーム2への取り付け機構によって椅子本体が地面11から浮いた状態にされる。すなわち、ある作業場所から次の作業場所に台車を移動する際には、2本の脚部の各下脚部1Cを連結ピン16で互いに連結している姿勢安定部材13が地面11から浮いた状態となる。図1、2中、δは、座部1Aに作業者が腰を掛けていないときの地面11からの浮上量を示す。
【0017】
この場合、椅子本体の台車フレーム2への取り付け機構は、図2に示すように、一端側が姿勢安定部材13に固定され、他端側が台車フレーム2下部に伸びる接続部材3と、接続部材3を介して椅子1本体を浮上させる付勢力を付与するために台車フレーム2下部の異なる2箇所に配置されたコイルばね3A、3Bを含む。
一方のコイルばね3Aは、台車フレーム2の椅子側から離れた部位に接続部材3より上方に配置され、他方のコイルばね3Bは、台車フレーム2の椅子側に近い部位に接続部材3より下方に配置されている。なお、接続部材3は、例えばリベット結合により姿勢安定部材13の下部に固定することができる(図2〜4参照)。図4中、13Aはリベット孔を示す。姿勢安定部材13が一対のL形部材とされ、姿勢安定部材13に固定した接続部材3が平形部材とされていることが好ましい。この実施の形態に係る作業用台車に具備した椅子1の使用時における作用効果は後述する。
【0018】
次いで、作業用台車に具備した椅子1の構造につき、図3、4を用いて説明する。
図3(a)、(b)は、椅子1の概略側面図、概略正面図であり、図4は、椅子1の脚内構造を示す部分縦断面図である。図3(a)中、aは、下脚部1Cを姿勢安定部材13に連結する連結ピン16間の間隔を示し、図4中、bは下脚部1Cに形成したスリットの上下方向長さを示す。
【0019】
この作業用台車に具備した椅子1は、2本の脚部の各下脚部1Cが姿勢安定部材13を介してピン回りに回動自在に連結ピン16で互いに連結されている。前記連結ピン16は、下脚部1C及び姿勢安定部材13に形成したピン孔に挿入され抜け止め子16Aで抜け止めされている。そして、図4に示したように、椅子1の2本の脚部は上、下脚部間に挟んで装着したコイルばねにより脚部長が可変とされている。
【0020】
脚部長を可変とする構造は、上、下脚部1B、1C間に挟んで装着したコイルばね14と、コイルばね14が縮む分に相当する上下方向長さbを有するスリットを筒の中心を挟んで対向する位置に形成した内筒と、該内筒より内径が大きく、かつ連結ピン15の挿入孔を、筒の中心を挟んで対向する位置に形成した外筒とを含む(図4参照)。そして、コイルばね14を挿入した外筒に内筒を装着し、連結ピン15のピン孔の位置と、スリットの位置とを合わせた状態で連結ピン15を挿入し、連結ピン15で内筒と外筒を連結した構造である。内筒と外筒を連結した連結ピン15は、抜け止め子15Aで抜け止めされている。また、2本の脚部にそれぞれ装着したコイルばね14は、同じ力に対して同じだけ縮む弾発力とされている。このような構造をもつ椅子1とした場合には、簡単な構造により、農作業に適した脚部長可変構造とすることができるので好ましい。
【0021】
このような脚部長可変構造をもつ椅子1とした場合には、椅子使用時、農作業を行う作業者が座部1Aに腰を掛け、2本の脚部に均等な力を作用させる作業姿勢を取った場合には、2本の脚部にそれぞれ装着したコイルばね14が同じ量だけ縮んで、座面12が地面11と略平行な水平な状態となる。
以上説明した作業用台車に具備した椅子1の作用効果について説明する。
【0022】
図5は、椅子使用時に、作業者が座部1Aに腰を掛けた状態で作業内容に合わせ農作業がしやすいように作業姿勢を取ることによって、椅子1の姿勢を変えることができることを説明するための概略図であり、図5(a)は側面図、同図(b)は正面図である。
上述した椅子1は、2本の脚部にそれぞれコイルばね14が装着され、2本の脚部の各下脚部1Cが姿勢安定部材13を介してピン回りに回動自在に連結ピン16で互いに連結されて、前記姿勢安定部材13が台車フレーム2へ取り付け機構によって取り付けられている。このため、作業者が座部1Aに腰を掛けたまま、作業内容に合わせた作業姿勢を取ることにより、台車移動方向10に沿って前後に揃えて配置された2本の脚部に加える力を変えた場合には、2本の脚部にそれぞれ装着されたコイルばね14の縮み量が異なる状態となる。その結果、図5(a)に示すように、座面12が地面11と略平行な水平な状態から台車移動方向10に対して前後に傾斜した状態に椅子1の状態を変えることができる。
【0023】
なお、図5(a)には、座面12が前(反台車側)に傾斜するように椅子1の状態を変えた場合の上下脚部の筒中心1Dの傾斜方向17、18を示した。ここで、座面12の前後への傾斜が過度にならないように規制することが重要である。そのためには、下脚部1Cを姿勢安定部材13に連結する連結ピン16間の間隔aと、下脚部1Cに形成したスリットの上下方向長さbを適正にし、上下脚部の筒中心1Dの前後方向への傾斜は、農作業に応じて45°以下とするのが望ましい。
【0024】
また、作業者が座部1Aに腰を掛けたまま、作業内容に合わせ作業がしやすい作業姿勢を取ることで、図5(b)に示すように、座面12が地面11と略平行な水平な状態から台車移動方向10に対して左右に傾斜した状態に椅子1の姿勢を変えることもできる。図5(b)中、19は、正面から見て左へ座面12が傾斜するように椅子1の状態を変えた場合の上下脚部の筒中心1Dの傾斜方向を示す。ただし、台車移動方向10に対して座面12の左右への傾斜が過度になった場合には、作業者が安定した作業姿勢で農作業を行うことが困難となる。そこで、作業用台車に具備した椅子1は、姿勢安定部材13、及び作業用台車へ椅子1本体を取り付ける機構により、上下脚部の筒中心1Dの左右方向への傾斜を所定範囲に規制している。この筒中心1Dを垂直線11Aから左右へ傾ける際の傾斜角は、農作業に応じて0〜30°とするのが望ましい。
【0025】
以上説明したとおり作業用台車に具備した椅子1を用いることにより、旋回式のトレイ台4を作業がしやすい位置に移動させ、作業者が椅子に腰を掛けた状態で作業内容に合わせ作業がしやすいように作業姿勢を取ることによって、椅子1の姿勢を変えることができるから、ふくらはぎ、膝、腰等への農作業による身体的な負担を顕著に軽減することができる。また、しゃがみ込み姿勢から立ち上がる動作を行う際にも、姿勢安定部材13の台車フレーム2への取り付け機構と、2本の脚部にそれぞれ装着したコイルばね14の弾発力の助けによって膝、腰等への身体的な負担が軽減できる。この結果、作業用椅子1を使用した場合には、農作業を効率的に行うことができる。
【0026】
例えば上述した作業用台車を用い、農作業として菊の採穂作業を行う場合には、畝の一端から他端に向けて台車を断続的に移動させる。その際、台車の停止中に、椅子1に作業者が腰を掛け、畝を挟んで左右に植えられた菊の栽培場所から高さ20〜30センチメートルに達した菊の親株から伸長した穂を人手により摘み取り、台車に載せたトレイ内に収めるという作業を行う。一方、台車を停止させたある畝内において、作業者が椅子1に腰を掛けたままで、人の手の届く範囲から採穂すべき穂がなくなると、それに続く採穂作業を行う次の場所に台車を少しだけ移動させる。台車を畝内で移動させる際には、作業者が腰を浮かせ、椅子1を地面11から浮かせた状態で台車を直進させる。
【0027】
ここで、椅子本体の台車フレーム2への取り付け機構が、一端側が姿勢安定部材13に固定され、他端側が台車フレーム2下部に伸びる接続部材3と、接続部材3を介して椅子1本体を浮上させる付勢力を付与するために台車フレーム2下部の異なる2箇所に配置されたコイルばね3A、3Bを含む機構とするのが好ましい。
この理由は、接続部材3の剛性及びコイルばね3A、3Bの弾発力を調整するという簡単な調整によって、椅子不使用時に、椅子1本体を地面から浮いた状態とすることができるとともに、椅子使用時に、作業者が座部1Aに腰をおろすことにより、姿勢安定部材13が地面11に接触した状態とすることができるからである。また、その理由としては、接続部材3の剛性及びコイルばね3A、3Bの弾発力を調整することで、しゃがみ込み姿勢から立ち上がる動作を行う際に、作業者が跳ね上げられてしまうという不都合を防止できることを挙げることができる。
【0028】
また、姿勢安定部材13が一対のL形部材とされ、一対のL形部材に固定する接続部材3が2つの平形部材とされていることが好ましい。この理由は、一対のL形部材の地面11と向かい合う面の台車移動方向10に対して直角な方向への張り出し量を変えるという調整と、2つの平形部材の曲げ剛性を変更するという調整により、台車移動方向10に対して座面12の左右への傾斜を所定の範囲に規制できるからである。その場合には、姿勢安定部材13を一対のL形鋼材とし、一対のL形部材に固定する平形部材を平形鋼材とすれば、台車移動方向10に対して座面12の左右への傾斜を所定の範囲に規制できる適切な材料を容易に選定することができるのでより好ましい。
【0029】
次いで、台車フレーム2上に具備して好適な旋回式のトレイ台4について図6、図7を用いて説明する。図6(a)、(b)は、実施の形態に係る作業用台車に具備した旋回式のトレイ台4の自由度を示す概略平面図であり、図7は、実施の形態に係る作業用台車に具備した旋回式のトレイ台4の構造を示す分解図である。
旋回式のトレイ台4には、図7に示すように、取り付けねじ19、20、21、ワッシャ22、ナット23のような取り付け手段が使用されている。そして、トレイ台4は、図6に示すように、トレイをその長手方向にスムースにスライドできる矩形状の枠体4Aと、台車フレーム上に中央部を位置させて配置した八角形状の受け板4Cと、受け板4Cに他端部が受けられ、枠体4Aに一端部が接続される矩形状のアーム板4Bとを有し、図7に示すような取り付け手段で取り付けられている。その際、台座4Dを介して枠体4Aの長手方向基部が前記アーム板4Bの一端部と重ねて、その回りに回動可能に取り付けされ、アーム板4Bの他端部が受け板4Cの中心の回りに360°回転自在に受け板4Cを挟んで台車フレーム2に取り付けされている。なお、受け板4Cは、アーム板4Bと枠体4Aを支えている。また、受け板4Cの形状は、多角形もしくは円形とすることができる。このような構造の旋回式のトレイ台4を具備した作業用台車によれば、作業者が座部に腰を掛けた状態で作業内容に合わせ作業がしやすいように、枠体4Aにトレイを載せたまま、スムースにトレイ台を旋回させて、図6(a)、(b)に示すように、平面で見てアーム板4Bと枠体4A間を長手方向に屈曲させ、作業がしやすい位置にトレイを差し出すことができる。従って、農作業による身体的な負担を顕著に軽減することができる。
【0030】
このような旋回式のトレイ台4を具備した作業用台車を用い、例えば菊の採穂作業などの作業を行う場合には、枠体4Aにトレイを載せたまま、スムースにトレイ台を旋回させて、台車移動方向10に矩形状の枠体4Aの長手方向を一致させ、台車移動方向10に対して左右にトレイを差し出すことができる(図6(a)、(b)参照)。なお、八角形状の受け板4Cとアーム板4Bとの重ね量は、矩形状の枠体4Aの長手方向先端部にトレイを載せ、トレイ内に所定の重さのものを収納した場合でも、一方への傾斜を少なくし受け板4Cの面内で受け板4Cの中心の回りに矩形状アーム板4Bを360°スムースに回転することができるだけの接触面積を確保する。
【0031】
また、タイヤ6を有する4輪に加えて、タイヤ6を有する前輪または後輪の2輪の代わりに、台車移動方向10と異なる方向に台車を移動するための自在輪6Aを、台車フレーム2下部の左右2箇所に支持体で回転自在に支持した状態で設け、自在輪6Aを用いて移動する使用位置と自在輪6Aを収納した不使用位置との間をレバー操作により切換可能にした作業用台車とするのが好ましい。
【0032】
例えば、図8に示すように、レバー24を一端部に設け、レバー操作により支点25の回りに回動するレバーアーム26の他端部にワイヤ27を接続する。このワイヤ27は、台車フレーム2に固定した導管28を通過して自在輪6Aの軸を回転自在に支持する支持体に接続されている。29は、自在輪6Aの軸を回転自在に支持する支持体中心を示す。30は、台車フレーム2に固定してあるレバー24を自由にして引き倒す操作により、自在輪6Aを収納した不使用位置から使用位置にする切換方向を示す。
【0033】
このような自在輪6Aを台車フレーム2下部の左右2箇所に設けた作業用台車によれば、簡単なレバー操作で自在輪6Aを使用位置にした後、台車フレーム2に設けた背もたれ2Aより上部位置(図1参照)を人手でつかみ、台車全体を人力で持ち上げずに、台車移動方向10と直角な横方向へ台車を移動することができるため、農作業に伴う身体的な負担より軽減できるので望ましい。なお、切換方向30と反対方向に自在輪6Aを引き戻すためには、適宜なばねを自在輪6Aの軸を支持する支持体6Bに取り付けて、もう一方を9Cに取り付けて行うようにするのが、農作業用台車には好適である。
【0034】
このような農作業に伴う身体的な負担を軽減できる構造をもつ台車に、上述した椅子1を具備した場合には、両者の相乗効果により、椅子1のみを具備した場合以上に、農作業による身体的な負担を軽減することができるので好ましい。
【実施例】
【0035】
図1に示した農作業用台車を用いた場合と、農作業用台車を用いず、従来の慣行に従う場合とで、菊の採穂作業を行い、身体の負担(作業姿勢、心拍数、表面筋電位)、疲労自覚症状、及び作業時間を比較した。
農作業用台車の寸法(椅子1を含み、旋回式のトレイ台4は台車上に収納した状態)は以下のとおりとした。
【0036】
ホイール間隔(タイヤ6を有する前輪と後輪の軸の間隔):480mm
タイヤ6の直径:260mm
全長:1140mm
全幅:400mm(タイヤ6を有する4輪の外幅までの寸法)
全高:790mm
椅子高さ:400mm(椅子不使用時)
椅子を使用しないときの地面からの浮上量δ:(60)mm
旋回式のトレイ台4の高さ:450mm
下脚部を姿勢安定部材に連結する連結ピン16間の間隔a:(130)mm
下脚部に形成したスリットの上下方向長さb:(90)mm
農作業用台車を用いた菊の採穂作業では、アーム台上にトレイを設置して被試験者(作業者に相当)が座部に腰をおろした状態で地面から高さ約20〜30センチメートルに達した菊の穂をつみ取り、トレイ5に収納する。ただし、農作業用台車に具備した旋回式のトレイ台4としては、矩形状の枠体4Aの長手方向先端部にトレイ5を載せ、アーム板4Bと枠体4A間を屈曲させた状態でトレイ中央の左右方向位置を2本の脚部の中央から左右方向へ測った場合、その距離が450mmとなるように構成した。一方、従来の慣行に従う菊の採穂作業では、作業者がしゃがんだ姿勢で地面から高さ約20〜30センチメートルに達した菊の穂をつみ取り、地面に置いた発泡トレイに穂を収納する。
【0037】
採穂作業は、図9に示すような作業パターンで、同じ作業者が25分間の採穂作業を10分間の休息を挟んで2回行った。25分間の採穂作業中、作業者は、作業内容に合わせた作業姿勢を取って農作業を行った。その間、作業者の姿勢を姿勢センサで測定し、その代表例を図10、図11に例示した。
農作業用台車を用いて作業を行った場合には、図10に示したように、近くの穂を採取するときは、座った姿勢で上肢を伸ばすことで行い、やや離れた穂を採取するときは、下肢を伸ばして上体を倒しながら行う。S1の作業姿勢は椅子1に腰掛けて作業を行っている状態で、S2の作業姿勢はやや離れた穂を採取する作業を行っている状態である。一方、従来の慣行に従って作業を行った場合には、図11に示したように、近くの穂を採取するときは、深く膝を折り曲げしゃがんだ無理な姿勢で行い、やや離れた穂を採取するときは、中腰のつらい姿勢で行っている。
【0038】
上記のようにして菊の採穂作業を行っているときの膝、腰の曲げ角度を測定し、図12に休息を挟む前後での測定結果を例示した。また、採穂作業時のすべての姿勢における膝、腰の平均曲げ角度を、農作業用台車を用いて作業を行った場合と従来の慣行に従って作業を行った場合を対比して表1に示した。
なお、腰の曲げ角度は、体幹と大腿とのなす角で、大きいほど腰への負担が軽いことを表し、膝の曲げ角度は、大腿と下腿とのなす角で、大きいほど膝への負担が軽いことを表している。
【0039】
【表1】
表1に示す結果から、農作業用台車を用いた場合には、従来の慣行に従う場合に比べて、膝、腰への負担が軽減されていることがわかる。また、心拍数については、農作業用台車を用いた場合と、従来の慣行に従う場合とで25分間の採穂作業を10分間の休息を挟んで同じ被試験者(作業者)が2回行い、採穂作業中の平均心拍数により評価した。その結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
表2に示す結果から、農作業用台車を用いた場合には、従来の慣行に従う場合に比べて、隣接作業間の比較で平均心拍数が5〜10拍/分少なく、身体への負担が軽減されていることがわかる。農作業用台車を用いた場合の表面筋電位は、従来の慣行に従う場合を100とし、それに対する表面筋電位の割合で評価した。その結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
表3に示す結果から、農作業用台車を用いた場合には、各表面筋電位が従来の慣行に従う場合より著しく低下しており、各身体筋への負担が軽減されていることがわかる。疲労自覚症状については、30項目の症状、58箇所の身体部位に関して聞き取り調査を行い、訴えのあった自覚症状、疲労部位を表4に記載した。
【0042】
【表4】
表4に示す結果から、農作業用台車を用いた場合には、従来の慣行に従う場合に訴えの多い肩、腰、膝に対する負担が軽減されていることがわかる。以上のように農作業用台車を用いた場合には、従来の慣行に従う場合に比べて、身体への負担が軽減されるようになることに加え、農作業用台車を用いた場合には、1000本の採穂作業に要する時間が慣行に従う場合の66分から44分にまで33%短くなることも確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)は、実施の形態に係る作業用台車の概略側面図、(b)は同概略正面図である。
【図2】実施の形態に係る農作業用台車に具備した椅子の取り付け状態を示す概略側面図である。
【図3】(a)は、実施の形態に係る作業用台車に具備した椅子の概略側面図、(b)は、同概略正面図である。
【図4】実施の形態に係る作業用台車に具備した椅子の脚内構造を示す部分断面図である。
【図5】(a)は、実施の形態に係る作業用台車に具備した椅子の自由度を示す概略側面図(b)は、同概略正面図である。
【図6】(a)、(b)は実施の形態に係る作業用台車に具備した旋回式のトレイ台の自由度を示す概略平面図である。
【図7】実施の形態に係る作業用台車に具備した旋回式のトレイ台の構造を示す分解図である。
【図8】実施の形態に係る作業用台車に具備した補助輪の構造を示す概略図である。
【図9】身体の負担及び1000本採穂するに要する時間を比較した作業パターンの説明図である。
【図10】実施の形態に係る作業用台車を用いた場合の作業者が取った作業姿勢を示す概略図である。
【図11】従来の慣行に従う場合の作業者が取った作業姿勢を示す概略図である。
【図12】作業者の身体の曲げ角度を実施の形態に係る作業用台車を用いた場合と、従来の慣行に従う場合とで比較した特性図である。
【符号の説明】
【0044】
1 椅子(椅子本体)
δ 椅子を使用しないときの地面からの浮上量
1A 座部
1B 上脚部
1C 下脚部
1D 上下脚部の筒中心
2 台車フレーム
2A、背もたれ
3 接続部材
3A、3B コイルばね
4 トレイ台
4A 枠体
4B アーム板
4C 受け板
4D 台座
5 トレイ
6 タイヤ
6A 自在輪
6B 支持体
7 駆動用ギアモーター
8A スプロケット(歯数T=17)
8B チェーンベルト
8C スプロケット(歯数T=26)
9A コントロールボックス
9B リモコン受信アンテナ
9C コントロールボックス受台
10 タイヤ6を有する4輪による移動方向
11 地面
11A 垂直線
12 座面
13 姿勢安定部材
13A 接続部材固定用リベット孔
14 コイルばね
15 連結ピン
15A 抜け止め子
16 連結ピン
16A 抜け止め子
a 下脚部を姿勢安定部材に連結する連結ピン16間の間隔
b 下脚部に形成したスリットの上下方向長さ
17、18、19 傾斜方向
19、20、21 取り付けねじ
22 ワッシャ
23 ナット
24 レバー
25 支点
26 レバーアーム
27 ワイヤ
28 導管
29 支持体中心
30 切換方向
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業用台車に具備した椅子であって、2本の脚部が上、下脚部に分かれており、上脚部が座部と一体とされ、前記2本の脚部が台車移動方向に沿って前後に揃えて配置され、2本の脚部の各下脚部が姿勢安定部材を介してピン回りに回動自在に連結ピンで互いに連結されて、椅子不使用時には、台車フレームへの取り付け機構によって前記姿勢安定部材が地面から浮いた状態とされ、椅子使用時には、前記姿勢安定部材が地面に接触した状態とされて、作業内容に合わせた作業姿勢を取ることにより、所定の範囲で座部の高さを変えることも、座部の前後、左右への傾斜を変えることもできるようにしたことを特徴とする農作業用椅子。
【請求項2】
前記台車フレームへの取り付け機構は、一端側が姿勢安定部材に固定され、他端側が台車フレーム下部に伸びる接続部材と、該接続部材を介して椅子本体を浮上させる付勢力を付与するために台車フレーム下部の異なる2箇所に配置されたコイルばねを含むことを特徴とする請求項1に記載の農作業用椅子。
【請求項3】
前記姿勢安定部材が一対のL形部材とされ、一対のL形部材に固定する接続部材が2つの平形部材とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の農作業用椅子。
【請求項4】
前記2本の脚部は、上、下脚部間に挟んで装着したコイルばねにより脚部長が可変とされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の農作業用椅子。
【請求項5】
前記脚部長を可変とする構造は、コイルばねが縮む分に相当する上下方向長さを有するスリットを、筒の中心を挟んで対向する位置に形成した内筒と、該内筒より内径が大きく、かつ連結ピンの挿入孔を筒の中心を挟んで対向する位置に形成した外筒とを含み、コイルばねを挿入した外筒に内筒を装着し、外筒に形成した連結ピンのピン孔の位置と、内筒に形成したスリットの位置とを合わせた状態で連結ピンを挿入し、連結ピンで内筒と外筒を連結した構造であることを特徴とする請求項4に記載の農作業用椅子。
【請求項6】
台車フレームに椅子が支持されているとともに、タイヤを有する4輪により台車移動方向に向けて直進可能な構造をもつ農作業用台車において、旋回式のトレイ台は、トレイを長手方向にスライドできる矩形状の枠体の長手方向先端部にトレイを載せたまま、平面で見てアーム板と枠体間を長手方向に屈曲させ、作業がしやすい位置にトレイを差し出すことができる構造をもつことを特徴とする農作業用台車。
【請求項7】
前記タイヤを有する4輪に加えて、前記タイヤを有する前輪または後輪の2輪の代わりに、タイヤを有する4輪による台車移動方向と異なる方向に台車を移動する際に使用する自在輪を、台車フレームの左右2箇所に支持体で回転自在に支持した状態で設け、前記自在輪を用いて移動する使用位置と前記自在輪を収納した不使用位置との間をレバー操作により切換可能としたことを特徴とする請求項6に記載の農作業用台車。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の農作業用椅子を具備したことを特徴とする請求項6又は7に記載の農作業用台車。
【請求項1】
作業用台車に具備した椅子であって、2本の脚部が上、下脚部に分かれており、上脚部が座部と一体とされ、前記2本の脚部が台車移動方向に沿って前後に揃えて配置され、2本の脚部の各下脚部が姿勢安定部材を介してピン回りに回動自在に連結ピンで互いに連結されて、椅子不使用時には、台車フレームへの取り付け機構によって前記姿勢安定部材が地面から浮いた状態とされ、椅子使用時には、前記姿勢安定部材が地面に接触した状態とされて、作業内容に合わせた作業姿勢を取ることにより、所定の範囲で座部の高さを変えることも、座部の前後、左右への傾斜を変えることもできるようにしたことを特徴とする農作業用椅子。
【請求項2】
前記台車フレームへの取り付け機構は、一端側が姿勢安定部材に固定され、他端側が台車フレーム下部に伸びる接続部材と、該接続部材を介して椅子本体を浮上させる付勢力を付与するために台車フレーム下部の異なる2箇所に配置されたコイルばねを含むことを特徴とする請求項1に記載の農作業用椅子。
【請求項3】
前記姿勢安定部材が一対のL形部材とされ、一対のL形部材に固定する接続部材が2つの平形部材とされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の農作業用椅子。
【請求項4】
前記2本の脚部は、上、下脚部間に挟んで装着したコイルばねにより脚部長が可変とされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の農作業用椅子。
【請求項5】
前記脚部長を可変とする構造は、コイルばねが縮む分に相当する上下方向長さを有するスリットを、筒の中心を挟んで対向する位置に形成した内筒と、該内筒より内径が大きく、かつ連結ピンの挿入孔を筒の中心を挟んで対向する位置に形成した外筒とを含み、コイルばねを挿入した外筒に内筒を装着し、外筒に形成した連結ピンのピン孔の位置と、内筒に形成したスリットの位置とを合わせた状態で連結ピンを挿入し、連結ピンで内筒と外筒を連結した構造であることを特徴とする請求項4に記載の農作業用椅子。
【請求項6】
台車フレームに椅子が支持されているとともに、タイヤを有する4輪により台車移動方向に向けて直進可能な構造をもつ農作業用台車において、旋回式のトレイ台は、トレイを長手方向にスライドできる矩形状の枠体の長手方向先端部にトレイを載せたまま、平面で見てアーム板と枠体間を長手方向に屈曲させ、作業がしやすい位置にトレイを差し出すことができる構造をもつことを特徴とする農作業用台車。
【請求項7】
前記タイヤを有する4輪に加えて、前記タイヤを有する前輪または後輪の2輪の代わりに、タイヤを有する4輪による台車移動方向と異なる方向に台車を移動する際に使用する自在輪を、台車フレームの左右2箇所に支持体で回転自在に支持した状態で設け、前記自在輪を用いて移動する使用位置と前記自在輪を収納した不使用位置との間をレバー操作により切換可能としたことを特徴とする請求項6に記載の農作業用台車。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の農作業用椅子を具備したことを特徴とする請求項6又は7に記載の農作業用台車。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−14259(P2007−14259A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198677(P2005−198677)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(591074736)宮城県 (60)
【Fターム(参考)】
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