説明

農作業車

【課題】左右クローラの間隔(轍距)の調節が容易に行える収穫作業車を提供する。
【手段】左右のクローラ式走行部1はそれぞれトラックフレーム17を備えており、左右のトラックフレーム17は、走行機体2を構成するベースフレーム22にガイド筒34と支持筒36とによって左右動可能な状態で取付けられている。左右の支持筒36はねじ軸38で連結されており、ねじ軸38を正逆回転させると左右走行部1が反対方向に同時に同じ距離だけ動いて轍距が変更される。ねじ軸38には、走行用ミッションケース5に設けた補助ケース40より動力が伝達される。左右走行部1の間隔調節は走行機体2を走行させながらエンジンの動力で行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインベーラやロールベーラやコンバインや野菜収穫機のような収穫作業車、或いは野菜移植機のような農作業車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
収穫作業車の一例としてコンバインベーラがあり、このコンバインベーラは一般にクローラ走行方式になっている。すなわち、エンジンを搭載すると共に運転部や作物収穫部等が設けられた走行機体を左右のクローラで支持しており、クローラはエンジンによって駆動される(例えば特許文献1)。稲用のコンバインも同様の構成になっているが、コンバインは特有の構成として、刈取った穀稈を脱穀する脱穀装置や穀粒を収集するグレンタンク等を備えており、このコンバインにおいて、左右のクローラと対機体高さを個別に変更することで左右の傾きを是正できるようにすることも行われている(例えば特許文献2)。なお、ロールベーラもコンバインベーラとほぼ同じ構造になっている。
【0003】
他方、野菜は畝植えすることが殆どであるが、畝の条間隔は野菜の種類によって異なることが多く、そこで、クローラ走行方式の野菜収穫運搬車においてクローラによる畝の踏み潰しを防止するため、左右クローラの間隔(轍距)を手動操作(ハンドルの回転操作)によって調節することが提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2004−242632号公報
【特許文献2】特開2004−135588号公報
【特許文献3】特開2002−305934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業車において左右クローラの間隔(或いは車輪の間隔)を変更できると、既述のように畝幅の違いに対応でき、また、高速走行時には轍距を広くして安定走行を可能と成す一方で狭い道では轍距を狭くして小回りを利かすというような対応もできる。しかし、特許文献3のように左右クローラの轍距変更をいちいち手動操作で行う構成では、作業者に多大の負担がかかるのみならず、路面・圃場の状態への対応等を機動的に行うことができないという問題がある。
【0005】
また、特許文献3は、左右のクローラのうち一方のクローラを支持荷重が小さい構成として、この支持荷重が小さいクローラを横移動させることで轍距の変更を行っているが、コンバインベーラやコンバインの場合、左右のクローラにはほぼ同じ荷重が掛かっていることから、停止状態で轍距の間隔変更を行うことは実際問題としては不可能に近く、従って、特許文献3の構成はコンバインやコンバインベーラのような一般的な収穫作業車には適用し難くて汎用性に欠けると言える。
【0006】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、クローラのような走行部の間隔を変更可能な収穫作業車において、轍距の変更を容易に行うことができて高い機動性を確保すること、或いは、各種の作業車に容易に適用できるよう汎用性を高めること等を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明に係る農作業車は、請求項1に記載したように、エンジンを搭載した走行機体と、前記走行機体を支持する左右の走行部とを備えており、前記走行機体には、操縦ハンドル及び運転座席を有する運転部が設けられていると共に、作物の収穫又は移植のような処理部が設けられており、更に、前記左右の走行部は横移動装置を介して前記走行機体に左右位置変更可能に取付けられており、前記エンジンの動力が走行伝動系にて左右走行部に伝達されるようになっており、かつ、前記走行伝動系の構成部材の回転動力を横移動装置の駆動に伝達する連動装置が備えられている。
【0008】
本願発明は更に多くの構成を含んでいる。このうち請求項2の発明は、請求項1において、前記左右の走行部は、左右逆方向に移動して轍距が広狭変化するように一つの横移動装置に連動連結されている。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2において、前記横移動装置は、走行機体の前進時に作動すると左右走行部の轍距が広がって走行機体が後退時に作動すると左右走行部の轍距が狭まるように走行伝動系の構成部材に関連しているか、又は、走行機体の後退時に作動すると左右走行部の轍距が広がって走行機体の前進時に作動すると左右走行部の轍距が狭まるように走行伝動系の構成部材に関連している。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2において、作物の積載質量を検出する積載量センサを備えており、前記横移動装置と積載量センサとは、轍距が最大に広がっていない状態で積載量センサが所定質量を検知したら横移動装置が左右走行部の轍距を自動的に拡大する状態に作動するように連動している。
【0011】
請求項5の発明は、請求項2において、前記走行機体の走行速度を高速と低速とに切り替える変速手段を備えており、変速手段と横移動装置とが、左右走行部の轍距が最小でない状態で変速手段が高速走行に選択されると横移動装置は左右走行部の轍距を拡大するように作動し、左右走行部の轍距が最大でない状態で変速手段が低速走行に選択されると横移動装置は左右走行部の轍距を縮小するように作動する、というように連動している。
【発明の効果】
【0012】
本願発明は、エンジンの動力によって左右走行部の間隔(轍距)を変更(調節)するものであるため、作業者の身体的な負担はないと共に機動性に優れている。従って、圃場の状態に応じて轍距を変更すること、路面の状態(幅、荒れ状態、傾斜状態等)に応じて轍距を変更すること、収穫物の積載状態に応じて轍距を変更すること、走行機体の走行速度に応じて轍距を変更すること、等を容易かつ迅速に行うことできる。
【0013】
そして、本願発明では、横移動装置の駆動源としてエンジンの動力(出力)を走行部(例えばクローラ)に伝達する走行伝動系を使用するものであるが、これは2つの意義を持っている。第1の意義は、収穫作業車を走行させながら轍距を変更するということであり、これにより、走行部に大きな荷重が掛かっていても地面に対する摩擦抵抗が殆どない状態で横移動をスムースに行うことができるのであり、その結果、高い汎用性が確保されて各種の収穫作業車に適用できる。
【0014】
横移動装置の駆動源に走行伝動系を使用することの第2の意義は、油圧ポンプや油圧シリンダのような特別の装置を不要として連動装置の構造を簡素化し得ることである。
【0015】
左右の走行部は独立して任意に横移動させることも可能であり、この場合は、例えば左右のクローラは間隔を変えずに全体として横移動させるといった調節や、片方のクローラだけを横移動させるといったことも可能になり、これによってきめ細かい制御を実現することができるが、それだけ作業者の操作が複雑になる。これに対して請求項2のように構成すると、左右の走行部が逆方向に同時に同量だけ移動することで轍距が広狭変化するだけであるため、操作はごく簡単でしかも連動装置の構造もより簡素化することができる。従って、複雑な制御が必要でない収穫作業車の場合、請求項2の構成は好適であると言える。
【0016】
走行機体の走行と横移動装置の作動態様との関係としては、轍距の広狭調節を走行機体の前進状態のみ又は後退状態のみで行うことも可能であるが、この場合は、走行伝動系の動力を横移動装置に伝達するにおいて回転方向を正逆切り替えることが必要である。これに対して請求項3のように構成すると、走行伝動系における部材の正逆回転を利用して轍距を広狭変更するものであるため、横移動装置にはクラッチ手段を設けるだけで良く、それだけ構造を簡素化できる利点がある。
【0017】
請求項4の構成を採用すると、収穫物の積載量がある値を超えると轍距を狭い状態から自動的に広がるため、例えば、収穫作業は圃場の状態に合わせて狭い轍距にして小回りの利く状態で行って、収穫物を大量に積載した状態での運搬走行は轍距を広げた状態で安定性よく行う、といったことを容易に実現できる。
【0018】
また、請求項5の発明によると、圃場での収穫作業は畝間隔に応じた轍距で低速で行って、路上走行は安定性が良い状態で高速で行う、といったことを作業者の手間を抑制した状態で実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、飼料稲や飼料麦、牧草のような飼料類の刈取り・刈落し・拾い上げ・梱包を行うコンバインベーラに適用している。以下の説明では方向を示す用語として前後左右の文言を使用するが、この前後左右の文言は、コンバイベーラの前進方向を向いた状態を基準にしている。
【0020】
(1).コンバイベーラの概要
図1はコンバインベーラの左側面図であり、この図から理解できるように、コンバイベーラは左右一対のクローラ式走行部1で支持された走行機体2を備えており、走行機体2の略前半部にはカバーで覆われたエンジン室3を設けており、エンジン室3にエンジン4や各種補機類が配置されている。エンジン室3の前部には、走行伝動系の中核を成す走行用ミッションケース5が配置されており、ミッションケース5にはエンジン4から図示しないチエン又はベルトで動力が送られている。ミッションケース5の下部はエンジン室3の下方に露出している。
【0021】
走行機体2の前方には刈取部6が配置されており、刈取部6はエンジン室3等の部材に複合式のアーム7,8を介して高さ調節可能に取付けられている。アーム7,8は油圧シリンダ9によって屈曲動するようになっており、油圧シリンダ9を駆動することで刈取部6が昇降する。
【0022】
走行機体2の略後半部にはベール装置10が搭載されており、刈取部6で刈られた作物はダクト11を介してベール装置10に投入され、ベール装置10の内部でロール化されて圃場に排出される。刈取部6はロータリー式の刈刃12を有している。なお、作物の処理機構は本願発明の要旨ではないので、刈取部6についてもベール装置10についても詳細は省略する。
【0023】
走行機体2の前部には、ハンドル13や座席14を有する運転部15が設けられている。運転部15は走行機体2の右側にはみ出た状態に設けられており、運転部の左側部には操縦コラム(図示せず)が設けられており、この操縦コラムに走行レバー等のレバー類を設けている。本例では、刈取部6やベール装置10などが請求項に記載した収穫装置を構成している。
【0024】
(2).走行系の概略
次に、図2及び図3も参照して走行系を説明する。図2は走行部1を中心にした一部省略左側面図、図3は同じく左右走行部1を中心にした一部省略平面図である。
【0025】
クローラ式走行部1は前後に長いトラックフレーム17を有しており、トラックフレーム17の前方部には駆動スプロケット18が配置されている一方、トラックフレーム17の後部にはブラケットを介してテンションローラ19が取付けられており、駆動スプロケット18とテンションローラ19とにエンドレスの走行クローラ20が巻き掛けられている。更に、トラックフレーム17には、クローラ20を接地状態に保持する複数のトラックローラ21が取付けられている。前記駆動スプロケット18やローラ類はトラックフレーム17の外側に配置されている。
【0026】
走行機体2はトラックフレーム17の内側において前後に延びるように配置された左右のベースフレーム22を備えており、左右のベースフレーム22は複数本のステー23で連結されている(但し、図3ではステー23は1本しか表示していない。)。ベースフレーム22には走行クローラ20の非接地部を前後中途部で下方から支持する中間ローラ24が回転自在に取付けられている。
【0027】
中間ローラ24の主軸25はベースフレーム22に固定した筒体26にスライド自在に嵌まっており、かつ、主軸25はトラックフレーム17には左右動不能に固定されている。従って、中間ローラ24は、ベースフレーム22に対するトラックフレーム17の左右移動を阻害しない状態でベースフレーム22に取付けられている。本願発明の適用例として、ベースフレーム22をトラックフレーム17で高さ調節可能に支持することも可能であるが、この場合は、中間ローラ24はトラックフレーム17に取り付けることになる(本実施形態においても中間ローラ24をトラックフレーム17に取り付けることは可能である。)。
【0028】
駆動スプロケット18は左右のトラックフレーム17にブラケット27と軸受け28とを介して取付けられている。また、そして、駆動スプロケット18の駆動軸はミッションケース5に組み込まれているが、本願の特有の構成として、駆動軸を左右スライド自在で相対回転不能に嵌まり合った筒形の外駆動軸29と内駆動軸30との複合構造とすると共に、駆動軸29,30を覆う軸ケースも左右スライド自在で相対回転不能に嵌まり合った外カバー筒31と内カバー筒32との複合構造としており、これにより、ミッションケース5から左右の駆動スプロケット18への動力伝達を阻害することなく左右走行部1の間隔が広狭変化することを許容されている。
【0029】
外駆動軸29と内駆動軸30とは例えばスプライン嵌合によってスライド可能で相対回転不能に保持されている。また、外カバー筒31と内カバー筒32とは、例えば両者を角形等の非円形とすることで相対回転不能でスライド自在となしている。ミッションケース5をエンジン室3に固定している場合は、カバー筒31,32は単なる円形でも良い。
【0030】
内カバー筒32は軸受け28と共にブラケット27を介してトラックフレーム17に固定されている一方、外カバー筒31はミッションケース5に固定されており、内外のカバー筒31,32でミッションケース5が支持されている。詳細は省略するが、左右の駆動スプロケット18は個別に回転し得るようになっており、ハンドル13を回転操作すると左右の駆動スプロケット18の回転速度が変化して走行機体2の進行方向が変わる。前進と後進とはレバーによって切り替えられる。なお、ミッションケース5を走行機体1(ベースフレーム22)に固定することも可能である。
【0031】
ミッションケース5に内蔵された回転部材や駆動軸27,28、或いは駆動スプロケット18は請求項に記載した走行伝動系の一環を成している。
【0032】
(3).走行部横移動装置(轍距調節装置)
次に、図4,5も参照して左右走行部1の横移動装置を説明する。図4は図3のIV−IV視断面図、図5は図3の V-V視断面図である。左右走行部1の横移動を可能ならしめるためには、左右の走行部1がそれぞれ走行機体2に対して左右移動可能に取付けられていなければならない。このための手段の一例として本実施形態では、左右ベースフレーム22に、左右横長で水平姿勢に配置された前後ガイド筒34がスペーサ35を介して固着されている一方、左右のトラックフレーム17には、前記ガイド筒34に左右スライド自在に嵌まった前後の支持筒36がブラケット部材38を介して固着されている。
【0033】
左右の支持筒36の対にはそれぞれねじ軸38が螺合しているが、この場合、ねじ軸38と支持筒36とを、ねじ軸38の右側部分及び右の支持筒36は右ねじで、ねじ軸38の左側部分及び左の支持筒36は左ねじにする、というように、ねじ軸38及び支持筒36におけるねじの巻き方向を左と右とで逆にしている。このため、前後のねじ軸38を一方方向に回転させたり他方向に回転させたりすると、左右のトラックフレーム17は同時に逆方向に移動し、これにより、左右走行部1の間隔(轍距)が広狭変化する。
【0034】
前後のねじ軸38には、その左右中間部に従動スプロケット39が設けられている。そして、ミッションケース5の左側面には平面視で後ろ向きに延びる補助ケース40が設けられており、この補助ケース40の後端部に、ねじ軸38の従動スプロケット39と左右同じ位置に位置した主動スプロケット41が取付けられており、主動スプロケット41に巻き掛けたチエン42が前後の従動スプロケット39に噛合している。チエン42には主動スプロケット41及び従動スプロケット39との噛み合い状態を保持するための複数対のアイドルスプロケット43が噛み合っており、アイドルスプロケット43はステー23に固定されたブラケット板44に回転自在に取付けられている。
【0035】
なお、ねじ軸38を有する支持部とは別に、左右走行部1の横移動ガイド手段を別に設けることも可能であり、この場合は左右走行部1の横移動がよりスムースに行われる利点がある。
【0036】
補助ケース40の内部には、外駆動軸29のトルクを主動スプロケット41に伝達するギアの群(図示せず)と電磁式等のトルクリミッタ付きクラッチ45とが内蔵されている。図面では省略しているが、運転部15にはクラッチ45を入り切りするボタン又はレバーを設けている。本実施形態では、ガイド筒34と支持筒36と従動スプロケット付きねじ軸38とが横移動装置を構成し、補助ケース40及びこれに内蔵された伝動機構と主動スプロケット41とチエン42とが請求項に記載した連動装置を構成している。
【0037】
走行部1の左右間隔が広がり切っていない状態において走行機体2の前進走行中にボタン又はレバーを押してクラッチ45を入りにすると、主動スプロケット41及び従動スプロケット39が正転して左右の走行部1は離反する方向に移動し、これによって左右走行部1の間隔は徐々に広がっていく(本例では、便宜的に、主動スプロケット41の正転によって轍距が広がることにしている。)。
【0038】
逆に、走行部1の左右間隔が狭まり切っていない状態において走行機体2の後退走行中にボタン又はレバーを押してクラッチ45を入りにすると、主動スプロケット41及び従動スプロケット39が逆転して左右の走行部1は互いに接近動し、これによって左右走行部1の間隔は徐々に広がっていく。走行機体2の前進後退と左右走行部1の拡縮変更とを逆の関係にすることも可能である。
【0039】
走行部1の移動規制は後述するようにセンサ類によって行われるが、センサ類が不具合の場合に走行部1が内外いずれかに移動し切っているにも拘わらず主動スプロケット41にトルクが掛かっている事態は避けねばならない。そこで、本実施形態ではクラッチ45にトルクリミッタを設けて、連動装置に過度の負荷がかかることを防止している。
【0040】
(4).轍距変更制御のバリエーション
次に、走行部1の横移動の制御(手動制御又は自動制御)の具体的な態様を説明する。制御のための手段として、適当な部位(例えばガイド筒34)には、走行機体2と走行部1との相対動を検知する横移動状態検出手段(図示せず)を設けている。横移動状態検出手段の具体的な構成は幾つか考えられる。
【0041】
例えば、a:左右の走行部1が内側に移動し切った位置を検知する最小轍距検知センサと、左右の走行部1が外側に移動し切った最大轍距検知センサとを設けて、走行部1を内外いずれかに移動し切った状態で自動的に停止させる、b:前記最小轍距検知センサと最大轍距検知センサに加えて、左右走行部1が左右中途部に位置している状態を検知する一つ又は複数の中間轍距位置センサを設けて、オペレータが選択した位置に自動停止させる、c:ポテンショメータやエンコーダによって左右走行部1の移動位置を無段階的に検知し、オペレータが選択した任意の轍距間隔で停止させる、といったことが例として挙げられる。
【0042】
ハンドル13の箇所に液晶のディスプレイを設けて、最大轍距と最小轍距との現実の轍距とを図で表示し、オペレータが轍距位置変更開始ボタンと変更停止ボタンとを押すことで任意の轍距を選択することも可能である。轍距を畝の条間隔に合わせる必要がある場合は、轍距を任意に調節できるように設定しておくのが好ましいと言える。
【0043】
上記の説明と一部重複するが、轍距の調節開始と調節停止とは、A:調節開始はオペレータがボタン操作やレバー操作で手動で行い、調節停止はセンサからの信号等によって自動的に行う、B:調節開始と調節停止とをオペレータが手動操作で行う、C:所定の条件の下で調節開始と調節停止とが自動的に行われる、という3つのパターンが有り得る。
【0044】
そして、調節開始と調節停止とが自動的に行われるパターンとしては、作物の積載量に関連させた積載量モードや、走行機体の走行速度に関連させた車速モードが例示される。いずれのモードでも轍距の調節は前進走行時に行うのが普通であるので、補助ケース40には走行機体2の前進時に主動スプロケット41の回転方向を正逆切り替える電磁式等の回転方向切り替え機構を設けておく必要がある。また、詳細な説明は省略するが、マイクロプロセッサ式コントローラや記憶装置等を備えた制御装置も備えている。
【0045】
そして、積載量モードを採用する場合は、前提として、走行機体2に作物の積載量(質量)を検知する積載量センサを設けておく必要があり、積載量センサが設定値を検知すると、主動スプロケット41が正転可能な状態でクラッチ45がONになり、狭まっていた轍距が最大値まで拡大して自動停止する。これによって安全な走行が可能になる。作物を降ろした後の処理としては、積載量センサからの信号に基づいて轍距を自動的に狭めることも可能であるが、轍距の拡大調節が終了するといったんリセットして、オペレータが必要な轍距を選択するのが好ましい。
【0046】
車速モードを採用する場合は、駆動スプロケット18の駆動軸の回転数(実際の走行速度)に関連させる方式と、走行レバーの切り替え操作に関連させる場合とがある。実際の車速に関連させる場合は、速度計(速度センサ)が所定の速度を検知すると、回転方向切り替え機構とクラッチ45とが作動して轍距が拡大する。走行レバーに関連させる場合は、低速走行から高速走行にレバーを倒すことで轍距が拡大する。車速モードの場合も、轍距の拡大調節が終了したらいったんリセットして轍距の縮小はオペレータが手動で行うことが可能である。
【0047】
積載量モードと車速モードとの両方を搭載して選択できるようにすることも可能である。安全対策として、高速走行時には轍距縮小ができないようにロックをかけておく、旋回時には轍距縮小ができないようにロックをかけておく、アーム7,8の回動量を検知する角度センサを設けて、刈取部6を大きく上昇させている工程中には轍距縮小ができないようにロックをかけておく、といったことを採用しても良い。
【0048】
(5).その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば走行部を横移動させる方法としては、実施形態のようなガイド筒と支持筒との組み合わせの他に、リンク機構を採用することも可能である。走行部はクローラ方式に限らずタイヤ方式を採用することも可能である。或いは、前部をタイヤとして後部をクローラとした複合方式を採用することも可能である。
【0049】
走行伝動系から横移動のための動力を取り出す具体的方法も実施形態には限定されないのであり、例えば駆動スプロケットに噛合する連動用スプロケットを設けて、この連動用スプロケットの回転トルクで走行部を横移動させることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本願発明を適用したコンバイベーラの左側面図である。
【図2】走行部を中心にして表示した一部省略左側面図である。
【図3】左右走行部を中心にして表示した一部省略平面図である。
【図4】図3のIV−IV視断面図である。
【図5】図3の V-V視断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 走行部
2 走行機体
3 エンジン室
4 エンジン
5 走行用ミッションケース
6 刈取部
10 ベーラ装置
13 ハンドル
14 座席
15 運転部
17 走行部を構成するトラックフレーム
18 駆動スプロケット
20 クローラ
23 走行機体を構成するベースフレーム
29,30 駆動軸
34 横移動装置を構成するガイド筒
36 横移動装置を構成する支持筒
38 横移動装置を構成するねじ軸
39 横移動装置を構成する従動スプロケット
40 連動装置を構成する補助ケース
41 連動装置を構成する主動スプロケット
42 連動装置を構成するチエン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを搭載した走行機体と、前記走行機体を支持する左右の走行部とを備えており、前記走行機体には、操縦ハンドル及び運転座席を有する運転部が設けられていると共に、作物の収穫又は移植のような処理部が設けられており、更に、前記左右の走行部は横移動装置を介して前記走行機体に左右位置変更可能に取付けられており、前記エンジンの動力が走行伝動系にて左右走行部に伝達されるようになっており、
かつ、前記走行伝動系の構成部材の回転動力を横移動装置の駆動に伝達する連動装置が備えられている、
農作業車。
【請求項2】
前記左右の走行部は、左右逆方向に移動して轍距が広狭変化するように一つの横移動装置に連動連結されている、
請求項1に記載した農作業車。
【請求項3】
前記横移動装置は、走行機体の前進時に作動すると左右走行部の轍距が広がって走行機体が後退時に作動すると左右走行部の轍距が狭まるように走行伝動系の構成部材に関連しているか、又は、走行機体の後退時に作動すると左右走行部の轍距が広がって走行機体の前進時に作動すると左右走行部の轍距が狭まるように走行伝動系の構成部材に関連している、
請求項2に記載した農作業車。
【請求項4】
作物の積載質量を検出する積載量センサを備えており、前記横移動装置と積載量センサとは、轍距が最大に広がっていない状態で積載量センサが所定質量を検知したら横移動装置が左右走行部の轍距を自動的に拡大する状態に作動するように連動している、
請求項2に記載した農作業車。
【請求項5】
前記走行機体の走行速度を高速と低速とに切り替える変速手段を備えており、変速手段と横移動装置とが、左右走行部の轍距が最小でない状態で変速手段が高速走行に選択されると横移動装置は左右走行部の轍距を拡大するように作動し、左右走行部の轍距が最大でない状態で変速手段が低速走行に選択されると横移動装置は左右走行部の轍距を縮小するように作動する、というように連動している、
請求項2に記載した農作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−73344(P2009−73344A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244247(P2007−244247)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】