説明

農作物用の洗浄液

【課題】野菜等農作物の表面に残留する農薬を十分に除去し得る洗浄液を提供する。
【解決手段】野菜等農作物を洗浄して同農作物の表面に残留する農薬を除去処理する洗浄液であり、当該洗浄液は、農薬に配合可能な展着剤を水または電解生成酸性水に溶解してなる展着剤水溶液である。当該洗浄液による洗浄処理では、野菜等農作物の表面に残留する農薬は、展着剤、または、展着剤および電解生成酸性水の作用により、野菜等農作物の表面に残留する農薬を十分に除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜、果物、根菜類等、農作物の表面に残留する農薬を除去するために使用する農作物用の洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜、果物、根菜類等の農作物を大量に栽培する場合には、殺虫剤、除草剤、病害防除剤等の農薬を撒布することが恒常的に行われている。一般に、農薬には展着剤が配合されている。配合されている展着剤は、農薬が散布された農作物の表面に均一に広がって長期間残留させて、農薬の薬効を十分に発揮するように機能している。
【0003】
ところで、栽培時に農薬を撒布されている農作物は、その収穫後においても、その表面に農薬が残留している。特に展着剤が配合されている農薬を撒布している場合には、収穫された農産物の表面には多くの農薬が残留することになる。このため、収穫された農作物を食材として利用する場合には、調理や生で食するに先だって、残留する農薬を除去することが不可欠である。
残留する農薬を除去するには、通常、食材に供する農作物を清浄な水で洗浄する手段が採られているが、残留する農薬を十分に洗浄除去することは難しく、残留する農薬を十分に洗浄除去するには、大量の水を使用して時間かけて十分に洗浄する必要がある。特に、展着剤が配合されている農薬が使用されている農産物にあっては、展着剤の作用により、残留する農薬を十分に洗浄除去することは一層難しい。このため、農産物に残留する農薬を十分に除去すべき洗浄液が、「生鮮野菜の表面処理剤」として提案されている(特許文献1を参照)。
【0004】
当該特許文献1にて提案されている表面処理剤は、アルカリ性物質、好ましくは水酸化カルシウムを水に溶解してなるpHが10以上、好ましくは12以上の水溶液である。野菜は、当該水溶液(表面処理剤)に浸漬して洗浄処理される。当該洗浄処理では、農薬に配合されている展着剤は分解して除去さるか、農薬との結合を解離されて、当該水溶液に浸漬されている状態の野菜の表面に残留する農薬が簡単に除去されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−159010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した特許文献1にて提案されている表面処理剤とは発想を変えて、農薬に配合される展着剤に着目してなされたもので、本発明の目的は、農薬に配合される展着剤と同等の展着剤を利用して、野菜、果物、根菜類等の農作物の表面に残留する農薬を洗浄除去し得る洗浄液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、農作物を洗浄して同農作物の表面に残留する農薬を除去処理する洗浄液に関する。本発明に係る第1の洗浄液は、農薬に配合可能な展着剤を水に溶解してなる展着剤水溶液であることを特徴とするものである。また、本発明に係る第2の洗浄液は、展着剤を電解生成酸性水に溶解してなる展着剤水溶液であることを特徴とするものである。
なお、第2の洗浄液の調製に使用する電解生成酸性水としては、金属塩の希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成される電解生成酸性水を採用する。また、採用する金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カルウム、塩化カルシウム等が好ましく、より好ましくは食塩である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る第1の洗浄液は、農薬に配合可能な展着剤を主成分とするものであり、農作物の表面の残留する農薬を、洗浄液中の展着剤の作用により当該洗浄液中に取り込んで、洗浄除去することができる。また、本発明に係る第2の洗浄液は、展着剤と電解生成酸性水を主成分とするもので、これら両成分の作用により、農作物の表面の残留する農薬の除去効果を一層発揮するとともに、電解生成酸性水の農作物に対する殺菌効果を十分に発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】4種類の洗浄液を使用した洗浄処理による残留農薬の除去効果を示すグラフである。
【図2】洗浄処理に使用した洗浄液の殺菌効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、農作物を洗浄して同農作物の表面に残留する農薬を除去処理する洗浄液であり、本発明に係る第1の洗浄液は、農薬に配合可能な展着剤を水に溶解してなる展着剤水溶液であることを特徴とするものである。
また、本発明に係る第2の洗浄液は、農薬に配合可能な展着剤を電解生成酸性水に溶解してなる展着剤水溶液であることを特徴とするものである。本発明に係る第2の洗浄液においては、前記電解生成酸性水として、金属塩の希釈水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成される電解生成酸性水を採用することができる。金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カルウム、塩化カルシウム等が好ましく、より好ましくは食塩である。
【0011】
本発明に係る洗浄液が洗浄処理の対象とする農作物としては、白菜、キャベツ、レタス等の葉菜類、大根、かぶ、人参、牛蒡、イモ等の根菜類、キュウリ、瓜、トマト、ナス、ピーマン等の果菜類、カリフラワー、ブロッコリー等の茎菜類、ネギ、タマネギ等の鱗茎菜類、リンゴ、柿、ミカン等の果物類等を挙げることができる。
また、農薬に配合可能な展着剤は、農作物に農薬を散布した場合、農薬が農作物の表面に均一に広がって長期間残留すべく機能するものであり、展着剤は、具体的には、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、ベタイン系の界面活性剤、水溶性高分子化合物、木酢等を挙げることができる。また、市販の展着剤の商品名としては、ミックスパワー(シンジェンタジャパン株式会社製)、KKステッカー、スプレースチッカー(日農化学株式会社製)、ステッケル、および、クサリノー(日本農薬株式会社製)等を挙げることができる。
【0012】
本発明に係る第1の洗浄液の調製では、これらの展着剤から選択された1種類の展着剤を蒸留水等の清浄な水に溶解して、適宜濃度の展着剤水溶液に調製される。展着剤として市販のミックスパワーを採用して洗浄液を調製する場合には、ミックスパワーは規定希釈率が3000倍であることから同希釈率の下で使用し、水で約3000倍に希釈した洗浄液に調製される。
【0013】
また、本発明に係る第2の洗浄液の調製では、これらの展着剤から選択された1種類の展着剤を電解生成酸性水に溶解して、適宜濃度の展着剤水溶液に調製される。当該洗浄液は、第1の洗浄液と同様の濃度に調製されるが、電解生成酸性水として、金属塩の希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成される電解生成酸性水を使用する。洗浄処理の対象である農作物(被洗浄処理物)が食材に供するものでありことから、被電解水として食塩の希薄水溶液を採用することが好ましい。
【0014】
当該有隔膜電解では、有隔膜電解槽を構成する陽極側電解室で電解生成酸性水が生成され、同期的に、当該有隔膜電解槽を構成する陰極側電解室では電解生成アルカリ性水が生成される。生成される電解生成酸性水は、有効塩素成分を含有することから殺菌能を有し、各種の分野で殺菌剤として利用される。また、生成される電解生成アルカリ性水は、アルカリ性を呈することから大きな洗浄能を有し、各種分野で洗浄剤として利用される。本発明の係る第2の洗浄液の調製には、当該電解生成酸性水を使用するもので、本発明に係る第2の洗浄液は、本発明に係る第1の洗浄液とは異なり被洗浄処理物に対する殺菌作用をも有する。
【0015】
本発明に係る第1の洗浄液または第2の洗浄液を使用して、農作物の表面に残留する農薬を洗浄除去するには、例えば、容器に収容した洗浄液中に被洗浄処理物を浸漬し、必要により容器内の洗浄液を撹拌等して洗浄する。これにより、被洗浄処理物である農産物の表面に残留する農薬は、洗浄液中の展着剤の作用によって洗浄液中に取り込まれて、農産物の表面から除去される。
【0016】
かかる被洗浄処理物の洗浄処理において、洗浄液として第2の洗浄液を使用した場合には、被洗浄処理物である農産物の表面に残留する農薬の洗浄除去作用を一層高めることができ、さらには、当該洗浄液が殺菌能を有する電解生成酸性水であることから、被洗浄処理物である農産物を、その表面から農薬を除去された状態下で効率よく殺菌することができる。
【実施例】
【0017】
本実施例では、被洗浄処理物として市販のキュウリを多数用意して、4種類の洗浄液にて洗浄処理する実験を試みた。洗浄処理に先立って、多数のキュウリを2つに区分けして、区分けされた第1の区分のキュウリについては、そのまま洗浄処理に供した(無処理区A)。また、残りの第2の区分のキュウリについては、有機リン系農薬スミチオン乳剤(住友化学株式会社製:農水省登録21939号)を規定希釈率である1000倍に希釈して、キュウリの表面に散布して、農薬の残留量を意図的に多くした状態で洗浄処理に供した(スミチオン処理区B)。但し、使用したスミチオン乳剤には、展着剤であるミックスパワーが規定希釈率になるように配合されている。
【0018】
(洗浄液):本実験で採用した洗浄液は、下記の第1洗浄液〜第4洗浄液の4種類である。第1洗浄液:蒸留水のみにて調製した洗浄液である(蒸留水)。第2洗浄液:電解生成酸性水のみにて調製した洗浄液である(電解生成酸性水)。第3洗浄液:蒸留水に展着剤を溶解して調製した洗浄液である(蒸留水+展着剤)。第4洗浄液:電解生成酸性水に展着剤を溶解して調製した洗浄液である(電解生成酸性水+展着剤)。
但し、採用した電解生成酸性水は、食塩の希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解によって陽極側電解室にて生成された電解生成酸性水(有効塩素濃度20mg/kg、pH2.6)である。また、採用した展着剤はミックスパワー(シンジェンタジャパン株式会社製:農水省登録17490号)であって、第3洗浄液および第4洗浄液の調製では、規定希釈倍率である3000倍に希釈した状態とした。
【0019】
(洗浄処理):キュウリの洗浄処理では、無処理区Aおよびスミチオン処理区Bの各キュウリのそれぞれを、第1洗浄液、第2洗浄液、第3洗浄液および第4洗浄液(1L)がそれぞれ収容されている硬質のプラスチック製容器に入れて、各洗浄液に60秒間浸漬した。キュウリを洗浄液に浸漬している間は、容器をゆっくり揺らして洗浄した。
【0020】
(農薬の濃度の測定):本実験では、キュウリを洗浄処理した後の各洗浄液中の農薬の濃度を測定して、測定値を農薬除去効果とした。農薬の濃度は、洗浄液中のリン酸イオンを測定することにより行い、測定手段としては、モリブデン青(アスコルビン酸還元)吸光光度法を採用した。
【0021】
(測定方法):各容器内の洗浄液5mLを試験管に採取して測定試料とし、この試料にモリブデン−アスコルビン酸混合液0.4mLを加えて振り混ぜた後、20〜40℃で約15分間放置する。その後、試料溶液を冷暗所に移し、24時間経過後に比色定量した。試料溶液の一部を吸収セルに移し、波長880nmの吸光度で測定し、検量線からリン酸イオンの量を求め、試料中のリン酸イオン濃度(mgPO43-/L)を算出した。算出されたリン酸イオン濃度を図1のグラフに示す。
【0022】
(農薬の除去効果):図1は、無処理区Aおよびスミチオン処理区Bの各キュウリを洗浄処理した後の洗浄液中のリン酸イオン濃度(mgPO43-/L)を示すもので、洗浄処理後の洗浄液中のリン酸イオン濃度は、キュウリの表面から除去された農薬の濃度と認めることができる。図1を参照すると、本実験では、第4洗浄液(電解生成酸性水+展着剤)による洗浄処理が農薬の除去効率が最も高く、農薬の除去効率は、第2洗浄液(電解生成酸性水)、第3洗浄液(蒸留水+展着剤)、第1洗浄液(蒸留水)の順に低下していることが認められる。この結果は、キュウリの表面に残留する農薬(展着剤配合)の除去には、展着剤および電解生成酸性水が単独で大きく関与していること、および、展着剤および電解生成酸性水が共働で一層大きく関与していることを明らかにしている。
【0023】
(洗浄液中の電解生成酸性水の殺菌能):電解生成酸性水は反応性が高いため、展着剤によって殺菌能が消失されるか否かを確認した。その結果を図2のグラフに示す。洗浄処理済みの各キュウリの表面をピーラーで削いで採取して試料とし、ストマッカーで各試料の菌数検査を行った。菌数検査の結果から、電解生成酸性水の殺菌能は維持された状態にあった。なお、対照区は洗浄処理をしない状態のキュウリの菌数を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
農作物を洗浄して同農作物の表面に残留する農薬を除去処理する洗浄液であり、当該洗浄液は、農薬の配合可能な展着剤を水に溶解してなる展着剤水溶液であることを特徴とする農作物用の洗浄液。
【請求項2】
農作物を洗浄して同農作物の表面に残留する農薬を除去処理する洗浄液であり、当該洗浄液は、農薬に配合可能な展着剤を電解生成酸性水に溶解してなる展着剤水溶液であることを特徴とする農作物用の洗浄液。
【請求項3】
請求項2に記載の農作物用の洗浄液において、前記電解生成酸性水は、金属塩の希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成される電解生成酸性水であることを特徴とする農作物の洗浄液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−185018(P2010−185018A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30254(P2009−30254)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000194893)ホシザキ電機株式会社 (989)
【Fターム(参考)】