説明

農業用組成物

【課題】農業分野において、フルボ酸を活力剤、肥料などの添加剤として有効に利用する。
【解決手段】主にフルボ酸を含有し、添加、散布、固体混合、培養液添加、希釈混合、灌水、培土および人工培地等の農業資材への含浸、底面灌水、培土造粒時のバインダー液、葉面散布、種子浸漬、種子被覆、移植時の根部浸漬、接木接合面への浸漬・塗布から成る群より選ばれる少なくとも1種以上の方法により植物体または培地に施される農業用組成物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用途に好適で、主にフルボ酸を含有する組成物、好ましくは水性液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業の近代化に伴い無機肥料(化成肥料)の使用量が増加し、その弊害として、地力の低下が広がり全国的な問題となってきている。この対策として化成肥料に有機物を配合することが行なわれている。有機物としては、(1)糖、ビタミン、アミノ酸などの比較的低分子で構造の特定された有機化合物や、(2)堆きゅう肥、腐植などの天然高分子有機化合物が用いられている。前者は生育促進効果、土壌微生物活性、ホルモン様作用等即効性の効果を期待するものが多いが製造コストや施用量が多いと病害虫が発生するなどの問題がある。後者は保水、保肥、農薬流亡の防止など、土壌の物理的、化学的改善効果を期待する資材である。徐々に分解するため即効性はなく、特に堆肥の場合は臭気なども問題になる。堆肥施用は栄養塩補給の意味合いもあるが最終的には腐植化による土壌改良が目的であるため、腐植の投与が土壌の肥沃化において非常に重要視されている。
【0003】
腐植の土壌改良剤への添加については、特許文献1に記載されている。また、特許文献2には、有機物の添加(木酢液など)とアミノ酸の併用が記載されている。更に、特許文献3〜5には液体のフミン酸とその効果について記載されているが、フルボ酸には触れられていない。なお、フルボ酸の定義などについては、特許文献6に記載されている。
【特許文献1】特許第2533314号公報
【特許文献2】特公平7−103369号公報
【特許文献3】特開2001−247868号公報
【特許文献4】特開2001−152151号公報
【特許文献5】特開2001−152152号公報
【特許文献6】特開2003−171215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の資材では、上記の問題をバランス良く解決することが困難な場合があった。
【0005】
また、上記のほとんどが固体資材であることが多く、土壌との混合などに手間がかかったり、水耕栽培には使えないなど用途が限られる場合がある。
【0006】
また、固体の土壌改良剤の場合は、腐植の消費は遅くともいずれなくなり、追加すれば基材のみが蓄積される。
【0007】
一方、比較的低分子で水溶性腐植であるフルボ酸の場合、固形物からの抽出など分離にはコストがかかることがあるため、フルボ酸単独の利用はあまりされていない。
【0008】
また、農業分野において、フルボ酸として独立した取り扱いはされず、他の腐植成分と混合して固体で用いられていることが多い。一般的にフルボ酸の50質量%を炭素が占めることからTOC値の2倍量をフルボ酸含有量と判断できるが、市販の活力剤の分析を行っても、TOC濃度が低い場合があり、希釈した実施用条件では1質量ppm以下の低濃度となるものもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明によれば、主にフルボ酸を含有し、添加、散布、固体混合、培養液添加、希釈混合、灌水、農業資材への含浸、底面灌水、培土造粒時のバインダー液、葉面散布、種子浸漬、種子被覆、移植時の根部浸漬、接木接合面への浸漬および塗布から成る群より選ばれる少なくとも1種以上の方法により、植物体または培地に施される農業用組成物が提供される。
【0010】
また、農業用組成物の中でも、水性液体が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の農業用組成物は、フルボ酸を含有するため、従来の課題をバランス良く解決できる。
【0012】
また、本発明の農業用組成物は水性液体であるため、土壌との混合などに手間がかかることもなく、水耕栽培など幅広い用途で使用できる。
【0013】
また、比較的低分子で水溶性腐植であるフルボ酸は、生育促進効果、ホルモン作用、保水・保肥能力等、上記の(1)及び(2)の良い部分を併せ持つ。更に、界面活性作用をもち肥料、土壌改良資材、農薬など他資材の造粒時のバインダーとしても使う事が出来るなど、相乗効果も期待できる。
【0014】
水溶性のフルボ酸液は、肥料、農薬とともに定期的に散布すればよく、今までに無い水溶性の土壌改良剤となる。また播種育苗用などの短期栽培用の培土に施用すれば、長期間持続する必要はなく、フルボ酸の発芽促進効果も期待できる。
【0015】
以上より、本発明により、農業分野において、フルボ酸を活力剤、肥料などの添加剤として有効に利用出来るようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
フルボ酸含有の農業用組成物と形態としては、固体状組成物および水性液体組成物などを挙げることができる。以下に詳細に説明する。
【0017】
(フルボ酸含有の固体状組成物)
自然界において植物は死滅すると腐朽し腐植物質となる。腐植物質の主成分は高分子有機酸であり、腐植物質は、土壌、湖、河川および海底などに広く分布しており、特に泥炭、褐炭および風化炭などに豊富に含まれている。腐植物質は、植物の生長、鉱物の遷移および堆積と密接に関連している応用分野の広い天然資源である。
【0018】
腐植物質はフミン酸とフルボ酸に大別され、フミン酸は一般に分子量が数万でアルカリ性水溶液に可溶であり、フルボ酸は一般に分子量数千でアルカリ性水溶液にも酸性水溶液にも可溶である。なお、腐植物質の厳密な定義は、国際腐植物質学会(International Humic Substances Society、IHSSと略記する)によって定められている。
【0019】
また、フルボ酸の精製方法は、IHSS法(国際標準法)として確立されている。同法では、フルボ酸水溶液を酸性(pH<2)としXAD樹脂に吸着後、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液で溶離し、陽イオン交換樹脂でナトリウムを交換(H+型)後、凍結乾燥する。
【0020】
また、活性炭を利用する吸着法でも精製できる。
【0021】
固体状組成物としては、フルボ酸水溶液を肥料や土改材に混合した固体の組成物、固体のフルボ酸を混合した固体の組成物、濃縮液をさらに濃縮しスラリー化または固化された組成物などを挙げることができ、固体化されたフルボ酸を利用した農業用資材や,液体のフルボ酸を利用して作られた固体組成物などを挙げることができる。
【0022】
活性炭経由の濃縮液からの固形化法としては、凍結乾燥、減圧濃縮、蒸発乾固、薬剤による凝集沈殿、スプレー噴霧などにより固形肥料等を核にした造粒法などを挙げることができる。
【0023】
固体化したものの場合、輸送保管や貯蔵安定性などにメリットがある。
【0024】
(フルボ酸含有の水性液体組成物)
一方、腐植物質は上記の様な堆積層などに含まれるのみならず、地下かん水にも含まれる場合があることが知られており、特許文献6には、地下かん水からフルボ酸を精製することが記載されている。また、活性炭を用いてもフルボ酸を精製できる。
【0025】
特に、地下かん水の中には、腐植物質として実質的にフルボ酸のみを含有するものがあり、フルボ酸の原料が地下かん水の場合に、特に良好な結果を得ることができる。
【0026】
地下かん水とは淡水に比べ塩分濃度の高い地下水を言い、例えば、地殻変動により地中に封鎖された海水、周辺の地層から溶出した塩分を含有する地下水、塩濃度の高い湧水、塩濃度の高い温泉水などを使用することができる。しかしながら、原料となる地下かん水としては、腐植物質を多量に含有しているものが好ましく、腐植物質を多量に含有している地下かん水は一般に着色している。
【0027】
従って、地下かん水中の腐植物質量は分光学的に色度として定量化することができる。例えば、JIS K 0102に準拠して測定される色度の主波長が550〜600nmであることが好ましい。また、その主波長での刺激純度が5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が更に好ましい。一方、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が更に好ましい。
【0028】
なお、地下かん水の含有物および含有物濃度は産出される地域により大きく異なる。また、同じ地域から産出される地下かん水の場合も、採取する深度によって、含有物および含有物濃度は大きく異なる。従って、十分な品質のフルボ酸含有物を十分な生産性で得るためには、使用する地下かん水を注意深く選択する必要がある。
【0029】
上記の様な地下かん水の中には、腐植物質の大部分がフルボ酸であるものが存在し、この様な地下かん水を用いれば、実質的にフルボ酸のみを含有するフルボ酸含有物を、安価に製造できるので好ましい。具体的には、腐植物質中のフルボ酸含有量が70質量%以上の地下かん水が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。
【0030】
また、液体や固体の培地に混合した際に所望の使用濃度を実現し易く、また、簡便に製造する観点から、フルボ酸の組成物全体に占める割合(培地中ではなく、培地に添加される前の“原液”中のフルボ酸濃度)は100質量ppm以上が好ましく、500質量ppm以上がより好ましく、1000質量ppm以上が更に好ましく、一方、500000質量ppm以下が好ましく、100000質量ppm以下がより好ましく、50000質量ppm以下が更に好ましく、10000質量ppm以下が最も好ましい。
【0031】
なお、フルボ酸の含有量は、例えばIHSSで規格化されている酸による分画法に準拠して測定することができる。また、TOCおよびTOCと相関のあるUV260nm吸光値を指標として定量化することもできる。
【0032】
フルボ酸は種々の金属類と結合することが知られているが、植物への栄養塩および微量栄養素供給の観点から、フルボ酸は水素型、カリウム型、アンモニア型、マグネシウム型、カルシウム型、ナトリウム型、鉄型、銅型、マンガン型、亜鉛型またはモリブデン型であることが好ましく、特に、カリウム型であることが好ましい。
【0033】
(使用形態)
以上の様なフルボ酸含有の水性液体組成物は添加、散布、固体混合、培養液添加、希釈混合、灌水、培土および人工培地などの農業資材への含浸、底面灌水、培土造粒時のバインダー液、葉面散布、種子浸漬、種子被覆、移植時の根部浸漬、接木接合面への浸漬・塗布などの方法で、液体や固体の培地などの農業資材に混合または植物体へ直接施用される。
【0034】
以上の様な使用形態において、フルボ酸含有の水性液体組成物は、肥料組成物、土壌改良剤、生長調節剤、発芽促進剤、耐寒性向上剤、耐病性向上剤、収量増加剤および果実糖度促進剤などの目的で使用される。
【0035】
以上の場合、培地,培養液中のフルボ酸の使用濃度は0.1質量ppm以上が好ましく、1質量ppm以上がより好ましく、5質量ppm以上が更に好ましく、一方、1000質量ppm以下が好ましく、500質量ppm以下がより好ましく、200質量ppm以下が更に好ましい。具体的には、水耕栽培等の場合は1〜50質量ppmに効果がある。50質量ppm以上では、効果が変わらない、または阻害が出る場合がある。土壌散布の場合は土壌の緩衝効果により10〜200質量ppmが適当である。発芽促進は水耕の場合1〜50質量ppmとし、土播きの場合は5〜200質量ppmの濃度での散布が適当である。かん水フルボ酸の場合は、高濃度障害は確認されない。
【0036】
以上の様に使用することで、以下を実現できる。
【0037】
(ア)肥料(化成肥料、液状肥料、葉面散布剤など)、培養液、培土、種子プライミング剤等へ添加できる。
【0038】
(イ)フルボ酸のキレート効果による金属塩の可溶化/金属塩吸収促進、成長促進を実現できる。
【0039】
(ウ)フルボ酸のホルモン様作用、浸透圧調整作用による発芽・成長促進を実現できる。
【0040】
(エ)フルボ酸の保水作用による土壌団粒化(界面活性作用)を実現できる。
【0041】
(オ)フルボ酸の陽イオン交換作用による金属塩等の保持、保水に伴う保肥効果を実現できる。
【0042】
(カ)フルボ酸を酸型にすることによる抗菌・静菌作用を実現できる。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
日本国千葉県九十九里地区の地下100〜2100mから、地下かん水を採取した。この地下かん水は着色しており、色度の主波長は575nmであり、575nmでの刺激純度は30%であった。この地下かん水は0.098MPa(1atm)下で25℃の水に対する飽和溶解度以上のメタンと98質量ppmのヨウ素とを含有しており、地下かん水を採取後、常圧とすることにより、メタンを主成分とする天然ガスが発生し、脱気された。この地下かん水より、活性炭法に準拠して、3000質量ppmのフルボ酸を含む水溶液を得た。フルボ酸はカリウム型である。
【0044】
以上で得られたフルボ酸含有の水性液体組成物をコマツナ水耕栽培で使用した。
【0045】
まず、播種から育苗時培養液に1質量ppm濃度で施用し、16日間の生育時点では、対照に対し30質量%以上の質量増を確認した。
【0046】
その後フルボ酸を与えず通常どおり栽培し12日後(播種28日後)に収穫し、乾燥質量で17質量%の質量増を確認した。
【0047】
また、播種から定植までの16日間はフルボ酸を与えず、16日目から収穫までフルボ酸を0.1、1、5、10質量ppmの濃度となるよう混合し施用したところ、28日生育(フルボ酸施用12日)フルボ酸施用区の質量が10〜20質量%増加していることを確認した。
【0048】
更に、フルボ酸塩の状態で与えた場合5質量ppm、25質量ppmで20〜40質量%程度の質量増を確認した。
【0049】
(実施例2)
実施例1で得られたフルボ酸含有の水性液体組成物をトマト水耕栽培で使用した。
【0050】
先ず、播種から育苗時(28日間)で培養液にフルボ酸を0質量ppm、1質量ppm、5質量ppm、10質量ppmの濃度となるよう混合し施用したところ、10質量ppmで生体質量が最も高く0質量ppmに対し60質量%増を確認した。また、1質量ppm、5質量ppmでも30〜40質量%増を確認した。更に、乾燥質量でも10質量ppmで50質量%近い増加となった。
【0051】
また、育苗時は通常どおり生育させた苗に、定稙後からフルボ酸を0質量ppm、1質量ppm、5質量ppm、10質量ppmの濃度となるよう混合し施用したところ、10質量ppm区で0質量ppmに対し、開花が2日早まり、窒素、リン、カリウムなどの栄養塩の吸収量も増加するなど、生育が促進された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
フルボ酸の農業分野における使用方法を確立できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主にフルボ酸を含有し、添加、散布、固体混合、培養液添加、希釈混合、灌水、農業資材への含浸、底面灌水、培土造粒時のバインダー液、葉面散布、種子浸漬、種子被覆、移植時の根部浸漬、接木接合面への浸漬および塗布から成る群より選ばれる少なくとも1種以上の方法により、植物体または培地に施される農業用組成物。
【請求項2】
肥料組成物、土壌改良剤、生長調節剤、発芽促進剤、耐寒性向上剤、耐病性向上剤、収量増加剤および果実糖度促進剤から成る群より選ばれる少なくとも1種以上の目的で使用される請求項1記載の農業用組成物。
【請求項3】
水性液体である請求項1又は2記載の農業用組成物。
【請求項4】
前記フルボ酸の前記組成物全体に占める割合は100〜500000質量ppmである請求項1乃至3何れか記載の農業用組成物。
【請求項5】
希釈され前記フルボ酸の使用濃度が0.1〜1000質量ppmである請求項1乃至4何れか記載の農業用組成物。
【請求項6】
前記フルボ酸は水素型、カリウム型、アンモニア型、マグネシウム型、カルシウム型、ナトリウム型、鉄型、銅型、マンガン型、亜鉛型またはモリブデン型である請求項1乃至5何れか記載の農業用組成物。

【公開番号】特開2006−151706(P2006−151706A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340496(P2004−340496)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000157108)関東天然瓦斯開発株式会社 (11)
【Fターム(参考)】