説明

農業用資材およびその製造方法

【課題】原油を精製する際に発生するアルカリフーツを有効利用できる形状に変換した農業用資材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】植物油の製油工程において原油を精製する際に発生するアルカリフーツと、とうもろこし胚芽粕とを混合してなる粉状体であって、この粉状体がアルカリフーツに水を加えて流動性のある液状体とした後、該液状体を撹拌しながら流動性が消失するまでとうもろこし胚芽粕を添加し、その後に水を揮散させて得られる粉状体であり、上記アルカリフーツと上記水との混合比率が重量比で、[(アルカリフーツ/水)=(1/1.5〜1/3)]である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農業用資材およびその製造方法に関し、特に植物油の製油工程において発生するアルカリフーツの有効利用を図るための農業用資材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜糞尿などのいわゆる有機性廃棄物は、堆肥化させて再び肥料として利用される場合が多い。堆肥化には自然発酵による堆積式と機械的な撹拌式とがある。堆積式は、含水率が60〜70重量%に調整されたものを1〜2mの高さに堆積・放置して、自然に発酵腐熟させて堆肥化させる方法である。堆積式は長い時間を要したり、広い堆積場所を必要としたりする問題がある。
【0003】
比較的短時間で処理できる機械的な撹拌式は、発酵槽内へ畜糞尿を投入して、ファン等により発酵槽内へ送風するととともに機械的に撹拌して好気的発酵を促し、発酵熱により水分を自然に蒸発させつつ発酵させて短期的に堆肥化させる方法である。例えば、約80重量%と水分含量が多い生牛糞尿と油脂が吸着された廃棄白土とを発酵槽に投入して、油脂が発酵されることにより生じる発酵熱より、生牛糞尿中の水分を蒸発させて好気性発酵を促進する生牛糞尿の急速発酵堆肥化法が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかし、この堆肥化法では、発酵槽内での熱量が不足して効率的な堆肥化が促進できないという問題があるため、本願発明者等は、特願2005−375630号において、アルカリフーツなどの脂質含有廃棄物と牛糞尿とを少なくとも含む原料を発酵装置で発酵させると共に、該発酵させた原料の一部を牛舎の敷料に混合し、該牛舎の中で所定期間牛を飼育した後、該飼育した牛舎の中より採取した、敷料と牛糞尿と脂質含有廃棄物との混合物を発酵装置に再投入して発酵させる方法を提案している。
【0005】
ここで、アルカリフーツは、食用油製造工場等で発生する脂質含有廃棄物である。食用油は、菜種やコーンなどの原料を圧搾・抽出して脱レシチンを行ない原油を製造し、さらにこの原油を脱酸、脱色、脱臭の各精製工程を経て製造されている。この脱酸工程において発生する脱酸油さいをアルカリフーツという。
このアルカリフーツは、粘ちょうでベタついた性状を有し、堆肥化させる場合、自然発酵による堆積式の場合であっても、機械的な撹拌式の場合であっても、その取り扱いが困難であるという問題がある。
【0006】
一方、アルカリ成分としてカリウムを用いて得られる脱酸油さいであるカリウム油さいを有機質肥料原料に吸着させて水分を蒸発させる方法が知られている(特許文献2)。
しかしこの方法は工業的にコスト高となるカリウムを用いる必要があり、食用油製造工場等で直接発生するアルカリフーツそのものを利用できないという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開平6−183868号公報
【特許文献2】特開平5−97558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、原油を精製する際に発生するアルカリフーツを有効利用できる形状に変換した農業用資材およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の農業用資材は、植物油の製油工程において原油を精製する際に発生するアルカリフーツと、とうもろこし胚芽粕とを混合してなる粉状体であって、この粉状体はアルカリフーツに水を加えて流動性のある液状体とした後、該液状体を撹拌しながら流動性が消失するまでとうもろこし胚芽粕を添加し、その後に水を揮散させて得られる粉状体であることを特徴とする。
上記アルカリフーツと上記水との混合比率が重量比で、[(アルカリフーツ/水)=(1/1.5〜1/3)]であることを特徴とする。
また、上記農業資材が土壌改良資材、堆肥化資材、またはキノコ培地であることを特徴とする。
【0010】
本発明の農業用資材の製造方法は、土壌改良資材、堆肥化資材、またはキノコ培地に用いられる農業用資材の製造方法であって、アルカリフーツに水を加えて流動性のある液状体とする工程と、上記液状体を撹拌しながら流動性が消失するまでとうもろこし胚芽粕を添加する工程と、上記流動性が消失した塊を乾燥する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の農業用資材は、アルカリフーツと、とうもろこし胚芽粕とを混合してなる粉状体であって、アルカリフーツに水を加えて流動性のある液状体とした後、該液状体を撹拌しながら流動性が消失するまでとうもろこし胚芽粕を添加し、その後に水を揮散させることにより、粘ちょうでベタついた性状を有するアルカリフーツが取り扱いやすい粉状体となるので、従来取り扱いが困難であるため利用促進がなされなかったアルカリフーツの有効利用を図ることができる。
また、本発明の農業用資材の製造方法は、上記工程を有するので、簡易かつ安価にアルカリフーツの有効利用を図った農業用資材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で使用できるアルカリフーツは、食用油製造工場における脂質を含む廃棄物である。特に原料を圧搾・抽出・脱レシチンを行なった後の原油を精製する工程で排出される廃棄物であり、特に脱酸工程における脱酸油さいである。
アルカリフーツは、外観がグリース状の物質であり、pHが約11、全窒素分が約0.2重量%である。成分の一例としては、水分が33.41重量%、脂肪酸が38.18重量%、トリアシルグリセロールが20.64重量%、水酸化ナトリウムなどのその他成分が7.77重量%である。
このアルカリフーツは、粘ちょうでベタついた性状を有するため、その取り扱いが困難であることを除いては、廃白土など他の脂質廃棄物に比べて、発熱量が約2倍あるので、発酵の立ち上がりが速く、堆肥化の副資材として有効に利用できる。また、pHが高く有機酸等の発生等脱臭効果が高い特徴がある。
【0013】
本発明で使用できるとうもろこし胚芽粕は、搾油・抽出よってとうもろこし胚芽から中性油を除いた植物油粕である。とうもろこし胚芽粕は単独で使用することが好ましいが、大豆油粕、なたね油粕などの他の植物油粕と併用してもよい。とうもろこし胚芽粕は、それ自身粉体状の物質であり、粗たんぱく質を約20%含むことから飼料原料として用いられている。また、とうもろこし胚芽粕は組織の多孔質性が優れており、水をはじめとする多くの液体を十分に吸着保持させる性質を持っている。アルカリフーツととうもろこし胚芽粕とは食用油製造工場において同時に発生するので、本発明の農業用資材とすることで、同一食用油製造工場内において調製が可能である。
【0014】
図1は農業用資材の製造工程図である。
アルカリフーツに水を加えて流動性のある液状体とする(図1(a))。アルカリフーツは脂肪酸ナトリウム等のアルカリ成分を含むので、石ケンとしての性質を有することから、水を加えることによりガム状物質が液状物質となり粘度が低下する。アルカリフーツ200gに水を加え、撹拌したときの粘度変化を図2に示す。図2は粘度が変化する割合を測定した図である。ここで粘性は図3に示すB型粘度計で測定した。B型粘度計は、同期モータと目盛板と、ロータとから構成されている。同期モータの回転はスプリングを介してロータに伝達される。粘度の測定液に浸漬されたロータを回転させると、被測定液の粘性摩擦トルクがロータに作用し、このトルクとスプリングの力が平衡した状態で定常回転となる。トルクの大きさはロータ軸に固定された指針の偏角として、モータ軸に直結された目盛板で読み取った値に比例するので、このトルクの大きさと粘度の換算係数により粘度が求められる。
図2に示すように、粘度100ポイズ(P)以上の物質であるアルカリフーツに対して重量比で約1.5倍の水の混合により系の粘度が一定になり始め、約2倍量の水が混合されるとアルカリフーツ水1の粘度が略一定となり、撹拌が容易になる。本発明においてアルカリフーツに加えられる水の量は重量比で1.5〜3倍量、好ましくは2〜3倍量である。水の量が重量比で1.5倍量未満であると粘度が一定にならず、3倍量をこえても、それ以上粘度は大きく変化しなくなる。
【0015】
粘度が略一定に調整されたアルカリフーツ水1にとうもろこし胚芽粕2を混合する(図1(b))。とうもろこし胚芽粕2はアルカリフーツ水1を撹拌しながら除々に添加混合する。とうもろこし胚芽粕2の添加混合割合が増加するに従い、混合物の流動抵抗値が上昇する。ここで流動抵抗値は、混合物に金属製のコーンを表面から毎秒1cmの速さで圧入するときの抗力(単位:kg/cm2)である。
流動抵抗値を測定した結果を図4に示す。図4は、粘度が略一定となったアルカリフーツ水300gにとうもろこし胚芽粕粉末を混合したときの流動抵抗値を示す図である。
【0016】
とうもろこし胚芽粕がアルカリフーツ水に対して重量比で約1倍量付近でアルカリフーツ水の流動性が消失し、アルカリフーツ水の粘弾性特性が急激に変化して、塊状物3となる(図1(c)および図4)。本発明は、この特性変化点までとうもろこし胚芽粕を混合する。とうもろこし胚芽粕の好ましい混合割合は、重量比で1〜2倍量が好ましい。重量比で2倍量以上のとうもろこし胚芽粕を混合してもアルカリフーツ水ととうもろこし胚芽粕とが均一に混合できない。
【0017】
アルカリフーツ水にとうもろこし胚芽粕を混合させて流動性が消失した塊状物3は、その後に、その塊状物に含まれている水を揮散させて農業用資材4が得られる(図1(d))。
水の揮散は、水分含量が15重量%程度になるまで乾燥する。乾燥方法としては、天日乾燥、乾燥装置を用いた熱風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥等採用できる。
得られた粉状体の農業用資材4は、とうもろこし胚芽粕2よりも僅かに濃色に着色していることを除けば、とうもろこし胚芽粕2と略同様の粉状体であり、粘ちょうでベタついた原料のアルカリフーツに比較して、取り扱い性に優れている。
【0018】
この粉状体からなる農業資材は、土壌改良資材、堆肥化資材、またはキノコ培地などの用途に利用できる。
土壌改良資材としては、その化学的性質がナトリウム由来のアルカリ性であること、また土壌と十分に混和されやすい形状であることから、土壌の酸性改良用の資材となる。堆肥化資材としては、とくに水分含有量の多い有機性廃棄物を堆肥化する場合の発酵促進用カロリーを含む理由から牛ふん堆肥用などの資材となる。キノコ培地としては、阻害物質を含まないこと、通気性に優れること、保水性に富むの理由から、おがくず培地などの混合材あるいは単独使用の培地となる。
【0019】
本発明の農業資材を土壌改良資材または堆肥化資材に用いる場合の例について図5により説明する。図5は、本発明の農業資材と牛糞尿と牛舎の敷料とから土壌病害抑制材などの土壌改良資材、または堆肥を製造するときの製造工程図である。
製油工場5から本発明の粉状体の農業資材4が製造される。一方、牛が飼育されている牛舎6には新しい敷料7が敷き詰められる。または既に敷き詰められている敷料に、新しい敷料7が追加される。この中で牛が飼育されることにより、牛糞尿と敷料とが混合されて、牛糞尿と敷料との混合物8が牛舎6内に蓄積される。混合物8内には飼料カスが含まれる場合がある。
この混合物8と農業資材4とを混合して発酵槽9で発酵させる。混合比率は農業資材4、敷料7等によって適宜選択される。例えば、重量比で(牛糞尿)/(農業資材(アルカリフーツ換算))=(70〜95)/(30〜5)である。最適量としては(牛糞尿)/(農業資材(アルカリフーツ換算))=80/20である。
【0020】
農業資材4と牛糞尿および敷料の混合物8とは発酵槽9に投入される。使用できる発酵槽9は、投入される原料を好気的に発酵させる発酵装置であり、例えば縦型発酵装置が挙げられる。
縦型発酵装置は、牛糞尿と敷料と農業資材との混合物を投入する原料投入口と、この原料を撹拌するための撹拌装置と、撹拌されている原料に酸素または空気を供給できる送気装置と、空気等の吹き込みにより好気性雰囲気下で発酵された上記混合物を取出す取出し口とを備えている。また、発酵装置には必要に応じて加熱装置、排出される水蒸気等の排出口等を付設することができる。
【0021】
好気性雰囲気下で発酵が始まることにより発酵槽内の温度が上昇する。発酵条件はこの温度を指標として、原料配合、撹拌条件、空気等の吹き込み等を制御することにより行なうことができる。例えば発酵槽内の温度としては60〜80℃、好ましくは70〜75℃で、72〜120時間である。
【0022】
発酵装置内での反応が終了した後、発酵槽9から発酵物の一部10が抜き取られて、牛舎内の敷料、または牛舎内に新しく追加される敷料に混合される。この混合された敷料が敷き詰められた牛舎6内にて牛が飼育される。この過程で枯草菌が増殖する。
枯草菌が増殖した混合物8は、新しい農業資材4と共に発酵槽に投入される。このサイクルを繰り返すことにより、外部から菌体を添加することなく、枯草菌が増殖し、1.0×106/g 以上の菌濃度を維持することができ、12か月経過後も枯草菌が 2.0×106/g 以上維持できる。
本発明の農業資材4は粉体状であるので発酵槽への投入が容易で、また、牛舎内での敷料に容易に混合できる。得られた土壌病害抑制材4aは、農作物の病害に対して優れた効果を示すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、製油工場から排出される脂質含有廃棄物であるアリカリフーツおよびとうもろこし胚芽粕の有効活用が可能である。また、取り扱い性に優れた有用な農業資材が創出され、製油工場とから排出される副産物の有効利用が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】農業用資材の製造工程図である。
【図2】粘度変化を測定した図である。
【図3】粘度計の概要を示す図である。
【図4】とうもろこし胚芽粕粉末を混合したときの流動性強度を示す図である。
【図5】土壌病害抑制材の製造工程である。
【符号の説明】
【0025】
1 アリカリフーツ水
2 とうもろこし胚芽粕
3 塊状物
4 農業資材
5 製油工場
6 牛舎
7 敷料
8 混合物
9 発酵槽
10 発酵物の一部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油の製油工程において原油を精製する際に発生するアルカリフーツと、とうもろこし胚芽粕とを混合してなる粉状体の農業用資材であって、
前記粉状体は、前記アルカリフーツに水を加えて流動性のある液状体とした後、該液状体を撹拌しながら流動性が消失するまで前記とうもろこし胚芽粕を添加し、その後に前記水を揮散させて得られる粉状体であることを特徴とする農業用資材。
【請求項2】
前記アルカリフーツと前記水との混合比率は重量比で、[(アルカリフーツ/水)=(1/1.5〜1/3)]であることを特徴とする請求項1記載の農業用資材。
【請求項3】
前記農業資材が土壌改良資材、堆肥化資材、またはキノコ培地であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の農業用資材。
【請求項4】
土壌改良資材、堆肥化資材、またはキノコ培地に用いられる農業用資材の製造方法であって、
アルカリフーツに水を加えて流動性のある液状体とする工程と、
前記液状体を撹拌しながら流動性が消失するまでとうもろこし胚芽粕を添加する工程と、
前記流動性が消失した塊を乾燥する工程とを備えることを特徴とする農業用資材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−269994(P2007−269994A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97832(P2006−97832)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(594156880)三重県 (58)
【出願人】(591193037)辻製油株式会社 (12)
【Fターム(参考)】