説明

農用作業機

【課題】水田などの走行不安定な圃場において安定走行を実現することができる農用作業機を提供する。
【解決手段】
走行検知手段により走行機体の走行状態を検知し、安定制御手段によりその走行状態と予め設定した走行条件とを比較演算し、もし、設定条件と異なる走行状態である場合、機体を安定制御する信号を走行安定化手段に出力し、その走行安定化手段により機体の走行状態を安定化させるので、水田などの走行不安定な圃場において、スタックなどに陥ることなく安定走行を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、播種作業、防除作業、耕耘作業などの管理作業を行う農用作業機の走行制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、播種作業、防除作業、耕耘作業、中耕除草、畦立てや土寄せ等の対地作業、苗移植作業、及び、収穫作業などの管理作業を行う農用作業機が知られている。そして、農用作業機は、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)およびセンサを導入することにより、無人で自律的に作業を行うことが公知となっている。
例えば、特許文献1には、GPSを備えることにより無人で管理作業を行う農用作業機が開示されている。すなわち、かかる農用作業機では、GPSから得られる高さ方向の位置情報と、農用作業機の高さ変位量とを比較し、設定値以上変位したときは、自律走行を停止するように制御して、車輪が圃場内の溝にはまって走行不能となることや、機体が傾斜して転倒に至るという不具合の発生を未然に防止するようにしている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−016010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記農用作業機が水田などの不安定な圃場を無人自動走行させると、その圃場のぬかるみにより立ち往生する現象、すなわち、スタックにより走行不能となってしまうことがあり、このような場合に、逐一、機体を停止させて、作業者が人力で対処していては、作業効率が悪い上に、圃場内においては物理的に作業者の人力では対処できないこともある。
【0005】
この発明は、上記問題を解決するためになされたもので、水田などの走行不安定な圃場において安定走行を実現することができる農用作業機を提供することを目的とする。
また、この発明は、スタックによる自動走行での非常停止を回避し、安定走行による作業を持続させる農用作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、圃場内で自律走行しながら農作業を行う農用作業機であって、機体の走行状態を検知する走行検知手段と、同走行検知手段から受信した検知結果と予め設定した走行条件とを比較演算して機体を安定制御するための出力信号を出力する安定制御手段と、同安定制御手段から出力した出力信号に基づいて機体の走行状態を安定化させる走行安定化手段と、を具備することを特徴とする農用作業機である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、上記走行検知手段は、車軸回転数検知センサ、切れ角検知センサおよび機体傾斜検知センサのいずれかあるいはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の農用作業機である。
【0008】
請求項3に記載の発明は、上記走行安定化手段は、デフロックアクチュエータ、ステアリングアクチュエータ、左側ブレーキおよび右側ブレーキのいずれかあるいはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の農用作業機である。
【発明の効果】
【0009】
(1)請求項1に記載の発明によれば、走行検知手段により機体の走行状態を検知し、安定制御手段によりその走行状態と予め設定した走行条件とを比較演算し、もし、設定条件と異なる走行状態である場合、機体を安定制御する信号を走行安定化手段に出力し、その走行安定化手段により機体の走行状態を安定化させるので、水田などの走行不安定な圃場において、スタックなどに陥ることなく安定走行を実現することができる。
【0010】
(2)請求項2に記載の発明によれば、上記走行検知手段として、機体の各車軸にはその車軸の回転数を検知する車軸回転数検知センサが設けられているので、スタック時での走行状態の異常を検知することができる。すなわち、農用作業機がスタックに陥ると、スタック側車輪がスリップして空回りし、デファレンシャル機構が作動して、空回りしていたスタック側車輪がさらに高回転になってしまう。その高回転になったのを車軸回転数検知センサで検知することにより、安定化制御手段はスタックなどの走行異常に陥ったことを判定することができる。
【0011】
また、上記走行検知手段として、機体には走行状態での前後輪の切れ角を検知する切れ角検知センサが設けられているので、走行状態での前後輪の切れ角が予め設定された切れ角よりも異なることを、切れ角検知センサで検知することにより、安定化制御手段はスタックなどの走行異常に陥ったことを判定することができる。
また、車速センサと併用して、ステアリングハンドルを切ったときでの内外輪での回転数差により、操向によるものであるか否かを判断するのにも使うことができる。
【0012】
さらに、上記走行検知手段として、機体にはその機体の傾斜角度を検知する機体傾斜検知センサが設けられているので、走行時の機体の傾斜角度を測定することができ、通常の走行状態時の傾斜角度が予め設定された走行状態の傾斜角度よりも外れた状態を検知すると、安定制御手段は走行安定化手段に対して機体の傾斜角度を安定化させて走行させる。
【0013】
さらに、上記走行検知手段として、機体は上記農用作業機が圃場内で走行する走行位置の情報または走行経路の情報を取得するGPSを備えているので、そのGPSにより走行不能に陥りやすい場所などを特定することができ、農用作業機のスタックを回避することができる。
また、上記車軸回転数検知センサ、上記切れ角検知センサまたは上記機体傾斜検知センサで検知した検知情報をGPSにて取り込むことができる。
さらに、車輪の回転数から得られる走行距離の変化と、GPSから得られる走行距離の変化とを比較することにより、スタック時のスリップを検出することができる。
なお、農用作業機に配設される走行状態手段としては、上記車軸回転数検知センサ、切れ角検知センサ、機体傾斜検知センサおよびGPSの少なくとも1つ備えたものでよい。
【0014】
(3)請求項3に記載の発明によれば、走行安定化手段として、機体には差動機(デファレンシャル)をロックさせるデフロックアクチュエータが設けられているので、走行車輪がスタックに陥って車輪が空転する場合には、安定制御手段はデフロックアクチュエータでデファレンシャルをロックすることにより、農用作業機をスタックから回避させることができる。
【0015】
また、走行安定化手段として、機体にはステアリングハンドルを回動させるステアリングアクチュエータが設けられているので、もし機体がスタックに陥った場合には、ステアリングアクチュエータでステアリングハンドルを回動させることにより、農用作業機をスタックから回避させることができる。
【0016】
さらに、走行安定化手段として、機体には左右側の車輪を制動して機体の進行方向を制御する左側ブレーキおよび右側ブレーキが設けられているので、機体がスタックに陥った場合には左側ブレーキまたは右側ブレーキを動作させることにより、走行方向を修正することができ、農用作業機をスタックから回避させることができる。
なお、農用作業機に配設される走行安定化手段として、ステアリングアクチュエータ、デフロックアクチュエータ、左側ブレーキおよび右側ブレーキの少なくとも1つ備えたものでよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の最良の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1に示すAは、本発明に係る農用作業機であり、その農用作業機Aは、走行機体1の前部に薬液散布装置2を配設すると共に、後部に動力噴霧装置32を配設している。
【0019】
走行機体1は、図1に示すように、機体フレーム4上の前部に原動機部5を設け、その原動機部5の後方位置に運転部6を設け、その運転部6の後方位置に薬液タンク7を配置する一方、機体フレーム4の下方前部にフロントアクスルケース8を介して左右一対の前車輪9,9を設けると共に、機体フレーム4の下方後部にリヤアクスルケース10を介して左右一対の後車輪11,11を設けている。
【0020】
機体フレーム4は、図1に示すように、前後方向に伸延する左右一対の前後伸延片4a,4aと、同前後伸延片4a,4aの前端部間に架設した左右伸延片(図示せず)と、を具備している。
【0021】
原動機部5は、図1に示すように、機体フレーム4上にエンジンE等を搭載し、同エンジンE等をボンネット12により被覆している。
【0022】
運転部6は、上記ボンネット12の後端部にダッシュボード13を連設し、同ダッシュボード13中にハンドルポスト14を立設し、同ハンドルポスト14中に挿通したハンドル支軸の上端部にステアリングハンドル16を取り付けている。
【0023】
そして、ステアリングハンドル16の後方位置には運転席17を配設しており、同運転席17は、上記薬液タンク7の前部に形成した運転席配設用凹部18内に配置して、同薬液タンク7を運転席17の支持体としても機能させている。
【0024】
薬液散布装置2は、図1に示すように、機体フレーム4に昇降手段20を介してブーム体21を取り付け、同ブーム体21に多数の薬液散布用のノズル22をブーム体21の伸延方向に一定の間隔を開けて取り付けると共に、これらのノズル22は薬液配管(図示せず)を介して上記動力噴霧装置32に連通連結している。
【0025】
肥料散布装置3は、走行機体1の最後部に配設され、粒状物の肥料を充填する肥料用ホッパHと、エンジンEの回転から動力を受け、肥料用ホッパH内から肥料を吐き出す動力噴霧装置32と、左右に水平に開閉して、肥料を噴霧口(図示せず)から噴霧する先端部ブーム31とを具備している。
【0026】
次に、走行状態を検知する走行検知手段、安定制御手段および走行安定化手段について図2を参照して説明する。
本実施形態の農用作業機Aは、走行状態をモニタしながらその走行状態の異常を検知する走行検知手段を備えている。その走行検知手段としては、車軸回転数検知センサ101と、切れ角検知センサ102と、機体傾斜検知センサ103とが挙げられる。また、農用作業機Aの走行位置や走行経路を検出できるようにGPS104が設けられている。
【0027】
車軸回転数検知センサ101は、各前車輪9および各後車輪11の車軸部に取り付けられ、各車軸の回転数をセンシングするものである。その車軸回転数検知センサ101は、例えば、ホール素子式、電磁式、光式のものを使用することができる。本実施形態では、ホール素子式の車軸回転数検知センサ101を、左前車輪9、右前車輪9、左後車輪11、右後車輪11の各車軸に設けている。
【0028】
切れ角検知センサ102は、ステアリングハンドル16が切れることにより、走行機体1に対して前後車輪9,11が切れる角度を測定するものである。この切れ角検知センサ102は、ポテンショメータ型のものが使用される。その切れ角検知センサ102は、左前車輪9および左後車輪11を結ぶ左側ステー24の前車輪側に設けられている。また、右前車輪9および右後車輪11を結ぶ右ステー(図示せず)の前車輪側に設けられている。または、切れ角検知センサ102は、ステアリングハンドル16に近接させて設けられ、ステアリングハンドル16の切れ角を測定するように配設することもできる。
【0029】
機体傾斜検知センサ103は、走行機体1のボンネット12の下方に設けられ、走行時の走行機体1の左右の傾きを検出するものである。機体傾斜検知センサ103は、例えば、走行機体1の左右方向の傾斜角度を検出可能な傾斜角度検出手段であるロール傾斜センサ(図示せず)を具備しており、そのロール傾斜センサの検出信号を上記コントローラ100が取得することにより、走行機体1の左右方向の傾斜角度を計測する。
【0030】
GPS104(グローバル・ポジショニング・システム)は、GPS衛星からの電波信号を受信することにより、農用作業機Aの圃場内での位置や走行経路の情報を取得するものである。アンテナ部を備えたGPS104は、運転席17の後部であって、キャビン23の左横部に配設されている。具体的には、農用作業機Aは、ある時刻での衛星信号からの電波を、走行機体1に配設されたアンテナにより取得し、その取得した信号をコントローラ100に送信して、コントローラ100により格納された走行プログラムで走行制御を行う。
【0031】
そして、本実施形態における農用作業機Aは、上記走行検知手段で検知した検知信号を基に安定制御を行うコントローラ100を備えている。そのコントローラ100は、演算処理または制御処理を行うCPUを主体に、RAMやROMなどの記録媒体を含んでいる。すなわち、コントローラ100は、上記切れ角検知センサ102、車軸回転数検知センサ101および車軸回転数検知センサ101などの検知信号を基に、その検知信号を受けて予め設定された走行条件と比較演算してスタックなどの走行状態の異常を判定するとともに、走行安定化手段に対して、その走行状態の異常を安定化させる制御を行う。また、コントローラ100は、そのような制御を行うプログラムを有している。なお、コントローラ100の配設箇所は、特に限定されないが、本実施形態では、走行機体1の中央部のキャビン23の天井部に配設されている。
【0032】
さらに、本実施形態における農用作業機Aは、走行機体1の走行状態を安定化させる走行安定化手段を有している。走行安定化手段としては、ステアリングアクチュエータ105、デフロックアクチュエータ106、左側ブレーキ107および右側ブレーキ108が挙げられる。
ステアリングアクチュエータ105は、上記コントローラ100の命令を受けて、ステアリングハンドル16を制御するものである。そのステアリングアクチュエータ105は、自律走行時にステアリングハンドル16を回転させたり、その回転を戻したり制御を行う。
【0033】
デフロックアクチュエータ106は、後車輪11の車軸部の中間部に配設されている。スタック時に、その後輪車軸部に配設されたデファレンシャル56をロックすることにより、農用作業機Aをスタックから回避させることができる。
【0034】
次に、本実施形態における農用作業機Aがスタックなどの異常走行状態を回避する方法について説明する。
本実施形態における農用作業機Aを圃場内で自律走行させると、コントローラ100は、車軸回転数検知センサ101、切れ角検知センサ102により走行状態時の車軸回転数、前後車輪9,11の切れ角などを検知する。そして、農用作業機Aが水田などの不安定な圃場を走行すると、スタック側車輪がスリップして空回りし、デファレンシャル機構が作動して、空回りしていたスタック側車輪がさらに高回転になってしまう。その車輪が高回転になったのを上記車軸回転数検知センサ101により検知する。
【0035】
そして、コントローラ100は、上記車軸回転数検知センサ101で検知した車軸の回転数の情報を受信する。また、コントローラ100は、予め格納された走行時のプログラムに基づいて、農用作業機Aの走行を安定制御する。そして、コントローラ100は、上記前車輪9または上記後車輪11のいずれかの車輪が高回転になったのを検知し、その検知した検知結果と予め設定された回転数とを比較し、その比較した結果が異なれば、車輪9、11のいずれかがスタックに陥ったと判定する。
【0036】
さらに、コントローラ100は、上記車輪がスタックに陥ったことを判定すると、走行安定化手段に対して、通常の走行状態に戻すような制御を行う。例えば、走行安定化手段はデフロックアクチュエータ106であり、そのデフロックアクチュエータ106でデフロックしてスタックから回避する。これにより、農用作業機Aがスタックに陥りそうな場合であっても、そのスタックを回避することができる。
【0037】
または、コントローラ100は、スタックで高回転になっている車軸の回転を低速にする制御を行う。または、スタックで高回転になっている車軸の回転を逆転させる制御を行う。すなわち、農用作業機Aを一旦バックさせ、方向転換を行うことにより、スタックの箇所を避けるような走行制御を行う。
【0038】
上記走行安定化手段は、デフロックアクチュエータ106を有しているので、そのデフロックアクチュエータ106でデファレンシャル56をロックすることにより、片輪だけのスリップによるスタックを回避することができる。また、車軸の回転を通常の回転数、逆転または停止させることができる。これにより、農用作業機Aは、スタックに陥りそうな場合でも、そのスタックから回避することができる。
【0039】
また、農用作業機Aが、スタックに陥ると、通常時の走行時よりも前後輪の切れ角が大きくなってしまう。そこで、本実施形態では、切れ角検知センサ102によりハンドルの切れ角が通常の走行状態のハンドルの切れ角よりも大きくなることにより、コントローラ100はスタックなどの走行状態の異常があったことを判定することができる。また、切れ角と内外輪の回転数差により走行状態の異常を判定することができる。
【0040】
そして、コントローラ100は、ステアリングアクチュエータ105に対して、走行状態を安定化させる制御を行う。すなわち、コントローラ100は、ステアリングハンドル16を元に戻し、または、さらに回動させるような制御を行う。スタックに陥ると、さらに回動させるように制御することにより、車輪と土との間に抵抗が増してスタックから回避することができる。これにより、農用作業機Aがスタックに陥りそうな場合でも、そのスタックを回避することができる。
【0041】
さらに、走行機体1には、その走行機体1の傾斜角度を検知する機体傾斜検知センサ103が設けられている。もし、走行機体1が圃場内においてスタック、溝や穴に入り込んだとき、走行機体1が傾いた状態になってしまう。コントローラ100は、その走行機体1が傾斜したことを検知することにより、走行状態の異常を検知することができる。そして、コントローラ100は、上記走行状態の異常を判定し、走行機体1を安定化する制御を行う。
【0042】
走行の安定化制御は、左側ブレーキ107および右側ブレーキ108により行う。走行機体1は左右側の車輪を制動して走行機体1の進行方向を制御する左側ブレーキ107および右側ブレーキ108を備えているので、走行機体1がスタックに陥った場合には左側ブレーキ107または右側ブレーキ108を動作させることにより、走行方向を修正することができ、スタックを回避することができる。
【0043】
さらに、走行機体1は、GPS104を搭載している。GPS104には、農用作業機Aが圃場内での走行位置および走行経路などの情報が格納されている。例えば、水田などの走行不安定な場所を特定しておき、その場所をGPS104内に情報を格納することができる。農用作業機Aは、その情報に基づき自律走行を行う。
また、車輪9,11の回転数から得られる走行距離の変化と、GPS104から得られる走行距離の変化とを比較することにより、スタック時のスリップを検出することができる。
【0044】
そして、水田などの不安定な圃場を走行中に、スタックになった場合にはGPS104でそのスタックを起こした位置などが記憶され、そのスタックになった位置の情報を基に、その位置を回避する走行経路を見つけ出し、その走行経路にそって農用作業機Aが走行するように制御を行う。また、スタックが起こりそうな場所を特定しておき、その場所をGPS104に情報を格納しておくことで、その場所を回避するように走行制御することもできる。
【0045】
また、GPS104には、上記車軸回転数検知センサ101、上記切れ角検知センサ102および位置傾斜検知センサの情報も格納することができる。例えば、車軸回転数検知センサ101でスタック時の高回転になった検知結果をGPS104にて取り込むことができ、GPS104(またはコントローラ100)がデフロックアクチュエータ106やステアリングアクチュエータ105などを操作させて、走行機体1の走行を安定化させることができる。
【0046】
この結果、本実施形態における農用作業機Aは、走行検知手段により走行機体1の走行状態を検知し、安定制御手段によりその走行状態と予め設定した走行条件とを比較演算し、もし、設定条件と異なる走行状態である場合、走行機体1を安定制御する信号を走行安定化手段に出力し、その走行安定化手段により走行機体1の走行状態を安定化させるので、水田などの走行不安定な圃場において、スタックなどに陥ることなく安定走行を実現することができるのである。
【0047】
次に、本実施形態における農用作業機Aの変速装置の構成について説明する。従来、農用作業機Aの変速装置としては、変速比を連続的に変化させるベルト式無段変速装置(CVTの一例)を採用していた。または、油圧式無段変速装置(HST)やギヤ変速装置などを採用していた。上記油圧式無段変速装置は、油圧ポンプで作った油圧を油圧モータで回転運動にする事により無段変速を行う変速装置である。その油圧式無段変速装置は、ゼロ発進ができるなどの操作性が良い特性を有している。また、ギヤ変速装置は、構造が簡単で伝達効率が良い特性を有している。
【0048】
そして、肥料散布のために、農用作業機Aを低速で走行する必要がある。しかしながら、ベルト式無段変速装置では、その変速比を幅広くとることができない。そのため、ベルト式無段変速装置を備えた農用作業機Aでは、肥料散布時、低速で走行しにくい問題を有していた。また、油圧式無段変速装置では、その伝達効率が悪いことが知られている。
【0049】
そこで、本実施形態における農用作業機Aは、エンジンの駆動力を伝える油圧変速機構とギヤ変速機構とを設け、その油圧変速機構とギヤ変速機構との各出力を合成して変速出力を形成することにより、ショックの少ないゼロ発進でなめらかな無段変速ができ、幅広い速度域に対応できる農用作業機Aとした。また、伝動効率が高く、燃料消費が少ない農用作業機Aとした。
【0050】
上記変速装置は、主として、油圧ポンプおよび油圧モータとを備えた油圧変速機構と、遊星歯車を備えたギヤ変速機構とで構成される。そして、図1に示すように、その油圧変速機構およびギヤ変速装置を備えたミッションケース50を、走行機体1の運転席の下部であって、エンジンEと走行副変速用ミッションケース52との間に配設した。
【0051】
エンジンEから動力は、動力入力軸51を介して、ミッションケース50内に配設された油圧変速機構またはギヤ変速機構に伝達される。そして、油圧変速機構およびギヤ変速機構を備えたミッションケース50内においてエンジンEの動力が伝達され、その動力は、走行副変速用ミッションケース52を介して、リヤアクスルケース10に伝達される。
【0052】
そして、上記ミッションケース50にはPTO軸53の取り出しが設けられている。このPTO軸53は、動力噴霧装置32用の動力を取り出す軸部である。すなわち、図3に示すように、ミッションケース50からPTO軸53から動力を取出し、その動力を伝動ベルト54、伝達軸55を介して、動力噴霧装置32に伝達している。これにより、エンジンEの回転により、動力噴霧装置32から左右に開いた先端部ブーム31を介して肥料を圃場内に散布することができる。
【0053】
この結果、従来のベルト式無段変速装置が配設された箇所に、上記油圧変速機構およびギヤ伝達機構を備えたミッションケース50を置き換えることにより、従来のベルト式無段変速装置と同一のレイアウトを可能とした。すなわち、走行機体1の大幅な構造を変更せずに油圧変速装置および伝達ギヤを備えたミッションケース50を搭載することが可能である。また、油圧変速機構およびギヤ変速機構を備えた変速装置を配設することにより、走行機体1の剛性アップに寄与することができる。さらに、動力噴霧装置32等の作業部駆動用のPTO軸53の取出しが容易に行えるのである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の実施の形態における農用作業機の全体構成を示す側面図である。
【図2】この発明の実施の形態における農用作業機の全体のシステム構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態における農用作業機の油圧変速機構とギヤ変速機構とを備えた変速装置のレイアウトを示す平面図である。
【符号の説明】
【0055】
A 農用作業機、
100 コントローラ、
101 車軸回転数検知センサ、
102 切れ角検知センサ、
103 機体傾斜検知センサ、
104 GPS、
105 ステアリングアクチュエータ、
106 デフロックアクチュエータ、
107 左側ブレーキ、
108 右側ブレーキ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場内で自律走行しながら農作業を行う農用作業機であって、
機体の走行状態を検知する走行検知手段と、
同走行検知手段から受信した検知結果と予め設定した走行条件とを比較演算して機体を安定制御するための出力信号を出力する安定制御手段と、
同安定制御手段から出力した出力信号に基づいて機体の走行状態を安定化させる走行安定化手段と、を具備することを特徴とする農用作業機。
【請求項2】
上記走行検知手段は、車軸回転数検知センサ、切れ角検知センサおよび機体傾斜検知センサのいずれかあるいはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の農用作業機。
【請求項3】
上記走行安定化手段は、デフロックアクチュエータ、ステアリングアクチュエータ、左側ブレーキおよび右側ブレーキのいずれかあるいはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載の農用作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−28015(P2009−28015A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198094(P2007−198094)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】