説明

農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法及びこの方法により製造される農薬除去フィルター用連続多孔体

【課題】農薬の吸着能に優れ、更には通水性に優れて処理効率の高い、農薬除去用フィルター用連続多孔体の製造方法及びその方法により製造される農薬除去フィルター用連続多孔体を提供する。
【解決手段】気孔形成剤及び農薬吸着能を有する高分子物質を含有する高分子物質成形体から、前記気孔形成剤を溶解可能な溶媒により、気孔形成剤を溶解して抽出し、前記高分子物質成形体に連続気泡を形成する、農薬除去フィルター用連続多孔体1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業排水やゴルフ場等からの排水に含まれる農薬を効率良く吸着除去し、清浄な水として河川等に排出できるようにする、農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法及びこの方法により製造される農薬除去フィルター用連続多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用地、ゴルフ場等では、殺菌剤・殺虫剤・除草剤等の農薬が、多量に使用されている。これらの使われた農薬は、雨水に溶けて河川や地下水を汚染するため、農業用地、ゴルフ場等の当地ばかりでなく、その下流側の地域にわたり、悪影響を及ぼす可能性がある。
このため、農薬の使用量を極力減らすことが現在検討されているが、農薬の使用を完全に無くすことは、害虫の発生を未然に防止すること、除草の手間を省くこと等の観点から、直ちに実現することは極めて困難であり、農薬の混入した水を、無害な状態にして放流する各種処理方法が提案されている。
【0003】
農薬除去の方法としては、例えば、活性炭を用いて農薬を吸着・除去する方法がある(特許文献1参照)。
また、別の方法として、農薬をオゾン酸化又は単分子に分解する、所謂オゾン酸化処理法もある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−071390号公報
【特許文献2】特開2001−340881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した活性炭を用いる方法は、活性炭の気孔径に比べ、農薬の分子量が大きいことから、農薬が活性炭の内部迄入り込むことができず、吸着能力が低くなる問題がある。
また、農薬の分子量は、その種類により様々であり、吸着能力に大きな差が生じる問題もある。
【0006】
オゾン酸化処理法は、処理すべき水量が少ないのであれば問題ないが、農業用地、ゴルフ場等からの、大量の排水を処理するには、大型化・複雑化した設備が必要となり、結果として処理費用が高くなるとの、別の問題が発生する。
【0007】
本発明は、前述したような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、農薬の吸着能力に優れ、更には通水性にも優れて、結果として処理効率の高い、農薬除去用フィルター用連続多孔体の製造方法及びその方法により製造される農薬除去フィルター用連続多孔体を、提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、次のものに関する。
(1)気孔形成剤及び農薬吸着能を有する高分子物質を含有する高分子物質成形体から、前記気孔形成剤を溶解可能な溶媒により、気孔形成剤を溶解して抽出し、前記高分子物質成形体に連続気泡を形成する、農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
(2)以下の工程により製造される農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
(a)高分子物質と、気孔形成剤と、分解型発泡剤と、農薬吸着能を有する高分子物質とを含有する配合成形物を、前記高分子物質が溶融し、且つ、前記分解型発泡剤が分解する温度以上に加熱し、分解型発泡剤により配合成形物を発泡させる工程。
(b)発泡した配合成形体に含まれる気孔形成剤を溶媒により溶解し、気孔形成剤の存在した空間を、連続気泡とする工程。
(3)以下の工程により製造される農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
(c)高分子物質と、気孔形成剤と、熱膨張性マイクロカプセルと、農薬吸着能を有する高分子物質とを含有する配合成形物を、前記高分子物質が溶融し、且つ、前記熱膨張性マイクロカプセルが溶融する温度以上に加熱し、熱膨張性マイクロカプセルにより配合成形物を発泡させる工程。
(d)発泡した配合成形体に含まれる気孔形成剤を溶媒により溶解し、気孔形成剤の存在した空間を、連続気泡とする工程。
(4)項(1)乃至(3)の何れかにおいて、農薬吸着能を有する高分子物質が、ジビニルベンゼン50〜80質量部と、多価アルコールポリ(メタ)アクリル酸エステル20〜50質量部とを、水性懸濁重合した架橋共重合体である農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
(5)項(1)乃至(4)の何れかにおいて、農薬吸着能を有する高分子物質が、その粒状物であり、その平均粒径を2〜20μmとする粒子である農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
(6)項(1)乃至(5)の何れかにおいて、農薬吸着能を有する高分子物質が、その添加量を、高分子物質100質量部に対して、10〜50質量部とする農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
(7)項(1)乃至(6)の何れかにおいて、高分子物質が、オレフィン系樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合体である農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
(8)項(1)乃至(7)の何れかに記載の製造方法で得られる、農薬除去フィルター用連続多孔体。
(9)項(8)において、連続多孔体の気孔率が70〜85%であり、厚さ4mmの連続多孔体を吸引ビンの上部に載置し、その上に50mLの水を注ぎ、吸引ビン吸い込み口から真空圧97.5mmHgで吸引した時、前記水が連続多孔体を通過するのに要する時間が、70秒以内である農薬除去フィルター用連続多孔体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、農薬の吸着能力に優れ、更には通水性に優れた農薬除去フィルター用連続多孔体を、容易に製造することができる。
分解型発泡剤を用いた場合には、気孔形成剤の、溶媒を用いた気孔形成に先立って、気孔形成剤を含む成形体を発泡させることができるので、気孔形成剤の溶媒による溶解時間を短縮することができると共に、気孔径を更に大きくすることができ、通水性をより高くすることができる。
熱膨張性マイクロカプセルを用いた場合には、分解型発泡剤を用いた場合と同様に、気孔形成剤の溶媒による溶解時間を短縮することができると共に、分解型発泡剤を用いた場合より、更に気孔径を大きくすることができ、より高い通水性を得ることができる。
農薬吸着能を有する高分子物質が、ジビニルベンゼン:50〜80質量部と、多価アルコールポリ(メタ)アクリル酸エステル:20〜50質量部とを、水性懸濁重合した架橋共重合体とした場合には、疎水吸着性に優れるため、より高い農薬の吸着能力を得ることができる。
農薬吸着能を有する高分子物質が、その平均粒径を2〜20μmとする粒子とした場合には、より優れた農薬吸着能を有する高分子物質の表面露出性を得ることができ、高い農薬吸着能を発揮することができる。
農薬吸着能を有する高分子物質が、その添加量を、高分子物質:100質量部に対して、10〜50質量部とした場合には、優れた農薬の吸着能力と高い通水性を両立することができる。
高分子物質が、オレフィン系樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合体である場合には、農薬吸着能を有する高分子物質の表面露出性が良く、より優れた農薬の吸着能力を得ることができる。
また、本発明の農薬除去フィルター用連続多孔体は、高い農薬の吸着能力と、通水性とを、有するため、排水中の農薬を、効率良く除去することができる。
特に、連続多孔体の気孔率が70〜85%であり、厚さ:4mmの連続多孔体を吸引ビンの上部に載置し、その上に50mLの水を注ぎ、吸引ビン吸い込み口から真空圧:97.5mmHgで吸引した時、前記水が連続多孔体を通過するのに要する時間が、70秒以内であるものは、通水性が非常に優れるので、農薬を含有する排水の処理効率に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】通水性の評価に用いた測定装置の一部断面図を示す。
【図2】農薬回収性の評価に用いた測定装置の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<高分子物質>
本発明にて述べる高分子物質は、熱可塑性樹脂を、好適に用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリビニルアルコール等が挙げられ、押出成形、カレンダー成形、射出成形をするのに各々に好適な樹脂を選択して用いることができる。これらの熱可塑性樹脂は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上の熱可塑性樹脂を混合して用いてもよい。これらの熱可塑性樹脂は、他の配合材料と混練する際に、溶融して混練し易くするため、融点が100〜300℃のものが好ましく、中でも、オレフィン系樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂が好ましい。
【0012】
<気孔形成剤>
本発明にて述べる気孔形成剤は、使用する溶媒に溶解する材料であればよい。
【0013】
気孔形成剤を溶解する溶媒としては、水又は有機溶剤を用いることができるが、安全性及び処理費用の点から、水を使うことが好ましい。
溶媒として水を使う場合、気孔形成剤は、水溶性であることが必要で、化合物としてはペンタエリスリトール、L−エリスリトール、D−エリスリトール、meso−エリスリトール、ビナコール等の、炭素数2〜5程度の多価アルコール、尿素、塩化ナトリウム、砂糖等の糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール等が使用される。
尚、これらの気孔形成剤は、1種類を単独で使用しても、2種類以上を組合わせて使用してもよい。
【0014】
<分解型発泡剤>
本発明にて述べる分解型発泡剤は、アゾジカルボンアミド(ADCA、分解温度:195〜210℃)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、分解温度:98〜102℃)、バリウムアゾジカルボキシレート(分解温度:240〜250℃)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT、分解温度:200〜205℃)、p,p′−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH、分解温度:157〜162℃)、パラトルエンスルホニルヒドラジド(TSH、分解温度:103〜111℃)等を用いることができる。
【0015】
<架橋剤及び架橋助剤>
分解型発泡剤を用いる場合には、より良い発泡状態を得るために、架橋剤及び架橋助剤を併用しても良い。
架橋剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、2,5ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等の有機過酸化物等を用いることができる。架橋剤は、1種類を単独で使用しても、2種以上の架橋剤を組み合わせて使用しても良い。
架橋剤の添加量は、高分子物質:100質量部に対して、0〜5質量部で、好ましくは2質量部以下である。使用したことによる効果を発現するためには、0.2質量部以上が好ましく、0.4質量部以上がより好ましい。架橋剤は、少なすぎると発泡体維持の向上効果があまりなく、多すぎると発泡度の向上が難しくなる。
【0016】
架橋助剤としては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート等を挙げることができる。架橋助剤は、1種類を単独で使用しても、2種以上組み合わせて使用しても良い。架橋助剤の添加量は、高分子物質:100質量部に対して、0〜2質量部で、好ましくは1.5質量部以下である。2質量部を超えて含有させても、発泡性の改善効果は変わらない。使用することによる効果を発現するためには、0.1質量部以上が好ましい。
【0017】
<熱膨張性マイクロカプセル>
本発明にて述べる熱膨張性マイクロカプセルは、低沸点炭化水素を熱可塑性高分子殻(シェル)で包み込んだものであり、加熱すると高分子殻が軟化し、中の液状炭化水素が気体に変化するため、その圧力でカプセルが膨張する。この膨張により、熱膨張性マイクロカプセルを含有する高分子物質からなる配合成形物内に、気孔が発生するものである。
熱膨張性マイクロカプセルは、気孔形成剤を溶媒に溶解させる前の工程で、高分子物質からなる配合成形物に気孔を形成しておくと、より短い時間で気孔形成剤を抽出することができ、更に気孔径も大きくなり、より通水性の高い連続多孔体が得られる。
【0018】
このような熱膨張性マイクロカプセルとしては,例えば松本油脂製薬株式会社から提供されている「マツモトマイクロスフェアー(松本油脂製薬株式会社商標)」がある。これは、中空球状体の外殻が、アクリロニトリルコポリマーで構成され、中空球状体内に低沸点炭化水素が封入された構成になっている。このような熱膨張性マイクロカプセルは、外殻のポリマーが軟化すると共に、内包された低沸点炭化水素がガス化し、体積が50〜100倍に膨張する。
本発明では、熱膨張性マイクロカプセルとして、各種のものを用いることができ、前述したものに限定されない。熱膨張性マイクロカプセルの平均粒径は、3〜50μmであることが好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの平均粒径は、3μm未満であると、高分子物質への分散性は粒径が小さくなるにつれ徐々に不十分となり、50μmを超えると、多孔体としての強度が、徐々に低下する。
尚、ここで述べる平均粒径とは、粒度分布径測定器を用いて測定した体積平均粒径を示す。
【0019】
<農薬吸着能を有する高分子物質>
本発明にて述べる農薬吸着能を有する高分子物質は、農薬を吸着可能な高分子物質であれば、特に限定されるものではないが、中でも、ジビニルベンゼンと、多価アルコールポリ(メタ)アクリル酸エステルとを、水性懸濁重合した架橋共重合体を用いると、疎水吸着性に優れるため、高い農薬吸着性能を得ることができる点で好ましい。
また、ジビニルベンゼンと、多価アルコールポリ(メタ)アクリル酸エステルとの混合比については、ジビニルベンゼン:50〜80質量部と、多価アルコールポリ(メタ)アクリル酸エステル:20〜50質量部とすることが、特に疎水吸着性に優れ好ましい。
【0020】
多価アルコールポリ(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、アルキレングリコールジビニルエステル、ポリアルキレングリコールのジビニルエステル、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンのジ又はトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸、それらの混合物を意味する。
【0021】
農薬吸着能を有する高分子物質は、粒子形状にて用いることが好ましく、粒子の平均粒径は、2〜20μmであることが好ましい。2μm未満では、多孔体の基材である高分子物質の表面への粒子の露出量が不十分で、農薬の吸着能力が徐々に低下し、20μmを超えると、粒子の表面積が小さくなり農薬の吸着能力が、やはり徐々に低下するためである。
【0022】
また、農薬吸着能を有する高分子物質からなる粒子の添加量は、多孔体の基材である高分子物質:100質量部に対して、10〜50質量部であることが好ましい。10質量部未満では、多孔体としての農薬の吸着能力が不十分であり、50質量部を超えると多孔体としての農薬の吸着能力が飽和してあまり向上せず、分散不良や多孔体からの粒子の脱落が懸念されるためである。また、50質量部を超えると、連続多孔体の気孔が、一部農薬吸着能を有する高分子物質で塞がれるために、通水性が低下する恐れもある。
【0023】
<農薬除去フィルター用連続多孔体>
本発明で得られる農薬除去フィルター用連続多孔体の気孔率は、70〜85%であることが好ましい。気孔率が70%未満では、通水性が不十分で処理効率が徐々に低下し、気孔率が85%を超えると、連続多孔体自体の強度が徐々に低くなり、フィルターとして使用する場合、使用中に破損する恐れがある。
尚、本明細書にて述べる気孔率は、連続多孔体中の樹脂分の容積(V1)と、この連続多孔体の縦、横、高さ寸法から得られる容積(V)から、「気孔率={(V−V1)/V}×100(容積%)」の式より算出される。
【0024】
また、連続多孔体の通水性は、厚さ:4mmの連続多孔体を吸引ビン上部に置き、その上に50mLの水を注ぎ、吸引ビン吸い込み口から真空圧97.5mmHgで吸引した時、50mLの水が連続多孔体を通過するのに要する時間が、70秒以内であることが好ましい。
【0025】
吸着回収対象となる農薬は、農薬であれば特に限定されるものではないが、殺虫剤であれば、イソキチオン、イソフェンホス、クロルピリホス、ダイアジノン、トリクロルホン、アセフェート等、殺菌剤であれば、イソプロチオラン、イブロジオン、オキシン銅、チウラム、フルトラニル、エトリジアゾール、クロロネブ等、除草剤であれば、アシュラム、シマジン、ブタミホス、ブンスリド、メコプロップ、トリクロピル、メチルダイムロン等を挙げることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例について説明する。
<実施例1>
高分子物質として、EVA樹脂(東ソー株式会社製、商品名:ウルトラセン540、密度:0.93g/cm):100質量部を、気孔形成剤として、ペンタエリスリトール(広栄化学工業株式会社製、商品名:ペンタリット)と、ポリエチレンオキシド(住友精化株式会社製、商品名:PEO−18Z)とを各々:225質量部、発泡剤として、アゾジカルボンアミド(大塚化学株式会社製、商品名:ユニフォームAZ):4.5質量部を用い、農薬吸着能を有する高分子物質からなる粒子として、スチレン/メタクリレート系ポリマー粒子:20質量部(日立化成工業株式会社製、商品名:GL−SPE−H1)、更に、界面活性剤(花王株式会社製、商品名:エレクトロストリッパーTS−5):1質量部、架橋剤(日油株式会社製商品名:パークミルD):0.8質量部を混合したものを、プレス成形機(型締め力:19.6MPa)で、150℃で5分間加熱の後、常温(25℃)迄冷却して、縦:250mm×横:250mm×厚さ:3mmの配合成形物を得た。その後、この配合成形物を高温槽中のフッ素樹脂シート上に設置し、230℃で5分間加熱して発泡せしめた。
引き続いて、この発泡済み配合成形物(配合物成形体)を水槽内に浸漬させ、40℃の水で、90時間の間、水を攪拌機で攪拌しつつ気孔形成剤を抽出した。
その後、気孔形成剤を抽出済みの配合成形物を、40℃の乾燥炉で24時間乾燥させ、連続多孔体を得た。
【0027】
<実施例2>
農薬吸着能を有する高分子物質からなる粒子の使用量を、50質量部としたこと以外は、実施例1と同じ方法で連続多孔体を得た。
【0028】
<実施例3>
発泡剤を熱膨張性マイクロカプセルとして、(松本油脂製薬株式会社製、商品名:マツモトマイクロスフィアーF−190D)20質量部としたこと以外は、実施例1と同じ方法で連続多孔体を得た。
【0029】
<比較例1>
農薬吸着能を有する高分子物質からなる粒子の使用量を、0質量部(不使用)としたこと以外は、実施例1と同じ方法で連続気泡多孔体を得た。
【0030】
<参考例1>
農薬吸着能を有する高分子物質からなる粒子の使用量を、60質量部としたこと以外は、実施例1と同じ方法で連続気泡多孔体を得た。
【0031】
実施例1〜3、比較例1及び参考例1で得られた連続多孔体の気孔径、通水性、気孔率及び農薬回収率を、以下の表1に示す。
尚、気孔径、通水性、気孔率及び農薬回収率の測定は次の方法にて行った。
(イ)気孔径
走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、型式:S−800)を用いて、倍率50倍、加速電圧15kVで、表面と断面を観察し、観察された気孔径を10点ずつ測定してその平均値とした。
(ロ)通水性
図1に、通水性を測定する測定装置の概略断面図を示す。即ち、作製した連続多孔体1を、東洋濾紙株式会社製濾過用フィルターホルダー(内径35mm)2と、同じく内径35mmの口を有する減圧ポンプ接続口付容器3との間に挟み、クランプ4で挟持した。減圧ポンプへの接続口5を減圧ポンプ(図示せず)に接続し、97.5mmHgに減圧した。減圧を継続しつつ、フィルターホルダーに50mlの純水を供給し、その純水が下部容器に通水し、フィルターホルダーに純水がなくなるまでの時間(単位:秒)を測定した。
(ハ)気孔率(容積%)
東京サイエンス株式会社製、商品名:空気比較式比重計1000型を用いて、真空中での連続多孔体の容積(連続多孔体中の樹脂分の容積)V1を測定し、V1及び連続多孔体の縦、横、高さ寸法から得られる容積Vから、「気孔率={(V−V1)/V}×100(容積%)(容積%)」の式により算出した。
(ニ)農薬吸着回収率
(農薬水の調整)
農薬用途として頻繁に用いられているチウラム(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)を選定して、超純水に濃度が約5mg/Lになるように添加して、攪拌溶解した。
(農薬吸着実験)
調整した農薬水の農薬吸着回収実験に、図2に示す実験装置を用いた。本装置は、直径:60mm、厚み:4mmの連続多孔体を、6枚連続して設置するフィルター配置部1と、農薬水を送水してフィルター配置部1を通過させるポンプ2からなる。本装置を用いて、農薬水を流量500mL/分にてフィルター配置部1へ通過させた。
(チウラム回収率)
HPLC(株式会社島津製作所製、ポンプ:LC−20AD、カラムオーブン:CTO−20AC検出器:SPD−M20A)にて、調整した農薬水の農薬吸着回収実験で得られた通水液について、チウラム濃度分析を行い、濃度から回収率を求めた。
尚、表1中にある抽出時間は、発泡済み成形物を水槽内に設置し、40℃の水を用いて、水を攪拌機で攪拌しつつ、気孔形成剤を抽出した時間を示す(単位:時間)。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から、農薬吸着能を有する高分子物質からなる粒子を添加した実施例1〜3と比較して、前記農薬吸着能を有する高分子物質からなる粒子を添加していない比較例1は、農薬回収性がはるかに劣る。また、実施例1よりも前記粒子を30質量部多く添加した実施例2は、農薬回収性に優れる。
しかし、参考例1のように、粒子を60質量部まで添加すると、実施例1の20質量部である場合や、実施例2の50質量部に比較し、粒子が気孔を塞いで通水性が低下し、更に粒子の分散性が悪くなり、農薬回収率が、やや悪化する傾向がみられる。
【符号の説明】
【0034】
1…連続多孔体、2…濾過用フィルターホルダー、3…減圧ポンプ接続口付容器、4…クランプ、5…減圧ポンプ接続口、6…農薬水、7…送液ポンプ、8…フィルター濾過部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔形成剤及び農薬吸着能を有する高分子物質を含有する高分子物質成形体から、前記気孔形成剤を溶解可能な溶媒により、気孔形成剤を溶解して抽出し、前記高分子物質成形体に連続気泡を形成する、農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
【請求項2】
以下の工程により製造される農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
(a)高分子物質と、気孔形成剤と、分解型発泡剤と、農薬吸着能を有する高分子物質とを含有する配合成形物を、前記高分子物質が溶融し、且つ、前記分解型発泡剤が分解する温度以上に加熱し、分解型発泡剤により配合成形物を発泡させる工程。
(b)発泡した配合成形体に含まれる気孔形成剤を溶媒により溶解し、気孔形成剤の存在した空間を、連続気泡とする工程。
【請求項3】
以下の工程により製造される農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
(c)高分子物質と、気孔形成剤と、熱膨張性マイクロカプセルと、農薬吸着能を有する高分子物質とを含有する配合成形物を、前記高分子物質が溶融し、且つ、前記熱膨張性マイクロカプセルが溶融する温度以上に加熱し、熱膨張性マイクロカプセルにより配合成形物を発泡させる工程。
(d)発泡した配合成形体に含まれる気孔形成剤を溶媒により溶解し、気孔形成剤の存在した空間を、連続気泡とする工程。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかにおいて、農薬吸着能を有する高分子物質が、ジビニルベンゼン50〜80質量部と、多価アルコールポリ(メタ)アクリル酸エステル20〜50質量部とを、水性懸濁重合した架橋共重合体である農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかにおいて、農薬吸着能を有する高分子物質が、その粒状物であり、その平均粒径を2〜20μmとする粒子である農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかにおいて、農薬吸着能を有する高分子物質が、その添加量を、高分子物質100質量部に対して、10〜50質量部とする農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかにおいて、高分子物質が、オレフィン系樹脂又はエチレン−酢酸ビニル共重合体である農薬除去フィルター用連続多孔体の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の製造方法で得られる、農薬除去フィルター用連続多孔体。
【請求項9】
請求項8において、連続多孔体の気孔率が70〜85%であり、厚さ4mmの連続多孔体を吸引ビンの上部に載置し、その上に50mLの水を注ぎ、吸引ビン吸い込み口から真空圧97.5mmHgで吸引した時、前記水が連続多孔体を通過するのに要する時間が、70秒以内である農薬除去フィルター用連続多孔体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−88049(P2011−88049A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−242331(P2009−242331)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【出願人】(508187665)日立化成テクノサービス株式会社 (11)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】