説明

迅速放出可能な抗菌剤を有する短時間使用のための医療デバイス

湿潤すると低摩擦を示す親水性ポリマーでコーティングされた基体材料を備える工程;
微量作用金属の化学還元粒子、及び基体材料のコーティングにあるものと同一である親水性ポリマー、を含むコロイド溶液を備える工程;及び
該基体材料をその溶液中に浸漬する工程;
を含んでなる、抗菌活性を有する医療デバイスを提供する方法が開示される。また、それに従って調製される医療デバイスも開示される。この方法によって、抗菌コーティングの非常に有利な特性が得られる。特に、湿潤流体では相対的に低い放出率が得られ、意図した使用状況では、例えば尿道に挿入すると、相対的に高い放出率が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、基体(substrate)材料、及び該基体材料表面上の少なくとも一部に配置された親水性表面コーティングを含んでなる、医療デバイスに関する。本医療デバイスは、抗菌剤をさらに含み、該抗菌剤の効率的な放出を提供する。さらに、本発明はそのような医療デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
医療デバイス(例えば血管、消化器官、及び泌尿器系のようなヒトの体腔内に導入するためのカテーテルなど)が導入されるか又はそのデバイス導入中粘膜などと接触することになる、該デバイスの少なくとも導入可能な部分の表面上を、親水性コーティング剤でコーティングすることは知られている。そのような親水性コーティングを備える利点は、それが、好ましくはヒトの体内に導入する直前に水で膨潤すると極めて滑りやすくなり、従って組織に対する損傷を最小にして実質的に痛みのない導入を確実にすることにある。
【0003】
親水性表面コーティングを製造するための、多くの方法が知られている。知られている親水性コーティング方法は、例えば特許文献1などに記載されており、ここでイソシアネートが、親水性PVPを基体に結合させるポリ尿素ネットワークを形成するために使用されている。さらに、特許文献2には、コーティングの保水性及び低摩擦を改善するために質量オスモル濃度増強化合物をそのような親水性コーティングに添加する方法が記載されている。さらに、特許文献3には、照射によって架橋される親水性コーティングと、その中に水溶性の質量オスモル濃度増強化合物を組み入れることが記載されている。
【0004】
しかしながら、滅菌ガイドライン等を遵守しているにもかかわらず、医療デバイスの使用、特に天然又は人口の身体開口部への医療デバイスの導入は、細菌汚染(bacterial contamination)のリスクを伴う。例えば、尿道カテーテルの挿入及び維持は、カテーテル感染症との関連で問題を引き起こす。カテーテルのような医療デバイスがヒトの体腔内に導入されると、正常なヒトの防御障壁(defense barrier)が貫通される可能性があり、これが細菌、真菌、ウイルス(vira)、又は組織様の−若しくは複数の組織化された−細胞の導入を引き起こす。例えば、尿路感染症(UTI)は、間欠的使用のための親水性コーティングを備えた親水性カテーテルを含め、尿道カテーテルの使用に伴う問題である。入院脊髄損傷患者のほぼ1/4は、彼らの入院中に症候性UTIを発症すると推測されている。UTIの症例で、グラム陰性桿菌はほぼ60〜70%、腸球菌は約25%、カンジダ属の種は約10%の割合を占める。ルーチンとして尿道カテーテル法を行う人は、症候性UTIを伴う問題をしばしば有する。
【0005】
このために、そして医療デバイスの無菌状態及び清浄度を維持するため、医療デバイス、例えば尿道カテーテルなどは、細菌感染症を予防する抗菌化合物でコーティングされ得る。例えば、特許文献4には、抗菌剤として少なくとも一つの有機酸の塩、好ましくは安息香酸塩又はソルビン酸塩の使用が記載されている。さらに、特許文献5には、銀化合物を含むことを特徴とする抗菌、抗ウイルス及び/又は抗真菌活性を有する安定化組成物が記載されている。光安定化銀組成物は、カテーテル、又は類似の医療デバイス中に導入され得る。
【0006】
長年の間、銀及び銀塩は、抗菌剤として使用されてきた。銀塩、銀コロイド及び銀錯体はまた、感染症を予防するため、そして抑制するため、使用されてきた。例えば、コロイド銀(colloidal metallic silver)は、結膜炎、尿道炎、及び膣炎に対して局所的に使用されている。他の金属、例えば金、亜鉛、銅及びセリウムなどもまた、単独で又は銀との組み合わせの両方で、抗菌活性を有することが見出されている。これらの、そして他の金属は、微量でさえ抗菌性を備える、「微量作用」として言及される性質を備えることが示されている。
【0007】
親水性コーティングを有する医療デバイスの他の例、及び別個の層として配置され又はその親水性層中に導入された例えば銀などの抗菌組成物は、特許文献6及び7に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP0093093
【特許文献2】EP0217771
【特許文献3】WO98/058989
【特許文献4】US2006/240069
【特許文献5】WO00/009173
【特許文献6】US7378156
【特許文献7】EP1688470
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、医療デバイスの抗微生物剤及び抗菌剤として微量作用金属を使用する公知の方法が有する課題は、微量作用金属イオンの放出を制御することが困難であるということにある。放出率が余りに低い場合、抗菌性が不十分になり、その一方で余りに高い放出率は、患者にとって好ましくなく、有害でさえあり得、また結果的により高価な製品になる。さらに、余りに高い放出率は、湿潤溶液中の微量作用化合物の実質的な損失をもたらし、この場合もまた目的の使用状況には不十分な抗菌性に至らしめる。従って、微量作用金属イオンの放出率をより正確に制御することができる上述タイプの改善された医療デバイスについてのニーズが存在する。
【0010】
発明の概略
従って、抗微生物剤及び抗菌剤放出率の改善された制御を可能にし、それによりこれまで知られている解決手段の上述した課題を軽減する医療デバイス及びそのような医療デバイスの製造方法を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、添付した特許請求の範囲に記載の医療デバイス及びそのような医療デバイスの製造方法によって達成される。
【0012】
本発明の第一の側面によれば、
抗菌活性を有する医療デバイスを提供する方法であって:
湿潤すると低摩擦を示す親水性ポリマーでコーティングされた基体材料を備える工程;
微量作用金属の化学還元粒子、及び基体材料のコーティングにあるものと同一である親水性ポリマー、を含むコロイド溶液を備える工程;及び
該基体材料をその溶液中に浸漬する工程;
を含んでなる、上記方法が提供される。
【0013】
驚くべきことに、微量作用金属の化学還元粒子及び基体材料のコーティングにあるものと同一である親水性ポリマーを含むコロイド溶液にコーティングされた基体を浸漬することによって、高濃度の微量作用金属及び親水性ポリマーのコロイド粒子がコーティング中に得られることが、本発明によって見出された。さらに、尿道カテーテルが尿道内に挿入される場合のような医療デバイスのその後の使用において、コーティングが湿潤状態にあるときの該粒子の放出が、非常に効率的であり、粒子のかなりの部分が比較的短時間で放出されることを可能にする。これにより、粒子のかなりの部分が放出され、抗菌剤として効果的に作用する。また、放出された粒子は、放出後もかなりの時間活性であり続ける。これにより、例えば間欠導尿法(intermittent catheterization)の尿道カテーテルで使用すると、放出粒子は、尿道カテーテルが引き戻された場合でさえ、尿道、膀胱内に残存し、その結果、各導尿(catheterization)間にも抗菌活性をもたらすことになる。
【0014】
これにより、医療デバイスの抗菌性を効果的に仕立て、抗菌効果を最適化することが可能となり、そして同時に患者にとって有害であり得る抗菌イオンのいかなる過剰放出をも効果的に防止する。
【0015】
いずれかの理論に縛られることを意図するものではないが、本発明の医療デバイスから銀が非常に効率的に放出されることの理由は、小さなコロイド粒子によって備えられる非常に大きな接触面積、及び本医療デバイスのコーティングに粒子を保持する相対的に緩やかな結合に、少なくとも部分的に起因するものと想定される。
【0016】
コロイド溶液中の親水性ポリマーは、コロイド粒子の成長を所望のサイズに制限する、安定剤として機能する。さらに、生じたコロイド粒子は、親水性ポリマーを含むことになる。これにより親水性ポリマーが、粒子の外層を、換言すれば金属内容物のカプセル化のように、形成するものと想定される。コロイド粒子上への親水性ポリマーの封入(inclusion)はまた、医療デバイスの親水性コーティングに非常に良好な粘着性を備え付け、同時に浸漬後のコーティングに高濃度のコロイド粒子を備え付け、そしてその後の使用中の速やかで信頼性ある粒子及びイオンの放出を可能にする粒子とコーティング間の相対的に緩やかな結合をも備え付ける。
【0017】
「コロイド粒子」によって、本願の文脈において、粒子が溶媒全体に均等に分散して、均一な外観を維持するような小粒子サイズで存在する溶液であると理解される。しかし、分散物質の粒子が完全に溶解されている溶液とは異なり、それらが混合物中に懸濁されているに過ぎない。また、「コロイド粒子」は「コロイド系」として言及される場合もある。コロイド粒子は、好ましくは、おおよそ1〜200nmの直径を有する。そのような粒子は、通常光学顕微鏡で見ることはできないが、それらの存在は、光散乱から、又は限外顕微鏡若しくは電子顕微鏡を使用して間接的に確認され得る。
【0018】
「微量作用金属」(“oligodynamic metals”)は、本願において、非常に少量においてさえ抗微生物挙動又は抗菌挙動を有する任意の金属を意味する。そのような微量作用金属の例は、例えば銀塩、コロイド、及び錯体などの形態の銀、並びに他の金属、例えば金、亜鉛、銅、及びセリウムなどである。
【0019】
抗菌層の微量作用金属は、好ましくは銀を含む。銀イオンは、十分に裏付けのある有効な抗菌作用を有し、適した厚さの上部親水性層によって十分に制御可能であることも見出されている。粒子は結晶化銀を含むから、粒子からの銀イオンの放出は、粒子の放出後かなりの時間継続することになる。
【0020】
親水性表面コーティングの親水性ポリマーは、好ましくはポリビニル化合物、ポリラクタム類(特に例えばポリビニルピロリドン類など)、多糖類(特にヘパリン、デキストラン、キサンタンガム、誘導体化多糖類、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース)、ポリウレタン類、ポリアクリレート類、ポリヒドロキシアクリレート類、ポリメタクリレート類、ポリアクリルアミド類、ポリアルキレンオキシド類(特にポリエチレンオキシド類)、ポリビニルアルコール類、ポリアミド類、ポリアクリル酸、先に挙げたポリマーのコポリマー、ビニル化合物とアクリレート類又は酸無水物類とのコポリマー、ビニルピロリドンとヒドロキシエチルメチルアクリレートとのコポリマー、ポリビニルピロリドンのカチオン性コポリマー、並びにポリメチルビニルエーテルとマレイン酸無水物とのコポリマーの少なくとも一つである。好ましくは、親水性表面コーティングは、湿潤液体で湿潤すると有意な低下した表面摩擦を獲得する親水性ポリマーを含む。最も好ましくは、親水性表面コーティングはポリビニルピロリドン(PVP)を含む。
【0021】
コロイド溶液の備え付けが、好ましくは溶媒中微量作用金属塩を還元剤及び親水性ポリマーと一緒に混合することを含む。
【0022】
微量作用金属が銀である場合、微量作用金属塩は、好ましくはAgNO3、CH3CO2Ag、CH3CH(OH)CO2Ag、AgCIO4、AgSO4、Ag2O3、AgBF4、AgIO3、AgCI、AgI、及びAgBrからなる群より選択される。最も好ましくは、微量作用金属塩は、硝酸銀である。
【0023】
溶媒は、好ましくは水及び/又はエタノールである。最も好ましくは、溶媒は、使用が容易であり、有害な残留物などを残さず、また費用効率も非常に高い理由から、水である。しかしながら、代替の溶媒、例えばメタノール又は塩化メチレンなども実施可能である。
【0024】
還元剤は、好ましくはボラン類、水素化銅、ジボラン、水素化ジイソブチルアルミニウム、アスコルビン酸、ジメチルスルフィドボラン、ホルムアルデヒド、ギ酸、ヒドラジン、イソプロパノール、水素化アルミニウムリチウム、テトラヒドリドアルミン酸リチウム、ニッケル、水素化ホウ素ニッケル、シュウ酸(oxalyc acid)、ポリメチルヒドロシロキサン、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、ヒドロ亜硫酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸ナトリウム、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム、トリブチルスタンナン、水素化トリブチルスズ、トリクロロシラン、トリフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニル、トリエチルシラン、トリス(トリメチルシリル)シラン、及び水素化ホウ素ナトリウムからなる群より選択される、
【0025】
親水性ポリマーは、好ましくはポリビニル化合物、ポリラクタム類(特に例えばポリビニルピロリドン類など)、多糖類(特にヘパリン、デキストラン、キサンタンガム、誘導体化多糖類、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース)、ポリウレタン類、ポリアクリレート類、ポリヒドロキシアクリレート類、ポリメタクリレート類、ポリアクリルアミド類、ポリアルキレンオキシド類(特にポリエチレンオキシド類)、ポリビニルアルコール類、ポリアミド類、ポリアクリル酸、先に挙げたポリマーのコポリマー、ビニル化合物とアクリレート類又は酸無水物類とのコポリマー、ビニルピロリドンとヒドロキシエチルメチルアクリレートとのコポリマー、ポリビニルピロリドンのカチオン性コポリマー、並びにポリメチルビニルエーテルとマレイン酸無水物とのコポリマーの少なくとも一つである。最も好ましくは、親水性表面コーティングはポリビニルピロリドンを含む。
【0026】
親水性コーティングは、好ましくはポリ尿素ネットワークを形成し、最も好ましくは、ポリ尿素ネットワークは、基体中の活性水素基に対して共有結合を形成するように配置される。代替として、親水性コーティングは、基体中の活性水素基に対してエステル結合又はエポキシ結合を形成してもよい。
【0027】
一実施態様によれば、基体材料のコーティングは:
最初にイソシアネート化合物0.05〜40%(W/V)を含む溶液を、その後ポリビニルピロリドン0.5〜50%(W/V)を含む溶液を、基体の表面に順に塗布するステップ;及び
高温で硬化するステップ;
を含んでなる方法によって、製造され得る。
【0028】
しかしながら、他の親水性コーティング、例えば基体に直接架橋された親水性ポリマーを含むコーティングなども実施可能である。該架橋は照射を用いて、例えば電子線又はUV光によって達成され得る。
【0029】
本発明は、特にカテーテル、とりわけ尿道カテーテル、最も好ましくは間欠的で、短時間使用の尿道カテーテルに適している。用語「短時間使用」は、時間が限られている、特に15分未満、好ましくは10分未満、最も好ましくは5分未満の時間間隔に限られている使用を示す。
【0030】
しかしながら、本製造方法は、親水性コーティングを有する多くの他のタイプの医療デバイスにとっても有用である。従って、本発明のその方法は尿道カテーテルに限定されない。本発明が有用であるそのような他の医療デバイスの例は、血管カテーテル及び他のタイプのカテーテル、内視鏡及び喉頭鏡、栄養補給又はドレナージ若しくは気管使用のためのチューブ、コンドーム、創傷包帯、コンタクトレンズ、インプラント、体外血液導管、膜(例えば透析用)、血液フィルター、並びに循環補助用デバイスである。
【0031】
本発明は、多岐にわたる異なる基体材料に使用可能である。しかしながら、好ましくは、基体はポリマー材料で作られる。基体は:ポリウレタン類、ラテックスゴム類、シリコンゴム類、他のゴム類、ポリ塩化ビニル(PVC)、他のビニルポリマー類、ポリエステル類、ポリアクリレート類、ポリアミド類、ポリオレフィン類、熱可塑性エラストマー類、スチレンブロックコポリマー類(SBS)、又はポリエーテルブロックアミド(PEBA):の少なくとも一つを、例えば含み得る。
【0032】
コーティング溶液は、溶解した質量オスモル濃度(osmolality)増強化合物、例えば塩化ナトリウムなどをさらに含んでいてもよい。他の質量オスモル濃度増強化合物、例えば尿素及びEP0217771で述べられた他の質量オスモル濃度増強化合物なども実施可能であり、該文献は参照によりここに組み込まれる。さらに、又は代替として、質量オスモル増強化合物を湿潤流体中に備え付けることも可能である。
【0033】
本発明の別の側面によれば、基体材料、及び該基体材料表面上の少なくとも一部に配置された湿潤すると低摩擦を示す親水性ポリマーの表面コーティングを含み、ここで該コーティングが、微量作用金属のコロイド粒子、及び基体材料のコーティングにあるものと同一である親水性ポリマーをさらに含んでなる、抗菌活性を有する医療デバイスが提供される。
【0034】
本発明の後者の側面によって、論じた第一の側面、及び実施態様に関して述べたような類似の利点及び特定の実施態様が得られ得る。
【0035】
本発明のこれらの側面及び他の側面は、以下に記載する実施態様から明らかとなり、それを参照すれば明瞭にされるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0036】
好ましい実施態様の説明
以下の詳細な説明において本発明の好ましい実施態様を説明する。しかしながら、種々の実施態様の特徴は、それら実施態様間で交換可能であり、何か別段の指示が特にない限り、異なった仕方で組み合わせることができる。親水性医療デバイスは、さまざまな目的に、そして種々のタイプの体腔内への挿入用に使用できる。本発明は特定のタイプのカテーテル、又は特定のタイプの医療デバイスに限定されないが、しかし以下の記述は特に好ましい使用分野、尿道カテーテルを取り上げている。本発明概念がいずれかの特定のタイプのデバイスに限定されるものではなく、しかし種々のタイプの医療デバイスに使用され得ることは、当業者によって認識されるべきである。
【0037】
カテーテルの場合には、細長いチューブの少なくとも一部は、使用者の身体開口部、例えば尿道カテーテルの場合の尿道など、を通して挿入すべき挿入可能な長さを形成する。親水性カテーテルの文脈において、挿入可能な長さは、親水性材料(例えばPVP)でコーティングされ、患者の尿道内に挿入可能である細長いチューブのその長さを意味する。典型的には、これは女性患者で80〜140mmで、男性患者で200〜350mmとなる。
【0038】
カテーテルの細長いシャフト/チューブは、基体材料で作られる。基体は、その技術分野においてよく知られ、前記親水性ポリマーが接着する任意のポリマー材料、例えばポリウレタン類、ラテックスゴム類、他のゴム類、ポリ塩化ビニル、他のビニルポリマー類、ポリエステル類、ポリアクリレート類などでできていてもよい。しかしながら、好ましくは基体は、ポリオレフィン、及び活性水素基を備えた分子を有する組成物、そして好ましくは活性水素基を備えた分子を有する組成物を含むポリマーブレンドでできている。ポリオレフィンは、群:ポリエテン、ポリプロペン、及びスチレンブロックコポリマー(SBS)から選択される少なくとも一つのポリマーを含むことができる。活性水素基を備えた分子を有する組成物は、窒素を介してポリマーに結合した活性水素基を有するポリマー、例えばポリアミド又はポリウレタンであり得る。
【0039】
親水性コーティングは、カテーテルシャフトを形成する基体上の少なくとも一部上に、そして上述した抗菌コーティング層の上面上に配置される。親水性ポリマーコーティングは、ポリビニル化合物、多糖類、ポリウレタン類、ポリアクリレート類、又はビニル化合物とアクリレート類若しくは酸無水物類とのコポリマー、特にポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ヘパリン、デキストラン、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ビニルピロリドンとヒドロキシエチルメチルアクリレートのコポリマー、又はポリメチルビニルエーテルと無水マレイン酸のコポリマーから選択される材料を含んでいてもよい。好ましい親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドンである。
【0040】
基体の好ましいコーティング方法を、以下により詳細に説明する。細長いシャフトの外面は、好ましくは最初にイソシアネート化合物0.05〜40%(W/V)を含む溶液、その後ポリビニルピロリドン0.5〜50%(W/V)を含む溶液を、基体の表面に順に塗布するステップ、及びその後高温で硬化するステップによる、安定な親水性コーティング剤でコーティングされる。イソシアネート溶液は、有利には、イソシアネート化合物0.5〜10%(W/V)を含有していてもよく、好ましくはイソシアネート化合物1〜6%(W/V)を含有していてもよい。一般に、イソシアネート溶液は、短時間、例えば5〜60秒、表面と接触する必要があるに過ぎない。
【0041】
イソシアネート溶液の基体表面への塗布は、基体表面上に形成される未反応のイソシアネート基を有するコーティングをもたらす。その後のポリビニルピロリドン溶液の基体表面への塗布は、親水性ポリビニルピロリドン−ポリ尿素インターポリマーコーティングの形成をもたらす。この親水性コーティングの硬化は、イソシアネート化合物を一緒に結びつけ、親水性ポリビニルピロリドンを結合する安定な非反応性ネットワークを形成する。有利には、硬化は、水含有ガス、例えば大気、の存在下に行って、イソシアネート基が水と反応するのを可能にし、それにより他のイソシアネート基と迅速に反応するアミンを生じさせて、尿素架橋を形成する。さらに、本方法は、ポリビニルピロリドン溶液を塗布する前にイソシアネート溶液の溶媒を蒸発させるステップ、及び親水性コーティングの硬化の前にポリビニルピロリドン溶液の溶媒を蒸発させるステップを含んでいてもよい。これは、例えば空気乾燥によって行われ得る。
【0042】
イソシアネート化合物は、好ましくは一分子当たり少なくとも2個の未反応イソシアネート基を含む。イソシアネートは、2,4−トルエンジイソシアネート及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、又はヘキサメチレンジイソシアネートの五量体及びシアヌル酸型のトルエンジイソシアネート、又は三量体化ヘキサメチレンジイソシアネート ビウレット、又はこれらの混合物から選択される。
【0043】
イソシアネート化合物用の溶媒は、好ましくはイソシアネート基と反応しないものである。その好ましい溶媒は塩化メチレンであるが、例えば酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、メチルエチルケトン、二塩化エチレンを使用することも可能である。
【0044】
必要な反応時間及び硬化時間を短縮させるために、イソシアネート硬化に適した触媒を添加してもよい。これらの触媒は、イソシアネート溶液又はポリビニルピロリドン溶液のいずれかに溶解され得るが、好ましくは後者に溶解される。種々のタイプのアミン類、例えばジアミン類がとりわけ有用であるが、例えばトリエチレンジアミンも有用である。好ましくは、コーティングに使用される乾燥温度及び硬化温度で揮発可能であり、さらに非毒性である脂肪族アミンが用いられる。適したアミン類の例は、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、p−ジアミノベンゼン、1,3−プロパンジオール−p−アミノ安息香酸ジエステル、及びジアミノビシクロオクタンである。
【0045】
使用されるポリビニルピロリドンは、好ましくは104〜107の平均分子量を有し、最も好ましい平均分子量が約105である。そのような分子量を有するポリビニルピロリドンは、例えば商標コリドン(Kollidon)(登録商標)(BASF)という名で市販されている。使用され得るポリビニルピロリドン用の適した溶媒の例は、塩化メチレン(好ましい)、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、メチルエチルケトン、二塩化エチレンである。溶液中のポリビニルピロリドンの割合は、好ましくは0.5〜10%(W/V)であり、最も好ましくは2〜8%(W/V)である。溶液中のポリビニルピロリドンは、浸漬、噴霧などによって短時間、例えば5〜50秒間塗布される。
【0046】
コーティングの硬化は、好ましくは例えばオーブン中、50〜130℃で、5〜300分間行われる。
【0047】
しかしながら、例えばUV又は電子線照射によって架橋されるコーティング剤など、他のタイプの親水性コーティング剤を使用することも可能である。
【0048】
微量作用金属、好ましくは銀、及びコーティングにあるものと同一の親水性ポリマー、を含有するコロイド粒子が、そのコーティングにさらに組み込まれる。好ましくは、これらのコロイド粒子は、基体上のコーティングの形成後、最も好ましくは、コーティングされた医療デバイスをコロイド溶液に浸漬することによって、導入される。
【0049】
コロイド溶液は、好ましくは微量作用金属塩を還元剤及び親水性ポリマーと混合することによって調製される。
【0050】
微量作用金属が銀である場合、微量作用金属塩は、好ましくはAgNO3、CH3CO2Ag、CH3CH
(OH)CO2Ag、AgCIO4、AgSO4、Ag2O3、AgBF4、AgIO3、AgCI、AgI、及びAgBrからなる群より選択される。最も好ましくは、微量作用金属塩は、硝酸銀である。溶媒は、好ましくは水及び/又はエタノールである。還元剤は、好ましくはアスコルビン酸(C686)である。
【0051】
好ましくは、コロイド溶液は、それが100質量部の微量作用金属、例えば銀など、そして特に硝酸銀を含む場合、対応する相対量(すなわち、微量作用金属に対して)の20〜100質量部の、より好ましくは50〜100質量部の、そして最も好ましくは75〜85質量部の親水性ポリマー、特にPVPをさらに含む。またさらに、コロイド溶液は、好ましくは0.01〜10質量部の、より好ましくは0.1〜1.0質量部の、そして最も好ましくは0.3〜0.7質量部の還元剤、特にアスコルビン酸を含む。
【0052】
コーティングはまた、例えばEP0217771において教示されているような質量オスモル濃度増強化合物を含んでいてもよい。例えば、親水性コーティングは、質量オスモル濃度増強化合物、例として塩化ナトリウム及びカリウム、ヨウ化物類から選択される無機塩、クエン酸塩類、及び安息香酸塩類を含有していてもよい。さらに、又は代わりに、質量オスモル濃度増強化合物を湿潤流体中に備え付けることも可能である。
【実施例】
【0053】
実験結果1
第一の実験ラインでは、一般に商標メリフレックス(Meliflex)という名で販売されている、材料ポリプロペン、ポリエテン、ポリアミド及びスチレン−エテン/ブテン−スチレンコポリマーの組み合わせの基体材料、を使用して、カテーテルを調製した。
【0054】
該基体を親水性コーティング剤でコーティングした。さらに詳しくは、イソシアネートを使用して結合PVPに対してポリ尿素ネットワークを形成する自体公知のコーティング方法を使用した。さらに詳しくは、比較例に記載のコーティングを、塩化メチレン中に2%(W/V)の濃度に溶解されたジイソシアネート[名称;デスモデュア(Desmodur)IL]を含むプライマー中に基体を15秒間浸漬することによって調製した。その後カテーテルを外界温度(ambient temperature)で60秒間乾燥し、次いで塩化メチレンに溶解された7%(W/V)のポリビニルピロリドン(PVP K90)を含有する溶液に3秒間浸漬した。次いで、カテーテルを35℃で30秒間フラッシュオフするにまかせ、次いで80℃で60分間硬化し、最後に放置して室温に冷却し、水ですすいだ。
【0055】
その後、コーティングしたカテーテルを、コロイド銀粒子を含むコロイド溶液に浸漬した。このために、異なる銀濃度、種々のサイズのコロイド銀粒子、等を有する様々なコロイド溶液を使用した。カテーテルをそのコロイド溶液に5分間浸漬し、続いて85℃で5時間乾燥した。
【0056】
続いて、カテーテルを包装し、最小25kGyの積線量(product dose)の放射線で滅菌した。
【0057】
コロイド溶液は、異なる量の三つの異なる溶液を使用して調製した。該溶液は:
・溶液1:500mL脱塩水中0.009gのアスコルビン酸(0.1mM)
・溶液2:580.5mL脱塩水中0.198gのAgNO3(2mM)
・溶液3:292.5mL脱塩水中0.162gのPVP(K30)(5mM)
【0058】
最初に、溶液3と溶液2を一緒に混合し、攪拌し、加熱した。混ぜた溶液が一定の温度に達したら、特定の量の溶液1を添加した。種々のコロイド溶液を調製するために、溶液1(0.1mM)を異なる温度で、異なる量で添加した。
【0059】
コロイド銀粒子の濃度、及び生じるコロイド溶液のコロイド粒子のサイズは、紫外可視分光法による測定に基づいて算出した。コロイド粒子に変態される硝酸銀からの銀の度合いも算出した。
【0060】
抗菌活性は、尿道カテーテルの実際の使用状況をシミュレートする方法で試験した。これにより、まずカテーテルを湿潤液体中30秒間湿潤した。次いで、カテーテルを、細菌を含有する尿をシミュレートする細菌含有溶液に浸漬した。さらに詳しくは、その溶液には、大腸菌(E. coli)が103CFU/mLの濃度で含んでいた。ここで、CFUは、コロニー形成単位(Colony Forming Units)の略である。続いて、カテーテルを浸漬した溶液を、導尿(catheterizations)間の間隔をシミュレートして、37℃で4時間インキュベートした。次いで、細菌濃度をCFU/mLとして測定し、開始濃度と比較した。
【0061】
第一の一連の実験において、コロイド溶液は、溶液2の全て(580.5mL)、溶液3の全て(292.5mL)、及び溶液1の全て(500mL)を使用して調製した。以下の表1で表されているように、溶液1を、種々の温度で添加した:
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示された測定値から、以下の観察がなされ得る:
・コロイド粒子は、室温では形成されない。
・しかし、室温で溶液を混合し、続いて加熱すると、コロイド粒子の形成が生じた。
・コロイド粒子のサイズは、加熱が還元剤(アスコルビン酸)の添加の前に行われるか又はそれに続いて行われるかどうかに関係なく、90℃及び95℃に加熱した溶液では、本質的に同じであった。
・80℃の加熱では、より大きなコロイド粒子が生じ、60℃の加熱では、さらにより大きなコロイド粒子が生じた。
・従って、より低い温度でより大きな粒子が発生するということ、また生じる粒子のサイズは、温度を制御することによって、制御し得るということが、結論付けられる。
・より多量のコロイド粒子は、より低い温度よりもより高い温度で形成される。
・加熱を還元剤(アスコルビン酸)の混合後に行う場合よりも、加熱を還元剤の添加前に行う場合の方が、コロイド粒子を形成する利用可能な銀の度合いが、有意に高い。
・混合温度がより高いと、コロイド粒子に形成される利用可能な銀のより高い度合いをもたらす。
【0064】
溶液A2〜A6の全ての抗菌作用をE. coliで試験し、優れた抗菌活性を有することが見出された。
【0065】
溶液A3及びA5は、さらに上述したプロセスのカテーテルの調製に使用した。
【0066】
カテーテルの保水性も、1分後及び6分後にそれぞれ試験した。保水性を、上述した方法であるが、カテーテルをいずれかの抗菌溶液に浸漬する追加のステップなしの方法で、調製したカテーテルを比較した。これらの測定の結果は、全てのカテーテルは十分な水分保持能力を有するということであった。溶液A3に浸漬したカテーテルの保水性は、いずれの抗菌溶液にも浸漬されていない参照カテーテルと本質的に等しい。溶液A5に浸漬したカテーテルの保水性は、わずかに低いが、尿道カテーテルとして使用するのになお十分であった。
【0067】
カテーテルの抗菌活性を、E. coli で試験した。比較として、抗菌溶液に浸漬されていない参照カテーテルを試験した。参照カテーテルを使用した場合、細菌の濃度は、最初の約1103CFU/mL〜3.9105CFU/mLに増大した。本発明記載のカテーテル、ここでは溶液A3及び溶液A5に浸漬したカテーテルを使用した場合は、溶液中の細菌の濃度は、最初の約103 logCFU/mLから101 logCFU/mL未満(検出限界を下回る)に減少した。従って、本発明に従って調製したカテーテルで、有意な抗菌活性が得られた。さらに、溶液A3で調製したカテーテルと溶液A5で調製したカテーテル間では、この点において差は見られなかった。
【0068】
さらに、溶液A3及び溶液A5でそれぞれ調製したカテーテルの銀の総量、並びに合成尿及びリン酸緩衝液にそれぞれ放出された銀の総量を分析した。ここでは、最初に同一のカテーテルを、カテーテルの初期の活性/湿潤工程をシミュレートするリン酸緩衝液に浸漬し、その後それらを患者の尿道内に導入した場合のカテーテルの続いての使用をシミュレートする合成尿に浸漬した。使用後カテーテル上に残存する銀の量は、使用前の銀の総量から、リン酸緩衝液に放出された銀の量及び合成尿に放出された銀の量で減じた量に相当する。まずカテーテルをリン酸緩衝液に、親水性尿道カテーテル用に典型的に推奨される湿潤時間に相当する、30秒間浸漬し、その後合成尿に、間欠的尿道カテーテルの典型的な導尿持続時間に相当する、5分間浸漬した。結果を以下の表2に示す:
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示された測定値から、以下の観察がなされ得る:
・カテーテルの銀の総量は、溶液A3で調製したカテーテルでより高い。
・銀の放出率は、溶液A5で調製したカテーテルでより高い。
・合成尿及びリン酸緩衝液の両方への非常に高い銀の放出率が、両者のカテーテルについて得られた。
【0071】
第二の一連の実験において、コロイド溶液は、溶液2の580.5mL、溶液3の292.5mL、及び溶液1の種々の量(以下の表3参照)を使用して調製した。溶液1は95℃の温度で添加した。
【0072】
【表3】

【0073】
コロイド粒子の数の計算は、J. Yguerabide 及び E. Yguerabideの論文「高度蛍光類似体としての光散乱超顕微鏡的粒子と臨床的及び生物学的応用におけるトレーサー標識としてのそれらの使用」[J. Analytical Biochemistry 262, 157-176(1988)]で提案された方法に従って行った。
【0074】
表3に示された測定値から、以下の観察がなされ得る:
・より大きなアスコルビン酸の使用により、より大きなコロイド粒子が生じた。
・従って、生ずる粒子サイズは、使用される還元剤(アスコルビン酸)の量を制御することによって制御され得ると結論付けられる。
・多量の還元剤(アスコルビン酸)は、コロイド粒子に形成される利用可能な銀の高い度合いをもたらす。
・溶液1を50mL又はそれより多く使用したとき、コロイド粒子を形成する利用可能な銀の度合いが、有意により高い。
【0075】
結論として、これらの実験は、コロイド粒子のサイズは、合成手順の温度及び/又は添加される還元剤の量を制御することによって制御し得るということを示す。さらに、合成が、比較的低い温度でさえ可能であることは、明白である。60℃より低い温度ですら使用し得ると想定される。より低い温度は、製品をより費用効率の良いものにするより速い合成を提供する。
【0076】
実験結果2
第二の実験ラインでは、先に使用した安定剤、すなわちPVP(これは、カテーテルの親水性コーティングに使用されたものと同一の親水性ポリマーである)が、他の通常使用される安定剤、すなわちポリアクリル酸(PAA)を対照として試験した。
【0077】
カテーテルを、表題実験結果1のもとで上述したと同様の方法で、再度調製した。
【0078】
その後、コーティングしたカテーテルを、コロイド銀粒子を含むコロイド溶液に浸漬した。このために、PVP及びPAAをそれぞれ使用して調製されている様々なコロイド溶液を使用した、
【0079】
続いて、カテーテルを包装し、最小25kGyの積線量の放射線で滅菌した。
【0080】
PVPを有するコロイド溶液Cは、以下の溶液を使用して調製した:
・溶液1C:50mL脱塩水中0.0009gのアスコルビン酸(0.1mM)
・溶液2C:580.5mL脱塩水中0.198gのAgNO3(2mM)
・溶液3C:292.5mL脱塩水中0.162gのPVP(K30)(5mM)
【0081】
最初に、溶液3Cと溶液2Cを一緒に混合し、攪拌し、加熱した。混ぜた溶液が95℃の温度に達したら、50mLの溶液1Cを添加した。
【0082】
PAAを有するコロイド溶液Dは、以下の溶液を使用し、PAAにとってより適切にするために若干異なって調製した:
・溶液1D:1000mL脱塩水中0.0352gのアスコルビン酸(0.2mM)
・溶液2D:40mL脱塩水中0.034gのAgNO3(5mM)
・溶液3D:20mL脱塩水中0.206gのPAA(0.05mM)
【0083】
最初に、溶液3Dと溶液2Dを一緒に混合し、攪拌し、加熱した。混ぜた溶液が97℃の温度に達したら、溶液1Dを徐々に、一滴ずつ添加した。
【0084】
溶液C及び溶液Dの両方の浸漬で、5分及び30分の両方の浸漬時間を使用した。
【0085】
参照として、カテーテルを、上述したと同様の方法で調製したが、いずれの抗菌溶液にも浸漬されることのない方法を使用した。
【0086】
上述したように調製したカテーテルについて、表題実験結果1のもとで上述したと同様の方法で、抗菌作用を試験した。結果を以下の表4に示す:
【0087】
【表4】

【0088】
さらに、同一のカテーテルについて、銀の総量、並びに合成尿及びリン酸緩衝液にそれぞれ放出された銀の量を分析した。ここでは、最初に同一のカテーテルを、カテーテルの初期の活性/湿潤工程をシミュレートするリン酸緩衝液に浸漬し、その後それらを患者の尿道内に導入した場合のカテーテルの続いての使用をシミュレートする合成尿に浸漬した。使用後カテーテル上に残存する銀の量は、使用前の銀の総量から、リン酸緩衝液に放出された銀の量及び合成尿に放出された銀の量で減じた量に相当する。まずカテーテルをリン酸緩衝液に、親水性尿道カテーテル用に典型的に推奨される湿潤時間に相当する、30秒間浸漬し、その後合成尿に、間欠的尿道カテーテルの典型的な導尿持続時間に相当する、5分間浸漬した。結果を以下の表5に示す:
【0089】
【表5】

【0090】
表4及び5に示された結果から、以下のことが演繹され得る:
・PAAを含有する溶液Dの使用によって調製されたカテーテルは、有する銀の量が非常に低い。その結果、該カテーテルからの銀の放出率は非常に低く、抗菌作用は殆ど注目に値しなかった。
・カテーテルのコーティングに使用されたものと同一の親水性ポリマーが抗菌溶液の安定剤として使用される本発明によって調製される溶液は、逆に、該カテーテルからの銀の量が、有意により良好であった。さらに、該カテーテルからの銀の放出率も、抗菌作用もまた、有意に改善された。
【0091】
さらに、上述のカテーテルは、ここで保水性に関して試験され、ほぼ等しく良好な水分保持能力を有することが見出された。
【0092】
実験結果3
第三の実験ラインでは、別のタイプのコーティングを使用した。ここでは、カテーテルは、共有結合で架橋されたPVPコーティングを備えた。
【0093】
上述したものと同一のカテーテル基体が、ここで使用された。
【0094】
カテーテルのコーティングは、まずカテーテル基体を、ウレタンアクリレート1.5%、PVP3%、及びイリガキュア(irigacure)0.18%をエタノール99.7%に溶解した溶液中に、浸漬して備え付けられた。次いで、カテーテルを乾燥し、UV線を照射した。次いで、カテーテルを、コロイド銀粒子を備えた第二の溶液中に浸漬した。第二の溶液は、抗菌溶液1/2、及びコーティング形成溶液1/2から構成された。コーティング形成溶液は、エタノール99.7%に溶解したPVP5%及びベンゾフェノン0.1%から構成された。コロイド溶液Eを、アスコルビン酸0.3mMを含む溶液、AgNO31mMを含む第二の溶液、及びPVP(K30)1.3mMを含む第三の溶液で調製した。コロイド溶液の調製は、溶媒としてエタノールを水の代わりに使用した唯一の相違を有するが、実験結果2のもとで述べた方法と同一の方法で行った。第二の溶液への浸漬後、カテーテルを再び乾燥し、UV照射した。これにより共有結合で架橋されたコーティングが生じた。
【0095】
続いて、カテーテルを包装し、最小25kGyの積線量の放射線で滅菌した。
【0096】
参照として、同一の方法で調製されたカテーテルを使用したが、ここで、第二の浸漬溶液は、コーティング形成溶液しか含有していない。
【0097】
上述のように調製したカテーテルについて、表題実験結果1のもとで上述したと同様の方法で、抗菌作用を試験した。結果を以下の表6に示す:
【0098】
【表6】

【0099】
さらに、同一のカテーテルについて、銀の総量を分析した。結果を以下の表7に示す:
【0100】
【表7】

【0101】
表6及び7に示された結果から、以下のことが演繹され得る:
・共有結合で架橋されたコーティングを備えたカテーテルからも十分な抗菌作用が得られる。
【0102】
実験結果4
第四の実験ラインでは、本発明の抗菌コーティングを、二つの別のタイプの抗菌親水性コーティングと比較した。使用した。
【0103】
これらの実験のために、カテーテルは、全て先に述べた実験との関連で上述と同一の基体材料を使用して調製した。
【0104】
比較例として(比較例1)、第一にカテーテル基体を抗菌コーティング剤でコーティングした。コーティングを、本質的にUS5395651及びUS5747178に記載されたように、塗布した。従って、第一に基体をクロム酸で前処理し、次いで、酸性化した脱塩水に溶解した、スズイオンを含有する塩を1Lあたり0.01〜0.2g含有する希釈活性化溶液に、基体を浸漬することによって活性化した。この処理後、基体を脱塩水ですすいだ。その後基体を、銀含有塩、更に詳しくは1Lあたり0.10gより多くない有効量の硝酸銀、還元剤、及び析出制御剤を含む析出溶液に浸漬した。析出後、コーティングした基体を析出溶液から取り出し、脱塩水ですすいだ。最後に、基体を、希酸に白金及び金の塩を1Lあたり0.001〜0.1g含む安定化溶液に浸漬した。
安定化処理後、基体を再度脱塩水ですすぎ、続いて乾燥した。
【0105】
抗菌コーティングの上面上に、イソシアネートを、結合PVP用尿素ネットワークを形成させるために使用して、表題実験結果1のもとで上述したと同様の方法で、親水性コーティングを塗布した。
【0106】
ここで、比較例1に従って調製したこれらのカテーテルを、上述した溶液C(5分)、溶液C(30分)及び溶液Eを使用して調製した本発明実施例と比較した。
【0107】
上述のように調製したカテーテルについて、表題実験結果1のもとで上述したと同様の方法で、抗菌作用を試験した。結果を以下の表8に示す:
【0108】
【表8】

【0109】
さらに、同一のカテーテル、並びに溶液A3及びA5で調製したカテーテルについて、銀の総量、並びに合成尿及びリン酸緩衝液にそれぞれ放出された銀の量を分析した。先のように、最初に同一のカテーテルを、カテーテルの初期の活性/湿潤工程をシミュレートするリン酸緩衝液に浸漬し、その後それらを患者の尿道内に導入した場合のカテーテルの続いての使用をシミュレートする合成尿に浸漬した。使用後カテーテル上に残存する銀の量は、使用前の銀の総量から、リン酸緩衝液に放出された銀の量及び合成尿に放出された銀の量で減じた量に相当する。まずカテーテルをリン酸緩衝液に、親水性尿道カテーテル用に典型的に推奨される湿潤時間に相当する、30秒間浸漬し、その後合成尿に、間欠的尿道カテーテルの典型的な導尿持続時間に相当する、5分間浸漬した。結果を以下の表9に示す:
【0110】
【表9】

【0111】
表9に示されたデータに基づいて、浸漬前のカテーテル中の銀、リン酸緩衝液に放出された銀、合成尿に放出された銀、浸漬後カテーテルに残存する銀の、以下の相対量を算出した(以下の表10):
【0112】
【表10】

【0113】
表8、9及び10に示された結果から、以下のことが演繹され得る:
・これらカテーテルの抗菌活性は、述べた選択肢の全てについて十分に良好である。
・しかしながら、ポリ尿素ネットワークを形成する親水性コーティングを使用して調製された本発明実施例は、全ての他の実施例よりも有意に良好な抗菌活性を示す。
・本発明に従って調製されたカテーテル中の銀の総量は、相対的に低い。
・リン酸緩衝液への銀の低い放出を有することは、これがカテーテルを使用する前の湿潤工程に対応するから、一般的に望ましい。リン酸緩衝液への銀の放出率は、リン酸緩衝液への予想外に良好な(低い)溶出率を示す溶液A3で調製したカテーテルを除いて、全ての試験したカテーテルで本質的に同等である。
・さらに、合成尿への銀の高い放出率を有することは、これが、カテーテルが導 尿のために使用されたとき、尿中への銀の放出に対応するから、一般的に望ましい。本発明に従って調製された全てのカテーテルは、比較例と比較して、有意に改善された合成尿への銀の放出率を有する。
・結論として、本発明に従って調製されたカテーテルは、微量作用金属が最も有用で、最もよく必要とされる状況で(−すなわち導尿中)、微量作用金属のかなり部分を放出する能力を有する。
・さらに、使用後カテーテル中に低い残存量の銀を有することは、一般的に望ましい。カテーテル中への銀の残存は、いずれの有用抗菌目的にも有効に使用されなかった銀に対応する。本発明に従って調製されたカテーテルは、一般的に、使用後(すなわち二つの浸漬工程後)のカテーテル中への銀残存量が相対的に低い。この効果は、溶液C及び溶液A(5分)で調製されたカテーテルにおいて、特に顕著である。
・それ故、本発明に従って調製されたカテーテルは、全ての本発明実施例で相対的に高いカテーテルからの銀の放出を有し、ここで銀はまた、銀が最も有用であるところに大量に放出される。
・さらに、本発明実施例は、カテーテル中に存在する銀を非常に高い割合で放出し、これは、良好な抗菌効果及び相対的に低い生産コストを備えたカテーテルを可能にする。これにより、製品はまた、より環境にやさしいものになる。
【0114】
従って、本発明の方法は、例えば比較例1の方法と比較して、かなり単純で、費用効率が高いにもかかわらず、適用された微量作用金属の抗菌活性、放出率、及び有効使用の観点で、相当の、又はより良好な性質さえ示すということが、結論付けられる。
【0115】
結論及び概要
これまで、本発明を、様々な実施態様との関連で述べてきた。しかしながら、当業者にとって当然のことながら、いくつかのさらなる代替が可能である。例えば、微量作用金属を含んでなる多くの他のタイプの抗菌コーティングも、他のタイプの親水性コーティングも使用することができる。さらに、本発明は、尿道カテーテル以外の他のタイプのカテーテル、例えば血管カテーテルなど、又は他のタイプの親水性コーティングを有する医療デバイスに使用することも可能である。
【0116】
当業者にとって当然のことながら、上述したものに類似するいくつかのそのような代替が本発明の趣旨から逸脱することなしに使用可能であり、全てのそのような改変は、添付される特許請求の範囲に定義されるように本発明の一部とされるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌活性を有する医療デバイスを提供する方法であって:
湿潤すると低摩擦を示す親水性ポリマーでコーティングされた基体材料を備える工程;
微量作用金属の化学還元粒子、及び基体材料のコーティングにあるものと同一である親水性ポリマー、を含むコロイド溶液を備える工程;及び
該基体材料をその溶液中に浸漬する工程;
を含んでなる、上記方法。
【請求項2】
微量作用金属が銀である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コロイド溶液の備え付けが、溶媒中微量作用金属塩を還元剤及び親水性ポリマーと一緒に混合することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
微量作用金属が銀であり、微量作用金属塩がAgNO3、CH3CO2Ag、CH3CH(OH)CO2Ag、AgCIO4、AgSO4、Ag2O3、AgBF4、AgIO3、AgCI、AgI、及びAgBrからなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
微量作用金属塩が、硝酸銀である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
溶媒が、水及び/又はエタノールである請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
還元剤が、ボラン類、水素化銅、ジボラン、水素化ジイソブチルアルミニウム、アスコルビン酸、ジメチルスルフィドボラン、ホルムアルデヒド、ギ酸、ヒドラジン、イソプロパノール、水素化アルミニウムリチウム、テトラヒドリドアルミン酸リチウム、ニッケル、水素化ホウ素ニッケル、シュウ酸(oxalyc acid)、ポリメチルヒドロシロキサン、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、ヒドロ亜硫酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸ナトリウム、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム、トリブチルスタンナン、水素化トリブチルスズ、トリクロロシラン、トリフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニル、トリエチルシラン、トリス(トリメチルシリル)シラン、及び水素化ホウ素ナトリウムからなる群より選択される、請求項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
還元剤がアスコルビン酸である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
親水性ポリマーが、ポリビニル化合物、ポリラクタム類(特に例えばポリビニルピロリドン類など)、多糖類(特にヘパリン、デキストラン、キサンタンガム、誘導体化多糖類、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース)、ポリウレタン類、ポリアクリレート類、ポリヒドロキシアクリレート類、ポリメタクリレート類、ポリアクリルアミド類、ポリアルキレンオキシド類(特にポリエチレンオキシド類)、ポリビニルアルコール類、ポリアミド類、ポリアクリル酸、先に挙げたポリマーのコポリマー、ビニル化合物とアクリレート類又は酸無水物類とのコポリマー、ビニルピロリドンとヒドロキシエチルメチルアクリレートとのコポリマー、ポリビニルピロリドンのカチオン性コポリマー、並びにポリメチルビニルエーテルとマレイン酸無水物とのコポリマーの少なくとも一つである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
親水性ポリマーがポリビニルピロリドンである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
親水性ポリマーコーティングが、ポリ尿素ネットワークを形成する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
親水性ポリマーでコーティングされた基体材料が、最初にイソシアネート化合物0.05〜40%(W/V)を含む溶液、その後ポリビニルピロリドン0.5〜50%(W/V)を含む溶液を、基体の表面に順に塗布するサブステップ、及び高温で硬化するサブステップを含んで備え付けられる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
親水性ポリマーコーティングが、照射によって前記基体に架橋される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
基体材料、及び該基体材料表面上の少なくとも一部に配置された湿潤すると低摩擦を示す親水性ポリマーの表面コーティングを含み、ここで該コーティングが、微量作用金属のコロイド粒子、及び基体材料のコーティングにあるものと同一である親水性ポリマーをさらに含んでなる、抗菌活性を有する医療デバイス。
【請求項15】
コロイド粒子が1〜200nmの範囲内のサイズである、請求項14に記載の医療デバイス。
【請求項16】
カテーテル、好ましくは尿道カテーテルである、請求項14又は15に記載の医療デバイス。

【公表番号】特表2013−514108(P2013−514108A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543795(P2012−543795)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070105
【国際公開番号】WO2011/073403
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(501249869)アストラ・テック・アクチエボラーグ (22)
【Fターム(参考)】