説明

近傍電磁界測定装置

【課題】測定装置に対する技術的および/または経済的な負荷の少ない近傍電磁界測定装置を提供する。
【解決手段】 光源2と、光源の出力光を変調するための変調器3と、変調器を制御する変調信号を発生するための変調信号源4と、変調手段の出力光の波面をプローブに整合するように調整するための波面整合光学系5と、波面整合光学系5からの出力光を、検体が発生する近傍電磁界によって変調するための磁気光学素子を具備するプローブ6と、プローブの出力光から近傍電磁界の周波数を含む出力光を取り出すための検波光学系7と、検波光学系が取り出した近傍電磁界の周波数を含む出力光を電気信号に変換するための光電変換器8と、光電変換器の出力信号から所定の周波数成分を有する信号を抽出するための濾波器9と、濾波器の出力信号を測定するための測定装置10,11とを具備する近傍電磁界測定装置1などによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波プローブ技術および電磁界分布測定技術に関する。
【0002】
電子機器の高度化、小型化、および高速化に伴い、プリント基板回路の細密化が進むと同時に、対象となる電気信号の高速化、広帯域化も著しい。たとえば、1GHzを超える周波数で動作する集積回路や携帯機器などが開発されている。このような回路技術の動向を背景に、回路間の電磁干渉による設計による難しさ、電磁環境問題が生じている。高度なプローブ技術を用いる近傍電磁界解析システムおよび回路診断システムは、これらの問題に対して有効な解決策を与えるものと期待されている。
【0003】
そのような近傍電磁界解析システムおよび回路診断システムとして、たとえば、“土屋昌弘・山崎悦史・若菜伸一・岸眞人「光ファイバ端磁気光学(FEMO)プローブによる微小領域マイクロ波帯磁界分布測定」,日本応用磁気学会誌Vol. 26, No. 3, 2002, pp. 128-134” (下記非特許文献1)には、光ファイバ端磁気光学(FEMO)をプローブとして用いる磁気光学効果を用いたFEMOプローブシステムが開示されている(同文献の第1図(Fig.1)参照のこと。)。
【0004】
図3は、その文献に開示された光ファイバ端磁気光学プローブシステム101の概略図である。図3に示されるとおり、その文献に開示されたFEMOプローブシステム101は、光源であるレーザダイオード(LD)102と、光源からの出力光を増幅するためのEDFAなどの光増幅器103と、光増幅器103の出力光を光プローブに整合させるための波面整合光学系(PC)104と、PCからの出力をプローブヘッド115へ向かわせるための光サーキュレータ105と、光サーキュレータからの出力を試料へと向かわせるための光ファイバ110と、光ファイバの先端に取り付けられたプローブヘッド115を具備する。
【0005】
また、このFEMOシステムは、集積回路基板113(検体としての回路素子114を含む)に対して配線112を介して動作信号を発生する信号発生器111とを含む。さらに、このFEMOシステムは、光サーキュレータ105を介してプローブヘッド115からの戻り光を受けて、強度変調に変換するための検波光学系108と、検波光学系108の出力光を増幅するためのEDFAなどの光増幅器107と、光増幅器107の出力光を電気信号に変換するための受光器(PD)106と、受光器106からの出力信号を用いて近傍電磁界の大きさを分析・測定するためのRF(ラジオ周波数)スペクトラムアナライザ109とによって構成される測定系を備える。プローブヘッド115は、コア拡大光ファイバ(CEF)または単一モード光ファイバ(SMF)のような光ファイバ110の先端部と、その先端部に取り付けられた磁気光学結晶(例えば、Bi置換鉄ガーネット(BiRIG)結晶)によって構成される(同文献の第2図参照。)。
【0006】
光源102からの連続光は、光増幅器103により強度を増幅され、PC104によって波面が調整される。そして、光サーキュレータ105、及び光ファイバ110を通して磁気光学結晶(以下、MO結晶と略すこともある)に垂直に入射する。この入射光は、MO結晶内を伝播し、再び光ファイバ110に戻る。MO結晶内を伝播する際に、光は、検体の発する被測定高周波磁界hRFによりファラデー効果によって旋光変調を受ける。このようにして変調されたプローブからの戻り光は、RF光電流信号に変換された後、RFスペクトラムアナライザ109によって測定される。これにより、このFEMOシステムは、検体の近傍磁界を測定できる。
【0007】
しかしながら、このようなFEMOシステム101では、プローブからの戻り光の変調成分の周波数が、周波数が高い近傍電磁界の周波数であるため、変調周波数を測定する測定系として、近傍電磁界と同一の高周波帯域を計測できる応答性能を有するものを用いなければならないという問題があった。
【非特許文献1】土屋昌弘・山崎悦史・若菜伸一・岸眞人「光ファイバ端磁気光学(FEMO)プローブによる微小領域マイクロ波帯磁界分布測定」,日本応用磁気学会誌Vol. 26, No. 3, 2002, pp. 128-134”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、測定装置に対する技術的および/または経済的な負荷の少ない近傍電磁界測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の近傍電磁界測定装置では、例えば周波数f1で変調した光をプローブに入射する。この変調した光が、近傍電磁界によって更に変調される(この検体の発する周波数をfSとする)。その結果、プローブからの出力光が、それら変調周波数の差および和の周波数成分を含む光となる。そのうち、例えば、変調周波数の差の周波数成分(|f1−fS|)を選択的に測定する。このようにして測定される周波数成分の周波数は、それほど高周波数ではないので、本発明の近傍電磁界測定装置では、測定系として高周波数帯域の応答性を有するものを必ずしも用いる必要がなくなる。また、変調周波数f1を制御することで、測定系が観測する周波数帯域(|f1−fS|)を制御できるので、通常用いられている測定系などを効果的に利用できることとなる。本発明は、基本的にはこれらの知見に基づくものである。
【0010】
より具体的な本発明の近傍電磁界測定装置は、光源(2)と、前記光源の出力光を変調するための変調器(3)と、前記変調器を制御する変調信号を発生するための変調信号源(4)と、前記変調手段の出力光の波面をプローブに整合するように調整するための波面整合光学系(5)と、前記波面整合光学系(5)からの出力光を、検体が発生する近傍電磁界によって変調するための電気光学素子又は磁気光学素子を具備するプローブ(6)と、前記プローブの出力光から前記近傍電磁界の成分を含む出力光を取り出すための検波光学系(7)と、前記検波光学系が取り出した前記近傍電磁界の成分を含む出力光を電気信号に変換するための光電変換器(8)と、前記光電変換器の出力信号から所定の周波数成分を有する信号を抽出するための濾波器(9)と、前記濾波器の出力信号を測定するための測定装置(10、11)を具備する近傍電磁界測定装置である。
【0011】
従来の近傍電磁界測定装置では、プローブに変調されない光が入射する。一方、本発明の近傍電磁界測定装置では、プローブに変調された光が入射するので、近傍電磁界の成分を含む出力光には、近傍電磁界の周波数と変調周波数との和及び差の周波数を有する成分を有することとなる。そのため、この差の周波数成分を測定することで、近傍電磁界の挙動を知ることができることとなる。
【0012】
本発明の近傍電磁界測定装置の好ましい態様は、前記変調器の変調信号の周波数をf1とし、前記検体の発する近傍電磁界の周波数をfsとしたときに、|f1−fs|が、400kHz〜500kHzの範囲となるように周波数f1を制御する上記の近傍電磁界測定装置である。
【0013】
本発明の近傍電磁界測定装置の好ましい態様は、前記変調器の変調信号の周波数をf1とし、前記検体の発する近傍電磁界の周波数をfsとしたときに、|f1−fs|が、10MHz〜12MHzの範囲となるように周波数f1を制御する上記の近傍電磁界測定装置である。
【0014】
具体的には、周波数fsのおおよその値はわかっているので、|f1−fs|が所定の値となるように、変調器の変調周波数f1を制御するように変調信号源の出力を調整すればよい。測定系が測定する周波数である|f1−fs|を400kHz〜500kHzの範囲、又は10MHz〜12MHzの範囲に制御するので、比較的安価で汎用的な測定系を利用できることなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の近傍電磁界測定装置では、電気的な測定装置が測定する周波数帯域を近傍電磁界の周波数fSの帯域ではなく、変調信号との差の周波数(|f1−fS|)の帯域にできるので、それほど高周波帯域の応答性を有する測定装置を用いる必要性がなくなる。また、応答性を有するべき周波数帯域を、変調周波数f1を制御することで制御できるので、近傍電磁界の周波数fSが変化した場合でも、変調周波数f1を制御すれば、所定の周波数帯域の測定器において近傍電磁界を測定できることとなる。このように、本発明によれば、測定装置に対する技術的および/または経済的な負荷の少ない近傍電磁界測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の第一の実施態様にかかる近傍電磁界測定装置1の全体構成を示すブロック図である。この態様の近傍電磁界測定装置は、プローブとして磁気光学素子を具備するものである。図1に示されるとおり、この実施態様にかかる近傍電磁界測定装置1は、光源2と、前記光源の出力光を変調するための変調器3と(この変調器の変調周波数をf1とする)、前記変調器を制御する変調信号を発生するための変調信号源4と、前記変調手段の出力光の波面をプローブに整合するように調整するための波面整合光学系5と、前記波面整合光学系5からの出力光を、検体が発生する近傍電磁界(この周波数をfSとする)によって変調するための磁気光学素子を具備するプローブ6と、前記プローブの出力光から前記近傍電磁界の成分を含む出力光を取り出すための検波光学系7と、前記検波光学系が取り出した前記近傍電磁界の成分を含む出力光を電気信号に変換するための光電変換器8と、前記光電変換器の出力信号から所定の周波数成分を有する信号を抽出するための濾波器9と、前記濾波器の出力信号を測定するための測定装置(例えば検波回路10と電圧測定回路11とを含む)を具備する近傍電磁界測定装置である。そして、変調信号源は、例えば、変調周波数f1が、前記検体が発する近傍電磁界の周波数fSと所定の差または和となるように変調周波数を制御する。なお近傍電磁界とは、検体が発生する電界又は磁界である。また、光路は、光ファイバによって調整しても良いし、ビームスプリッタ、ミラー、絞りなどを適宜用いて調整しても良い。
【0017】
本発明の近傍電磁界測定装置における信号の流れは、基本的には、ヘテロダイン方式の無線受信回路におけるものと類似しており、無線受信機における電気信号を光に変調された成分と見なせばよい。変調信号源4と光変調器3とはヘテロダイン方式無線受信回路における周波数f1の局部発信回路に相当する。そして、変調された成分が、局発信号に相当する。磁気光学素子を具備するプローブ6は、近傍電磁界の大きさによって透過または反射光を制御する。その結果、その出力光は基本周波数fsの近傍電磁界と周波数f1の局部発信器の出力に相当する変調器の出力の積となる。このため、プローブはヘテロダイン方式における空中線とミキサーとの機能を併せ持つ作用を行うこととなる。すなわち、プローブの出力光は、ヘテロダイン方式受信回路と同様に中間周波数(f1〜fs、またはf1+fs)に変換された近傍電磁界成分で変調されることとなる。その結果、近傍電磁界を測定する測定装置では中間周波数に変換された成分のみを取り扱えばよいこととなる。このようにして測定装置が備える必要がある応答周波数帯を任意の周波数に設定出来る。すなわち、本発明の近傍電磁界測定装置は、ヘテロダイン回路と同様の利点がある。
【0018】
以下、第一の実施態様にかかる近傍電磁界測定装置の基本動作を説明する。レーザダイオードなどの光源2からの光は、変調器3へ入力する。この光は、連続光であり、ある程度強度のあるものであれば限定されない。またその波長として1550nmがあげられるが、これに限定されない。変調器3に入力した光は、変調器により変調される。この変調器の変調周波数をf1とする。変調器3は、光信号を変調できるものであれば特に限定されない。例えば、強度変調器や位相変調器などを適宜用いることができる。そして、この変調器の変調周波数f1は、変調信号源4が発生する変調信号の周波数を制御することで調整できる。すなわち、変調器に印加される変調信号の周波数が変化すると、その変化に応じて変調器からの出力光の周波数も変化する。
【0019】
変調器に印加する変調信号の周波数を制御することにより、変調器の変調周波数f1を、中間周波数(|f1−fS|、またはf1+fs)、特に(|f1−fS|)が400kHz〜500kHzになるように制御することは、本発明の好ましい実施態様である。また変調器の変調周波数f1を、中間周波数(|f1−fS|、またはf1+fs)、特に(|f1−fS|)が10MHz〜12MHzになるように制御することは、本発明の好ましい別の実施態様である。これらの領域となるように制御すれば、汎用されている測定装置系を好適に利用できることとなるので、近傍電磁界測定装置を容易に設計・製作できることとなる。なお、変調信号源としては、光情報通信技術などの分野において用いられる公知の変調信号源を適宜用いることができる。
【0020】
なお、上記では、光源と変調器とが別々の構成を有するものについて説明した。しかしながら、レーザ光源に印加する電流値などを制御することによりレーザ光自体を直接変調するものを用いることは、本発明の望ましい別の実施態様である。
【0021】
偏光子などの波面整合光学系5は、変調器により周波数変調を受けた光の波面がプローブに整合するように調整する。ここで、「光の波面がプローブに整合するように調整する」とは、例えば複屈折率が近傍電磁界によって変化する電気光学素子・磁気光学素子の場合は、一旦レーザ光を直線偏光となした後、1/4波長板にて右または左の円偏光光を電気光学素子または磁気光学素子を含むプローブに出力するように調整することを意味する。なお、波面整合光学系5として、公知の偏光板、偏光面調整器などを適宜用いてもよい。
【0022】
プローブ6は、BiRIG、またはCe:YIG結晶などの磁気光学素子を具備している。そして、プローブは、波面整合光学系5からの出力光を、検体が発生する電界又は磁界である近傍電磁界(周波数fS)によって変調する。その結果、磁気光学素子の出力光は、変調器による変調周波数(周波数f1)と近傍電磁界(周波数fS)との積で表される成分を有することとなり、これは周波数変換されたそれらの差に相当する周波数の低い成分(|f1−fS|)などの中間周波数成分を含むこととなる。なお、検体として、RF回路、集積回路、または空中線などがあげられる。
【0023】
プローブ6は、例えば、コア拡大光ファイバやシングルモードファイバなどの光ファイバの先端部分にMO結晶を接着させたものを用いればよい。MO結晶の厚さとして、20μm、幅100μmのものがあげられるが、その機能を達成しうる限り特に限定されない。
【0024】
検波光学系7は、前記プローブの出力光から前記近傍電磁界の成分を含む出力光を取り出す。検波光学系7として、例えば公知の偏光子(検光子)を用いることができる。また、先に説明した波面整合光学系5と同様の構成を有するものを用いてもよいし、波面整合光学系5そのものを検波光学系7として利用しても良い。
【0025】
光検出器などの光電変換器8は、検波光学系が取り出した近傍電磁界の周波数|f1−fS|を含む出力光を電気信号に変換する。光電変換器8としては、例えば、フォトダイオード、ピンフォトダイオード(pin−PD)、アバランシェ・フォトダイオード(APD)などが使用され得るが、これらに限定されない。なお、プローブ6からの戻り光を検出するための検出系は、検出器一素子によるものでもよいし、二素子による差動検出であってもよい。なお、プローブ光は、プローブ6の磁気光学素子または電気光学素子を通る間に光学損失を受けるため、必要に応じて、プローブ6からの出力光を増幅するための増幅器を、例えば、プローブ6と検波光学系7との間、または検波光学系7と光電変換器8との間等に設けてもよい。このような増幅器としては、例えば、エルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA)、半導体光増幅器(SOA)などがあげられるが、これらに限定されない。
【0026】
バンドパスフィルタなどの濾波器9は、電気信号のうち周波数|f1−fS|を中心とした信号を選択的に抽出する。電圧計などの測定装置10は、濾波器の出力信号を測定する。測定装置10は、通常電圧値を測定する。先に説明したとおり、従来の近傍電磁界測定装置では、近傍電磁界の周波数(周波数fS)帯域の電気量を測定していた。このため、濾波器9や測定装置10は、高い周波数帯域に対応したものである必要があった。しかし、本発明の装置では、この周波数fSを周波数|f1−fS|に変換して測定するので、近傍電磁界のような高い周波数帯域における応答性を有するものである必要がなくなる。このように中間周波数に変換された近傍電磁界成分は、次いで、例えば検波器および電圧測定器を含む測定装置10によって測定され、検体の近傍電磁界が求められ得る。濾波器9、検波器、および電圧測定器の機能を併せ持つ機器として、ロックインアンプ、RFスペクトラムアナライザなどが使用され得るが、これらに限定されない。
【0027】
本発明の近傍電磁界測定装置では、必要に応じて、変調器3と波面整合光学系5との間に、または波面整合光学系5とプローブ6との間に、出力光を増幅するための光増幅器が配置されていてもよい。このような光増幅器の例としては、エルビウム添加ファイバ増幅器(Erbium−doped fiber amplifiers(EDFA))、半導体光増幅器(Semiconductor Optical Amplifier(SOA))、ラマン増幅器などがあげられるが、これらに限定されない。
【0028】
なお、図1では、プローブ6に入射する光とプローブ6から出射する光のための光ファイバを別々に設けた形態を示したが、波面整合光学系5とプローブ6およびプローブ6と検波光学系7との間にビームスプリッタや光サーキュレータのような光の方向性を変更するための機器を備えて、プローブ6に対する入出力光を1つの光ファイバで導くような形態でもよい。
【0029】
なお、特に図示しないが、検体12は、水平方向又は垂直方向に移動可能なステージに搭載され、そのようなステージを制御する制御部からの制御信号に基づいてステージの位置を制御することにより検体12の三次元的位置を調整できるものは、本発明の好ましい実施態様である。また、図3に示したように、検体12または検体を含む回路素子に対して動作信号を印加するための信号源を具備することは本発明の好ましい実施態様である。
【0030】
本発明の近傍電磁界測定装置によれば、磁気光学素子(又は電気光学素子)をいわば電磁界検出機能に加えてミキサーとして機能させ、予め変調された成分と近傍電磁界成分とを混合し、検体の動作周波数fsよりも周波数帯域の小さい周波数成分(f1−fs)を光の変調成分として発生させることができる。プローブからの戻り光を検出する光検出器では、この周波数成分を検出すればよいため、測定系に要求される周波数特性への負荷を著しく軽減することができる。また、光源2からの予め変調された光の変調周波数f1を適切に制御することによって、上記中間周波数(f1−fs)成分を所定の周波数帯域に調節することができ、より広範な種々の帯域の測定近傍電磁界を発する検体に対して適用し得る。
【0031】
変調信号源4の変調信号を調整することにより、扱い易い中間周波数にて信号処理を行うことができる。数GHzの近傍電磁界信号を測定する場合であっても、それに対応した変調信号を用いることにより、例えば450kHzの中間周波数で取り扱えばよいように制御できるので、測定回路などの測定装置系を容易に設計・製作できることとなる。
【0032】
変調信号源4の変調信号を調整することにより、検体の動作周波数が変わっても測定装置系が観測する中間周波数を一定の周波数に調整できるので、検体の動作周波数が大きく変わっても測定装置系に変更は不要である。
【0033】
光電検出器出力から中間周波数成分のみを取り出す濾波回路は、通過帯域幅は変わらずとも濾波回路が通過させる信号の中心周波数が小さくなる結果、Q値の低いものであっても利用できることとなるので、容易かつ簡便に制作できることとなる。
【0034】
次に第二の実施態様にかかる本発明の近傍電磁界測定装置を説明する。この近傍電磁界測定装置は、基本的には第一の実施態様と同様の構成を適宜採用できるが、特にプローブとして電気光学素子を具備するものを用いる。電気光学素子として、BaTiO3、KH2PO4、KD2PO4、LiNbO3、LiTaO3、ZnO、ZnTe、CdTe、GaAs、GaP、またはPLZT結晶などがあげられる。図2は、第二の実施態様にかかる近傍電磁界測定装置波面整合光学系5、プローブ6、検波光学系7の複合的構成と光電変換器8の配置例を示すための概念図である。
【0035】
電気光学素子17に近傍電磁界が印加されない状態の光の状態では、図面左方より入射した光は偏光ビームスプリッタ13によって垂直に直線偏光されて、ファラデーセル14に入射して90度旋光して水平方向の直線変更となる。そのまま偏光ビームスプリッタ15を通過して1/8波長板によって楕円偏光となる。楕円偏光の光は電気光学素子17にて反射して1/8波長板に再度入射して円偏光になる。この円偏光の光は、偏光ビームスプリッタ15によって垂直および水平偏光の光に分離される。すなわち、垂直成分の光は、反射して検出器PD18に入射する。一方、水平成分の光は、偏光ビームスプリッタ15を透過し、ファラデーセル14で90度旋光して垂直偏光となって出力され、さらに偏光ビームスプリッタ13によって反射され、検出器PD18に入射する。
【0036】
電気光学素子17に近傍電磁界が印加されると、反射光の楕円率が変化し、1/8波長板16から紙面左方に伝播する円偏光の光は楕円偏光の光となる。例えば電界が正の場合は垂直方向長軸の楕円、同負の場合は水平方向の楕円となり検出器PD18と検出器PD19に入射する光量は、増減が反する差動出力となる。紙面左方から入射するレーザ光中の雑音成分は相殺されて安定した出力が得られる。
【0037】
尚、低い周波数で動作する検体の近傍電磁界測定に置いて、本発明の装置に依る周波数変換技術を用いれば取り扱いやすい周波数帯に変換して測定することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の近傍電磁界測定装置は、集積回路素子周囲の近傍電磁界など、電子機器の電磁界分布を測定するための装置などとして利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本発明の第一の実施態様にかかる近傍電磁界測定装置1の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、第二の実施態様にかかる近傍電磁界測定装置波面整合光学系5、プローブ6、検波光学系7の複合的構成と光電変換器8の配置例を示すための概念図である。
【図3】図3は、その文献に開示された光ファイバ端磁気光学プローブシステム1の概略図である。
【符号の説明】
【0040】
1 近傍電磁界測定装置
2 光源
3 光変調器
4 変調信号源
5 偏光子などの波面整合光学系
6 プローブ
7 偏光子などの検波光学系
8 光電変換器
9 濾波器
10 検波回路
11 電圧測定回路
12 検体
13,15 偏光ビームスプリッタ
14 ファラデー素子
16 8/λ波長板
17 電気光学素子
18 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源(2)と、
前記光源の出力光を変調するための変調器(3)と、
前記変調器を制御する変調信号を発生するための変調信号源(4)と、
前記変調手段の出力光の波面をプローブに整合するように調整するための波面整合光学系(5)と、
前記波面整合光学系(5)からの出力光を、検体が発生する近傍電磁界によって変調するための電気光学素子又は磁気光学素子を具備するプローブ(6)と、
前記プローブの出力光から前記近傍電磁界の成分を含む出力光を取り出すための検波光学系(7)と、
前記検波光学系が取り出した前記近傍電磁界の成分を含む出力光を電気信号に変換するための光電変換器(8)と、
前記光電変換器の出力信号から所定の周波数成分を有する信号を抽出するための濾波器(9)と、
前記濾波器の出力信号を測定するための測定装置(10、11)
を具備する近傍電磁界測定装置。
【請求項2】
前記変調器の変調信号の周波数をf1とし、
前記検体の発する近傍電磁界の周波数をfsとしたときに、
|f1−fs|が、400kHz〜500kHzの範囲となるように周波数をf1を制御する請求項1に記載の近傍電磁界測定装置。
【請求項3】
前記変調器の変調信号の周波数をf1とし、
前記検体の発する近傍電磁界の周波数をfsとしたときに、
|f1−fs|が、10MHz〜12MHzの範囲となるように周波数をf1を制御する請求項1に記載の近傍電磁界測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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