説明

送りねじ装置用ねじ軸及びその製造方法並びに送りねじ装置及び射出成形機

【課題】ねじ軸の浸炭熱処理後のねじ外径部の表面割れを防止して、より長寿命な送りねじ装置を提供する。
【解決手段】外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置に用いる前記ねじ軸であって、前記ねじ軸は浸炭熱処理後にねじ外径部を除去加工し、その後焼き入れを行ったことを特徴とする送りねじ装置用ねじ軸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に高負荷用途のボールねじ装置やローラねじ装置等、ねじ軸とナットの間に転動体を介在させた送りねじ装置に関し、特にそのねじ軸及びその製造方法に関する。また、その送りねじ装置を用いた射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形機やサーボプレス機等高負荷のかかる送り機構には、油圧機構による駆動が採用されてきた。しかし、油圧機構では、装置起動から安定するまでに時間を要することや消費エネルギーが高いことから、近年、電動モータの回転を直線運動に変換する送りねじ機構が採用されてきている。これらの送りねじ機構では、油圧機構に代替可能な負荷能力の確保が課題であった。
【0003】
この点の改善の先行技術としては、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。これは、ボールねじ装置のねじ軸の軸径を大きくし、ボールナットの回路数を増やしてボール数を増やし、ボール径、ボール溝をできるだけ大きくしたものである。また、ボールナットの各循環路間の円周方向の位相を互いに180度ずらすことによって、発生するモーメントによる負荷分布のばらつきを低減し、負荷能力向上を図っている。
【0004】
しかしながら近年、この高負荷用途のボールねじ装置も射出成形機の高速射出に対応し高速で使用されるようになってきている。また、サーボプレス装置においても生産性を高めるための高速稼動が行われ、そのボールねじ装置も高速で使用されるようになってきている。このため、ボールねじ装置の寿命に達するまでの期間が従来より短期間になってきており、さらなる長寿命化が要望されている。
【0005】
一方、例えば特許文献2に開示されているように、肌焼鋼から作られるボールねじ装置において、ねじ溝最表面の残留オーステナイト(γR)量を最適化することにより、ボールねじ装置の長寿命化が図られたものが知られている。このように、ねじ溝最表面のγR量を最適化しようとした場合、浸炭熱処理において浸炭ガスの炭素濃度を上げ、ワークの表面炭素濃度を上げることが必要となる。また、ボールねじ装置の場合、軸受と比較して研削取り代が大きいことから、浸炭時間を長くすることなく、より深く浸炭を進めるために、より浸炭ガスの炭素濃度を上げ、ワークの表面炭素濃度を上げるといったことが必要となる。
【0006】
しかしながら、高負荷用途のボールねじ装置にこのような浸炭熱処理を施してみると、その形状的特徴が起因となり、過浸炭になってしまうことが発明者らの調査により分かった。通常、過浸炭になった領域には、粗大な炭化物が生成され、これは、浸炭熱処理後の工程(例えば、焼き入れ工程)において、表面割れを生じる原因となりうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3714026号公報
【特許文献2】特開2004−76754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、ねじ軸の浸炭熱処理後のねじ外径部の表面割れを防止して、より長寿命な送りねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
(1)外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置に用いる前記ねじ軸であって、前記ねじ軸は浸炭熱処理後にねじ外径部を除去加工し、その後焼き入れを行ったことを特徴とする送りねじ装置用ねじ軸。
(2)前記ねじ軸のねじ溝及びねじ外径部において、最表面から50μm以下の領域で、炭化物の最大粒径が5μm以下であることを特徴とする(1)記載の送りねじ装置用ねじ軸。
(3)前記ねじ軸のねじ溝において、最表面の残留オーステナイト量が15〜30vol%であることを特徴とする(1)又は(2)いずれかに記載の送りねじ装置用ねじ軸。
(4)外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置であって、前記ねじ軸が(1)から(3)の何れかに記載の送りねじ装置用ねじ軸であることを特徴とする送りねじ装置。
(5)外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置に用いる前記ねじ軸の製造方法であって、前記ねじ軸の製造工程は浸炭熱処理工程とその後の焼き入れ工程の間にねじ外径部除去加工工程を有することを特徴とする送りねじ装置用ねじ軸の製造方法。
(6)外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置であって、前記ねじ軸が(5)に記載の送りねじ装置用ねじ軸の製造方法で製造されたことを特徴とする送りねじ装置。
(7)上記(4)又は上記(6)に記載の送りねじ装置を具備することを特徴とする射出成形機。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ねじ軸の浸炭熱処理後のねじ外径部の表面割れを防止して、より長寿命な送りねじ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る送りねじ装置の主な製造工程の実施例を従来例と並べて示した図である。
【図2】通常のボールねじ装置の形状を説明するための図である。
【図3】高負荷用途のボールねじ装置の形状を説明するための図である。
【図4】通常のボールねじの形状と高負荷用途のボールねじ形状を説明するための模式図である。
【図5】高負荷用途のボールねじ形状で過浸炭となることを説明するための模式図である。
【図6】高負荷用途のボールねじで防炭を行った場合を説明するための模式図である。
【図7】残留オーステナイト(γR)量の測定部位を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を用いて本願発明について、特に転動体にボールを用いたボールねじ装置を例示して詳細に説明する。
【0013】
図1は、本願発明に係る送りねじ装置の主な製造工程の実施例を従来例と並べて示した図である。通常、ボールねじ装置等送りねじ装置用のねじ軸は、素材から、外径旋削加工,軸端旋削加工そして、ねじ溝旋削加工といった粗加工工程を経て、熱処理工程にて硬化される。その後、外径研削加工,軸端研削加工そして、ねじ溝研削加工といった精密加工工程を経る。そして、ナットと組み合わされる組立工程にて完成される。このうち、素材が肌焼鋼からなるねじ軸の熱処理工程は、従来例としては、図1の左側に示すように浸炭工程からそのまま焼き入れ工程を経て、焼き戻し工程となるものが通常である。一方、本願発明に係る送りねじ装置用ねじ軸は、図1の右側に示すように浸炭熱処理後にねじ外径部を研削加工し、その後焼き入れを行ったことを特徴とする。このように本願発明の工程は、浸炭熱処理工程後、焼き入れ工程の前にねじ外径部除去加工工程を有している。
【0014】
焼き入れ工程は、通常、ワークを一定温度まで熱し、一定温度の油に浸漬して行われる。このとき材料の変態による体積変化もありワーク全体が変形する。このため、従来、焼き入れ工程前に研削加工が施されることはなかった。研削加工にて目的の寸法に加工しても、その後の焼き入れ工程でワークが変形するためである。
【0015】
また、浸炭熱処理工程は、従来例では、ねじ軸に残留オーステナイト(γR)が残らないような表面炭素濃度となるよう、炭素濃度が抑えられた雰囲気ガス中にて浸炭熱処理が行われている。これは、残留オーステナイト(γR)が残ると、経年変化が起こり、ねじ軸の伸縮の原因となるためである。このため、精度を要するねじ軸には、低温にて、残留オーステナイト(γR)のマルテンサイト変態を促進するサブゼロ処理が行われることもある。一方、本願発明における浸炭熱処理工程は、残留オーステナイト(γR)量の最適化を行うため、炭素濃度を上げた雰囲気ガス中にて浸炭熱処理を行っている。これにより、転動体軌道面の表面剥離が抑制され、より長寿命となることが期待できる。また、本願発明における送りねじ装置は、高負荷用途のものであり、ねじ軸の軸径は大きく、軸長は比較的短い。このため、要求される精度との関係もあり、経年変化によるねじ軸の伸縮は、許容範囲のものとなっている。
【0016】
図2は、通常のボールねじ装置の形状を説明するための図である。この図では、ナット3の内部が見えるように、ナット3については軸方向断面を示している。この図のように、通常、ボールねじ装置は、外周に螺旋状のねじ溝1aを有するねじ軸1と、内周に前記ねじ軸1のねじ溝1aと対向するように螺旋状のねじ溝3aを有するナット3とを有し、前記両ねじ溝1a,3a間に複数の転動体であるボール2を転動自在に配設している。前記複数のボール2は、両ねじ溝1a,3a間の一端で循環チューブ4によって掬い上げられ、該循環チューブ4の中を通り、両ねじ溝1a,3a間の他端に戻され、無限軌道を循環するようになっている。また、通常、ねじ軸1のねじ外径部A(軸方向に隣り合うねじ溝1a,1a間の円筒状の部分)は、軸方向にある程度の長さX1を有し、ねじ溝1aの軸方向長さと比べておおよそ同等以上の長さである。
【0017】
図3は、高負荷用途のボールねじ装置の形状を説明するための図である。特に電動射出成形機に用いられるボールねじ装置を例示している。符号は、図2に示した通常のボールねじ装置と同様のものについて共通の符号を付している。この高負荷用途のボールねじ装置と通常のボールねじ装置とで特に異なる点は、ねじ軸1のねじ外径部の長さにある。前述のように、通常のボールねじ装置におけるねじ外径部Aが、軸方向にある程度の長さX1を有し、ねじ溝1aの軸方向長さと比べておおよそ同等以上の長さであるのに対し、高負荷用途のボールねじ装置のねじ外径部Bは、軸方向長さX2が極端に短く、ねじ溝1aの軸方向長さと比べておおよそ同等以下の長さである。
【0018】
図4は、通常のボールねじの形状と高負荷用途のボールねじ形状を説明するための模式図である。ここで、高負荷用途のボールねじ形状(a)と通常のボールねじ形状(b)は、同じリードで比較している。高負荷用途の場合、負荷に耐えられるよう転動体であるボールの径をできるだけ大きくした結果、ねじ外径部Bは軸方向に極端に短くなっている。
【0019】
図5は、高負荷用途のボールねじ形状で過浸炭となることを説明するための模式図である。ここで、高負荷用途のボールねじ形状(a)と通常のボールねじ形状(b)は、同じリードで比較している。前述のように本願発明では、ねじ軸が肌焼鋼(浸炭鋼)で作られ、ねじ溝最表面の残留オーステナイト(γR)量を最適化することにより、ボールねじ装置の長寿命化を図ることも目的としている。しかしながら、ねじ溝最表面のγR量を最適化しようとした場合、浸炭ガスの炭素濃度を上げ、ワークの表面炭素濃度を上げることが必要となる。また、軸受と比較して研削取り代が大きいことも相まって、より深く浸炭を進めるため、浸炭時間を長くする、あるいは、さらに浸炭ガス炭素濃度を上げるといったことが必要となる。
【0020】
このような浸炭熱処理をすることは、高負荷用途のボールねじの場合、前述のようにリードに対して、ボール径が大きいためにねじ外径部が軸方向に短くなっており、図5右上の図のように、隣り合うねじ溝両方から炭素の侵入・拡散が起こり、炭素濃度が過剰となり、ねじ外径部での過浸炭が問題となることが発明者らの調査により分かった。高負荷仕様ねじ溝では、例えば、図5右上図において、左側溝から侵入した炭素原子が右側溝まで拡散する。また、右側溝から侵入した炭素原子が左側溝まで拡散する。その結果、このような高負荷仕様ねじ溝では、ねじ外径部全体が、炭素濃度が過剰となり過浸炭となってしまう。一方、通常仕様ねじ溝では、例えば、図5右下図において、左側溝から侵入した炭素原子が右側溝までは拡散しないため、ねじ溝外径部全体が過浸炭になることはない。
【0021】
通常、過浸炭となった領域には粗大な炭化物(セメンタイト)が生成され、これを焼き入れした場合、焼き割れの原因となりうる。また、焼き割れを生じなかった場合でも、熱処理後の各工程において表面割れを生じうる(例えば、研削割れ)。また、ボールねじ装置として高速運転時に、ねじ外径部近傍へのボールの衝突により、ねじ外径部に剥離(=ランド剥離)が生じうる。このように粗大炭化物があると、浸炭熱処理後に起こる様々な問題の原因になることが懸念される。
【0022】
図6は、高負荷用途のボールねじで防炭を行った場合を説明するための模式図である。(a)がねじ外径面に防炭剤を塗布して浸炭熱処理を行っている様子を示しており、(b)が熱処理後研削加工を行って、製品となったねじ部を示している。過浸炭が原因による問題の解決手段として、浸炭熱処理前に予めねじ外径部を防炭処理することが考えられる。防炭処理には、ねじ溝旋削加工前に銅メッキを施したり、熱処理前に防炭剤を塗布する等があげられる。しかしながら、ねじ外径部を防炭することは、素地硬さのままであるねじ外径部とねじ溝とのつなぎ目が耐摩耗性の面で劣るという問題がある。
【0023】
また、研削割れに対しては、研削時に、単位時間当たりの砥石の送り量(削り量)を極小として研削することが考えられるが、研削時間が長くかかりすぎ製造コスト増となってしまう。
【0024】
これに対し、本願で提案する送りねじ装置のねじ軸は、ねじ外径部の過浸炭問題に対し、浸炭熱処理後に過浸炭部の除去加工を行い、その後に焼き入れを行うため、焼き割れあるいは研削割れ等を生じにくい。また、完成品のねじ溝及びねじ外径部の最表面から50μm以下の領域において、炭化物の最大粒径が5μm以下であるため、ねじ外径部に関し焼き割れや研削割れが生じにくく、ねじ溝に関し長寿命である。また、ねじ軸の最表面には最適な(15〜30vol%の)残留オーステナイト(γR)が付与されており長寿命である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例を挙げて更に説明するが、本願発明はこれにより何ら制限されるものではない。送りねじ装置としてのボールねじ装置の型式は、日本精工(株)の形式:NSK HTF−SRC 6316−10.5(JIS B 1192 呼び63*16*300−Ct7)を用いた。表1にこのボールねじの諸元を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
また、表2に各実施例、比較例の製造方法を示す。
【0028】
【表2】

【0029】
これらについて、表3に示す条件にて耐久試験を行った。
【0030】
【表3】

【0031】
また、図7に示すねじ溝の完成最表面の位置にて、X線回折法にて残留オーステナイト(γR)量の測定を行った。
【0032】
また、ねじ溝及びねじ外径部の最大炭化物粒径は、試験後の供試材を切断し断面を画像解析することにより求めた。これは、それぞれの測定部の最表面から50μm以下の領域で、ミクロ組織を走査型電子顕微鏡にて観察、写真撮影を行い、画像解析法にて最大径を求めた。
【0033】
これらの結果を表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
実施例1から7は、いずれも製造方法条件Iで製造したものである。すなわち、浸炭温度を従来よりも上げ、浸炭熱処理時の雰囲気を濃くすることにより、残留オーステナイト(γR)量を確保する熱処理であり、浸炭熱処理後にねじ外径部の過浸炭領域を除去加工し、その後焼き入れ、焼き戻しを行ったものである。γR量は15vol%以上30vol%以下であり長寿命である。また、浸炭熱処理後にねじ外径部に生じた過浸炭領域を焼き入れ前に除去加工しているために、炭化物粒径も5μm以下であり、損傷が生じていない。
【0036】
比較例1〜3は、従来から一般的なボールねじ装置の製造方法である条件IIにて製造したものである。すなわち、従来一般的な熱処理であり、当然、炭素濃度を上げない浸炭熱処理であるため、ねじ外径部への粗大な炭化物の析出は認められなかった。
【0037】
比較例4〜8は、浸炭温度を従来よりも上げ、浸炭熱処理時の雰囲気を濃くすることにより、残留オーステナイト(γR)量を確保する熱処理を行った上、通常に研削したものである(条件III)。ねじ外径部が過浸炭となり比較例6,8では焼き割れが生じた。比較例7では研削時に割れが生じており、その炭化物最大粒径は5.9μmと粗大であった。また、比較例4では焼き割れ、研削割れともに生じなかったが、耐久試験中にランド剥離が生じ、ねじ外径部の炭化物最大粒径は5.7μmと粗大であった。比較例5では焼き割れ、研削割れともに生じなかったが、ねじ溝のγRが30%を超えており、硬度不足により耐久試験にてねじ溝に剥離が生じた。
【0038】
比較例9〜11は、浸炭温度を従来よりも上げ、浸炭熱処理時の雰囲気を濃くすることにより、残留オーステナイト(γR)量を確保する熱処理を行い、通常よりも遅い砥石送り速度で研削したものである(条件IV)。比較例9,11の寿命は、従来品と比較して長寿命であるが、研削時間が従来品の2倍以上かかっており、高コストであった。比較例10では、耐久試験中にランド剥離が生じ、ねじ外径部の炭化物最大粒径は5.5μmと粗大であった。
【0039】
上記実施の形態においては、転動体にボールを用いたボールねじ装置を例示し説明したが、本発明はこれに限らず、転動体にローラを用いたローラねじ装置についても適用できる。
【0040】
上記のように、外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置に用いる前記ねじ軸であって、前記ねじ軸は浸炭熱処理後にねじ外径部を除去加工し、その後焼き入れを行ったことで、浸炭熱処理後の表面割れを防止した送りねじ装置用ねじ軸を得ることができる。これは、送りねじ装置用ねじ軸の熱処理工程内において、一旦、加工工程を経るという、ある意味手間がかかりコストアップに見える工程設定であるが、全体の工程バランスを考えた上で、浸炭熱処理の品質において、ある程度の過浸炭を許容し、熱処理工程内にねじ外径部除去加工工程を入れるという選択肢が提案されたものである。これにより、研削時間の短縮化など工程全体において効率的に表面割れによる不良品削減、ランド剥離防止による長寿命化という品質向上が期待できる。これは、上記実施の形態に示した高濃度浸炭の例、高負荷用途の例に限らず適用可能である。
【0041】
また、前記ねじ軸のねじ溝及びねじ外径部において、最表面から50μm以下の領域で、炭化物の最大粒径が5μm以下であるので、送りねじ装置用ねじ軸の浸炭熱処理後の表面割れを防止できる。
【0042】
また、前記ねじ軸のねじ溝において、最表面の残留オーステナイト量が15〜30vol%であるので、浸炭熱処理後の表面割れを防止しつつ長寿命の送りねじ装置用ねじ軸を得ることができる。
【0043】
また、外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置であって、前記ねじ軸が上記の送りねじ装置用ねじ軸であるので、長寿命の送りねじ装置を得ることができる。
【0044】
また、外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置に用いる前記ねじ軸の製造方法であって、前記ねじ軸の製造工程は浸炭熱処理工程とその後の焼き入れ工程の間にねじ外径部除去加工工程を有するので、浸炭熱処理後の表面割れを防止した送りねじ装置用ねじ軸を得ることができる。
【0045】
また、外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置であって、前記ねじ軸が上記の送りねじ装置用ねじ軸の製造方法で製造されているので、長寿命の送りねじ装置を得ることができる。
【0046】
また、上記の送りねじ装置を射出主軸送り機構や型締め機構として具備することにより、長寿命の射出成形機を得ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1…ねじ軸
1a…ねじ溝
2…ボール(転動体)
3…ナット
3a…ねじ溝
4…循環チューブ
A,B…ねじ外径部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置に用いる前記ねじ軸であって、前記ねじ軸は浸炭熱処理後にねじ外径部を除去加工し、その後焼き入れを行ったことを特徴とする送りねじ装置用ねじ軸。
【請求項2】
前記ねじ軸のねじ溝及びねじ外径部において、最表面から50μm以下の領域で、炭化物の最大粒径が5μm以下であることを特徴とする請求項1記載の送りねじ装置用ねじ軸。
【請求項3】
前記ねじ軸のねじ溝において、最表面の残留オーステナイト量が15〜30vol%であることを特徴とする請求項1又は請求項2いずれかに記載の送りねじ装置用ねじ軸。
【請求項4】
外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置であって、前記ねじ軸が請求項1から請求項3の何れかに記載の送りねじ装置用ねじ軸であることを特徴とする送りねじ装置。
【請求項5】
外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置に用いる前記ねじ軸の製造方法であって、前記ねじ軸の製造工程は浸炭熱処理工程とその後の焼き入れ工程の間にねじ外径部除去加工工程を有することを特徴とする送りねじ装置用ねじ軸の製造方法。
【請求項6】
外周に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、内周に前記ねじ軸のねじ溝と対向するように螺旋状のねじ溝を有するナットとを有し、前記両ねじ溝間に複数の転動体を転動自在に配設した送りねじ装置であって、前記ねじ軸が請求項5に記載の送りねじ装置用ねじ軸の製造方法で製造されたことを特徴とする送りねじ装置。
【請求項7】
請求項4又は請求項6に記載の送りねじ装置を具備することを特徴とする射出成形機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−77777(P2012−77777A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220852(P2010−220852)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】