送信装置、受信装置、及び送受信装置
【課題】スイッチや増幅器を用いることなく送受信性能を向上させる
【解決手段】アンテナ部11が、一列に配列された複数のアンテナ素子11aで構成され、送信部12と分配器13とが、高周波信号の振幅が大きいパルスオン状態と、高周波信号の振幅が小さいパルスオフ状態とで交互に変化する信号である高周波パルス信号を、複数のアンテナ素子11aのそれぞれに供給する。また送信側調整部14が、複数のアンテナ素子11aのそれぞれに供給される高周波パルス信号の位相を個別に調整する。そして、高周波パルス信号がパルスオン状態であるときに、予め設定された送信方向θkに向けてアンテナ部11が高周波パルス信号を送信するように送信側調整部14を制御する。さらに、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、高周波パルス信号がパルスオン状態のときと高周波パルス信号の位相が異なるように送信側調整部14を制御する。
【解決手段】アンテナ部11が、一列に配列された複数のアンテナ素子11aで構成され、送信部12と分配器13とが、高周波信号の振幅が大きいパルスオン状態と、高周波信号の振幅が小さいパルスオフ状態とで交互に変化する信号である高周波パルス信号を、複数のアンテナ素子11aのそれぞれに供給する。また送信側調整部14が、複数のアンテナ素子11aのそれぞれに供給される高周波パルス信号の位相を個別に調整する。そして、高周波パルス信号がパルスオン状態であるときに、予め設定された送信方向θkに向けてアンテナ部11が高周波パルス信号を送信するように送信側調整部14を制御する。さらに、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、高周波パルス信号がパルスオン状態のときと高周波パルス信号の位相が異なるように送信側調整部14を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナ素子で構成されたアンテナ列を備える送信装置、受信装置、及び送受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のアンテナ素子で構成されたアンテナ列を介してRFパルス信号を送受信することにより、RFパルス信号を反射した物体を検出するレーダ装置が知られている。
【0003】
このRFパルス信号は、図12に示すように、RF(Radio Frequency)信号が、パルスオン状態(図中のパルスオン部分Ponを参照)とパルスオフ状態(図中のパルスオフ部分Poffを参照)とで交互に繰り返す信号であり、高周波信号とパルス信号とを混合することにより生成される。このため、オフ状態において高周波成分を完全に除去することができず、パルスオフ部分Poffにリーク電流が発生する。
【0004】
このリーク電流を低減するために、パルスオン部分Ponを通過させるとともにパルスオフ部分Poffを遮断するためのスイッチを設けたり、パルスオン部分Ponの振幅を増大させる増幅器を設けたりする手法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/059367号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、RFパルス信号のリーク電流を低減して送受信性能を向上させるために高価なスイッチや増幅器を必要とするという問題があった。
【0007】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、スイッチや増幅器を用いることなく送受信性能を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の送信装置では、第1アンテナ列が、予め設定された第1配列方向に沿って配列された複数の第1アンテナ素子で構成され、パルス信号供給手段が、予め設定された送信周波数を有する高周波信号が、高周波信号の振幅が大きいパルスオン状態と、高周波信号の振幅が小さいパルスオフ状態とで交互に変化する信号である高周波パルス信号を、複数の第1アンテナ素子のそれぞれに供給する。また送信側位相調整手段が、複数の第1アンテナ素子のそれぞれに供給される高周波パルス信号の位相を個別に調整する。
【0009】
そして送信方向制御手段が、高周波パルス信号がパルスオン状態であるときに、予め設定されたパルス送信方向に向けて第1アンテナ列が高周波パルス信号を送信するように、送信側位相調整手段を制御する。
【0010】
これにより、送信方向制御手段によって、高周波パルス信号の送信電力がパルス送信方向で最大となる位相分布に調整される。このため、パルスオン状態の高周波パルス信号が、予め設定されたパルス送信方向に向けて送信される。
【0011】
さらに送信側位相変更手段が、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、高周波パルス信号がパルスオン状態のときと高周波パルス信号の位相が異なるように、送信側位相調整手段を制御する。
【0012】
すなわち、送信側位相変更手段によって、高周波パルス信号の送信電力がパルス送信方向で最大とはならない位相分布に調整される。したがって、送信側位相変更手段で調整された位相分布において、パルスオフ状態の高周波パルス信号が第1アンテナ素子からパルス送信方向に向けて送信される場合に、その送信電力は、送信方向制御手段で調整された位相分布で送信された場合よりも小さくなる。
【0013】
つまり、パルス送信方向に向けて送信されるパルスオフ状態の高周波パルス信号にリーク電流が含まれている場合に、このリーク電流を低減することができる。
【0014】
このように構成された送信装置によれば、パルス送信方向を設定するために元々備えられている送信側位相調整手段を用いて、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれているリーク電流を低減することができるため、スイッチや増幅器などの機器を追加することなく送信性能を向上させることができる。
【0015】
なお、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれているリーク電流を最大限に低減させるには、第1アンテナ素子から送信される高周波パルス信号の指向性パターンが、パルス送信方向でヌル(零点)となるように、送信側位相調整手段に位相分布を調整させるとよい。
【0016】
そして、送信電力が最小となる位相分布は、第1アンテナ素子の数のみに依存し、計算により明確に求めることができる。すなわち、第1アンテナ列がN(Nは2以上の整数)個の第1アンテナ素子で構成されており、第1アンテナ列の第1配列方向に垂直な方向で送信電力が最小となる場合には、互いに隣接する2つの第1アンテナ素子間における、高周波パルス信号の位相差が2π/Nとなるように、送信側位相調整手段を制御するようにするとよい。
【0017】
また請求項2に記載の送受信装置は、請求項1に記載の送信装置を備え、第1アンテナ列は送受信兼用であり、第1アンテナ列に供給される高周波パルス信号と第1アンテナ列から供給される第1受信信号とを分離するためのサーキュレータと、サーキュレータから供給される第1受信信号を受信する第1受信手段とを備える。
【0018】
このように構成された送受信装置では、パルスオン状態の高周波パルス信号を第1アンテナ素子から送信していないとき、すなわち、パルスオフ状態の高周波パルス信号を第1アンテナ素子から送信しているときに、第1受信手段が、第1アンテナ列から供給される第1受信信号を受信する。この場合には、第1アンテナ列から送信されたパルスオフ状態の高周波パルス信号と、第1アンテナ列から供給される第1受信信号とがサーキュレータで干渉するおそれがある。すなわち、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれるリーク電流と第1受信信号とが干渉することにより、受信装置の受信性能が低下するおそれがある。
【0019】
しかし、請求項2に記載の送受信装置では、請求項1に記載の送信装置を備えているので、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれているリーク電流を低減することができる。このため、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれるリーク電流と第1受信信号との干渉を抑制し、受信性能を向上させることができる。
【0020】
また請求項3に記載の送受信装置は、請求項1に記載の送信装置を備え、さらに第2アンテナ列が、予め設定された第2配列方向に沿って配列された複数の第2アンテナ素子で構成され、第2受信手段が、第2アンテナ列から供給される第2受信信号を受信する。また受信側位相調整手段が、複数の第2アンテナ素子のそれぞれから供給される第2受信信号の位相を個別に調整する。
【0021】
そして受信方向制御手段が、パルスオン状態にある高周波パルス信号であるパルスオン信号を送信装置が第1アンテナ列を介して一回送信してから、次のパルスオン信号を送信するまでの信号送信間隔内において、送信装置がパルスオン信号を送信してから予め設定された調整開始時間が経過した後に、パルスオン信号のパルス幅と略同じ時間間隔だけ、送信方向制御手段が調整したパルス送信方向で受信感度が最大となるように、受信側位相調整手段に第2受信信号の位相を調整させる。また時間走査手段が、信号送信間隔の範囲内で、調整開始時間を走査する。
【0022】
さらに受信側位相変更手段が、受信方向制御手段が第2受信信号の位相を調整しているとき以外には、第2受信信号の位相が、受信方向制御手段が調整した位相と異なるように、受信側位相調整手段を制御する。
【0023】
これにより、パルスオン信号を送信装置がパルス送信方向に向けて送信してから、調整開始時間が経過した後に、パルスオン時間間隔と略同じ時間間隔だけ、パルス送信方向に対する受信感度を向上させ、それ以外では、パルス送信方向に対する受信感度を低下させる周知の受信レンジゲートを形成するとともに、この受信レンジゲートを、信号送信間隔の範囲内で走査することができる。このため、信号送信間隔の範囲内の全ての時間で受信を行う場合と比較して、耐ノイズ性能を向上させることができる。
【0024】
さらに、このように構成された送受信装置によれば、受信方向を設定するために元々備えられている受信側位相調整手段を用いて受信レンジゲートを形成することができるため、スイッチなどの機器を追加することなく受信性能を向上させることができる。
【0025】
また請求項4に記載の受信装置は、予め設定された送信周波数を有する高周波信号が、高周波信号の振幅が大きいパルスオン状態と、高周波信号の振幅が小さいパルスオフ状態とで交互に変化する信号である高周波パルス信号を送信する送信装置とともに用いられ、送信装置が送信した高周波パルス信号を受信する受信装置であって、第2アンテナ列が、予め設定された第2配列方向に沿って配列された複数の第2アンテナ素子で構成され、第2受信手段が、第2アンテナ列から供給される第2受信信号を受信する。また受信側位相調整手段が、複数の第2アンテナ素子のそれぞれから供給される第2受信信号の位相を個別に調整する。
【0026】
そして受信方向制御手段が、パルスオン状態にある高周波パルス信号であるパルスオン信号を送信装置が一回送信してから、次のパルスオン信号を送信するまでの信号送信間隔内において、送信装置がパルスオン信号を送信してから予め設定された調整開始時間が経過した後に、パルスオン信号のパルス幅と略同じ時間間隔だけ、送信方向制御手段が調整したパルス送信方向で受信感度が最大となるように、受信側位相調整手段に第2受信信号の位相を調整させる。また時間走査手段が、信号送信間隔の範囲内で、調整開始時間を走査する。
【0027】
さらに受信側位相変更手段が、受信方向制御手段が第2受信信号の位相を調整しているとき以外には、第2受信信号の位相が、受信方向制御手段が調整した位相と異なるように、受信側位相調整手段を制御する。
【0028】
これにより、パルスオン信号を送信装置が予め設定されたパルス送信方向に向けて送信してから、調整開始時間が経過した後に、パルスオン時間間隔と略同じ時間間隔だけ、パルス送信方向に対する受信感度を向上させ、それ以外では、パルス送信方向に対する受信感度を低下させる周知の受信レンジゲートを形成するとともに、この受信レンジゲートを、信号送信間隔の範囲内で走査することができる。このため、信号送信間隔の範囲内の全ての時間で受信を行う場合と比較して、耐ノイズ性能を向上させることができる。
【0029】
さらに、このように構成された送受信装置によれば、受信方向を設定するために元々備えられている受信側位相調整手段を用いて受信レンジゲートを形成することができるため、スイッチなどの機器を追加することなく受信性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態の送信装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態のビーム送信処理を示すフローチャートである。
【図3】高周波パルス信号とその指向性パターンを示す図である。
【図4】パルスオン状態からパルスオフ状態に変化する近傍の高周波パルス信号の波形を示す図である。
【図5】5個のアンテナ素子11aに供給された高周波パルス信号を合成した波形を示す図である。
【図6】パルスオフ状態で位相を変化させない場合と位相を変化させた場合とにおける高周波パルス信号を示す図である。
【図7】送受信装置2の構成を示すブロック図である。
【図8】サーキュレータ22aの動作を説明する図である。
【図9】送受信装置3の構成を示すブロック図である。
【図10】信号送受信処理を示すフローチャートである。
【図11】パルスオン信号POと受信レンジゲートRGの動作を示すタイムチャートである。
【図12】RFパルス信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1実施形態)
以下に本発明の第1実施形態を図面とともに説明する。
【0032】
図1は、第1実施形態の送信装置1の構成を示すブロック図である。
【0033】
送信装置1は、図1に示すように、複数のアンテナ素子11aを一列に配置したアレーアンテナからなるアンテナ部11と、各アンテナ素子11aに供給する送信信号(以下、個別送信信号という)の生成に用いる高周波信号(例えばRF信号。以下、送信信号ともいう)を発生させる送信部12と、送信部12にて生成された送信信号を、アンテナ部11を構成するアンテナ素子11aと同数に分配して個別送信信号を生成する分配器13と、分配器13にて分配された個別送信信号の位相をそれぞれ個別に調整する複数の移相器14aからなる送信側調整部14と、当該送信装置1の各部を制御するための各種指令を出力する信号処理部15とを備えている。
【0034】
つまり送信装置1は、送信側ビーム調整指令によって個別送信信号の位相を個別に調整することにより、送信ビームの指向性パターンを制御できるように構成されている。
【0035】
また信号処理部15は、CPU,ROM,RAM,AD変換器等を備えた周知のマイクロコンピュータからなる。そして信号処理部15は、高周波信号の送信を制御するための信号送信処理を実行する。
【0036】
ここで、送信装置1の信号処理部15が実行する信号送信処理の手順を、図2を用いて説明する。図2は信号送信処理を示すフローチャートである。この信号送信処理は、信号処理部15のCPUが起動(電源オン)している間に繰り返し実行される処理である。
【0037】
この信号送信処理が実行されると、信号処理部15のCPUは、まずS10にて、送信方向指示値Kbを送信方向初期値θini(例えば、−10°)に設定する。そしてS20にて、送信方向指示値Kbが示す送信方向θkに向けてアンテナ部11がビームを送信するために予め設定された位相分布を示す位相差調整指令(以下、送信オン位相差調整指令ともいう)と、送信方向指示値Kbが示す送信方向θkにおいて、アンテナ部11が送信する送信ビームの強度を最小にするために予め設定された位相分布を示す位相差調整指令(以下、送信オフ位相差調整指令ともいう)を送信側調整部14に出力する。これにより送信側調整部14は、まず、予め設定された送信オン時間TSon(本実施形態では例えば10ナノ秒)継続して、各アンテナ素子11aに供給される個別送信信号が、送信オン位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別送信信号の位相を調整する。そして送信オン時間が経過すると、各アンテナ素子11aに供給される個別送信信号が、送信オフ位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別送信信号の位相を調整する。
【0038】
なお、送信オン位相差調整指令が示す位相分布は、隣り合うアンテナ素子11a間の位相差Φkが式(1)で表される値となる分布である。
【0039】
Φk = (π・d・sinθk)/λ ・・・(1)
ここで、「d」は隣り合うアンテナ素子11a間の距離、「λ」は個別送信信号の波長である。
【0040】
また、送信オフ位相差調整指令が示す位相分布は、隣り合うアンテナ素子11a間の位相差Φkが式(2)で表される値となる分布である。
【0041】
Φk = 2π/N ・・・(2)
ここで「N」は、アンテナ部11が有するアンテナ素子11aの数である。
【0042】
そしてS30にて、高周波パルス信号をパルスオン状態にするためのパルスオン指令を送信部12に出力する。これにより送信部12は、予め設定された送信オン時間(本実施形態では例えば10ナノ秒)継続して高周波パルス信号をパルスオン状態にした後に、高周波パルス信号をパルスオフ状態にする。
【0043】
さらにS40にて、信号処理部15のRAMに設けられた送信継続時間判定タイマTM1のインクリメントを開始し、S50に移行する。
【0044】
なお送信継続時間判定タイマTM1は、例えば100ナノ秒ごとにインクリメントするタイマであり、インクリメントが開始されると、その値が0からインクリメントする。また送信継続時間判定タイマTM1は、ある時点でインクリメントが中止されると、その時点でその値が0となるように設定されている。
【0045】
そしてS50に移行すると、送信継続時間判定タイマTM1の値(送信継続時間判定タイマ値)が予め設定されたパルス時間判定値JT1(本実施形態では例えば500ナノ秒に相当する値)以上であるか否かを判断する。ここで、送信継続時間判定タイマ値がパルス時間判定値JT1未満である場合には(S50:NO)、S50の処理を繰り返す。一方、送信継続時間判定タイマ値がパルス時間判定値JT1以上である場合には(S50:YES)、S60にて、送信継続時間判定タイマTM1のインクリメントを中止させ、S70に移行する。これにより、送信継続時間判定タイマTM1がインクリメントを中止するとともに、その値が0になる。
【0046】
そしてS70に移行すると、送信方向指示値Kbが予め設定された送信方向上限値JKm(例えば、+10°)以上であるか否かを判断する。ここで、送信方向指示値Kbが送信方向上限値JKm未満である場合には(S70:NO)、S80にて、送信方向指示値Kbに予め設定された送信方向更新値(例えば、10°)を加算した値を新たな送信方向指示値Kbとして更新して、S20に移行し上述の処理を繰り返す。一方、送信方向指示値Kbが送信方向上限値JKm以上である場合には(S80:YES)、信号送信処理を一旦終了する。
【0047】
このように構成された送信装置1では、図3(a)に示すように、パルス幅が送信オン時間TSon(10ナノ秒)に相当する時間となる高周波パルス信号のパルスオン状態部分PN1,PN2,PN3を、パルス時間判定値JT1に相当する時間が経過する毎に順次、アンテナ部11を介して送信する。なお図3(b)に示すように、高周波パルス信号のパルスオン状態部分PN1(PN2,PN3)の指向性パターンDP1(DP2,DP3)では、送信方向θkが−10°(0°,+10°)のときに送信電力が最大である。すなわち、高周波パルス信号のパルスオン状態部分PN1(PN2,PN3)の送信方向θkは−10°(0°,+10°)となる。
【0048】
次に、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときの位相調整により、パルスオフ状態の高周波パルス信号の振幅を低減することができることを図4及び図5とともに説明する。
【0049】
図4は、アンテナ部11を構成する5個のアンテナ素子11aについて、高周波パルス信号がパルスオン状態からパルスオフ状態に変化する近傍の高周波パルス信号の波形を示す図である。また図5は、5個のアンテナ素子11aに供給された高周波パルス信号を合成した波形を示す図である。なお、図4の説明において、5個のアンテナ素子11aをそれぞれアンテナ素子AN1,AN2,AN3,AN4,AN5ともいう。
【0050】
図4では、高周波パルス信号がパルスオン状態であるときに、アンテナ素子AN1,AN2,AN3,AN4,AN5に供給される高周波パルス信号が全て同じ位相となるように調整されている。
【0051】
その後に高周波パルス信号がパルスオフ状態になり、各アンテナ素子AN1〜AN5に供給される高周波パルス信号が全て同じ位相である場合には(図4の波形W1を参照)、図5に示すように、各アンテナ素子AN1〜AN5に供給される高周波パルス信号を合成した波形の振幅は、高周波パルス信号がパルスオン状態である場合と同じである(図5の波形W11を参照)。
【0052】
また図4に示すように、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、隣り合うアンテナ素子間の位相差が45°となるように位相を調整すると(図4の波形W2を参照)、図5に示すように、各アンテナ素子AN1〜AN5に供給される高周波パルス信号を合成した波形の振幅は、高周波パルス信号がパルスオン状態である場合と比較して、2分の1になる(図5の波形W12を参照)。
【0053】
また図4に示すように、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、隣り合うアンテナ素子間の位相差が90°となるように位相を調整すると(図4の波形W3を参照)、図5に示すように、各アンテナ素子AN1〜AN5に供給される高周波パルス信号を合成した波形の振幅は、高周波パルス信号がパルスオン状態である場合と比較して、5分の1になる(図5の波形W13を参照)。
【0054】
図6は、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、位相を変化させない場合と位相を変化させた場合とにおける、パルスオフ状態におけるリーク電流の大きさを示す図である。高周波パルス信号PS11は、パルスオフ状態で位相を変化させない場合の高周波パルス信号であり、高周波パルス信号PS12は、パルスオフ状態で位相を変化させた場合の高周波パルス信号である。
【0055】
図6に示すように、高周波パルス信号のパルスオフ状態におけるノイズレベルは、位相を変化させることにより大幅に低減される。
【0056】
このように構成された送信装置1では、アンテナ部11が、一列に配列された複数のアンテナ素子11aで構成され、送信部12と分配器13とが、高周波信号の振幅が大きいパルスオン状態と、高周波信号の振幅が小さいパルスオフ状態とで交互に変化する信号である高周波パルス信号を、複数のアンテナ素子11aのそれぞれに供給する(S30)。また送信側調整部14が、複数のアンテナ素子11aのそれぞれに供給される高周波パルス信号の位相を個別に調整する。
【0057】
そして、高周波パルス信号がパルスオン状態であるときに、予め設定された送信方向θkに向けてアンテナ部11が高周波パルス信号を送信するように送信側調整部14を制御する(S20)。
【0058】
これにより、高周波パルス信号の送信電力が送信方向θkで最大となる位相分布に調整される。このため、パルスオン状態の高周波パルス信号が、送信方向θkに向けて送信される。
【0059】
さらに、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、高周波パルス信号がパルスオン状態のときと高周波パルス信号の位相が異なるように送信側調整部14を制御する(S20)。
【0060】
すなわち、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、高周波パルス信号の送信電力が送信方向θkで最大とはならない位相分布に調整される。したがって、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに調整された位相分布において、パルスオフ状態の高周波パルス信号がアンテナ素子11aから送信方向θkに向けて送信される場合に、その送信電力は、高周波パルス信号がパルスオン状態であるときに調整された位相分布で送信された場合よりも小さくなる。
【0061】
つまり、送信方向θkに向けて送信されるパルスオフ状態の高周波パルス信号にリーク電流が含まれている場合に、このリーク電流を低減することができる。
【0062】
このように構成された送信装置1によれば、送信方向θkを設定するために元々備えられている送信側調整部14を用いて、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれているリーク電流を低減することができるため、スイッチや増幅器などの機器を追加することなく送信性能を向上させることができる。
【0063】
なお、高周波パルス信号に含まれているリーク電流には、各アンテナ素子11aで関連のある位相を持った成分Nc(本実施形態ではキャリアリーク)と、ランダムな雑音Nrとから構成されている。送信装置1は、上記の成分Ncの低減に有効である。すなわち、成分Ncが雑音Nrより大きい場合に、送信装置1による送信性能の向上が期待できる。
【0064】
以上説明した実施形態において、アンテナ素子11aは本発明における第1アンテナ素子、アンテナ部11は本発明における第1アンテナ列、送信部12と分配器13とS30の処理は本発明におけるパルス信号供給手段、送信側調整部14は本発明における送信側位相調整手段、S20の処理は本発明における送信方向制御手段、S20の処理は本発明における送信側位相変更手段である。
【0065】
(第2実施形態)
以下に本発明の第2実施形態を図面とともに説明する。
【0066】
図7は、第2実施形態の送受信装置2の構成を示すブロック図である。
【0067】
送受信装置2は、図7に示すように、複数のアンテナ素子21aを一列に配置したアレーアンテナからなるアンテナ部21と、アンテナ部21を構成するアンテナ素子21a毎に設けられたサーキュレータ22aからなり、各アンテナ素子21aに供給する送信信号(以下、個別送信信号という)と各アンテナ素子21aから供給される受信信号(以下、個別受信信号という)とを分離する信号分離部22と、個別送信信号の生成に用いる高周波信号(例えばRF信号。以下、送信信号ともいう)を発生させる送信部23と、送信部23にて生成された送信信号を、アンテナ部21を構成するアンテナ素子21aと同数に分配して個別送信信号を生成する分配器24と、分配器24にて分配された個別送信信号の位相をそれぞれ個別に調整する複数の移相器25aからなる送信側調整部25と、信号分離部22から供給される個別受信信号の位相をそれぞれ個別に調整する複数の移相器26aからなる受信側調整部26と、受信側調整部26にて調整された個別受信信号を合成する合成器27と、合成器27にて合成された受信信号に対して周波数変換、フィルタリング、及び増幅等を施す受信部28と、当該送受信装置2の各部を制御するための各種指令を出力するとともに、受信部28からの出力に基づく各種処理を実行する信号処理部29とを備えている。
【0068】
つまり送受信装置2は、個別送信信号および個別受信信号の位相を個別に調整することにより、送信ビームの指向性パターンと受信ビームの指向性パターンを独立に制御できるように構成されている。
【0069】
これらのうち、信号分離部22を構成するサーキュレータ22aは、マイクロストリップラインにより形成されており、図8に示すように、円形のパターンの金属薄膜PTに3個の入出力端子TN1,TN2,TN3が接続されている。金属薄膜PTの直下に設置された基板はフェライトで構成されており、この基板に直流磁場を印加するために、金属薄膜PTの上に円筒状の永久磁石(パーマロイ)が付着されている。
【0070】
磁場が存在しない場合において、図8(a)に示すように、円形共振器内部での励振モードがTEモードであるときに電磁波が入出力端子TN1に入力されると、入出力端子TN2および入出力端子TN3に対して同じ出力が得られる。
【0071】
一方、磁場Hdcが印加された場合には、基板のフェライトの電子のスピンと磁場Hdcとの相互作用により、励振電磁波モードがずれる。そこで、磁場Hdcの強さを最適化することによって、図8(b)に示すように、モードの回転を30゜にすると、入出力端子TN1からの入力に対して入出力端子TN2の出力が得られる一方、入出力端子TN3の出力が得られない状態となる。すなわち、入出力端子TN1に入力された電磁波は、入出力端子TN2のみから出力される。
【0072】
また信号処理部29は、CPU,ROM,RAM,AD変換器等を備えた周知のマイクロコンピュータからなる。そして信号処理部29は、高周波信号の送信方向を制御するための信号送信処理を実行する。
【0073】
なお、第2実施形態の信号送信処理は、第1実施形態と同じである。このため、第2実施形態の信号送信処理の説明を省略する。
【0074】
このように構成された送受信装置2では、パルスオン状態の高周波パルス信号をアンテナ素子21aから送信していないとき、すなわち、パルスオフ状態の高周波パルス信号をアンテナ素子21aから送信しているときに、受信部28が、アンテナ素子21aから供給される受信信号を受信する。この場合には、アンテナ素子21aから送信されたパルスオフ状態の高周波パルス信号が信号分離部22の受信側にリークして、アンテナ素子21aから供給される受信信号と信号分離部22で干渉するおそれがある。すなわち、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれるリーク電流と受信信号とが干渉することにより、受信部28の受信性能が低下するおそれがある。
【0075】
とくに、高周波パルス信号に含まれるリーク電流の位相と、受信信号の位相が同相で合波されると干渉の影響が大きくなる。
【0076】
しかし、送受信装置2では、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれているリーク電流を低減することができるため、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれるリーク電流と受信信号との干渉を抑制し、受信性能を向上させることができる。
【0077】
以上説明した実施形態において、アンテナ素子21aは本発明における第1アンテナ素子、アンテナ部21は本発明における第1アンテナ列、送信部23と分配器24とS30,S60の処理は本発明におけるパルス信号供給手段、送信側調整部25は本発明における送信側位相調整手段、信号分離部22は本発明におけるサーキュレータ、受信部28は本発明における第1受信手段である。
【0078】
(第3実施形態)
以下に本発明の第3実施形態を図面とともに説明する。
【0079】
図9は、第3実施形態の送受信装置3の構成を示すブロック図である。
【0080】
送受信装置3は、図9に示すように、複数のアンテナ素子31aを一列に配置したアレーアンテナからなるアンテナ部31と、各アンテナ素子31aに供給する送信信号(以下、個別送信信号という)の生成に用いる高周波信号(例えばRF信号。以下、送信信号ともいう)を発生させる送信部32と、送信部32にて生成された送信信号を、アンテナ部31を構成するアンテナ素子31aと同数に分配して個別送信信号を生成する分配器33と、分配器33にて分配された個別送信信号の位相をそれぞれ個別に調整する複数の移相器34aからなる送信側調整部34と、複数のアンテナ素子35aを一列に配置したアレーアンテナからなるアンテナ部35と、各アンテナ素子21aから供給される受信信号(以下、個別受信信号という)の位相をそれぞれ個別に調整する複数の移相器36aからなる受信側調整部36と、受信側調整部36にて調整された個別受信信号を合成する合成器37と、合成器37にて合成された受信信号に対して周波数変換、フィルタリング、及び増幅等を施す受信部38と、当該送受信装置3の各部を制御するための各種指令を出力するとともに、受信部38からの出力に基づく各種処理を実行する信号処理部39とを備えている。
【0081】
つまり送受信装置3は、個別送信信号および個別受信信号の位相を個別に調整することにより、送信ビームの指向性パターンと受信ビームの指向性パターンを独立に制御できるように構成されている。
【0082】
信号処理部39は、CPU,ROM,RAM,AD変換器等を備えた周知のマイクロコンピュータからなる。そして信号処理部39は、高周波信号の送受信を制御する信号送受信処理を実行する。
【0083】
ここで、送受信装置3の信号処理部39が実行する信号送受信処理の手順を、図10を用いて説明する。図10は信号送受信処理を示すフローチャートである。この信号送受信処理は、信号処理部39のCPUが起動(電源オン)している間に繰り返し実行される処理である。
【0084】
この信号送受信処理が実行されると、信号処理部39のCPUは、まずS310にて、送信方向指示値Kbを送信方向初期値θini(例えば、−10°)に設定する。またS320にて、レンジゲート開始判定値JT2をレンジゲート開始初期値Tini(例えば、10ナノ秒)に設定する。
【0085】
そしてS330にて、送信方向指示値Kbが示す送信方向θkに向けてアンテナ部31がビームを送信するために予め設定された位相分布を示す位相差調整指令(送信オン位相差調整指令)と、送信方向指示値Kbが示す送信方向θkにおいて、アンテナ部11が送信する送信ビームの強度を最小にするために予め設定された位相分布を示す位相差調整指令(送信オフ位相差調整指令)を送信側調整部34に出力する。これにより送信側調整部34は、まず、予め設定された送信オン時間TSon(本実施形態では例えば10ナノ秒)継続して、各アンテナ素子31aに供給される個別送信信号が、送信オン位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別送信信号の位相を調整する。そして送信オン時間が経過すると、各アンテナ素子31aに供給される個別送信信号が、送信オフ位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別送信信号の位相を調整する。
【0086】
さらにS340にて、送信方向指示値Kbが示す送信方向θkで受信感度が最大になるように予め設定された位相分布を示す位相差調整指令(受信オン位相差調整指令)と、受信ビームの指向性パターンが、送信方向指示値Kbにより示される送信方向θkでヌル(零点)となるように予め設定された位相分布を示す位相差調整指令(以下、受信オフ位相差調整指令ともいう)と、レンジゲート開始判定値JT2を示す情報とを受信側調整部36に出力する。これにより受信側調整部36は、レンジゲート開始判定値JT2を示す情報を入力してから、レンジゲート開始判定値JT2に相当する時間が経過するまでは、合成器37にて合成される個別受信信号が、受信オフ位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別受信信号の位相を調整する。そしてレンジゲート開始判定値JT2に相当する時間が経過すると、その後、送信オン時間(本実施形態では例えば10ナノ秒)継続して、合成器37にて合成される個別受信信号が、受信オン位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別受信信号の位相を調整する。そして送信オン時間が経過すると、受信オフ位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別受信信号の位相を調整する。
【0087】
そしてS350にて、高周波パルス信号をパルスオン状態にするためのパルスオン指令を送信部32に出力する。これにより送信部32は、予め設定された送信オン時間(本実施形態では例えば10ナノ秒)継続して高周波パルス信号をパルスオン状態にした後に、高周波パルス信号をパルスオフ状態にする。
【0088】
その後S360にて、信号処理部39のRAMに設けられた送信継続時間判定タイマTM1のインクリメントを開始し、S370にて、送信継続時間判定タイマTM1の値(送信継続時間判定タイマ値)が予め設定されたパルス時間判定値JT1(本実施形態では例えば500ナノ秒に相当する値)以上であるか否かを判断する。ここで、送信継続時間判定タイマ値がパルス時間判定値JT1未満である場合には(S370:NO)、S370の処理を繰り返す。一方、送信継続時間判定タイマ値がパルス時間判定値JT1以上である場合には(S370:YES)、S380にて、送信継続時間判定タイマTM1のインクリメントを中止させ、S390に移行する。これにより、送信継続時間判定タイマTM1がインクリメントを中止するとともに、その値が0になる。
【0089】
そしてS390に移行すると、レンジゲート開始判定値JT2がパルス時間判定値JT1以上であるか否かを判断する。ここで、レンジゲート開始判定値JT2がパルス時間判定値JT1未満である場合には(S390:NO)、S400にて、レンジゲート開始判定値JT2に予め設定されたゲート開始更新値を加算した値を新たなレンジゲート開始判定値JT2として更新して、S330に移行し上述の処理を繰り返す。なおゲート開始更新値は、本実施形態では、送信オン時間TSonと同じ値に設定されている。
【0090】
一方、レンジゲート開始判定値JT2がパルス時間判定値JT1以上である場合には(S390:YES)、S410にて、送信方向指示値Kbが予め設定された送信方向上限値JKm(例えば、+10°)以上であるか否かを判断する。ここで、送信方向指示値Kbが送信方向上限値JKm未満である場合には(S410:NO)、S420にて、送信方向指示値Kbに予め設定された送信方向更新値(例えば、10°)を加算した値を新たな送信方向指示値Kbとして更新するとともに、S430にて、S320と同様にして、レンジゲート開始判定値JT2をレンジゲート開始初期値Tiniに設定する。その後、S330に移行し上述の処理を繰り返す。
【0091】
一方、送信方向指示値Kbが送信方向上限値JKm以上である場合には(S410:YES)、信号送受信処理を一旦終了する。
【0092】
このように構成された送受信装置3では、アンテナ部31が、一列に配列された複数のアンテナ素子31aで構成され、受信部38が、アンテナ部31から供給される受信信号を受信する。また受信側調整部36が、複数のアンテナ素子31aのそれぞれから供給される受信信号の位相を個別に調整する。
【0093】
そして、パルスオン状態にある高周波パルス信号(以下、パルスオン信号ともいう)を送信部32がアンテナ部31を介して一回送信してから、次のパルスオン信号を送信するまでの信号送信間隔(パルス時間判定値JT1に相当する時間)内において、送信部32がパルスオン信号を送信してから、レンジゲート開始判定値JT2に相当する時間が経過した後に、パルスオン信号のパルス幅と略同じ時間間隔だけ、送信方向θkで受信感度が最大になるように、受信信号の位相を受信側調整部36に調整させる(S340)。また、信号送信間隔の範囲内で、レンジゲート開始判定値JT2に相当する時間を走査する(S400)。
【0094】
さらに、送信方向θkで受信感度が最大になるように位相を調整しているとき以外には、受信信号の位相が、送信方向θkで受信感度が最大になる位相と異なるように、受信側調整部36を制御する(S340)。
【0095】
これにより、図11に示すように、パルスオン信号POを送信部32が送信方向θkに向けて送信してから、レンジゲート開始判定値JT2に相当する時間が経過した後に、パルスオン信号のパルス幅と同じ時間間隔だけ、送信方向θkに対する受信感度を向上させ、それ以外では、送信方向θkに対する受信感度を低下させる周知の受信レンジゲートRGを形成するとともに、この受信レンジゲートRGを、信号送信間隔(パルス時間判定値JT1に相当する時間)の範囲内で走査することができる。このため、信号送信間隔の範囲内の全ての時間で受信を行う場合と比較して、耐ノイズ性能を向上させることができる。
【0096】
このように構成された送受信装置3によれば、受信方向を設定するために元々備えられている受信側調整部26を用いて受信レンジゲートを形成することができるため、スイッチなどの機器を追加することなく受信性能を向上させることができる。
【0097】
以上説明した実施形態において、アンテナ部35と受信側調整部36と合成器37と受信部38と信号処理部39は本発明における受信装置、アンテナ素子35aは本発明における第2アンテナ素子、アンテナ部35は本発明における第2アンテナ列、合成器37及び受信部38は本発明における第2受信手段、受信側調整部36は本発明における受信側位相調整手段、S340の処理は本発明における受信方向制御手段、S400の処理は本発明における時間走査手段、S340の処理は本発明における受信側位相変更手段である。
【0098】
また、パルス時間判定値JT1に相当する時間は本発明における信号送信間隔、レンジゲート開始判定値JT2に相当する時間は本発明における調整開始時間である。
【0099】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採ることができる。
【0100】
例えば上記第1実施形態においては、送信オフ位相差調整指令が示す位相分布は、隣り合うアンテナ素子11a間の位相差Φkが式(2)で表される値となる分布であるものを示したが、これに限られるものではなく、送信方向θkでヌル(零点)となる位相分布であればよい。
【0101】
また上記第2実施形態においては、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれているリーク電流を低減することにより干渉を抑制するものを示した。しかし、高周波パルス信号と受信信号とが合成された際に打ち消されるような位相関係となるように、パルスオフ状態の高周波パルス信号の位相を変化させることによって、干渉を抑制するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1…送信装置、2,3…送受信装置、11…アンテナ部、11a…アンテナ素子、12…送信部、13…分配器、14…送信側調整部、14a…移相器、15…信号処理部、21…アンテナ部、21a…アンテナ素子、22…信号分離部、22a…サーキュレータ、23…送信部、24…分配器、25…送信側調整部、25a…移相器、26…受信側調整部、26a…移相器、27…合成器、28…受信部、29…信号処理部、31…アンテナ部、31a…アンテナ素子、32…送信部、33…分配器、34…送信側調整部、34a…移相器、35…アンテナ部、35a…アンテナ素子、36…受信側調整部、36a…移相器、37…合成器、38…受信部、39…信号処理部
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナ素子で構成されたアンテナ列を備える送信装置、受信装置、及び送受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のアンテナ素子で構成されたアンテナ列を介してRFパルス信号を送受信することにより、RFパルス信号を反射した物体を検出するレーダ装置が知られている。
【0003】
このRFパルス信号は、図12に示すように、RF(Radio Frequency)信号が、パルスオン状態(図中のパルスオン部分Ponを参照)とパルスオフ状態(図中のパルスオフ部分Poffを参照)とで交互に繰り返す信号であり、高周波信号とパルス信号とを混合することにより生成される。このため、オフ状態において高周波成分を完全に除去することができず、パルスオフ部分Poffにリーク電流が発生する。
【0004】
このリーク電流を低減するために、パルスオン部分Ponを通過させるとともにパルスオフ部分Poffを遮断するためのスイッチを設けたり、パルスオン部分Ponの振幅を増大させる増幅器を設けたりする手法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/059367号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、RFパルス信号のリーク電流を低減して送受信性能を向上させるために高価なスイッチや増幅器を必要とするという問題があった。
【0007】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、スイッチや増幅器を用いることなく送受信性能を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の送信装置では、第1アンテナ列が、予め設定された第1配列方向に沿って配列された複数の第1アンテナ素子で構成され、パルス信号供給手段が、予め設定された送信周波数を有する高周波信号が、高周波信号の振幅が大きいパルスオン状態と、高周波信号の振幅が小さいパルスオフ状態とで交互に変化する信号である高周波パルス信号を、複数の第1アンテナ素子のそれぞれに供給する。また送信側位相調整手段が、複数の第1アンテナ素子のそれぞれに供給される高周波パルス信号の位相を個別に調整する。
【0009】
そして送信方向制御手段が、高周波パルス信号がパルスオン状態であるときに、予め設定されたパルス送信方向に向けて第1アンテナ列が高周波パルス信号を送信するように、送信側位相調整手段を制御する。
【0010】
これにより、送信方向制御手段によって、高周波パルス信号の送信電力がパルス送信方向で最大となる位相分布に調整される。このため、パルスオン状態の高周波パルス信号が、予め設定されたパルス送信方向に向けて送信される。
【0011】
さらに送信側位相変更手段が、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、高周波パルス信号がパルスオン状態のときと高周波パルス信号の位相が異なるように、送信側位相調整手段を制御する。
【0012】
すなわち、送信側位相変更手段によって、高周波パルス信号の送信電力がパルス送信方向で最大とはならない位相分布に調整される。したがって、送信側位相変更手段で調整された位相分布において、パルスオフ状態の高周波パルス信号が第1アンテナ素子からパルス送信方向に向けて送信される場合に、その送信電力は、送信方向制御手段で調整された位相分布で送信された場合よりも小さくなる。
【0013】
つまり、パルス送信方向に向けて送信されるパルスオフ状態の高周波パルス信号にリーク電流が含まれている場合に、このリーク電流を低減することができる。
【0014】
このように構成された送信装置によれば、パルス送信方向を設定するために元々備えられている送信側位相調整手段を用いて、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれているリーク電流を低減することができるため、スイッチや増幅器などの機器を追加することなく送信性能を向上させることができる。
【0015】
なお、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれているリーク電流を最大限に低減させるには、第1アンテナ素子から送信される高周波パルス信号の指向性パターンが、パルス送信方向でヌル(零点)となるように、送信側位相調整手段に位相分布を調整させるとよい。
【0016】
そして、送信電力が最小となる位相分布は、第1アンテナ素子の数のみに依存し、計算により明確に求めることができる。すなわち、第1アンテナ列がN(Nは2以上の整数)個の第1アンテナ素子で構成されており、第1アンテナ列の第1配列方向に垂直な方向で送信電力が最小となる場合には、互いに隣接する2つの第1アンテナ素子間における、高周波パルス信号の位相差が2π/Nとなるように、送信側位相調整手段を制御するようにするとよい。
【0017】
また請求項2に記載の送受信装置は、請求項1に記載の送信装置を備え、第1アンテナ列は送受信兼用であり、第1アンテナ列に供給される高周波パルス信号と第1アンテナ列から供給される第1受信信号とを分離するためのサーキュレータと、サーキュレータから供給される第1受信信号を受信する第1受信手段とを備える。
【0018】
このように構成された送受信装置では、パルスオン状態の高周波パルス信号を第1アンテナ素子から送信していないとき、すなわち、パルスオフ状態の高周波パルス信号を第1アンテナ素子から送信しているときに、第1受信手段が、第1アンテナ列から供給される第1受信信号を受信する。この場合には、第1アンテナ列から送信されたパルスオフ状態の高周波パルス信号と、第1アンテナ列から供給される第1受信信号とがサーキュレータで干渉するおそれがある。すなわち、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれるリーク電流と第1受信信号とが干渉することにより、受信装置の受信性能が低下するおそれがある。
【0019】
しかし、請求項2に記載の送受信装置では、請求項1に記載の送信装置を備えているので、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれているリーク電流を低減することができる。このため、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれるリーク電流と第1受信信号との干渉を抑制し、受信性能を向上させることができる。
【0020】
また請求項3に記載の送受信装置は、請求項1に記載の送信装置を備え、さらに第2アンテナ列が、予め設定された第2配列方向に沿って配列された複数の第2アンテナ素子で構成され、第2受信手段が、第2アンテナ列から供給される第2受信信号を受信する。また受信側位相調整手段が、複数の第2アンテナ素子のそれぞれから供給される第2受信信号の位相を個別に調整する。
【0021】
そして受信方向制御手段が、パルスオン状態にある高周波パルス信号であるパルスオン信号を送信装置が第1アンテナ列を介して一回送信してから、次のパルスオン信号を送信するまでの信号送信間隔内において、送信装置がパルスオン信号を送信してから予め設定された調整開始時間が経過した後に、パルスオン信号のパルス幅と略同じ時間間隔だけ、送信方向制御手段が調整したパルス送信方向で受信感度が最大となるように、受信側位相調整手段に第2受信信号の位相を調整させる。また時間走査手段が、信号送信間隔の範囲内で、調整開始時間を走査する。
【0022】
さらに受信側位相変更手段が、受信方向制御手段が第2受信信号の位相を調整しているとき以外には、第2受信信号の位相が、受信方向制御手段が調整した位相と異なるように、受信側位相調整手段を制御する。
【0023】
これにより、パルスオン信号を送信装置がパルス送信方向に向けて送信してから、調整開始時間が経過した後に、パルスオン時間間隔と略同じ時間間隔だけ、パルス送信方向に対する受信感度を向上させ、それ以外では、パルス送信方向に対する受信感度を低下させる周知の受信レンジゲートを形成するとともに、この受信レンジゲートを、信号送信間隔の範囲内で走査することができる。このため、信号送信間隔の範囲内の全ての時間で受信を行う場合と比較して、耐ノイズ性能を向上させることができる。
【0024】
さらに、このように構成された送受信装置によれば、受信方向を設定するために元々備えられている受信側位相調整手段を用いて受信レンジゲートを形成することができるため、スイッチなどの機器を追加することなく受信性能を向上させることができる。
【0025】
また請求項4に記載の受信装置は、予め設定された送信周波数を有する高周波信号が、高周波信号の振幅が大きいパルスオン状態と、高周波信号の振幅が小さいパルスオフ状態とで交互に変化する信号である高周波パルス信号を送信する送信装置とともに用いられ、送信装置が送信した高周波パルス信号を受信する受信装置であって、第2アンテナ列が、予め設定された第2配列方向に沿って配列された複数の第2アンテナ素子で構成され、第2受信手段が、第2アンテナ列から供給される第2受信信号を受信する。また受信側位相調整手段が、複数の第2アンテナ素子のそれぞれから供給される第2受信信号の位相を個別に調整する。
【0026】
そして受信方向制御手段が、パルスオン状態にある高周波パルス信号であるパルスオン信号を送信装置が一回送信してから、次のパルスオン信号を送信するまでの信号送信間隔内において、送信装置がパルスオン信号を送信してから予め設定された調整開始時間が経過した後に、パルスオン信号のパルス幅と略同じ時間間隔だけ、送信方向制御手段が調整したパルス送信方向で受信感度が最大となるように、受信側位相調整手段に第2受信信号の位相を調整させる。また時間走査手段が、信号送信間隔の範囲内で、調整開始時間を走査する。
【0027】
さらに受信側位相変更手段が、受信方向制御手段が第2受信信号の位相を調整しているとき以外には、第2受信信号の位相が、受信方向制御手段が調整した位相と異なるように、受信側位相調整手段を制御する。
【0028】
これにより、パルスオン信号を送信装置が予め設定されたパルス送信方向に向けて送信してから、調整開始時間が経過した後に、パルスオン時間間隔と略同じ時間間隔だけ、パルス送信方向に対する受信感度を向上させ、それ以外では、パルス送信方向に対する受信感度を低下させる周知の受信レンジゲートを形成するとともに、この受信レンジゲートを、信号送信間隔の範囲内で走査することができる。このため、信号送信間隔の範囲内の全ての時間で受信を行う場合と比較して、耐ノイズ性能を向上させることができる。
【0029】
さらに、このように構成された送受信装置によれば、受信方向を設定するために元々備えられている受信側位相調整手段を用いて受信レンジゲートを形成することができるため、スイッチなどの機器を追加することなく受信性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態の送信装置1の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態のビーム送信処理を示すフローチャートである。
【図3】高周波パルス信号とその指向性パターンを示す図である。
【図4】パルスオン状態からパルスオフ状態に変化する近傍の高周波パルス信号の波形を示す図である。
【図5】5個のアンテナ素子11aに供給された高周波パルス信号を合成した波形を示す図である。
【図6】パルスオフ状態で位相を変化させない場合と位相を変化させた場合とにおける高周波パルス信号を示す図である。
【図7】送受信装置2の構成を示すブロック図である。
【図8】サーキュレータ22aの動作を説明する図である。
【図9】送受信装置3の構成を示すブロック図である。
【図10】信号送受信処理を示すフローチャートである。
【図11】パルスオン信号POと受信レンジゲートRGの動作を示すタイムチャートである。
【図12】RFパルス信号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1実施形態)
以下に本発明の第1実施形態を図面とともに説明する。
【0032】
図1は、第1実施形態の送信装置1の構成を示すブロック図である。
【0033】
送信装置1は、図1に示すように、複数のアンテナ素子11aを一列に配置したアレーアンテナからなるアンテナ部11と、各アンテナ素子11aに供給する送信信号(以下、個別送信信号という)の生成に用いる高周波信号(例えばRF信号。以下、送信信号ともいう)を発生させる送信部12と、送信部12にて生成された送信信号を、アンテナ部11を構成するアンテナ素子11aと同数に分配して個別送信信号を生成する分配器13と、分配器13にて分配された個別送信信号の位相をそれぞれ個別に調整する複数の移相器14aからなる送信側調整部14と、当該送信装置1の各部を制御するための各種指令を出力する信号処理部15とを備えている。
【0034】
つまり送信装置1は、送信側ビーム調整指令によって個別送信信号の位相を個別に調整することにより、送信ビームの指向性パターンを制御できるように構成されている。
【0035】
また信号処理部15は、CPU,ROM,RAM,AD変換器等を備えた周知のマイクロコンピュータからなる。そして信号処理部15は、高周波信号の送信を制御するための信号送信処理を実行する。
【0036】
ここで、送信装置1の信号処理部15が実行する信号送信処理の手順を、図2を用いて説明する。図2は信号送信処理を示すフローチャートである。この信号送信処理は、信号処理部15のCPUが起動(電源オン)している間に繰り返し実行される処理である。
【0037】
この信号送信処理が実行されると、信号処理部15のCPUは、まずS10にて、送信方向指示値Kbを送信方向初期値θini(例えば、−10°)に設定する。そしてS20にて、送信方向指示値Kbが示す送信方向θkに向けてアンテナ部11がビームを送信するために予め設定された位相分布を示す位相差調整指令(以下、送信オン位相差調整指令ともいう)と、送信方向指示値Kbが示す送信方向θkにおいて、アンテナ部11が送信する送信ビームの強度を最小にするために予め設定された位相分布を示す位相差調整指令(以下、送信オフ位相差調整指令ともいう)を送信側調整部14に出力する。これにより送信側調整部14は、まず、予め設定された送信オン時間TSon(本実施形態では例えば10ナノ秒)継続して、各アンテナ素子11aに供給される個別送信信号が、送信オン位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別送信信号の位相を調整する。そして送信オン時間が経過すると、各アンテナ素子11aに供給される個別送信信号が、送信オフ位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別送信信号の位相を調整する。
【0038】
なお、送信オン位相差調整指令が示す位相分布は、隣り合うアンテナ素子11a間の位相差Φkが式(1)で表される値となる分布である。
【0039】
Φk = (π・d・sinθk)/λ ・・・(1)
ここで、「d」は隣り合うアンテナ素子11a間の距離、「λ」は個別送信信号の波長である。
【0040】
また、送信オフ位相差調整指令が示す位相分布は、隣り合うアンテナ素子11a間の位相差Φkが式(2)で表される値となる分布である。
【0041】
Φk = 2π/N ・・・(2)
ここで「N」は、アンテナ部11が有するアンテナ素子11aの数である。
【0042】
そしてS30にて、高周波パルス信号をパルスオン状態にするためのパルスオン指令を送信部12に出力する。これにより送信部12は、予め設定された送信オン時間(本実施形態では例えば10ナノ秒)継続して高周波パルス信号をパルスオン状態にした後に、高周波パルス信号をパルスオフ状態にする。
【0043】
さらにS40にて、信号処理部15のRAMに設けられた送信継続時間判定タイマTM1のインクリメントを開始し、S50に移行する。
【0044】
なお送信継続時間判定タイマTM1は、例えば100ナノ秒ごとにインクリメントするタイマであり、インクリメントが開始されると、その値が0からインクリメントする。また送信継続時間判定タイマTM1は、ある時点でインクリメントが中止されると、その時点でその値が0となるように設定されている。
【0045】
そしてS50に移行すると、送信継続時間判定タイマTM1の値(送信継続時間判定タイマ値)が予め設定されたパルス時間判定値JT1(本実施形態では例えば500ナノ秒に相当する値)以上であるか否かを判断する。ここで、送信継続時間判定タイマ値がパルス時間判定値JT1未満である場合には(S50:NO)、S50の処理を繰り返す。一方、送信継続時間判定タイマ値がパルス時間判定値JT1以上である場合には(S50:YES)、S60にて、送信継続時間判定タイマTM1のインクリメントを中止させ、S70に移行する。これにより、送信継続時間判定タイマTM1がインクリメントを中止するとともに、その値が0になる。
【0046】
そしてS70に移行すると、送信方向指示値Kbが予め設定された送信方向上限値JKm(例えば、+10°)以上であるか否かを判断する。ここで、送信方向指示値Kbが送信方向上限値JKm未満である場合には(S70:NO)、S80にて、送信方向指示値Kbに予め設定された送信方向更新値(例えば、10°)を加算した値を新たな送信方向指示値Kbとして更新して、S20に移行し上述の処理を繰り返す。一方、送信方向指示値Kbが送信方向上限値JKm以上である場合には(S80:YES)、信号送信処理を一旦終了する。
【0047】
このように構成された送信装置1では、図3(a)に示すように、パルス幅が送信オン時間TSon(10ナノ秒)に相当する時間となる高周波パルス信号のパルスオン状態部分PN1,PN2,PN3を、パルス時間判定値JT1に相当する時間が経過する毎に順次、アンテナ部11を介して送信する。なお図3(b)に示すように、高周波パルス信号のパルスオン状態部分PN1(PN2,PN3)の指向性パターンDP1(DP2,DP3)では、送信方向θkが−10°(0°,+10°)のときに送信電力が最大である。すなわち、高周波パルス信号のパルスオン状態部分PN1(PN2,PN3)の送信方向θkは−10°(0°,+10°)となる。
【0048】
次に、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときの位相調整により、パルスオフ状態の高周波パルス信号の振幅を低減することができることを図4及び図5とともに説明する。
【0049】
図4は、アンテナ部11を構成する5個のアンテナ素子11aについて、高周波パルス信号がパルスオン状態からパルスオフ状態に変化する近傍の高周波パルス信号の波形を示す図である。また図5は、5個のアンテナ素子11aに供給された高周波パルス信号を合成した波形を示す図である。なお、図4の説明において、5個のアンテナ素子11aをそれぞれアンテナ素子AN1,AN2,AN3,AN4,AN5ともいう。
【0050】
図4では、高周波パルス信号がパルスオン状態であるときに、アンテナ素子AN1,AN2,AN3,AN4,AN5に供給される高周波パルス信号が全て同じ位相となるように調整されている。
【0051】
その後に高周波パルス信号がパルスオフ状態になり、各アンテナ素子AN1〜AN5に供給される高周波パルス信号が全て同じ位相である場合には(図4の波形W1を参照)、図5に示すように、各アンテナ素子AN1〜AN5に供給される高周波パルス信号を合成した波形の振幅は、高周波パルス信号がパルスオン状態である場合と同じである(図5の波形W11を参照)。
【0052】
また図4に示すように、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、隣り合うアンテナ素子間の位相差が45°となるように位相を調整すると(図4の波形W2を参照)、図5に示すように、各アンテナ素子AN1〜AN5に供給される高周波パルス信号を合成した波形の振幅は、高周波パルス信号がパルスオン状態である場合と比較して、2分の1になる(図5の波形W12を参照)。
【0053】
また図4に示すように、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、隣り合うアンテナ素子間の位相差が90°となるように位相を調整すると(図4の波形W3を参照)、図5に示すように、各アンテナ素子AN1〜AN5に供給される高周波パルス信号を合成した波形の振幅は、高周波パルス信号がパルスオン状態である場合と比較して、5分の1になる(図5の波形W13を参照)。
【0054】
図6は、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、位相を変化させない場合と位相を変化させた場合とにおける、パルスオフ状態におけるリーク電流の大きさを示す図である。高周波パルス信号PS11は、パルスオフ状態で位相を変化させない場合の高周波パルス信号であり、高周波パルス信号PS12は、パルスオフ状態で位相を変化させた場合の高周波パルス信号である。
【0055】
図6に示すように、高周波パルス信号のパルスオフ状態におけるノイズレベルは、位相を変化させることにより大幅に低減される。
【0056】
このように構成された送信装置1では、アンテナ部11が、一列に配列された複数のアンテナ素子11aで構成され、送信部12と分配器13とが、高周波信号の振幅が大きいパルスオン状態と、高周波信号の振幅が小さいパルスオフ状態とで交互に変化する信号である高周波パルス信号を、複数のアンテナ素子11aのそれぞれに供給する(S30)。また送信側調整部14が、複数のアンテナ素子11aのそれぞれに供給される高周波パルス信号の位相を個別に調整する。
【0057】
そして、高周波パルス信号がパルスオン状態であるときに、予め設定された送信方向θkに向けてアンテナ部11が高周波パルス信号を送信するように送信側調整部14を制御する(S20)。
【0058】
これにより、高周波パルス信号の送信電力が送信方向θkで最大となる位相分布に調整される。このため、パルスオン状態の高周波パルス信号が、送信方向θkに向けて送信される。
【0059】
さらに、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、高周波パルス信号がパルスオン状態のときと高周波パルス信号の位相が異なるように送信側調整部14を制御する(S20)。
【0060】
すなわち、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに、高周波パルス信号の送信電力が送信方向θkで最大とはならない位相分布に調整される。したがって、高周波パルス信号がパルスオフ状態であるときに調整された位相分布において、パルスオフ状態の高周波パルス信号がアンテナ素子11aから送信方向θkに向けて送信される場合に、その送信電力は、高周波パルス信号がパルスオン状態であるときに調整された位相分布で送信された場合よりも小さくなる。
【0061】
つまり、送信方向θkに向けて送信されるパルスオフ状態の高周波パルス信号にリーク電流が含まれている場合に、このリーク電流を低減することができる。
【0062】
このように構成された送信装置1によれば、送信方向θkを設定するために元々備えられている送信側調整部14を用いて、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれているリーク電流を低減することができるため、スイッチや増幅器などの機器を追加することなく送信性能を向上させることができる。
【0063】
なお、高周波パルス信号に含まれているリーク電流には、各アンテナ素子11aで関連のある位相を持った成分Nc(本実施形態ではキャリアリーク)と、ランダムな雑音Nrとから構成されている。送信装置1は、上記の成分Ncの低減に有効である。すなわち、成分Ncが雑音Nrより大きい場合に、送信装置1による送信性能の向上が期待できる。
【0064】
以上説明した実施形態において、アンテナ素子11aは本発明における第1アンテナ素子、アンテナ部11は本発明における第1アンテナ列、送信部12と分配器13とS30の処理は本発明におけるパルス信号供給手段、送信側調整部14は本発明における送信側位相調整手段、S20の処理は本発明における送信方向制御手段、S20の処理は本発明における送信側位相変更手段である。
【0065】
(第2実施形態)
以下に本発明の第2実施形態を図面とともに説明する。
【0066】
図7は、第2実施形態の送受信装置2の構成を示すブロック図である。
【0067】
送受信装置2は、図7に示すように、複数のアンテナ素子21aを一列に配置したアレーアンテナからなるアンテナ部21と、アンテナ部21を構成するアンテナ素子21a毎に設けられたサーキュレータ22aからなり、各アンテナ素子21aに供給する送信信号(以下、個別送信信号という)と各アンテナ素子21aから供給される受信信号(以下、個別受信信号という)とを分離する信号分離部22と、個別送信信号の生成に用いる高周波信号(例えばRF信号。以下、送信信号ともいう)を発生させる送信部23と、送信部23にて生成された送信信号を、アンテナ部21を構成するアンテナ素子21aと同数に分配して個別送信信号を生成する分配器24と、分配器24にて分配された個別送信信号の位相をそれぞれ個別に調整する複数の移相器25aからなる送信側調整部25と、信号分離部22から供給される個別受信信号の位相をそれぞれ個別に調整する複数の移相器26aからなる受信側調整部26と、受信側調整部26にて調整された個別受信信号を合成する合成器27と、合成器27にて合成された受信信号に対して周波数変換、フィルタリング、及び増幅等を施す受信部28と、当該送受信装置2の各部を制御するための各種指令を出力するとともに、受信部28からの出力に基づく各種処理を実行する信号処理部29とを備えている。
【0068】
つまり送受信装置2は、個別送信信号および個別受信信号の位相を個別に調整することにより、送信ビームの指向性パターンと受信ビームの指向性パターンを独立に制御できるように構成されている。
【0069】
これらのうち、信号分離部22を構成するサーキュレータ22aは、マイクロストリップラインにより形成されており、図8に示すように、円形のパターンの金属薄膜PTに3個の入出力端子TN1,TN2,TN3が接続されている。金属薄膜PTの直下に設置された基板はフェライトで構成されており、この基板に直流磁場を印加するために、金属薄膜PTの上に円筒状の永久磁石(パーマロイ)が付着されている。
【0070】
磁場が存在しない場合において、図8(a)に示すように、円形共振器内部での励振モードがTEモードであるときに電磁波が入出力端子TN1に入力されると、入出力端子TN2および入出力端子TN3に対して同じ出力が得られる。
【0071】
一方、磁場Hdcが印加された場合には、基板のフェライトの電子のスピンと磁場Hdcとの相互作用により、励振電磁波モードがずれる。そこで、磁場Hdcの強さを最適化することによって、図8(b)に示すように、モードの回転を30゜にすると、入出力端子TN1からの入力に対して入出力端子TN2の出力が得られる一方、入出力端子TN3の出力が得られない状態となる。すなわち、入出力端子TN1に入力された電磁波は、入出力端子TN2のみから出力される。
【0072】
また信号処理部29は、CPU,ROM,RAM,AD変換器等を備えた周知のマイクロコンピュータからなる。そして信号処理部29は、高周波信号の送信方向を制御するための信号送信処理を実行する。
【0073】
なお、第2実施形態の信号送信処理は、第1実施形態と同じである。このため、第2実施形態の信号送信処理の説明を省略する。
【0074】
このように構成された送受信装置2では、パルスオン状態の高周波パルス信号をアンテナ素子21aから送信していないとき、すなわち、パルスオフ状態の高周波パルス信号をアンテナ素子21aから送信しているときに、受信部28が、アンテナ素子21aから供給される受信信号を受信する。この場合には、アンテナ素子21aから送信されたパルスオフ状態の高周波パルス信号が信号分離部22の受信側にリークして、アンテナ素子21aから供給される受信信号と信号分離部22で干渉するおそれがある。すなわち、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれるリーク電流と受信信号とが干渉することにより、受信部28の受信性能が低下するおそれがある。
【0075】
とくに、高周波パルス信号に含まれるリーク電流の位相と、受信信号の位相が同相で合波されると干渉の影響が大きくなる。
【0076】
しかし、送受信装置2では、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれているリーク電流を低減することができるため、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれるリーク電流と受信信号との干渉を抑制し、受信性能を向上させることができる。
【0077】
以上説明した実施形態において、アンテナ素子21aは本発明における第1アンテナ素子、アンテナ部21は本発明における第1アンテナ列、送信部23と分配器24とS30,S60の処理は本発明におけるパルス信号供給手段、送信側調整部25は本発明における送信側位相調整手段、信号分離部22は本発明におけるサーキュレータ、受信部28は本発明における第1受信手段である。
【0078】
(第3実施形態)
以下に本発明の第3実施形態を図面とともに説明する。
【0079】
図9は、第3実施形態の送受信装置3の構成を示すブロック図である。
【0080】
送受信装置3は、図9に示すように、複数のアンテナ素子31aを一列に配置したアレーアンテナからなるアンテナ部31と、各アンテナ素子31aに供給する送信信号(以下、個別送信信号という)の生成に用いる高周波信号(例えばRF信号。以下、送信信号ともいう)を発生させる送信部32と、送信部32にて生成された送信信号を、アンテナ部31を構成するアンテナ素子31aと同数に分配して個別送信信号を生成する分配器33と、分配器33にて分配された個別送信信号の位相をそれぞれ個別に調整する複数の移相器34aからなる送信側調整部34と、複数のアンテナ素子35aを一列に配置したアレーアンテナからなるアンテナ部35と、各アンテナ素子21aから供給される受信信号(以下、個別受信信号という)の位相をそれぞれ個別に調整する複数の移相器36aからなる受信側調整部36と、受信側調整部36にて調整された個別受信信号を合成する合成器37と、合成器37にて合成された受信信号に対して周波数変換、フィルタリング、及び増幅等を施す受信部38と、当該送受信装置3の各部を制御するための各種指令を出力するとともに、受信部38からの出力に基づく各種処理を実行する信号処理部39とを備えている。
【0081】
つまり送受信装置3は、個別送信信号および個別受信信号の位相を個別に調整することにより、送信ビームの指向性パターンと受信ビームの指向性パターンを独立に制御できるように構成されている。
【0082】
信号処理部39は、CPU,ROM,RAM,AD変換器等を備えた周知のマイクロコンピュータからなる。そして信号処理部39は、高周波信号の送受信を制御する信号送受信処理を実行する。
【0083】
ここで、送受信装置3の信号処理部39が実行する信号送受信処理の手順を、図10を用いて説明する。図10は信号送受信処理を示すフローチャートである。この信号送受信処理は、信号処理部39のCPUが起動(電源オン)している間に繰り返し実行される処理である。
【0084】
この信号送受信処理が実行されると、信号処理部39のCPUは、まずS310にて、送信方向指示値Kbを送信方向初期値θini(例えば、−10°)に設定する。またS320にて、レンジゲート開始判定値JT2をレンジゲート開始初期値Tini(例えば、10ナノ秒)に設定する。
【0085】
そしてS330にて、送信方向指示値Kbが示す送信方向θkに向けてアンテナ部31がビームを送信するために予め設定された位相分布を示す位相差調整指令(送信オン位相差調整指令)と、送信方向指示値Kbが示す送信方向θkにおいて、アンテナ部11が送信する送信ビームの強度を最小にするために予め設定された位相分布を示す位相差調整指令(送信オフ位相差調整指令)を送信側調整部34に出力する。これにより送信側調整部34は、まず、予め設定された送信オン時間TSon(本実施形態では例えば10ナノ秒)継続して、各アンテナ素子31aに供給される個別送信信号が、送信オン位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別送信信号の位相を調整する。そして送信オン時間が経過すると、各アンテナ素子31aに供給される個別送信信号が、送信オフ位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別送信信号の位相を調整する。
【0086】
さらにS340にて、送信方向指示値Kbが示す送信方向θkで受信感度が最大になるように予め設定された位相分布を示す位相差調整指令(受信オン位相差調整指令)と、受信ビームの指向性パターンが、送信方向指示値Kbにより示される送信方向θkでヌル(零点)となるように予め設定された位相分布を示す位相差調整指令(以下、受信オフ位相差調整指令ともいう)と、レンジゲート開始判定値JT2を示す情報とを受信側調整部36に出力する。これにより受信側調整部36は、レンジゲート開始判定値JT2を示す情報を入力してから、レンジゲート開始判定値JT2に相当する時間が経過するまでは、合成器37にて合成される個別受信信号が、受信オフ位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別受信信号の位相を調整する。そしてレンジゲート開始判定値JT2に相当する時間が経過すると、その後、送信オン時間(本実施形態では例えば10ナノ秒)継続して、合成器37にて合成される個別受信信号が、受信オン位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別受信信号の位相を調整する。そして送信オン時間が経過すると、受信オフ位相差調整指令によって指定された位相分布となるように、個別受信信号の位相を調整する。
【0087】
そしてS350にて、高周波パルス信号をパルスオン状態にするためのパルスオン指令を送信部32に出力する。これにより送信部32は、予め設定された送信オン時間(本実施形態では例えば10ナノ秒)継続して高周波パルス信号をパルスオン状態にした後に、高周波パルス信号をパルスオフ状態にする。
【0088】
その後S360にて、信号処理部39のRAMに設けられた送信継続時間判定タイマTM1のインクリメントを開始し、S370にて、送信継続時間判定タイマTM1の値(送信継続時間判定タイマ値)が予め設定されたパルス時間判定値JT1(本実施形態では例えば500ナノ秒に相当する値)以上であるか否かを判断する。ここで、送信継続時間判定タイマ値がパルス時間判定値JT1未満である場合には(S370:NO)、S370の処理を繰り返す。一方、送信継続時間判定タイマ値がパルス時間判定値JT1以上である場合には(S370:YES)、S380にて、送信継続時間判定タイマTM1のインクリメントを中止させ、S390に移行する。これにより、送信継続時間判定タイマTM1がインクリメントを中止するとともに、その値が0になる。
【0089】
そしてS390に移行すると、レンジゲート開始判定値JT2がパルス時間判定値JT1以上であるか否かを判断する。ここで、レンジゲート開始判定値JT2がパルス時間判定値JT1未満である場合には(S390:NO)、S400にて、レンジゲート開始判定値JT2に予め設定されたゲート開始更新値を加算した値を新たなレンジゲート開始判定値JT2として更新して、S330に移行し上述の処理を繰り返す。なおゲート開始更新値は、本実施形態では、送信オン時間TSonと同じ値に設定されている。
【0090】
一方、レンジゲート開始判定値JT2がパルス時間判定値JT1以上である場合には(S390:YES)、S410にて、送信方向指示値Kbが予め設定された送信方向上限値JKm(例えば、+10°)以上であるか否かを判断する。ここで、送信方向指示値Kbが送信方向上限値JKm未満である場合には(S410:NO)、S420にて、送信方向指示値Kbに予め設定された送信方向更新値(例えば、10°)を加算した値を新たな送信方向指示値Kbとして更新するとともに、S430にて、S320と同様にして、レンジゲート開始判定値JT2をレンジゲート開始初期値Tiniに設定する。その後、S330に移行し上述の処理を繰り返す。
【0091】
一方、送信方向指示値Kbが送信方向上限値JKm以上である場合には(S410:YES)、信号送受信処理を一旦終了する。
【0092】
このように構成された送受信装置3では、アンテナ部31が、一列に配列された複数のアンテナ素子31aで構成され、受信部38が、アンテナ部31から供給される受信信号を受信する。また受信側調整部36が、複数のアンテナ素子31aのそれぞれから供給される受信信号の位相を個別に調整する。
【0093】
そして、パルスオン状態にある高周波パルス信号(以下、パルスオン信号ともいう)を送信部32がアンテナ部31を介して一回送信してから、次のパルスオン信号を送信するまでの信号送信間隔(パルス時間判定値JT1に相当する時間)内において、送信部32がパルスオン信号を送信してから、レンジゲート開始判定値JT2に相当する時間が経過した後に、パルスオン信号のパルス幅と略同じ時間間隔だけ、送信方向θkで受信感度が最大になるように、受信信号の位相を受信側調整部36に調整させる(S340)。また、信号送信間隔の範囲内で、レンジゲート開始判定値JT2に相当する時間を走査する(S400)。
【0094】
さらに、送信方向θkで受信感度が最大になるように位相を調整しているとき以外には、受信信号の位相が、送信方向θkで受信感度が最大になる位相と異なるように、受信側調整部36を制御する(S340)。
【0095】
これにより、図11に示すように、パルスオン信号POを送信部32が送信方向θkに向けて送信してから、レンジゲート開始判定値JT2に相当する時間が経過した後に、パルスオン信号のパルス幅と同じ時間間隔だけ、送信方向θkに対する受信感度を向上させ、それ以外では、送信方向θkに対する受信感度を低下させる周知の受信レンジゲートRGを形成するとともに、この受信レンジゲートRGを、信号送信間隔(パルス時間判定値JT1に相当する時間)の範囲内で走査することができる。このため、信号送信間隔の範囲内の全ての時間で受信を行う場合と比較して、耐ノイズ性能を向上させることができる。
【0096】
このように構成された送受信装置3によれば、受信方向を設定するために元々備えられている受信側調整部26を用いて受信レンジゲートを形成することができるため、スイッチなどの機器を追加することなく受信性能を向上させることができる。
【0097】
以上説明した実施形態において、アンテナ部35と受信側調整部36と合成器37と受信部38と信号処理部39は本発明における受信装置、アンテナ素子35aは本発明における第2アンテナ素子、アンテナ部35は本発明における第2アンテナ列、合成器37及び受信部38は本発明における第2受信手段、受信側調整部36は本発明における受信側位相調整手段、S340の処理は本発明における受信方向制御手段、S400の処理は本発明における時間走査手段、S340の処理は本発明における受信側位相変更手段である。
【0098】
また、パルス時間判定値JT1に相当する時間は本発明における信号送信間隔、レンジゲート開始判定値JT2に相当する時間は本発明における調整開始時間である。
【0099】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採ることができる。
【0100】
例えば上記第1実施形態においては、送信オフ位相差調整指令が示す位相分布は、隣り合うアンテナ素子11a間の位相差Φkが式(2)で表される値となる分布であるものを示したが、これに限られるものではなく、送信方向θkでヌル(零点)となる位相分布であればよい。
【0101】
また上記第2実施形態においては、パルスオフ状態の高周波パルス信号に含まれているリーク電流を低減することにより干渉を抑制するものを示した。しかし、高周波パルス信号と受信信号とが合成された際に打ち消されるような位相関係となるように、パルスオフ状態の高周波パルス信号の位相を変化させることによって、干渉を抑制するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1…送信装置、2,3…送受信装置、11…アンテナ部、11a…アンテナ素子、12…送信部、13…分配器、14…送信側調整部、14a…移相器、15…信号処理部、21…アンテナ部、21a…アンテナ素子、22…信号分離部、22a…サーキュレータ、23…送信部、24…分配器、25…送信側調整部、25a…移相器、26…受信側調整部、26a…移相器、27…合成器、28…受信部、29…信号処理部、31…アンテナ部、31a…アンテナ素子、32…送信部、33…分配器、34…送信側調整部、34a…移相器、35…アンテナ部、35a…アンテナ素子、36…受信側調整部、36a…移相器、37…合成器、38…受信部、39…信号処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された第1配列方向に沿って配列された複数の第1アンテナ素子で構成された第1アンテナ列と、
予め設定された送信周波数を有する高周波信号が、前記高周波信号の振幅が大きいパルスオン状態と、前記高周波信号の振幅が小さいパルスオフ状態とで交互に変化する信号である高周波パルス信号を、前記複数の第1アンテナ素子のそれぞれに供給するパルス信号供給手段と、
前記複数の第1アンテナ素子のそれぞれに供給される前記高周波パルス信号の位相を個別に調整する送信側位相調整手段と、
前記高周波パルス信号が前記パルスオン状態であるときに、予め設定されたパルス送信方向に向けて前記第1アンテナ列が前記高周波パルス信号を送信するように、前記送信側位相調整手段を制御する送信方向制御手段と、
前記高周波パルス信号が前記パルスオフ状態であるときに、前記高周波パルス信号が前記パルスオン状態のときと前記高周波パルス信号の位相が異なるように、前記送信側位相調整手段を制御する送信側位相変更手段と
を備えることを特徴とする送信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の送信装置を備え、
前記第1アンテナ列は、送受信兼用であり、
前記第1アンテナ列に供給される前記高周波パルス信号と前記第1アンテナ列から供給される第1受信信号とを分離するためのサーキュレータと、
前記サーキュレータから供給される前記第1受信信号を受信する第1受信手段とを備える
ことを特徴とする送受信装置。
【請求項3】
請求項1に記載の送信装置と、
予め設定された第2配列方向に沿って配列された複数の第2アンテナ素子で構成された第2アンテナ列と、
前記第2アンテナ列から供給される第2受信信号を受信する第2受信手段と、
前記複数の第2アンテナ素子のそれぞれから供給される前記第2受信信号の位相を個別に調整する受信側位相調整手段と、
前記パルスオン状態にある前記高周波パルス信号であるパルスオン信号を前記送信装置が前記第1アンテナ列を介して一回送信してから、次の前記パルスオン信号を送信するまでの信号送信間隔内において、前記送信装置が前記パルスオン信号を送信してから予め設定された調整開始時間が経過した後に、前記パルスオン信号のパルス幅と略同じ時間間隔だけ、前記送信方向制御手段が調整した前記パルス送信方向で受信感度が最大となるように、前記受信側位相調整手段に前記第2受信信号の位相を調整させる受信方向制御手段と、
前記信号送信間隔内で、前記調整開始時間を走査する時間走査手段と、
前記受信方向制御手段が前記第2受信信号の位相を調整しているとき以外には、前記第2受信信号の位相が、前記受信方向制御手段が調整した位相と異なるように、前記受信側位相調整手段を制御する受信側位相変更手段と
を備えることを特徴とする送受信装置。
【請求項4】
予め設定された送信周波数を有する高周波信号が、前記高周波信号の振幅が大きいパルスオン状態と、前記高周波信号の振幅が小さいパルスオフ状態とで交互に変化する信号である高周波パルス信号を送信する送信装置とともに用いられ、前記送信装置が送信した前記高周波パルス信号を受信する受信装置であって、
予め設定された第2配列方向に沿って配列された複数の第2アンテナ素子で構成された第2アンテナ列と、
前記第2アンテナ列から供給される第2受信信号を受信する第2受信手段と、
前記複数の第2アンテナ素子のそれぞれから供給される前記第2受信信号の位相を個別に調整する受信側位相調整手段と、
前記パルスオン状態にある前記高周波パルス信号であるパルスオン信号を前記送信装置が一回送信してから、次の前記パルスオン信号を送信するまでの信号送信間隔内において、前記送信装置が前記パルスオン信号を送信してから予め設定された調整開始時間が経過した後に、前記パルスオン信号のパルス幅と略同じ時間間隔だけ、前記送信方向制御手段が調整した前記パルス送信方向で受信感度が最大となるように、前記受信側位相調整手段に前記第2受信信号の位相を調整させる受信方向制御手段と、
前記信号送信間隔の範囲内で、前記調整開始時間を走査する時間走査手段と、
前記受信方向制御手段が前記第2受信信号の位相を調整しているとき以外には、前記第2受信信号の位相が、前記受信方向制御手段が調整した位相と異なるように、前記受信側位相調整手段を制御する受信側位相変更手段と
を備えることを特徴とする受信装置。
【請求項1】
予め設定された第1配列方向に沿って配列された複数の第1アンテナ素子で構成された第1アンテナ列と、
予め設定された送信周波数を有する高周波信号が、前記高周波信号の振幅が大きいパルスオン状態と、前記高周波信号の振幅が小さいパルスオフ状態とで交互に変化する信号である高周波パルス信号を、前記複数の第1アンテナ素子のそれぞれに供給するパルス信号供給手段と、
前記複数の第1アンテナ素子のそれぞれに供給される前記高周波パルス信号の位相を個別に調整する送信側位相調整手段と、
前記高周波パルス信号が前記パルスオン状態であるときに、予め設定されたパルス送信方向に向けて前記第1アンテナ列が前記高周波パルス信号を送信するように、前記送信側位相調整手段を制御する送信方向制御手段と、
前記高周波パルス信号が前記パルスオフ状態であるときに、前記高周波パルス信号が前記パルスオン状態のときと前記高周波パルス信号の位相が異なるように、前記送信側位相調整手段を制御する送信側位相変更手段と
を備えることを特徴とする送信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の送信装置を備え、
前記第1アンテナ列は、送受信兼用であり、
前記第1アンテナ列に供給される前記高周波パルス信号と前記第1アンテナ列から供給される第1受信信号とを分離するためのサーキュレータと、
前記サーキュレータから供給される前記第1受信信号を受信する第1受信手段とを備える
ことを特徴とする送受信装置。
【請求項3】
請求項1に記載の送信装置と、
予め設定された第2配列方向に沿って配列された複数の第2アンテナ素子で構成された第2アンテナ列と、
前記第2アンテナ列から供給される第2受信信号を受信する第2受信手段と、
前記複数の第2アンテナ素子のそれぞれから供給される前記第2受信信号の位相を個別に調整する受信側位相調整手段と、
前記パルスオン状態にある前記高周波パルス信号であるパルスオン信号を前記送信装置が前記第1アンテナ列を介して一回送信してから、次の前記パルスオン信号を送信するまでの信号送信間隔内において、前記送信装置が前記パルスオン信号を送信してから予め設定された調整開始時間が経過した後に、前記パルスオン信号のパルス幅と略同じ時間間隔だけ、前記送信方向制御手段が調整した前記パルス送信方向で受信感度が最大となるように、前記受信側位相調整手段に前記第2受信信号の位相を調整させる受信方向制御手段と、
前記信号送信間隔内で、前記調整開始時間を走査する時間走査手段と、
前記受信方向制御手段が前記第2受信信号の位相を調整しているとき以外には、前記第2受信信号の位相が、前記受信方向制御手段が調整した位相と異なるように、前記受信側位相調整手段を制御する受信側位相変更手段と
を備えることを特徴とする送受信装置。
【請求項4】
予め設定された送信周波数を有する高周波信号が、前記高周波信号の振幅が大きいパルスオン状態と、前記高周波信号の振幅が小さいパルスオフ状態とで交互に変化する信号である高周波パルス信号を送信する送信装置とともに用いられ、前記送信装置が送信した前記高周波パルス信号を受信する受信装置であって、
予め設定された第2配列方向に沿って配列された複数の第2アンテナ素子で構成された第2アンテナ列と、
前記第2アンテナ列から供給される第2受信信号を受信する第2受信手段と、
前記複数の第2アンテナ素子のそれぞれから供給される前記第2受信信号の位相を個別に調整する受信側位相調整手段と、
前記パルスオン状態にある前記高周波パルス信号であるパルスオン信号を前記送信装置が一回送信してから、次の前記パルスオン信号を送信するまでの信号送信間隔内において、前記送信装置が前記パルスオン信号を送信してから予め設定された調整開始時間が経過した後に、前記パルスオン信号のパルス幅と略同じ時間間隔だけ、前記送信方向制御手段が調整した前記パルス送信方向で受信感度が最大となるように、前記受信側位相調整手段に前記第2受信信号の位相を調整させる受信方向制御手段と、
前記信号送信間隔の範囲内で、前記調整開始時間を走査する時間走査手段と、
前記受信方向制御手段が前記第2受信信号の位相を調整しているとき以外には、前記第2受信信号の位相が、前記受信方向制御手段が調整した位相と異なるように、前記受信側位相調整手段を制御する受信側位相変更手段と
を備えることを特徴とする受信装置。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図6】
【図7】
【図9】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図6】
【図7】
【図9】
【公開番号】特開2010−197232(P2010−197232A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42859(P2009−42859)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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