説明

送信装置および無線通信方法

【課題】 HARQの有無に対応した適切なMCSにより無線通信を行うことで、安定性の高い無線通信を構築することを目的とする。
【解決手段】
本発明の送信装置は、HARQ応答の有無それぞれにおけるMCS毎の通信品質に対するFERの推移を示すテーブルを予め記憶するテーブル記憶部220と、送信すべきデータのQoSクラスに応じてHARQ応答の有無を切り換えるHARQ切換部238と、HARQの有無の切換に応じて、テーブルを参照しHARQ有りのMCSとそれに対応するHARQ無しのMCSとを切り換えるMCS切換部240と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応変調(高速適応変調)による無線通信が可能な送信装置および無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PHS(Personal Handy phone System)や携帯電話等に代表される移動局が普及し、場所や時間を問わず通話や情報入手が可能となった。特に昨今では、入手可能な情報量も増加の一途を辿り、大容量のデータをダウンロードするため高速かつ高品質な無線通信方式が取り入れられるようになってきた。
【0003】
例えば、高速デジタル通信を可能とする次世代PHS通信規格として、ARIB(Association of Radio Industries and Businesses) STD T95やPHS MoU(Memorandum of Understanding)があり、このような通信では、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式が採用されている。かかるOFDMは、多重化方式の一つに分類され、単位時間軸上で多数の搬送波を利用し、変調対象となる信号波の位相が隣り合う搬送波間で直交するように搬送波の帯域を一部重ね合わせて周波数帯域を有効利用する方式である。
【0004】
また、OFDMが個別のユーザ毎に時分割でサブチャネルを割り当てているのに対して、複数のユーザが全サブチャネルを共有し、各ユーザにとって最も伝送効率のよいサブチャネルを割り当てるOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiplexing Access:直交周波数分割多元接続)も提供されている。
【0005】
ARIB STD T95やPHS MoUでは、受信装置が、適応変調により決定された変調方式およびコーディング方式(MCS:Modulation and Coding Scheme、以下単にMCSという。)を、FM−mode(Fast access channel based on Map-Mode)(例えば、非特許文献1)におけるアンカーチャネルを通じて送信装置に送信し、送信装置がそのMCSに基づきデータを変調することで、送信装置と受信装置とは、その時点の通信環境における最適なMCSを用いた通信を行うことができる。
【0006】
かかる適応変調は、通信信号の信号対干渉雑音比(SINR:Signal to Interference and Noise Ratio)やビットエラーレートに基づいて送信装置と受信装置との間の通信環境を推測し、お互いに、より良い通信環境の下ではより高い変調効率を示すMCSを選択し、通信環境の悪い状況下では低い変調効率を示すMCSを選択して、安定した無線通信の実施を可能にする。
【0007】
さらに、ARIB STD T95やPHS MoUでは、受信装置が誤ったデータを受信した場合、送信した送信装置に対してそのデータの再送を要求する自動再送要求(ARQ:Automatic Repeat reQuest、以下単にARQという。)が送信される。送信装置は、かかるARQに対しMACレイヤ(低レイヤ)でデータの再送処理を行うので、短い制御時間でエラーを効率良く補償することができる(非特許文献2)。
【0008】
また、ARIB STD T95やPHS MoUでは、かかるARQと前方誤り訂正(FEC:Forward Error Correction)とを組み合わせて、パケットエラー訂正の効率をさらに向上させたHARQ(Hybrid ARQ)技術も採用されている(例えば、特許文献1)。また、このようなHARQにおける肯定応答に応答してHARQバッファを一括消去する技術も知られている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2006−502659号公報
【特許文献2】特開2006−505219号公報
【非特許文献1】ARIB(Association of Radio Industries and Businesses) STD-T95
【非特許文献2】A-GN4.00-01-TS Rev.3「Next Generation PHS Specifications」,P331-340
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ARIB STD T95やPHS MoUでは、遅延を許容しないQoS(Quality of Service)クラスの送信データ、例えばリアルタイム性を要する音声データが生じた場合、送信装置側でHARQの再送データの送信を強制的にキャンセルし、その遅延を許容しない送信データを優先的に送信する。従って、本来生じるはずのHARQ再送による利得を得ることができなくなるが、それに拘わらず、HARQが有効であることを想定して受信装置から要求された変調効率の高いMCSのまま上記の送信データを送信してしまうとエラーが生じてしまう。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑み、HARQの有無に対応した適切なMCSにより無線通信を行うことで、安定性の高い無線通信を構築することが可能な、送信装置および無線通信方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の代表的な構成は、受信装置からの要求に対応したMCSに基づいて、送信データと共に受信装置からのHARQに応じた再送データを送信可能な送信装置であって、HARQ応答の有無それぞれにおけるMCS毎の通信品質に対するFERの推移を示すテーブルを予め記憶するテーブル記憶部と、送信すべきデータのQoSクラスに応じてHARQ応答の有無を切り換えるHARQ切換部と、HARQの有無の切換に応じて、テーブルを参照しHARQ有りのMCSとそれに対応するHARQ無しのMCSとを切り換えるMCS切換部と、を備えることを特徴とする。当該送信装置は、ARIB STD T95またはPHS MoUに準拠した無線通信を実行してもよい。
【0012】
HARQ切換部は、送信データが、遅延を許容しないQoSクラス(QoSサービスクラス)の送信データだった場合、HARQの再送データの送信を強制的にキャンセルする。従って、HARQがキャンセルされた場合における適切なMCSと、HARQが有効であることを想定して受信装置から要求されたMCSとでは差が生じる。本発明では、受信装置からの要求に拘わらず、MCS切換部によって、HARQがキャンセルされた場合における適切なMCSを選択することで、その差分(HARQの利得分)だけ変調効率を引き下げる。かかる構成により送信データのQoSクラスの如何に拘わらず、安定性の高い無線通信を構築することが可能となる。
【0013】
MCS切換部は、HARQ有りのMCSからHARQ無しのMCSに切り換える際、切換前のMCSとFERとから導出される通信品質において、切換後のFERが切換前のFER以下となるようにMCSを切り換えてもよい。
【0014】
MCS切換部は、切換前のMCSとFERとから導出される通信品質、即ち、現時点の通信環境において、切換後のFERが切換前のFERと等しくなるのが望ましい。しかし、HARQ応答の有無それぞれのFERの推移はテーブル上で異なるので、同通信品質においてFERが異なる。従って、無線通信を安定側で実行するため切換後のFERを切換前のFER以下に設定する。
【0015】
本発明にかかる他の構成は、受信装置からの要求に対応したMCSに基づいて、送信データと共に受信装置からのHARQに応じた再送データを送信する無線通信方法であって、送信すべきデータのQoSクラスに応じてHARQ応答の有無を切り換え、HARQ応答の有無それぞれにおけるMCS毎の通信品質に対するFERの推移を示すテーブルを参照し、HARQの有無の切換に応じて、HARQ有りのMCSとそれに対応するHARQ無しのMCSとを切り換えることを特徴とする。
【0016】
上述した送信装置における技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該無線通信方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0017】
以上のように本発明の送信装置では、HARQの有無に対応した適切なMCSにより無線通信を行うことで、安定性の高い無線通信を構築することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
PHS端末や携帯電話等に代表される移動局は、所定間隔をおいて固定配置される基地局と無線で通信を行う無線通信システムを構築する。かかる無線通信システムにおける基地局および移動局は、いずれの局もデータを送受信する送信装置および受信装置として機能する。本実施形態では、理解を容易にするため基地局を送信装置、移動局を受信装置として説明する。しかし、その逆の構成も成り立つのは言うまでもない。
【0020】
ここでは、まず、無線通信システム全体を説明し、その後、基地局、および移動局としてのPHS端末の具体的構成を説明する。また、本実施形態では、移動局としてPHS端末を挙げているが、かかる場合に限らず、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Digital Assistant)、デジタルカメラ、音楽プレイヤー、カーナビゲーション、ポータブルテレビ、ゲーム機器、DVDプレイヤー、リモートコントローラ等無線通信可能な様々な電子機器を移動局として用いることもできる。
【0021】
(第1の実施形態:無線通信システム100)
図1は、無線通信システム100の概略的な接続関係を示した説明図である。当該無線通信システム100は、PHS端末110(110A、110B)と、基地局120(120A、120B)と、ISDN(Integrated Services Digital Network)回線、インターネット、専用回線等で構成される通信網130と、中継サーバ140とを含んで構成される。
【0022】
上記無線通信システム100において、ユーザが自身のPHS端末110Aから他のPHS端末110Bへの通信回線の接続を行う場合、PHS端末110Aは、通信可能範囲内にある基地局120Aに無線接続要求を行う。無線接続要求を受信した基地局120Aは、通信網130を介して中継サーバ140に通信相手との通信接続を要求し、中継サーバ140は、PHS端末110Bの位置登録情報を参照し他のPHS端末110Bの無線通信範囲内にある例えば基地局120Bを選択して基地局120Aと基地局120Bとの通信経路を確保し、PHS端末110AとPHS端末110Bの通信を確立する。
【0023】
このような無線通信システム100においては、PHS端末110と基地局120との通信速度および通信品質を向上させるため様々な技術が採用されている。本実施形態では、例えば、ARIB STD T95やPHS MoU等の次世代PHS通信技術が採用され、PHS端末110と基地局120との間ではTDD(Time Division Duplex:時分割双方向伝送方式)/OFDMA(またはTDD/OFDM)方式に基づいた無線通信が実行される。また、当該無線通信システム100には適応変調も用いられ、PHS端末110と基地局120とが互いに望ましいMCSを要求することで、通信品質を維持しつつ、通信環境の変化に応じて適応的に変調方式を変え通信速度を向上させることができる。
【0024】
さらに、本実施形態の無線通信システム100には、ARQと前方誤り訂正(FEC)とを組み合わせたHARQが採用され、1または複数回の再送データを通じて誤りが訂正される。かかる誤り訂正は通信信号における雑音が軽減されることと同義であり、SINR(SNR)が改善され利得が高くなる。従って、HARQを採用することで、より変調効率の高いMCSを選択することができる。本実施形態では、受信装置としてのPHS端末110が送信装置としての基地局120に対して、HARQによる利得を想定した高いMCSを要求する。以下、基地局120とPHS端末110の具体的な構成と動作を説明する。
【0025】
(基地局120)
図2は、基地局120の概略的な構成を示したブロック図である。基地局120は、基地局制御部210と、基地局メモリ212と、基地局無線通信部214と、基地局有線通信部216とを含んで構成される。
【0026】
基地局制御部210は、中央処理装置(CPU)を含む半導体集積回路により基地局120全体を管理および制御する。また、基地局制御部210は、基地局メモリ212のプログラムを用いて、PHS端末110の通信網130や他のPHS端末110への通信接続を制御する。基地局メモリ212は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、基地局制御部210で処理されるプログラム等を記憶する。また、基地局メモリ212は、HARQの有無それぞれにおけるMCS毎の通信品質に対するFERの推移を示すテーブルを予め記憶するテーブル記憶部220としても機能する。通信品質は、無線通信環境を踏まえた通信の品質であり、例えばSINR等により優劣を表現できる。
【0027】
図3は、テーブルのイメージを示したイメージ図である。ここでは、理解を容易にするため、テーブルを、MCS毎の通信品質(SINR)に対するFERの推移として実線で示しているが、実際のテーブルはその推移を形成する複数の点で表され、必要に応じて補間される。また、テーブルは、HARQの有無によって相異し、HARQ有りの場合の推移が点線で、MCSのクラスが「MH」に続く数値で示され、HARQ無しの場合の推移が実線で、MCSのクラスが「M」に続く数値で示される。
【0028】
図3を参照すると、HARQ有りのFERの推移は、同一通信品質、同一MCSであればHARQ無しのFERの推移よりFERが小さくなることが分かる。換言すれば、HARQが有効であることを想定したMCSを維持したまま、HARQをキャンセルすると、FERはHARQ無しのFERの推移まで上がり、エラーが生じる頻度が高くなる。かかるテーブルを用いた処理は後ほど詳述する。
【0029】
図4は、MCSのクラスを説明するための説明図である。本実施形態では、例えば、MCS識別子「4」の予約クラスを除く10クラスのMCSを設け、各クラスには、変調方式とコーディング方式が準備されている。図4においては、MCS識別子の数値が高くなるほど変調効率が高くなる。図3における「M」や「MH」に続く数値は、当該図4のMCS識別子に相当する。
【0030】
基地局無線通信部214は、PHS端末110との通信を確立し、データの送受信を行う。また、PHS端末110との通信品質に応じて効率のよい通信を行うための最適なMCSを決定し、PHS端末110に要求することもできる。本実施形態の適応変調におけるMCSの切換は、上述した図3のテーブルにおけるFER値を閾値として設定してもよい。例えば、FER所定%を閾値とすると、その所定%を超えたときにMCSを変調効率が低いクラスに1段階下げる。
【0031】
基地局有線通信部216は、通信網130を介して中継サーバ140を含む様々なサーバと接続することができる。
【0032】
また、本実施形態において基地局無線通信部214は、送信データ保持部230、データ変調部232、データ送信部234、HARQ受信部236、HARQ切換部238、MCS切換部240としても機能する。
【0033】
送信データ保持部230は、巡回冗長検査ビット(CRC:Cyclic Redundancy Check Bit)が付加された送信対象のデータ(送信データ)を、送信データのフレームを特定可能なフレーム識別子に関連付けて保持する。本実施形態において「識別子」は、数値、アルファベット、記号によりそのものを一意に特定できる表示をいう。
【0034】
データ変調部232は、保持されたMCSに基づき送信データを変調し、ベースバンド信号を生成する。ここで、MCSは、PHS端末110が要求するMCSと等しいかまたは変調効率が劣るMCSとなる。かかる構成により、当該データの変調を、PHS端末110の要求があったMCS以下であり、かつ基地局120が変調可能なMCSに基づいて行うことができ、PHS端末110および基地局120の両装置における最適なMCSによる、より安定な無線通信を構築することができる。
【0035】
また、データ変調部232は、PHS端末110からHARQの要求があった場合に、HARQの対象となるフレーム識別子およびエラー部分識別子で特定される送信データ保持部230に保持されたデータのエラー部分(再送データ)を、PHS端末110から要求されたMCSに基づいて変調する。この変調タイミングおよび後段の送信タイミングは規格によって定められている。
【0036】
データ送信部234は、データ変調部232によって変調された、送信データとMCSを特定可能なMCS識別子とを送信する。また、データ送信部234は、PHS端末110からHARQの要求があった場合、上記送信データに加えて再送データを無線通信システム100で定められている所定のフレームタイミングで再送する。
【0037】
HARQ受信部236は、PHS端末110からNACKによるHARQがあった場合に、アンカーチャネルに含まれるエラーのあったデータのフレーム識別子とエラー部分の識別子とを抽出し、送信データ保持部230に保持された送信データとエラー部分を特定する。また、HARQ受信部236は、ACKを受けた場合、送信データ保持部230に保持されたデータを解放する。
【0038】
HARQ切換部238は、送信すべきデータのQoSクラスに応じてHARQ応答の有無を切り換える。従って、例えば送信データが遅延を許容しないQoSクラスの送信データであった場合、HARQ応答をキャンセルして送信データを優先的に送信する。このとき、HARQ切換部238は、送信データのHARQキャンセルビットを立てる。
【0039】
上記「遅延を許容しないQoSクラスの送信データ」は、音声データや動画データ等のリアルタイム性の高い送信データであり、例えばPHS MoU(A-GN4.00-01-TS Rev.3)のQoSサービスクラスにおいては「no Packet loss and Variable Rate Class」として分類されている。
【0040】
MCS切換部240は、HARQ切換部238によるHARQの有無の切換に応じて、図3で示したテーブルを参照し、HARQ有りのMCSとそれに対応するHARQ無しのMCSとを切り換える。
【0041】
上述したように、HARQ切換部238は、送信データが、遅延を許容しないQoSクラスの送信データだった場合、HARQの再送データの送信を強制的にキャンセルする。従って、HARQがキャンセルされた場合における適切なMCSと、HARQが有効であることを想定して受信装置から要求されたMCSとでは差が生じる。本実施形態では、PHS端末110からのMCSの要求(MR(Mcs Requirement))に拘わらず、MCS切換部240によって、HARQがキャンセルされた場合における適切なMCSを選択することで、その差分(HARQの利得分)だけ変調効率を引き下げる。
【0042】
再度図3を用いて具体的に説明すると、例えばPHS端末110からのMRによって要求されたMCSが「9(MH9)」であった場合、HARQが適用されているときには基地局120はそのままのMCSを選択できる。しかし、かかるMCSは、HARQが有効であることを想定して要求されているので、HARQ応答がキャンセルされているにも拘わらず同一のMCSで送信データを送信すると利得が低下してエラーを招く。そこで、MCS切換部240は、変調効率を落としてMCSを「7(M7)」とする。
【0043】
このとき、MCS切換部240は、HARQ有りのMCS、上記の例ではMCS「9(MH9)」とFERとから導出される通信品質において、HARQ無しのFERがHARQ有りのFER以下となるようにMCSを切り換える。
【0044】
MCS切換部240は、切換前のMCSとFERとから導出される、図3中一点鎖線で示される通信品質、即ち、現時点の通信環境において、切換後のFERが切換前のFERと等しくなるのが望ましい。しかし、HARQ応答の有無それぞれのFERの推移はテーブル上で異なる。従って、同通信品質においてFERが異なる場合、無線通信を安定側で実行するため切換後のFER(図3のB)を切換前のFER(図3のA)以下に設定する。かかる構成により送信データのQoSクラスの如何に拘わらず、安定性の高い無線通信を構築することが可能となる。
【0045】
MCS切換部240は、変更されたMCS「7(M7)」をデータ変調部232に伝達し、かかるMCSで変調させると共に、PHS端末110へのMI(Mcs Indicator)に当該MCSを記載する。
【0046】
(PHS端末110)
図5は、PHS端末110のハードウェア構成を示した機能ブロック図であり、図6は、PHS端末110の外観を示した斜視図である。PHS端末110は、端末制御部310と、端末メモリ312と、表示部314と、操作部316と、音声入力部318と、音声出力部320と、端末無線通信部322とを含んで構成される。
【0047】
端末制御部310は、中央処理装置(CPU)を含む半導体集積回路によりPHS端末110全体を管理および制御する。また、端末制御部310は、端末メモリ312のプログラムを用いて、通話機能、メール送受信機能、撮像機能、音楽再生機能、TV視聴機能も遂行する。端末メモリ312は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、端末制御部310で処理されるプログラムや音声データ等を記憶する。
【0048】
表示部314は、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)等で構成され、端末メモリ312に記憶された、または通信網130を介してアプリケーション中継サーバ(図示せず)から提供される、WebブラウザやアプリケーションのGUI(Graphical User Interface)を表示することができる。操作部316は、キーボード、十字キー、ジョイスティック等のスイッチから構成され、ユーザの操作入力を受け付ける。
【0049】
音声入力部318は、マイク等の音声認識手段で構成され、通話時に入力されたユーザの音声をPHS端末110内で処理可能な電気信号に変換する。音声出力部320は、スピーカで構成され、PHS端末110で受信した通話相手の音声信号を音声に変えて出力する。また、着信音や、操作部316の操作音、アラーム音等も出力できる。
【0050】
また、本実施形態において端末無線通信部322は、データ受信部330、データ復調部332、MCS決定部334、誤り訂正部336、エラー検出部338、復調データ保持部340、HARQ送信部342、HARQ合成部344、HARQキャンセル判定部346としても機能する。
【0051】
データ受信部330は、基地局120からデータおよびMCS識別子を受信する。
【0052】
データ復調部332は、データ受信部330が受信したMCS識別子(MI)により特定されるMCSに基づきデータを復調し、誤り訂正部336に転送する。また、当該PHS端末110がHARQを要求した後、所定のフレームタイミングで再送データを含むデータを受信した場合、データ復調部332は、受信したデータを、受信したMCS識別子により特定されるMCSに基づいて復調し、HARQ合成部344に転送する。
【0053】
MCS決定部334は、データ復調部332によって復調されたデータのSINRを計算し、基地局120へ要求するMCSを決定する。
【0054】
誤り訂正(FEC)部336は、ビタビ符号等の誤り訂正方式に基づいて、データ復調部332またはHARQ合成部344から転送されたデータの誤り訂正を行う。
【0055】
エラー検出部338は、巡回冗長検査ビット(CRC)等を通じて、誤り訂正部336によっても訂正できなかったエラーを検出する。エラー検出部338は、受信したデータにエラーが検出されなかった場合、MACレイヤにPHYペイロードの情報を伝え、後述するHARQ送信部342にACKを返信するように指令し、さらに、後述する復調データ保持部340のデータをクリアする。またエラーが検出された場合MACレイヤにはペイロード情報を渡さず、HARQ送信部342にNACKを返信させる。
【0056】
復調データ保持部340は、エラー検出部338がエラーを検出した場合、復調されたデータとデータのMCS識別子とをフレーム識別子に関連付けて保持する。
【0057】
HARQ送信部342は、エラー検出部338がエラーを検出した場合、データのフレーム識別子とエラー部分の識別子とを含むHARQを基地局120に対して送信する。本実施形態ではTDD/OFDMA方式によりフレーム単位のデータが基地局120との間で交互に送受信されているので、HARQは基地局120に送信すべき送信データのアンカーチャネルを利用して送信される。このとき、同じくしてアンカーチャネルに設定されるMCSの要求(MR)はエラーが検出されたデータのMCSとなる。
【0058】
HARQ合成部344は、チェイス合成法やIR(Incremental Redundancy)合成法等の合成方法を用い、データ復調部332によって復調された再送データと、復調データ保持部340に保持されたデータとをチェイス合成(Chase Combining)し、誤り訂正部336に転送する。
【0059】
図7は、チェイス合成の動作を説明するための説明図である。図7における「EXCH」は、エクストラチャネルを示し、FM−Modeにおける通話路としてユーザ毎に割り当てられるPRU(Physical Resource Unit)を表す。
【0060】
PHS端末110が受信、復調したデータにエラーが検出された場合、NACKと共にそのエラー部分のみを基地局120に伝達し、かつ、そのエラーが検出されたフレームを破棄せずに復調データ保持部340に保持する。そして、基地局120からそのエラー部分のみを再送データ360として受信すると、PHS端末110は、再送データ360と復調データ保持部340に保持されていたデータ362とを最大比合成(MRC:Maximum Ratio Combining)によって合成し、復元データ364を生成する。かかるチェイス合成法では、データの最大比合成によって受信フレームのSINRを向上させて、効率的にエラー低減を図ることができる。
【0061】
HARQキャンセル判定部346は、データ復調部332によって復調されたデータにHARQキャンセルビットが立っているかどうか判定する。このとき、HARQキャンセル判定部346がHARQのキャンセルビットが立っていると判定した場合、HARQ合成部344による合成は実行されない。そして、エラー検出部338は、誤り訂正後のデータのエラー検出を実行し、エラーが検出されなければ上位のMACレイヤにデータを伝達するが、エラーが検出された場合であっても、HARQがキャンセルされているので、ACKフィールドにはACKを返し、再送要求は上位レイヤ(ARQ)に任せる。
【0062】
以上説明した無線通信システム100では、2つの装置間、ここでは、PHS端末110と基地局120との通信経路を利用して、双方がHARQによる誤り訂正を行うことができ、かつ、HARQのキャンセルが発生したとしてもHARQの有無に対応した適切なMCSが選択されることにより、安定性の高い無線通信を構築することが可能となる。次に、上述したPHS端末110や基地局120を用いて無線通信を行う無線通信方法を説明する。
【0063】
(無線通信方法)
図8は、無線通信方法の処理の流れを示したフローチャートであり、図9は、図8のフローチャートの補足説明を行うためのブロック図である。
【0064】
まず、PHS端末110は、送信データのアンカーチャネルを通じてMCSを要求し(S400)、基地局120は、要求されたMCSに応じて送信するデータのMCSを決定する(S402)。そして、基地局120は、送信されるデータを送信データ保持部230に一旦保持する(S404)。送信データ保持部230に保持されたデータは、HARQが発生していないとみなすことができる所定時間が経過するまで保持される。基地局120のデータ変調部232は、このMCSを用いてデータを変調し(S406)、データ送信部234がその変調されたデータをPHS端末110に送信する(S408)。
【0065】
PHS端末110のデータ受信部330は、基地局120からデータおよびMCS識別子を受信すると(S410)、データ復調部332がMCS識別子により特定されるMCSに基づきそのデータを復調し(S412)、誤り訂正部336がデータの誤り訂正を行う(S414)。ここで、エラー検出部338は、データに誤り訂正部336によっても訂正できなかったエラーが残っているかどうか検出し(S416)、エラーがない場合、ACKを基地局120に返信し、そのデータを上位レイヤに転送する(S418)。
【0066】
エラー検出ステップ(S416)でエラーが検出された場合、復調データ保持部340が復調されたデータとデータのMCS識別子とをフレーム識別子に関連付けて保持し(S420)、HARQ送信部342がNACK、フレーム識別子、エラー部分の識別子を含むACKフィールドを用いてHARQを送信する(S422)。
【0067】
基地局120のHARQ受信部236は上記HARQを受けると、ACKフィールドのフレーム識別子およびエラー部分識別子で特定される、送信データ保持部230に保持されたデータのエラー部分を再送データとして準備する(S424)。
【0068】
ここで、次なる送信データが遅延を許容しないQoSクラスであるかどうかが判定され(S426)、遅延の許される通常の送信データであれば、データ変調部232が、PHS端末110から要求されたMCSに基づいて送信データおよび再送データを変調する(S428)。
【0069】
基地局120のデータ送信部234は、変調されたデータをPHS端末110に送信し(S430)、PHS端末110のデータ受信部330がそのデータを受信すると(S432)、データ復調部332は、規定されたHARQタイミングにおいて、受信したデータの再送データを復調データ保持部340に保持されたMCSに基づいて復調し、通常データを適応変調により決定されたMCSに基づいて復調する(S434)。その後、HARQ合成部344が復調されたエラー部分と、復調データ保持部340に保持されたデータとをチェイス合成させ(S436)、データの誤り訂正ステップ(S414)から繰り返される。
【0070】
また、送信データ判定ステップ(S426)において、送信データが遅延を許容しないQoSクラスであると判定された場合(S426の「YES」)、基地局120のHARQ切換部238は、HARQ応答をキャンセルし(S438)、MCS切換部240は、テーブル記憶部220が記憶するテーブルを参照して、HARQ有りのMCSをそれに対応するHARQ無しのMCSに切り換える(S440)。
【0071】
かかる無線通信方法においても、HARQの有無に対応した適切なMCSにより、安定性の高い無線通信を構築することが可能となる。
【0072】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0073】
なお、本明細書の無線通信方法における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、適応変調(高速適応変調)による無線通信が可能な送信装置および無線通信方法に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】無線通信システムの概略的な接続関係を示した説明図である。
【図2】基地局の概略的な構成を示したブロック図である。
【図3】テーブルのイメージを示したイメージ図である。
【図4】MCSのクラスを説明するための説明図である。
【図5】PHS端末のハードウェア構成を示した機能ブロック図である。
【図6】PHS端末の外観を示した斜視図である。
【図7】チェイス合成の動作を説明するための説明図である。
【図8】無線通信方法の処理の流れを示したフローチャートである。
【図9】図8のフローチャートの補足説明を行うためのブロック図である。
【符号の説明】
【0076】
110 …PHS端末(受信装置)
120 …基地局(送信装置)
220 …テーブル記憶部
238 …HARQ切換部
240 …MCS切換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信装置からの要求に対応したMCSに基づいて、送信データと共に該受信装置からのHARQに応じた再送データを送信可能な送信装置であって、
HARQ応答の有無それぞれにおけるMCS毎の通信品質に対するFERの推移を示すテーブルを予め記憶するテーブル記憶部と、
送信すべきデータのQoSクラスに応じてHARQ応答の有無を切り換えるHARQ切換部と、
前記HARQの有無の切換に応じて、前記テーブルを参照しHARQ有りのMCSとそれに対応するHARQ無しのMCSとを切り換えるMCS切換部と、
を備えることを特徴とする送信装置。
【請求項2】
前記MCS切換部は、HARQ有りのMCSからHARQ無しのMCSに切り換える際、切換前のMCSとFERとから導出される通信品質において、切換後のFERが切換前のFER以下となるようにMCSを切り換えることを特徴とする請求項1に記載の送信装置。
【請求項3】
当該送信装置は、ARIB STD T95またはPHS MoUに準拠した無線通信を実行することを特徴とする請求項1または2の送信装置。
【請求項4】
受信装置からの要求に対応したMCSに基づいて、送信データと共に該受信装置からのHARQに応じた再送データを送信する無線通信方法であって、
送信すべきデータのQoSクラスに応じてHARQ応答の有無を切り換え、
HARQ応答の有無それぞれにおけるMCS毎の通信品質に対するFERの推移を示すテーブルを参照し、前記HARQの有無の切換に応じて、HARQ有りのMCSとそれに対応するHARQ無しのMCSとを切り換えることを特徴とする無線通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−290393(P2009−290393A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138878(P2008−138878)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】