説明

送風機用羽根車

【課題】 厚翼構造の羽根の空力性能を向上させ、しかも羽根強度を落とすことなく全体の断面積を小さくして、材料費を節減する。
【解決手段】 モータの駆動軸に固定されるハブ2の外周面に複数枚の厚翼構造の羽根3,3・・・を所定の角度で一体化してなる送風機用羽根車において、上記羽根3,3・・・前縁3a,3a・・・部の曲率半径Rを、外周縁側からハブ2に近づくにつれて、次第に大きくなるようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本願発明は、送風機の羽根車の構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に軸流ファン又は斜流ファン等の送風機用の羽根車1の羽根3,3・・・には、例えば図7および図8に示すように、通常羽根外周縁からハブ2側にかけて厚さが一定の1枚の平板に適当な曲率を与えただけの薄翼構造のものが多く用いられている。その理由は、同構造では、羽根3,3・・・全体の断面積が小さいために材料費が僅少になり、特に量産する場合においては製造コストを相当に低減できる長所を有するためである。しかし、その反面、同構造のものは正圧面3c,3c・・・側はともかく、羽根前縁3a,3a・・・から羽根後縁3b,3b・・・方向にかけて負圧面3d,3d・・・側での剥離が大きく、それによって生じる羽根3,3・・・周囲の流れの乱れが原因で発生する空気力学的な騒音が大きい問題がある。
【0003】そこで、空気力学的な性能を向上させる目的で、例えば図9に示すように、上記のような送風機用羽根車1の羽根3,3・・・に肉厚の大きい厚翼構造(所謂エアフォイル構造)を採用することも行われている。
【0004】このような厚翼構造の羽根の場合、羽根前縁3aから後縁3b方向に十分な肉厚を有するために羽根3の前縁3a部に所定の曲率半径を持つことができるようになり、該曲率半径によって上述した負圧面3d側にコアンダ効果(気流が物体の表面に沿ってスムーズに流れる特性)が発生し、気流が羽根表面に沿ってスムーズに流れるようになり、上述のような気流の剥離を抑えることができる。その結果、空力性能が向上し、騒音の低減につながる。しかし、従来のものは、このような厚翼構造にした場合にも、上記羽根前縁3a部の曲率半径は、例えば図10に示すように、羽根外周縁から取付基部であるハブ2側にかけて一定の曲率半径に設定されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記図10のように羽根前縁3a部の曲率半径を羽根外周縁からハブ2側まで一定にした場合、羽根3の取付けおよび支持強度を得るために、少なくとも羽根3の根元部での厚さは、その他の部分以上に厚くしなければならない。その結果、羽根根元部での前縁3a部の曲率半径が特に大きくなり、最終的に、該根元部以外の前縁3a部の曲率半径が大きいことと合わせて、羽根3全体の材料が一層増大することになり、送風機の製造コストが大きく上昇する欠点がある。
【0006】また、以上のような軸流または斜流型送風機の羽根車1が空気調和機等に適用される場合に、ハブ2の上流側にモータとモータを本体ケーシングに対して支持固定するモータ台が存在することがある。このような場合、モータとモータ台を通過する部分の気流が乱れやすいので、該乱れた気流がハブ2近くの羽根根元部付近に向かって流れるようになる。その結果、ハブ2側とそれ以外の所で羽根3に向かう気流の性質が相違するようになる。したがって、羽根前縁3a部の曲率半径を羽根外周縁からハブ2側にかけて同一の曲率半径とすることは、空力性能の面から見ると決して最適とは言えない。
【0007】本願各発明は、上記のような従来の厚翼構造の羽根の問題点に鑑み、空気力学的騒音が少なくて空気力学的な性能は従来のものと変わらず、しかも翼断面積が全体として従来のものよりも小さく、その材料費を有効に低減することができるようにした送風機用羽根車を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本願各発明は、上記の目的を達成するために、それぞれ次のような課題解決手段を備えて構成されている。
【0009】(1) 請求項1の発明この発明の送風機用羽根車は、モータの駆動軸に固定されるハブ2の外周面に複数枚の厚翼構造の羽根3,3・・・を所定の角度で一体化してなる送風機用羽根車において、上記羽根3,3・・・前縁部3a,3a・・・の曲率半径Rを、外周縁側からハブ2に近づくにつれて、次第に大きくなるようにして構成されている。
【0010】このように構成すると、羽根外周縁からハブ2に近くなる部分の厚さを従来のものに比べて小さくすることができ、しかも根元部側での厚さは十分に大きくすることができるから、厚翼構造(エアフォイル構造)の送風機用羽根車の羽根3,3・・・の性能と強度を落とすことなく、羽根3,3・・・全体の使用材料量を最少限のものにすることができる。
【0011】その結果、軽量化することが可能となるため、モータの駆動力が小さくて済み、電力費用をも節減することができる。
【0012】また、ハブ2に近づくにつれ、羽根前縁3a,3a・・・の曲率半径を次第に大きくしているので、例えば当該送風機を空気調和機に適用した場合に、ハブ2近くでは、大きな曲率半径を持ってモータとモータ台による乱れた気流に対して効果的に対応することができるようになる。すなわち、モータおよびモータ台による乱れた気流があっても、羽根3,3・・・表面上の剥離が発生しにくくなる。
【0013】その結果、送風機自体の性能向上と騒音低減につながる。
【0014】(2) 請求項2の発明この発明の送風機用羽根車は、モータの駆動軸に固定されるハブ2の外周面に複数枚の厚翼構造の羽根3,3・・・を所定の角度で一体化してなる送風機用羽根車において、上記羽根3,3・・・前縁部3a,3a・・・の曲率半径Rを、外周縁側からハブ2に近づくにつれて、複数段階で次第に大きくなるようにしたことを特徴とする送風機用羽根車。
【0015】このように構成にした場合にも、上記請求項1の発明の場合と同様に、羽根外周縁からハブ2に近くなる部分の厚さを従来のものに比べて小さくすることができ、しかも根元部側での厚さは、より十分に大きくすることができるようになるから、厚翼構造(エアフォイル構造)の送風機用羽根車の羽根3,3・・・の性能と強度を落とすことなく、羽根3,3・・・全体の使用材料量を最少限のものにすることができる。
【0016】その結果、軽量化することが可能となるため、モータの駆動力が小さくて済み、電力費用をも節減することができる。
【0017】また、ハブ2に近づくにつれ、羽根前縁3a,3a・・・の曲率半径を次第に大きくしているので、例えば当該送風機を空気調和機に適用した場合に、ハブ2近くでは、大きな曲率半径を持ってモータとモータ台による乱れた気流に対して効果的に対応することができるようになる。すなわち、モータおよびモータ台による乱れた気流があっても、羽根3,3・・・表面上の剥離が発生しにくくなる。
【0018】その結果、送風機自体の性能向上と騒音低減につながる。
【0019】(3) 請求項3の発明この発明の送風機用羽根車は、上記請求項1又は2の発明の構成における送風機が、軸流送風機であることを特徴としている。
【0020】したがって、この発明の構成では、送風機として、例えばプロペラファン等の軸流送風機を採用した場合に、上記請求項1又は2の発明と同様の作用を有効に得ることができる。
【0021】(4) 請求項4の発明この発明の送風機用羽根車は、上記請求項1又は2の発明の構成における送風機が、斜流送風機であることを特徴としている。
【0022】したがって、この発明の構成では、送風機として、例えば斜流ファン等の斜流送風機を採用した場合に、上記請求項1又は2の発明と同様の作用を有効に得ることができる。
【0023】
【発明の効果】以上の結果、本願各発明の送風機用羽根車によると、厚翼構造の送風機用羽根車の羽根の空力性能を有効に向上させながら、しかも羽根強度を落とすことなく、材料費を可及的に低減することができる高性能で低コストな送風機の提供が可能となる。
【0024】
【発明の実施の形態】(実施の形態1)図1〜図4は、本願発明の実施の形態1に係る送風機用羽根車およびその羽根部の構成を示している。
【0025】この実施の形態の送風機用羽根車は、羽根車自体としては例えば前述の図7に示すようなプロペラファン等軸流型のものが採用されているが、その場合において当該羽根車の各羽根3,3・・・が、例えば図1〜図4に示すように、それぞれ厚翼構造(エアフォイル構造)をなし、しかも、その前縁3a,3a・・・部分の曲率半径Rが羽根外周縁(チップ)側では小さく、他方ハブ2側(根元部側)では大きく形成され、同曲率半径Rが羽根外周縁からハブ2側にかけてR1〜R5(図3および図4(a)〜(e)参照)とリニアな変化状態で次第に大きくなるように構成されている(R1<R2<R3<R4<R5)。
【0026】このような構成によると、ハブ2側根元部と羽根外周縁との間の羽根3,3・・・が主に仕事をする半径方向位置での羽根前縁3a,3a・・・部の曲率半径Rを、性能を下げることなく、最小限の値にすることができる。そして、ハブ2側に近づくにつれ、羽根前縁3a,3a・・・部の曲率半径RをR1〜R5と次第に大きくして行き、ハブ2で羽根3,3・・・全体の強度を実現するために必要な大きさの曲率半径にすることができる。
【0027】このようにすると、羽根外周縁からハブ2に近くなる部分の厚さを従来のものに比べて小さくすることができ、しかも根元部側での厚さは十分に大きくすることができるから、厚翼構造(エアフォイル構造)の送風機用羽根車の羽根3,3・・・の性能と強度を落とすことなく、羽根3,3・・・全体の使用材料量を最少限にすることができる。
【0028】その結果、軽量化することが可能となるため、モータの駆動力が小さくて済み、電力費をも節減することができる。
【0029】また、ハブ2に近づくにつれ、羽根前縁3a,3a・・・の曲率半径を次第に大きくしているので、例えば当該送風機を空気調和機の室外機に適用したような場合に、ハブ2近くでは、大きな曲率半径を持ってモータとモータ台による乱れた気流に対して効果的に対応することができるようになる。すなわち、モータおよびモータ台による乱れた気流があっても、羽根3,3・・・表面上の剥離が発生しにくくなる。
【0030】その結果、送風機自体の性能向上と騒音低減につながる。
【0031】(変形例)なお、以上の構成では、羽根前縁3a部の曲率半径Rを羽根3の外周縁からハブ2側にかけて次第に大きくするに際し、羽根外周縁からハブ2側根元部付近まで連続的に曲率半径Rを大きくするように構成したが、これは例えば図5に示すように、羽根外周縁からハブ2側中間付近までの曲率と同中間付近からハブ2側根元部付近までの曲率の絶対値を変えて、2段階(複数段階)に曲率を大きくするようにし、外周縁側に比較してハブ2側の羽根前縁3a部分の厚さを相対的により厚くして、材料費を節減しながらも羽根3の剛性をより一層強化するように変形することもできる。
【0032】(実施の形態2)次に図6は、本願発明の実施の形態2に係る送風機用羽根車の羽根部の断面構成を示している。
【0033】この実施の形態のものは、例えば図6に示すように、上記実施の形態1における厚翼構造の羽根3,3・・・として、羽根3本体の内部を全体として必要な剛性が得られる可及的に広い範囲で中空にし、可及的な軽量化を図った中空厚翼羽根を採用したことを特徴としている。
【0034】このような中空厚翼羽根の場合には、上記実施の形態1の作用効果に加えて、さらに大きく材料を節減することができ、より軽量化することが可能であるため、よりモータの駆動力が小さくて済み、さらに電力費を節減することができる。
【0035】(他の実施の形態)なお、以上の実施の形態では、本願発明をプロペラファン等軸流送風機の羽根車に適用した場合について説明したが、本願発明は斜流ファン等斜流型送風機の羽根車に対して適用した場合にも同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明の実施の形態1に係る送風機用羽根車の羽根部の構成を示す斜視図である。
【図2】同羽根部の側面図である。
【図3】同羽根部の正面図である。
【図4】同羽根部の図3中に示す各切断部での断面構造を対比して示す図である。
【図5】同羽根部の変形例に係る構造を示す側面図である。
【図6】本願発明の実施の形態2に係る送風機用羽根車の羽根部の構成を示す断面図である。
【図7】従来一般の送風機用羽根車の構成を示す正面図である。
【図8】同羽根車の羽根前縁部の構成を示す側面図である。
【図9】同従来の羽根車の羽根部の改良例の構成を示す断面図である。
【図10】同改良例の羽根の前縁部の構成を示す側面図である。
【符号の説明】
1は送風機用羽根車、2はハブ、3は羽根、3aは前縁、3bは後縁、3cは正圧面、3dは負圧面、4は中空部、Rは曲率半径である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 モータの駆動軸に固定されるハブ(2)の外周面に複数枚の厚翼構造の羽根(3),(3)・・・を所定の角度で一体化してなる送風機用羽根車において、上記羽根(3),(3)・・・前縁部(3a),(3a)・・・の曲率半径(R)を、外周縁側からハブ(2)に近づくにつれて、次第に大きくなるようにしたことを特徴とする送風機用羽根車。
【請求項2】 モータの駆動軸に固定されるハブ(2)の外周面に複数枚の厚翼構造の羽根(3),(3)・・・を所定の角度で一体化してなる送風機用羽根車において、上記羽根(3),(3)・・・前縁部(3a),(3a)・・・の曲率半径(R)を、外周縁側からハブ(2)に近づくにつれて、複数段階で次第に大きくなるようにしたことを特徴とする送風機用羽根車。
【請求項3】 送風機が、軸流送風機であることを特徴とする請求項1又は2記載の送風機用羽根車。
【請求項4】 送風機が、斜流送風機であることを特徴とする請求項1又は2記載の送風機用羽根車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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