説明

逆浸透膜分離方法

【課題】第1のRO膜分離装置の給水をクロロスルファミン酸塩系酸化剤の存在下に膜分離処理し、第1のRO膜分離装置の濃縮水を第2のRO膜分離装置で膜分離処理するに当たり、第1のRO膜分離装置の濃縮水中に濃縮された酸化剤による第2のRO膜分離装置の膜劣化を防止した上で、微生物の殺菌・増殖抑制効果を有効に発揮させて膜汚染を防止する。
【解決手段】第2の逆浸透膜分離装置10に導入される水の酸化還元電位が200〜600mVとなるように第2のRO膜分離装置10の給水に還元剤を添加する。第2のRO膜分離装置10の給水に適切な添加量で還元剤を添加して、第1のRO膜分離装置5の濃縮水中に濃縮された酸化剤の必要量が残留するようにその一部を還元処理することにより、酸化剤による膜劣化を防止した上で、膜汚染を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原水を第1の逆浸透(RO)膜分離装置で処理して得られた濃縮水を第2のRO膜分離装置で処理する逆浸透膜分離方法に係り、特に、第1のRO膜分離装置の給水にスルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤(以下「クロロスルファミン酸塩系酸化剤」と称す場合がある。)の存在下に膜分離処理して膜汚染を防止すると共に、第2のRO膜分離装置の給水に還元剤を添加して濃縮水中の酸化剤を適度に還元除去して、濃縮水中に濃縮された酸化剤による第2のRO膜分離装置のRO膜の膜劣化を防止した上で、第2のRO膜分離装置においても膜汚染を防止する方法に関する。
【0002】
なお、本発明において、「RO膜」とは、「ナノ濾過(NF)膜」も包含する広義のRO膜をさす。
【背景技術】
【0003】
液晶や半導体などを製造する電子産業分野においては、製造時に大量の超純水ないし純水を使用する。また、近年では、水資源を有効に利用するために、使用済純水や排水を回収して再生、再利用する排水処理装置の導入が進んでいる。
【0004】
このような純水製造装置、排水回収装置などの水処理装置においては、圧力濾過装置、重力濾過装置、凝集沈澱処理装置、加圧浮上濾過装置、浸漬膜装置、膜式前処理装置などの前処理装置、電解質や中低分子の有機成分の除去が可能な逆浸透(RO)膜分離装置、電解質などのイオン性物質を除去するイオン交換樹脂装置や電気再生式連続純水装置、炭酸ガスなどの溶存ガスを除去する真空脱気塔や膜脱気装置、有機成分を酸化除去する紫外線酸化装置、微生物を死滅させる紫外線殺菌装置、有機成分を除去する生物処理装置や活性炭充填塔など、様々な装置、ユニットを組み合わせて目的の水質を得る。また、RO膜分離装置で得られた濃縮水については、これを更にRO膜分離装置(一般に「ブライン回収RO膜分離装置」と称される。)で処理して、系外へ排出する濃縮水量を低減し、透過水を原水と共に処理することにより水回収率を高めることが行われている。
【0005】
図1は、このような装置を組み合わせてなる水処理装置の一例を示す系統図であり、工水、市水等の原水は、重力濾過器1、濾過水槽2、熱交換器3、保安フィルター4を経て第1のRO膜分離装置5で膜分離処理され、透過水は膜脱気装置6、イオン交換樹脂装置7、及びMF膜(又はUF膜)分離装置8で更に処理されて純水が製造され、製造された純水はユースポイントに送給されるか、或いはサブシステムに送給されて更に処理されて超純水となる。また、第1のRO膜分離装置5の濃縮水は、濃縮水槽9を経て第2のRO膜分離装置10で膜分離処理され、濃縮水は系外へ排出され、透過水は第1のRO膜分離装置5の原水の一部とするため濾過水槽2に返送される。
【0006】
このような水処理装置においては、原水中に含まれる微生物が、装置配管内や膜面で増殖してスライムを形成し、水槽内の微生物繁殖による臭気発生、膜の透過水量低下といった障害を引き起こすことがある。微生物による汚染を防止するためには、原水に殺菌剤を常時又は間欠的に添加し、被処理水又は装置内を殺菌しながら処理する方法が一般的である。
【0007】
通常、重力濾過処理、凝集沈殿処理などの前処理装置においては、次亜塩素酸ナトリウムなどの遊離塩素系酸化剤で微生物の殺菌を行うが、ポリアミド系RO膜は遊離塩素に対する耐性が低いため、RO膜の前段で重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を注入し、遊離塩素を還元除去し、その後、クロラミンやクロロスルファミン酸ナトリウムといった結合塩素系酸化剤や、イソチアゾロン系化合物などの微生物増殖を抑制する化合物を含有するスライムコントロール剤を添加して、RO膜での微生物増殖を抑制する方法などが採られている(特許文献1〜3)。特に、特許文献3に記載されるスルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤(クロロスルファミン酸塩系酸化剤)は、従来よりも酸化力が低いにもかかわらず、上述した微生物による障害を効率的に防止することができる。これは、クロロスルファミン酸塩系酸化剤には、殺菌効果と併せて、付着したスライムないし微生物やそれらが排出する代謝物を剥離除去する効果があるためと考えられている。
【0008】
この特許文献3に記載されるクロロスルファミン酸塩系酸化剤は、水中で安定な結合塩素剤であるクロロスルファミン酸塩を形成し、この結合塩素剤により、安定した遊離塩素濃度を維持することにより、透過膜の劣化を引き起こすことなく、良好な剥離効果を発揮する。即ち、透過膜の塩素系酸化剤由来の酸化劣化の原因についての詳細は定かではないが、膜分離装置の給水における遊離塩素濃度の変動が確認されており、瞬間的な遊離塩素濃度の増加に伴い透過膜が劣化してしまうものと考えられる。また、この透過膜の劣化は、給水中に鉄や銅など金属が含まれる系において発生することが多いことから、給水中の金属と塩素剤との間で触媒作用により高い酸化力が発現し、透過膜の酸化劣化を引き起こしているとも考えられる。これに対して、特許文献3に記載されるクロロスルファミン酸塩系酸化剤であれば、水中で安定な結合塩素剤であるクロロスルファミン酸塩が形成される結果、原水水質の変動や事故により膜分離装置の給水のpHが変動した場合においても、給水中の遊離塩素濃度は大きく変動しないため、安定した微生物の殺菌・増殖抑制効果を得ることができ、また、遊離塩素濃度が瞬間的にも増加するようなことがないため、耐塩素性の低いポリアミド系高分子等を素材とする透過膜を用いる場合においても、透過膜の酸化劣化を回避することができ、効率良く膜分離を行うことが可能となる。
【0009】
図1に示すように、第1のRO膜分離装置5の給水にクロロスルファミン酸塩系酸化剤を添加している場合には、第1のRO膜分離装置5のみならず、第1のRO膜分離装置5の濃縮水を処理する第2のRO膜分離装置10における微生物の殺菌・増殖抑制効果も得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1−104310号公報
【特許文献2】特開平1−135506号公報
【特許文献3】特開2006−263510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、水処理装置のRO膜分離装置では、通常、水回収率70〜90%で運転を行っているため、例えば、図1の第1のRO膜分離装置5の給水に酸化剤を添加すると、添加された酸化剤も濃縮水中に濃縮されてブライン回収RO膜分離装置である第2のRO膜分離装置10に流入する。そのため、第2のRO膜分離装置10の給水がこの第1のRO膜分離装置5の濃縮水のみである場合、第2のRO膜分離装置10の給水の酸化剤濃度は、第1のRO膜分離装置5の給水の酸化剤濃度の約3〜10倍に濃縮される。前述したように、特許文献3に記載されるクロロスルファミン酸塩系酸化剤であれば、透過膜の酸化劣化のリスクが小さいが、この酸化剤であっても、濃縮水中に濃縮されることにより、第2のRO膜分離装置の膜劣化を引き起こす場合がある。
【0012】
この問題を解決するために、図1に示す如く、第2のRO膜分離装置10の給水となる第1のRO膜分離装置5の濃縮水に還元剤を添加して濃縮水中の酸化剤を還元除去することが考えられるが、RO膜分離装置の水回収率は、運転とともに変化し、従って、濃縮水中に濃縮される酸化剤濃度も一定ではない。また、第1のRO膜分離装置5の給水に添加された酸化剤は、系内の微生物や水中の有機物などと反応し、その残留量も逐次変化する。そのため、第2のRO膜分離装置10の膜の酸化劣化のリスクを最小限にするためには、還元剤の添加量を過剰にする必要があるが、還元剤の過剰添加では、第2のRO膜分離装置10の給水である第1のRO膜分離装置5の濃縮水の酸化剤濃度が低い場合、給水中の酸化剤が必要以上に還元剤で還元されてしまい、第2のRO膜分離装置10における微生物の殺菌・増殖抑制効果が得られなくなる。
【0013】
本発明は上記従来の問題点を解決するものであって、第1のRO膜分離装置の給水にクロロスルファミン酸塩系酸化剤を添加して膜分離処理し、この第1のRO膜分離装置の濃縮水を第2のRO膜分離装置で膜分離処理するに当たり、第1のRO膜分離装置の濃縮水中に濃縮された酸化剤による第2のRO膜分離装置の膜劣化を防止した上で、第2のRO膜分離装置においても酸化剤による微生物の殺菌・増殖抑制効果を有効に発揮させて膜汚染を防止する逆浸透膜分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ブライン回収RO膜分離装置である第2のRO膜分離装置の給水に還元剤を添加することでこのRO膜分離装置の膜の酸化劣化のリスクを最小限に抑えることが可能であること、また、このRO膜分離装置の給水の酸化還元電位(ORP)に基いて還元剤の添加制御を行うことで、還元剤の添加量を常時適切な値に維持し、第2のRO膜分離装置においても酸化剤の有効濃度を維持し得ることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、本発明(請求項1)の逆浸透膜分離方法は、原水を第1の逆浸透膜分離装置で処理して得られた濃縮水を第2の逆浸透膜分離装置で処理する逆浸透膜分離方法であって、該第1の逆浸透膜分離装置の給水にスルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤を存在させると共に、該第2の逆浸透膜分離装置の給水に還元剤を添加する逆浸透膜分離方法であって、該第2の逆浸透膜分離装置に導入される水の酸化還元電位が200〜600mVとなるように前記還元剤を添加することを特徴とする。
【0016】
請求項2の逆浸透膜分離方法は、請求項1において、前記第1の逆浸透膜分離装置の濃縮水の酸化還元電位を測定し、この測定値に基いて、前記還元剤の添加量を制御することを特徴とする。
【0017】
請求項3の逆浸透膜分離方法は、請求項1又は2において、前記第2の逆浸透膜分離装置の透過水を前記第1の逆浸透膜分離装置の原水の一部とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、第1のRO膜分離装置の給水にクロロスルファミン酸塩系酸化剤を添加して膜分離処理し、この第1のRO膜分離装置の濃縮水を第2のRO膜分離装置で膜分離処理するに当たり、第2のRO膜分離装置の給水に適切な添加量で還元剤を添加して、第1のRO膜分離装置の濃縮水中に濃縮された酸化剤の必要量が残留するようにその一部を還元処理することにより、この酸化剤による第2のRO膜分離装置の膜劣化を防止した上で、第2のRO膜分離装置においても酸化剤による微生物の殺菌・増殖抑制効果を有効に発揮させて膜汚染を防止することができる。
このため、第1のRO膜分離装置のみならず、第2のRO膜分離装置においても、膜の酸化劣化による除去率や脱塩率の低下を回避した上で、膜汚染を防止して、長期に亘り安定かつ効率的なRO膜分離処理を継続して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】膜分離装置を備える水処理装置の構成例を示す系統図である。
【図2】(a)図は、実施例1及び比較例1におけるRO膜の除去率の経時変化を示すグラフであり、(b)図は実施例1における第2のRO膜分離装置の給水のクロロスルファミン酸塩系酸化剤濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の膜分離方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
まず、本発明で用いるクロロスルファミン酸塩系酸化剤(スルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤)について説明する。
【0022】
本発明で用いるクロロスルファミン酸塩系酸化剤とは、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物、或いは塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とからなる結合塩素剤を含むものである。
【0023】
膜分離装置の給水に、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物を添加することにより、水中に安定な結合塩素剤であるクロロスルファミン酸塩が形成され、この結合塩素剤により、安定した遊離塩素濃度を維持することにより、透過膜の劣化を引き起こすことなく、スライム防止処理を行うことが可能となる。即ち、スルファミン酸化合物を用いることで、クロラミン(モノクロラミン、ジクロラミン、トリクロラミン、クロラミン−T等)と比較して、pHに対して安定化した酸化剤とすることができる。また、結合塩素が主成分であるため、膜劣化を最小限に抑えることができる。
【0024】
本発明で用いる塩素系酸化剤に特に制限はなく、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、塩素酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、塩素化イソシアヌル酸又はその塩などを挙げることができる。これらのうち、塩形のものの具体例としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムなどの次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウムなどの次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウムなどの亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウムなどの亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケルなどの他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウムなどの塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウムなどの塩素酸アルカリ土類金属塩などを挙げることができる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの中で、次亜塩素酸塩は取り扱いが容易であり、好適に用いることができる。
【0025】
一方、本発明で用いるスルファミン酸化合物としては、下記一般式[1]で表される化合物又はその塩が挙げられる。
【0026】
【化1】

(ただし、一般式[1]において、R及びRは、各々独立に、水素又は炭素数1〜8の炭化水素基である。)
【0027】
このようなスルファミン酸化合物としては、例えば、RとRがともに水素であるスルファミン酸のほかに、N−メチルスルファミン酸、N,N−ジメチルスルファミン酸、N−フェニルスルファミン酸などを挙げることができる。本発明に用いるスルファミン酸化合物のうち、前記化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩などの他の金属塩、アンモニウム塩及びグアニジン塩などを挙げることができ、具体的には、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸カルシウム、スルファミン酸ストロンチウム、スルファミン酸バリウム、スルファミン酸鉄、スルファミン酸亜鉛などを挙げることができる。スルファミン酸及びこれらのスルファミン酸塩は、1種を単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0028】
次亜塩素酸塩等の塩素系酸化剤とスルファミン酸塩等のスルファミン酸化合物を混合すると、これらが結合して、クロロスルファミン酸塩を形成して安定化し、クロラミンのようなpHによる解離性の差、それによる遊離塩素濃度の変動を生じることなく、水中で安定した遊離塩素濃度を保つことが可能となる。
【0029】
本発明において、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との使用割合には特に制限はないが、塩素系酸化剤の有効塩素1モルあたりスルファミン酸化合物を0.5〜5.0モルとすることが好ましく、0.5〜2.0モルとすることがより好ましい。
【0030】
クロロスルファミン酸塩系酸化剤は、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む水溶液として好適に用いられるが、何らこの混合水溶液の形態に限らず、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とは別々に提供されるものであっても良い。
【0031】
また、クロロスルファミン酸塩系酸化剤は、その効果を損なうことのない範囲において、塩素系酸化剤及びスルファミン酸化合物以外の他の成分を含有していても良い。この他の成分としては、アルカリ剤、アゾール類、アニオン性ポリマー、ホスホン酸類等が挙げられる。
【0032】
アルカリ剤は、クロロスルファミン酸塩系酸化剤中の塩素系酸化剤を安定化させるために用いられ、通常、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が用いられる。
【0033】
アゾール類は、ヘテロ原子を2個以上含む5員環を有する芳香族化合物である。本発明で用いるアゾール類としては、例えば、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、テトラゾールなどの単環式アゾール系化合物、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、メルカプトメチルベンゾイミダゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、インダゾール、プリン、イミダゾチアゾール、ピラゾロオキサゾールなどの縮合多環式アゾール系化合物などや、さらにアゾール系化合物の中で塩を形成する化合物にあってはそれらの塩などを挙げることができる。これらのアゾール系化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0034】
アニオン性ポリマーとしては、重量平均分子量が500〜50,000のものが好ましく、1,000〜30,000のものがより好ましく、1,500〜20,000のものがさらに好ましい。
【0035】
このアニオン性ポリマーを構成するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びこれらの不飽和カルボン酸の塩、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、さらには無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸の無水物などを挙げることができる。これらのモノマーは単独で重合することができ、また2種以上を共重合することもでき、あるいは、該モノマー1種以上とその他の共重合可能なモノマー1種以上とを共重合させることもできる。他の共重合可能なモノマーとしては、例えば、不飽和アルコール、不飽和カルボン酸エステル、アルケン、スルホン酸基を有するモノマーなどを挙げることができる。不飽和アルコールとしては、例えば、アリルアルコール、メタリルアルコールなどを挙げることができる。不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどを挙げることができる。アルケンとしては、例えば、イソブチレン、n−ブチレン、ジイソブチレン、ペンテンなどを挙げることができる。スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、ビニルスルホン酸、2−ヒドロキシ−3−アリロキシ−1−プロパンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、スチレンスルホン酸などを挙げることができる。
【0036】
本発明に使用し得るアニオン性ポリマーの例としては、ポリマレイン酸、ポリアクリル酸、アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸との共重合物、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合物、アクリル酸とイソプレンスルホン酸との共重合物、アクリル酸とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとの共重合物、アクリル酸とメタクリル酸2−ヒドロキシエチルとイソプロピレンスルホン酸の共重合物、マレイン酸とペンテンとの共重合物、前記アニオン性ポリマーのアルカリ金属塩及び前記アニオン性ポリマーのアルカリ土類金属塩などを挙げることができる。
【0037】
また、ホスホン酸類としては、例えば、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラメチレンホスホン酸又は前記ホスホン酸の塩などを挙げることができる。本発明において、ホスホン酸類は遊離の酸として用いても、塩として用いても良い。ホスホン酸の塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などを挙げることができる。ホスホン酸の塩は、酸の特性成分である水素が完全に置換された正塩であってもよく、酸成分の水素の一部が残っている酸性塩であってもよい。これらのホスホン酸及びその塩は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0038】
これらの他の成分を含む場合、クロロスルファミン酸塩系酸化剤の剤型に特に制限はなく、例えば、塩素系酸化剤及びスルファミン酸化合物と、アゾール類、アニオン性ポリマー、ホスホン酸類のいずれか1種以上とからなる1液型薬剤であっても良く、各成分を2液に分けた2液型薬剤とすることもできる。2液型薬剤としては、例えば、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物を含有するA液と、その他の成分B液からなる2液型薬剤なとを挙げることができる。
【0039】
1液型薬剤とする場合は、塩素系酸化剤の安定性を保つために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリを添加して、pH12以上に調整することが好ましく、pH13以上、例えばpH13〜14に調整することがより好ましい。2液型薬剤とする場合は、同様に塩素系酸化剤を含有する剤をpH12以上に調整することが好ましく、pH13以上、例えばpH13〜14に調整することがより好ましい。
【0040】
本発明で用いるクロロスルファミン酸塩系酸化剤は例えば、次のような配合とすることが好ましい。
(A) 有効塩素濃度1〜8重量%、好ましくは3〜6重量%の塩素系酸化剤と、1.5〜9重量%、好ましくは4.5〜8重量%のスルファミン酸化合物を含む、pH≧12の水溶液
(B) 上記(A)に、更に0.05〜3.0重量%のアゾール類、1.5〜3.0重量%のアニオン性ポリマー、0.5〜4.0重量%のホスホン酸類の1種又は2種以上を含む、pH≧12の水溶液
なお、上記(A),(B)において、pHはアルカリ剤の添加により調整される。
【0041】
本発明の逆浸透膜分離方法は、第1のRO膜分離装置の給水に、このようなクロロスルファミン酸塩系酸化剤を添加することで存在させる。本発明で用いるクロロスルファミン酸塩系酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウムやクロラミンと比較して酸化力が弱いため、次亜塩素酸ナトリウム、クロラミンと同様の濃度で添加しても十分な殺菌効果を発揮しない。一方、クロロスルファミン酸塩系酸化剤はヒドラジンと同様付着物を剥離する効果もあると考えられ、膜分離装置を安定運転するための濃度は次亜塩素酸ナトリウムやクロラミンと比較して低くても問題がない。
【0042】
殺菌、剥離効果を得るためには、クロロスルファミン酸塩系酸化剤は、第1のRO膜分離装置の給水中のクロロスルファミン酸塩系酸化剤濃度として、0.1〜1000mg/L、特に1〜200mg/Lとなるように添加することが好ましい。クロロスルファミン酸塩系酸化剤の添加量が多過ぎると膜劣化のリスクが高まるとともに、薬品コストがかかりすぎ、現実的でない。逆に、クロロスルファミン酸塩系酸化剤添加量が少な過ぎると、十分な殺菌、剥離効果を得ることができない。
【0043】
クロロスルファミン酸塩系酸化剤の添加箇所としては、第1のRO膜分離装置の入口側であれば良く、特に制限はない。また、図1に示すように、第1のRO膜分離装置5の前段に保安フィルター4等が設けられている場合には、この保安フィルター4の入口側で添加することが保安フィルターでの微生物増殖を抑制できるので好ましい。
【0044】
また、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを別々に水処理系に添加する場合には、それぞれの剤を同時に添加しても良いが、遊離塩素系酸化剤を原水(例えば図1の重力濾過器1の入口側)に添加して、RO膜分離装置の前処理装置の殺菌などを行い、その後、前記遊離塩素系酸化剤を還元除去することなく、スルファミン酸化合物をRO膜分離装置の入口側で添加するようにしてもよい。
【0045】
本発明において、第1のRO膜分離装置は、RO膜(前述の如く、本発明において、RO膜はNF膜を包含する。)を備えたRO膜エレメントをベッセルに装填したRO膜モジュールによって構成される。本発明で使用されるRO膜は、膜を介する溶液間の浸透圧差以上の圧力を高濃度側にかけて、溶質を阻止し、溶媒を透過する液体分離膜である。RO膜の膜構造としては、複合膜、相分離膜などの高分子膜などを挙げることができる。本発明に適用されるRO膜の素材としては、例えば、芳香族系ポリアミド、脂肪族系ポリアミド、これらの複合材などのポリアミド系素材などを挙げることができる。RO膜モジュールの形式については特に制限はなく、例えば、管状膜モジュール、平面膜モジュール、スパイラル膜モジュール、中空糸膜モジュールなどを適用することができる。
【0046】
第1のRO膜分離装置は、前述の如く水回収率70〜90%で運転され、第1のRO膜分離装置の給水に添加されたクロロスルファミン酸塩系酸化剤は、第1のRO膜分離装置の濃縮水中に約3〜10倍に濃縮される。
【0047】
この第1のRO膜分離装置の濃縮水をRO膜分離処理する第2のRO膜分離装置としては、第1のRO膜分離装置と同様の構成のものを用いることができる。この第2のRO膜分離装置は、通常水回収率40〜90%程度で運転される。
【0048】
本発明においては、この第2のRO膜分離装置の給水に還元剤を添加して、第1のRO膜分離装置の濃縮水中に濃縮されたクロロスルファミン酸塩系酸化剤の一部を還元除去する。この還元剤としては特に制限はなく、重亜硫酸、チオ硫酸、亜硫酸、チオグリコール酸及びアスコルビン酸などのナトリウム塩や他の金属塩等の1種又は2種以上を用いることができる。また、水素ガスを吹き込んでも良い。
【0049】
また、還元剤の添加箇所については、第1のRO膜分離装置の濃縮水流出部から第2のRO膜分離装置の給水導入部までの間であれば良く、特に制限はない。図1においては、濃縮水槽9から第2のRO膜分離装置10への給水配管に還元剤を添加しているが、還元剤は濃縮水槽9に添加しても良く、第1のRO膜分離装置5から濃縮水槽9への濃縮水送給配管に添加しても良い。
【0050】
本発明においては、このような還元剤を、第2のRO膜分離装置の給水に、第2のRO膜分離装置に導入される水の酸化還元電位(ORP)が200〜600mV、好ましくは200〜400mVとなるように添加する。このORP値が600mVより高いと残留酸化剤量が多すぎ、クロロスルファミン酸塩系酸化剤の酸化力が強く、第2のRO膜分離装置の膜劣化の恐れがある。一方、ORPが200mV未満であるとクロロスルファミン酸塩系酸化剤が過剰に還元されることにより、第2のRO膜分離装置においてクロロスルファミン酸塩系酸化剤による微生物の殺菌・増殖抑制効果を得ることができず、膜汚染の問題が起こる。
【0051】
ORPの測定箇所は、特に制限はなく、還元剤添加後の第2のRO膜分離装置の給水のORPを測定し、この値が200〜600mVとなるように還元剤の添加制御を行えば良いが、還元剤添加前の第2のRO膜分離装置の給水のORPと、還元剤添加量と還元剤添加後の水のORPとの関係を予め求めておくことにより、還元剤添加前の第2のRO膜分離装置の給水のORPを測定し、その測定値に基いて、還元剤添加後の給水のORPが200〜600mVとなるように還元剤の添加制御を行うこともできる。
【0052】
このようにして第2のRO膜分離装置の給水のORPに基いて還元剤の添加制御を行うことにより、第1のRO膜分離装置の濃縮水中に濃縮されたクロロスルファミン酸塩系酸化剤を適度に還元除去し、膜劣化を引き起こすことのない濃度で酸化剤を含む給水を第2のRO膜分離装置に導入することにより、第2のRO膜分離装置において良好な微生物の殺菌・増殖抑制効果を得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0054】
[実施例1]
図1に示す水処理装置において、本発明に従って処理を行った。
この水処理装置では、工水を原水として10m/hrで水処理装置に供給し、重力濾過器1で濾過した後、濾過水槽2で第2のRO膜分離装置10の透過水と共に、熱交換器3、保安フィルター4を経て第1のRO膜分離装置5でRO膜分離処理し、透過水を膜脱気装置6、イオン交換樹脂装置7、及びMF膜分離装置8で順次処理する。得られた純水は、サブシステムで高度処理して超純水として使用されたり、純水として使用される。第1のRO膜分離装置5の濃縮水は濃縮水槽9を経て第2のRO膜分離装置10でRO膜分離処理され、濃縮水は系外へ排出され、透過水は濾過水槽2に返送される。
【0055】
第1のRO膜分離装置5及び第2のRO膜分離装置10ともにRO膜としては、日東電工(株)製「ES20」(芳香族ポリアミド超低圧RO膜)を使用した。
【0056】
工水には、遊離塩素系酸化剤(NaClO)を2mg/L添加し、濾過水槽2の出口水には還元剤(NaHSO)を2mg/L添加して残留塩素を還元除去した。
また、保安フィルター4の前段において、第1のRO膜分離装置5の給水に、次亜塩素酸ナトリウム2重量%(有効塩素濃度として)、スルファミン酸8重量%、及び水酸化ナトリウム1重量%を含むpH13の水溶液からなるクロロスルファミン酸塩系酸化剤を、給水中のクロロスルファミン酸塩系酸化剤濃度が20mg/Lになるように添加して、水回収率80%でRO膜分離処理を行った。
また、濃縮水槽9においてORPを常時測定し、予め求めておいた関係式から、第2のRO膜分離装置10に導入される水のORPが300mVとなるように、濃縮水槽9から第2のRO膜分離装置10への給水配管に還元剤(NaHSO)の添加を行った。この第2のRO膜分離装置10は水回収率65%でRO膜分離処理した。
【0057】
[比較例1]
実施例1において、第2のRO膜分離装置の給水への還元剤の添加を行わなかったこと以外は同様にして処理を行った。
【0058】
実施例1と比較例1の条件で水処理を行った場合の、第2のRO膜分離装置のRO膜の除去率の経時変化を図2(a)に示す。また、実施例1において、第2のRO膜分離装置に導入される給水中のクロロスルファミン酸塩系酸化剤濃度(還元剤添加により一部の酸化剤が還元除去された後の酸化剤濃度)の経時変化を図2(b)に示す。
【0059】
なお、RO膜の除去率とは、下記式で算出される値である。
【0060】
【数1】

【0061】
図2(a)より、第2のRO膜分離装置の給水に還元剤を添加しない比較例1では、酸化剤によるRO膜の酸化劣化で、経時により除去率が低下したが、第2のRO膜分離装置の給水に還元剤を添加した実施例1では膜の酸化劣化を防止することができる結果、除去率が安定に維持され、膜性能の低下の問題がないことが分かる。
また、図2(b)より、給水のORPに基いて還元剤の添加制御を行うことにより、第2のRO膜分離装置に導入される水の残留酸化剤濃度をほぼ一定に保つことができ、従って、第2のRO膜分離装置に導入される給水中に適当量の酸化剤を存在させて、膜の酸化劣化を引き起こすことなく、酸化剤による微生物の殺菌・増殖抑制効果を有効に発揮させて膜汚染を防止することができることが分かる。
【符号の説明】
【0062】
1 重力濾過器
2 濾過水槽
3 熱交換器
4 保安フィルター
5 第1のRO膜分離装置
6 膜脱気装置
7 イオン交換樹脂装置
8 MF膜分離装置
9 濃縮水槽
10 第2のRO膜分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を第1の逆浸透膜分離装置で処理して得られた濃縮水を第2の逆浸透膜分離装置で処理する逆浸透膜分離方法であって、該第1の逆浸透膜分離装置の給水にスルファミン酸化合物を含む結合塩素系酸化剤を存在させると共に、該第2の逆浸透膜分離装置の給水に還元剤を添加する逆浸透膜分離方法であって、
該第2の逆浸透膜分離装置に導入される水の酸化還元電位が200〜600mVとなるように前記還元剤を添加することを特徴とする逆浸透膜分離方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第1の逆浸透膜分離装置の濃縮水の酸化還元電位を測定し、この測定値に基いて、前記還元剤の添加量を制御することを特徴とする逆浸透膜分離方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記第2の逆浸透膜分離装置の透過水を前記第1の逆浸透膜分離装置の原水の一部とすることを特徴とする逆浸透膜分離方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−201313(P2010−201313A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48188(P2009−48188)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】