説明

逆浸透膜流体デシカント装置

【課題】 気体中の水分を溶液中に吸着する処理部と溶液中の水分を放出する再生部で構成され、除湿機能を有するデシカント装置において、再生部は処理部の約2倍の気体を流す必要があることから、再生部が大きくなり、コスト低減の課題となっている。また、再生部では、高温の溶液中の塩素イオンや吸着された酸素による腐蝕、溶液の外部への飛散も問題とされている。更に、溶液中の水分の分圧が気体中の液体成分などの分圧より高まった時に気体中に吸着されるので、溶液の加熱が行われているが、熱源が無い場合は、新たに熱源を必要とし、熱効率が下がるという欠点がある。
【解決手段】 水分を吸着した淡溶液を加圧して、逆浸透膜を通して水分を分離、濃溶液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
溶液を使ったデシカント装置の小型化、低コスト化、高性能化
【背景技術】
【0002】
気候温暖化対策として冷凍空調装置の所要エネルギー節減、人の集まる場所での呼吸に伴う炭酸ガスの増加防止と不快指数の低減、建築基準法の改正に伴う換気率増大に伴うエネルギー消費の低減などが望まれている。
【0003】
現在の空調装置は空気の温度を下げる働きをするもので、空気中に含まれる水分(湿度)の調整はできないため、夏期の電力節約のために室温を28℃に設定すると、湿度は75%を超えて不快指数は高くなる。
【0004】
この理由は、室内の空気は水分を含まない乾燥空気と水蒸気(湿分)で構成されており、現在の空調装置で空気を冷却すると、水蒸気の一部が凝縮して水になる。一方、乾燥空気は所定の温度28℃に冷却され、このとき空調装置の冷却フィンで17℃程度に冷却され残った水蒸気(湿分)で室内の空気の湿度は75−80%程度となる。
【0005】
このように現在の空調装置では、理論的に湿度が高くなることが明らかにされており、設定温度を25℃に下げても湿度は約70%程度になり、不快感が残る。
【0006】
図9に示すように人間にとっての快適な室内条件は湿度が40−60%であり、快適な室内環境を実現するには湿度の制御が必須である。また、この領域では、バクテリア、菌類の発生が抑制され、アレルギー鼻炎や喘息が起こり難く、ヴィールスや呼吸器系伝染病は50−70%で抑制されている。
【0007】
ヴィールスによって感染するインフルエンザは、冬期乾燥するときに蔓延するのは、湿度が低いためである。
【0008】
前述のように、空気は乾燥空気と水蒸気の混合気体であり、温度を1℃上げるために必要な熱量は、乾燥空気が0.24kcal/kg、水蒸気が0.46kcal/kgであり、水蒸気を水に変える熱量(凝縮熱=潜熱)は595kcal/kgであり、空調機で消費されるエネルギーの多くは水蒸気(湿分)の凝縮(水に変える)に費やされている。
【0009】
シリカゲル等の吸着剤に湿分を吸着させる吸着技術を使って、湿分の制御を行う技術が開発されている。この技術は、吸着時に圧力を上げて吸着、圧力を下げて放出するPSA(Pressure Swing Absorption)、温度を下げて吸着、温度を上げて放出するTSA(Temperature Swing Absorption)に大別されている。
【0010】
最近、乾燥機等に採用されている固体デシカントは、吸着剤で作られた円盤に設けられた蜂の巣状の小さな孔に湿った空気を通して空気中の水分を吸着させ、加熱して水分を放出する方式であり、前記のTSAに分類される。
【0011】
固体デシカントは、ロータの一部で吸着(以後処理と呼ぶ)し、残りの一部を過熱して湿分の放出(以後再生と呼ぶ)を行うので、処理と再生を近接した場所で行う必要があり、処理には80−120℃の熱源が必要であり、処理された空気を使用場所に送る大きなダクトが必要である。実用されている固体デシカントの構成図を図7(株式会社西部技研、デシカント除湿ユニット、Model.R−062/082/102/122のカタログ引用)に示す。処理空気は除湿ロータ(10)に入り、除湿され乾燥空気として処理ファン(30)で室内へと送られる。湿分を吸着した除湿ロータは、モータ(20)とベルト(21)で回転され、再生空気で再生されて、再び吸着が行われる。同様の除湿機は、ダイキン工業株式会社のルームドライヤーや松下電器工業株式会社のナショナル除湿乾燥機として販売されている。
【0012】
液体デシカントは、Dr.Bichowskyによって1930年に考案された(Kathabarホームページより)もので、吸着剤として塩化リチウム等の水溶液を使用しており、低温の水溶液で処理、40−80℃に過熱して再生が行われる。前記のTSAに分類される。実際の液体デシカントは、Kathabar(日本では中外エアシステム株式会社が販売)、Drykor(日本では三建設備が販売、現在はDrykor無くなっている)、国内のメーカーとしてはダイナエアー生産販売を行っている。図8は、これらの会社のカタログに掲載されている図を簡素化して示したものである。
【0013】
液体デシカントは、処理機と再生機の間を溶液配管で結ぶことで機能するので大きな空気配管が不要で、自由な配置が可能である。しかし、再生には、処理の2倍以上の外気が必要であり、装置が大きくなる。
【0014】
液体(湿式)デシカント装置に関し、公報テキスト検索にて発明の名称と要約にデシカントをキーワードとして検索、183件が表示されたが、その中には類似する考案は見出せなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
液体デシカントの処理には、加熱が必要であり、熱効率向上が難しく、塩素イオンなどによる腐蝕、処理に使用する外気への溶液の飛散が問題となっている。
【0016】
前記のように、再生には処理空気量の2倍以上の外気が必要であり、効率よく湿分の放出を行い、溶液の飛散を少なくするためには外気の流速を1−2m/s程度の適正値に設定する必要があり、再生機が大きくなる。
【0017】
外気や要求室内温度・湿度、加熱源の温度・熱量の変化によって溶液濃度が変化するので、熱効率が変化し、常に高い効率を維持することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
液体デシカントの溶液を加圧して逆浸透膜を通して溶液に含まれている水分を分離除去して溶液の再生を行う。
【0019】
溶液再生時は、濃度が高くなるため、逆浸透膜や容器等に詰まりが生じる可能性があり、水を循環させて洗浄する。
【0020】
溶液の加圧圧力を制御して濃度調整を行う。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1に実施例1の構成を、図2に逆浸透装置(300)の詳細図の一例を、図3に逆浸透装置(300)の断面図の一例を示す。(図2と図3は東レ逆浸透膜エレメントカタログの図を引用)処理機(100)では、空気の取入口(110)から室内の空気を取り入れられ、ノズル(253)から噴出された濃溶液の微細な液滴(254)と接触、空気中の湿分が溶液中に吸着される。湿分が除かれた空気は、液滴捕捉網(130)で溶液の液滴が捕捉され、ファン(140)で室内へ放出される。
【0022】
空気中の湿分を吸着して薄くなった液滴(254)は、淡溶液溜(115)に集められ、淡溶液管(150)と通り、淡溶液ポンプ(151)で逆浸透装置(300)のブラインシール(340)に設けられた淡溶液入口(341)へと送られる。淡溶液は、メッシュスペーサー(312)で形成される隙間を通り、水分のみが逆浸透膜(311)を通過して中心パイプ(320)に設けられた孔(321)から中心パイプ(320)へ入って水出口(322)から排出される。
【0023】
逆浸透装置(300)で濃縮された溶液は、濃溶液溜(330)に集められ濃溶液出口(352)から出て、濃溶液管(250)の途中の熱交換器で冷却されノズル(253)で処理機(100)内に噴霧される。
【0024】
図4に実施例2の構成を示す。実施例2は、実施例1の処理機(100)内の噴霧を受ける場所に液膜形成器(260)が設けられたものである。
【0025】
図5に実施例3の構成を示す。実施例3は、実施例2に逆浸透膜装置(300)の洗浄回路を設けたものである。濃溶液溜(330)の濃溶液出口(352)に接続された管(331)は切替弁(362)で切り替えられ管(333)と管(334)のいずれか一方と接続されている。管(333)に接続されている場合、濃溶液は濃溶液タンク(360)へと入り、濃溶液ポンプ(251)で濃溶液管(250)を通ってノズル(253)へと送られる。
【0026】
逆浸透装置(300)を洗浄する場合、管(361)が管(364)と接続され、水タンク(410)へと接続される。水タンク(410)には、水出口(322)と接続する管(411)が設けられ、管(420)で水タンク(410)内の水の供給と排出が行われる。水タンク(410)の水は、洗浄ポンプ(431)で加圧され、洗浄管(430)を通って淡溶液入口(341)へと送られる。洗浄に使われる水は、逆浸透装置(300)を洗浄後水タンク(410)に集められ、再度水ポンプ(431)で循環される。
【0027】
図6に実施例4の液膜形成器(260)の構成を示す。実施例4の液膜形成器(260)は、図6(A)、図6(B)に示すように、長方形の湾曲したプレート(261)、(262)、(263)を積層して構成され、突起部(264)で隙間が形成されるとともに、相互に接着剤等で接合されている。このプレート間の隙間は、隙間を流れる流体の境界層厚さの4倍以上に設定され、曲面の最大深さは、前述の間隔とした場合にルックスルー(一方から流れの方向に隙間を見て反対側が見えること)が無い深さである。
【発明の効果】
【0028】
実施例1は、従来の液体デシカント装置の再生機能を逆浸透膜装置で行われるもので、淡溶液中を加圧することによって溶液中の水分が逆浸透膜を通過、水分が分離除去され、濃溶液が形成される。従来の液体デシカントでは、溶液の加熱が必要であったが、本考案の逆浸透膜による水分分離は、加圧によって行われるのでエネルギーが節約される。
【0029】
従来の液体デシカントでは、再生には処理空気量の2倍以上の外気が必要で、効率的な吸着と溶液の飛散を防止するには、その流速を抑える必要があり、装置が大きくなるという欠点があったが、本考案では再生には外気が不要であり、装置の小型化が可能である。
【0030】
更に、再生には加熱が不要であり、溶液が空気と接触しないために、再生時の塩素イオンや酸素による腐蝕が生じ難くなり、信頼性が向上する。
【0031】
溶液濃度をポンプ圧力の調整により、自由に変えることができるので、環境条件などが変化しても常に液体デシカントの効率を高く維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】 実施例1の構成図
【図2】 逆浸透膜装置の立体図
【図3】 逆浸透膜装置の断面図
【図4】 実施例2の構成図
【図5】 実施例3の構成図
【図6】 実施例4の液膜形成器の図
【図7】 従来の固体デシカント装置の構成図
【図8】 従来の液体デシカント装置の構成図
【図9】 最適湿度領域と菌類やヴィールスの繁殖、アレルギーや呼吸器系疾病等が起こりやすい湿度領域
【符号の説明】
【0033】
(10)除湿ロータ (311)逆浸透膜
(15)流路分配板 (312)メッシュスペーサー
(20)モータ (320)中心パイプ
(21)ベルト (321)孔
(30)処理ファン (322)水出口
(40)再生ヒータ (330)濃溶液溜
(50)再生ファン (340)ブラインシール
(100)処理機 (341)淡溶液入口
(110)空気取入口 (360)濃溶液タンク
(115)淡溶液溜 (361)管
(130)液滴捕捉網 (362)切替弁
(140)ファン (363)管
(150)淡溶液管 (364)管
(151)淡溶液ポンプ (410)水タンク
(152)熱交換器 (411)管
(153)ノズル (420)管
(154)液滴 (430)洗浄管
(200)再生機 (431)洗浄ポンプ
(210)外気入口
(230)液滴捕捉網
(240)ファン
(250)濃溶液管
(251)濃溶液ポンプ
(252)熱交換器
(253)ノズル
(254)液滴
(260)液膜形成器
(261)、(262)、(263)プレート
(264)突起部
(300)再生機
(310)入口液溜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化リチウムや塩化カルシウム等の水溶液を水分の吸着に利用する液体デシカント装置において、処理機で水分を吸着して淡くなった溶液を、逆浸透膜を通して濃縮再生することを特徴とする液体デシカント装置。
【請求項2】
請求項1において、処理機内の濃溶液噴霧を受ける形で10から45度傾斜して液膜形成器が設けられたことを特徴とする液体デシカント装置。
【請求項3】
請求項1、2において、逆浸透膜を洗浄する水回路を設けたことを特徴とする液体デシカント装置。
【請求項4】
請求項2、3において、液膜形成器を少なくとも一つの曲がりと少なくとも一つの突起を設けた板で形成されることを特徴とする液体デシカント装置。
【請求項5】
請求項4において、板の間隔を境界層厚さの4倍以上、曲がりの深さをルックスルーの無い深さ以上とすることを特徴とする液体デシカント装置。
【請求項6】
請求項1から5において、逆浸透膜に送る溶液の圧力を制御して、最適な溶液濃度に調整することを特徴とする液体デシカント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−30014(P2008−30014A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229832(P2006−229832)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(598054692)
【出願人】(500538689)
【出願人】(500538726)
【Fターム(参考)】