説明

透明導電体及び透明導電材料

【課題】電気的抵抗値の変化を十分に抑制することができる透明導電体を提供すること。
【解決手段】本発明の透明導電体10は、導電性粒子11、バインダ12、重合開始剤13、及びラジカル捕捉剤14を含む導電層15を備える。本発明の透明導電体10では、導電性粒子11のほかにラジカル捕捉剤14が導電層15に含有されている。したがって、導電性粒子11が紫外線の照射により励起され、導電層15内にラジカルが発生した場合であっても、導電層15に含まれるラジカル捕捉剤14がこのラジカルを捕捉する。このことより、当該ラジカルが、残存する重合開始剤13に作用して導電層15内で副反応が起こることが抑制され、その結果、隣り合う導電性粒子11間の距離の変動が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電体及び透明導電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
LCDや、PDP、有機EL、タッチパネル等には、透明電極が使用され、透明電極として、透明導電体が使用されている。このような透明導電体は、例えば、導電性粒子を含む紫外線硬化型インクを樹脂フィルム上に印刷して、紫外線硬化処理を施すことにより形成される(下記特許文献1参照)。
【0003】
ところが、このような透明導電体は、紫外線が照射されると、透明導電体自体の電気的抵抗値が変化する傾向にある。
【0004】
そこで、紫外線が照射されても電気的抵抗値の変化を抑制できる透明導電体が望まれている。このような透明導電体として、例えば、透明基板と透明導電膜との間に紫外線吸収層を介在させる紫外線吸収透明導電基板が提案されている(下記特許文献2参照)。
【特許文献1】特許2994767号公報
【特許文献2】特開平10−206905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2に記載の紫外線吸収層を含有している紫外線吸収透明導電基板(透明導電体)であっても、紫外線が照射された場合の電気的抵抗値の変化を未だ十分に抑制できるとは言えなかった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、電気的抵抗値の変化を十分に抑制することができる透明導電体及び透明導電材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、まず、透明導電体に紫外線吸収層を設けても、当該紫外線吸収層では紫外線を完全に吸収しきれず、一部の紫外線、特に紫外線領域のうちの長波長側の領域の紫外線は、紫外線吸収層を透過し、透明導電膜に入射してしまうことを見出した。そして、この紫外線によって、透明導電体に含まれる重合開始剤が励起されて、ラジカルが発生し、かかるラジカルが透明導電体に存在する導電性粒子に作用して透明導電体の電気的抵抗値が変化するのではないかと推察した。そして、本発明者らはかかる推察に基づいて更に鋭意研究を重ねた結果、以下の発明により上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、導電性粒子、バインダ、重合開始剤、及びラジカル捕捉剤を含む導電層を備える透明導電体である。なお、本発明における透明導電体は、膜状及び板状のものを含み、膜状透明導電体は厚みが50nm〜1mmの範囲のものをいい、板状透明導電体は厚みが1mmを超えるものをいう。
【0009】
本発明の透明導電体では、導電性粒子のほかにラジカル捕捉剤が導電層に含有されている。したがって、重合開始剤が紫外線の照射により励起され、導電層内にラジカルが発生した場合であっても、導電層に含まれるラジカル捕捉剤がこのラジカルを捕捉する。このことより、当該ラジカルが、導電性粒子に作用して上記透明導電体の電気抵抗値が低下することが抑制される。よって、本発明の透明導電体によれば、電気的抵抗値の変化を抑制することができる。
【0010】
上記透明導電体は、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。この場合、紫外線吸収剤が紫外線を吸収するため、透明導電体に含まれる重合開始剤を励起する紫外線の量が低減される。
【0011】
上記透明導電体は、紫外線吸収剤を含むバインダ層を更に備えることが好ましい。このため、バインダ層が紫外線吸収剤を含むと、バインダ層側から入射した光のうち紫外線は、上記紫外線吸収剤によって吸収される。そうすると、導電層にまで到達する紫外線の量がより低減されるので、導電層でラジカルが発生する量も少なくなる。また、たとえラジカルが発生したとしても、ラジカル捕捉剤によってラジカルが確実に捕捉される。したがって、上記透明導電体によれば、電気的抵抗値の変化をより抑制することができる。また、上記のようにラジカルが発生する量が少なくなるので、ラジカル捕捉剤の含有量を少なくすることも可能である。なお、ここでいう「光」は、可視光、紫外線等をも含む広い概念を示す。
【0012】
上記ラジカル捕捉剤は、下記一般式(1)で表されるものであることが好ましい。
【化1】



[式(1)中、Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアルキレンオキサイド基を示し、R2は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、カルボキシル基、水酸基、置換基を有していてもよいアミン基又は置換基を有していてもよいアルキレンオキサイド基を示す。]
【0013】
上記一般式(1)で表されるラジカル捕捉剤は、ラジカルを捕捉してもそれ自体が分解を伴わないため、長期間使用した場合であっても効果的にラジカルを捕捉することができる。また、上記一般式(1)で表されるラジカル捕捉剤は、透明性にも優れる。さらに、上記一般式(1)で表されるラジカル捕捉剤のうち、上記一般式(1)中のR又はR2がアルキル基を含む場合、ラジカル捕捉剤のアルカリ性が弱くなる。そうすると、透明導電体に含まれるバインダ等がアルカリによって分解され難くなるため、上記透明導電体の耐久性を向上させることができる。
【0014】
上記導電層は、光増感剤を更に含むことが好ましい。この導電層をラジカル重合反応により製造する場合は、光増感剤を含むことにより、ラジカルが酸素阻害を受けにくくなると共に、光エネルギーを効率よくラジカル重合反応に利用でき、導電層の硬化反応を促進させ、残存モノマー及び残存重合反応基を低減させることができる。また、導電層を形成する際の紫外線照射において、重合開始剤が効率よく分解される。そうすると、導電層に残存する重合開始剤の量が低減されるため、上述したように紫外線が重合開始剤に作用することが抑制される。したがって、上記透明導電体によれば、透明導電体の電気的抵抗値の変化を一層抑制することができる。
【0015】
また、本発明は、バインダを形成するためのモノマーと、導電性粒子と、重合開始剤と、ラジカル捕捉剤と、を含有する透明導電材料である。
【0016】
上記透明導電材料によれば、電気的抵抗値の変化を十分に抑制できる透明導電体を得ることができる。また、長期間保存した場合において、紫外線照射によりラジカルが発生し、自己縮合等を引き起こすことが抑制される。すなわち、上記透明導電材料は、保存安定性に優れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電気的抵抗値の変化を十分に抑制することができる透明導電体及び透明導電材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0019】
[第1実施形態]
まず、本発明の透明導電体の第1実施形態について説明する。
【0020】
図1は、本発明の透明導電体の第1実施形態を示す模式断面図である。図1に示すように本実施形態の透明導電体10は、導電層15と、導電層15上に積層される基体100とを備えており、当該導電層15は、導電性粒子11と、バインダ12と、重合開始剤13と、ラジカル捕捉剤14と、を含む。導電性粒子11は、導電層15の内部に充填されており、導電性粒子11、重合開始剤13及びラジカル捕捉剤14はいずれもバインダ12中に分散されている。
【0021】
また、上記導電層15において、導電性粒子11は、互いに接し、かつ透明導電体10の表面10aに一部の導電性粒子11が露出していることが好ましい。この場合、上記透明導電体10は十分な導電性を有することが可能となる。
【0022】
上記透明導電体10には、導電性粒子11のほかに、ラジカル捕捉剤14が導電層15に含有されている。したがって、透明導電体10が太陽光又は室内の蛍光灯からの光にさらされ、重合開始剤13が紫外線により励起され、導電層15内にラジカルが発生した場合であっても、導電層15に含まれるラジカル捕捉剤14がこのラジカルを捕捉する。このことより、当該ラジカルが、導電性粒子11に作用して、透明導電体の電気的抵抗値の変化及び導電層15中のバインダ12の変質が十分に抑制され、隣り合う導電性粒子11間の距離の変動が十分に抑制される。よって、透明導電体10によれば、電気的抵抗値の変化を抑制することができる。
【0023】
ここで、上記透明導電体10の導電層15及び基体100について説明する。
【0024】
<導電層>
上述したように、導電層15は、導電性粒子11と、バインダ12と、重合開始剤13と、ラジカル捕捉剤14と、を含む。以下、導電性粒子11、バインダ12、重合開始剤13、及びラジカル捕捉剤14について詳細に説明する。
【0025】
(導電性粒子)
上記導電性粒子11は、例えば透明導電性酸化物材料から構成される。透明導電性酸化物材料は、透明性及び導電性を有すれば特に限定されないが、かかる透明導電性酸化物材料としては、例えば、酸化インジウム、又は酸化インジウムに、錫、亜鉛、テルル、銀、ガリウム、ジルコニウム、ハフニウム又はマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素がドープされたものや、酸化錫、又は酸化錫に、アンチモン、亜鉛又はフッ素からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素がドープされたものや、酸化亜鉛、又は酸化亜鉛に、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ホウ素、フッ素、又はマンガンからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素がドープされたもの等が挙げられる。
【0026】
また、上記導電性粒子11の平均粒径は10nm〜80nmであることが好ましい。平均粒径が10nm未満であると、平均粒径が10nm以上である場合と比べて、透明導電体10の導電性が経時変化しやすくなる傾向がある。すなわち、本実施形態に係る透明導電体10は導電性粒子11において生じる酸素欠陥によって導電性が発現することとなるが、導電性粒子11の粒径が10nm未満では、粒径が上記範囲にある場合と比較して、例えば外部の酸素濃度が高い場合には酸素欠陥が減少し、導電性が経時変化する虞がある。一方、平均粒径が80nmを超えると、粒径が上記範囲にある場合と比較して、例えば可視光の波長領域では、平均粒径が80nm以下である場合に比べて光散乱が大きくなり、可視光の波長領域で透明導電体10の透過率が低下し、ヘイズ値が増加する傾向がある。
【0027】
さらに導電層15における導電性粒子11の充填率は、10体積%〜70体積%であることが好ましい。充填率が10体積%未満であると、充填率が上記範囲である場合と比較して、透明導電体10の電気的抵抗値が高くなる傾向にあり、充填度が70体積%を超えると、充填率が上記範囲である場合と比較して、導電層15の機械的強度が低下する傾向にある。
【0028】
このように、導電性粒子11の平均粒径及び充填率が上記範囲であると、上記透明導電体10は透明度がより向上し、かつ初期の電気的抵抗値を低減させることができる。
【0029】
また上記導電性粒子11の比表面積は10m/g〜50m/gであることが好ましい。比表面積が10m/g未満であると、比表面積が上記範囲である場合と比較して、可視光の光散乱が大きくなる傾向があり、比表面積が50m/gを超えると、比表面積が上記範囲である場合と比較して、透明導電体10の安定性が低くなる傾向がある。なお、ここで言う比表面積は、比表面積測定装置(型式:NOVA2000、カンタクローム社製)を用いて、試料を300℃で30分間真空乾燥した後に測定した値をいうものとする。
【0030】
(バインダ)
上記バインダ12は、導電性粒子11を固定できるものであれば特に限定されない。例えば、バインダ12としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリウレタン、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、バインダ12として、アクリル樹脂を用いることが好ましい。この場合、他のバインダを用いた場合と比較して、透明導電体10の透過率をより向上させることができる。すなわち、アクリル樹脂をバインダ12として含む透明導電体10は、透明性をより向上させることができる。また、アクリル樹脂は、酸・アルカリに対する耐薬品性に優れるとともに耐スクラッチ性(表面硬度)にも優れる。したがって、アクリル樹脂を導電層15中に含む透明導電体10は、有機溶剤、界面活性剤等を含む拭き取り剤で拭くことや、対向する導電層の表面同士の接触、擦れ等が想定されるタッチパネル等により好適に用いられる。
【0032】
また、上記バインダ12は、ラジカル重合性化合物、イオン重合性化合物、又は熱重合性化合物を重合させて製造される。ここで、ラジカル重合性化合物とは、ラジカルによって重合する有機化合物をいい、イオン重合性化合物とは、カチオンによって重合する有機化合物をいい、熱重合性化合物とは、熱によって重合する有機化合物をいう。これらの有機化合物には、上記バインダ12の原料となる物質を含み、具体的にはバインダ12を形成できるモノマー、ダイマー、トリマー、オリゴマー等を含む。
【0033】
これらの中でもラジカル重合性化合物のモノマー若しくはイオン重合性化合物のモノマーを用いることが好ましい。この場合、重合反応の制御ができ、かつ、短い所要時間で重合させることができるため、工程管理が簡便になる利点がある。また、ラジカル重合性化合物のモノマーを用いることがより好ましい。この場合、イオン重合させた場合と比較して、ラジカル重合性化合物のモノマーに光を照射することにより、瞬時にモノマー同士が重合されるため、導電層15の膜厚再現性や寸法精度が得られやすいという利点がある。このようなラジカル重合性化合物のモノマーは、ビニル基やそれらの誘導体を含んでいればよく、具体的には、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体、スチレン及びその誘導体が挙げられる。なお、これらは1種類単独であってもよく、2種類以上の混合物であってもよい。
【0034】
(重合開始剤)
導電層15に含まれる重合開始剤13は、バインダ12のモノマーの重合を開始させることが可能なものであればよい。通常、重合開始剤13は、バインダ中に溶存する酸素によるラジカルの失活、フィラーやフィルター効果により紫外線が導電層15に照射されないことにより、バインダ12のモノマーの重合時に使用された重合開始剤13のうち、重合反応に寄与せずに導電層15中に残留しているものである。重合開始剤13としては、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、熱重合開始剤等が挙げられる。上述したように、本実施形態において、ラジカル重合性化合物を重合させてバインダ12を製造する場合はラジカル重合開始剤、イオン重合性化合物を重合させてバインダ12を製造する場合はカチオン重合開始剤、熱重合性化合物を重合させてバインダ12を製造する場合は熱重合開始剤が用いられる。
【0035】
上記ラジカル重合開始剤としては、具体的には、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、1−[4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル]−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルフォニル)プロパン−1−オン、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン]が挙げられ、上記カチオン重合開始剤としては、モノアリルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩、ジアリルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート塩、ジ(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロフォスファート、η−シクロペンタジエニル−η−クメニルアイアンヘキサフルオロフォスフェートが挙げられ、熱重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、2,2−アゾビスイソブチロニトリルが挙げられる。なお、上述したようにラジカル重合性化合物を用いることが好ましいことから、重合開始剤13についても、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。
【0036】
上記重合開始剤13の含有率は、導電層15の全質量を100質量%とした場合、0.2〜2.0質量%であることが好ましい。含有率が0.2質量%未満であると、含有率が上記範囲である場合と比較して、硬化が十分では無い状態となるため、強度が低下する傾向にあり、含有率が2.0質量%を超えると、含有率が上記範囲である場合と比較して、重合開始剤13が導電層15中に多く残存し、導電層15中にラジカルが発生しやすくなる。そうすると、ラジカルが透明導電体に存在する導電性粒子に作用して透明導電体10の電気的抵抗値が変化し易くなる傾向にある。
【0037】
(ラジカル捕捉剤)
上記ラジカル捕捉剤14は、ラジカルを捕捉可能なものであればよい。また、ラジカル捕捉剤14は、ラジカルを捕捉してもそれ自体が分解を伴わないものであることが好ましい。このようなラジカル捕捉剤14としては、ヒンダードアミン系化合物が挙げられる。その中でも、下記一般式(1)で表されるものであることが好ましい。
【化2】



[式(1)中、Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアルキレンオキサイド基を示し、R2は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、カルボキシル基、水酸基、置換基を有していてもよいアミン基又は置換基を有していてもよいアルキレンオキサイド基を示す。]
【0038】
上記一般式(1)で表されるラジカル捕捉剤は、ラジカルを捕捉してもそれ自体が分解を伴わないため、長期間使用した場合であっても効果的にラジカルを捕捉することができる。また、上記一般式(1)で表されるラジカル捕捉剤は、透明性にも優れる。さらに、上記一般式(1)で表されるラジカル捕捉剤は、重合反応を阻害しない。
【0039】
また、上記一般式(1)で表されるラジカル捕捉剤14のうち、Rが置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアルキレンオキサイド基であるか、R2が置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアルキレンオキサイド基であることが好ましい。この場合、上記一般式(1)中のR又はR2がアルキル基を含むため、ラジカル捕捉剤14のアルカリ性が弱くなる。そうすると、透明導電体10に含まれるバインダ12等がアルカリによって分解され難くなるため、上記透明導電体10の耐久性を向上させることができる。
【0040】
上記置換基を有していてもよいアルキル基のアルキル基としては、メチル基、エチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられ、これらの中でも炭素数が8以上であるアルキル基が好ましく、オクチル基、デシル基、ドデシル基であることがより好ましい。この場合、アルカリ性をより弱くすることができ、ラジカル捕捉剤がブリードすることも抑制できる。上記置換基を有していてもよいアルコキシ基のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基等が挙げられ、これらの中でも炭素数が8以上であるアルコキシ基が好ましく、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基であることがより好ましい。この場合、アルカリ性をより弱くすることができ、ラジカル捕捉剤がブリードすることも抑制できる。上記置換基を有していてもよいアルキレンオキサイド基のアルキレンオキサイド基としては、メチレンオキサイド基、エチレンオキサイド基、プロピレンオキサイド基等が挙げられ、これらは単独の重合体であっても、共重合体であってもよい。また、アルキレンオキサイド基の繰り返し単位数nは2〜10のものを用いることができる。この場合、アルカリ性をより弱くすることができ、ラジカル捕捉剤がブリードすることも抑制できる。
【0041】
上記ラジカル捕捉剤14としては、具体的には、[コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン]縮合物、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルトリデシル−1,2、3,4−ブタンテトラカルボキシレート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル誘導体、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等が挙げられる。これらの中でも、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル誘導体であることが好ましい。この場合、ラジカル捕捉剤14をより低アルカリ性とすることができる。
【0042】
上記ラジカル捕捉剤14の含有率は、導電層15の全質量を100質量%とした場合、0.1〜1.0質量%であることが好ましい。含有率が0.1質量%未満であると、含有率が上記範囲である場合と比較して、ラジカルを十分に捕捉できない傾向にあり、含有率が1.0質量%を超えると、含有率が上記範囲である場合と比較して、添加量に対する効果が得られなくなる傾向にある。
【0043】
<基体>
本実施形態の透明導電体10において、基体100は、必須の層ではなく、透明導電体10の使用用途等に応じて任意に設けることができる。
【0044】
かかる基体100としては、可視光に対して透明な材料で構成されるものであれば特に限定されない。すなわち基体100は公知の透明フィルムでよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルフィルム、ノルボルネンフィルム(JSR(株)製、アートンなど)等が挙げられる。樹脂フィルムの他に、基体14として、ガラスを用いることもできる。また、上記基体100は、樹脂のみからなることが好ましい。この場合、基体100が樹脂と、樹脂以外のものとを含む場合と比較して、透明導電体10は透明性、屈曲性に優れるものとなる。したがって、この透明導電体10を例えばタッチパネルの用途に特に有効である。
【0045】
<製造方法>
次に、上述した導電性粒子11として酸化インジウムに錫をドープしたもの(以下、「ITO」という。)を用いた場合について本実施形態に係る透明導電体10の製造方法について説明する。
【0046】
まず、塩化インジウム及び塩化錫を、アルカリを用いて中和処理することにより共沈させる(沈殿工程)。このとき副生する塩はデカンテーションや遠心分離法によって除去する。得られた共沈物に対して乾燥を行い、得られた乾燥体に対して雰囲気焼成及び粉砕の処理を行う。こうして導電性粒子が製造される。上記焼成の処理は、酸素欠陥の制御の観点から、窒素雰囲気中、若しくはヘリウム、アルゴン、キセノン等の希ガス雰囲気中にて行うことが好ましい。
【0047】
こうして得られた導電性粒子11に、バインダを形成するためのモノマー、重合開始剤13及びラジカル捕捉剤14を加えて、それぞれを液体中で分散させることにより透明導電材料を得る。また、この分散液には、必要に応じて、光増感剤、紫外線吸収剤等の添加剤を加えてもよい。また、この導電性粒子11、バインダ12、重合開始剤13及びラジカル捕捉剤14を分散させる液体としては、ヘキサン等の飽和炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が挙げられる。このとき上記バインダ若しくはモノマーを上記液体に溶かして用いてもよい。
【0048】
上記透明導電材料は、ラジカル捕捉剤14を含有するため、長期間保存した場合において、紫外線照射によりラジカルが発生し、自己縮合等を引き起こすことを抑制できる。すなわち、上記透明導電材料は、経時的な保存安定性に優れる。また、上記透明導電材料を成形した場合の透明導電体は、上述したように、ラジカル捕捉剤14を含有するため、電気的抵抗値の変化を十分に抑制することができる。
【0049】
次に、こうして得られた透明導電材料を基体100上に塗布する。この基体100には、導電層15を接着させる面側にアンカー層を予め設けておくことも可能である。基体100上に予めアンカー層を設けておくと、基体100上のアンカー層を介して導電層15をより強固に固着させることができる。上記アンカー層としては、ポリウレタン等が好適に用いられる。
【0050】
また、上記透明導電材料を塗布後、乾燥工程を施し、未重合の導電層を得ることが好ましい。上記塗布方法としては、例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、ノズル法、カーテン法、グラビアロール法、バーコート法、ディップ法、キスコート法、スピンコート法、スクイズ法、スプレー法等が挙げられる。
【0051】
そして、上記基体100上に設けられた未重合の導電層を重合させる。このとき未重合の導電層に含まれる成分がラジカル重合性であれば、高エネルギー線を照射することによりラジカル重合性成分が重合され、導電層15が形成される。未重合の導電層に含まれる成分がイオン重合性であれば、カチオン重合開始剤を添加することによりイオン重合性成分が重合され、導電層15が形成される。また、未重合の導電層に含まれる成分が熱重合性であれば、加熱することにより熱重合性成分が重合され、導電層15が形成される。なお、上述した高エネルギー線は、ラジカルを発生させるものであれば、紫外線の他、電子線、γ線、X線等であってもよい。
【0052】
なお、上記重合がラジカル重合である場合、高エネルギー線を照射することにより、ラジカル重合開始剤がラジカルを発生させ、ラジカル重合が進行するところ、未重合の導電層に含まれるラジカル捕捉剤が、上記ラジカルを捕捉するが、この場合でも、高エネルギー線の照射時間を長くすれば導電層15を確実に形成することができる。
【0053】
こうして導電層15が基体100の一面上に形成され、図1に示す透明導電体10が得られる。この透明導電体10は、タッチパネル、光透過スイッチ等のパネルスイッチに用いることができ、さらにパネルスイッチ以外にも、ノイズ対策部品や、発熱体、EL用電極、バックライト用電極、LCD、PDP等の用途に好適に用いることができる。
【0054】
<添加剤>
次に上述した添加剤について説明する。なお、添加剤は、必須の成分ではなく、透明導電体10の使用用途等に応じて任意に含有させることができる。
【0055】
(光増感剤)
本実施形態に係る透明導電体10には、光増感剤を含有させることが好ましく、特に導電層15に含有させることが好ましい。この導電層15をラジカル重合反応により製造する場合は、光増感剤を含むことにより、ラジカルが酸素阻害を受けにくくなると共に、光エネルギーを効率よくラジカル重合反応に利用でき、導電層15の硬化反応を促進させ、残存モノマー及び残存重合反応基を低減させることができる。また、導電層15を形成する際の紫外線照射において、重合開始剤13が効率よく分解される。そうすると、導電層15に残存する重合開始剤13の量が低減されるため、上述したように紫外線が重合開始剤13に作用することが抑制される。したがって、上記透明導電体10によれば、透明導電体10の電気的抵抗値の変化を一層抑制することができる。
【0056】
上記光増感剤は、アミン系増感剤、ベンゾフェノン誘導体、又はチオキサントン誘導体であることが好ましい。光増感剤がこれらの化合物であると、紫外線も吸収されるため、導電層15にラジカルが発生することをより抑制できる。
【0057】
上記光増感剤の含有率は、導電層15の全質量を100質量%とした場合、0.2〜2.0質量%であることが好ましい。含有率が0.2質量%未満であると、含有率が上記範囲である場合と比較して、重合開始剤を十分に分解できないため、硬化が十分では無い状態となり、強度が低下する傾向にある。また、含有率が2.0質量%を超えると、含有率が上記範囲である場合と比較して、着色や臭気の原因となることがある。
【0058】
(紫外線吸収剤)
本実施形態の透明導電体10には紫外線吸収剤を含有させることが好ましい。この場合、紫外線吸収剤が紫外線を吸収するため、透明導電体に含まれる重合開始剤を励起する紫外線の量が低減される。
【0059】
なお、この紫外線吸収剤は、導電層15中に含まれていてもよく、基体100中に含まれていてもよい。上記紫外線吸収剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、マイカ、カオリン、セリサイト等の無機物が挙げられる。この場合、透明導電体を耐湿性に優れるものとすることができる。なお、紫外線吸収剤自体がこれらの無機物であってもよい。
【0060】
また、上記紫外線吸収剤としては、分子内にアゾ基を有する化合物、トリアジン環、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、ベンゾイルメタン、ヒドロキシベンゾエート又はそれぞれの誘導体等の有機物が挙げられる。これらの中でも、トリアジン環誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体であることがより好ましい。この場合、可視光透過率に優れるという利点がある。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、無機物と有機物、無機物同士、若しくは有機物同士の2種類以上を混合して用いてもよい。
【0061】
これらの官能基や誘導体を有する紫外線吸収剤は、吸収波長が380nm以下であるものが多いため、当該透明導電体10の透明性を十分に確保することができる。
【0062】
これらの中でも、紫外線吸収剤が分子内にトリアジン環又はベンゾトリアゾールを有すると、紫外線のみ吸収し、可視光域の透過性に影響しないという利点がある。
【0063】
特に、紫外線吸収剤が分子内にベンゾトリアゾールを有すると、ベンゾトリアゾールは紫外線の吸収波長領域が広いため、透明導電体10に含まれる導電性粒子11が紫外線による影響を十分に抑制することができる。
【0064】
導電層15において、紫外線吸収剤の含有率は、導電層15の全質量を100質量%とした場合、0.1質量%〜5.0質量%であることが好ましい。含有率が0.1質量%未満であると、含有率が上記範囲である場合と比較して、十分に紫外線を吸収することができず、導電性粒子が紫外線の影響を受け、含有率が5.0質量%を超えると、含有率が上記範囲である場合と比較して、バインダ12が導電性粒子11を固定させる強度が低下し、透明導電体の機械的強度が十分に得られない傾向にある。
【0065】
(その他の添加剤)
なお、透明導電体10は、必要に応じてその他の添加剤を更に含有していてもよい。その他の添加剤としては、架橋剤、表面処理剤、難燃剤、着色剤、可塑剤等が挙げられる。
【0066】
[第2実施形態]
次に、本発明の透明導電体の第2実施形態について説明する。
【0067】
図2は、本発明の透明導電体の第2実施形態を示す模式断面図である。図2に示すように本実施形態の透明導電体20は、導電層15と、基体100との間に、紫外線吸収剤23を含むバインダ層26を更に備える点で上記第1実施形態の透明導電体10と異なる。
【0068】
上記透明導電体20は、紫外線吸収剤23を含むバインダ層26を更に備えているため、バインダ層26側から入射した光は、上記紫外線吸収剤23によって紫外線領域の光が吸収される。そうすると、導電層15にまで到達する紫外線の量が低減されるので、導電層15でラジカルが発生する量も少なくなる。また、たとえラジカルが発生したとしても、ラジカル捕捉剤14がよってラジカルが確実に捕捉される。したがって、上記透明導電体20によれば、電気的抵抗値の変化をより抑制することができる。また、このことから、ラジカル捕捉剤14の添加量を少なくすることもできる。
【0069】
ここで、上記透明導電体20のバインダ層26について説明する。
【0070】
<バインダ層>
バインダ層26には、紫外線吸収剤23が含まれる。ここで、紫外線吸収剤23は第1実施形態で説明したものと同様のものが用いられる。なお、導電層15とバインダ層26とがいずれも紫外線吸収剤を含む場合において、導電層15に含まれる紫外線吸収剤と、バインダ層26に含まれる紫外線吸収剤とは、同一であっても異なっていてもよい。
【0071】
バインダ層26における紫外線吸収剤23の含有率は、バインダ層の全質量を100質量%とした場合、0.1質量%〜5.0質量%であることが好ましい。含有率が0.1質量%未満であると、含有率が上記範囲である場合と比較して、十分に紫外線を吸収することができず、バインダが劣化する傾向にあり、含有率が5.0質量%を超えると、含有率が上記範囲である場合と比較して、バインダ層26と、導電層15若しくは基体100との接着性強度が低下する傾向にある。
【0072】
また、バインダ層26は、バインダ22を更に含むことが好ましい。この場合、紫外線吸収剤23をバインダ22により固定させることができる。ここで、バインダ22は第1実施形態で説明したバインダ12と同様のものが用いられる。なお、導電層15に含まれるバインダ12と、バインダ層26に含まれるバインダ22とは、同一であっても異なっていてもよい。
【0073】
なお、本実施形態において、上記バインダ層26には上述した重合開始剤、アミン系増感剤、架橋剤、表面処理剤、難燃剤、着色剤、可塑剤等の添加剤を含有させてもよい。
【0074】
<製造方法>
次に、上述した導電性粒子11として酸化インジウムに錫をドープしたもの(以下、「ITO」という。)を用いた場合について本実施形態に係る透明導電体20の製造方法について説明する。
【0075】
まず、紫外線吸収剤23を例えばバインダ22に加えて、液体中に分散させ分散液を得る。なお、バインダ22に代えてバインダ22のモノマー、ダイマー等が用いられてもよい。また、この分散液には、必要に応じて、上記添加剤を加えてもよい。また、この紫外線吸収剤23及びバインダ22を分散させる液体としては、ヘキサン等の飽和炭化水素類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が挙げられる。このとき上記バインダ若しくはモノマーを上記液体に溶かして用いてもよい。
【0076】
こうして得られた分散液を基体100上に塗布する。この基体100には、導電層15との接着させる面側にアンカー層を予め設けておくことも可能である。基体100上に予めアンカー層を設けておくと、基体100上にアンカー層を介してバインダ層26をより強固に固定させることができる。上記アンカー層としては、ポリウレタン等が好適に用いられる。
【0077】
また、上記分散液を塗布後、乾燥工程を施し、未重合のバインダ層を得ることが好ましい。上記塗布方法としては、例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、ノズル法、カーテン法、グラビアロール法、バーコート法、ディップ法、キスコート法、スピンコート法、スクイズ法、スプレー法等が挙げられる。
【0078】
そして、上記基体100上に設けられた未重合のバインダ層を重合させる。このとき未重合のバインダ層に含まれる成分が熱重合性であれば、加熱することにより熱重合性成分が重合され、バインダ層26が形成される。また、未重合のバインダ層に含まれる成分がラジカル重合性であれば、高エネルギー線を照射することによりラジカル重合性成分が重合され、バインダ層26が形成される。未重合のバインダ層に含まれる成分がイオン重合性であれば、カチオン重合開始剤を添加することによりイオン重合性成分が重合され、バインダ層26が形成される。また、未重合のバインダ層に含まれる成分が熱重合性であれば、加熱することにより熱重合性成分が重合され、バインダ層26が形成される。なお、上述した高エネルギー線は、ラジカルを発生させるものであれば、紫外線の他、電子線、γ線、X線等であってもよい。
【0079】
ここで、紫外線吸収剤23を含有するバインダ層26を、ラジカル重合開始剤を用いて形成する場合、このラジカル重合開始剤としては、可視光域でラジカルを発生させうるラジカル重合開始剤であることが好ましい。具体的には、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル)チタニウム、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル)−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。通常、ラジカル重合開始剤は紫外領域の一定波長を吸収することにより、ラジカル重合を開始するが、上記のように紫外線吸収剤23が存在すると、紫外線吸収剤23の吸収する波長と、ラジカル重合開始剤が吸収する波長とが重複しない領域でラジカル重合を開始させる必要があるところ、このようなラジカル重合開始剤は、ラジカル重合を開始させることができる光の波長の幅が、近紫外線から可視光線の領域まで広がっているため、紫外領域に幅広い吸収を有する紫外線吸収剤23を用いた場合であっても、確実にラジカル重合を開始させることができる。
【0080】
こうしてバインダ層26が基体100の一面上に形成される。
【0081】
次に、上述した透明導電材料を基体100上に設けたバインダ層26上に塗布する。また、上記透明導電材料を塗布後、乾燥工程を施し、未重合の導電層を得ることが好ましい。上記塗布方法としては、例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、ノズル法、カーテン法、グラビアロール法、バーコート法、ディップ法、キスコート法、スピンコート法、スクイズ法、スプレー法等が挙げられる。
【0082】
そして、上記バインダ層26上に設けられた未重合の導電層を重合させる。このとき未重合の導電層に含まれる成分がラジカル重合性であれば、高エネルギー線を照射することによりラジカル重合性成分が重合され、導電層15が形成される。未重合の導電層に含まれる成分がイオン重合性であれば、カチオン重合開始剤を添加することによりイオン重合性成分が重合され、導電層15が形成される。また、未重合の導電層に含まれる成分が熱重合性であれば、加熱することにより熱重合性成分が重合され、導電層15が形成される。なお、上述した高エネルギー線は、ラジカルを発生させるものであれば、紫外線の他、電子線、γ線、X線等であってもよい。
【0083】
こうして導電層15がバインダ層26の一面上に形成され、図2に示す透明導電体20が得られる。この透明導電体20は、タッチパネル、光透過スイッチ等のパネルスイッチに用いることができ、さらにパネルスイッチ以外にも、ノイズ対策部品や、発熱体、EL用電極、バックライト用電極、LCD、PDP等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
(導電性粒子の作製)
塩化インジウム四水和物(関東化学社製)19.9g及び塩化第二錫(関東化学社製)2.6gを水980gに溶解した水溶液と、アンモニア水(関東化学社製)を水で10倍に希釈したものとを調製しながら混合し、白色の沈殿物(共沈物)を生成させた。
【0086】
生成した沈殿物を含む液体を遠心分離機で固液分離し固形物を得た。これを更に水1000gに投入し、ホモジナイザーで分散して、遠心分離機で固液分離を行なった。分散及び固液分離を5回繰り返したのち、固形物を乾燥し、窒素雰囲気中、600℃で1時間加熱して、ITO粉(導電性粒子)を得た。
【0087】
(実施例1)
ガラス基板上に10cm×30cm角のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(基体、帝人株式会社製、厚さ100μm)を両面粘着テープを用いて貼り付け、ガラス基板上にPETフィルムからなる基体を固定した。
【0088】
次にポリエチレングリコールジアクリレート(モノマー、新中村化学工業株式会社製、商品名:A−600)36質量部と、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート(モノマー、新中村化学工業株式会社製、商品名:702A)12質量部と、ラジカル重合開始剤(ラムバーティ社製、ESACURE KTO46)1質量部とをメチルエチルケトン(関東化学株式会社製、MEK)50質量部中で混合させ、第1の混合液を得た。
【0089】
この第1の混合液をバーコート法により基体上に重合後の厚さが10μmとなるように塗布し、高圧水銀灯を光源として積算照度量1000mJ/cmとするUV照射を行うことにより重合させ、バインダ層を形成した。
【0090】
次にITO粉(導電性粒子、平均粒径30nm)150質量部と、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(モノマー、新中村化学工業株式会社製、商品名:A−BPE−20)20質量部と、ポリエチレングリコールジメタクリレート(モノマー、新中村化学工業株式会社製、商品名:14G)35質量部と、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート(モノマー、新中村化学工業株式会社製、商品名:702A)25質量部と、ウレタン変性アクリレート(モノマー、新中村化学工業株式会社製、商品名:UA−512)10質量部と、アクリルポリマー(平均分子量約5万、1分子当たりアクリロイル基を平均50基、トリエトキシシランを平均25基含有)10重量部と、チヌビン123(ヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)1質量部と、ラジカル重合開始剤(ラムバーティ社製、ESACURE KTO46)2質量部とをメチルエチルケトン(関東化学株式会社製、MEK)50質量部中で混合させ、第2の混合液(透明導電材料)を得た。
【0091】
この第2の混合液をバーコート法により上記バインダ層上に重合後の厚さが50μmとなるように塗布し、高圧水銀灯を光源として積算照度量3000mJ/cmとするUV照射を行うことにより重合させ、導電層を形成した。そして、ガラス基板を基体から分離することにより、透明導電体Aを得た。
【0092】
(実施例2)
実施例1で使用した第1の混合液に、チヌビン900(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)1質量部を更に含有させたこと以外は実施例1と同様にして、透明導電体Bを得た。
【0093】
(実施例3)
実施例1の第2の混合液に、2−(ジメチルアミノ)エチルベンゾエイト(ラムバーティ社製、アミン系増感剤)1質量部を更に含有させたこと以外は実施例1と同様にして、透明導電体Cを得た。
【0094】
(実施例4)
実施例1で使用したITO粉の代わりに、アンチモンがドープされた酸化錫を用いたこと以外は実施例1と同様にして、透明導電体Dを得た。
【0095】
(実施例5)
実施例2で使用したITO粉の代わりに、アンチモンがドープされた酸化錫を用いたこと以外は実施例2と同様にして、透明導電体Eを得た。
【0096】
(実施例6)
実施例3で使用したITO粉の代わりに、アンチモンがドープされた酸化錫を用いたこと以外は実施例3と同様にして、透明導電体Fを得た。
【0097】
(実施例7)
実施例1で使用したITO粉の代わりに、ガリウムがドープされた酸化亜鉛を用いたこと以外は実施例1と同様にして、透明導電体Gを得た。
【0098】
(実施例8)
実施例2で使用したITO粉の代わりに、ガリウムがドープされた酸化亜鉛を用いたこと以外は実施例2と同様にして、透明導電体Hを得た。
【0099】
(実施例9)
実施例3で使用したITO粉の代わりに、ガリウムがドープされた酸化亜鉛を用いたこと以外は実施例3と同様にして、透明導電体Iを得た。
【0100】
(比較例1)
実施例1で用いた、チヌビン123を用いないこと以外は実施例1と同様にして、透明導電体Jを得た。
【0101】
[評価方法]
まず、実施例1〜3及び比較例1で得られた透明導電体A〜C及びJを用いて、ラジカル重合開始剤及びラジカル捕捉剤が存在しているかについて調査した。
【0102】
(アウトガス試験)
実施例1〜3及び比較例1の透明導電体をHS−GC−MS(ヘッドスペース・ガスクロマトグラム・質量分析)により上記透明導電体A〜C及びJからのアウトガス分析を行った。その結果、いずれの透明導電体においてもラジカル重合開始剤及びその分解物であるアセトンが検出された。よって、上記透明導電体にはいずれもラジカル重合開始剤が残留していることが確認された。
【0103】
(電気的抵抗値の変化率)
実施例1〜3及び比較例1で得られた透明導電体A〜C及びJについて、以下のようにして電気的抵抗の評価を行った。すなわち、上記のようにして得られた透明導電体A〜C及びJを50mm角に切り取り、導電層の表面において、任意の対向する端面から5mmの幅に銀製導電ペーストにて電極を作製し、この電極間にデジタルマルチメーター(三和電気計器株式会社製PC5000)を接続した。これらを室温低湿度(2%RH以下)暗室中に、基板側の面と光源が対向するよう設置し、基板側の面から垂直方向に20cmの位置からブラックライト(東芝ライテック株式会社製、型番FL6BLB)を設置してピーク波長352nmの近紫外線を照射した。近紫外線照射前の電気的抵抗値を初期抵抗値、1時間照射後の電気的抵抗値を負荷後抵抗値とし、下記式:
変化率=負荷後抵抗値/初期抵抗値
に基づいて変化率を算出した。得られた結果を表1に示す。
【表1】



【0104】
(電子スピン共鳴分析測定)
電子スピン共鳴分析を行い、ラジカル捕捉剤の有無を確認した。まず、上記実施例1〜3及び比較例1のそれぞれにおいて、PETフィルムのみを石英ガラス基板に代え、3mm×17mmの透明導電体を準備した。そして、20KにてUV(超高圧水銀灯:ウシオ電機社製)を連続的に照射しながら電子スピン共鳴分析測定(BRUKER社製:ESP350E)を行った。このときの放射照度は365nmにおいて約20mW/cmであった。測定の結果、上記透明導電体すべてにg=2.000〜2.003付近に炭素上のラジカルに起因する幅広いシグナルが観察され、また、比較例1の透明導電体にのみg=1.998〜1.999付近にITOに起因すると思われる狭いシグナルが観察された。
【0105】
このことから、紫外線照射によって、実施例1〜3の透明導電体では、ラジカルが十分に捕捉され、比較例1の透明導電体では、ラジカルが十分に捕捉されないことが確認された。よって、実施例1〜3の透明導電体では、ラジカル捕捉剤が存在し、比較例1の透明導電体では、ラジカル捕捉剤が存在しないことが確認された。
【0106】
また、表1から明らかなように、実施例1〜3の透明導電体A〜Cは、比較例1の透明導電体Jと比較して、電気的抵抗値の変化率が小さく、電気的抵抗値の変化が十分に抑制できていることがわかった。また、実施例4〜9の透明導電体についても、実施例1〜3と同様に、アウトガス試験、電気的抵抗の変化率、電子スピン共鳴分析測定の評価を行ったところ、いずれも実施例1〜3と同様の結果が得られた。このことから、実施例4〜9においても透明導電体中にラジカル捕捉剤が含まれることで、電気的抵抗値の変化を抑制できるといえる。
【0107】
また、実施例1,2の結果より、紫外線吸収剤を含有することで、電気的抵抗値の変化をより抑制でき、さらに、実施例1,3の結果よりアミン系増感剤を含有することで、電気的抵抗値の変化をより抑制できることがわかった。
【0108】
以上の結果より、本発明の透明導電材料によれば、電気的抵抗値の変化を十分に抑制することができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】図1は、本発明の透明導電体の第1実施形態を示す模式断面図である。
【図2】図2は、本発明の透明導電体の第2実施形態を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0110】
10,20…透明導電体、10a…面、11…導電性粒子、12,22…バインダ、13…重合開始剤、14…ラジカル捕捉剤、15…導電層、23…紫外線吸収剤、26…バインダ層、100…基体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子、バインダ、重合開始剤、及びラジカル捕捉剤を含む導電層を備える、透明導電体。
【請求項2】
紫外線吸収剤を含む、請求項1記載の透明導電体。
【請求項3】
紫外線吸収剤を含むバインダ層をさらに備える、請求項1又は2に記載の透明導電体。
【請求項4】
前記ラジカル捕捉剤が、下記一般式(1)で表されるものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明導電体。
【化1】



[式(1)中、Rは水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、又は置換基を有していてもよいアルキレンオキサイド基を示し、R2は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、カルボキシル基、水酸基、置換基を有していてもよいアミン基又は置換基を有していてもよいアルキレンオキサイド基を示す。]
【請求項5】
前記導電層が、光増感剤を更に含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の透明導電体。
【請求項6】
バインダを形成するためのモノマーと、導電性粒子と、重合開始剤と、ラジカル捕捉剤と、を含有する透明導電材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−12488(P2007−12488A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193124(P2005−193124)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】