説明

透明導電膜形成用インキとその製造方法

【課題】 印刷法や塗布法などの湿式法によるより信頼性の高い透明導電膜の形成を可能にする透明導電膜形成用インキとその製造方法を提供する。
【解決手段】 透明導電膜形成用インキにおいて、有機インジウム化合物の部分加水分解物と、有機スズ化合物と、亜鉛又は亜鉛化合物と、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類のうちの少なくとも1種の低沸点溶剤と、前記低沸点溶剤よりも沸点の高いグリコール類、カルビトール類、セルソルブ類のうちの少なくとも1種の高沸点溶剤と、アミン類、有機酸類、無機酸類、β−ジケトン類、β−ケトエステル類のうちの少なくとも1種の安定化剤とを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置、エレクトロルミネッセンス素子、プラズマディスプレイ素子、蛍光表示管などのフラットディスプレイやタッチパネルなどの種々の電子部品に使用される透明導電膜を、印刷法や塗布法などの湿式法で形成する際に用いる透明導電膜形成用インキとその製造方法に関し、詳しくは、有機インジウム化合物の部分加水分解物と有機スズ化合物とを含有する透明導電膜形成用インキとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような透明導電膜形成用インキとしては、有機インジウム化合物の部分加水分解物と、有機スズ化合物と、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類のうちの少なくとも1種の低沸点溶剤と、グリコール類、カルビトール類、セルソルブ類のうちの少なくとも1種の高沸点溶剤と、安定化剤とからなるものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
又、上記のような透明導電膜形成用インキの製造方法としては、有機インジウム化合物の部分加水分解物と、有機スズ化合物と、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類のうちの少なくとも1種の低沸点溶剤と、アミン類、有機酸類、無機酸類、β−ジケトン類、β−ケトエステル類のうちの少なくとも1種の安定化剤とからなる透明導電膜形成前駆体溶液を、常温〜60℃の条件により濃縮して粘稠な溶液とし、次いで、この粘稠な溶液中にグリコール類、カルビトール類、セルソルブ類のうちの少なくとも1種の高沸点溶剤を加えて、溶剤成分中の高沸点溶剤が40〜95重量%となるとともにインキ粘度が5〜200mPa・sとなるように調整して透明導電膜形成用インキを得るようにしたものがある(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−158426号公報
【特許文献2】特開平11−158427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の透明導電膜形成用インキ、又は、製造方法で得た透明導電膜形成用インキを用いて、例えば、厚さ30nm以下の極薄の透明導電膜を印刷法で形成すると、成膜後の乾燥・焼成工程における熱収縮や有機物の分解に伴うガス抜けに起因して、透明導電膜の表面にクラックが生じる傾向がある。
【0005】
このクラックは、透明導電膜における比抵抗の安定性、及び、透明導電膜の例えば耐熱性能や耐湿性能といった環境耐性を不安定にする傾向があり、より高い信頼性を得るためには、このクラックの発生を抑制又は防止することが望ましい。
【0006】
本発明の目的は、印刷法や塗布法などの湿式法によるより信頼性の高い透明導電膜の形成を可能にする透明導電膜形成用インキとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明のうちの請求項1に記載の発明では、透明導電膜形成用インキにおいて、有機インジウム化合物の部分加水分解物と、有機スズ化合物と、亜鉛又は亜鉛化合物と、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類のうちの少なくとも1種の低沸点溶剤と、前記低沸点溶剤よりも沸点の高いグリコール類、カルビトール類、セルソルブ類のうちの少なくとも1種の高沸点溶剤と、アミン類、有機酸類、無機酸類、β−ジケトン類、β−ケトエステル類のうちの少なくとも1種の安定化剤とを含有することを特徴とする。
【0008】
この特徴構成に基づく透明導電膜形成用インキを用いた印刷法や塗布法などの湿式法で透明導電膜を形成すると、含有する亜鉛又は亜鉛化合物の作用で、成膜後の乾燥・焼成工程における熱収縮や有機物の分解に伴うガス抜けに起因して、透明導電膜の表面に、透明導電膜における比抵抗の安定性や透明導電膜の環境耐性を不安定にする要因となるクラックが発生することを抑制又は防止することができる。
【0009】
その結果、透明導電膜における抵抗値の均一性、及び、耐熱性能や耐湿性能などの環境耐性が向上することになり、より信頼性の高い透明導電膜を得られるようになる。
【0010】
従って、印刷法や塗布法などの湿式法によってより信頼性の高い透明導電膜を形成することのできる透明導電膜形成用インキを提供することができる。
【0011】
本発明のうちの請求項2に記載の発明では、上記請求項1に記載の発明において、ITO重量固形分100重量部に対する前記亜鉛又は亜鉛化合物中の亜鉛の含有量が、焼成後換算で2〜5重量部であることを特徴とする。
【0012】
この特徴構成では、ITO(酸化インジウム・スズ)重量固形分に対する適正な割合の亜鉛又は亜鉛化合物を含有することから、成膜後の乾燥・焼成工程における熱収縮や有機物の分解に伴うガス抜けに起因して、透明導電膜の表面にクラックが発生することを、より効果的に抑制又は防止することができる。
【0013】
その結果、透明導電膜における抵抗値の均一性、及び、透明導電膜における耐熱性能や耐湿性能などの環境耐性が更に向上することになり、更に信頼性の高い透明導電膜を得られるようになる。
【0014】
従って、印刷法や塗布法などの湿式法によって更に信頼性の高い透明導電膜を形成することのできる、より好適な透明導電膜形成用インキを提供することができる。
【0015】
本発明のうちの請求項3に記載の発明では、上記請求項1又は2に記載の発明において、前記亜鉛又は亜鉛化合物として酸化亜鉛を含有することを特徴とする。
【0016】
この特徴構成では、含有する亜鉛又は亜鉛化合物を酸化亜鉛に特定することで、成膜後の乾燥・焼成工程における熱収縮や有機物の分解に伴うガス抜けに起因して、透明導電膜の表面にクラックが発生することを、より効果的に抑制又は防止することができる。
【0017】
その結果、透明導電膜における抵抗値の均一性、及び、透明導電膜における耐熱性能や耐湿性能などの環境耐性が更に向上することになり、更に信頼性の高い透明導電膜を得られるようになる。
【0018】
従って、印刷法や塗布法などの湿式法によって更に信頼性の高い透明導電膜を形成することのできる、より好適な透明導電膜形成用インキを提供することができる。
【0019】
本発明のうちの請求項4に記載の発明では、上記請求項1〜3のいずれか一つに記載の発明において、溶剤成分中の前記低沸点溶剤が5〜60重量%で、かつ、前記高沸点溶剤が40〜95重量%であり、インキ粘度が5〜200mPa・sであることを特徴とする。
【0020】
この特徴構成によると、低沸点溶剤と高沸点溶剤とを適正な割合で用いることから、低沸点溶剤が不足することに起因した膜質の劣化を防止することができ、所望の導電性を得ることができる。又、印刷や塗布の際に直ぐに乾燥することを防止できる適度な乾燥性を有することになり、これによって、膜厚精度が高くなるとともに、薄膜印刷装置を用いた連続印刷が可能になる。
【0021】
しかも、インキ粘度を適正に調整することから、インキ粘度が低い場合に発生する液だれや塗布面の膜厚むらを防止することができ、又、粘度が高い場合に発生する膜厚制御が困難になる不都合を防止することができ、結果、透明導電膜の抵抗値や膜厚の均一性が得られ易くなる。
【0022】
つまり、薄膜印刷装置を用いた連続印刷を可能にしながら、透明導電膜における抵抗値や膜圧の均一性を更に向上させることができ、結果、生産性の向上を図りながら更に信頼性の高い透明導電膜を得られるようになる。
【0023】
従って、印刷法や塗布法などの湿式法によって更に信頼性の高い透明導電膜を生産性の向上を図りながら形成することのできる、より好適な透明導電膜形成用インキを提供することができる。
【0024】
本発明のうちの請求項5に記載の発明では、透明導電膜形成用インキの製造方法において、有機インジウム化合物の部分加水分解物と、有機スズ化合物と、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類のうちの少なくとも1種の低沸点溶剤と、アミン類、有機酸類、無機酸類、β−ジケトン類、β−ケトエステル類のうちの少なくとも1種の安定化剤とを含有する透明導電膜形成前駆体溶液を、常温〜60℃の条件により濃縮して粘稠化し、この粘稠化した透明導電膜形成前駆体溶液に、亜鉛又は亜鉛化合物を加えて分散溶液とし、この分散溶液に、前記低沸点溶剤よりも沸点が高いグリコール類、カルビトール類、セルソルブ類のうちの少なくとも1種の高沸点溶剤を加えることを特徴とする。
【0025】
この特徴構成に基づく製造方法で得られる透明導電膜形成用インキを用いた印刷法や塗布法などの湿式法で透明導電膜を形成すると、添加した亜鉛又は亜鉛化合物の作用で、成膜後の乾燥・焼成工程における熱収縮や有機物の分解に伴うガス抜けに起因して、透明導電膜の表面に、透明導電膜における比抵抗の安定性や透明導電膜の環境耐性を不安定にする要因となるクラックが発生することを抑制又は防止することができる。
【0026】
その結果、透明導電膜における抵抗値の均一性、及び、耐熱性能や耐湿性能などの環境耐性が向上することになり、より信頼性の高い透明導電膜を得られるようになる。
【0027】
従って、印刷法や塗布法などの湿式法によってより信頼性の高い透明導電膜を形成することのできる透明導電膜形成用インキを得るための製造方法を提供することができる。
【0028】
本発明のうちの請求項6に記載の発明では、上記請求項5に記載の発明において、ITO重量固形分100重量部に対する前記亜鉛又は亜鉛化合物中の亜鉛の含有量を、焼成後換算で2〜5重量部としてあることを特徴とする。
【0029】
この特徴構成では、ITO(酸化インジウム・スズ)重量固形分に対する適正な割合の亜鉛又は亜鉛化合物を添加することから、成膜後の乾燥・焼成工程における熱収縮や有機物の分解に伴うガス抜けに起因して、透明導電膜の表面にクラックが発生することを、より効果的に抑制又は防止することができる。
【0030】
その結果、透明導電膜における抵抗値の均一性、及び、透明導電膜における耐熱性能や耐湿性能などの環境耐性が更に向上することになり、更に信頼性の高い透明導電膜を得られるようになる。
【0031】
従って、印刷法や塗布法などの湿式法によって更に信頼性の高い透明導電膜を形成することのできる、より好適な透明導電膜形成用インキを得るための製造方法を提供することができる。
【0032】
本発明のうちの請求項7に記載の発明では、上記請求項5又は6に記載の発明において、前記亜鉛又は亜鉛化合物として酸化亜鉛を使用することを特徴とする。
【0033】
この特徴構成では、添加する亜鉛又は亜鉛化合物を酸化亜鉛に特定することで、成膜後の乾燥・焼成工程における熱収縮や有機物の分解に伴うガス抜けに起因して、透明導電膜の表面にクラックが発生することを、更に効果的に抑制又は防止することができる。
【0034】
その結果、透明導電膜における抵抗値の均一性、及び、透明導電膜における耐熱性能や耐湿性能などの環境耐性が更に向上することになり、更に信頼性の高い透明導電膜を得られるようになる。
【0035】
従って、印刷法や塗布法などの湿式法によってより信頼性の高い透明導電膜を形成することのできる、より好適な透明導電膜形成用インキを得るための製造方法を提供することができる。
【0036】
本発明のうちの請求項8に記載の発明では、上記請求項5〜7のいずれか一つに記載の発明において、溶剤成分中の前記低沸点溶剤が5〜60重量%で、かつ、前記高沸点溶剤が40〜95重量%となり、インキ粘度が5〜200mPa・sとなるように調整することを特徴とする。
【0037】
この特徴構成によると、低沸点溶剤と高沸点溶剤とを適正な割合で用いることから、低沸点溶剤が不足することに起因した膜質の劣化を防止することができ、所望の導電性を得ることができる。又、印刷や塗布の際に直ぐに乾燥することを防止できる適度な乾燥性を有することになり、これによって、膜厚精度が高くなるとともに、薄膜印刷装置を用いた連続印刷が可能になる。
【0038】
しかも、インキ粘度を適正に調整することから、インキ粘度が低い場合に発生する液だれや塗布面の膜厚むらを防止することができ、又、粘度が高い場合に発生する膜厚制御が困難になる不都合を防止することができ、結果、透明導電膜の抵抗値や膜厚の均一性が得られ易くなる。
【0039】
つまり、薄膜印刷装置を用いた連続印刷を可能にしながら、透明導電膜における抵抗値や膜圧の均一性を更に向上させることができ、結果、生産性の向上を図りながら更に信頼性の高い透明導電膜を得られるようになる。
【0040】
従って、印刷法や塗布法などの湿式法によって更に信頼性の高い透明導電膜を生産性の向上を図りながら形成することのできる、より好適な透明導電膜形成用インキを得るための製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
図1には、本発明の透明導電膜形成用インキを使用することのできる薄膜形成装置の一例が示されており、この薄膜形成装置は、基台1の支持枠2に回転可能に支持された凹版ロール3、支持枠2における凹版ロール3の下方に回転可能に支持された印刷ロール4、凹版ロール3の表面に1.0〜30000mPa・sのインキを供給するインキ供給装置5、凹版ロール3に対する所定箇所に位置するように支持枠2に支持されたドクター6、凹版ロール3と印刷ロール4とを同期回転駆動する駆動装置7、被印刷体の一例であるガラス板8を載置する定盤9、基台1上で定盤9を移動させる被印刷体駆動装置10、及び、印刷ロール4の回転と定盤9の移動とを制御する制御装置(図示せず)などによって構成されている。
【0042】
凹版ロール3は、その表面に深さ1.0〜数10μmの多数のインキセルを有し、その表面に供給されたインキがドクター6により広げられることで、インキセル内に一定量のインキを保持する。
【0043】
印刷ロール4は、凹版ロール3に接触する凸部11を有し、駆動装置7による凹版ロール3との同期回転駆動により、その凸部11が凹版ロール3に接触して、インキセル内のインキを凸部11に転移させる。
【0044】
定盤9は、被印刷体駆動装置10による駆動で、載置したガラス板8を印刷ロール4に接触させる印刷位置Aと、印刷ロール4から離間させる退避位置B,Cとに移動し、印刷ロール4の凸部7に転移されたインキを印刷位置Aにおいてガラス板8に印刷する。
【0045】
本発明の透明導電膜形成用インキは、有機インジウム化合物の部分加水分解物と、有機スズ化合物と、沸点が30〜150℃のアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類のうちの少なくとも1種の低沸点溶剤と、アミン類、有機酸類、無機酸類、β−ジケトン類、β−ケトエステル類のうちの少なくとも1種の安定化剤とからなる透明導電膜形成前駆体溶液を、常温〜60℃の条件により濃縮して粘稠な溶液とし、この粘稠な溶液中に、沸点が80〜280℃のアルコール類又はグリコール類で湿潤させた亜鉛又は亜鉛化合物を、ITO(酸化インジウム・スズ)重量固形分100重量部に対する亜鉛又は亜鉛化合物中の亜鉛の含有量が焼成後換算で2〜5重量部となるように加えて分散溶液とし、この分散溶液に、沸点が150〜280℃のグリコール類、カルビトール類、セルソルブ類のうちの少なくとも1種の高沸点溶剤を希釈溶剤として加えて、溶剤成分中の低沸点溶剤が5〜60重量%で、かつ、高沸点溶剤が40〜95重量%となり、インキ粘度が5〜200mPa・sとなるように調整する、という製造方法によって得ることができる。
【0046】
有機インジウム化合物の部分加水分解物は、下記の一般式
〔化〕
In(OH)X1(R1−CO−CH2−CO−R1’)Y1
1=X1+Y1
(但し、R1,R1’は置換アリル基または置換アルキル基を示し、R1,R1’は同じであっても、異なっていてもよい。m1はInの価数を示す。X1,Y1は自然数を示す。)で表される少なくとも1種の有機インジウム化合物の部分加水分解物を用いるとよい。
【0047】
このような組成の有機インジウム化合物の部分加水分解物と有機スズ化合物との混合物を用いることにより、経時変化の少ない連続印刷性に優れた透明導電膜形成用インキとなる。又、わずかに残った配位子が透明導電膜形成用インキ中に均一に分散していることから、成膜後の焼成工程によって酸化物被膜となる際に元素が偏折することのない導電性に優れた透明導電膜形成用インキとなる。更に、主な有機成分である配位子が少ないため、成膜後の焼成工程において有機金属化合物の分解点温度の上昇が起こらずカーボン残渣が生じないので、良好な透明性を有する透明導電膜を得ることができる。
【0048】
上記の一般式で表される有機インジウム化合物の部分加水分解物は、金属キレート化合物の一種である。しかし、完全キレート化した場合、焼成工程中に昇華し良好な酸化物被膜が得られず、又、透明導電膜形成用インキの分解点温度の上昇と、透明導電膜中のカーボン残渣の発生が促進されて、透明導電膜の抵抗値が上昇する、あるいは、透過率が低下するなど、透明導電膜の物性が低下する。従って、有機インジウム化合物の部分加水分解物は、完全キレート化したものであってはならない。
【0049】
有機インジウム化合物の部分加水分解物として、一部未分解の金属アルコキシドを含むものを使用すると、アルコキシドの部位で置換反応が進行し易く、粘度の経時変化が著しいので、安定した膜厚や膜質のものを得ることが難しくなる。
【0050】
溶剤としては、沸点が30〜150℃のアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類のうちの少なくとも1種の低沸点溶剤5〜60重量%と、沸点が150〜280℃のグリコール類、カルビトール類、セルソルブ類のうちの少なくとも1種の高沸点溶剤40〜95重量%との混合物を用いる。低沸点溶剤の比率が5重量%に満たないと、最終的に得られる膜質が劣化するので、所望の導電性が得られない。一方、低沸点溶剤の比率が60重量%を超えると、高沸点溶剤の比率が40%に満たなくなり、先に述べた薄膜形成装置で印刷を行うと、透明導電膜形成用インキの乾燥が著しく、連続して透明導電膜を形成するのが困難になる。
【0051】
低沸点溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール、第二アミルアルコール、3−ペンタノール、第三アミルアルコール、フーゼル油などのアルコール類、アセトン、メチルアセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、ジエチルケトン、エチル−n−ブチルケトンなどのケトン類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸−n−ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸第二ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチルなどのエステル類、ジ−n−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ブチレンオキシド、ジオキサン、トリオキサン、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジエトキシエタンなどのエーテル類などを用いるとよい。又、低沸点溶剤は、蒸発速度、飽和蒸気圧、粘度、化合物との相溶性などを考慮し、2種類以上の低沸点溶剤を組み合わせたものであってもよい。
【0052】
高沸点溶剤としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールイソアミルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、エチレングリコールベンジルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、メトキシメトキシエタノール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールアセテート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリグリコールジクロリド、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、1−ブトキシエトキシプロパノール、プロビレングリコール誘導体、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリメチレングリコール、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、グリセリルモノアセテート、グリセリルジアセテート、グリセリルトリアセテート、グリセリルモノブチレート、グリセリンエーテル、グリセリン−α,γ−ジクロルヒドリン、1,2,6−ヘキサントリオールなどのグリコール類のほか、カルビトール類、セルソルブ類を用いるとよい。高沸点溶剤において、とりわけグリコール類は、有機金属化合物に対して分散剤的な役割を果たし、有機金属化合物の均一分散の手助けとなっている。又、高沸点溶剤は、蒸発速度、飽和蒸気圧、粘度、化合物との相溶性などを考慮し、2種類以上の高沸点溶剤を組み合わせたものであってもよい。
【0053】
このように、低沸点溶剤と高沸点溶剤とを用いることにより、溶剤の蒸発を段階的に行うことによるレベリング効果が得られ、透明導電膜形成用インキの乾燥を防止することができる。
【0054】
安定化剤としては、アミン類、有機酸類、無機酸類、β−ジケトン類、β−ケトエステル類のうちの少なくとも1種を使用するとよい。又、N,N’−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの乾燥調整剤などを添加することもできる。これらのうち1種または複数を混合して使用するとよい。
【0055】
透明導電膜形成前駆体溶液の濃縮は、常温〜60℃以下の条件下で行うとよい。常温より低いと縮重合反応が進み難く、一方、60℃を越えると縮重合物が高沸点溶剤に溶解しなくなる。尚、濃縮を真空条件下で行うようにすれば作業時間を短縮することができる。
【0056】
濃縮により粘稠化した透明導電膜形成前駆体溶液に含まれる金属化合物は20〜30%とし、Sn/Inの金属比は0.15〜0.25とするとよい。金属化合物の割合及びSn/Inの金属比がそれぞれ上記の範囲であるとインキの印刷適正及び塗布適正が向上する。
【0057】
亜鉛又は亜鉛化合物中の亜鉛の含有量としては、焼成後換算で、ITO重量固形分100重量部に対して2〜5重量部とするとよい。亜鉛又は亜鉛化合物中の亜鉛の含有量が2重量部に満たないと、成膜後の乾燥・焼成工程における熱収縮や有機物の分解に伴うガス抜けに起因した膜表面でのクラックの発生を抑制することが難しくなり、透明導電膜における比抵抗の安定性、及び、透明導電膜の耐熱性や耐湿性といった環境耐性が不安定になる。一方、亜鉛又は亜鉛化合物中の亜鉛の含有量が5重量部を超えると、透明導電膜の抵抗値が上昇して導電性が低下する。
【0058】
つまり、ITO重量固形分に対して適正な割合の亜鉛又は亜鉛化合物を添加することで、成膜後の乾燥・焼成工程における熱収縮や有機物の分解に伴うガス抜けに起因して透明導電膜の表面にクラックが発生することを効果的に抑制又は防止することができる。
【0059】
亜鉛又は亜鉛化合物を添加する際には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール、第二アミルアルコール、3−ペンタノール、第三アミルアルコール、フーゼル油などのアルコール類、又はグリコール類を用いて混練し、湿潤させるとよい。
【0060】
透明導電膜形成用インキの粘度としては、部分加水分解の調整、有機金属化合物の濃度、又は溶剤の適宜選択によって5〜200mPa・sにする。インキ粘度が5〜200mPa・sに満たないと、液だれや塗布面の膜厚むらが著しく、抵抗値あるいは膜厚の均一性が得られ難くなる。一方、粘度が200mPa・sを越えると、凹版ロールの深度を調整することで所望の膜厚が得られるものの、1回で転移するインキ量が多くなり、得られる被膜の膜厚制御が困難になる。又、印刷された透明導電膜のレベリング性が悪くなり、平滑な膜が得られ難くなる。
【0061】
そして、インキ粘度を調整する際に増粘剤を使用しないことから、成膜後の焼成工程において、増粘剤成分を原因とした分解ガスの発生で透明導電膜がポーラスになることを未然に回避することができる。
【0062】
この発明の透明導電膜形成用インキは、図1に示す薄膜形成装置に適用すると、透明導電膜の生産性を向上させることができる。この薄膜形成装置の印刷ロール4の凸部11の材料としては、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBR)、イソブチレン−スチレン−イソブチレン(ISI)、ウレタン系ゴムなどが主に用いられている。従って、低沸点溶剤はアルコールを主体として構成するのが望ましく、エステル類もしくはケトン類が低沸点溶剤に占める割合は、15重量%以下が望ましい。15重量%を超えると、印刷ロール4の凸部11を劣化させ、ピンホール、平滑性の欠如、導電性不良などの諸問題の原因となる。
【0063】
〔第1実施形態〕
硝酸インジウム三水和物66重量部を10%含水エタノール90重量部に完全に溶解させ、アセチルアセトン27重量部と乳酸16重量部とを加えて均一に溶解し、更に、スズ(2)アセチルアセトナート9重量部とマレイン酸4.5重量部とアセト酢酸メチル9重量部とを加えて均一に攪拌することで透明導電膜形成前駆体溶液を得、この溶液を、60℃の条件により濃縮して粘稠化した後、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルで50重量%に湿潤させた亜鉛アセチルアセトナートを、Zn/ITOが焼成後換算で2.1重量部となるように添加して分散溶液とし、この分散溶液を、粘度が30mPa・sとなるようにヘキシレングリコールで希釈することによって透明導電膜形成用インキを得た。
【0064】
この透明導電膜形成用インキを、前述した薄膜形成装置〔日本写真印刷株式会社製オングストローマー(登録商標)インライン型〕を用いて、SiO2コートした300mm×300mm×1.1mmのソーダガラス基板上に印刷し、ホットプレートによる予備乾燥を行った後、コンベア式雰囲気分離炉を用いて500℃で焼成し、引き続きコンベア式雰囲気分離炉内において、水素ガスを微量含む窒素雰囲気中で500℃から室温に冷却することにより、ガラス基板上に透明導電膜を形成した。
【0065】
〔第2実施形態〕
第1実施形態と同様の製造方法において、亜鉛アセチルアセトナートをZn/ITOが焼成後換算で2.6重量部となるように添加して透明導電膜形成用インキを得た。
【0066】
この透明導電膜形成用インキを、第1実施形態と同様の印刷方法でガラス基板上に印刷し、第1実施形態と同様の乾燥・焼成処理を施すことにより、ガラス基板上に透明導電膜を形成した。
【0067】
〔第3実施形態〕
第1実施形態と同様の製造方法において、亜鉛アセチルアセトナートをZn/ITOが焼成後換算で3.8重量部となるように添加して透明導電膜形成用インキを得た。
【0068】
この透明導電膜形成用インキを、第1実施形態と同様の印刷方法でガラス基板上に印刷し、第1実施形態と同様の乾燥・焼成処理を施すことにより、ガラス基板上に透明導電膜を形成した。
【0069】
〔第4実施形態〕
第1実施形態と同様の製造方法において、亜鉛アセチルアセトナートに代えて酢酸亜鉛を、Zn/ITOが焼成後換算で2.6重量部となるように添加して透明導電膜形成用インキを得た。
【0070】
この透明導電膜形成用インキを、第1実施形態と同様の印刷方法でガラス基板上に印刷し、第1実施形態と同様の乾燥・焼成処理を施すことにより、ガラス基板上に透明導電膜を形成した。
【0071】
〔第5実施形態〕
第1実施形態と同様の製造方法において、亜鉛アセチルアセトナートに代えて酸化亜鉛を、Zn/ITOが焼成後換算で2.6重量部となるように添加して透明導電膜形成用インキを得た。
【0072】
この透明導電膜形成用インキを、第1実施形態と同様の印刷方法でガラス基板上に印刷し、第1実施形態と同様の乾燥・焼成処理を施すことにより、ガラス基板上に透明導電膜を形成した。
【0073】
〔比較例1〕
第1実施形態と同様の製造方法において、亜鉛アセチルアセトナートをZn/ITOが焼成後換算で5.2重量部となるように添加して透明導電膜形成用インキを得た。
【0074】
この透明導電膜形成用インキを、第1実施形態と同様の印刷方法でガラス基板上に印刷し、第1実施形態と同様の乾燥・焼成処理を施すことにより、ガラス基板上に透明導電膜を形成した。
【0075】
〔比較例2〕
第1実施形態と同様の製造方法において、亜鉛アセチルアセトナートの添加工程を省くことで亜鉛無添加の透明導電膜形成用インキを得た。
【0076】
この透明導電膜形成用インキを、第1実施形態と同様の印刷方法でガラス基板上に印刷し、第1実施形態と同様の乾燥・焼成処理を施すことにより、ガラス基板上に透明導電膜を形成した。
【0077】
〔評価結果〕
(1)亜鉛添加量の検討
上記の第1実施形態(亜鉛アセチルアセトナートをZn/ITO=2.1重量部添加)、第2実施形態(亜鉛アセチルアセトナートをZn/ITO=2.6重量部添加)、第3実施形態(亜鉛アセチルアセトナートをZn/ITO=3.8重量部添加)、第1比較例(亜鉛アセチルアセトナートをZn/ITO=5.2重量部添加)、及び第2比較例(亜鉛無添加)で得た各透明導電膜の耐湿熱性能を比較した。ここでは、透明導電膜を温度85℃湿度85%の高温多湿の条件下で700時間暴露した後に測って得た抵抗値を、初期抵抗値で割った値を耐湿熱性能とする。
【0078】
この比較では、図2に示すように、Zn/ITOが焼成後換算で2.1重量部、2.6重量部、又は3.8重量部となるように亜鉛アセチルアセトナートを添加して得た透明導電膜形成用インキを用いて形成した透明導電膜が優れた耐湿熱性能を有することが確認できた。
【0079】
(2)亜鉛添加化合物種の検討
上記の第2実施形態(亜鉛アセチルアセトナートをZn/ITO=2.6重量部添加)、第5実施形態(酢酸亜鉛をZn/ITO=2.6重量部添加)、及び第6実施形態(酸化亜鉛をZn/ITO=2.6重量部添加)で得た各透明導電膜における耐湿性能、抵抗値、抵抗値のバラツキ、及び環境負荷を比較した。ここでは、各透明導電膜において、30箇所の抵抗値を測定し、その平均値を標準偏差で割った値を抵抗値のバラツキとして定義した。
【0080】
この比較では、図3に示すように、酸化亜鉛を添加して得た透明導電膜形成用インキを用いて形成した透明導電膜が、耐湿性能、抵抗値、抵抗値のバラツキ、及び環境負荷の全ての面で優れていることを確認できた。
【0081】
(3)AFM(原子間力顕微鏡)による表面観察結果
上記の第1実施形態(亜鉛アセチルアセトナートをZn/ITO=2.1重量部添加)及び比較例2(亜鉛無添加)で得た各透明導電膜の表面を比較した。
【0082】
この比較では、図4に示すように、亜鉛無添加の透明導電膜形成用インキを用いて透明導電膜を形成した場合には、透明導電膜の表面に比較的多くのクラックが発生するのに対し〔図4の(イ)参照〕、Zn/ITOが焼成後換算で2.1重量部となるように亜鉛アセチルアセトナートを添加して得た透明導電膜形成用インキを用いて透明導電膜を形成した場合には、透明導電膜の表面におけるクラックの発生が効果的に抑制されていることを確認できた〔図4の(ロ)参照〕。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】薄膜形成装置の斜視図
【図2】亜鉛添加量と耐湿熱性能との関係を示す図
【図3】亜鉛添加化合物種と抵抗値のバラツキとの関係を示す図
【図4】亜鉛を添加した場合としない場合の透明導電膜の表面を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機インジウム化合物の部分加水分解物と、有機スズ化合物と、亜鉛又は亜鉛化合物と、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類のうちの少なくとも1種の低沸点溶剤と、前記低沸点溶剤よりも沸点の高いグリコール類、カルビトール類、セルソルブ類のうちの少なくとも1種の高沸点溶剤と、アミン類、有機酸類、無機酸類、β−ジケトン類、β−ケトエステル類のうちの少なくとも1種の安定化剤とを含有することを特徴とする透明導電膜形成用インキ。
【請求項2】
ITO重量固形分100重量部に対する前記亜鉛又は亜鉛化合物中の亜鉛の含有量が、焼成後換算で2〜5重量部であることを特徴とする請求項1に記載の透明導電膜形成用インキ。
【請求項3】
前記亜鉛又は亜鉛化合物として酸化亜鉛を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の透明導電膜形成用インキ。
【請求項4】
溶剤成分中の前記低沸点溶剤が5〜60重量%で、かつ、前記高沸点溶剤が40〜95重量%であり、インキ粘度が5〜200mPa・sであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の透明導電膜形成用インキ。
【請求項5】
有機インジウム化合物の部分加水分解物と、有機スズ化合物と、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類のうちの少なくとも1種の低沸点溶剤と、アミン類、有機酸類、無機酸類、β−ジケトン類、β−ケトエステル類のうちの少なくとも1種の安定化剤とを含有する透明導電膜形成前駆体溶液を、常温〜60℃の条件により濃縮して粘稠化し、この粘稠化した透明導電膜形成前駆体溶液に亜鉛又は亜鉛化合物を加えて分散溶液とし、この分散溶液に、前記低沸点溶剤よりも沸点が高いグリコール類、カルビトール類、セルソルブ類のうちの少なくとも1種の高沸点溶剤を加えることを特徴とする透明導電膜形成用インキの製造方法。
【請求項6】
ITO重量固形分100重量部に対する前記亜鉛又は亜鉛化合物中の亜鉛の含有量を、焼成後換算で2〜5重量部としてあることを特徴とする請求項5に記載の透明導電膜形成用インキの製造方法。
【請求項7】
前記亜鉛又は亜鉛化合物として酸化亜鉛を使用することを特徴とする請求項5又は6に記載の透明導電膜形成用インキの製造方法。
【請求項8】
溶剤成分中の前記低沸点溶剤が5〜60重量%で、かつ、前記高沸点溶剤が40〜95重量%となり、インキ粘度が5〜200mPa・sとなるように調整することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一つに記載の透明導電膜形成用インキの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−13653(P2008−13653A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185747(P2006−185747)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】