説明

透明板

【課題】 本発明は、二重像を見えなくした表示ムラのない均一な表示品質の高い車両用、船舶用あるいはその他前方視野内に情報を表示させるHUDなどの表示装置を与える透明板を提供することを目的とする。
【解決手段】 表示光源からの表示光を反射させることにより、観測者の前方視野内に該表示光を結像させて該観測者に視認させる表示装置に用いるための透明板であって、該透明板は、少なくとも1枚の透明体と位相差フィルムとを有してなり、かつ該位相差フィルムはガラス転移点温度が180℃以上かつ厚さが60μm以下である透明板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明板に関し、さらに詳しくは、ヘッドアップディスプレイ(以下HUD)などの表示装置に有用な透明板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年車両用、船舶用、航空機用などにおいて、前方視野内に情報を表示させるHUDなどにより、安全性、利便性の向上が図られている。HUDは表示器の表示光を透明板状体に投射して、該透明板の表面、透明板の表面あるいは内部に設けた反射膜などで、表示光を反射させ、前方視野内に該表示光を結像させて視認させる。透明板としては単板あるいは積層のガラス、プラスチックからなるが、層間屈折率差の大きい界面、例えば透明板裏面と空気界面での反射が避けられず、像が二重に視認される欠点があった。
【0003】
この欠点を解消するために、透明板にλ/2相当の位相差を有する位相差フィルムを設けることが提案されている。
しかしながら、位相差フィルムを設けるにあたって位相差フィルムは接着剤、粘着剤を介して透明体および/または中間膜に、あるいは直接中間膜に接着されうるが、接着する際の接着温度条件に耐えうる位相差フィルムの具体的な材料については開示されておらず、透明板に設けられた位相差フィルムに欠点やムラが発生し、精細な表示をした場合に部分的に二重像が見られるという欠点があった。
【0004】
【特許文献1】特開平2−141720号公報
【特許文献2】特開平10−96874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、二重像を見えなくした表示ムラのない均一な表示品質の高い車両用、船舶用、航空機用あるいはその他前方視野内に情報を表示させるHUDなどの表示装置に用いられる透明板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために、透明板の内部あるいは表面にて使用される位相差フィルムのガラス転移点温度と厚みが重要であると考え、鋭意検討を重ねた結果、二重像を見えにくくした表示品質の高い車両用、船舶用、航空機用あるいはその他前方視野内に情報を表示させるHUDなどの表示装置を得ることに成功した。
【0007】
すなわち本発明は、下記の〔1〕〜〔8〕により達成することが出来た。
〔1〕表示光源からの表示光を反射させることにより、観測者の前方視野内に該表示光を結像させて該観測者に視認させる表示装置に用いるための透明板であって、該透明板は、少なくとも1枚の透明体と位相差フィルムとを有してなり、かつ該位相差フィルムはガラス転移点温度が180℃以上かつ厚さが60μm以下である透明板。
【0008】
〔2〕位相差フィルムは、140℃で1時間処理したときの寸法変化率が0.5%以下であることを特徴とする上記の透明板。
【0009】
〔3〕位相差フィルムがポリカーボネート系樹脂からなることを特徴とする上記の透明板。
【0010】
〔4〕前記ポリカーボネート系樹脂がフルオレン骨格を有することを特徴とする上記の透明板。
【0011】
〔5〕前記ポリカーボネート系樹脂が下記式(A)
【化1】

(上記式(A)においてR〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子および炭素数1〜6の炭化水素基から選ばれる少なくとも一種の基であり、Xは下記式(X)
【0012】
【化2】

であり、RおよびR10はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜3のアルキル基である。)
で示される繰り返し単位および下記式(B)
【0013】
【化3】

(上記式(B)においてR11〜R18はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子および炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれる少なくとも一種の基であり、Yは下記式群(Y)
【0014】
【化4】

であり、ここでR19〜R21、R23及びR24はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の基であり、R22及びR25はそれぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の基であり、Ar〜Arはそれぞれ独立に炭素数6〜10のアリール基から選ばれる少なくとも1種の基である。)
で示される繰り返し単位を含んでなり、上記式(A)で表される繰り返し単位が当該ポリカーボネートを構成する繰り返し単位の合計を基準として全体の10〜90mol%を占めるポリカーボネート共重合体および/またはブレンド体である上記の透明板。
【0015】
〔6〕前記ポリカーボネート系樹脂が下記式(C)
【化5】

(上記式(C)においてR26〜R27はそれぞれ独立に水素原子およびメチル基から選ばれる。)で示される繰り返し単位が全体の10〜90mol%と、下記式(D)
【0016】
【化6】

(上記式(D)においてR28〜R29はそれぞれ独立に水素原子およびメチル基から選ばれる。)
で示される繰り返し単位が当該ポリカーボネートを構成する繰り返し単位の合計を基準として全体の90〜10mol%を占めるポリカーボネート共重合体および/またはブレンド体である上記の透明板。
【0017】
〔7〕位相差フィルムが2枚の透明体の間に位置する、上記の透明板。
【0018】
〔8〕少なくとも上記の透明板と、表示光源とを有してなる表示装置であって、該表示光源からの表示光を該透明板上で反射させることにより、観測者の前方視野内に該表示光を結像させて該観測者に視認させるようにした表示装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐熱性が高く、寸法安定性が良好な位相差フィルムを用いるので、二重像を見えにくくした表示ムラのない均一な表示品質の高い車両用、船舶用あるいはその他前方視野内に情報を表示させるHUDなどの表示装置を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に用いる位相差フィルムは接着剤、粘着剤を介して透明体および/または中間膜に、あるいは直接中間膜に接着されうるが、例えば代表的な中間膜であるポリビニルブチラール(以下PVB)は140℃程度の温度条件で圧着することが一般的である。このような温度条件下においても均一な位相差を保つためには位相差フィルムのガラス転移点温度が180℃以上、好ましくは180〜280℃、より好ましくは185〜260℃、さらに好ましくは190〜250℃、特に好ましくは、195〜240℃であることが良い。180℃未満の温度では、寸法安定性が悪く、また、280℃を超える温度では、延伸工程の温度制御が非常に困難になるために製造が困難となる。
【0021】
また、上記位相差フィルムの140℃1時間での寸法変化率は好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.4%以下、さらに好ましくは0.3%以下、特に好ましくは0.2%以下、最も好ましくは0.1%以下であることがよい。寸法変化率が0.5%より大きいと熱処理により層間に応力が発生し、位相差ムラ、気泡、ヘーズなどが発生してしまうことがある。このような特性をもつ位相差フィルムは、例えば、ガラス転移点温度の比較的高い熱可塑性ポリマーをフィルム化し、延伸等を行うことにより得ることができる。
【0022】
位相差フィルムの厚みとしては60μm以下、好ましくは1〜60μm、より好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは10〜45μm、さらに好ましくは15〜40μm、さらに好ましくは20〜30μm以下であることが良い。60μmを超えると接着の際に位相差フィルムに位相差ムラが発生したり、位相差フィルムを配置しない領域を別の材料により埋める際、多くの材料が必要となったり、透明板の総厚が厚くなってしまうという問題が生じる。また、1μm以下であるとフィルムの取り扱いが困難となる。
【0023】
本発明に用いる位相差フィルムの面内位相差値(R値)は下記式(a)
R=(n−n)×d (a)
で表される。上式中、n、nは位相差フィルムの三次元屈折率であり、それぞれフィルム面内の屈折率が最大であるx軸方向、フィルム面内でx軸に直行するy軸方向の屈折率である。また、dは位相差フィルムの厚み(nm)である。
【0024】
本発明に用いる位相差フィルムの面内位相差は広い波長範囲でλ/2であることが好ましく、特に視感度の高い波長550nmにおいてλ/2である275nm近辺の位相差であることが好ましく、具体的には200〜350nmであり、より好ましくは250〜300nmである。位相差値および透明板との貼合角度は適宜調整される。
【0025】
本発明では位相差フィルムの光学異方性を屈折率楕円体と見なして公知の屈折率楕円体の式により求める方法によりこの三次元屈折率を求めている。この三次元屈折率は使用する光源の波長依存性があるので、使用する光源波長で定義することが好ましく、本発明の表示装置においては表示体の中心波長で議論され、本発明において特に波長の指定がない場合は550nmでの値とする。
【0026】
上記位相差フィルムを構成する材料は特に限定されず、耐熱性に優れ、光学性能が良好で、フィルム化できる材料、例えばポリアリレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリスルフィン系共重合体、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどの熱可塑性高分子が好適である。
【0027】
上記熱可塑性高分子は、2種類以上の共重合体のブレンド体でもよく、1種以上の共重合体と上記ブレンド体または他のポリマーとからなるブレンド体であってもよく、2種類以上のブレンド体または共重合体または他のポリマーのブレンド体でもよい。ビスフェノール類とホスゲンあるいは炭酸ジフェニルなどの炭酸エステル形成性化合物と反応させて製造されるポリカーボネート共重合体は透明性、耐熱性、生産性に優れており特に好ましく用いることが出来る。ポリカーボネート共重合体としては、フルオレン骨格を有する構造を含む共重合体であることが好ましい。
【0028】
具体的には下記式(A)
【化7】

で示される繰り返し単位および下記式(B)
【化8】

で示される繰り返し単位からなり、かつ上記式(A)で表される繰り返し単位が全体(上記式(A)で表される繰り返し単位と上記式(B)で表される繰り返し単位の合計を基準として)の10〜90mol%を占めるポリカーボネートである。該ポリカーボネートは、共重合体、2種類以上のポリマー(共重合体を含む)のブレンド体、またはこれらの混合物である。
【0029】
上記式(A)において、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜6の炭化水素基から選ばれる。かかる炭素数1〜6の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基が挙げられる。この中で、水素原子、メチル基が好ましい。
【0030】
Xは下記式(X)
【化9】

で表されるフルオレン環であり、RおよびR10はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜3のアルキル基である。
【0031】
上記式(B)において、R11〜R18はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれる。かかる炭素数1〜22の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜9のアルキル基、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基等のアリール基が挙げられる。この中で、水素原子、メチル基が好ましい。
【0032】
Yは下記式群
【化10】

からなる群より選ばれる少なくとも1種の基であり、R19〜R21、R23及びR24はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の基である。かかる炭化水素基については、上記したものと同じものを挙げることができる。R22及びR25はそれぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基から選ばれ、かかる炭化水素基については、上記したものと同じものを挙げることができる。Ar〜Arとしてはフェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基を挙げられる。
【0033】
上記ポリカーボネートの中でも、製膜性、透明性、耐熱性、耐久性、生産性などのバランスの点で、下記式(C)
【化11】

で示される繰り返し単位と、下記式(D)
【化12】

で示される繰り返し単位からなり、上記式(C)で表される繰り返し単位が全体(上記式(C)で表される繰り返し単位と上記式(D)で表される繰り返し単位の合計を基準として)の10〜90mol%を占めるフルオレン骨格を有するポリカーボネート共重合体および/またはブレンド体が特に好適である。
【0034】
さらに好ましくは上記式(C)で示される繰り返し単位が全体(上記式(C)で表される繰り返し単位と上記式(D)で表される繰り返し単位の合計量を基準として)の90〜10mol%を占めるポリカーボネート共重合体、ブレンド体、これらの混合物である。
【0035】
上記式(C)においてR26〜R27はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、取り扱い性の点から好ましくは両者ともメチル基である。
【0036】
上記式(D)においてR28〜R29はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、経済性、フィルム特性等から両者とも水素原子が好ましい。
【0037】
上記共重合体は、上記式(A)および(B)で表わされる繰り返し単位をそれぞれ2種類以上組み合わせたものでもよく、ブレンド体の場合も、上記繰り返し単位はそれぞれ2種類以上組み合わせてもよい。
【0038】
ここで上記モル比は共重合体、ブレンド体に関わらず、高分子配向フィルムを構成するポリカーボネートバルク全体で、例えば核磁気共鳴(NMR)装置により求めることができる。
【0039】
上記した共重合体および/またはブレンド体は公知の方法によって製造し得る。ポリカーボネートはジヒドロキシ化合物とホスゲンとの重縮合による方法、溶融重縮合法等が好適に用いられる。ブレンド体の場合は、相溶性ブレンドが好ましいが、完全に相溶しなくても成分間の屈折率を合わせれば成分間の光散乱を抑え、透明性を向上させることが可能である。
【0040】
本発明に用いる位相差フィルム上記ポリカーボネートなどの高分子フィルムに延伸を行い、高分子鎖を配向させるものである。かかる高分子フィルムの製造方法としては、公知の溶融押出し法、溶液流延法等が用いられる。溶液流延法における溶剤としては、ポリカーボネートの場合、メチレンクロライド、ジオキソラン等が好適に用いられる。
【0041】
本発明は、上記で述べたように、溶融押出し法あるいは溶液流延法等により製造した高分子フィルムを、ガラス転移点温度付近の温度で加熱し延伸を行う。フィルム中には延伸性を向上させる目的で、公知の可塑剤であるジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸エステル、トリブチルフォスフェート等のりん酸エステル、脂肪族2塩基エステル、グリセリン誘導体、グリコール誘導体等が含有してもよい。延伸時には、先述のフィルム製膜時に用いた有機溶剤をフィルム中に残留させ延伸しても良い。
【0042】
また、上記可塑剤や液晶等の添加剤は、位相差フィルムの位相差の波長依存性を変化させ得るが、添加量は、ポリマー固形分対比10wt%以下が好ましく、3wt%以下がより好ましい。
【0043】
また、フェニルサリチル酸、2−ヒドロキシベンゾフェノン、トリフェニルフォスフェート等の紫外線吸収剤や、色味を変えるためのブルーイング剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、透明核剤、永久帯電防止剤、蛍光増白剤等のポリマー改質剤が同時にフィルム中に存在しても良い。
【0044】
本発明における位相差フィルムは透明性が良好であり、へーズは5%以下、全光線透過率は85%以上であることが好ましいが、意図的にヘーズ値が高くなるようにされる場合もある。
【0045】
なお、本発明では位相差フィルムと表現しているが、「フィルム」あるいは「シート」といわれるいずれのものも含む意味である。
【0046】
また、位相差フィルムの表面にハードコート、紫外線吸収層、反射層などの層を設けてもよい。
【0047】
本発明の透明板を構成する透明体としては、例えば、板ガラスなどの無機ガラス、透明な樹脂板などの有機ガラスが挙げられる。これらの透明体は、透明ハードコート層を有していてもよく、また、単板だけでなく、2枚の透明体を中間膜などで合わせた構造のもの、透明体を積層した構造のものなどを応用することができる。
【0048】
本発明の透明板は、用途として、例えば車両、船舶、航空機などの風防ガラスに設ける、あるいは別置きとしてHUDに応用するだけでなく、建築用ガラス、間仕切りなどに設けて各種の表示を行うようにしてもよい。
【0049】
車両、船舶、航空機などの風防ガラスに応用する場合には、透明体の合わせ面に位相差フィルムを設けることが耐衝撃性、耐貫通性が向上する点で好ましく、特に室内側透明板の合わせ面側に位相差フィルムを設けると太陽光が、ポリビニールブチラール(以下PVB)などの中間膜を介して位相差フィルムに照射されるので、紫外線がある程度吸収され、耐久性が向上する点で好ましい。
【0050】
また、本発明の透明板には、高輝度、高コントラストな表示を可能とするため透明反射層を設けることが好ましい。透明反射層は、Au、Ag、Cuなどの金属薄膜のほかにも、酸化チタン、酸化インジウム、酸化錫などの金属酸化物など各種の透明反射層を使用することができる。透明反射層は前記透明体の表面上あるいは位相差フィルムの表面上に用いられる。
【0051】
本発明においては、位相差フィルムによって表示の二重像がかなり軽減されているため、裏面反射の損失を補う程度の比較的低い反射率でも充分な効果が期待され、より耐擦傷性に優れた中程度の屈折率の材料や、同じ膜材料での薄膜化が可能である。また、反射率を法規で定められた透過率の制約のなかで最大限まで引き上げる必要がないため、例えば車両用に用いる場合、反射を目立ちにくくした良好な外観を得ることが可能である。
【0052】
本発明によれば、表示光を上記透明板に投射し、観測者の前方視野内に該表示光を結像させて視認させることができるので、前方視野内に情報を表示させるヘッドアップディスプレイ(HUD)などの表示装置を提供することができる。したがって、かかる表示装置は、少なくとも、表示光を出射する表示光源と、該表示光源からの表示光を反射する前記透明板から構成される。表示光は、透明板上で反射させられて、観測者の前方視野内に該表示光を結像させて観測者に視認させることができる。(例えば図1参照)
本発明において、表示光の透明板への入射角度はブリュースター角度近傍であることが好ましく、例えば透明板の観測者側最表面が無処理の板ガラスの場合には56±10°程度が好ましい。
【0053】
表示光源には、例えば液晶表示体などの偏光を出射するあらゆる表示体、円偏光板を設けたEL素子などの常光を偏光化する手段と組み合わせることにより常光を出射するあらゆる表示体を用いることができる。
【0054】
位相差フィルムは接着剤、粘着剤を介して透明体および/または中間膜に、あるいは直接中間膜に接着されうるが、公知の接着剤、粘着剤が用いられる。これらの接着剤、粘着剤には紫外線吸収剤などを添加してもよい。
【0055】
また、こられの層などは、必ずしも一体化する必要はなく分けて設けても同様の効果が期待できる。
中間膜としてはPVBなどの公知の材料を用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本明細書中に記載の材料特性値等は以下の評価法によって得られたものである。
【0057】
(1)面内位相差R値および三次元屈折率の測定
面内位相差R値および三次元屈折率は、複屈折測定装置『KOBRA−21ADH』(王子計測機器(株)製)により測定した。
【0058】
(2)位相差フィルムのガラス転移点温度(Tg)の測定
『DSC2920 Modulated DSC』(TA Instruments社製)により測定した。
【0059】
(3)フィルム厚み測定
アンリツ社製の電子マイクロで測定した。
【0060】
(4)140℃1時間での寸法変化率の測定
熱処理前の位相差フィルムに100mm間隔のマーキングをしておき、熱処理後のマーキング間距離を測定することにより寸法変化率を測定した。
【0061】
(5)高分子共重合比の測定
『JNM−alpha600』(日本電子社製)のプロトンNMRにより測定した。特にビスフェノールAとビスクレゾールフルオレンの共重合体の場合には、溶媒として重ベンゼンを用い、それぞれのメチル基のプロトン強度比から算出した。
【0062】
(6)共重合体の重合法
実施例1,2で用いたポリカーボネートのモノマー構造を以下に示す。
【化13】

【0063】
攪拌機、温度計および環流冷却器を備えた反応槽に水酸化ナトリウム水溶液およびイオン交換水を仕込み、これに上記構造を有するモノマー[E]、[F]をa:bのモル比で溶解させ、少量のハイドロサルフィトを加えた。次にこれに塩化メチレンを加え、20℃でホスゲンを約60分かけて吹き込んだ。さらに、p−tert−ブチフェノールを加えて乳化させた後、トリエチルアミンを加えて30℃で約3時間攪拌して反応を終了させた。反応終了後有機相を分取し、塩化メチレンを蒸発させてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同等であった。本明細書中に記載の材料特性値等は上記の評価法によって得られたものである。
【0064】
[実施例1]
a:b=50:50とした上記方法により共重合させたポリカーボネート共重合体を塩化メチレンに溶解させ、固形分濃度18重量%のドープ溶液を作製した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、220℃にて1.9倍に一軸延伸することにより、ガラス転移点温度213℃、140℃1時間での寸法変化率0.08%、R値278nm、厚み30μmである位相差フィルムを得た。この位相差フィルムを用いて図2に示す構成の透明板を以下の方法で作製した。
【0065】
厚さ2mmの透明なソーダライム系無機ガラス板(透明体1)に、イソシアネート系接着層(接着層1)を介して、上記位相差フィルムを、入射表示光が90°旋光されるような配置角度にて貼り合わせた。この上にさらに接着層1と同じイソシアネート系接着層(接着層2)を貼り合わせた後、PVB膜を介して、2mm厚ソーダライム系無機ガラス(透明体2)と圧着し、透明板を作製した。
この透明板に対して、液晶表示体からの出射光を偏光の振動方向が透明板に対して平行となるように入射角56°にて入射させた。
透明板上の表示は二重像がなく鮮明に視認できた。
【0066】
[実施例2]
a:b=63:37とした上記方法により共重合させたポリカーボネート共重合体を塩化メチレンに溶解させ、固形分濃度18重量%のドープ溶液を作製した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、225℃にて2.1倍に一軸延伸することによりガラス転移点温度220℃、140℃1時間での寸法変化率0.04%、R値278nm、厚み40μmである位相差フィルムを得た。この位相差フィルムを用いた以外は実施例1と同様の構成で透明板を作製した。
透明板上の表示は二重像がなく鮮明に視認できた。
【0067】
[実施例3]
バイエル製「APEC」を塩化メチレンに溶解させ、固形分濃度18重量%のドープ溶液を作製した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、225℃にて1.2倍に一軸延伸することによりガラス転移点温度218℃、140℃1時間での寸法変化率0.08%、R値278nm、厚み30μmである位相差フィルムを得た。この位相差フィルムを用いた以外は実施例1と同様の構成で透明板を作製した。
透明板上の表示は二重像がなく鮮明に視認できた。
【0068】
[比較例1]
帝人化成(株)製商品名「パンライト」C1400QJを塩化メチレンに溶解させ、固形分濃度18重量%のドープ溶液を作製した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、165℃にて1.2倍に一軸延伸することによりガラス転移点温度158℃、140℃1時間での寸法変化率0.59%、R値278nm、厚み30μmである位相差フィルムを得た。この位相差フィルムを用いた以外は実施例1と同様の構成で透明板を作製した。
透明板上の表示は部分的に二重像があり、気泡の発生している部分もあり、不均一で不鮮明であった。
【0069】
[比較例2]
ガラス転移点温度145℃、140℃1時間での寸法変化率3.2%、R値275nm、厚み40μmである株式会社オプテス製「ゼオノアフィルム」を位相差フィルムとして用いた以外は実施例1と同様の構成で透明板を作製した。
透明板上の表示は部分的に二重像があり、全面に気泡が発生しており、不均一で不鮮明であった。
【0070】
[比較例3]
株式会社クラレ製商品名「PVA117」を熱水に溶解させ、固形分濃度10重量%のドープ溶液を作製した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、一軸延伸することによりガラス転移点温度150℃、140℃1時間での寸法変化率1.2%、R値278nm、厚み30μmである位相差フィルムを得た。この位相差フィルムを用いた以外は実施例1と同様の構成で透明板を作製した。
透明板上の表示は部分的に二重像があり不均一で不鮮明であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の透明板は、二重像を見えにくくした表示品質の高い車両用、船舶用、航空機用あるいはその他前方視野内に情報を表示させるHUDなどの表示装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の表示装置の概念図である。
【図2】本発明の実施例1における透明板の一例である。
【符号の説明】
【0073】
1:透明板
2:観測者
3:表示光源
4:透明板に投射される表示光
5:透明板で反射され、観測者の前方視野中に視認される表示光
6:観測者の前方視野
7:透明体1
8:接着層1
9:位相差フィルム
10:接着層2
11:中間膜
12:透明体2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示光源からの表示光を反射させることにより、観測者の前方視野内に該表示光を結像させて該観測者に視認させる表示装置に用いるための透明板であって、該透明板は、少なくとも1枚の透明体と位相差フィルムとを有してなり、かつ該位相差フィルムはガラス転移点温度が180℃以上かつ厚さが60μm以下である透明板。
【請求項2】
位相差フィルムは、140℃で1時間処理したときの寸法変化率が0.5%以下であることを特徴とする請求項1記載の透明板。
【請求項3】
位相差フィルムがポリカーボネート系樹脂からなることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の透明板。
【請求項4】
前記ポリカーボネート系樹脂がフルオレン骨格を有することを特徴とする請求項3に記載の透明板。
【請求項5】
前記ポリカーボネート系樹脂が下記式(A)
【化1】

(上記式(A)においてR〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子および炭素数1〜6の炭化水素基から選ばれる少なくとも一種の基であり、Xは下記式(X)
【化2】

であり、RおよびR10はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜3のアルキル基である。)
で示される繰り返し単位および下記式(B)
【化3】

(上記式(B)においてR11〜R18はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子および炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれる少なくとも一種の基であり、Yは下記式群(Y)
【化4】

であり、ここでR19〜R21、R23及びR24はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の基であり、R22及びR25はそれぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種の基であり、Ar〜Arはそれぞれ独立に炭素数6〜10のアリール基から選ばれる少なくとも1種の基である。)
で示される繰り返し単位を含んでなり、上記式(A)で表される繰り返し単位が当該ポリカーボネートを構成する繰り返し単位の合計を基準として全体の10〜90mol%を占めるポリカーボネート共重合体および/またはブレンド体である請求項4に記載の透明板。
【請求項6】
前記ポリカーボネート系樹脂が下記式(C)
【化5】

(上記式(C)においてR26〜R27はそれぞれ独立に水素原子およびメチル基から選ばれる。)で示される繰り返し単位が全体の10〜90mol%と、下記式(D)
【化6】

(上記式(D)においてR28〜R29はそれぞれ独立に水素原子およびメチル基から選ばれる。)
で示される繰り返し単位が当該ポリカーボネートを構成する繰り返し単位の合計を基準として全体の90〜10mol%を占めるポリカーボネート共重合体および/またはブレンド体である請求項5に記載の透明板。
【請求項7】
位相差フィルムが2枚の透明体の間に位置する、請求項1〜6のいずれかに記載の透明板。
【請求項8】
少なくとも請求項1〜7のいずれかに記載の透明板と、表示光源とを有してなる表示装置であって、該表示光源からの表示光を該透明板上で反射させることにより、観測者の前方視野内に該表示光を結像させて該観測者に視認させるようにした表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−285022(P2006−285022A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106380(P2005−106380)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】