説明

透明樹脂体システム

【課題】 ワイパを使用することなく、透明樹脂外表面のほぼ全域を清浄することのできる透明樹脂体システム、殊に、自動車等の乗物のウインドウに適したシステムを、従来に見られなかったユニークな機構で提供する。
【解決手段】 外側透明樹脂板1と内側透明樹脂板2との間に空気層3が形成され、且つ外側透明樹脂板1に多数の微細な噴出孔1aが設けられている複層透明樹脂体Aと、複層透明樹脂体Aの空気層3に配管流路4を介して加圧空気を送り込むためのコンプレッサ5とからなり、コンプレッサ5からの加圧空気を外側透明樹脂板1の噴出孔1aから噴出するように形成されている構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントウィンドウ、リアウィンドウ、サイドウィンドウ、あるいは建物の窓用として、ガラス板の代わりに透明樹脂板を用いた透明樹脂体システムに関し、さらに詳細には、透明樹脂板の外側表面の雨水や雪、結露、曇り等を清浄する機能を備えた透明樹脂体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のウインドウには単板ガラスを用いていた。これに対し、車両における車内側ウインドウ面における曇りを防止し、また、車内の暖房効率、冷房効率を向上するために、ウインドウを複層ガラス(2枚のガラスを、空間層を介して固定したガラス)にすることが開示されている(例えば特許文献1参照)。
一般に、車両のウインドウでは、外気にさらされる車外側の面が汚れやすい。単板ガラスにしろ、複層ガラスにしろ、これまで車外側のガラス面の清浄は、モーター駆動の可動式ゴム製ワイパで行われていた。
【0003】
可動式ゴム製ワイパを用いずに、自動車の車外側ウインドウ面の払拭清浄を行う方法として、エアーワイパが提案されている(特許文献2並びに特許文献3参照)。
エアーワイパは、機械式のワイパのような回動機構を必要としないことから、簡単な構造にすることができるとともに、摩耗によるワイパ交換や、反復接触運動によるウィンドウ表面の傷つきをなくすことができる。さらに、エアーワイパはゴム製ワイパでは必要であるウォッシャー液(洗剤)を用いる必要性がないので、環境にやさしい。
【0004】
その反面、高圧空気を噴き出すノズルを、視界の妨げにならない位置であるフロントウィンドウ、リアウィンドウ等の周端部(特に下端部)に設置しなければならない。その結果、高圧エアーの吹き出しによって払拭清浄が可能となるウィンドウ面は、どうしてもノズル取付位置の近傍のエリアに限られてしまうこととなり、ウインドウ面を広範囲にわたり均等に払拭清浄することが困難である。
【0005】
そこで、ウインドウを広範囲に払拭清浄するために、ワイパに多数の空気噴射孔を設けてこのワイパをウインドウの外表面に沿って回動させながら空気噴射孔から空気を噴き付けて、雨水等を吹き飛ばすようにしたエアーワイパ装置が提案されている(特許文献4参照)。
【0006】
一方、建物の窓においても、従来より、外気と室内との断熱性を高める等の目的で、複層ガラスを用いることが開示されている(例えば特許文献5参照)。
建物の窓においても、外気にさらされる室外側の面が汚れやすい。建物の窓では、室外側ガラス面の洗浄は、専ら、手作業で行われている。
【特許文献1】特開平6−227250号公報
【特許文献2】特開平07−040806号公報
【特許文献3】特開2002−79919号公報
【特許文献4】特開2003−118546号公報
【特許文献5】特開2005−060141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、車両のウインドウ(特にフロントウィンドウやリアウィンドウ)の清浄では、エアーワイパを用いることが提案されている。しかしながら、視界を確保するために、フロントウィンドウの下端部等の視界の妨げにならない位置にエアーワイパのノズルを設置する場合(特許文献2,3)は、清浄可能なウィンドウ面のエリアが制限されてしまう。
【0008】
さらに、ウインドウの外表面に沿って機械的に回動するワイパ機構にエアーワイパを取り付ける場合(特許文献4)は、これを回動させながらエアーを供給するための複雑な機構を組み込まねばならない。また、可動機構があるために、その補修点検、交換作業が必要になる。さらにワイパ機構によって可動させたとしても、清浄可能なエリアはエアーワイパが回動する範囲に限られ、ウィンドウ全面を清浄することができない。さらにワイパ機構が回動したときに嫌な機械音や吹付音が発生することもある。
また、霜が付着した場合に、エアーワイパでは霜を除去することが困難であるし、室内側に生じた曇り(結露)についてはエアーワイパでは除去できない。
【0009】
一方、建物の窓では、室外側ガラス面の清浄は手作業で行われているため、手間がかかることから、できるだけ汚れにくくしたい。汚れた場合でも簡単に清浄できるようにしたい。
また、ビルやマンション等の高層建築物では高所に取り付けた窓もあるが、それらの室外側の面を清浄する際には危険を伴うので、手作業での洗浄はできるだけなくしたい。
【0010】
そこで本発明は、車両のウインドウや建物の窓のように、片側(外側)が外気にさらされて汚れやすい場所に使用するウィンドウや窓において、外側面を汚れにくくするとともに、たとえ汚れた場合でも清浄を容易に行うことができる画期的な透明部材からなるシステムを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は車両のフロントウィンドウやリアウィンドウにおいて、可動式ゴム製ワイパやエアーワイパのようなワイパ機構を用いることなく、付着した雨水や雪を除去することができ、しかも、ほぼウィンドウ表面全面に対する雨水や雪の付着が生じにくくすることができるようにした、透明部材からなるシステムを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、内側面の曇りを防ぎ、また曇りが発生したときに直ちに消滅することができる透明部材のシステムを提供することを目的とする。
さらに、本発明は、ウォッシャー液(洗剤)を使用する必要がなく、あるいは使用する場合であってもウォッシャー液の使用頻度を減らすことにより、環境に配慮した清浄が可能な透明部材のシステムを提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は付着した雨水や雪を除去することができる透明部材からなるシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明の透明樹脂システムは、第一透明樹脂板と多数の噴出孔が形成された第二透明樹脂板とを対向配置し、これら一対の透明樹脂板の間に空気層を形成するとともに空気層の周縁を封止した構造の複層透明樹脂体と、空気層に加圧空気を送り込むコンプレッサとからなり、空気層の加圧空気を第二透明樹脂板の噴出孔から噴出するようにしている。
【0014】
ここで、透明樹脂板の材料としては、アクリル板が好ましいが、それ以外の透明な合成樹脂板であってもよい。例えば、ポリカーボネート板等が利用できる。
また、第二透明樹脂板に設けられる噴出孔は、空気層側から外側に加圧空気を噴き出すことができるが、外側から空気層側には表面張力により雨水の侵入を許さないような孔径となるように形成される。さらに、車両のフロントウィンドウのように視界を遮らないことが要求される場所では、噴出孔の存在が視界に影響を及ぼさないように、目立たず見えない孔径にする。一方、建物の窓では、必ずしも視界を優先する必要がない場合があるので(例えば摺り透明樹脂が使用される窓)、このような場合は噴出孔の孔径はさほど小さくする必要はなく、上述したように雨水および埃、異物が空気層に侵入しないようにする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第二透明樹脂板に多数の噴出孔が設けられているので、この噴出孔からコンプレッサによる加圧空気を噴出させることによって透明樹脂板の外表面の雨水等を吹き飛ばして清浄することができ、また表面に空気層を形成することにより、雨水や埃、異物の付着を防ぐことができる。噴出孔を透明樹脂板の外表面の全面に形成して、加圧空気を全面から噴出させるにより、外側透明樹脂の全面を清浄することができる。
さらに、材料をこれまで使用していたガラスに代えて、透明樹脂板を用いることにより、穴あけ加工が比較的容易になるとともに、これまでよりも細径の孔加工が可能になる。
【0016】
また、回動ワイパのような可動部分を排除したことで、故障しにくくなり、設備点検作業や磨耗品の交換作業を減らすことができる。
さらにウォッシャー液(洗剤)を使用する必要がなくなり、あるいは使用頻度を激減することができ、環境にやさしい清浄が可能になる。
【0017】
(その他の課題を解決するための手段および効果)
上記発明において、第二透明樹脂板の外表面に撥水性かつ通気性の被膜を形成するようにしてもよい。
これによれば、雨水の浸入を効果的に防ぐことができる。
【0018】
また、上記発明において、コンプレッサにエアコンが接続され、エアコンからの空気をコンプレッサに導入するようにしてもよい。
これによれば、エアコンから低温または高温の空気をコンプレッサに導入することができるので、空間層に低温または高温の空気を送ることにより、冷暖房性を改善することができる。また、高温の空気を送ることにより、内面側の曇り、結露、外表面の雪、霜を効果的に除去することができる。
【0019】
また、上記発明において、エアコンが切換弁を介してコンプレッサに接続され、エアコンからの空気と大気とを選択的にコンプレッサに導入するようにしてもよい。
これにより、特に温熱空気を必要としないときは、エアコンを駆動しないで、大気を導入することによってエネルギーの節減を図ることができる。
【0020】
また、上記発明において、複層透明樹脂体が、乗物のウインドウまたは建物の窓であってもよい。
ここで、乗物とは、自動車の他に、電車等の軌道車、航空機、船舶が含まれる。また、建物は個人住宅、集合住宅(マンション等)、オフィスビルなどが含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。尚、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0022】
図1は本発明の透明樹脂体システムの基本概念を示す一部断面図である。複層透明樹脂板Aは、ほぼ全域にわたって多数の微細な噴出孔1aが設けられている透明な第二透明樹脂板1と、透明な第一透明樹脂板2と、これら透明樹脂板1、2との間に形成された空気層3とによって形成されている。中間の空気層3の周縁部分は縁材8によって封止され、周縁の一部からジョイント9、配管流路4を介してコンプレッサ5が空気層3に接続されている。
【0023】
上記第二透明樹脂板1に設けられる噴出孔1aは、内部からの加圧空気を噴き出すことができるが、表面張力の作用によって水の侵入を許さないような孔径で形成される。これらの孔加工は、直径が数10μm程度の場合は、レーザ加工で形成するが、レーザ加工では難しい微細な孔径にするときはイオンビーム加工で形成することができる。また各噴出孔1aは、第二透明樹脂板1の外表面の雨水を効果的に吹き飛ばすことができるようなピッチで均等に配置される。これにより、コンプレッサ5からの加圧空気を噴出孔1aから噴出させることによって、第二透明樹脂の外表面を効果的に洗浄(清浄)することができる。また、噴出する加圧空気の圧力を、コンプレッサ5に付設する調整盤5aによって雨水の程度に応じて調整することができるようにすれば、状況に応じてコンプレッサの負荷を調整することができる。
【0024】
図2は本発明の別の実施例を示すものであって、前記コンプレッサ5にエアコン6が接続され、エアコン6からの空気をコンプレッサ5に導入できるように形成している。
これにより、エアコン6からの温熱空気をコンプレッサ5で圧縮して複層透明樹脂板Aの空気層3に送り込むことにより、第二透明樹脂板1の表面に付着した結露や雪を短時間で除去することができると共に、第一透明樹脂板2の表面に発生する曇りも迅速に除去することができる。
また、エアコン6による別の用い方として、内側空間(車内、室内)の冷暖房を行う場合に、温熱空気あるいは低温空気を空気層3に送り込むことにより内側空間(車内、室内)の冷暖房効率を高めることができる。
【0025】
エアコン6を使用する場合、エアコン6とコンプレッサ5との間に切換弁7を介在させ、この切換弁7で流路を切り替えることにより、エアコン6からの空気と大気とを選択的にコンプレッサ5に導入できるように形成することもできる。温熱空気等を必要としないときは、エアコン6を駆動しないで、大気を導入することによってエネルギーの節減を図ることができる。
【0026】
図3は本発明にかかる透明樹脂体システムを自動車のフロントウィンドウに応用した実施例を示すものであって、基本的な構成は図2で示した実施例と同様である。この場合、エアコン6は自動車に標準装備として備わっているエアコンを利用でき、空気圧縮用の小さなコンプレッサ5を自動車に組み込むだけでよいから、簡単に自動車にセットすることでコストダウンができる。
【0027】
本発明の透明樹脂体システムは、自動車のウインドウに限らず、軌道車や船舶、航空機等のウインドウや、建物の窓に応用することが可能である。
【0028】
また本発明では、上記実施例の形態に限定されるものでなく、適宜変更して実施することが可能である。例えば、図4に示すように、複層透明樹脂板Aの第二透明樹脂板1の表面に、内側の空気層からの加圧空気の通過は許すが、外側表面に付着する水を撥水し、水の侵入を許さない透明被膜で被覆するようにしてもよい。具体的には、例えば、商品名ナノコート(株式会社日興製)を透明樹脂板表面にコーティングすることができる。
【0029】
また、図5に示すように、複層透明樹脂板Aの第一透明樹脂板2の片面に反射膜11を形成(例えば真空蒸着により金属反射膜を形成)することにより、ミラーとして利用することもできる。反射膜11を形成する面は、空気層3に面している側が好ましいが、空気層3側と反対面でもよい。これによれば、例えば、車両のサイドミラーとして本発明を用いることも可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、自動車や軌道車、船舶、航空機等のウインドウや、建物の窓、自動車のサイドミラーに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明にかかる透明樹脂体システムの第1の実施例を示す一部断面図。
【図2】本発明の別の実施例を示す一部断面図。
【図3】本発明の透明樹脂体システムを自動車のウインドウに応用した実施例を示す図。
【図4】本発明における複層透明樹脂体の別の実施例を示す断面図。
【図5】本発明における複層透明樹脂体板のさらに別の実施例を示す断面図。
【符号の説明】
【0032】
A 複層透明樹脂板
1 外側透明樹脂板
1a 噴出孔
2 内側透明樹脂板
3 空気層
4 配管流路
5 コンプレッサ
6 エアコン
7 切換弁
10 透明被膜
11 反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一透明樹脂板と多数の噴出孔が形成された第二透明樹脂板とを対向配置し、これら一対の透明樹脂板の間に空気層を形成するとともに空気層の周縁を封止した構造の複層透明樹脂体と、
前記空気層に加圧空気を送り込むコンプレッサとからなり、
空気層の加圧空気を第二透明樹脂板の噴出孔から噴出することを特徴とする透明樹脂体システム。
【請求項2】
第二透明樹脂板の外表面に撥水性かつ通気性の被膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の透明樹脂体システム。
【請求項3】
前記コンプレッサにエアコンが接続され、エアコンからの空気をコンプレッサに導入することを特徴とする請求項1に記載の透明樹脂体システム。
【請求項4】
前記エアコンが切換弁を介してコンプレッサに接続され、エアコンからの空気と大気とを選択的にコンプレッサに導入するようにしたことを特徴とする請求項3に記載の透明樹脂体システム。
【請求項5】
前記複層透明樹脂体が、乗物のウインドウまたは建物の窓であることを特徴とする請求項1に記載の透明樹脂体システム。
【請求項6】
前記複層透明樹脂体は、第一透明樹脂板の片側面に反射膜が形成され、車両のサイドミラーとして用いられることを特徴とする請求項1に記載の透明樹脂体システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−47906(P2010−47906A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210499(P2008−210499)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(507066415)株式会社 中井工務店 (3)
【Fターム(参考)】