説明

透明石鹸組成物

【課題】透明石鹸の製造における負担になっている乾燥工程を短縮化、省力化でき、かつ、皮膚刺激性の少なく、起泡性及び低膨潤性に優れた透明石鹸組成物を提供する。
【解決手段】上記課題は、冷却固化時105℃揮発分が28〜32%、脂肪酸100重量部に対し、多価アルコール35〜48重量部、脂肪酸中のラウリン酸が10〜15重量部である透明石鹸組成物によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚刺激が少なく、起泡性及び低膨潤性を保持しつつ、乾燥及び型打ち工程の負担を軽減できる透明石鹸組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
枠練り透明石鹸は、例えば、ヒマシ油、やし油、牛脂等の動植物油脂を水酸化ナトリウムで鹸化し、これにエチルアルコールを加え、さらに白糖等の糖類やグリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコールを加えて溶解し、105℃揮発分(通常水とエタノールの合計)を約40重量%として冷却固化する方法が一般的であるとされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
冷却固化後は所定形状に切断して面取り後、乾燥する。乾燥の進行に従って、湯浸研磨、坊主打ちを繰返し、最後に製品型打ちを行い、105℃揮発分含有量を約22〜23重量%の時点で製品として出荷する。
【0004】
石鹸を透明にするためには、多量のアルコールを添加する必要があり、その結果、透明石鹸の製造過程においては、通例、冷却固化の時点でのアルコールと水の合計量、即ち105℃揮発分の含有量は約40重量%あるいはそれ以上となっていた(特許文献2〜7)。
【0005】
一方、透明石鹸を構成する脂肪酸の内、炭素数12の直鎖飽和脂肪酸であるラウリン酸の含有量を増やすことにより、透明度を高め、さらに洗浄力や耐水性も向上できることが知られており、このラウリン酸の含有量が全脂肪酸組成の15〜25重量%である透明石鹸が開示されている(特許文献6)。
【0006】
しかし、石鹸を構成する脂肪酸の内、ラウリン酸含量が増加すると皮膚刺激性が増大することも知られている(非特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−75999号公報
【特許文献2】特公昭40−18223号公報
【特許文献3】特開昭56−116800号公報
【特許文献4】特開昭57−30798号公報
【特許文献5】特開平9−188899号公報
【特許文献6】特開2000−169893号公報
【特許文献7】特開2003−129092号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】B.E.,Emery et al.,“The Pharmacology of Soaps II,The Irritant Action of Soaps on Human Skin”,J.Am.Med.Assoc.,21.251−254(1940)
【非特許文献2】Hagen Tronnier,“Uben die Abhangigkeit dermatologischer Eigenschaften waschaktiver Tenside von deren Kettenlange”,Parfumerie und Kosmetik,58、Jahrgang,Nr.3,60−65(1977)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、従来の透明石鹸は、105℃揮発分含有量が約40重量%の組成物を切断して約23重量%まで乾燥させていた。その結果、切断して面取り後、乾燥していくと、相似形で収縮するのではなく、各面が球面状に凹んで縁が尖った形になる。そこで、この乾燥・型打ち作業では、乾燥の進行に従って湯浸研磨及び坊主打ちを繰返さざるをえず、これが大変な労力の負担になっていた。
【0010】
また、ラウリン酸含量の多い石鹸は皮膚への刺激性が強く、皮膚の弱い人、特にアトピー性皮膚炎の患者などは過敏に反応して重篤な皮膚症状を呈することがあった。
【0011】
本発明の目的は、透明石鹸の製造における負担になっている乾燥工程を短縮化、省力化でき、かつ、皮膚への刺激を少なく、起泡性及び低膨潤性に優れた透明石鹸組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を進め、ラウリン酸の含有量を減少させるとともに、切断を行う冷却固化物の105℃揮発分含量を減少させることを考えた。しかしながら、従来の組成のままでは、ラウリン酸を減少させなくても、揮発分を減少させると、透明度が低下し、濁りも生じるため、商品化できる透明石鹸は得られなかった。そこで、多価アルコールの増量やナトリウム/カリウム比、分岐脂肪酸や不飽和脂肪酸の配合を検討することにより、揮発分含有量を30重量%前後まで低下させても透明性を確保でき、また、ラウリン酸含有量も皮膚刺激に問題ないところまで低下させうることを見出し、本発明を完成することができた。
【0013】
すなわち、本発明は、
脂肪酸100重量部に対し、多価アルコール35〜48重量部を含有し、脂肪酸中のラウリン酸が10〜15重量部である透明石鹸組成物と、
脂肪酸100重量部に対し、多価アルコール35〜48重量部を含有し、脂肪酸中のラウリン酸が10〜15重量部であり、105℃揮発分を28〜32重量%含む組成物を冷却固化して切断し、乾燥し、型打ちを行う透明石鹸の製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の透明石鹸組成物は、切断する冷却固化物の105℃揮発分の含有量を28〜32重量%にしても透明性を確保し、ラウリン酸の含有量を脂肪酸100重量部のうち10〜15重量部まで減少させることができるので、乾燥・型打ち工程の負担を大幅に軽減でき、しかも皮膚刺激の問題もない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の透明石鹸組成物は、本来の石鹸成分である脂肪酸塩と、多価アルコール、糖類、適宜加えられることがある添加剤、105℃揮発分よりなる。
【0016】
脂肪酸塩となる脂肪酸は、主成分が飽和脂肪酸であり、特に、炭素数が12〜20程度、好ましくは、12〜18程度の直鎖脂肪酸を少なくとも3種程度混合したものが好ましい。直鎖脂肪酸の例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等を挙げることができる。これらの内で、ラウリン酸は、透明度を高めるので加えることが好ましいが、皮膚に刺激性を有するので全脂肪酸重量の10〜15重量%とするのがよい。透明度を高めるために、さらに、分岐脂肪酸や不飽和脂肪酸を少なくとも1種以上加えることが望ましい。これらの脂肪酸は炭素数が18〜22程度、特に18のものがよく、例としては、イソステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸等を挙げることができる。
【0017】
分岐脂肪酸や不飽和脂肪酸の量は、全脂肪酸重量の10〜30重量%程度、特に、15〜20重量%程度が適当である。
これらの脂肪酸は、天然油脂の形で用いることもでき、例えば、オリーブ油、ひまし油等を用いることができる。
これら脂肪酸が石鹸の主成分であり、製品の105℃揮発分23重量%時において、脂肪酸塩として少なくとも37重量%、好ましくは38重量%以上、特に好ましくは40重量%以上必要であり、上限は42重量%である。
【0018】
脂肪酸塩を形成するカチオンは、ナトリウムを主とするものであるが、透明度を高める点でカリウムを加えることが好ましい。比率としてはモル比でNa:K=7:3〜8:2の範囲が好ましい。カリウムをあまり多くすると溶け崩れしやすくなる。
【0019】
多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール等がある。添加量としては、脂肪酸100重量部に対し、35〜48重量部、特に、42〜46重量部とすることが好ましい。多価アルコールは水分を吸収しやすく、50重量部以上を加えると、膨潤して軟弱となりやすく、また、高湿度の条件下では発汗しやすくなる。
【0020】
糖類も透明度を高めるために加えられる。糖類の例としては、砂糖、ソルビトール、マルチトール、グルコース等が用いられ、添加量としては、脂肪酸100重量部に対して40〜60重量部程度、好ましくは45〜55重量部程度が適当である。
105℃揮発分は、水とエタノールである。
使用量としては、冷却固化物の含有量として28〜32重量%程度、好ましくは29〜31重量%程度とする。
使用されることができる添加剤は、特に限定されず、例えば、界面活性剤、殺菌剤、保湿剤、香料、色素、酸化防止剤、起泡性向上剤等である。
【0021】
本発明の組成物を用いた透明石鹸の製造方法は、その常法に従えばよく、例えば、脂肪酸にエタノールを加えて、50〜70℃で加熱混合し、NaOHとKOHを加えて中和、鹸化し、これに多価アルコール、糖類、水を加えて均一に混合し、型に流し込めばよい。エタノールに代えて、多価アルコールを先に加えてもよい。冷却固化後、枠抜き、切断、乾燥し、型打ちを行い製品とする。
【実施例1】
【0022】
脂肪酸組成 100重量部
ラウリン酸 13.0
ミリスチン酸 43.0
パルミチン酸 13.5
ステアリン酸 10.5
イソステアリン酸 10.0
ヒマシ油*1 10.0

石鹸成分組成
脂肪酸塩
RCOONa 87.3
RCOOK 23.1
多価アルコール 45重量部
油脂生成グリセリン 1.055

ポリプロピレングリコール 23.945
MW1000
1,3−ブタンジオール 20.00
糖類 53.2重量部
蔗糖 30.8
ソルビトール 22.4
105℃揮発物 89.4重量部
エチルアルコール 30.0
水 59.4
合計 298.0 重量部
*1 リシノール酸87.0重量%、オレイン酸7.4重量%、リノール酸3.1重量%、ジオキシステアリン酸0.6重量%、その他の飽和脂肪酸2.4重量%
上記の透明石鹸組成物を次のようにして作製した。
【0023】
まず、各脂肪酸を混合槽に投入して、80℃で融解、混合し、これに多価アルコール、エタノールおよび水を加えて更に混合した。次いで、約35%NaOH水溶液と約50%KOH水溶液を加えて中和、鹸化を行い、最後に糖類を加えてから、これを板状プレートへ流し込んだ。
冷却固化後、プレートから石鹸を抜き、型の形に切断、乾燥させた。
【実施例2】
【0024】
脂肪酸組成 100重量部
ラウリン酸 13.0
ミリスチン酸 43.0
パルミチン酸 13.5
ステアリン酸 10.5
ヒマシ油*1 20.0

石鹸成分組成
脂肪酸塩
RCOONa 87.2
RCOOK 23.1
多価アルコール 45重量部
油脂生成グリセリン 2.11
ポリプロピレングリコール 22.89
MW1000
1,3−ブタンジオール 20.00
糖類 53.2重量部
蔗糖 27.8
ソルビトール 25.4
105℃揮発物 89.4重量部
エチルアルコール 30.0
水 59.4
合計 297.9 重量部
*1 リシノール酸87.0重量%、オレイン酸7.4重量%、リノール酸3.1重量%、ジオキシステアリン酸0.6重量%、その他の飽和脂肪酸2.4重量%
上記の透明石鹸組成物を実施例1と同様にして作製した。
【実施例3】
【0025】
脂肪酸組成 100重量部
ラウリン酸 13.0
ミリスチン酸 43.0
パルミチン酸 12.5
ステアリン酸 9.5
イソステアリン酸 10.0
オリーブ油*2 12.0

石鹸成分組成
脂肪酸塩
RCOON 87.3
RCOOK 23.2
多価アルコール 45重量部
油脂生成グリセリン 1.31
ポリプロピレングリコール 23.69
MW1000
1,3−ブタンジオール 20.0
糖類 53.2重量部
蔗糖 33.5
ソルビトール 19.7
105℃揮発物 89.4重量部
エチルアルコール 30.0
水 59.4
合計 298.1重量部
*2 パルミチン酸9.2重量%、ステアリン酸2.0重量%、アラキン酸0.2重量%、オレイン酸83.1重量%、リノール酸3.9重量%
上記の透明石鹸組成物を実施例1と同様にして作製した。
【0026】
〔比較例1〕
脂肪酸組成 100重量部
ラウリン酸 20.0
ミリスチン酸 41.0
パルミチン酸 12.0
ステアリン酸 9.0
イソステアリン酸 8.0
ヒマシ油*1 10.0

石鹸成分組成
脂肪酸塩
RCOONa 87.4
RCOOK 23.2
多価アルコール 45重量部
油脂生成グリセリン 1.055
ポリプロピレングリコール 23.945
MW1000
1,3−ブタンジオール 20.0
糖類 53.2重量部
蔗糖 30.8
ソルビトール 22.4
105℃揮発物 89.5重量部
エチルアルコール 30.0
水 59.5
合計 298.3重量部
*1 リシノール酸87.0重量%、オレイン酸7.4重量%、リノール酸3.1重量%、ジオキシステアリン酸0.6重量%、その他の飽和脂肪酸2.4重量%
上記の透明石鹸組成物を実施例1と同様にして作製した。
【0027】
〔比較例2〕
脂肪酸組成 100重量部
ラウリン酸 13.0
ミリスチン酸 43.0
パルミチン酸 13.5
ステアリン酸 10.5
ヒマシ油*1 20.0

石鹸成分組成
脂肪酸塩
RCOONa 87.2
RCOOK 23.1
多価アルコール 55重量部
油脂生成グリセリン 2.11
ポリプロピレングリコール 7.89
MW1000
1,3−ブタンジオール 25.00
糖類 43.8重量部
蔗糖 4.0
ソルビトール 9.8
105℃揮発物 89.6重量部
エチルアルコール 30.0
水 59.6
合計 298.7重量部
*1 リシノール酸87.0重量%、オレイン酸7.4重量%、リノール酸3.1重量%、ジオキシステアリン酸0.6重量%、その他の飽和脂肪酸2.4重量%
上記の透明石鹸組成物を実施例1と同様にして作製した。
【0028】
〔比較例3〕
脂肪酸組成 100重量部
ラウリン酸 13.0
ミリスチン酸 43.0
パルミチン酸 12.5
ステアリン酸 9.5
イソステアリン酸 10.0
オリーブ油*2 12.0

石鹸成分組成
脂肪酸塩
RCOONa 87.3
RCOOK 23.2
多価アルコール 50重量部
油脂生成グリセリン 1.33
ポリプロピレングリコール 26.45
MW1000
1,3−ブタンジオール 22.22
糖類 82.5重量部
蔗糖 40.0
ソルビトール 42.5
105℃揮発物 104.1重量部
エチルアルコール 30.0
水 74.1
合計 347.1重量部
*2 パルミチン酸9.2重量%、ステアリン酸2.0重量%、アラキン酸0.2重量%、オレイン酸83.1重量%、リノール酸3.9重量%
上記の透明石鹸組成物を実施例1と同様にして作製した。
評価試験
上記の実施例および比較例で得られた各透明石鹸組成物を5名の試験者で評価試験を行い、表1に示す結果を得た。
【0029】
【表1】

【0030】
[皮膚刺激性]
3日間通常の様態で洗顔させ、全く刺激を感じなかったとき○、どちらともいえないとき△、刺激を感じたとき×とした。
【0031】
[起泡性]
起泡性は、試料の表面を28〜30℃の温水で軽く濡らし、これを両手で30回擦り合わせ泡立てた。この時の泡立ち状態を判断し、良好なとき○、どちらともいえないとき△、不良であるとき×とした。
【0032】
[使用時の吸水・吸湿による軟弱化]
水中での溶けやすさを官能的に評価し、良好なとき○、どちらともいえないとき△、不良なとき×とした。
【0033】
上記のように、実施例品は、いずれも、皮膚刺激性、起泡性および使用時の吸水、吸湿による軟弱化とも問題がなかったが、ラウリン酸の量が多い比較例1では皮膚刺激性に、多価アルコールの量が多すぎる比較例2、3では、軟弱化に問題があった。さらに、石鹸分が少ない比較例3では起泡性にも問題があることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、皮膚刺激性が低く、起泡性や低膨潤性に優れた透明石鹸を乾燥・型打ち工程の負担を軽減して製造できるので、透明石鹸の製造に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却固化時、105℃揮発物(水とエチルアルコールの合計)が28〜32%であり、脂肪酸100重量部に対する多価アルコールの添加量が35〜48重量部であり、脂肪酸100重量部の内、ラウリン酸の量が10〜15重量部であり、 105℃揮発物が23%の状態で、石鹸分の含有量が38〜42%であり、脂肪酸塩を形成するカチオンがモル比でNa:K=7:3〜8:2である枠練り透明石鹸組成物

【公開番号】特開2010−254758(P2010−254758A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103920(P2009−103920)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(592226062)玉の肌石鹸株式会社 (1)
【Fターム(参考)】