説明

透析液調製用水の製造装置

【課題】逆浸透膜処理装置にダメージを与えることなく、装置全体の流路を効果的に洗浄することができる透析液調製用水の製造装置を提供することである。
【解決手段】電解水生成装置と逆浸透膜処理装置とを備え、電解水生成装置で生成された電解還元水を逆浸透膜処理装置で逆浸透膜処理して透析液の調製に供する透析液調製用水の製造装置であって、逆浸透膜処理装置の上流および下流を当該逆浸透膜処理装置を介さずに連結するバイパス流路を備える、透析液調製用水の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析液を調製するための透析液調製用水を製造するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
腎機能が低下し、水分量の調節と尿素などの老廃物を含む体内有害物質の除去を行うための尿の排泄ができない腎不全患者のための有効な治療法の一つに、血液透析が知られている。血液透析は、血液ポンプを用いて血液を体外に引き出し、これを透析器(ダイアライザー)を介して透析液と血液とを接触させることにより、濃度勾配による拡散現象を利用して体内有害物質および水分を除去した後、再び体内に戻す(返血)操作を連続して行う治療法である。
【0003】
図6は、従来の典型的な透析液用水処理システム101を示すブロック図である。たとえば、図6に示すように、従来の透析液用水処理システム101は、逆浸透膜処理装置102と、透析液供給装置103とを備える。逆浸透膜処理装置102では、原水(市水)104を加圧ポンプ105にて加圧し、10〜30μmの孔径のフィルター106にて原水104中の固形物を処理後、軟水器107で原水104の硬度を下げた後、活性炭108にて原水104に含まれる次亜塩素酸を除去する。その後、加圧ポンプ109で加圧した後、逆浸透膜110内を通水し、逆浸透膜を通過した精製水をROタンク111に貯水する。ROタンク111より精製水を加圧ポンプ112にて送水し、逆浸透膜処理装置102外へ送水配管113を通して送水し、透析液供給装置103に供給する。透析液供給装置103では、供給された精製水と透析A原液114および透析B原液115を混合し透析液として各患者監視装置(図示せず)へ供給され、患者監視装置に取り付けられているダイヤライザーを通して患者の血液の浄化が行われる。
【0004】
このような従来の透析液用水処理システム101における水の流路は、経時的にエンドトキシンが増加したり、患者監視装置やダイアライザーなどの血液環流配管に血液中のタンパク質が付着するという虞があるため、定期的に洗浄する必要がある。流路の洗浄方法としては、電気分解により生成された酸性水に含まれる次亜塩素酸を利用した殺菌洗浄方法が知られている。しかしながら、この方法は逆浸透膜処理装置102内の逆浸透膜が強アルカリ・強酸性への耐性が低いため、透析用水処理ラインの逆浸透膜処理装置以降の流路に酸性水を供給する必要があった。
【0005】
ところで、近年、血液透析において透析患者に酸化ストレスが発生することが知られている。これは、透析時に発生する活性酸素が原因であると考えられており、この活性酸素を消去して酸化ストレスの軽減を図るための透析装置として、たとえば特許第3193295号(特許文献1)では、電気分解装置の電解槽内で陰極側に生成される電解還元水の持つ抗酸化作用を応用した透析装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3193295号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、逆浸透膜処理装置にダメージを与えることなく、装置全体の流路を効果的に洗浄することができる透析液調製用水の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電解水生成装置と逆浸透膜処理装置とを備え、電解水生成装置で生成された電解還元水を逆浸透膜処理装置で逆浸透膜処理して透析液の調製に供する透析液調製用水の製造装置であって、逆浸透膜処理装置の上流および下流を当該逆浸透膜処理装置を介さずに連結するバイパス流路を備える透析液調製用水の製造装置である。
【0009】
本発明の透析液調製用水の製造装置は、流路に電解水生成装置で生成した水を通過させて、流路を洗浄する機能を備えることが好ましい。
【0010】
本発明の透析液調製用水の製造装置は、電解水生成装置で生成した水を逆浸透処理装置を通過させずにバイパス流路を通過させることが好ましい。この場合、電解水生成装置で生成した水のpHは11以上またはpH3以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の透析液調製用水の製造装置は、電解水生成装置で生成した水を逆浸透処理装置を通過させるようにしてもよい。この場合、電解水生成装置で生成した水のpHは3を超えて6.5以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の透析液調製用水の製造装置によれば、逆浸透膜処理装置にダメージを与えることなく、装置全体の流路を効果的に洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好ましい一例の透析液調製用水の製造装置1を示すブロック図である。
【図2】本発明の透析液調製用水の製造装置1における電解水生成装置2および流路切替装置9を拡大して示す図である。
【図3】電解強還元水を用いて流路を洗浄する場合の電解水生成装置2および流路切替装置9を拡大して示す図である。
【図4】電解強酸性水を用いて流路を洗浄する場合の電解水生成装置2および流路切替装置9を拡大して示す図である。
【図5】電解酸性水を用いて流路を洗浄する場合の電解水生成装置2および流路切替装置9を拡大して示す図である。
【図6】従来の典型的な透析液用水処理システム101を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の好ましい一例の透析液調製用水の製造装置1を示すブロック図である。本発明の透析液調製用水の製造装置1は、電解水生成装置2と逆浸透膜処理装置3とを備え、電解水生成装置2で生成された電解還元水を逆浸透膜処理装置3で逆浸透膜処理することで、抗酸化作用を持った電解還元水を透析液原液の希釈液(透析液調製用水)として供給する。
【0015】
図1に示す例の透析液調製用水の製造装置1は、上述した電解水生成装置2およびバイパス流路(後述)を備えること以外は、図6に示した従来の透析液用水処理システム101の逆浸透膜処理装置102と同様の構成を備える。具体的には、図1に示す例の透析液調製用水の製造装置1は、原水(市水)4を加圧ポンプ5にて加圧し、10〜30μmの孔径のフィルター6にて原水4中の固形物を処理後、軟水器7で原水4の硬度を下げた後、活性炭8にて原水4に含まれる次亜塩素酸を除去するように構成される。活性炭8を通過した水は、電解水生成装置2に供され、電気分解される。本発明の透析液調製用水の製造装置1では、電解水生成装置2は、流路切替装置9に連結され、電解水生成装置2で得られた水を用途に応じて流す経路を切り替えることができるように構成されている。
【0016】
ここで、図2は、本発明の透析液調製用水の製造装置1における電解水生成装置2および流路切替装置9を拡大して示す図である。本発明の透析液調製用水の製造装置に用いられる電解水生成装置は、当分野において通常用いられる電解水生成装置であればよく、特に制限されるものではない。図2に示す例の電解水生成装置2は、隔膜11で同じ容積を有する2つの電解室13,14に分離された電解槽12を備える。電極室13,14には、それぞれ電極15,16が設置されている。
【0017】
図2に示す電解水生成装置2において、電解室13に流入する原水は水量調整バルブ17にて調整可能であるように構成される。当該電解水生成装置2で生成した電解還元水を透析液調製用水として供する場合、水量調整バルブ17によって、電解室13に流入させる原水を、電解室14に流入する水量より少なく設定する(たとえば、電解室14に流入する量の1/5)。そうすることにより、電解室13に流入する量は少なくなり、しかも電解室13の容積は電解室14と同じ容積で設計されているため、電解室13内での原水の流速は電解室14内の流速より遅く(1/5)なり、原水が電解室13内を通過する時間は原水が電解室14内を通過する時間より長くなることとなる。これにより、電極板15を陽極、電極板16を陰極として電気分解すると、電解室13では電気分解される時間が長くなることとなり、強く電気分解されることになる。このようにすることで、電解室13ではpH3以下の電解酸性水(電解強酸性水)が生成され、電解室14では電解還元水が生成されることとなる。
【0018】
当該電解水生成装置2で生成した電解還元水を透析液調製用水として供する場合、流路切替装置9内の切替バルブ18により、電解室13で生成された電解強酸性水を排水し、かつ、切替バルブ19により、電解室14で生成された電解還元水は電解水タンク20に給水される。電解水タンク20に供給された電解還元水は、加圧ポンプ21で加圧され、逆浸透膜処理装置3内で逆浸透膜を通過する。逆浸透膜を通過した後の電解還元水は、ROタンク22に貯水される。ROタンク22に貯められた電解還元水は、加圧ポンプ23にて加圧され、透析液調製用水の製造装置1の外に送水配管24を通して送水し、図6に示したような透析液供給装置103に供給される。
【0019】
本発明の透析液調製用水の製造装置1は、流路に電解水生成装置で生成した水を通過させて、流路を洗浄する機能を備えることが好ましい。なお、電解水生成装置で生成した水は、そのpHによって、たとえば電解還元水(pHが8以上11以下)、電解強還元水(pHが11を超える)、電解酸性水(pHが3を超えて6.5以下)、電解強酸性水(pHが3以下)に分類して呼称する。
【0020】
ここで、本発明の透析液調製用水の製造装置1は、逆浸透膜処理装置3の上流および下流を当該逆浸透膜処理装置3を介さずに連結するバイパス流路31を備えることを大きな特徴とする。本発明の透析液調製用水の製造装置1は、電解水生成装置で生成した水を逆浸透処理装置を通過させずにバイパス流路を通過させることで、流路の洗浄を行うことが好ましい。
【0021】
図3は、電解強還元水を用いて流路を洗浄する場合の電解水生成装置2および流路切替装置9を拡大して示す図である。電解水生成装置2内の電解槽12の電極板15を陰極、電極板16を陽極として電気分解することで、電解室13には電解強還元水が生成され、電解室14には電解酸性水が生成される。切替バルブ18により電解室13で生成した電解強還元水は電解水タンク20に給水され、電解水タンク20に貯水された後、洗浄に利用される。pH11を超える電解還元水である電解強還元水は、流路に付着した血液に含まれるタンパク質の洗浄に有用である。しかしながら、電解強還元水は逆浸透膜にダメージを与えるため、電解強還元水を用いた洗浄を行う場合には、バイパス用切替バルブ32,33によって、電解強還元水が逆浸透膜処理装置3を通過せずバイパス経路31を通過するようにする。このような本発明の透析液調製用水の製造装置によれば、逆浸透膜処理装置にダメージを与えることなく、装置全体の流路を効果的に洗浄することができる。一方、流路切替装置9において、電解室14で生成された電解酸性水は、切替バルブ19によって排水される。
【0022】
また図4は、電解強酸性水を用いて流路を洗浄する場合の電解水生成装置2および流路切替装置9を拡大して示す図である。電解水生成装置2内の電解槽12の電極板15を陽極、電極板16を陰極として電気分解することで、電解室13には電解強酸性水が生成され、電解室14には電解還元水が生成される。切替バルブ18により電解室13で生成した電解強酸性水は電解水タンク20に給水され、電解水タンク20に貯水された後、洗浄に利用される。pHが3.0以下である電解強酸性水は、逆浸透膜にダメージを与えるため、電解強酸性水を用いた洗浄を行う場合には、バイパス用切替バルブ32,33によって、電解強酸性水が逆浸透膜処理装置3を通過せずバイパス経路31を通過するようにする。このような本発明の透析液調製用水の製造装置によれば、逆浸透膜処理装置にダメージを与えることなく、装置全体の流路を効果的に洗浄することができる。一方、流路切替装置9において、電解室14で生成された電解還元水は、切替バルブ19によって排水される。
【0023】
また図5は、電解酸性水を用いて流路を洗浄する場合の電解水生成装置2および流路切替装置9を拡大して示す図である。上述のように、電解水生成装置2内の電解槽12の電極板15を陰極、電極板16を陽極として電気分解することで、電解室13には電解強還元水が生成され、電解室14には電解酸性水が生成される。切替バルブ19により電解室14で生成した電解酸性水は電解水タンク20に給水され、電解水タンク20に貯水された後、洗浄に利用される。pHが3.0を超えて6.5以下である電解酸性水は、逆浸透膜にダメージを与えないので、逆浸透膜処理装置内にも流して洗浄することができる。一方、流路切替装置9において、電解室13で生成された電解強還元水は、切替バルブ18によって排水される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解水生成装置と逆浸透膜処理装置とを備え、電解水生成装置で生成された電解還元水を逆浸透膜処理装置で逆浸透膜処理して透析液の調製に供する透析液調製用水の製造装置であって、
逆浸透膜処理装置の上流および下流を当該逆浸透膜処理装置を介さずに連結するバイパス流路を備える、透析液調製用水の製造装置。
【請求項2】
流路に電解水生成装置で生成した水を通過させて、流路を洗浄する機能を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
電解水生成装置で生成した水を逆浸透処理装置を通過させずにバイパス流路を通過させる、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
電解水生成装置で生成した水のpHが11以上である、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
電解水生成装置で生成した水のpH3以下である、請求項3に記載の装置。
【請求項6】
電解水生成装置で生成した水を逆浸透処理装置を通過させる、請求項2に記載の装置。
【請求項7】
電解水生成装置で生成した水のpHが3を超えて6.5以下である、請求項6に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−200340(P2012−200340A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66064(P2011−66064)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(591201686)株式会社日本トリム (15)
【Fターム(参考)】