説明

透水性付与剤、それが付着した透水性繊維および不織布の製造方法

【課題】繊維に不織布製造時のカード工程で優れた通過性を付与し、得られた不織布に瞬時透水性、耐久透水性、液戻り防止性を併せ持ち、かつ安全性にも優れた透水性付与剤を提供する。
【解決手段】透水性付与剤は、アルキル基の炭素数が6〜10である、アルキルホスフェート塩および/またはポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート塩(A)と、アルキル基の炭素数が11〜22である、アルキルホスフェート塩および/またはポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート塩(B)と、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つ以上の水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(C)とを必須成分として所定量含む透水性付与剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透水性付与剤、それが付着した透水性繊維および不織布の製造方法に関する。詳細には、不織布製造用ポリオレフィン系繊維に対して、本発明の透水性付与剤を付与することにより、不織布製造時のカード工程で優れた通過性が得られ、得られた不織布に瞬時透水性、耐久透水性、液戻り防止性を併せ持ち、かつ安全性にも優れる透水性付与剤、それが付着した透水性繊維および不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、紙おむつや合成ナプキンを代表とする生理用品等の吸収性物品は、疎水性の強いポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維を主材とする各種不織布に親水性を付与したトップシートと、吸収材及び撥水性を付与したバックシートの間に綿状パルプや高分子吸収体等からなる材料を配置した3層から形成される構造になっている。尿や体液等の液体はトップシートを通過して吸収体に吸収されるが、この時トップシートのベトツキ感を無くすために、透水性のよいこと、すなわち液体がトップシート上から内部の吸収体に完全に吸収される迄の時間が極めて短い瞬時透水性が必要である。加えて一度吸収体に吸収された液体が再びトップシート上に戻らないようにすること、すなわち液戻り防止性が必要になる。さらに、僅か1回から2回の液体の吸収によってトップシート上の処理剤が流出して透水性が急激に低下するのは、おむつの取り替え回数が増すことになって好ましくないので、トップシートには繰り返しの液体吸収に耐える耐久透水性が要求される。また、不織布の製造面からはカード工程の高速化に伴いシリンダーへの巻付きやスカムが発生しないこと、すなわち良好なカード通過性が要求される。さらに、安全性への配慮から皮膚への刺激性の少ない要求が一層強くなってきている。親水性に極めて劣るポリオレフィン系繊維について、上記のような要求に応える透水性付与剤およびそれが付着した透水性繊維が要求されている。
【0003】
紙おむつの快適な着用のためには瞬時透水性がよく、繰り返しの透水に対しても透水性を維持し、且つ液戻り性を少なくすることが重要である。また不織布の製造時にはカード工程通過性が重要である。これらの特性を透水性付与剤によって改善する技術が提案されている。ポリオレフィン系繊維の疎水性繊維の表面に対して、瞬時透水性がよく、かつ繰り返しの液体透水に対しても透水性を維持するという相反する要求特性を透水性付与剤に求められ、アルキルホスフェート塩とカチオン性界面活性剤および両性界面活性剤等の配合割合の調整等で補っていた。しかし、瞬時透水性が得られる場合でも耐久透水性が不足したり、耐久透水性がある程度得られる場合でも瞬時透水性が不足したりして、現在の衛生材料用途に要求される瞬時透水性・耐久透水性の両者を満足するものが得られていなかった。さらには、皮膚への刺激性の強いものが多いという問題点があった。また、これらの成分に変性シリコーンを併用すると耐久透水性は少し改善されるものの、それでも不十分な性能レベルにあった。また、変性シリコーンを使用することにより液戻り防止性が不十分になったり、不織布の製造工程であるカード工程においてカード機にスカムが発生する問題があった。
【0004】
たとえば、特許文献1ではアルキル燐酸エステル塩にポリエーテル変性シリコーンを併用する方法が開示されているが、耐久透水性や液戻り防止性が不足する。特許文献2ではアルキル燐酸エステル塩に2種類の両性界面活性剤を併用する方法が開示されているが、耐久透水性が不足する。特許文献3ではポリオキシアルキレン脂肪酸アミドのアシル化ポリアミンカチオン化物やアルキルホスフェート塩、両性界面活性剤、ポリオキシアルキレン変性シリコーンを併用する方法が提案されているが、カード通過性や液戻り防止性が不足する。特許文献4ではベタイン型両性活性剤とオキシ脂肪酸エステルのポリアルキレン付加物のジカルボン酸エステルおよびアニオン性界面活性剤を配合した処理剤が開示されているが、カード通過性や瞬時透水性および耐久透水性が不足する。特許文献5ではアルキルホスフェート塩に両性界面活性剤、アルコキシル化リシノレイン型化合物、ポリオキシアルキレン変性シリコーンを併用して繊維を処理する方法が提案されているが、カード通過性や液戻り防止性が不足し、またカードでスカムが発生する。特許文献6ではアルキルホスフェート塩、ポリオキシアルキレン基とアシル基とを有した(ポリ)アミンのカチオン化物、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つ以上の水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル、ジアルキルスルホサクシネート塩、トリアルキルグリシン誘導体、ポリオキシアルキレン変性シリコーンを併用して繊維を処理する方法が提案されているが、カード通過性や液戻り防止性が不足し、またカードでスカムが発生する。
【0005】
このように、これらの処理剤では、現在の衛生材料用途に要求される瞬時透水性、耐久透水性、液戻り防止性には不十分なレベルにあるだけでなく、カチオン性界面活性剤や両性界面活性剤は、皮膚への刺激性が強く、透水性付与剤の不揮発分全体に占めるこれら活性剤の重量割合が例えば10重量%を超えると、安全性の問題が出てくる。また、ポリオキシアルキレン変性シリコーンを使用することにより液戻り防止性が不十分になったり、不織布の製造工程であるカード機にスカムが発生するという問題が、カード工程の高速化に伴いその頻度が多くなってきている。このように、これらの処理剤では全ての性能レベルを満足することができない。従って、衛生材料用途において、高い性能レベルと安全性を併せ持つ高性能の処理剤が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開平4−82961号公報
【特許文献2】特開2000−170076号公報
【特許文献3】特開2002−161474号公報
【特許文献4】特開2000−34672号公報
【特許文献5】特開2002−161477号公報
【特許文献6】特開2007−247128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、従来の問題点を解決して、瞬時透水性、耐久透水性、液戻り防止性およびカード通過姓のいずれについても高い性能レベルを有し、安全性にも優れた透水性付与剤、それが付着した透水性繊維および不織布を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、透水性能の優れた化合物とポリオレフィンとの親和性が高い化合物を併用することで、その相乗効果により前記課題を解決する透水性付与剤であること、この付与剤を処理して得られる透水性繊維が優れた瞬時透水性、耐久透水性、および液戻り性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかる透水性付与剤は、アルキル基の炭素数が6〜10である、アルキルホスフェート塩および/またはポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート塩(A)と、アルキル基の炭素数が11〜22である、アルキルホスフェート塩および/またはポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート塩(B)と、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つ以上の水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(C)とを必須成分として含む透水性付与剤であって、前記透水性付与剤の不揮発分全体に占める、成分(A)の重量割合が1〜20重量%、成分(B)の重量割合が20〜50重量%、成分(C)の重量割合が41〜65重量%であり、かつ成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計の重量割合が80重量%以上である。
【0010】
本発明にかかる透水性付与剤において、前記透水性付与剤の不揮発分全体に占める成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計の重量割合は、90重量%以上であることが好ましい。
また、本発明にかかる透水性付与剤は、カチオン性界面活性剤(D1)、両性界面活性剤(D2)およびジアルキルスルホサクシネート塩(D3)から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤(D)をさらに含み、前記透水性付与剤の不揮発分全体に占める界面活性剤(D)の重量割合が0.2〜10重量%であることが好ましい。
【0011】
前記成分(A)は下記一般式(1)で示される化合物であることが好ましく、前記成分(B)は下記一般式(2)で示される化合物であることが好ましい。
【化1】

【化2】

(式中、Rは炭素数6〜10のアルキル基であり、Rは炭素数11〜22のアルキル基であり、R、Rは各々独立してエチレン基および/またはプロピレン基であり、mおよびpは各々独立して0〜15の整数であり、nおよびqは各々独立して1〜2の整数であり、YおよびYは各々独立して水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオンおよびトリエタノールアンモニウムイオンからなる群から選択されるイオン性残基である。)
【0012】
前記成分(C)のポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルは炭素数6〜22のヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステルのアルキレンオキシド付加物であり、ジカルボン酸の炭素数は2〜10であり、脂肪酸の炭素数は10〜50であることが好ましい。
【0013】
前記成分(D1)は、下記一般式(3)で示される化合物であることが好ましい。
【化3】

(式中、Rは炭素数8〜24の脂肪族炭化水素基であり、RはRが炭素数8〜18の肪族炭化水素基のときには、炭素数8〜18の脂肪族炭化水素基であり、Rが炭素数19〜24の脂肪族炭化水素基のときには、水素原子または炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基である。RおよびRは各々独立して水素原子、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基または炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基である。Xはハロゲンイオン、硝酸イオン、酢酸イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンおよびジメチル燐酸イオンからなる群から選択されるイオン性残基である。)
【0014】
前記成分(D2)は、下記一般式(4)で示される化合物であることが好ましい。
【化4】

(式中、aは1〜3の整数であり、bは0または1であり、Rは炭素数6〜22の炭化水素基であり、R10およびR11は各々独立して炭素数1〜3の炭化水素基である。)
【0015】
前記成分(D3)のアルキル基の炭素数は6〜18であることが好ましい。
【0016】
また、本発明にかかる透水性付与剤は、不織布製造用ポリオレフィン系繊維に用いられることが好ましい。
本発明の透水性繊維は、不織布製造用ポリオレフィン系繊維に対して、前記の透水性付与剤を処理して得られ、得られた繊維に対する透水性付与剤の不揮発分の付着率が0.1〜2重量%である。
本発明の不織布の製造方法は、前記の透水性繊維を集積させて繊維ウェブを作製し、得られた繊維ウェブを熱処理する工程を含むものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる透水性付与剤、この透水性付与剤が付着した透水性繊維および不織布は、透水性能の優れた化合物と、ポリオレフィンとの親和性が高い化合物を併用することで、その相乗効果が得られ、その結果、瞬時透水性、耐久透水性、液戻り防止性、カード通過性をも向上させ、さらに安全性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の透水性付与剤は、アルキル基の炭素数が6〜10である、アルキルホスフェート塩および/またはポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート塩(A)と、アルキル基の炭素数が11〜22である、アルキルホスフェート塩および/またはポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート塩(B)と、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つ以上の水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(C)とを必須成分として含む透水性付与剤であって、前記透水性付与剤の不揮発分全体に占める、成分(A)の重量割合が1〜20重量%、成分(B)の重量割合が20〜50重量%、成分(C)の重量割合が41〜65重量%であり、かつ成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計の重量割合が80重量%以上である。以下、詳細に説明する。
【0019】
〔成分(A)と成分(B)〕
アルキル基の炭素数が6〜10である、アルキルホスフェート塩および/またはポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート塩(A)(成分(A)ということがある)は、本発明の透水性付与剤に必須に含まれる成分である。成分(A)は、瞬時透水性において非常に優れる成分であるが、成分(A)の単独での使用では、カード通過性が劣り耐久透水性を低下させるという欠点がある。
一方、アルキル基の炭素数が11〜22である、アルキルホスフェート塩および/またはポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート塩(B)(成分(B)ということがある)も、本発明の透水性付与剤に必須に含まれる成分である。成分(B)は、カード通過性や耐久透水性を保持する性能および液戻り量を少なくする性能に優れる成分であるが、成分(B)の単独での使用では、瞬時透水性が劣るという欠点がある。
このように、本発明者等は、アルキルホスフェート塩のアルキル基の炭素数の違いによって瞬時透水性、カード通過性、耐久透水性を保持する性能が異なることを見出し、アルキル基の炭素数が6〜10の範囲の成分(A)とアルキル基の炭素数が11〜22の範囲の成分(B)を所定量で併用することにより、これらの性能を全て満足させることができることを見出した。
【0020】
成分(A)は、アルキル基の炭素数が6〜10であるアルキルホスフェート塩やアルキル基の炭素数が6〜10でありポリオキシアルキレン基を含有するアルキルホスフェート塩やこれらの混合物であってもよく、また、1種または2種以上を用いてもよい。
また、成分(B)は、アルキル基の炭素数が11〜22であるアルキルホスフェート塩やアルキル基の炭素数が11〜22でありポリオキシアルキレン基を含有するアルキルホスフェート塩やこれらの混合物であってもよく、また、1種または2種以上を用いてもよい。
成分(A)や成分(B)のアルキル基の炭素数は分布があってもよく、アルキル基は直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよい。
【0021】
成分(A)は、前述の一般式(1)で示される化合物であることが好ましい。式中、Rは炭素数6〜10のアルキル基であり、炭素数は8〜10が好ましい。アルキル基の炭素数が6未満では、カード工程通過性が低下すると共に製品の臭気が強くなる。
成分(B)は、前述の一般式(2)で示される化合物であることが好ましい。式中、Rは炭素数11〜22のアルキル基であり、炭素数は12〜18が好ましく、12〜16がより好ましく、12〜14がさらに好ましい。アルキル基の炭素数が22超であると、化合物の水溶性、カード通過性、瞬時透水性が低下する。
【0022】
成分(A)および成分(B)において、式中、RおよびRは、各々独立してエチレン基および/またはプロピレン基である。mおよびpは、各々独立して0〜15の整数であり、0〜10が好ましく、0〜8がより好ましく、0〜3がさらに好ましく、0でポリオキシアルキレン基を含有しない場合が特に好ましい。nおよびqは、各々独立して1〜2の整数である。YおよびYは、各々独立して水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオンからなる群から選択されるイオン性残基である。
【0023】
これらの中でも瞬時透水性の付与という理由から、成分(A)は、オクチルホスフェートカリウム塩、デシルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレン2モル付加オクチルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレン3モル付加デシルホスフェートジエタノールアンモニウム塩が好ましく、オクチルホスフェートカリウム塩、デシルホスフェートカリウム塩がさらに好ましい。
一方、成分(B)は、カード通過性や耐久透水性を保持する性能の向上という理由から、ラウリルホスフェートカリウム塩、ミリスチルホスフェートカリウム塩、セチルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレン2モル付加セチルホスフェートカリウム塩、ポリオキシエチレン3モル付加ラウリルホスフェートジエタノールアンモニウム塩、ポリオキシエチレン3モル付加ラウリルホスフェートトリエタノールアンモニウム塩が好ましく、ラウリルホスフェートカリウム塩がさらに好ましい。
【0024】
透水性付与剤の不揮発分に占める成分(A)の重量割合は1〜20重量%であり、2〜15重量%がより好ましく、2〜10重量%がさらに好ましい。成分(A)の重量割合が1重量%未満では、瞬時透水性能が低下し、20重量%超であると、カード通過性が劣り、耐久透水性能を低下させる。
透水性付与剤の不揮発分に占める成分(B)の重量割合は20〜50重量%であり、30〜50重量がより好ましく、35〜45重量%がさらに好ましく、37〜42重量%が特に好ましい。成分(B)の重量割合が20重量%未満では、カード通過性を低下させ、50重量%超であると、瞬時透水性と耐久透水性が低下する。
なお、本発明の透水性付与剤の不揮発分とは、水分などを除くための熱乾燥工程後においても繊維表面に残存する透水性付与剤中の成分を意味し、透水性付与剤を105℃で熱処理して水分などを除去し、恒量に達したときの揮発せずに残存した成分を意味する。
【0025】
〔成分(C)〕
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル(以下、ポリヒドロキシエステルということがある)とジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(C)(成分(C)ということがある)は、本発明の透水性付与剤に必須に含まれる成分であり、ポリオレフィンとの親和性が高いので、繊維に付着した付与剤は水と接触しても繊維から脱落し難くなる。その結果、繰り返し透水性を維持できる成分である。
【0026】
ポリヒドロキシエステルは、構造上、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステルであり、多価アルコールの水酸基のうち、2個以上(好ましくは全部)の水酸基がエステル化されている。したがって、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルは、複数の水酸基を有するエステルである。
【0027】
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸は、脂肪酸の炭化水素基に酸素原子を介してポリオキシアルキレン基が結合した構造を有し、ポリオキシアルキレン基の脂肪酸の炭化水素基と結合していない片末端が水酸基となっている。
ポリヒドロキシエステルとしては、たとえば、炭素数6〜22(好ましくは12〜22)のヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステル化物のアルキレンオキシド付加物を挙げることができる。ヒドロキシ脂肪酸の炭素数が6未満であると、親水性が強くなり、一方、22を超えると疎水性が強くなる。いずれの場合も他の成分との相溶性が悪くなるため、十分な耐久透水性を得られないことがある。
【0028】
炭素数6〜22のヒドロキシ脂肪酸としては、たとえば、ヒドロキシカプリル酸、ヒドロキシカプリン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシラウリン酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸挙げられ、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸が好ましい。多価アルコールとしては、たとえば、エチレングリコール、グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、グリセリンが好ましい。アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜4のアルキレンオキシドが挙げられる。
【0029】
アルキレンオキシドの付加モル数は、上記ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルの水酸基1モル当量当り、好ましくは80以下、さらに好ましくは5〜30である。付加モル数が80を超えると液戻り量が増加することがあるので好ましくない。高い耐久透水性を得るためには、親水基と疎水基のバランスを調整することが重要である。アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合は、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。エチレンオキシドの割合が50モル%未満では、疎水性が強くなるために十分な耐久透水性が得られないことがある。
【0030】
ポリヒドロキシエステルは、たとえば、多価アルコールとヒドロキシ脂肪酸(ヒドロキシモノカルボン酸)を通常の条件でエステル化してエステル化物を得て、次いでこのエステル化物にアルキレンオキシドを付加反応させることによって製造できる。ポリヒドロキシエステルは、ひまし油などの天然から得られる油脂やこれに水素を添加した硬化ひまし油を用い、さらにアルキレンオキシドを付加反応させることによっても、好適に製造できる。
ポリヒドロキシエステルを製造する場合、多価アルコールの水酸基1モル当量あたりのヒドロキシ脂肪酸のカルボキシル基モル当量は、0.5〜1の範囲であることが好ましい。
【0031】
ポリヒドロキシエステルとジカルボン酸との縮合物において、ジカルボン酸の炭素数は、2〜10が好ましく、2〜8がさらに好ましい。ジカルボン酸の炭素数が10を超えると十分な親水性を付与できないことがある。このようなジカルボン酸としては、たとえば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フタル酸等が挙げられる。ジカルボン酸と共に、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸等のジカルボン酸以外のカルボン酸を20%以下(好ましくは10%以下)含有しても良い。ポリヒドロキシエステルとジカルボン酸との縮合物を製造する場合、ポリヒドロキシエステルの水酸基1モル当量あたりのジカルボン酸のカルボキシル基モル当量は、0.2〜1の範囲であることが好ましく、0.4〜0.8がさらに好ましい。エステル化の反応は通常の条件で良く、特に限定はない。
【0032】
本発明の成分(C)は、上述のポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物(以下、縮合物ということがある)において、少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルである。特許文献4のような脂肪酸で封鎖していないエステルでは、耐久透水性能が不足し、また化合物が経時的に増粘し水不溶物が増加するので、付与剤の溶液安定性が低下する。
縮合物の少なくとも1つ以上の水酸基を封鎖する脂肪酸の炭素数について、10〜22の範囲だけでなく、10〜50の範囲においても使用することが可能である。すなわち、封鎖する脂肪酸の炭素数は10〜50が好ましく、12〜36がさらに好ましい。また、脂肪酸の炭素数が10未満であると親水性が強くなり、一方、50を超えると疎水性が強くなる。このように、親水性と疎水性とがアンバランスであると、十分な耐久透水性を得ることができないことがある。このような脂肪酸としては、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イコサン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラノリン脂肪酸等が挙げられるが、ベヘン酸やウールグリースを精製したラノリン誘導体である炭素数12〜36のラノリン脂肪酸が好ましい。縮合物と脂肪酸とのエステルを製造する場合、縮合物の水酸基1モル当量あたりの脂肪酸のカルボキシル基モル当量は0.2〜1の範囲であることが好ましく、0.4〜1がさらに好ましい。エステル化の反応条件については特に限定はない。
【0033】
透水性付与剤の不揮発分に占める成分(C)の重量割合は41〜65重量%であり、43〜65重量%がより好ましく、45〜65重量%がさらに好ましく、50〜65重量%が特に好ましい。成分(C)の重量割合が41重量%未満では、瞬時透水性は向上するが耐久透水性が低下する。一方、成分(C)の重量割合が65重量%超であると、耐久透水性は向上するがカード通過性が低下する。
【0034】
このように、瞬時透水性能に優れた成分(A)と、カード通過性能、耐久透水性を保持する性能、液戻り量を少なくする性能に優れた成分(B)に、さらにポリオレフィンとの親和性が高い成分(C)を所定量併用することで、その相乗効果により、瞬時透水性、耐久透水性、カード通過性等を向上することができる。さらに、カチオン性界面活性剤や両性界面活性剤、ジアルキルスルホサクシネート塩等を最小限に留めることができ、安全性に優れる。これらの効果をより発揮させるために、透水性付与剤の不揮発分に占める成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計の重量割合は80重量%以上であり、好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上である。重量割合が80重量%未満では、細胞毒性が悪化するとともにカード機でシリンダー巻付きが多くなり均一なウェブが得られなくなる。
【0035】
〔界面活性剤(D)〕
本発明の透水性付与剤は、耐久透水性を補助する成分として、カチオン性界面活性剤(D1)、両性界面活性剤(D2)およびジアルキルスルホサクシネート塩(D3)から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤(D)を、安全性を損なわない範囲で含んでもよい。透水性付与剤の不揮発分全体に占める界面活性剤(D)の重量割合は0.2〜10重量%が好ましく、1〜7重量%がより好ましく、2〜5重量%がさらに好ましく、2〜4重量%が特に好ましい。重量割合が10重量%超になると、皮膚刺激性が高くなる懸念があり、細胞毒性が悪化することがある。
【0036】
前記のカチオン性界面活性剤(D1)(成分(D1)ということがある)は、前述の一般式(3)で示される化合物であることが好ましい。式中、Rは炭素数8〜24の脂肪族炭化水素基であり、RはRが炭素数8〜18の肪族炭化水素基のときには、炭素数8〜18の脂肪族炭化水素基であり、Rが炭素数19〜24の脂肪族炭化水素基のときには、水素原子、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基または炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基である。RおよびRは各々独立して水素原子、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基または炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基である。Xはハロゲンイオン、硝酸イオン、酢酸イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンおよびジメチル燐酸イオンからなる群から選択されるイオン性残基である。R、R、RおよびRの脂肪族炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよく、また直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよい。成分(D1)は、単独または2種以上併用することができる。
【0037】
の炭素数が8未満の場合は、カード通過性が悪化するとともに、親水性が強くなり過ぎて耐久透水性が低下し、液戻り性が増加し易くなることがある。Rの炭素数が24超の場合は、瞬時透水性が低下し易くなることがある。RとRは、好ましくは炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基である。RとRのいずれかの炭素数が3超では、瞬時透水性および耐久透水性が低下し易くなることがある。
【0038】
一般式(3)で表されるカチオン性界面活性剤の例としては、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジ椰子アルキルジメチルアンモニウムクロライド、ジ硬化牛脂アルキルジメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムメトサルフェート、ジラウリルメチルエチルアンモニウムエトサルフェート等が挙げられ、これらの中でも、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライドやベヘニルトリメチルアンモニウムクロライドが好ましい。
【0039】
〔成分(D2)〕
前記の両性界面活性剤(D2)(成分(D2)ということがある)としては、トリアルキルグリシン型両性界面活性剤、アルキルアミドプロピルグリシン型両性界面活性剤等が挙げられ、一般式(4)で表される両性界面活性剤であることが好ましい。式中、aは1〜3の整数であり、bは0または1であり、Rは炭素数6〜22の炭化水素基であり、R10およびR11は各々独立して炭素数1〜3の炭化水素基である。R、R10およびR11の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基が好ましく、飽和であっても不飽和であってもよく、また直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよい。成分(D2)は、単独または2種以上併用することができる。
【0040】
一般式(4)で表されるトリアルキルグリシン型両性界面活性剤は、式中、bは0であり、Rは炭素数6〜22の炭化水素基であり、炭素数は16〜22が好ましい。炭素数が6未満の場合は、親水性が強くなり過ぎて耐久透水性が低下し、液戻り性が増加し易くなることがある。一方、炭素数が22超の場合は、瞬時透水性が低下し易くなることがある。R10およびR11は、いずれも炭素数1〜3の炭化水素基である。一例としては、ジメチルドデシルグリシンヒドロキサイド、ジメチルテトラデシルグリシンヒドロキサイド、ジメチルヘキサデシルグリシンヒドロキサイド、ジメチルオクタデシルグリシンヒドロキサイド等を挙げることができる。
一方、一般式(4)で表されるアルキルアミドプロピルグリシン型両性界面活性剤は、式中、bは1であり、aは1〜3の整数であり、Rは炭素数6〜22の炭化水素基であり、炭素数は11〜22が好ましい。炭素数が6未満の場合は、親水性が強くなり過ぎて耐久透水性が低下し、液戻り性が増加し易くなることがある。一方、炭素数が22超の場合は、瞬時透水性が低下し易くなることがある。R10およびR11は、いずれも炭素数1〜3の炭化水素基である。一例としては、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ステアリン酸アミドエチルベタイン等を挙げることができる。
【0041】
〔成分(D3)〕
前記のジアルキルスルホサクシネート塩(D3)(成分(D3)ということがある)は、α位にスルホン酸塩の基を有するコハク酸のジアルキルエステルである。ジアルキルエステルを構成するアルキル基の炭素数は6〜18が好ましく、8〜18がより好ましく、10〜18がさらに好ましく、12〜14が特に好ましい。アルキル基の炭素数が6未満ではカード通過性が低下することがある。一方、アルキル基の炭素数が18超であると、瞬時透水性が低下することがある。
【0042】
成分(D3)のスルホン酸塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、アミン塩を挙げることができ、ナトリウム塩および/またはカリウム塩であると、透水性付与剤が付着した繊維に液体が速やかに浸透するので好ましい。
【0043】
〔その他の成分〕
本発明の透水性付与剤は、本発明の効果を阻害しない範囲でポリオキシアルキレン変性シリコーン(E)(成分(E)ということがある)を含有してもよいが、液戻り防止性が不足するという問題とカード時にスカムが発生するという理由から、実質的に含有しないことが好ましく、具体的には、透水性付与剤の不揮発分全体に占めるシリコーン系化合物(E)の重量割合は1重量%未満が好ましい。成分(E)は、分子量が1,000〜100,000であり、Si含有率が20〜70重量%である。ポリオキシアルキレンはポリオキシエチレンやポリオキシプロピレンであり、ポリオキシアルキレン全体のうちポリオキシエチレンが占める割合が20重量%以上である。
【0044】
本発明の透水性付与剤は、必要に応じて水および/または溶剤を含有していてもよく、水を必須に含有することが好ましい。本発明に使用する水としては、純水、蒸留水、精製水、軟水、イオン交換水、水道水等のいずれであってもよい。透水性付与剤を製造する際の透水性付与剤全体に占める不揮発分の重量割合は、10〜25重量%が好ましく、18〜23重量%が特に好ましい。
また、本発明の透水性付与剤は、皮膚への刺激性の面から、透水性付与剤全体に占める不揮発分の重量割合を1重量%としたときの水性液のpH(20℃)が5〜8の範囲になることが好ましい。
【0045】
また、本発明の透水性付与剤には、必要に応じて、抗菌剤、酸化防止剤、防腐剤、艶消し剤、顔料、抗菌剤、芳香剤、消泡剤等がさらに含まれていてもよい。
【0046】
〔透水性付与剤の製造方法〕
本発明の透水性付与剤の製造方法としては、特に限定されず、公知の方法を採用できる。例えば、成分(A)の水溶液に、成分(B)の水溶液を配合し約70℃の温度で撹伴する。撹伴を続けながら通常のエステル反応で合成したポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(C)を加え同温度で均一に撹伴する。次に、必要に応じて成分(D1)、成分(D2)および成分(D3)から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤(D)の水溶液を配合して約50℃の温度で均一に攪拌する。次いで、攪拌しながら所定量の水を注入し希釈すると20重量%の透水性付与剤が得ることができる。
【0047】
〔透水性繊維〕
本発明の透水性繊維は、繊維本体とこれに付着した上記透水性付与剤とから構成される透水性繊維であり、一般的には所定の長さに切断した短繊維である。透水性付与剤の付着率は、前記透水性繊維に対して0.1〜2重量%であり、好ましくは0.3〜1重量%である。透水性繊維に対する透水性付与剤の付着率が0.1重量%未満では、瞬時透水性、耐久透水性が低下することがある。一方、透水性付与剤の付着率が2重量%を超えると、繊維をカード処理する時に巻付きが多くなって生産性が大幅に低下し、乾式法等の方法により得られた不織布等の繊維製品が透水後にベトツキが大きくなることがある。
【0048】
繊維本体としては、たとえば、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、塩ビ繊維、2種類以上の熱可塑性樹脂からなる複合繊維等であり、複合繊維の組み合わせとしては、ポリオレフィン系樹脂/ポリオレフィン系樹脂の場合、例えば、高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、直鎖状高密度ポリエチレン/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/ポリプロピレン、プロピレンと他のα−オレフィンとの二元共重合体または三元共重合体/ポリプロピレン、直鎖状高密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレン等が挙げられる。また、ポリオレフィン系樹脂/ポリエステル系樹脂の場合、例えば、ポリプロピレン/ポリエチレンテレフタレート、高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、直鎖状高密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート、低密度ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。また、ポリエステル系樹脂/ポリエステル系樹脂の場合、例えば、共重合ポリエステル/ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。さらにポリアミド系樹脂/ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂/ポリアミド系樹脂等からなる繊維も例示することができる。これら繊維のなかでも、付着した透水性付与剤が尿や体液等の液体によって脱落がし難いという理由から、不織布製造用ポリオレフィン系繊維に本発明の透水性付与剤は好適である。
【0049】
繊維の断面構造は鞘芯型、並列型、偏心鞘芯型、多層型、放射型あるいは海島型が例示できるが、繊維製造工程での生産性や、不織布加工の容易さから、偏心を含む鞘芯型または並列型が好ましい。また、断面形状は円形または異形形状とすることができる。異形形状の場合、例えば扁平型、三角形〜八角形等の多角型、T字型、中空型、多葉型等の任意の形状とすることができる。
【0050】
本発明の透水性付与剤は、そのまま希釈等せずに繊維本体に付着させてもよく、水等で不揮発分全体の重量割合が0.5〜5重量%となる濃度に希釈してエマルジョンとして繊維本体に付着させてもよい。透水性付与剤を繊維本体へ付着させる工程は、繊維本体の紡糸工程、延伸工程、捲縮工程等のいずれであってもよい。本発明の透水性付与剤を繊維本体に付着させる手段については、特に限定はなく、ローラー給油、ノズルスプレー給油、ディップ給油等の手段を使用してもよい。繊維の製造工程やその特性に合わせ、より均一に効率よく目的の付着量が得られる方法を採用すればよい。また、乾燥の方法としては、熱風および赤外線により乾燥させる方法、熱源に接触させて乾燥させる方法等を用いてよい。
【0051】
〔不織布の製造方法〕
また、本発明の不織布の製造方法は、本発明の透水性繊維(例えば短繊維)をカード機等に通し繊維ウェブを作製し、得られた繊維ウェブを熱処理する工程を含むものである。本発明の透水性付与剤は、不織布の製造において繊維ウェブを熱処理する工程を有する場合に、特に好適に使用されるものである。
繊維ウェブを熱処理して接合させる方法としては、加熱ロールまたは超音波によるによる熱圧着、加熱空気による熱融着、熱圧着点(ポイントボンディング)法等の熱融着法が挙げられる。繊維ウェブを熱処理して接合させる一例としては、芯に高融点の樹脂を使用し鞘に低融点の樹脂を使用する鞘芯型の複合繊維の場合、低融点の樹脂の融点付近で熱処理することで、繊維交点の熱接着を容易に行なうことができる。
不織布の製造方法としては、透水性付与剤が付与された短繊維をカード機等に通しスライバーとしたものを上述のように熱処理して接合させ一体化する方法、透水性付与剤が付与された紡績糸や連続糸等を用いて編織加工により編織物としたものを上述のように熱処理して接合させる方法、エアレイド法でパルプ等を積層する際に本発明の透水性繊維(短繊維)と混綿して、上述のように熱処理して接合させる方法等も挙げられる。その他、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法等により得られた繊維成形体に対して、本発明の透水性付与剤を付着させたものを加熱ロールまたは加熱空気等で熱処理して、または加熱ロールまたは加熱空気等で熱処理したものに本発明の透水性付与剤を付着させて、不織布を製造する方法も挙げられる。
【0052】
スパンボンド法の一例としては、複合繊維樹脂を紡糸し、次に、紡出された複合長繊維フィラメントを冷却流体により冷却し、延伸空気によってフィラメントに張力を加えて所期の繊度とする。その後、紡糸されたフィラメントを捕集ベルト上に捕集し、交絡処理を行ってスパンボンド不織布を得る。接合手段としては、加熱ロールまたは超音波によるによる熱圧着、加熱空気による熱融着、熱圧着点(ポイントボンディング)法等がある。
得られたスパンボンド不織布に本発明の透水性付与剤を付与する方法としては、グラビア法、フレキソ法、ゲートロール法等のロールコーティング法、スプレーコーティング法等で行うことができるが、不織布への塗布量を片面ずつ調節できるものであれば特に限定されるものではない。また、乾燥の方法としては、熱風および赤外線により乾燥させる方法、熱源に接触させて乾燥させる方法等を用いてよい。
【0053】
〔透水性繊維の物性〕
本発明の透水性繊維は、液戻り防止性に優れた物性を有している。透水性繊維の液戻り量は、通常1.2g以下、好ましくは1.0g以下、さらに好ましくは0.8g以下、より好ましくは0.6g以下、特に好ましくは0.4g以下、最も好ましくは0.2g以下である。
【0054】
本発明の透水性繊維は、耐久透水性に優れている。透水性繊維の耐久透水性評価は、繰り返しの評価が3回目において生理食塩水の消失時間を20箇所で測定し、消失時間5秒未満となる箇所の個数は、通常10個以上、好ましくは12個以上、さらに好ましくは14個以上、より好ましくは16個以上、特に好ましくは18個以上、最も好ましくは20個である。
【0055】
本発明の透水性繊維は、安全性に優れている。衛生材料用途では、人体に直接接することから、高い安全性が求められている。透水性繊維の安全性評価は、細胞毒性試験結果(IC50)を実施し、70%以上が好ましい。本発明の透水性付与剤を繊維本体に付着させることによって、上記物性が得られる。
【実施例】
【0056】
以下に本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各実施例および比較例における評価項目と評価方法は以下の通りである。なお、例中の「部」および「%」とあるのは、それぞれ「重量部」および「重量%」を表す。
【0057】
(実施例1〜10および比較例1〜11)
表1および2に示す各成分および水を混合して、透水性付与剤全体に占める不揮発分の重量割合が20重量%の実施例1〜10、比較例1〜11の透水性付与剤をそれぞれ調製した。得られた透水性付与剤をそれぞれ約60℃の温水で不揮発分の重量割合が1重量%の濃度になるよう希釈して希釈液を得た。また、各希釈液のpH(20℃)をそれぞれ測定した。結果を表1、2に示す。
次に、繊維本体300gに対しそれぞれの透水性付与剤の希釈液150gをスプレーで付着させ、透水性繊維に付着する透水性付与剤の付着量を0.5重量%にした。繊維本体は、透水性付与剤等の繊維処理剤が付着していない、ポリプロピレン(芯)−ポリエチレン(鞘)系複合繊維であり、単繊維繊度が1.5Dtex、繊維長が38mmのものであった。それぞれの透水性付与剤の希釈液を付着させた繊維を、60℃の温風乾燥機の中に2時間入れた後、室温で8時間以上放置して乾燥させて、透水性繊維を得た。
【0058】
得られた透水性繊維をそれぞれ混打綿工程およびカード試験機を用いたカード工程に通し、目付30g/mのウェブを作製した。その際、それぞれの透水性繊維について、下記に示す評価方法でカード工程における物性(カード通過性:シリンダー巻付きおよびスカム発生の有無)を評価した。得られたウェブをエァースルー型熱風循環乾燥機中130℃で熱処理してウェブを固定し、不織布を得た。得られた不織布について、下記に示す評価方法で物性(瞬時透水性、耐久透水性および液戻り防止性)をそれぞれ評価した。その結果を表3および4に示す。
【0059】
〔評価方法〕
(1)シリンダー巻付き
カード試験機を用いて30℃×70%RHの条件で試料短繊維40gをカーディングした後にシリンダーを観察し、以下の基準で評価した。なお、5が最も良い評価である。
5…巻付きなし、4…シリンダー面の1/10に巻付きあり、3…シリンダー面の1/5に巻付きあり、2…シリンダー面の1/3に巻付きあり、1…全面に巻付きあり
【0060】
(2)スカム発生の有無
カード試験機を用いて30℃×70%RHの条件で試料短繊維200gをカーディングした後にローラーに付着したスカムを観察し、スカム発生の有無を評価した。
【0061】
(3)不織布の瞬時透水性
不織布を濾紙(東洋濾紙、No.5)の上に重ね、不織布表面から10mmの高さに設置したビューレットより1滴(約0.05ml)の生理食塩水を滴下して、不織布表面から水滴が消失するまでの時間を測定する。不織布表面の20箇所でこの測定を行って5秒未満の個数を表示する。この個数が18個以上であれば瞬時透水性は良好である。
【0062】
(4)不織布の耐久透水性
不織布(10cm×10cm)を市販の紙おむつに重ね、その上に内径60mmの円筒を置き、生理食塩水80mlを円筒内に注入して不織布を通して紙おむつに吸収させた。注水後3分間放置した後に、不織布を2枚の濾紙(東洋濾紙、No.5)の間に挟み、その上に板(10cm×10cm)と重り(合計3.5Kg)を乗せて3分間放置して脱水し、その後さらに5分間風乾した。風乾後の試料不織布に上記円筒内で生理食塩水が通過した箇所について、不織布の瞬時透水性の試験方法によって、生理食塩水の消失時間を20箇所で測定し、消失時間5秒未満の個数を表示した。この個数が18個以上であれば耐久透水性は良好である。試験に供した不織布について、同様の作業を繰り返して行う。この繰り返し試験では回数を重ねても生理食塩水の消失個数(消失時間5秒未満となる箇所の個数)が多い方が良い。
【0063】
(5)不織布の液戻り防止性
市販の紙おむつの上に不織布(10cm×10cm)を置き、さらにその上に内径60mmの円筒を置き、生理食塩水100mlを円筒内に注入して不織布を通して紙おむつに吸収させた。生理食塩水が全て紙おむつに吸収されたら円筒を取り除き、予め秤量した濾紙(東洋濾紙、No.5)を20枚重ね、これに5Kgの荷重を乗せた。5分間放置後、濾紙の重さを計り、重量増加分を測定して液戻り量(g)とした。1.2g以下を許容範囲としているが、1.0g以下が望ましい。
【0064】
(6)細胞毒性試験(IC50
細胞株はV79細胞を用いるコロニー形成法により、水抽出液3〜100%の濃度範囲で検討し、コロニー形成を50%阻害する濃度(%)をIC50とした。抽出条件および処理条件等は「第15改正 日本薬局方 2006年度」のプラスチック製医薬品容器試験法の細胞毒性試験に準拠して実施した。合否の判定は、濃度70%以上を合格(○)とし、70%未満を不合格(×)とした。
【0065】
(7)透水性繊維に付着する透水性付与剤の付着率
透水性繊維に付着する透水性付与剤の付着率は、25℃×40%RHの温湿度で24時間調湿した透水性繊維(W1)を、メタノールを用いて、迅速残脂抽出装置R−11型(東海計器(株)製)で抽出し、透水性付与剤付着量(W2)を求めた。そして下記の式より、透水性付与剤付着率C%を求めた。
C=W2/W1×100(%)
【0066】
【表1】

【0067】
成分a1:オクチルホスフェートカリウム塩
成分a2:デシルホスフェートカリウム塩
成分a3:ポリオキシエチレン1モルデシルホスフェートカリウム塩
成分b1:ラウリルホスフェートカリウム塩
成分b2:ポリオキシエチレン2モルラウリルホスフェートカリウム塩
成分b3:セチルホスフェートカリウム塩
成分c1:ポリオキシエチレン(20モル)カスターワックスのマレイン酸縮合物の水酸基を全てベヘン酸で封鎖したエステル
成分c2:ポリオキシエチレン(20モル)カスターワックスのマレイン酸縮合物の水酸基を全てステアリン酸で封鎖したエステル
成分d1:ジステアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート塩
成分d1:トリアルキルグリシン誘導体(ビスターMS、松本油脂製薬(株)製)
成分d2:(ポリ)アルキルアルキレンアミドジアルキルグリシン誘導体(ビスターCAP、松本油脂製薬(株)製)
成分d1:ジ椰子アルキルスルホサクシネートNa塩
成分d2:ジトリデシルスルホサクシネートNa塩
【0068】
【表2】

【0069】
成分b4:ステアリルホスフェートカリウム塩
成分c3:ポリオキシエチレン(20モル)カスターワックスのマレイン酸縮合物(未封鎖物)
成分d2:ポリオキシエチレンベヘン酸ジエチレントリアミンのエピクロルヒドリンを反応させたカチオン化物(ポリオキシエチレン基の数:15)
成分d3:ポリオキシエチレン(10モル)ベヘン酸ジエタノールアミド
成分e:ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン変性シリコーン(Si含有率:65%、POE含有率:100%、分子量:10000)。なお、POE含有率は、ポリオキシアルキレン中のポリオキシエチレンの含有率(重量%)を示す。
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
表3から明らかなように、実施例1〜10の本発明の透水性付与剤を給油した透水性繊維は、カード通過性が良好であり、透水性不織布の瞬時透水性、耐久透水性および液戻り量も少なく良好であった。さらには、細胞毒性試験にも合格した。透水性能の優れた化合物と、ポリオレフィンとの親和性が高い化合物を併用したことで、その相乗効果が良く現れている。この透水性付与剤を付与すれば、繊維に瞬時透水性、耐久透水性、および液戻り防止性を付与し、さらに皮膚への刺激性も低減する事ができ、本発明の効果が確認された。
一方、表4から明らかなように、これらの成分組成範囲から外れる比較例1〜11は、総ての必要特性を満足することはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル基の炭素数が6〜10である、アルキルホスフェート塩および/またはポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート塩(A)と、
アルキル基の炭素数が11〜22である、アルキルホスフェート塩および/またはポリオキシアルキレン基含有アルキルホスフェート塩(B)と、
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つ以上の水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(C)とを必須成分として含む透水性付与剤であって、
前記透水性付与剤の不揮発分全体に占める、成分(A)の重量割合が1〜20重量%、成分(B)の重量割合が20〜50重量%、成分(C)の重量割合が41〜65重量%であり、かつ成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計の重量割合が80重量%以上である、透水性付与剤。
【請求項2】
前記透水性付与剤の不揮発分全体に占める成分(A)と成分(B)と成分(C)の合計の重量割合が90重量%以上である、請求項1に記載の透水性付与剤。
【請求項3】
カチオン性界面活性剤(D1)、両性界面活性剤(D2)およびジアルキルスルホサクシネート塩(D3)から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤(D)をさらに含み、前記透水性付与剤の不揮発分全体に占める界面活性剤(D)の重量割合が0.2〜10重量%である、請求項1または2に記載の透水性付与剤。
【請求項4】
前記成分(A)が下記一般式(1)で示される化合物であり、前記成分(B)が下記一般式(2)で示される化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の透水性付与剤。
【化1】

【化2】

(式中、Rは炭素数6〜10のアルキル基であり、Rは炭素数11〜22のアルキル基であり、R、Rは各々独立してエチレン基および/またはプロピレン基であり、mおよびpは各々独立して0〜15の整数であり、nおよびqは各々独立して1〜2の整数であり、YおよびYは各々独立して水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオンおよびトリエタノールアンモニウムイオンからなる群から選択されるイオン性残基である。)
【請求項5】
前記成分(C)のポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルが炭素数6〜22のヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステルのアルキレンオキシド付加物であり、ジカルボン酸の炭素数が2〜10であり、脂肪酸の炭素数が10〜50である、請求項1〜4のいずれかに記載の透水性付与剤。
【請求項6】
前記成分(D1)が、下記一般式(3)で示される化合物である、請求項3〜5のいずれかに記載の透水性付与剤。
【化3】

(式中、Rは炭素数8〜24の脂肪族炭化水素基であり、RはRが炭素数8〜18の肪族炭化水素基のときには、炭素数8〜18の脂肪族炭化水素基であり、Rが炭素数19〜24の脂肪族炭化水素基のときには、水素原子または炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基である。RおよびRは各々独立して水素原子、炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基または炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基である。Xはハロゲンイオン、硝酸イオン、酢酸イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンおよびジメチル燐酸イオンからなる群から選択されるイオン性残基である。)
【請求項7】
前記成分(D2)が、下記一般式(4)で示される化合物である、請求項3〜5のいずれかに記載の透水性付与剤。
【化4】

(式中、aは1〜3の整数であり、bは0または1であり、Rは炭素数6〜22の炭化水素基であり、R10およびR11は各々独立して炭素数1〜3の炭化水素基である。)
【請求項8】
前記成分(D3)のアルキル基の炭素数が6〜18である、請求項3〜5のいずれかに記載の透水性付与剤。
【請求項9】
不織布製造用ポリオレフィン系繊維に用いられる、請求項1〜8のいずれかに記載の透水性付与剤。
【請求項10】
不織布製造用ポリオレフィン系繊維に対して、請求項1〜9のいずれかに記載の透水性付与剤を処理して得られ、得られた繊維に対する透水性付与剤の不揮発分の付着率が0.1〜2重量%である、透水性繊維。
【請求項11】
請求項10に記載の透水性繊維を集積させて繊維ウェブを作製し、得られた繊維ウェブを熱処理する工程を含む、不織布の製造方法。

【公開番号】特開2010−70875(P2010−70875A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238893(P2008−238893)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】