説明

透湿性防水布帛

【課題】 透湿性防水布帛製造時、排水、排気中への溶剤放出にともなう、作業環境衛生上の問題や大気の汚染の問題を発生させず、また、ウレタン樹脂膜面にシームテープを貼り合わせる際のウレタン樹脂膜の穴開きの発生を抑制した透湿性防水布帛を提供する。
【解決手段】 繊維布帛の少なくとも片面に、熱可塑性ウレタン樹脂組成物を無溶剤で熱形成して得られたウレタン樹脂膜を有し、前記ウレタン樹脂膜の熱機械分析により測定した軟化点が160℃以上であることを特徴とする透湿性防水布帛。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透湿性防水布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合羽やスキーウエアー、ウインドブレーカーをはじめ、テント、靴材、手袋など湿気は通過させるが、雨などの水の浸入を防止する透湿性防水布帛は、様々なものに使用されている。
このような透湿性防水布帛は、ウレタン樹脂溶液を繊維布帛にコーティングした後、乾燥する、または、離型紙にウレタン樹脂溶液をコーティングした後、乾燥し、得られたウレタン樹脂膜を接着剤を介し繊維布帛に接着することにより製造する無孔質のウレタン樹脂膜を有するものが知られている。(特許文献1)
【0003】
また、他のものとして、ウレタン樹脂溶液を繊維布帛に塗布した後、水に浸漬することにより製造される多孔質のウレタン樹脂膜を有する透湿性防水布帛が知られている。(特許文献2)
これらに用いられるウレタン樹脂溶液には、ウレタン樹脂の良溶媒であるジメチルホルムアミド、トルエン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤が使用されており、透湿性防水布帛を製造するに際し、排水、排気中に多量の溶剤が放出されるため、製造時の作業環境衛生上の問題や大気の汚染の問題が懸念されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−9631号公報
【特許文献2】特開昭55−80583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、熱可塑性樹脂を用い無溶剤で熱形成して得られたウレタン樹脂膜を繊維布帛に付与し透湿性防水布帛を得る方法も考えられるが、熱形成されるウレタン樹脂膜は、熱にて軟化しやすく、ウレタン樹脂膜を繊維布帛に貼り合わせる際の熱圧着時に、ウレタン樹脂膜が溶けてしまい、繊維布帛の表面に樹脂が含浸してしまったり、ウレタン樹脂膜に穴が開いてしまう、また、得られた透湿性防水布帛を用いスキーウエアーなどを縫製した際に用いられる、縫い目からの漏水を防ぐためのシームテープを縫い目に貼り合わせる際に、貼り合わせ時の熱によりウレタン樹脂膜に穴が開いてしまうといった問題を有していた。
【0006】
また、無溶剤で熱形成して得られたポリウレタン樹脂を用いた透湿性防水布帛は、透湿性JIS L1099−1993に記載のA−1法(塩化カルシウム法)およびB−1法(酢酸カリウム法)が低く、さらに、風合も硬いといった問題を有していた。
したがって、本発明の目的は、製造工程における作業環境衛生面および排気処理面での負荷が小さく、かつ、繊維布帛との貼り合わせ時やシームテープなどの貼り合わせ作業時におけるウレタン樹脂膜の穴明きの発生を抑制できる耐熱性を有し、かつ、優れた透湿性、防水性を有し、また、風合いの柔かい透湿性防水布帛を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)繊維布帛の少なくとも片面に、熱可塑性ウレタン樹脂組成物を無溶剤で熱形成して得られたウレタン樹脂膜を有し、前記ウレタン樹脂膜の熱機械分析により測定した軟化点が160℃以上であることを特徴とする透湿性防水布帛。
(2)JIS L1099−1993 A−1法に準じて測定した透湿度が2000〜15000g/m・24時間、 JIS L1099−1993 B−1法に準じて測定した透湿度が8000〜40000g/m・24時間、耐水圧が100kPa以上であることを特徴とする上記(1)に記載の透湿性防水布帛。
【発明の効果】
【0008】
本発明の透湿性防水布帛は、実質的に無溶剤で熱形成されたウレタン樹脂膜を繊維布帛の片面に有していることにより、作業環境衛生面および排気処理面での負荷が小さい。また、軟化点の高いウレタン樹脂を用いていることにより、ウレタン樹脂膜と繊維布帛との貼り合わせ時や縫い目へのシームテープの貼り合わせ時にウレタン樹脂膜の穴開きを抑えることができる。また、防水性と優れた透湿性を有する透湿性防水布帛を提供することができる。
【0009】
本発明の透湿性防水布帛は、有機溶剤を実質的に使用せず熱形成されたウレタン樹脂膜を繊維布帛に付与したものでありながら、ウインドブレーカー、合羽、コート、ジャケット、スキーウエアー、スノーボードウエアー、ヤッケ、テント、手袋、靴、寝袋等に用いた場合には、衣服内等への水の進入を抑えながら、ムレやウレタン樹脂膜のベタツキを抑えることができ、快適な衣服内環境を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの態様のみに限定されるものではなく、本発明の精神と実施の範囲において多くの変形が可能であることを理解されたい。
【0011】
<透湿性防水布帛>
本発明の透湿性防水布帛は、繊維布帛の少なくとも片面に、熱可塑性ウレタン樹脂組成物を無溶剤で熱形成して得られたウレタン樹脂膜を有し、前記ウレタン樹脂膜の熱機械分析により測定した軟化点が160℃以上である。
繊維布帛と前記ウレタン樹脂膜は、直接、積層されたものであっても、接着剤を介し積層されたものであってもよい。
接着剤を用いる場合の接着剤としては、ウレタン系、ナイロン系、エポキシ系、メラミン系などを挙げることができる。また、接着剤は1液型、2液型のいずれであってもよい。好ましくは、有機溶剤を用いないホットメルトタイプがよく、湿気硬化型ウレタン樹脂が好ましく用いられる。
【0012】
また、水系ウレタン樹脂などの水系樹脂も接着剤として用いることが可能である。
透湿性防水布帛の構成としては、繊維布帛の両面に前記ウレタン樹脂膜を有していてもよいし、2枚の繊維布帛の間に前記ウレタン樹脂膜を有していてもよい。
さらに、ウレタン樹脂膜上には、意匠性向上のための柄の付与、触感の改良、抗菌性、保温性の付与を目的とし、顔料、染料、有機粒子、無機粒子、抗菌剤、赤外線吸収剤などの粒子等を含むウレタン樹脂やアクリル樹脂膜を点状、線状、格子状、花柄、幾何学柄など全面または部分的に付与し他の樹脂膜が形成されていてもよい。他の樹脂膜としては、多孔質膜、無孔質膜いずれであってもよい。
【0013】
また、本発明の透湿性防水布帛は、JIS L1099−1993 A−1法(塩化カルシウム法)に準じて測定した透湿度が2000〜15000g/m・24時間であるとよい。塩化カルシウム法での透湿度が2000g/m・24時間未満であると、透湿性防水布帛をもちいて衣服を製造した場合に、軽い運動をしただけでムレが発生するする虞がある。また、15000g/m・24時間を超えると防水性が不足する虞がある。
【0014】
JIS L1099−1993 B−1法(酢酸カリウム法)に準じて測定した透湿度が8000〜40000g/m・24時間であるとよい。酢酸カリウム法での透湿度が8000g/m・24時間を下回ると透湿性防水布帛をもちいて衣服を製造した場合に、衣服内にムレやベタツキが発生する虞がある。また、40000g/m・24時間を上回ると耐水圧が不足したり、ウレタン樹脂膜に水が付着した場合、ウレタン樹脂膜が膨潤し、透湿性防水布帛の外観品位が大きく悪化する虞がある。
【0015】
また、本発明の透湿性防水布帛は、耐水圧が100kPa以上であるとよい。耐水圧は、JIS L1092−1998耐水度試験(静水圧法)B法(高水圧法)に準じた方法で測定したものである。なお、水圧をかけることにより試験片が伸びる場合には、試験片の上にナイロンタフタ(2.54cm当りの縦糸と横糸の密度の合計が210本程度のもの)を重ねて、試験機に取り付けて測定をおこなう。
【0016】
<透湿性防水布帛の製造方法>
本発明の透湿性防水布帛を好ましい製造方法の一例について説明をおこなう。
離型シートの上に熱可塑性ウレタン樹脂を無溶剤で熱形成して得られたウレタン樹脂膜の上に接着剤を塗布する。
接着剤は、ウレタン樹脂膜の全面に隙間なく付与してもよいし、点状、線状、格子状等の形態で付与してもよい。また、接着剤の塗布には、用いる接着剤の種類や付与形態に応じ、ナイフコータ、パイプコータ、コンマコータ、グラビアコータ、スクリーン捺染機などを用いればよい。
【0017】
次に、接着剤を付与した面と繊維布帛を重ね合わせ、ホットロール等を用い熱圧着をおこなう。
熱圧着の温度は80〜160℃程度、圧力(線圧)1〜250Kg/cm(9.8〜2450N/cm)の条件が好ましい。
その後、離型シートをウレタン樹脂膜から剥離し、透湿性防水布帛を得る。
また、熱圧着後、必要に応じて、離型シートを剥離する前に40〜80℃程度にて2〜100時間程度エージングをおこなってもよい。
さらに必要に応じて、得られた透湿性防水布帛に、制電加工、撥水加工、抗菌防臭加工、制菌加工、紫外線遮蔽加工などをおこなってもよい。
【0018】
なお、上記製造方法は、前記ウレタン樹脂膜が離型シート上に形成されているものを接着剤を介し繊維布帛と貼り合せるものであったが、接着剤を用いずに繊維布帛と直接貼り合わせることも可能である。また、離型シートを有さないウレタン樹脂膜上に接着剤を塗布し、接着剤を介し繊維布帛とウレタン樹脂膜を貼り合わせたり、また接着剤を塗布せずに直接繊維布帛とウレタン樹脂膜を貼り合わせることも可能である。さらにまた、押出し機等から繊維布帛上に直接ウレタン樹脂膜を押出し積層することも可能である。
【0019】
<繊維布帛>
本発明の繊維布帛とは、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、アクリル、レーヨン、アセテート、ポリ乳酸、大豆蛋白、絹、羊毛、綿、麻などの化学繊維、天然繊維等いかなるものからなるものであってもよく、これらの繊維の混繊、混紡、交織、交編等なされているものであってもよい。
また、繊維布帛の形態は、織物、編物、不織布等いかなる形態を有するものであってもよい。
【0020】
また、繊維布帛上には、他のウレタン樹脂膜、多孔質のポリテトラフルオロエチレン膜、ナイロン樹脂膜などが積層されていてもよい。他のウレタン樹脂膜を積層する場合には、有機溶剤を排出しないとの観点からは、有機溶剤を用いない水系ウレタン樹脂からなる膜を積層されているとよい。
【0021】
また、繊維布帛は、染色加工、捺染加工、撥水加工、制電加工、吸水加工、SR加工、抗菌防臭加工、制菌加工、消臭加工、紫外線遮蔽加工、防炎加工、カレンダー加工などを施してもよい。
【0022】
<ウレタン樹脂膜>
本発明における前記ウレタン樹脂膜は、熱可塑性ウレタン樹脂組成物を無溶剤で熱形成して得られたものである。また、前記ウレタン樹脂膜は、熱機械分析(TMA)により測定した軟化点が160℃以上である。
【0023】
前記ウレタン樹脂膜の厚みは5〜100μmであるとよい。5μm未満であると、耐水圧が不足したり、ウレタン樹脂膜と繊維布帛との貼り合わせやシームテープの貼り合わせ時にウレタン樹脂膜に穴が開いてしまう虞がある。また、100μmを超えると得られる透湿性防水布帛の風合が硬化してしまう虞がある。
なお、ウレタン樹脂膜の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEMEDX Type H形:(株)日立サイエンスシステムズ)を用い透湿性防水シートの断面を1000倍の倍率にて観察し測定をおこなった。
また、前記ウレタン樹脂膜は多孔質膜、無孔質膜いずれであってもよい。
【0024】
前記ウレタン樹脂膜は、TMAにより測定した軟化点が160℃以上である。より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは200℃以上がよい。160℃を下回るとウレタン樹脂膜と繊維布帛との貼り合わせやシームテープの貼り合わせ時にウレタン樹脂膜に穴が開いてしまう虞がある。TMAの測定は、JIS K−7196に準じておこなう。なお、軟化温度の上限は220℃程度である。
【0025】
また、前記ウレタン樹脂膜は、厚み20μmでの紫外線カーボンアークランプによる耐光性試験30時間後の破断伸びが、耐光性試験前の破断伸びと比較し保持率が60%以上であるとよい。より好ましくは65%以上であるとよい。
【0026】
保持率の評価にあたっては、JIS A1415「高分子系建築材料の実験室光源による暴露試験方法」に記載の方法のうち、WV−Bの方法に準拠して30時間の紫外線照射を実施する。尚、このときの試験片保持装置の回転速度は3rpmとする。引き続き、照射後のウレタン樹脂膜及び照射前のウレタン樹脂膜の両者を用いて、JIS K−6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に記載の方法に準拠した引張試験を実施する。得られた紫外線照射後の破断伸びを照射前の破断伸びで除した値に100をかけた値を、保持率(%)とする。
【0027】
更に、前記ウレタン樹脂膜の厚み20μmでの破断伸びは、JIS K−6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に記載の方法に準拠した引張試験により測定を行う。前記ウレタン樹脂膜の破断伸びとしては、200%以上1,000%以下程度が好ましく、更に好ましくは300%以上900%以下程度である。前記ウレタン樹脂膜は、人体の動きに無理なく追従する必要があることから、フィルムが柔軟であり、破断に至るまでの伸びが200%以上1,000%以下程度とすることが好ましい。
【0028】
また、前記ウレタン樹脂膜の水に対する膨潤度は、20%以下が好ましい。より好ましくは15%以下がよい。20%を超えるとウレタン樹脂膜に水滴が付着した場合、ウレタン樹脂膜の膨潤により、繊維布帛側から見た場合も大きな膨潤が確認され、透湿性防水布帛を用いて得られるウインドブレーカー等の外観品位を低下させてしまう虞がある。
【0029】
ウレタン樹脂膜の膨潤度の測定は、ウレタン樹脂膜をタテ方向、ヨコ方向にそれぞれ幅2cm、長さ20cmに裁断し、10cmの間隔の印をつける。次いで裁断した試料を20℃の水の中に浸漬し、20分間放置した後、先に付けた10cmの間隔の印間の長さを測定し、下記の式により膨潤度を求めた。(タテ方向、ヨコ方向の膨潤度の和を2分の1にし、平均値を求めた。)
【0030】
膨潤度=[(水に浸漬した後の印の間隔−10)]/10×100
【0031】
<ウレタン樹脂膜の形成方法>
前記ウレタン樹脂膜の製造方法は、無溶剤で熱形成されるものであれば特に限定されるものではなく、公知の製膜方法を用いることができる。例えば、単軸もしくは二軸押出機により、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を溶融混練後、Tダイ、コートハンガーダイに代表されるフラットダイによる方法、あるいは、サーキュラーダイからのインフレーション法等が適用できる。
【0032】
特に、前記ウレタン樹脂膜をキャスティング工程によって得る場合には、得られるウレタン樹脂膜の両面もしくは片面を、離型紙、あるいはポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系フィルム、ポリエステル系フィルム等で挟み込みながら、巻き取る方法を採用することが好ましい。また、多層押出ダイを用いて、本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物と他の樹脂とを同時に押出成形し、前記ウレタン樹脂膜を含む積層体として製造することもできる。
【0033】
ウレタン樹脂膜に熱成形する際の成形温度としては、170℃以上250℃以下が好ましく、更に好ましくは175℃以上240℃以下である。
また、本発明の目的とする透湿性、及び軟化温度の向上をより容易とするために、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物、例えば、そのペレットを、成形前に十分に乾燥した後に成形機に供する方法が好ましい。
尚、前記ウレタン樹脂膜を得る際の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の水分としては、500ppm以下が好ましく、更に好ましくは200ppm以下である。
【0034】
<熱可塑性ウレタン樹脂組成物>
前記熱可塑性ウレタン樹脂組成物は、前記ウレタン樹脂膜を得ることができるものであれば特に限定されるものではないが、以下に好ましい熱可塑性ウレタン樹脂の説明をおこなう。
【0035】
前記ウレタン樹脂組成物としては、
(1) ハードセグメントとソフトセグメントとを含む(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂、(B)滑剤、及び、(C)安定剤を含む組成物であって、前記(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂におけるハードセグメントの含有量は、35質量%以上50質量%以下であり、
前記ハードセグメントは、(a1)対称構造を有するジイソシアネートと(a2)芳香環を有するグリコールを少なくとも30質量%含む鎖延長剤とから構成されるセグメントを含み、前記ソフトセグメントは、オキシエチレン基を有する(a3)高分子量ポリオールを構成材料として含み、前記(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂における前記オキシエチレン基の含有量は、40質量%以上65質量%以下であり、前記(C)安定剤は、(c1)ヒンダードフェノール系化合物、(c2)ベンゾトリアゾール系化合物、及び、(c3)ヒンダードアミン系化合物を含み、前記組成物の重量平均分子量は、1.00×10以上3.50×10以下である熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物が挙げられる。
【0036】
(1)の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、特定量の特定構造を有するハードセグメント、及び、特定量のオキシエチレン基を含むソフトセグメントを有する(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂、(B)滑剤、及び3種類の特定の(C)安定剤を含み、且つ、特定範囲の重量平均分子量を有することにより、高い透湿性を有しつつも、高い耐熱性を発現し、且つ、高い耐熱性を有するものである。また、有機溶媒を実質的に用いることなく組成物を製造することができるとともに、有機溶剤を実質的に使用することなく組成物を熱成形することができる。したがって、(1)の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物によれば、高い透湿性、耐熱性、及び耐光性をバランスよく兼ね備えた、無溶剤の成形品を得ることができる。
【0037】
ここで、本明細書における「ハードセグメント」とは、ポリイソシアネートと鎖延長剤との反応によって形成される硬い剛直なセグメントを意味し、「ソフトセグメント」とは、ポリオールとポリイソシアネートとの反応によって形成される柔軟な可撓なセグメントポリマー部分を意味する。
【0038】
また、本明細書における「ハードセグメントの含有量」とは、(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂におけるポリイソシアネート化合物と鎖延長剤との合計質量に対して、(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂の質量で除した後に100をかけた値をいう。
【0039】
(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂におけるハードセグメントの含有量が35質量%より少ない場合には、本発明の組成物に十分な耐熱性を付与することができず、一方で、ハードセグメントの含有量が50質量%より多い場合には、本発明の組成物に十分な透湿性を付与することが困難となる虞がある。
【0040】
また、(1)の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物における(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ハードセグメントに、(a1)対称構造を有するジイソシアネートと(a2)芳香環を有するグリコールを少なくとも30質量%含む鎖延長剤とから構成されるセグメントを含むものである。
【0041】
(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂のハードセグメント構成材料として、(a1)対称構造を持つジイソシアネートを用いれば、得られる(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂に、高い耐熱性を発現することができる。
【0042】
また、(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂の鎖延長剤として、(a2)芳香環を有するグリコールを少なくとも30質量%用いることによって、(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂の耐熱性を向上させることができる。
【0043】
したがって、ハードセグメントとして、(a1)対称構造を有するジイソシアネートと(a2)芳香環を有するグリコールを少なくとも30質量%含む鎖延長剤とから構成されるセグメントを含む(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂によれば、高い耐熱性を実現することが可能となる。
【0044】
また、(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂のソフトセグメント構成材料として、オキシエチレン基を有する(a3)高分子量ポリオールを用いれば、得られる(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂におけるオキシエチレン基の含有量を容易に制御することができるとともに、高い透湿性を実現することができる。
【0045】
更に、(1)の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物においては、(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂におけるオキシエチレン基の含有量が40質量%未満であると、十分な透湿性を得ることができない虞がある。一方で、オキシエチレン基の含有量が65質量%より多いと、十分な耐熱性を得ることが困難となる虞がある。尚、上記した通り、オキシエチレン基の含有量は、(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂の原料として用いられる(a3)高分子量ポリオール中のオキシエチレン基により制御することができる。
【0046】
また、(1)の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物においては、(C)安定剤として、(c1)ヒンダードフェノール系化合物、(c2)ベンゾトリアゾール系化合物、及び、(c3)ヒンダードアミン系化合物の全てを用いることにより、十分な耐光性を発現させることができる。本発明の組成物においては、これらの組合せにより、十分な耐光性を有することができる。
【0047】
更に、(1)の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物においては、組成物の重量平均分子量が1.00×10より低い場合には、本発明の目的とする耐熱性及び耐光性を十分に得ることができない虞がある。一方で、重量平均分子量が3.50×10より大きい場合には、溶融粘度が高くなることから、安定したフィルム等の成形が実施困難となる虞がある。
【0048】
また、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物が、前記(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂、(B)滑剤、及び、(C)安定剤の質量配合比((A):(B):(C))は、95.4〜98.4:0.1〜0.7:1.5〜3.9であるとよい。
【0049】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物における(B)滑剤の配合量が0.1〜0.7質量%であると、組成物の成形安定性を向上させることができる。ここで、本明細書における「成形安定性」とは、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を連続的に押出し、アダプタ部に取り付けられた樹脂圧計の値の最大値と最小値の差を平均値で除して、100をかけた値を基準にした指標にて示す。得られる値が小さいものほど樹脂圧変動が小さく、成形安定性に優れたものと判断する。
【0050】
また、(B)滑剤の配合量が0.1〜0.7質量%であると、(2)の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物から得られたペレット同士のブロッキングを防止することができる。
【0051】
更に、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物における(C)安定剤の配合量が1.5質量%未満である場合には、所望の耐光安定性を得ることができず、一方で、配合量が3.9質量%を超える場合には、耐熱性及び機械強度が低下を招く虞がある。
【0052】
さらに、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の前記(a2)芳香環を有するグリコールは、ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコール、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,3−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であるとよい。
【0053】
上記の芳香環を有するグリコールを用いて製造された(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂は、透湿性及び耐熱性に特に優れている。したがって、このような(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いた組成物は、透湿性及び耐熱性の両者に特に優れる。
【0054】
さらに、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の前記(B)滑剤は、(b1)飽和脂肪酸エステル及び飽和脂肪酸アミド系化合物からなる群より選ばれる1種以上、及び、(b2)不飽和脂肪酸エステル及び不飽和脂肪酸アミド系化合物からなる群より選ばれる1種以上を含むものであるとよい。
【0055】
つまり、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、2種類の融点の異なる(B)滑剤を含むことが好ましい。2種類の融点の異なる(B)滑剤を用いることにより、押出安定性を向上することができ、とりわけ、無溶剤成形の安定性を向上することができる。
【0056】
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の前記(c1)ヒンダードフェノール系化合物、(c2)ベンゾトリアソール系化合物、及び、(c3)ヒンダードアミン系化合物の質量配合比((c1):(c2):(c3))は、24〜55:12〜45:25〜64であるとよい。
【0057】
つまり、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、3種類の(C)安定剤が、それぞれ特定範囲で配合されたものである。3種類の(C)安定剤を特定範囲で配合することにより、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、優れた耐光性を容易に発現することができる。このため、屋外使用が長期にわたる衣料材料分野等の用途においても、フィルムの変色や機械強度の低下をより回避することが可能となる。
【0058】
また、本発明の熱可塑性ポリウレタン組成物には、その製造時、あるいは、製造後に、必要に応じて、公知の離型剤、着色剤、充填剤、帯電防止剤等の添加剤を配合してもよい。
【0059】
例えば、成形加工性における熱安定性を向上させる目的で、リン系加工熱安定剤を配合することが可能であり、その市販品としては、例えば、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製の商品名:イスガフォス38、同126、同P−EPQ等、旭電化工業社製の商品名:アデカスタブPEP−4C、同11C、同24、同36等を例示することができる。このようなリン系加工熱安定剤の配合量は、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物全体に対して、0.05質量%以上1質量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0060】
〔固体核磁気共鳴(NMR)スペクトロスコピーによる相対プロトン存在比〕
また、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の固体核磁気共鳴(NMR)スペクトロスコピーにより測定した100℃での横緩和時間(スピン−スピン緩和時間)が50μs以下の相対プロトン存在比は、少なくとも5%であることが好ましく、より好ましくは7%以上である。本発明の目的とする高い耐熱性を有するフィルムを得るためには、相対プロトン比が5%以上であることが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明の説明を更に行うが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。また、例中の「部」は質量部を意味する。
以下の例における測定及び評価は次の方法でおこなった。
【0062】
<測定評価>
実施例及び比較例においては、以下のそれぞれの測定項目につき、以下の方法により測定を実施した。
【0063】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)]
N,N−ジメチルホルムアミド(和光純薬社製、DMF、液体クロマトグラフィー用)に0.01mol/Lの濃度でLiBr(Aldrich Chemical Company,Inc製)を溶解したものを遊離液として使用した。東ソー社製、商品名:HLC−8220GPCに、GPCカラムとして、昭和電工社製、商品名:KD−804,KD−8025,KD−802を直列に装着し、カラム温度40℃、遊離液の流速0.6mL/minの条件で、RI検出器を用いて測定し、予め作成した標準ポリスチレンの検量線から、重量平均分子量(Mw)を算出した。
【0064】
[ウレタン樹脂膜の厚み(単位:μm)]
走査型電子顕微鏡(SEMEDX Type H形:(株)日立サイエンスシステムズ)を用い透湿性防水シートの断面を1000倍の倍率にて観察し測定をおこなった。
【0065】
[ウレタン樹脂膜の透湿度(単位:(g/m・24時間))]
JIS L−1099 B−2法(酢酸カリウム法)記載の方法に準拠し、フィルムと水が接する面に、ナイロンタフタを重ねた後に測定を行った。その後、24時間の値に換算した。
【0066】
[ウレタン樹脂膜の軟化温度(単位:℃)]
Seiko Instruments社製、商品名:TMA/SS6000を用いて、JIS K−7196「熱可塑性プラスチックフィルム及びシートの熱機械分析による軟化温度試験方法」に従って測定を実施した。尚、圧子の直径は1.0mmのものを使用した。
【0067】
[ウレタン樹脂膜の水膨潤度(単位:%)]
ウレタン樹脂膜の膨潤度の測定は、ウレタン樹脂膜をタテ方向、ヨコ方向にそれぞれ幅2cm、長さ20cmに裁断し、10cmの間隔の印をつけた。次いで裁断した試料を20℃の水の中に浸漬し、20分間放置した後、先に付けた10cmの間隔の印間の長さを測定し、下記の式により膨潤度を求めた。(タテ方向、ヨコ方向の膨潤度の和を2分の1にし、平均値を求めた。)
【0068】
膨潤度=[(水に浸漬した後の印の間隔−10)]/10×100
【0069】
[ウレタン樹脂膜の100%モジュラス:M100(単位:MPa)]
[ウレタン樹脂膜の引張強度:TS(単位:MPa)]
[ウレタン樹脂膜の破断伸び:EL(単位:%)]
JIS K−6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に記載の方法に準拠して測定を行なった。具体的には、試験片をダンベル状3号形にて打ち抜き、TOYOBALDWIN CO.,LTD.社製、商品名:TENSILON/UTM−3−100にて、標線間20mm、引張速度200mm/分の条件で測定を行った。
【0070】
[紫外線カーボンアークランプによる耐光性試験30時間後の破断伸びの耐光性試験前の破断伸びに対する保持率(単位:%)]
JIS A1415「高分子系建築材料の実験室光源による暴露試験方法」に記載の方法のうち、WV−Bの方法に準拠して30時間の紫外線照射を実施した。尚、試験片保持装置の回転速度は3rpmであった。照射後のフィルム及び照射前のフィルムの両者を用いて、上記のJIS K−6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に記載の方法に準拠した引張試験を実施した。得られた紫外線照射後の破断伸びを照射前の破断伸びで除した値に100をかけて、保持率(%)とした。
【0071】
[成形安定性]
押出機の径が50mmの単軸押出機にて、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物を連続的に押出し、1時間の間、2分ごとに、アダプタ部に接続した樹脂圧力の変動を記録した。最大値と最小値の差を平均値で除して、100をかけた値を成形安定性の指標とし、以下の評価を実施した。
5:5以下
4:5以上8未満
3:8以上12未満
2:12以上20未満
1:20以上
【0072】
[ポリオキシアルキレンポリオールの水酸基価(単位:mgKOH/g)]
JIS K−1557記載の方法に準拠して測定を実施した。
【0073】
[ポリエステルポリオールのアセチル価(単位:mgKOH/g)]
[ポリエステルポリオールの酸価(単位:mgKOH/g)]
JIS K−6901「液状不飽和ポリエステル樹脂試験方法」に記載の方法に準拠して測定を実施した。
【0074】
[ポリオキシアルキレンポリオール及びポリエステルポリオールのオキシエチレン基の含有量(単位:質量%)]
重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒とし、日本電子社製、商品名:JNM−AL400を用いて、1H−核磁気共鳴スペクトルスコピー(NMR)測定にて、ポリオール中のオキシエチレン基含有量を測定した。3.5ppm付近のピークをオキシエチレン基由来のピークとして算出した。
【0075】
[透湿性防水布帛の透湿度(単位:(g/m・24時間))]
塩化カルシウム法 JIS L1099−1993A−1法にて測定した。
酢酸カリウム法 JIS L1099−1993B−1法にて測定した。
なお、塩化カルシウム法、酢酸カルシウム法ともに、24時間当りの透湿量に換算した。
【0076】
[透湿性防水布帛の耐水圧(単位:(kPa))]
JIS L1092−1998耐水度試験(静水圧法)B法(高水圧法)に準じた方法で測定した。
また、水圧をかけることにより試験片が伸びる場合には、試験片の上にナイロンタフタ(2.54cm当りの縦糸と横糸の密度の合計が210本程度のもの)を重ねて、試験機に取り付けて測定をおこなった。
【0077】
[シームテープ貼り合わせ時の穴開き試験]
透湿性防水シートのウレタン樹脂膜面を、クインライト精工社製QHP−805を用いノズル温度600〜650℃、ノズル圧力49〜69N、ロール温度100〜115℃、ロール圧力392N、貼り合わせスピード4m/分、シームテープ(商品名:FU700、サン化成株式会社製)の条件にて貼り合わせた後、穴開きの有無を観察した。
[透湿性防水布帛の風合]
手でさわって判断を行なった。
【0078】
<調製例1> ポリオキシアルキレンポリオール(ポリオールA)の調製
耐圧製の反応機に、268部のジプロピレングリコール、及び10.2部の水酸化カリウムを仕込み、十分に窒素置換を行った後に、105℃に昇温し、同温度にて1kPa以下の条件で6時間の減圧脱水を行った。次いで、窒素置換を行い、ゲージ圧0.1MPaの条件から、746.4部のプロピレンオキサイドを逐次装入して、プロピレンオキサイドの付加重合を行った。引き続き、反応機の内圧が低下し始めた後、987.1部のエチレンオキサイドを逐次装入し、一部、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドとのランダム共重合反応を行い、その後、2,000部のエチレンオキサイドを逐次装入して、エチレンオキサイドの付加重合反応を行った。反応機の内圧が一定になるまで同温度にて反応を継続した後、内温105℃、1kPa以下の条件で減圧処理を行い、粗製ポリオキシアルキレンポリオール(以下、粗製ポリオールともいう)を得た。
【0079】
次いで、得られた粗製ポリオール850部に対して、脱イオン水25.5部を加え、80℃に昇温した後、粗製ポリオール中の水酸化カリウム1モルに対して、1.03モルに相当する75(w/w)%のリン酸水溶液を添加し、同温度にて2時間撹拌した。次いで、粗製ポリオール100部に対して、酸化防止剤(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブAO−80)を0.05部添加し、減圧しながら脱水を行った。内圧が250kPaになった時に、粗製ポリオール100部に対して、吸着剤(協和化学工業社製、商品名:KW−700SEN)を0.3部添加し、減圧脱水を継続した。最終的に、窒素を液相にバブリングしながら、110℃、1kPa以下の条件で、ポリオールの水分が200ppm以下になるまで減圧脱水を行った。その後、加圧ろ過を行い、ポリオキシアルキレンポリオールを回収した。得られたポリオキシアルキレンポリオール(以下、ポリオールAと略す)の水酸基価は56.4mgKOH/g、オキシエチレン基の含有量は75質量%であった。
【0080】
<実施例1>
[(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造]
窒素雰囲気下、撹拌機が装着された反応機に、483.0部のポリエチレングリコール(東邦化学工業社製、商品名:PEG4000、水酸基価:33.0mgKOH/g)、121.1部の上記調製例1で得られたポリオールA、及び2.9部の(c−1)ヒンダードフェノール系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブAO−80)を添加し、80℃で1時間溶解した。次いで、233.4部の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI、三井武田ケミカル社製、商品名:コスモネートPH)を添加し、80℃で4時間反応させ、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(以下、プレポリマーと略す)を合成した。
【0081】
得られたプレポリマーを80℃に調整し、予め110℃で溶解した140.0部のビスヒドロキシエトキシベンゼン(三井化学ファイン社製、商品名:BHEB)を添加し、気泡が混入しないよう十分に撹拌した。次いで、予め170℃に調整したテフロン(登録商標)でコートされた容器に、得られた混合液を素早く注入し、同温度にて1時間反応させた。反応後、120℃に調整した別のオーブンに該容器を移し替え、同温度にて23時間反応させて、熱可塑性ポリウレタン樹脂を得た後、得られた樹脂を粉砕した。粉砕した熱可塑性ポリウレタン樹脂のオキシエチレン基の含有量は59質量%、ハードセグメント濃度は38質量%であった。結果を表1に示す。
【0082】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−1)の製造]
〔滑剤マスターペレットの製造〕
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂の粉砕物90部と、滑剤(b−1)として飽和脂肪酸ビスアミド(日本化成社製、商品名:スリパックスL)5部と、滑剤(b−2)として不飽和脂肪酸ビスアミド(日本化成社製、商品名:スリパックスR)5部を、口径30mmの同方向回転式二軸押出機(池貝社製、商品名:PCM30)に定量フィードすることにより、滑剤を10質量%含む滑剤マスターペレットを得た。尚、押出機の設定温度は180〜215℃の範囲とした。
【0083】
〔安定剤マスターペレットの製造〕
更に、熱可塑ポリウレタン樹脂の粉砕物80部と、(c−1)ヒンダードフェノール系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名:イルガノックス1076)6.3部、(c−2)ベンゾトリアゾール系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名:チヌビン328)5.0部、(c−3)ヒンダードアミン系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブLA−52)8.8部を、口径30mmの同方向回転式二軸押出機(池貝社製、商品名:PCM30)に定量フィードすることにより、安定剤を20質量%含む安定剤マスターペレットを得た。尚、押出機の設定温度は180〜215℃の範囲とした。
【0084】
〔組成物の製造〕
引き続き、熱可塑性ポリウレタン樹脂の粉砕物88.2部と、滑剤マスターペレット4.0部、安定剤マスターペレット7.8部を、タンブラーを用いてブレンドした。その後、得られたブレンド樹脂を除湿乾燥器に入れて、90℃、20時間乾燥し、単軸押出機によりペレット状に成形し、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−1)のペレットを得た。尚、押出機の設定温度は、ホッパーからダイの先端にかけて、180〜215℃の範囲とした。得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−1)における添加剤処方及び物性等を表1に示す。
【0085】
尚、表1中の(B)滑剤および(C)安定剤量は、組成物全体における「質量%」に換算して表記したものであり、上記[(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造]にて使用した(c−1)ヒンダードフェノール系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブAO−80)は表1中の(c−1)ヒンダードフェノール系化合物に含まれている。
【0086】
[ウレタン樹脂膜の製造]
除湿乾燥機と連結した幅800mmのTダイを装着した口径50mmの単軸押出機、及びテフロン(登録商標)加工した巻取り機により、離型紙を連続的に供給しながら、離型紙上に熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−1)を無溶剤で熱形成したウレタン樹脂膜(無孔質膜)を成形し、巻き取りを行った。押出機の設定温度はホッパーからダイの先端にかけて、200〜220℃の範囲とした。
【0087】
得られたウレタン樹脂膜について各種測定評価を実施し、軟化温度、水膨潤度、100%モジュラス(M100)、引張強度(TS)、破断伸び(EL)、紫外線照射30時間後の破断伸びの保持率、及び、成形安定性等を、表1に示す。
【0088】
[透湿性防水布帛の製造]
繊維布帛として、ナイロンツイル(タテ糸77デシテックス/34フィラメント、ヨコ糸とも92デシテックス/74フィラメント、密度 タテ124本/2.54cm、ヨコ65本/2.54cm)を酸性染料で赤色に染色し、170℃にてカレンダー加工したものを準備した。
【0089】
次に、得られたウレタン樹脂膜上に接着剤として湿気硬化型ホットメルトタイプウレタン樹脂タイホースNH300(大日本インキ化学工業(株)製)を100℃に加熱し、溶融させて、グラビアコータを用い離型紙に形成されたウレタン樹脂膜上に点状に付与した。
【0090】
接着剤を塗布したウレタン樹脂膜と繊維布帛を重ね合わせ、100℃にて圧着させた。繊維布帛、接着剤、ウレタン樹脂膜、離型紙の順に積層されたものを70℃で100時間エージングを行った後、離型紙を剥離した。
次に、フッ素系撥水剤アサヒガードAG710(旭硝子(株)製)の5%水溶液を用いて撥水加工した。撥水加工後、150℃にて30秒間、仕上セットをおこなった。
得られた透湿性防水布帛の各種物性は、表1に示した。
【0091】
<実施例2>
[(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造]
表1に示す処方により、実施例1に記載の方法に従い、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを合成し、引き続き、熱可塑性ポリウレタン樹脂を得た。得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂の物性等を表1に示す。尚、表1において、「PEG2000」とは、「東邦化学工業社製、商品名:PEG−2000、(水酸基価:55.7mgKOH/g)」を示す。また、「EG」とは、「三井化学社製、エチレングリコール」を示す。
【0092】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−2)の製造]
〔滑剤マスターペレットの製造〕
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂の粉砕物90部と、滑剤(b−1)として飽和脂肪酸ビスアミド(日本化成社製、商品名:スリパックスL)2.4部、滑剤(b−2)として不飽和脂肪酸ビスアミド(日本化成社製、商品名:スリパックスR)7.6部を用いて、実施例1に記載の方法に従い、滑剤を10質量%含む滑剤マスターペレットを得た。
【0093】
〔安定剤マスターペレットの製造〕
更に、熱可塑ポリウレタン樹脂の粉砕物80部と、(c−1)ヒンダードフェノール系化合物(旭電化工業社製、商品名:AO−80)6.7部、(c−2)ベンゾトリアゾール系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名:チヌビン328)6.7部、(c−3)ヒンダードアミン系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブLA−52)6.7部を用いた以外は、実施例1記載の方法に従い、安定剤を20質量%含む安定剤マスターペレットを得た。
【0094】
〔組成物の製造〕
引き続き、熱可塑性ポリウレタン樹脂の粉砕物85.8部と、滑剤マスターペレット4.0部、安定剤マスターペレット10.2部を使用した以外は、実施例1記載の方法に従い、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−2)のペレットを得た。得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−2)における添加剤処方及び物性等を表1に示す。
【0095】
[ウレタン樹脂膜の製造]
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−2)を用いて、実施例1に記載の方法に従い、熱可塑性樹脂を無用剤で熱形成したウレタン樹脂膜(無孔質膜)を得た。得られたウレタン樹脂膜につき、各種の測定評価を行った結果を表1に示す。
【0096】
[透湿性防水布帛の製造]
繊維布帛として、ポリエステルタフタ(タテ糸、ヨコ糸とも83デシテックス/72フィラメント、密度 タテ180本/2.54cm、ヨコ90本/2.54cm)を分散染料で赤色に染色し、フッ素系撥水剤アサヒガードAG710(旭硝子(株)製)の5%水溶液を用いて撥水加工した。撥水加工後、170℃にてカレンダー加工したものを用いた。
【0097】
次に、得られたウレタン樹脂膜上に接着剤として湿気硬化型ホットメルトタイプウレタン樹脂タイホースNH300(大日本インキ化学工業(株)製)を100℃に加熱し、溶融させて、グラビアコータを用い離型紙に形成されたウレタン樹脂膜上に点状に付与した。
【0098】
接着剤を塗布したウレタン樹脂膜と繊維布帛を重ね合わせ、100℃にて圧着させた。繊維布帛、接着剤、ウレタン樹脂膜、離型紙の順に積層されたものを70℃で48時間エージングを行った後、離型紙を剥離した。
次に、フッ素系撥水剤アサヒガードAG710(旭硝子(株)製)の5%水溶液を用いて撥水加工した。撥水加工後、150℃にて30秒間、仕上セットをおこなった。
得られた透湿性防水布帛の各種物性は、表1に示した。
【0099】
<実施例3>
[(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造]
表1に示す処方により、実施例1に記載の方法に従い、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを合成し、引き続き、熱可塑性ポリウレタン樹脂を得た。得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂の物性等を表1に示す。
【0100】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−3)の製造]
〔滑剤マスターペレットの製造〕
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂の粉砕物90部と、滑剤(b−1)として飽和脂肪酸ビスアミド(日本化成社製、商品名:スリパックスE)2.4部、滑剤(b−2)として不飽和脂肪酸ビスアミド(日本化成社製、商品名:スリパックスO)7.6部を用いて、実施例1に記載の方法に従い、滑剤を10質量%含む滑剤マスターペレットを得た。
【0101】
〔安定剤マスターペレットの製造〕
更に、熱可塑ポリウレタン樹脂の粉砕物80部と、(c−1)ヒンダードフェノール系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブAO−80)6.2部、(c−2)ベンゾトリアゾール系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名:チヌビン234)4.9部、(c−3)ヒンダードアミン系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブLA−52)8.9部を用いた以外は、実施例1記載の方法に従い、安定剤を20質量%含む安定剤マスターペレットを得た。
【0102】
〔組成物の製造〕
引き続き、熱可塑性ポリウレタン樹脂の粉砕物85.0部と、滑剤マスターペレット4.0部、安定剤マスターペレット11.0部を使用した以外は、実施例1記載の方法に従い、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−3)のペレットを得た。得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−3)における添加剤処方及び物性等を表1に示す。
【0103】
[ウレタン樹脂膜の製造]
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−3)を用いて、実施例1に記載の方法に従い、ウレタン樹脂膜を成形した。得られたウレタン樹脂膜(無孔質膜)につき、各種の測定評価を行った結果を表1に示す。
【0104】
[透湿性防水布帛の製造]
上記ウレタン樹脂膜を用いた以外は実施例1と同様にし、透湿性防水布帛を得た。得られた透湿性防水布帛の各種物性は、表1に示した。
【0105】
<比較例1>
[(A)熱可塑性ポリウレタン樹脂の製造]
表1に示す処方により、実施例1に記載の方法に従い、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを合成し、引き続き、熱可塑性ポリウレタン樹脂を得た。得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂の物性等を表1に示す。尚、表1において、「1,4−BD」とは、「三菱化学社製、1,4−ブタンジオール」を示す。
【0106】
[熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−4)の製造]
〔滑剤マスターペレットの製造〕
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂の粉砕物90部と、滑剤(b−1)として飽和脂肪酸ビスアミド(日本化成社製、商品名:スリパックスL)2.4部、滑剤(b−2)として不飽和脂肪酸ビスアミド(日本化成社製、商品名:スリパックスR)7.6部を用いて、実施例1に記載の方法に従い、滑剤を10質量%含む滑剤マスターペレットを得た。
【0107】
〔安定剤マスターペレットの製造〕
更に、熱可塑ポリウレタン樹脂の粉砕物80部と、(c−1)ヒンダードフェノール系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名:イルガノックス1076)6.7部、(c−2)ベンゾトリアゾール系化合物(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名:チヌビン328)6.7部、(c−3)ヒンダードアミン系化合物(旭電化工業社製、商品名:アデカスタブLA−52)6.7部を用いた以外は、実施例1記載の方法に従い、安定剤を20質量%含む安定剤マスターペレットを得た。
【0108】
〔組成物の製造〕
引き続き、熱可塑性ポリウレタン樹脂の粉砕物85.8部と、滑剤マスターペレット4.0部、安定剤マスターペレット10.2部を使用した以外は、実施例1記載の方法に従い、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−4)のペレットを得た。得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−4)における添加剤処方及び物性等を表1に示す。
【0109】
[ウレタン樹脂膜の製造]
得られた熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物(TPU−4)を用いて、実施例1に記載の方法に従い、ウレタン樹脂膜(無孔質膜)を成形した。得られたぽりウレタン樹脂膜につき、各種の測定評価を行った結果を表1に示す。
[透湿性防水布帛の製造]
上記ウレタン樹脂膜を用いた以外は実施例1と同様にし、透湿性防水布帛を得た。得られた透湿性防水布帛の各種物性は、表1に示した。
【0110】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布帛の少なくとも片面に、熱可塑性ウレタン樹脂組成物を無溶剤で熱形成して得られたウレタン樹脂膜を有し、前記ウレタン樹脂膜の熱機械分析により測定した軟化点が160℃以上であることを特徴とする透湿性防水布帛。
【請求項2】
JIS L1099−1993 A−1法に準じて測定した透湿度が2000〜15000g/m・24時間、 JIS L1099−1993 B−1法に準じて測定した透湿度が8000〜40000g/m・24時間、耐水圧が100kPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の透湿性防水布帛。

【公開番号】特開2009−24270(P2009−24270A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186698(P2007−186698)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000184687)小松精練株式会社 (110)
【Fターム(参考)】