説明

透湿防水性布帛

【課題】裏地を用いなくても一枚物として使用でき、意匠性としてパール調光沢と共に虹彩色効果を発現する新規な透湿防水布帛を提供すること。
【解決手段】繊維布帛の少なくとも片面に、第1層として、有機顔料及び/又は無機着色顔料を含有する透湿防水膜が、第2層として、無機パール顔料を含有する無孔質膜が順次積層されている透湿防水性布帛。本発明では、特に上記透湿防水膜、無孔質膜の何れか一方がパターン状に設けられていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツ衣料、防寒衣料、登山衣料、カジュアル衣料などに適用する衣料用素材として好適な透湿防水性布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透湿性と防水性とを併せ持つ透湿防水性布帛は、身体からの発汗による水蒸気を衣服外へ放出する機能と、雨が衣服内に侵入するのを防ぐ機能とを有するものである。このような透湿防水性布帛は、スポーツ衣料や防寒衣料などの素材として使用され、その中でも、運動に伴う発汗量の比較的多いスポーツやアウトドアのための衣料用素材として好適である。このような透湿防水性布帛としては、糸を高密度に織り込んだ高密度織物や、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド又はポリテトラフルオロエチレンなどからなる樹脂膜を繊維布帛片面に設けたものなどがよく知られている。
【0003】
近年、素材の軽量化、コストダウンなどの観点から、裏地を使用しないで透湿防水性布帛を縫製する、いわゆる一枚物としてのニーズがある。ただし、透湿防水性布帛を一枚物で使用するときは、商品価値を高める点で透湿防水性布帛に意匠性を付与するのが好ましいとされる。この場合、繊維布帛に所定の意匠性を付与し、全体として意匠性に富むものとするのが一般的である。
【0004】
例えば、特許文献1には、繊維布帛の一方の面に迷彩模様を有し、もう一方の面に透湿防水膜を有する迷彩加工布帛が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、繊維布帛の一方の面が捺染され、もう一方の面に透湿防水膜を含む複数の機能性膜が設けられている防汚性着色布帛が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−55669号公報
【特許文献2】特開2001−73278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の迷彩加工布帛は、軽量で耐久性に優れるだけでなく一定の透湿防水性も併せ持ち、しかも迷彩模様が若年層を中心に支持を集める柄であるから、一枚物の透湿防水性布帛としての性格を備えているようにも見受けられる。しかし、この布帛は、軍事用途における迷彩服などの素材として用いられるものであり、特殊な顔料を選択して特殊な捺染方法により得られるところ、一般衣料には通常必要とされない特異な赤外線反射機能などを有している。したがって、コスト面で一般衣料と大きく異なるし、何より軍事用途という本来の目的と異なる使用は、社会の安全・秩序の観点から好ましいものとはいえない。
【0008】
また、特許文献2記載の防汚性着色布帛では、捺染面と機能性膜との間に繊維布帛が介在している。このような構成により、捺染面から機能性膜へ移行しようとする染料の量を抑えることができるから、色あせ・色落ちなどによる意匠性の衰えを抑制することができる。したがって、この防汚性着色布帛も、一枚物の透湿防水性布帛としての性格を備えているように見える。しかし、透湿防水性布帛を一枚物として使用する場合、樹脂膜を内側(身体側)にして使用するのが一般的であり、着衣外側だけでなく内側にも意匠性を求めるニーズが根強くある。この点、当該着色布帛では、外側が捺染されているから着衣外側に意匠性を付与できるものの、内側は複数の機能性膜を積層しただけなので、当該ニーズに応えることができない。
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、裏地を用いなくても一枚物として使用でき、意匠性としてパール調光沢と共に虹彩色効果を発現する新規な透湿防水布帛を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を達成するもので、次の構成よりなるものである。すなわち、
(1)繊維布帛の少なくとも片面に、第1層として、有機顔料及び/又は無機着色顔料を含有する透湿防水膜が、第2層として、無機パール顔料を含有する無孔質膜が順次積層されていることを特徴とする透湿防水性布帛。
(2)透湿防水膜、無孔質膜の何れか一方がパターン状に設けられていることを特徴とする透湿防水性布帛。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、着色された透湿防水膜の上に無機パール顔料を含有する樹脂層が積層されているため、意匠性としてパール調光沢と共に虹彩色効果が得られる。このため、本発明の布帛を用いれば、従来の透湿防水性布帛ではなしえなかった着衣内側での意匠性発現が可能となる。そして、本発明では、特に樹脂膜をパターン状に形成することにより、コントラストやグラデーションが促進され、意匠性の発現をより変化に富んだものとなすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の透湿防水性布帛では、基布として繊維布帛を使用する。
【0014】
繊維布帛としては、織物、編物、不織布など衣料素材として使用できるものあげられ、布帛を構成する繊維としては、例えば、ナイロン6やナイロン66で代表されるポリアミド系合成繊維、ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系合成繊維、ポリアクリルニトリル系合成繊維、ポリビニルアルコール系合成繊維、トリアセテートなどの半合成繊維あるいはナイロン6/木綿、ポリエチレンテレフタレート/木綿などの混合繊維があげられる。
【0015】
本発明では、繊維布帛の片面又は両面が撥水加工されていてもよい。これは、第1層たる透湿防水膜を形成する際に用いる樹脂溶液が、布帛内部へ浸透するのを抑えることができるからである。繊維布帛が薄い場合やダイレクトコーティングを適用する場合、かかる撥水加工は特に有効である。
【0016】
撥水加工に用いる撥水剤としては、ポリシロキサン系撥水剤やフッ素系撥水剤など従来公知のものが使用でき、加工方法も、一般に行われているパディング法、スプレー法などが適用できる。特に良好な撥水性を必要とする場合には、フッ素系撥水剤を使用し、好ましくは例えば、旭硝子株式会社製、フッ素系撥水剤エマルジョン「AG7000(商品名)」の5%水分散液をパディング法にてウェットピックアップ率35%の割合で付与し、乾燥後、150〜170℃で30秒〜2分間熱処理する方法が適用できる。
【0017】
撥水加工は、樹脂溶液の布帛内部への浸透を抑制するのに効果的であるが、かかる浸透をより抑えたいときは、撥水加工後、繊維布帛をカレンダー加工するとよい。カレンダー加工には、一般に鏡面ロールを有するカレンダー機を用いる。
【0018】
本発明では、以上にあげた繊維布帛の少なくとも片面に、第1層として有機顔料及び/又は無機着色顔料を含有する透湿防水膜が積層されている。
【0019】
本発明における有機顔料としては、例えば、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、パーマネントレッド2Bなどの溶性アゾ系顔料、ファーストイエロー、ジスアゾイエロー、ナフトールレッドなどの不溶性アゾ系顔料、クロモフタルイエロー、クロモフタルレッドなどの縮合アゾ系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料、アントラピリミジンイエロー、ペリノンオレンジ、ペリレンレッドなどのスレン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンバイオレット、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系顔料、フタロイルアミドイエロー、ディスパースバイオレット、インダンスロンブルーなどのアンスラキノン系顔料、ジオキサジンバイオレットなどのジオキサジン系顔料などが使用できる。
【0020】
また、無機着色顔料としては、例えば、コバルトブルー、チタニウムホワイト、チタンイエローなどの酸化物顔料、イエローオーカー、アルミナホワイト、ビリジアンなどの水酸化物顔料、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、バーミリオンなどの硫化物顔料、ウルトラマリン、タルク、ホワイトカーボンなどのケイ酸塩顔料、アイボリーブラック、ランプブラック、カーボンブラックなどの炭素系顔料などがあげられる。
【0021】
上記顔料の使用量としては、有機、無機着色の何れにおいても、樹脂100質量部に対し1〜10質量部の割合で使用することが好ましい。
【0022】
また、上記の顔料を含有する透湿防水膜の形態としては、通常、無孔質膜、微多孔質膜の何れかを選択する。また、目的に応じ二層以上を積層して第1層に相当する透湿防水膜としてもよいが、一般には上記の何れかの膜を一層のみ積層する。
【0023】
そして、当該透湿防水膜は、一般に合成樹脂から構成され、通常、ポリウレタン系、アクリル系、ポリエステル系などの樹脂を単独で又は混合して形成された樹脂膜が採用される。中でも、風合、透湿性、コストなどの観点から、ポリウレタン系樹脂が透湿防水膜を構成する樹脂として好適である。なお、ポリウレタン系樹脂とは、ポリウレタン樹脂を50%以上含む樹脂を指し、当然ながらポリウレタン成分のみからなるポリウレタン樹脂はこの中に包含される。
【0024】
ポリウレタン樹脂と併用しうる樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリアミノ酸などの他、これらの共重合体などがあげられ、フッ素やシリコンなどで変性した組成物も使用することができる。
【0025】
ポリウレタン成分とは、ポリイソシアネートとポリオールとを反応から得られる共重合体である。イソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどが単独で又は混合して用いられる。具体的には、トリレン2,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート又は3官能以上のイソシアネートが単独で又は混合して用いられる。
【0026】
一方、ポリオール成分としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなどが用いられる。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが単独で又は混合して用いられる。ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのジオール類の他、アジピン酸、セバチン酸などの2塩基酸との反応生成物やカプロラクトンなどの開環重合物などが用いられる。
【0027】
さらに、本発明では、布帛と透湿防水膜の接着性を向上させ、かつ透湿防水膜の強度を向上させる目的で、透湿防水膜と親和性の高い化合物を併用することが望ましく、その化合物としてイソシアネート化合物が好ましく使用できる。
【0028】
イソシアネート化合物としては、トリレン2,4−ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、又はこれらのジイソシアネート類3モルと、活性水素を含有する化合物(例えば、トリメチロールプロパン、グリセリンなど)1モルとの付加反応によって得られるトリイソシアネート類などが使用できる。
【0029】
上記イソシアネート類は、イソシアネート基が遊離した形のものであっても、あるいはフェノール、ラクタム、メチルケトンなどで付加ブロック体を形成させ、熱処理によって解離させる形のものであってもよく、作業性や用途などにより適宜使い分ければよい。
【0030】
添加混合するイソシアネート化合物の使用量としては、樹脂100質量部に対し0.1〜10質量部の割合で使用することが好ましい。使用量が0.1質量部未満であれば、密着力や強度の点で効果が少なく、また10質量部を超えると、風合いが硬くなる傾向にあり、何れも好ましくない。
【0031】
本発明の透湿防水性布帛では、以上で述べた第1層の上に第2層が積層されており、第2層も同じく透湿防水膜に属するものである。しかしながら、第1層が微多孔質膜でもよいのに対し第2層は無孔質膜である必要がある。これは、第2層には、第1層が発する意匠性を阻害しないよう透明性が求められるからである。微多孔質膜は、構造上透明性に乏しいため、積層すべき第2層として好ましくない。
【0032】
また、第2層には、無機パール顔料が含有されている。本発明では、第1層が着色されているからこれだけでも意匠性の点で有利であるが、さらにその上から無機パール顔料を含んだ第2層が積層されているから、光沢・質感に変化を与えることができ、意匠性発現の点で一層有利となる。特に、第1層に含まれる顔料に応じて、当該パール顔料の種類を適宜選択することで、より意匠性を高めることも可能である。
【0033】
第2層も、第1層と同じく一般に合成樹脂から構成され、樹脂の組成としては、加工性及び密着性などの観点から、第1層と同一又は同系統のものを使用するのが好ましい。したがって、第2層でもポリウレタン系樹脂が好ましく採用される。
【0034】
本発明における無機パール顔料とは、天然雲母薄片に酸化チタンや酸化鉄などの金属酸化物をコートしたものであり、入射光が多重反射することでパール調の光沢が得られる。無機パール顔料と前記無機着色顔料とは、共に無機顔料に属するものの、両者は構造が全く異なることに加え、前者が光沢付与を目的とするのに対し、後者は発色を目的とすることから、両者は明確に区別される。
【0035】
無機パール顔料のうち、天然雲母薄片に酸化チタンをコートしたものとしては、具体的に、メルクジャパン株式会社製、「Iriodin 100 Silver Pearl(商品名)」、「Iriodin 111 Rutile Fine Satin(商品名)」、「Iriodin 153 Flash Pearl(商品名)」、「Iriodin 183 Supernova White(商品名)」、「Iriodin 205 Rutile Platinam Gold(商品名)」、「Iriodin 225 Rutile Blue Pearl(商品名)」などがあげられる。また、天然雲母薄片に酸化チタンをコートし、さらに酸化鉄をコートしたものとしては、具体的に、同社製、「Iriodin 300 Gold Pearl(商品名)」、「Iriodin 302 Gold Stain(商品名)」、「Iriodin 309 Medallion Gold(商品名)」、「Iriodin323 Royal Gold Stainl(商品名)」などがあげられる。そして、天然雲母薄片に酸化鉄をコートしたものとしては、具体的に、同社製、「Iriodin 500 Bronze(商品名)」、「Iriodin 504 Red(商品名)」、「Iriodin520 Bronze Satin(商品名)」、「Iriodin 530 Glitter Bronze(商品名)」などがあげられる。
【0036】
パール顔料の使用量としては、樹脂100質量部に対し1〜10質量部の割合で使用することが好ましい。
【0037】
本発明の透湿防水性布帛では、このように繊維布帛の少なくとも片面に二層の樹脂層が積層されているが、この場合、樹脂層は、繊維布帛の片面全面に積層されていてもよいし、パターン状で一定の模様を描きつつ積層されていてもよい。特に樹脂層がパターン状に設けられていると、第1層と第2層との間でコントラストやグラデーションなどが強調され、表現力ある多彩な意匠性が発揮される。ただし、第1、2層ともパターン状に積層すると、繊維布帛が露出することがあり、その結果、最終的に得られる透湿防水性布帛の透湿防水性が低減することがあるので、好ましくは第1、2層の何れかのみをパターン状とし、他方を全面状に設ける。
【0038】
パターン状の形態としては、任意であって差し支えないが、好ましくはドット状、格子状、線状、斜線型、市松模様、ピラミッド型、亀甲柄、又はある特定の商標柄等の均一性柄あるいはランダム状の柄など意匠性を発揮しやすい柄を採用する。
【0039】
パターン状模様の占有面積は、繊維布帛全面に対し2〜80%の範囲が好ましく、5〜50%がより好ましい。2%未満では、たとえ細線柄を主体としても意匠性の発揮が困難となりやすく、一方、80%を超えると、全面状に近い形態となり、それ以上の意匠性向上が期待できない傾向にあるため、何れも好ましくない。
【0040】
次に、透湿防水性布帛の製法例を説明する。
【0041】
まず、繊維布帛を用意し、必要に応じ撥水加工、カレンダー加工した後、第1層を形成する。
【0042】
第1層としては、前述のように無孔質膜又は微多孔質膜の何れを適用する。
【0043】
無孔質膜の場合、基本的には、所定の顔料を含む樹脂溶液を用意し、ナイフコータ、コンマコータ、リバースコータなどを用いたコーティング法、メッシュ状のグラビアロールを用いたグラビアコーティング法、又はロータリースクリーン、フラットスクリーンなどを用いたプリント法などに基づいて、繊維布帛の少なくとも片面に当該樹脂溶液を塗布し、乾燥することで目的の無孔質膜が形成される。
【0044】
樹脂溶液の塗布は、当然ながら乾燥後の膜厚を十分考慮することが好ましい。具体的には、乾燥後の膜質量が、好ましくは1〜10g/m、より好ましくは3〜8g/mとなるように塗布する。膜質量が1g/m未満になると、透湿防水性布帛の防水性が低下すると共に、無孔質膜の発色性が低減することがあり、一方、10g/mを超えると、透湿防水性布帛の風合いや透湿性などが低下することがあり、いずれも好ましくない。
【0045】
膜質量を所望の範囲となすことは、樹脂溶液の粘度や固形分濃度の他、コーティング機器を適宜選択することにより可能である。例えば、粘度が100〜1500mPa・s(25℃)、固形分濃度が10〜30質量%の樹脂溶液を用いた場合、膜質量を1〜3g/mに調整するには、薄膜形成に有利なグラビアコーティング、リバースコータを採用し、3〜10g/mに調整するには、ナイフコータやコンマコータを採用するのがよい。
【0046】
また、塗布後の乾燥は、50〜150℃の温度下で1〜10分間行うのがよい。
【0047】
他方、微多孔質膜の場合、基本的には、N,N−ジメチルホルムアミドを主溶媒とし、所定の顔料を含む樹脂溶液を用いて湿式製膜するか、同じく顔料を含む油中水滴型又は水中油滴型の樹脂溶液を用いて乾式製膜すれば、目的の微多孔質膜が得られる。
【0048】
前者の湿式製膜の場合、樹脂溶液の固形分濃度としては15〜35%が好ましく、粘度としては、5000〜30000mPa・s(25℃)が好ましい。
【0049】
湿式製膜では、樹脂溶液を塗布した後、樹脂溶液中に含まれる固形分を凝固させる。凝固に用いる凝固液としては、一般に水又はN,N−ジメチルホルムアミドを少量含有する水混合液を使用する。ただし、水混合液を使用する場合は、操業性や環境面を考慮し、濃度5〜30%程度のものを使用するのが好ましい。また、凝固液の温度としては5〜35℃が好ましく、凝固時間としては30秒間〜5分間が好ましい。
【0050】
固形分を凝固させた後は、N,N−ジメチルホルムアミドの除去を促進する目的で、35〜80℃の温度下で1〜10分間湯洗する。湯洗後は、50〜150℃の温度下で1〜10分間乾燥する。
【0051】
一方、油中水滴型又は水中油滴型の樹脂溶液を用いて乾式製膜する場合、湿式製膜のときと同様のコーティング機器を使用して樹脂溶液を繊維布帛に塗布し、50〜100℃で乾燥した後、100〜150℃で再度乾燥すれば、目的の微多孔質膜が得られる。
【0052】
微多孔質膜を形成する場合、湿式・乾式問わず、塗布手段としてコンマコータ、ナイフコータなどの機器を用いる手段が好ましく適用される。最終的に得られる微多孔質膜の膜質量は、好ましくは10g/m〜70g/m、より好ましくは15g/m〜40g/mである。膜質量が10g/m未満になると、透湿防水性布帛の防水性が低下するおそれがあり、一方、70g/mを超えると、透湿防水性布帛の透湿度、風合い、引裂強力などが低下することがあり、いずれも好ましくない。したがって、樹脂溶液を繊維布帛に塗布する際は、この点を十分考慮して塗布量を決定すべきである。
【0053】
第2層は、前述のように無機パール顔料を含有する無孔質膜であって、前記第1層に積層されるものである。第2層を積層することで、透湿防水性布帛の外観がより意匠性に富むものとなる。特に、第1層が微多孔質膜であると、第1層が無孔質膜である場合と比べて光の干渉が進むので、布帛の光沢・質感がより穏やかなものとなる。
第2層は、基本的に、第1層を無孔質膜となす場合と同様の手段が採用できる。乾燥後の膜質量としては、3g/m〜15g/mが好ましく、5g/m〜10g/mがより好ましい。
【0054】
また、前述のように、本発明では、繊維布帛に上記第1、2層をパターン状に積層してもよい。この場合、模様の輪郭を鮮明にする観点から、コーティング機器として、グラビアロール、ロータリースクリーン、フラットスクリーンなどが好ましく適用される。特に、ドット径や線径が細く、鮮明感に優れた模様を得たいときは、樹脂溶液として粘度100〜1500mPa・s(25℃)のものを、柄のかぶりや広がりを極力抑えたいときは、1000〜10000mPa・s(25℃)のものを使用するのが好ましい。また、グラビアロールの深度、スクリーンのメッシュ数及び線径などを考慮することも、鮮明な柄を得る上で好ましいことである。
【0055】
本発明の透湿防水性布帛は、以上のようにして得ることができるが、撥水性や防水性などの耐久性を高める観点から、第2層形成の後に、透湿防水性布帛全体を撥水加工してもよい。この場合の撥水加工としては、前述した繊維布帛を撥水加工する手段を準用すればよい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例、比較例における布帛の性能の測定、評価は、次の方法で行った。
(1)耐水圧
JIS L−1092(高水圧法)に準じて測定した。
(2)透湿度
JIS L−1099 A−1法(塩化カルシウム法)に準じて測定した。
(3)意匠性
得られた布帛の意匠性を、目視に基づき下記3段階で評価した。
◎:非常に優れている ○:優れている △:やや劣る
【0057】
(実施例1)
経緯糸にナイロンマルチフィラメント78dtex48fを用いて、経糸密度115本/2.5cm、緯糸密度95本/2.5cmのタフタを製織した後、これを通常の方法で精練、染色(日本化薬株式会社製「Kayanol Blue NR(商品名)」1%omf使用)した。染色後、エマルジョンタイプのフッ素系撥水剤、旭硝子株式会社製「アサヒガードAG−7000(商品名)」の5%水分散液を使用して、ウェットピックアップ率35%でパディングし、乾燥後、170℃で40秒間熱処理した。そして、鏡面ロールを有するカレンダー加工機を用いて、温度170℃、圧力300kPa、速度30m/分の条件にてカレンダー加工し、基布たる繊維布帛を得た。
【0058】
そして、下記処方1に示す組成の固形分濃度22%、粘度8000mPa・s/25℃のポリウレタン樹脂溶液を、ナイフコータを用いて繊維布帛の片面全面に20g/m塗布し、次いで100℃で2分間乾燥することで、第1層たる無孔質膜を形成した。なお、無孔質膜の乾燥後膜質量は4g/mであった。
【0059】
(処方1)
ラックスキンU2015−11 100質量部
(セイコー化成株式会社製、乾式用ポリウレタン樹脂)
メチルエチルケトン 30質量部
トルエン 10質量部
レザミンX 1質量部
(大日精化工業株式会社製、イソシアネート化合物)
ALT−8149 レッド 1質量部
(大日精化工業株式会社製、アゾ系有機顔料の乾式ポリウレタン樹脂ペースト品)
ALT−8496 イエロー 2質量部
(大日精化工業株式会社製、アゾ系有機顔料の乾式ポリウレタン樹脂ペースト品)
【0060】
続いて、下記処方2に示す組成の固形分濃度21%、粘度3000mPa・s/25℃のポリウレタン樹脂溶液を、ナイフコータを用いて上記無孔質膜上の全面に25g/m塗布し、次いで100℃で2分間乾燥して第2層たる無孔質膜を形成することで、本発明の透湿防水性布帛を得た。なお、無孔質膜の乾燥後膜質量は5g/mであった。
【0061】
得られた透湿防水性布帛は、ゴールド調の虹彩色光沢を発するものであった。
【0062】
(処方2)
ラックスキンU2524 100質量部
(セイコー化成株式会社製、乾式用ポリウレタン樹脂)
ラックスキンU2524M 20質量部
(セイコー化成株式会社製、マット剤)
イソプロピルアルコール 15質量部
トルエン 15質量部
Iriodin 201 Rutile Fine Gold 3質量部
(メルクジャパン株式会社製、無機パール顔料)
【0063】
(実施例2)
第1層の形成を下記の通りに変更した他は、実施例1と同様に行い、本発明の透湿防水性布帛を得た。すなわち、下記処方3に示す組成の固形分濃度21%,粘度15000mPa・s/25℃のポリウレタン樹脂溶液を、コンマコータを用いて繊維布帛の片面全面に120g/m塗布し、直ちに20℃の水中に1分間浸漬することで樹脂固形分を凝固させ、次いで50℃で10分間湯洗し、130℃で2分間乾燥することで、第1層たる微多孔質膜を形成した。なお、微多孔質膜の乾燥後膜質量は25g/mであった。
【0064】
得られた透湿防水性布帛は、実施例1の場合と同じくゴールド調の虹彩色光沢を発するものであった。
【0065】
(処方3)
ラックスキンUJ8517 100質量部
(セイコー化成株式会社製、固形分25%のエステル型ポリウレタン樹脂)
ラックスキンUJ8518M 35質量部
(セイコー化成株式会社製、固形分20%の透湿向上剤)
レザミンX 1質量部
(大日精化工業株式会社製、イソシアネート化合物)
N,N−ジメチルホルムアミド 30質量部
BS1319 オレンジ 2質量部
(大日精化工業株式会社製、アゾ系有機顔料の湿式ポリウレタン樹脂ペースト品)
【0066】
(実施例3)
第2層の形成において、ナイフコータに代えて格子状のグラビアロール(深度200μm、格子角度75°、格子サイズ1cm、占有面積35%)を用いると共に、当該樹脂溶液の塗布を全面状に代えて格子状とした他は、実施例1と同様に行い、本発明の透湿防水性布帛を得た。
【0067】
得られた透湿防水性布帛は、パープル調をベースとし、ゴールド調で格子状の虹彩色光沢を発するものであった。
【0068】
(実施例4)
第1層の形成において、ナイフコータに代えて実施例3で使用したグラビアロールを用いると共に、当該樹脂溶液の塗布を全面状に代えて格子状とした他は、実施例1と同様に行い、本発明の透湿防水性布帛を得た。
【0069】
得られた透湿防水性布帛は、ブルー調をベースとし、ゴールド調で格子状の虹彩色光沢を発するものであった。
【0070】
(実施例5)
第2層の形成において、ナイフコータに代えて実施例3で使用したグラビアロールを用いると共に、当該樹脂溶液の塗布を全面状に代えて格子状とした他は、実施例2と同様に行い、本発明の透湿防水性布帛を得た。
【0071】
得られた透湿防水性布帛は、格子状外観を有しゴールド調の虹彩色光沢を発するものであった。
【0072】
(比較例1)
処方1から「ALT−8149 レッド」及び「ALT−8496 イエロー」を省く他は、実施例1と同様に行い、透湿防水性布帛を得た。得られた透湿防水性布帛の外観は、軽度なゴールド調と光沢を呈するのみで、意匠性に優れるとはいい難いものであった。
【0073】
(比較例2)
処方2から「Iriodin 201 Rutile Fine Gold」を省く他は、実施例1と同様に行い、透湿防水布帛を得た。得られた透湿防水性布帛では、着色された第1層が意匠性に乏しい第2層により覆われており、布帛全体の外観としては、青みがかったオレンジ色をわずかに視認できる程度で、意匠性に優れるとはいい難いものであった。
【0074】
(比較例3)
処方3から「BS1319 オレンジ」を省く他は、実施例2と同様に行い、透湿防水布帛を得た。得られた透湿防水性布帛の外観は、比較例1の場合と同じく意匠性に優れるとはいい難いものであった。
【0075】
(比較例4)
塗布量を120g/mに代えて30g/mとする他は、実施例2の場合と同じくして第1層たる微多孔質膜を形成した。なお、微多孔質膜の乾燥後膜質量は6g/mであった。次に、「BS1319 オレンジ」ではなく「Iriodin 201 Rutile Fine Gold」を3質量部含む以外、処方3と同組成の樹脂溶液を用い、実施例2における第1層の形成と同様の条件を採用して、上記第1層上の全面に第2層たる微多孔質膜を積層することにより、透湿防水性布帛を得た。
【0076】
得られた透湿防水性布帛は、軽度なゴールド調と光沢感を呈するのみで、意匠性に優れるとはいい難いものであった。
【0077】
上記実施例及び比較例で得られた各透湿防水性布帛の性能を下記表1に示す。
【0078】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布帛の少なくとも片面に、第1層として、有機顔料及び/又は無機着色顔料を含有する透湿防水膜が、第2層として、無機パール顔料を含有する無孔質膜が順次積層されていることを特徴とする透湿防水性布帛。
【請求項2】
透湿防水膜、無孔質膜の何れか一方がパターン状に設けられていることを特徴とする透湿防水性布帛。


【公開番号】特開2010−209491(P2010−209491A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56544(P2009−56544)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】