説明

透過型堤体構造物及び透過型海域制御構造物

【課題】各堤体の基礎杭同士の干渉を低減するために基礎杭同士の間隔を広くした場合、堤体の構造を大きくする必要がなく、かつ、堤体間の間隔を狭くすることができる透過型堤体構造物及び透過型海域制御構造物を提供する。
【解決手段】この透過型堤体構造物10は、開口を有する壁部と水平部とを備えて消波性能を発揮する透過型の堤体11と、堤体を支持するために水底から地盤に打ち込まれる基礎杭29a,29bから構成される基礎構造12と、を具備し、堤体11は、基礎杭の水平位置に対し側面外側に突き出した張り出し構造41,42を備え、張り出し構造における水平部の面積を低減させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消波性能を有する透過型の堤体から構成される透過型堤体構造物及び透過型海域制御構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾の静穏度を確保するためには、沖側に不透過型の防波堤(陸側への透過波を防ぐ)を構築することが効果的であるが、砂浜などの海岸浸食を防ぐには、不透過型の防波堤は不向きである。海岸浸食が発生するか否かは、主に砂の特性(比重や形状)や常時波浪特性により決定される。したがって、数年〜数十年間に一度の割合で来襲する波浪(暴風時)による浸食の影響は、長期的に見ると少ないと考えられている。海岸浸食が卓越する地点に防波堤を構築すると、防波堤前面の反射率が大きくなるため設置地点の沖側の砂が浸食される一方で、陸側には砂が堆積する。このため、前面の浸食及び背面の堆積の各対策が新たに必要となる。
このような不透過型の防波堤と比べ、海岸浸食を防ぐには常時波浪に対して対象地点周辺の透過率・反射率をともに低減させ消波性能のある透過式の構造物が有効であることが知られている。例えば、図11のように、透過式構造物Aを構築し、沖側から入射波が透過式構造物Aに到来したとき、透過式構造物Aにおいて、入射波によって生じる反射波及び透過波をともに低減させることで、前面の浸食及び背面の堆積を減らすことができる。
【0003】
上述の透過式構造物として、例えば、特許文献1のような杭式消波構造物や特許文献2,3のような透過型海域制御構造物が挙げられる。後者の透過型海域制御構造物1は、図12の正面図に示すように、基礎杭3に箱形の堤体2が海底4との間に間隙部5をもって設置され、堤体2は鉛直壁6と傾斜壁7とからなる前面壁、中間壁、後面壁、側面壁8、底版および頂板からなり、鉛直壁6および傾斜壁7、中間壁、後面壁には透過スリット9が開口され、底版および頂板に開口部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平02−24408号公報
【特許文献2】特開2007−262890号公報
【特許文献3】特開2008−14136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
透過型の構造物は、内部が空洞であるため通常の防波堤などのような重量式では安定性が保てず、このため、図12のように基礎杭3を打ち込んで固定される。ここで、図13のように、透過型の構造物が堤体B1,B2(例えば、図12の堤体2)を並べて構築される場合、堤体B1,B2間の間隔W1は図11の透過波の透過率の低減のために狭い方が好ましいが、そうすると、堤体B1の基礎杭C1と、堤体B2の基礎杭C2との間の間隔W2も狭くなってしまう。水底Tから地盤Gの中に打ち込まれる基礎杭C1,C2はその間隔W2が狭いと、杭同士の干渉によって次の問題(1)(2)が生じてしまう。すなわち、(1)杭同士の干渉により杭の支持力が単杭の場合よりも低下してしまう。このため、必要な支持力を確保するためには、杭の間隔W2を広げるか、杭の根入れ長さをより長くする必要がある。杭の根入れ長さが長くなると、経済性・施工性に劣る結果になる。(2)杭同士の干渉により杭の周囲における地盤Gの洗掘量が大きくなってしまい、杭の周辺が大きく洗掘されることにより、杭の安定性が低下してしまう。
【0006】
杭同士の間隔W2を広げるには、図13の堤体間の間隔W1を大きくしなければならないが、堤体間の間隔W1を大きくすると、上述のように波が背面側に透過しやすくなり透過率が大きくなってしまう。かかる透過率の増大を避けるために、堤体自体の構造を大きく(堤体B1,B2の図13の横方向の幅を長く)し、間隔を含めた施工延長あたりの透過性能を確保する必要がある。
【0007】
一方、基礎杭C1,C2の水平位置を堤体の内側に変更し杭の間隔W2を広げ、かつ、堤体間の間隔W1を狭くすると、基礎杭C1,C2の水平位置に対し堤体の外側部分が張り出し構造となって、揚圧力の影響により、底版の張り出し構造部分に加わる力が大きくなり、部材破壊のおそれが生じてしまう。
【0008】
本発明は、各堤体の基礎杭同士の干渉を低減するために基礎杭同士の間隔を広くした場合、堤体の構造を大きくする必要がなく、かつ、堤体間の間隔を狭くすることができる透過型堤体構造物及び透過型海域制御構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための透過型堤体構造物は、開口を有する壁部と水平部とを備えて消波性能を発揮する透過型の堤体と、前記堤体を支持するために水底から地盤に打ち込まれる基礎杭から構成される基礎構造と、を具備する透過型堤体構造物であって、前記堤体は、前記基礎杭の水平位置に対し側面外側に突き出した張り出し構造を備え、前記張り出し構造における前記水平部の面積を低減させたことを特徴とする。
【0010】
この透過型堤体構造物によれば、堤体が基礎杭の水平位置に対し側面外側に突き出した張り出し構造を備えることによって、堤体同士の側端部が接近するように堤体を配置できるので堤体間の間隔が狭くなるとともに、基礎杭同士の間隔が広くなる。堤体間の間隔が狭くなることで、透過率が大きくならないことから、1函体当りの堤体幅は大きくならず堤体の構造が大きくならない。また、基礎杭同士の間隔が広くなるので、基礎杭同士の干渉を低減することができ、また、基礎杭周りの洗掘量を少なくすることができる。さらに、張り出し構造における水平部の面積を低減させることで、水平部に加わる揚圧力を逃がし低減できるので、張り出し構造部分における部材破壊のおそれをなくすことができる。
【0011】
上記透過型堤体構造物において、前記水平部は底版と頂版とを有し、前記張り出し構造における前記底版及び前記頂版にそれぞれ開口部を設けることで、張り出し構造における水平部の面積を低減させて揚圧力の低減が可能になる。
【0012】
また、前記堤体の壁部は前面側に前面壁と斜面壁とを有し、前記張り出し構造における前記前面壁及び前記斜面壁にそれぞれ相補的形状の開口部を設けることが好ましい。堤体同士を並べて配置したとき、張り出し構造における前面壁及び斜面壁の各相補的形状の開口部が一体となって新たな開口を構成することができ、消波性能の向上に寄与できる。
【0013】
上記目的を達成するための透過型海域制御構造物は、上述の透過型堤体構造物を少なくとも2つ並べて構成され、前記少なくとも2つの透過型堤体構造物の各堤体を側面同士が対向し接近するように配置したとき、前記各透過型堤体構造物の基礎杭同士が前記張り出し構造により水平方向に離間して位置することを特徴とする。
【0014】
この透過型海域制御構造物によれば、上述の透過型堤体構造物の堤体が基礎杭の水平位置に対し側面外側に突き出した張り出し構造を備えるので、各堤体を側面同士が対向し接近するように配置したとき、堤体間の間隔が狭くなるとともに、基礎杭同士が水平方向に離間して位置し、基礎杭同士の間隔が広くなる。また、堤体間の間隔が狭くなることで透過率が大きくならない。また、基礎杭同士の間隔が広くなるので、基礎杭同士の干渉を低減することができ、また、基礎杭周りの洗掘量を少なくできる。さらに、各堤体の張り出し構造における水平部の面積低減により、水平部に加わる揚圧力を逃がし低減できるので、少なくとも2つの透過型堤体構造物から構成される透過型海域制御構造物において各堤体の張り出し構造部分における部材破壊のおそれをなくすことができる。
【0015】
もう1つの透過型海域制御構造物は、前記堤体の壁部は前面側に前面壁と斜面壁とを有し、前記張り出し構造における前記前面壁及び前記斜面壁にそれぞれ相補的形状の開口部を設けた上述の透過型堤体構造物を少なくとも2つ並べて構成され、前記少なくとも2つの透過型堤体構造物の各堤体を側面同士が対向しかつ接近して配置したとき、前記各透過型堤体構造物の基礎杭同士が前記張り出し構造により水平方向に離間して位置するとともに、前記張り出し構造における前記前面壁及び前記斜面壁の各相補的形状の開口部が一体となって新たな開口を構成することを特徴とする。
【0016】
この透過型海域制御構造物によれば、堤体間の間隔が狭くなり、かつ、基礎杭同士の間隔が広くなるとともに、張り出し構造における前面壁及び斜面壁の各相補的形状の開口部が一体となって新たな開口を構成することで、消波性能の向上に寄与できる。
【0017】
また、上記堤体のための分割ブロックは、上述の透過型堤体構造物の堤体が縦方向に分離するように複数に分割されたものである。上記堤体を複数の分割ブロックから構成することにより、各分割ブロックを順に、水底に打ち込まれた基礎杭に差し込み、積み重ねることで透過型堤体構造物を比較的簡単に施工することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の透過型堤体構造物及び透過型海域制御構造物によれば、基礎杭同士の間隔を広くできるので、各堤体の基礎杭同士の干渉を低減でき、基礎杭周りの洗掘量を少なくできる。このため、基礎杭による支持力の低下を防止することができる。また、堤体間の間隔を狭くできるので、1函体当りの堤体幅は大きくならず堤体の構造が大きくならず、また、透過率が大きくならない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施の形態による透過型堤体構造物を示す平面図(a)、図1(a)のb方向からみた側面図(b)、同じくc方向からみた正面図(c)、及び、同じくd方向からみた後面図(d)である。
【図2】図1の透過型堤体構造物の斜視図(a)及び別角度からみた斜視図(b)である。
【図3】図1(a)の透過型堤体構造物をIII-III線方向に切断してみた断面図である。
【図4】本実施形態の透過型堤体構造物における通常の水の流れを説明するための図3と同様の断面図である。
【図5】本実施形態の透過型堤体構造物における暴風時に加わる力及び水の流れを説明するための図3と同様の断面図である。
【図6】図1〜図3の透過型堤体構造物10を2つ並べて構成した透過型海域制御構造物の正面図である。
【図7】従来の透過型堤体構造物を2つ並べて構成した透過型海域制御構造物の正面図である。
【図8】本実験例の二次元移動床実験に用いた実験装置の概要を示す図である。
【図9】実験例及び比較例について平均洗掘深さ及び最大洗掘深さを測定した結果を示すグラフである。
【図10】波浪条件を変えた実験例及び比較例について平均洗掘深さ及び最大洗掘深さを測定した結果を示すグラフである。
【図11】構築した透過式構造物に入射波が到来したときの、入射波によって生じる反射波及び透過波を説明するための概略図である。
【図12】特許文献2に開示された透過型海域制御構造物の正面図である。
【図13】従来の堤体を2つ並べて設置したときの問題を説明するための概略的な正面図である。
【図14】本実施形態の変形例を示す図3と同様の断面図である。
【図15】本実施形態の別の変形例を示す図3と同様の断面図である。
【図16】本実施形態のさらに別の変形例を示す図3と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施の形態による透過型堤体構造物を示す平面図(a)、図1(a)のb方向からみた側面図(b)、同じくc方向からみた正面図(c)、及び、同じくd方向からみた後面図(d)である。図2は図1の透過型堤体構造物の斜視図(a)及び別角度からみた斜視図(b)である。図3は図1(a)の透過型堤体構造物をIII-III線方向に切断してみた断面図である。
【0021】
図1(a)〜(d),図2(a)(b),図3に示すように、透過型堤体構造物10は、消波性能を有する透過型の堤体11と、堤体11を支持する複数本の基礎杭29a,29b,29c,29dから構成される基礎構造12と、を備える。基礎杭29a,29bは前面側(沖側)に配置され、基礎杭29c,29dは後面側(陸側)に配置されている。
【0022】
堤体11は、前面側(沖側)に鉛直方向に延びた前面壁13と、前面壁13の上端から傾斜する斜面壁14とを有し、後面側(陸側)に鉛直方向に延びた後面壁15を有し、前面と後面との間に前面壁13に平行な中間壁16を有し、両側面に側壁17,18を有する。また、堤体11は、水平方向上部の頂版19と、水平方向下部の底版20と、を有する。
【0023】
前面壁13には、横方向に延びて壁面の中間に開口した前面スリット21が設けられ、斜面壁14には、横方向に延びて斜面の中間に開口した斜面スリット22が設けられている。後面壁15には、図1(d)のように、複数の後面スリット23が縦方向に設けられている。中間壁16には、図3のように、複数の中間スリット24が縦方向に設けられている。さらに、頂版19には頂版開口25が設けられ、底版20には、複数の底版開口26が設けられている。また、側壁17,18には開口が設けられていないが、設けてもよい。
【0024】
また、斜面壁14の斜面スリット22とほぼ同じ高さ位置に、中間壁16に壁部16aが設けられている。また、後面壁15の上部にも後面スリット23が設けられている。
【0025】
なお、堤体11において、各開口の好ましい開口率(壁面積に対する開口面積の割合)は、前面スリット21+斜面スリット22が15〜25%、中間スリット24が20〜30%、後面スリット23が30〜40%である。側壁17,18に開口を設けた場合には、その開口率は5〜15%が好ましい。また、頂版開口25の開口率は25〜35%、底版開口26の開口率は25〜35%が好ましい。
【0026】
図1(a)(c)(d)、図2(a)(b)のように、堤体11は、両側壁17,18の外側に突き出た張り出し構造41,42を有し、張り出し型の透過型堤体構造物を構成するようになっている。張り出し構造41,42には、前面側の縦方向に突き出し部43a,43b、43cが設けられることで、前面壁13と斜面壁14に相補的形状の開口部43,44が形成されており、2つの堤体11が配置されたとき、2つの開口部43同士が一体となるとともに2つの開口部44同士が一体となって新たな開口スリット51,52(図6)がそれぞれ形成されるようになっている。
【0027】
また、張り出し構造41,42には、図2(a)(b)のように、奥行き方向の中間に縦方向に複数の中間突き出し部46が設けられ、後面側の縦方向に複数の後面突き出し部47が設けられている。2つの堤体11が配置されたとき、中間の各突き出し部46により形成された開口部が一体になって新たな開口が形成され、後面の各突き出し部47により形成された開口部が一体になって新たな開口が形成されるようになっている。
【0028】
また、張り出し構造41,42において、水平部の底版には突き出し部43a,46,47が位置し、各突き出し部43a,46,47の間に比較的大きな開口部45,45(図2)が設けられ、また、水平部の頂版には突き出し部43c,47が位置し、各突き出し部43c,47の間に比較的大きな開口部48が設けられることで、底版及び頂版の面積が小さくなっている。このため、揚圧力が大きくなっても、揚圧力が開口部45,48を通して逃げることから、張り出し構造41,42における水平部の底版及び頂版に加わる力が減少するようになっている。
【0029】
上述のように、堤体11に側面外側に突き出た張り出し構造41,42を設けることで、沖側の基礎杭29a,29bは図1(a)、(c)、(d)の横方向の水平位置が相対的に内側にずれた位置関係になり、また、陸側の基礎杭29c,29dは図の横方向の水平位置が同程度に相対的に内側にずれた位置関係になっている。
【0030】
また、堤体11の全体は、図1(b)〜(d)のように、コンクリート製の複数の分割ブロック31,32,33から構成されている。複数の分割ブロック31,32,33は、縦方向に分離するように水平方向に分割されることで比較的薄くなっている。
【0031】
透過型堤体構造物10の施工は次のようにして行うことができる。まず、基礎杭29a〜29dを水底Tから地盤G中に打ち込んで構築してから、次に、分割ブロック31,32,33を順に、各分割ブロック31〜33の貫通孔30(図1(c)(d))から基礎杭29a〜29dに差し込み、積み重ねる。これにより、透過型堤体構造物10を、堤体11が分割されず一体に構成された場合よりも簡単に施工することができる。なお、基礎杭29a〜29dの外周には、最下部の分割ブロック31を所定高さ位置に係止するためのストッパ(図示省略)が設けられている。
【0032】
上述の堤体11の底版20の下端(ブロック31の下端)から水底Tまでの隙間H1(図3)は、次のように所定範囲内の値に設定され、水が隙間H1を透過する。透過型堤体構造物10の堤体11の水底Tからの高さHと、隙間H1との比(H1/H)は、0〜0.2程度が好ましい。
【0033】
上述のようにして、透過型堤体構造物10を水底Tに設置することができる。なお、堤体11の複数のブロック31〜33は、図1(a)(b)のように、連結部材30a,30bにより連結されて一体化するようになっている。
【0034】
次に、上述の透過型堤体構造物10の消波性能について図4,図5を参照して説明する。図4は、本実施形態の透過型堤体構造物における通常の水の流れを説明するための図3と同様の断面図である。図5は、本実施形態の透過型堤体構造物における暴風時に加わる力及び水の流れを説明するための図3と同様の断面図である。
【0035】
図4のように通常時には、透過型堤体構造物10において次のようなエネルギー損失により消波が実現する。
【0036】
(1)沖側からの入射波の越波aに伴う砕波によるエネルギー損失
【0037】
(2)斜面壁14の斜面スリット22における流出水b、流入水cによる乱れによるエネルギー損失
【0038】
(3)中間スリット24、後面スリット23、底版開口26の各開口により、向きが互いに反対に発生する渦d,eによるエネルギー損失
【0039】
(4)越波fと後面壁16の上部の後面スリット23との衝突によるエネルギー損失
【0040】
(5)頂版19及び底版20の開口25,26による堤体11内部の流出入水の容易化による、渦d,eによるエネルギー損失効果の促進
【0041】
上述の各エネルギー損失効果が相乗して消波を促進し、消波性能を向上させることができるとともに、前面の反射率及び背面への透過率をともに低減することができる透過型堤体構造物及び透過型海域制御構造物を実現できる。
【0042】
なお、堤体11の前面スリット21+斜面スリット22の開口率と後面スリット23の開口率とに差を設けることで、引き波時水が堤体内部から流出しにくくなり、堤体の前面と背面とで水位差が生じることにより、斜面スリット22から噴流が発生し、エネルギーを損失させ、消波を促進できる。
【0043】
また、図5のように暴風時には、透過型堤体構造物10の堤体11において、水は、底版20と水底との間を水平方向gに通過し、底版20の底版開口26を上方向hに通過し、頂版19の頂版開口25を上方向jに通過し、斜面壁14を方向iに越波し、一方、水平力K、揚圧力L、鉛直下向き力Mが加わる。このうち、揚圧力Lは、頂版19及び底版20の比較的大きな開口25,26により、上方に逃げることで、揚圧力の低減が可能となっている。
【0044】
次に、図1〜図3の透過型堤体構造物10を2つ並べて構成した透過型海域制御構造物について図6,図7を参照して説明する。図6は図1〜図3の透過型堤体構造物10を2つ並べて構成した透過型海域制御構造物の正面図である。図7は従来の透過型堤体構造物を2つ並べて構成した透過型海域制御構造物の正面図である。
【0045】
図6のように、透過型海域制御構造物50は、図1〜図3の透過型堤体構造物10を少なくとも2つ並べて、側面同士を対向させかつ接近させて配置することにより構成される。このとき、各堤体11の張り出し構造41,42の突き出し部43a,43b,43cがそれぞれ互いに近接することで、堤体11,11間の間隔W1が狭くなるとともに、開口部43,44がそれぞれ2つずつ近接することで一体となって、新たな開口スリット51,52が形成される。また、各堤体11の奥行き方向においても、図2(a)(b)からわかるように、中間で各突き出し部46により形成された開口部が一体になって新たな開口が形成され、後面において各突き出し部47により形成された開口部が一体になって新たな開口が形成される。一体となった新たな開口スリット51,52等により、張り出し構造41,42において消波性を発揮させることができる。
【0046】
さらに、透過型堤体構造物10の少なくとも2つの近接配置により、張り出し構造41,42の水平部において、底版側の開口部45,45がそれぞれ2つずつ近接することで一体となって新たな開口が形成されるとともに、頂版側の開口部48が2つずつ近接することで一体となって新たな開口が形成される。これにより、張り出し構造41,42において、水平部の面積を低減させることができ、水平部に加わる揚圧力L(図5)を逃がすことで低減できるので、張り出し構造部分における水平部の部材破壊のおそれがなくなり、また、部材の厚さ等の寸法を大きくする必要がない。このように、堤体11に張り出し構造41,42を設けても揚圧力による部材破壊のおそれ等を防止できる。
【0047】
上述の透過型堤体構造物10を2つ並べた透過型海域制御構造物50において、図6のように、透過型堤体構造物10の基礎杭29aと、その隣の透過型堤体構造物10の基礎杭29bとの間隔W2は、2つの堤体11,11間に張り出し構造41,42が存在するために、比較的広くなっている。すなわち、図1(a)(c)(d)のように基礎杭29a,29bは張り出し構造41,42によって図の横方向の水平位置が相対的に内側にずれた位置関係になっているため、基礎杭間の間隔W2は張り出し構造41,42を設けた分、広くなっているのである。また、基礎杭29c,29d間の間隔W2も同様に張り出し構造41,42を設けた分、広くなっている。
【0048】
図7のように、従来技術によれば、堤体B1,B2間の間隔W1を狭くすると、基礎杭C1,C2間の間隔W2も狭くなって、杭同士の干渉が避けられなかったのに対し、本実施形態の透過型海域制御構造物50によれば、堤体11,11間の間隔W1が狭くなっても、図6のように基礎杭間の間隔W2は張り出し構造41,42によって広くなる。このように、堤体の側面を張り出し構造とすることで、堤体間の間隔W1を狭くできるとともに、基礎杭同士の干渉を回避することができ、かつ、基礎杭周りの洗掘量を緩和することができる。また、堤体間の間隔を狭くすることで、透過率が大きくならず、このため、1函体当りの堤体幅が大きくならず、堤体の構造が大きくならない。
【0049】
以上のように、基礎杭同士の干渉を回避することができるので、杭の支持力が低下せず、杭の根入れ長さをより長くする必要がなく、杭の根入れ長さを長くすることによる経済性・施工性の低下を防止することができ、また、基礎杭の周囲における地盤Gの洗掘量が大きくならず、杭の周辺が大きく洗掘されることがないため、杭の支持力が低下せず、杭の安定性を維持することができる。
【0050】
なお、図6の透過型海域制御構造物の寸法は、例えば、堤体の幅:8.7m、堤体の間隔W1:0.4m、基礎杭間の間隔W2:4mである。また、図7の寸法は、例えば、堤体の幅:8.4m、堤体の間隔W1:0.8m、基礎杭間の間隔W2:2.4mである。
【実験例】
【0051】
次に、本発明の効果の確認のために、基礎杭周りの洗掘量(深さ)を比較する二次元移動床実験を行った。図8に本実験に用いた実験装置の概要を示す。本実験では、図6と同様の堤体2つを用いた縮尺1/30の模型を用い、また、比較例として図7と同様の堤体2つを用いた縮尺1/30の模型を用いた。用いた砂の諸元と、波浪条件は、次の表1に示すとおりである。
【0052】
【表1】

実験例及び比較例について、波浪条件を現地換算で有義波高(H1/3)=2.00m、有義波周期(T1/3)=13.9sとした場合の洗掘深さの測定結果を図9に示す。同様に、波浪条件をH1/3=5.71m、T1/3=13.9sとした場合の洗掘深さの測定結果を図10に示す。
【0053】
本実験例によれば、図9,図10のいずれの場合も、平均洗掘深さ、最大洗掘深さともに、実験例の方が比較例よりも小さい結果であり、基礎杭周りの洗掘量を低減可能であることを確認できた。
【0054】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、張り出し構造における水平部の面積を低減させるために、本実施形態では、張り出し構造において底版及び頂版にそれぞれ少数の比較的大きな開口部を設けたが、これに限定されず、例えば、比較的小さな開口を多数設けるようにしてもよい。
【0055】
また、図6の透過型海域制御構造物50は、実際に水域に構築される場合には、図1〜図3の透過型堤体構造物10を必要長さに応じて多数並べて構成される。
【0056】
また、本実施形態の堤体における各壁部(前面壁13,斜面壁14,後面壁15,中間壁16)には、前面スリット21,斜面スリット22,後面スリット23及び中間スリット24が図3のように設けられているが、別の実施形態とすることで、各開口率を調整するようにしてもよい。例えば、図14の例は、前面スリット21、後面スリット23,中間スリット24の各個数を図3の場合よりも増やしたものである。
【0057】
また、図15の例は、前面スリット21、後面スリット23,中間スリット24の各個数を図3の場合よりも増やすとともに、後面スリット23及び中間スリット24の各位置を図14の場合から変更し、また、中間壁16の上部の壁部16a(図3,図14)を省略し、壁部16aの位置に中間スリット24を設けたものである。
【0058】
さらに、図16の例は、後面スリット23及び中間スリット24の各位置を図15の場合と同じにしたが、前面スリット21の数を図3の場合と同じにしたものである。
【0059】
また、図1〜図3の透過型堤体構造物における基礎杭の本数は支持荷重や杭径等に対応して増やしてもよく、この場合、基礎杭間の間隔は洗掘が発生しないように充分長く設定されることが好ましい。
【符号の説明】
【0060】
10 透過型堤体構造物
11 堤体
12 基礎構造
13 前面壁
14 斜面壁
15 後面壁
16 中間壁
17,18 側壁
19 頂版
20 底版
21 前面スリット
22 斜面スリット
23 後面スリット
24 中間スリット
25 頂版開口
26 底版開口
29a,29b,29c,29d 基礎杭
31,32,33 分割ブロック
41,42 張り出し構造
43,44 開口部
45,48 開口部
50 透過型海域制御構造物
51,52 開口スリット
L 揚圧力
W1 堤体間の間隔
W2 基礎杭間の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する壁部と水平部とを備えて消波性能を発揮する透過型の堤体と、前記堤体を支持するために水底から地盤に打ち込まれる基礎杭から構成される基礎構造と、を具備する透過型堤体構造物であって、
前記堤体は、前記基礎杭の水平位置に対し側面外側に突き出した張り出し構造を備え、前記張り出し構造における前記水平部の面積を低減させたことを特徴とする透過型堤体構造物。
【請求項2】
前記水平部は底版と頂版とを有し、
前記張り出し構造における前記底版及び前記頂版にそれぞれ開口部を設けた請求項1に記載の透過型堤体構造物。
【請求項3】
前記堤体の壁部は前面側に前面壁と斜面壁とを有し、
前記張り出し構造における前記前面壁及び前記斜面壁にそれぞれ相補的形状の開口部を設けた請求項1または2に記載の透過型堤体構造物。
【請求項4】
請求項1に記載の透過型堤体構造物を少なくとも2つ並べて構成される透過型海域制御構造物であって、
前記少なくとも2つの透過型堤体構造物の各堤体を側面同士が対向し接近するように配置したとき、前記各透過型堤体構造物の基礎杭同士が前記張り出し構造により水平方向に離間して位置することを特徴とする透過型海域制御構造物。
【請求項5】
請求項3に記載の透過型堤体構造物を少なくとも2つ並べて構成される透過型海域制御構造物であって、
前記少なくとも2つの透過型堤体構造物の各堤体を側面同士が対向し接近するように配置したとき、前記各透過型堤体構造物の基礎杭同士が前記張り出し構造により水平方向に離間して位置するとともに、前記張り出し構造における前記前面壁及び前記斜面壁の各相補的形状の開口部が一体となって新たな開口を構成することを特徴とする透過型海域制御構造物。
【請求項6】
請求項1乃至3に記載の透過型堤体構造物の堤体が縦方向に分離するように複数に分割されたことを特徴とする堤体用分割ブロック。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate