説明

透過型電子顕微鏡用試料及びその作製方法

【課題】透過型電子顕微鏡用試料において薄片化を行う場合、崩れの制御を容易とする。
【解決手段】透過型電子顕微鏡用試料は、試料本体4aと薄膜部11と保護膜8とを具備する。薄膜部11は試料本体4aから第1の向きに伸び、試料本体4aより薄い。保護膜8は試料本体4a及び薄膜部11の上側の表面に連続的に設けられ、試料本体4a及び薄膜部11の主材料より固い。薄膜部11は、保護膜8の下側に接した極薄膜部12と、極薄膜部12の下側に接した残余部11aとを備える。極薄膜部12は残余部11aより薄い。極薄膜部12は保護膜8と接する部分を第1の辺とする三角形又は四角形の薄片形状を有している。極薄膜部12は、第1の辺に交わり外側に露出した第2の辺と、第2の辺に交わり残余部11aと結合する第3の辺とが成す角が、0°より大きく180°より小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡用試料及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)の観察において、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を用いた薄片化によりTEM用試料の作製を行うことが知られている。例えば、図1A〜図1C、図2A〜図2B及び図3A〜図3Bは、一般的なFIBによるTEM用試料の作製方法を示す模式図である。
【0003】
図1Aに示すように、まず、試料101の上側からFIB_B0を照射して、試料101を削る。それにより、図1Bに示すように、第1本体部102と薄体部103とを形成する。薄体部103は、第1本体部102から横方向に伸び、第1本体部102より薄い形状を有している。第1本体部102は、薄体部103を削り出したときの試料101の残余の部分である。薄体部103の横側及び下側で、薄体部103と結合している。
【0004】
続いて、図1Cに示すように、試料101の上側からFIB_C0を照射して、薄体部103を削り、第2本体部103aと薄片部104とを形成する。薄片部104は、第2本体部103aから横方向に伸び、第2本体部103aより薄い形状を有している。第2本体部103aは、薄片部104を削り出したときの薄体部103の残余の部分である。薄片部104の横側及び下側で、薄片部104と結合している。図1Cの工程を拡大して示したのが図2A〜図2Bである。
【0005】
ここで、図3A(図2BのP0部分の拡大)に示すように、FIB_C0により、薄片部104を更に削る。それにより、図3Bに示すように、第3本体部104aと薄膜部111とを形成する。薄膜部111は、第3本体部104aから横方向に伸び、第3本体部104aより薄い形状を有している。第3本体部104aは、薄膜部111を削り出したときの薄片部104の残余の部分である。薄膜部111の横側及び下側で、薄膜部111と結合している。この薄膜部111の所定の箇所に、TEMによる解析対象物113が存在している。
【0006】
FIBによる試料の薄片化では、試料の上側からビームを入射させたとき、試料内の構成によって材料が異なることにより研磨レートが変わる。そのため、試料内で膜厚のばらつきが発生する場合がある。そのような場合、元素分析の定量化を行おうとすると、その膜厚ばらつきにより分析の精度が大幅に低下する。この現象をカーテニングという。カーテニングを防止することが望まれる。
【0007】
関連する技術として、特開平9−145567号公報(特許文献1)に透過型電子顕微鏡観察用試料の作製方法が開示されている。この透過型電子顕微鏡観察用試料の作製方法は、炭化水素を主成分とする有機分子ガスが存在する真空室内で、試料表面に電子ビームを照射することにより炭素皮膜を形成し、この炭素皮膜上からArイオンビームを照射することにより、炭素皮膜被覆部以外の試料表面をエッチング除去し、炭素皮膜被覆部に、試料表面に垂直な柱状の観察部を形成する。
【0008】
また、特開2007−292507号公報(特許文献2)に透過型電子顕微鏡の試料作製方法および集束イオンビーム装置が開示されている。この透過型電子顕微鏡の試料作製方法は、試料を加工することによって、透過型電子顕微鏡による所望の観察箇所を含む薄片部を形成し、前記薄片部を含む前記試料表面に薄膜を成膜した後に、前記薄片部に対し集束イオンビームにより加工を施して、前記薄片部の一部の前記薄膜を除去し、前記透過型電子顕微鏡の観察試料とする。
【0009】
また、第26回分析電子顕微鏡討論会予稿集の“FIB試料作製時における最近のダメージ低減テクニック”には、試料の裏側からFIBを照射することでカーテニングが抑制されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−145567号公報
【特許文献2】特開2007−292507号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】完山正林、“FIB試料作製時における最近のダメージ低減テクニック”、第26回分析電子顕微鏡討論会予稿集(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の一般的なFIBによるTEM用試料の作製方法には以下の問題点が有ることが、発明者の研究により今回初めて明らかとなった。図4A及び図4Bは、薄膜化における問題点を示す模式図である。薄膜部111を形成するとき、試料1の上側からビームを入射させると、薄片化されている箇所が二方向から崩れていく場合がある。例えば、図4Aに示すように、薄膜部111を所望の厚みにするべく薄膜化を行っていると、薄片化されている箇所が、上方から崩れる(図中、K1で表示)のみでなく、側面方向からも崩れ始める(図中、K2で表示)。この場合、二方向から薄膜部111が崩れていくため、図4Bに示すように、薄膜部111aの面積が小さくなってしまう。すなわち、広い範囲の薄片化が困難であり、最悪の場合、解析対象物113のある箇所が崩れることも起こり得る。したがって、最薄片化(例示:膜厚30nm−100nm)を行う場合、崩れの制御が極めて重要になる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下に、発明を実施するための形態で使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態との対応関係を明らかにするために括弧付きで付加されたものである。ただし、それらの番号・符号を、特許請求の範囲に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0014】
本発明の透過型電子顕微鏡用試料は、試料本体(4a)と、薄膜部(11)と、保護膜(8)とを具備している。薄膜部(11)は、試料本体(4a)から第1の向き(−Y)に伸び、試料本体(4a)より薄い。保護膜(8)は、試料本体(4a)及び薄膜部(11)の上側の表面に連続的に設けられ、薄膜部(11)の主材料より固い。薄膜部(11)は、保護膜(8)の下側に接した極薄膜部(12)と、極薄膜部(12)の下側に接した残余部(11a)とを備えている。極薄膜部(12)は、残余部(11a)より薄い。極薄膜部(12)は、保護膜(8)と接する部分を第1の辺とする三角形又は四角形の薄片形状を有している。極薄膜部(12)は、第1の辺に交わり外側に露出した第2の辺と、第2の辺に交わり残余部(11a)と結合する第3の辺とが成す角(α)が、0°より大きく180°より小さい。
【0015】
本発明の透過型電子顕微鏡用試料では、極薄膜部(12)上に、薄膜部(11)の主材料より固い保護膜(8)が設けられている。そのため、所定形状の極薄膜部(12)を横側からのビームによる加工で形成した場合、すなわち、第2の辺と第3の辺とが成す角(α)が0°より大きく180°より小さい所定形状の極薄膜部(12)を有する場合でも、カーテニングを抑制しつつ極薄膜部(12)の崩れも抑制されてその形状を保持することができる。それにより、広い面積での薄膜サンプリングが可能になる。
【0016】
本発明の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法は、保護膜(8)を形成する工程と;試料本体(4a)と薄膜部(11)とを形成する工程と;極薄膜部(12)を形成する工程とを具備している。保護膜(8)を形成する工程は、試料(1)の上側の表面に、試料(1)の主材料より固い保護膜(8)を形成する。試料本体(4a)と薄膜部(11)とを形成する工程は、イオンビームを照射して試料(1)を削り、保護膜(8)を上側の表面に備える試料本体(4a)と、保護膜(8)を上側の表面に備え、試料本体(4a)から第1の向き(−Y)に伸び、試料本体(4a)より薄い薄膜部(11)とを形成する。極薄膜部(12)を形成する工程は、試料本体(4a)と反対側の薄膜部(11)の横側からイオンビームを照射して、薄膜部(11)を薄くなるように削り、保護膜(8)の下側に接した極薄膜部(12)を形成する。
【0017】
本発明の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法では、極薄膜部(12)を形成する工程のとき、事前に、極薄膜部(12)上に、薄膜部(11)の主材料より固い保護膜(8)が設けられている。そのため、所定形状の極薄膜部(12)を横側からのビームによる加工で形成した場合でも、カーテニングを抑制しつつ極薄膜部(12)の崩れも抑制されてその形状を保持することができる。それにより、広い面積での薄膜サンプリングが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、過型電子顕微鏡用試料及びその作製方法において、カーテニングを抑制しつつ解析対象物付近の薄膜部分の崩れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1Aは一般的なFIBによるTEM用試料の作製方法を示す模式図である。
【図1B】図1Bは一般的なFIBによるTEM用試料の作製方法を示す模式図である。
【図1C】図1Cは一般的なFIBによるTEM用試料の作製方法を示す模式図である。
【図2A】図2Aは一般的なFIBによるTEM用試料の作製方法を示す模式図である。
【図2B】図2Bは一般的なFIBによるTEM用試料の作製方法を示す模式図である。
【図3A】図3Aは一般的なFIBによるTEM用試料の作製方法を示す模式図である。
【図3B】図3Bは一般的なFIBによるTEM用試料の作製方法を示す模式図である。
【図4A】図4Aは薄膜化における問題点を示す模式図である。
【図4B】図4Bは薄膜化における問題点を示す模式図である。
【図5A】図5Aは本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の構成を示す斜視図である。
【図5B】図5Bは本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の構成を示す側面図である。
【図6A】図6Aは本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の作製方法を示す模式図である。
【図6B】図6Bは本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の作製方法を示す模式図である。
【図6C】図6Cは本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の作製方法を示す模式図である。
【図6D】図6Dは本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の作製方法を示す模式図である。
【図7A】図7Aは本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の作製方法を示す模式図である。
【図7B】図7Bは本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の作製方法を示す模式図である。
【図8A】図8Aは本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の作製方法を示す模式図である。
【図8B】図8Bは本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の作製方法を示す模式図である。
【図9】図9は本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の作製方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の透過型電子顕微鏡用試料及びその作製方法の実施の形態に関して、添付図面を参照して説明する。
【0021】
本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の構成について説明する。図5A及び図5Bは、本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の構成を示す斜視図及び側面図である。透過型電子顕微鏡用の試料1は、例えば略直方体形状の試料の一部が、集束イオンビーム(FIB)等を用いて、TEM観察可能な程度に薄く削り出された形状を有している。試料1は、第3本体部4aと、薄膜部11と、極薄膜部12と、保護膜8とを具備している。更に、第1本体部2と、第2本体部3aとを具備していても良い。
【0022】
第1本体部2は、+Y方向に向かって段構造(昇段)を有している。その段構造には、第2本体部3aが設けられている。第2本体部3aは、第1本体部2の上部から横方向(−Y方向)に伸び、第1本体部2より薄い板状の形状を有している。第1本体部2は、第2本体部3aの横側(+Y側)及び下側(−Z側)で、第2本体部3aと結合している。
【0023】
第2本体部3aは、+Y方向に向かって段構造(昇段)を有している。その段構造には、第3本体部4aが設けられている。第3本体部4aは、第2本体部3aの上部から横方向(−Y方向)に伸び、第2本体部3aより薄い板状の形状を有している。第2本体部3aは、第3本体部4aの横側(+Y側)及び下側(−Z側)で、第3本体部4aと結合している。
【0024】
第3本体部4aは、+Y方向に向かって段構造(昇段)を有している。その段構造には、薄膜部11が設けられている。薄膜部11は、第3本体部4aの上部から横方向(−Y方向)に伸び、第3本体部4aより薄い板状の形状を有している。第3本体部4aは、薄膜部11の横側(+Y側)及び下側(−Z側)で、薄膜部11と結合している。
【0025】
保護膜8は、少なくとも薄膜部11及び第3本体部4aの上側(+Z側)の表面を連続的に覆うように設けられている。更に、第2本体部3a及び第1本体部2の上側(+Z側)の表面を連続的に覆うように設けられていてもよい。
【0026】
薄膜部11は、極薄膜部12と、残余部11aとを備えている。極薄膜部12は、保護膜8の下側に接している。残余部11aは、極薄膜部12の下側に接している。残余部11aは、一部、保護膜8の下側に接していてもよい。極薄膜部12は、残余部11aより薄い。極薄膜部12は、TEM観察用の解析対象物13を含んでいる。
【0027】
極薄膜部12は、保護膜8と接する部分を第1の辺(Y方向)とする三角形又は四角形の薄片形状を有している。図5Bでは実線で三角形の場合を、二点鎖線で四角形の場合をそれぞれ例示している。極薄膜部12は、その三角形又は四角形の内部に、TEM観察用の解析対象物13を含んでいる。第1の辺に交わり外側に露出した第2の辺(Z方向の辺)と、第2の辺に交わり残余部11aと結合する第3の辺とが成す角αは、0°より大きく180°より小さい。また、極薄膜部12の面積を広くしようとすれば、角αは45°以上であることがより好ましい。薄膜部11の強度を十分に維持(極薄膜部12の面積を抑える)しようとすれば、各αは135°以下であることが好ましい。
【0028】
保護膜8は、少なくとも薄膜部11の主材料より硬度が固い材料で形成されている。ここで、薄膜部11の主材料は、薄膜部11の中で最も量の多い材料とする。更に、第3本体部4a及び第2本体部3aの主材料より硬度が固い材料で形成されていてもよい。その場合、主材料は、薄膜部11、第3本体部4a及び第2本体部3aの中で最も量の多い材料とする。このような保護膜8は、薄膜部11や極薄膜部12を薄く削って行く場合でも、薄膜部11や極薄膜部12と比較して削られ難い。そのため、薄膜部11や極薄膜部12は、削られて極めて薄くなったとしても、相対的に削られる量が少ない保護膜8に保持・支持されるので、崩れ難くなる。すなわち、保護膜8は、薄膜部11や極薄膜部12の崩れを防止することができ好ましい。保護膜8は、薄膜部11や極薄膜部12と比較して削られ難いため、X方向の幅は、薄膜部11や極薄膜部12の厚み(X方向)と比較して、等しいか又は大きい。
【0029】
例えば、薄膜部11等の主材料がシリコンの場合、シリコンの硬度は4.0であることから、保護膜8の硬度は4.0より大きいことが好ましい。それにより、薄膜部11や極薄膜部12を薄く削って行くときに保護膜8が同様に削られて無くなってしまう、という状況を防止できる。硬度が大きい材料としては、Pt、W、Ni、SiC、DLC(Diamond−Like Carbon)のうちの少なくとも一つを含む材料が例示される。特に、これらの材料は、硬度が4.0より大きい材料であり、主材料がシリコンの場合にも適している。
【0030】
保護膜8の膜厚は、0.1μm以上、3μm以下であることが好ましい。0.1μmより薄いと、保護膜8としての上記機能を果たせないからである。膜厚の上限は特に制限はないが、取り扱いの容易さを考慮すると、約3μm以下となる。
【0031】
また、極薄膜部12内の観察対象位置(解析対象物13の位置)は、第1の辺(保護膜8)から0μmより大きく5μm以下であることが好ましい。後述されるように、カーテニングの低減効果(試料の凹凸の影響の低減効果)を狙う場合、その効果は、試料表面付近(例示:表面から5μm以内)に解析対象物13がある場合に大きいと考えられるからである。それにより、カーテニングを低減しつつ、広い領域の薄膜サンプリングを可能とすることができる。
【0032】
次に、本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の作製方法について説明する。図6A〜図6D、図7A〜図7B、図8A〜図8B及び図9は、本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の作製方法を示す模式図である。
【0033】
図6Aに示すように、まず、試料1の上側の表面に保護膜8を形成する。例えば、保護膜用のPtやWのターゲットをスパッタリングA1して、保護膜8としてPt膜やW膜を成膜する。
【0034】
次に、図6Bに示すように、試料1の上側からFIB_B1を照射して、保護膜8が成膜された試料1を削る。それにより、図6Cに示すように、第1本体部2と薄体部3とを形成する。薄体部3は、保護膜8を表面に備え、第1本体部2から横方向(−Y方向)に伸び、第1本体部2より薄い形状を有している。第1本体部2は、薄体部3を削り出したときの試料1の残余の部分であり、保護膜8を表面に備えている。薄体部3の横側(+Y側)及び下側(−Z側)で、薄体部3と結合している。
【0035】
続いて、図6Dに示すように、試料1の横側(薄体部3に対して、第1本体部2との結合部分と反対の側;−Y側)から、+Y方向の成分を有する向きに、FIB_C1を照射して、薄体部3を削る。それにより、第2本体部3aと薄片部4とを形成する。薄片部4は、保護膜8を表面に備え、第2本体部3aから横方向(−Y方向)に伸び、第2本体部3aより薄い形状を有している。第2本体部3aは、薄片部4を削り出したときの薄体部3の残余の部分であり、保護膜8を表面に備えている。薄片部4の横側(+Y側)及び下側(−Z側)で、薄片部4と結合している。図6Dの工程を拡大して示したのが図7A〜図7Bである。
【0036】
ここで、試料1の横側から、FIBを照射するのは、カーテニングによる分析精度低下(試料の凹凸の影響)の問題を解決するためである。発明者の研究により、試料の上側からFIBを照射した場合に発生するカーテニングは、試料の横側からFIBを照射することにより、大幅に低減できることが判明した。従って、少なくとも図6Dの工程以降において、横側からFIBを照射することにより、カーテニングを大幅に抑制することができる。
【0037】
更に、図8A(図7BのP1部分の拡大)に示すように、試料1の横側(−Y側)から、+Y方向の成分を有する向きに、FIB_C1を照射して、薄片部4を削る。それにより、図8Bに示すように、第3本体部4aと薄膜部11とを形成する。薄膜部11は、保護膜8を表面に備え、第3本体部4aから横方向(−Y方向)に伸び、第3本体部4aより薄い形状を有している。第3本体部4aは、薄膜部11を削り出したときの薄片部4の残余の部分であり、保護膜8を表面に備えている。薄膜部11の横側(+Y側)及び下側(−Z側)で、薄膜部11と結合している。
【0038】
更に、図9(図8BのQ1部分の拡大)に示すように、試料1の横側(−Y側)から、+Y方向の成分を有する向きに、FIB_C1を照射して、薄膜部11を削る。それにより、極薄膜部12と残余部11aを形成する。極薄膜部12は、保護膜8の下側に接し、残余部11aから横方向(−Y方向)に伸び、残余部11aより薄い形状を有している。残余部11aは、極薄膜部12を削り出したときの薄膜部11の残余の部分であり、保護膜8を表面に備えている場合もある。極薄膜部12の横側(+Y側)及び下側(−Z側)で、極薄膜部12と結合している。この極薄膜部12の所定の箇所が、TEMによる解析対象物13となる。
【0039】
このとき、保護膜8は、薄膜部11や極薄膜部12と比較して削られ難いため、X方向の幅は、薄膜部11や極薄膜部12の厚み(X方向)と比較して、等しいか又は大きくなっている。すなわち、保護膜8は、極薄膜部12の上側(+Z側)において、±X方向に張り出している場合がある。また、保護膜8は、必ずしも図6Aで示す段階で成膜しなくても良く、他の箇所に影響しなければ図6Cや図6Dで示す段階で成膜しても良い。
【0040】
ここで、FIB_C1を照射する横側の向きは、いずれの場合にも、少なくとも+Y方向(横方向)の成分を有している。そして、更に、仰角0°以上90°未満(上側(+Z側)に0°以上90°未満)、又は、俯角0°以上90°未満(下側(−Z側)に0°以上90°未満)の角度範囲であることが好ましい。このとき、FIB_C1は、X軸上を平行移動し、YZ平面内で上記所定の角度範囲内を向いて照射される。例えば、図9に示すように、FIB_C11を照射する向きは、−Y方向の成分を有し、かつ、俯角0°以上90°未満(下側(−Z側)に0°以上90°未満)の角度範囲である。FIB_C12を照射する向きは、−Y方向の成分を有し、仰角0°(又は俯角0°)の角度範囲である。FIB_C13を照射する向きは、−Y方向の成分を有し、かつ、仰角0°以上90°未満(上側(+Z側)に0°以上90°未満)の角度範囲である。
【0041】
このとき、図9に例示される極薄膜部12の形状(実線及び二点鎖線;第2の辺と第3の辺との成す角α)は、FIB_C12〜FIB_C13のような水平〜上向きのFIBを照射することにより形成することができる。なお、上記FIBの照射の角度範囲は、極薄膜部12の面積を広くしようとすれば、仰角45°以下であることがより好ましい。また、薄膜部11の強度を十分に維持(極薄膜部12の面積を抑える)しようとすれば、俯角45°以下であることが好ましい。
【0042】
以上のようにして、本発明の実施の形態に係る透過型電子顕微鏡用試料の作製方法が実施される。すなわち、極薄膜部12が、極薄膜部12の下側に接した薄膜部11の残余部11aより薄く、保護膜8と接する部分を第1の辺とする三角形又は四角形の薄片形状を有し、第1の辺と交わり外側に露出した第2の辺と、第2の辺と交わり残余部11aと結合する第3の辺とが成す角が0°より大きく180°より小さい、ように透過型電子顕微鏡用の試料が作製される。
【0043】
本実施の形態では、薄膜化を進める工程でのFIBの照射を阻害しない位置(極薄膜部12の表面)に、事前に保護膜8が成膜されている。そのため、FIBを照射する時、極薄膜部12の近傍が極めて薄い形状になっても、保護膜8が極薄膜部12を支持・保持している。すなわち、保護膜8が極薄膜部12での膜の崩れを抑える支持体として機能している。それにより、この横方向(+Y方向あるいは側面方向)からFIBを入射して加工したとき、極薄膜部12での膜の崩れは、この横方向(−Y方向あるいは側面方向)からのみになる。従って、極薄膜部12の領域を広く形成・維持することができる。その結果、広い領域の薄膜サンプリングが可能になる。
【0044】
また、本実施の形態では、TEM用試料の薄膜(例示:極薄膜部12)を、FIBを用いて作製するとき、横方向(+Y方向あるいは側面方向)からビームを入射させて、カーテニングの低減効果(試料の凹凸の影響の低減)を狙っている。このとき、試料表面付近(例示:表面から5μm以内)に解析対象物13がある場合、角部の薄片化が必要となり(例示:図4Aの場合と同様)、薄片化時に膜が崩れて解析対象物13が破壊されるおそれがある(例示:図4Bの場合と同様)。しかし、本実施の形態では、事前に試料表面に保護膜8を成膜することにより、上述のように膜の崩れを抑えることができる。すなわち、カーテニングを低減しつつ、広い領域の薄膜サンプリングを可能とすることができる。
【0045】
本発明は上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施の形態は適宜変形又は変更され得ることは明らかである。
【符号の説明】
【0046】
1、101 試料
2、102 第1本体部
3、103 薄体部
3a、103a 第2本体部
4、104 薄片部
4a、104a 第3本体部
8 保護膜
11、111 薄膜部
111a 薄膜部
11a 残余部
12 極薄膜部
13 解析対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料本体と、
前記試料本体から第1の向きに伸び、前記試料本体より薄い薄膜部と、
前記試料本体及び前記薄膜部の上側の表面に連続的に設けられ、前記薄膜部の主材料より固い保護膜と
を具備し、
前記薄膜部は、
前記保護膜の下側に接した極薄膜部と、
前記極薄膜部の下側に接した残余部と
を備え、
前記極薄膜部は、
前記残余部より薄く、
前記保護膜と接する部分を第1の辺とする三角形又は四角形の薄片形状を有し、
前記第1の辺に交わり外側に露出した第2の辺と、前記第2の辺に交わり前記残余部と結合する第3の辺とが成す角が、0°より大きく180°より小さい
透過型電子顕微鏡用試料。
【請求項2】
請求項1に記載の透過型電子顕微鏡用試料において、
前記薄膜部の主材料はシリコンであり、前記保護膜は硬度が4.0より大きい
透過型電子顕微鏡用試料。
【請求項3】
請求項2に記載の透過型電子顕微鏡用試料において、
前記保護膜の膜厚は、0.1μm以上、3μm以下である
透過型電子顕微鏡用試料。
【請求項4】
請求項1に記載の透過型電子顕微鏡用試料において、
前記保護膜は、Pt、W、Ni、SiC、DLC(Diamond−Like Carbon)のうちの少なくとも一つを含む
透過型電子顕微鏡用試料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の透過型電子顕微鏡用試料において、
前記極薄膜部内の観察対象位置は、前記保護膜から0μmより大きく5μm以下である
透過型電子顕微鏡用試料。
【請求項6】
試料の上側の表面に、前記試料の主材料より固い保護膜を形成する工程と、
イオンビームを照射して前記試料を削り、前記保護膜を上側の表面に備える試料本体と、前記保護膜を上側の表面に備え、前記試料本体から第1の向きに伸び、前記試料本体より薄い薄膜部とを形成する工程と、
前記試料本体と反対側の前記薄膜部の横側からイオンビームを照射して、前記薄膜部を薄くなるように削り、前記保護膜の下側に接した極薄膜部を形成する工程と
を具備する
透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項7】
請求項6に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法において、
前記極薄膜部を形成する工程は、
前記横側から、前記第1の向きと逆向きの第2の向き、かつ、仰角0°以上90°未満又は俯角0°以上90°未満の角度範囲で、前記薄膜部にイオンビームを照射する工程を含む
透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項8】
請求項7に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法において、
前記極薄膜部を形成する工程は、
前記極薄膜部が、
前記極薄膜部の下側に接した前記薄膜部の残余部より薄く、
前記保護膜と接する部分を第1の辺とする三角形又は四角形の薄片形状を有し、
前記第1の辺と交わり外側に露出した第2の辺と、前記第2の辺と交わり前記残余部と結合する第3の辺とが成す角が、0°より大きく180°より小さい
ように前記極薄膜部を形成する工程を含む
透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか一項に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法において、
前記試料の主材料はシリコンであり、前記保護膜は硬度が4.0より大きい
透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項10】
請求項9に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法において、
前記保護膜の膜厚は、0.1μm以上、3μm以下である
透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項11】
請求項6に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法において、
前記保護膜は、Pt、W、Ni、SiC、DLC(Diamond−Like Carbon)のうちの少なくとも一つを含む
透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。
【請求項12】
請求項6乃至11のいずれか一項に記載の透過型電子顕微鏡用試料の作製方法において、
前記極薄膜部内の観察対象位置は、前記保護膜から0μmより大きく5μm以下である
透過型電子顕微鏡用試料の作製方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図6D】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−132813(P2012−132813A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285863(P2010−285863)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】